【文献】
奥芝俊一,腹部外科におけるドレーン管理 膵頭十二指腸切除後の出血の対策とドレーン管理,外科,1997年,Vol.59 No.10,Page.1207-1210
【文献】
十二指腸液検査:肝臓、胆嚢、胆管の異常を発見します,2016年10月 4日,URL,http://medical-checkup.info/article/41580617.html
【文献】
郭瀟,人類十二指腸液中膵腺癌腫瘤標志物及蛋白質組學初探性研究,北京協和醫學院博士學位論文,中國博士學位論文全文數據庫,2009年,URL,http://big5.oversea.cnki.net/KCMS/detail/detail.aspx?filename=1013312147.nh&dbcode=CDFD&dbname=CDFD2014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(a2)を、前記工程(a1)において前記十二指腸液試料の色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ行う、請求項2に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
前記工程(a2)又は(a3)を、前記工程(a1)において膵疾患マーカーの検査に適性があると判定された十二指腸液試料に対してのみ行う、請求項4に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
前記工程(a3)を、前記工程(a1)において膵疾患マーカーの検査に適性があると判定された十二指腸液試料に対してのみ行う、請求項6に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
前記基準色が、0.005mg/mLのビリルビン水溶液、又は0.04mg/mLのビリルビン水溶液の液色である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
十二指腸液試料の色の濃さの比較を、当該十二指腸液試料の分光スペクトル情報に基づいて行う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
十二指腸液試料の色の濃さの比較を、350〜540nmの範囲内における所定の波長の吸光度に基づいて行う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
十二指腸液試料の色の濃さの比較を、400〜460nmの範囲内における所定の波長の吸光度に基づいて行う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
前記十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度の所定の基準濃度が5000U/L以上である、請求項4〜14のいずれか一項に記載の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
十二指腸液試料を用いて膵疾患マーカーの検査を行う場合には、供試される十二指腸液試料中に膵液が含まれていなければ、信頼できる検査結果が得られない。このため、十二指腸液試料の中から、膵液が含まれている可能性が高く、試料適性を有するものを選定することが、偽陰性による検査精度の低下を抑制し、検査の効率を高める上で重要である。
【0008】
すなわち、本発明は、膵疾患マーカーの検出を行う前に、十二指腸液試料について試料品質を評価し、膵液が含まれている可能性が高く、試料適性の良好な試料のみを膵疾患マーカー検出に供試するように決定する方法、及び当該方法により決定された十二指腸液試料を用いて膵疾患マーカーを検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、色の濃い十二指腸液のほうが、無色透明に近い十二指腸液よりも、膵液成分をより多く含む場合が多く、膵疾患マーカー検出用試料として適していること、さらに、色の濃い十二指腸液の中でも、pHが中性〜アルカリ性である十二指腸液、又はP型アミラーゼの存在が確認された十二指腸液が、膵疾患マーカー検出用試料として適していることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明に係る膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法、及び膵疾患マーカーの検出方法は、下記[1]〜[18]である。
[1] (a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(b1)色の濃さが前記基準色と同等以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程と、
を有することを特徴とする、膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[2] (a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(a2)前記十二指腸液試料のpHを、所定の基準値と比較する工程と、
(b2)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、かつpHが前記基準値以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料及び前記十二指腸液試料のpHが前記基準値未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程と、
を有することを特徴とする、膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[3] 前記工程(a2)を、前記工程(a1)において前記十二指腸液試料の色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ行う、前記[2]の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[4] (a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(a2)前記十二指腸液試料のpHを、所定の基準値と比較する工程と、
(a3)前記十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度を、所定の基準濃度と比較する工程と、
(b3)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、pHが前記基準値以上であり、かつP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料、pHが前記基準値未満である十二指腸液試料、及びP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程と、
を有することを特徴とする、膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[5] 前記工程(a2)又は(a3)を、前記工程(a1)において膵疾患マーカーの検査に適性があると判定された十二指腸液試料に対してのみ行う、前記[4]の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[6] (a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(a3)前記十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度を、所定の基準濃度と比較する工程と、
(b4)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、かつP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料及びP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程と、
を有することを特徴とする、膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[7] 前記工程(a3)を、前記工程(a1)において膵疾患マーカーの検査に適性があると判定された十二指腸液試料に対してのみ行う、前記[6]の膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[8] 前記基準色が、0.005mg/mLのビリルビン水溶液、又は0.04mg/mLのビリルビン水溶液の液色である、前記[1]〜[7]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[9] 十二指腸液試料の色の濃さの比較を、目視で行う、前記[1]〜[8]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[10] 十二指腸液試料の色の濃さの比較を、当該十二指腸液試料の分光スペクトル情報に基づいて行う、前記[1]〜[8]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[11] 前記工程(a1)において、CIE XYZ表色系又はCIE L
*a
*b
*表色系の色度図上における、前記十二指腸液試料と水との色度点間距離と、前記基準色と水との色度点間距離を比較し、
前記工程(b1)、(b2)、(b3)、又は(b4)において、前記十二指腸液試料と水との色度点間距離が、前記基準色と水との色度点間距離以上である場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、前記十二指腸液試料と水との色度点間距離が、前記基準色と水との色度点間距離未満である場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する、前記[1]〜[8]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[12] 十二指腸液試料の色の濃さの比較を、350〜540nmの範囲内における所定の波長の吸光度に基づいて行う、前記[1]〜[8]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[13] 十二指腸液試料の色の濃さの比較を、400〜460nmの範囲内における所定の波長の吸光度に基づいて行う、前記[1]〜[8]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[14] 前記十二指腸液試料のpHの所定の基準値が7.5以上である、前記[1]〜[5]、[8]〜[13]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[15] 前記十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度の所定の基準濃度が、5000U/L以上である、前記[4]〜[14]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法。
[16] 十二指腸液試料中の膵疾患マーカーを検出する工程を有し、
前記十二指腸液試料が、前記[1]〜[15]のいずれかの膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の調製方法により決定されたものであることを特徴とする、膵疾患マーカーの検出方法。
[17] (a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(b1)色の濃さが前記基準色と同等以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程と、
(c1)前記工程(b1)において、膵疾患マーカーの検査に供試すると決定された十二指腸液試料中の膵疾患マーカーを検出する工程と、
を有することを特徴とする、膵疾患マーカーの検出方法。
[18] 前記膵疾患マーカーがCEAである、前記[16]又は[17]の膵疾患マーカーの検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法により、十二指腸液試料の試料適性を評価し、適性の有る試料を膵疾患マーカー検査に供試するものとして簡便に選定し得る。このため、本発明に係る膵疾患マーカーの検出方法のように、前記決定方法によって膵疾患マーカー検査に供試すると決定された十二指腸液試料のみを膵疾患マーカーの検査に供試し、検査適性の低い試料を検査に供さないことによって、検査の無駄を抑え、膵疾患の見落とし(擬陰性)を減らすことにより、検査性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明及び本願明細書において、膵疾患マーカーは、膵液中に含まれているタンパク質、核酸、脂質、細胞等の各種生体分子であって、膵疾患の非罹患者と比較して、膵疾患に罹患している患者において、膵液中の濃度が有意に高くなる生体分子である。なお、膵疾患の非罹患者は、健常者に限らず、膵疾患以外の疾患の罹患者をも含む。また、膵疾患としては、例えば、膵癌、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)、MCN(粘液性嚢胞腫瘍)、SCN(漿液性嚢胞腫瘍)、NET(膵内分泌腫瘍)、慢性膵炎(CP)、急性膵炎等が挙げられる。
【0014】
また、「膵疾患マーカー検査に対する適性がある」十二指腸液試料とは、膵液が含有されている可能性が高く、当該試料を用いることにより、偽陰性や偽陽性となる可能性が低く、信頼性の高い検査結果が期待できる十二指腸液試料を意味し、「膵疾患マーカー検査に対する適性がない」十二指腸液試料とは、膵液が含有されていない可能性が高く、当該試料を用いることにより偽陰性や偽陽性となるリスクが高い十二指腸液試料を意味する。
【0015】
一般に、膵液及び十二指腸で分泌される粘液は透明であり、胆汁はビリルビン等の黄色物質を含むため黄色を呈している。このため、これら三者が様々な比率で混合されている体液である十二指腸液は、様々な色のバリエーションが存在する。特に胆汁由来の黄色物質の影響により、十二指腸液は、ごく透明に近い薄黄色から濃黄色(茶黄色)まで幅広い色を呈する。
【0016】
<膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法>
本発明に係る膵疾患マーカー検出用十二指腸液試料の決定方法(以下、「本発明に係る試料決定方法」ということがある。)は、液色の濃さが所定の基準色と同等以上である十二指腸液試料のみを、十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試する試料として決定することを特徴とする。すなわち、十二指腸液試料の色の濃さが基準色と同等以上の場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、前記十二指腸液試料の色の濃さが前記基準色よりも薄い場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する。後記実施例1等に示すように、液色が濃い十二指腸液のほうが、色の薄いものよりも、膵疾患マーカーの検出感度が高い傾向にあり、液色が薄すぎる十二指腸液には充分量の膵液成分が含まれていない可能性が高い。つまり、色が薄すぎる十二指腸液試料に対して膵疾患マーカー検査を行った場合には、当該十二指腸液試料が採取された被験者が膵疾患に罹患していたとしても、検査は陰性となる可能性が高い。そこで、膵疾患マーカー検査に供試する前に、十二指腸液試料の液色を評価し、液色の濃さが所定の基準色と同等以上である十二指腸液試料、すなわち、充分量の膵液成分を含有していることが期待できる十二指腸液試料を選定することにより、擬陰性の頻度低減、検査性能の向上、及び検査の効率化を図ることができる。
【0017】
十二指腸液の色が濃いことは、胆汁由来成分を多く含むことを意味する。胆汁成分を多く含む十二指腸液が膵疾患マーカーの検出にも適している理由は明らかではないが、胆汁と膵液は共に乳頭部から十二指腸への排出されることから、胆汁が十二指腸へ排出されている場合には、乳頭部が開口しており、膵液も同様に十二指腸へ排出されている場合が多いためではないかと推察される。一方で、十二指腸液が透明の場合は、乳頭部が閉塞しており、胆汁と膵液の両方が排出されていないと推察される。後記参考例1に示すように、従来法通り、十二指腸液試料を選定せずに、全試料に対してCEA濃度検査を行った場合に、膵癌のうちステージT4の患者において、偽陰性となる検体が多かったが、これは、癌の浸潤等により膵管狭窄のみならず胆管も狭窄した結果、癌の浸潤等により膵管狭窄のみならず胆管も狭窄している可能性が考えられ、検査に供された十二指腸液試料には十二指腸で分泌される粘液のみが含まれていたためではないかと推察される。なお、十二指腸液試料中に膵液成分が含まれているか否かの指標として、胆汁由来成分である黄色物質を使用できることは、本発明者らが初めて見出した知見である。
【0018】
十二指腸液試料の色の濃さを比較するための基準色は、十二指腸液試料が供試される膵疾患マーカーの検出方法の種類、目的の検査精度(感度・特異度)等を考慮して、胆汁由来の黄色物質が充分量含まれるように適宜設定することができる。本発明においては、基準色として、0.005mg/mLのビリルビン水溶液、又は0.04mg/mLのビリルビン水溶液の液色を用いることが好ましい。なお、ビリルビン濃度が高くなるほど、ビリルビン水溶液の色は濃くなる。十二指腸液試料の色の濃さが、0.005mg/mLのビリルビン水溶液の色と同等以上であれば、充分量の膵液成分を含んでいることが期待でき、膵疾患マーカー検査の感度を向上させることができる。さらに、十二指腸液試料の色の濃さが、0.04mg/mLのビリルビン水溶液の色と同等以上であれば、膵疾患マーカー検査における偽陰性の頻度を顕著に低減させることができ、検査精度の改善、検査の効率化に資する。
【0019】
また、十二指腸液には、胃液が混入する場合がある。胃液は強酸性であり、かつペプシン等の消化酵素を含むため、胃液の混入によって、十二指腸液中の膵液成分が分解したり、変性するおそれがある。また、十二指腸液試料が供試される検査において目的とされる膵疾患マーカーが胃液中にも含まれている場合には、当該十二指腸液試料中の当該マーカーが、膵液由来のものか、それとも胃液由来のものなのか、区別ができないという問題もある。さらに、胃液の混入割合が多いということは、膵液成分の含有割合も低いおそれがある。このため、胃液の混入が少ない十二指腸液試料のほうが、胃液の混入量が多いものよりも、膵疾患マーカー検出用試料として適しているといえる。
【0020】
胃液の混入により十二指腸液のpHは低下する。そこで、十二指腸液試料のpHを指標とすることにより、当該試料への胃液の混入の程度を推測できる。膵疾患マーカー検査に供試する前に、十二指腸液試料のpHを測定し、pHが所定の基準値以上である十二指腸液試料、すなわち、胃液の混入量が充分に少なく、膵液成分が胃液により問題になるほどには損なわれておらず、質が高いことが期待できる十二指腸液試料を選定することにより、擬陰性の頻度低減、検査性能の向上、及び検査の効率化を図ることができる。
【0021】
一方で、α−アミラーゼには、S型とP型のアイソザイムが存在する。S型は、唾液腺の他、卵巣、肺、肝、小腸にも存在しているが、P型は膵臓特異的である。つまり、十二指腸液中にP型アミラーゼが存在していれば、当該十二指腸液には膵液が含まれていることが期待できる。逆に、十二指腸液中にP型アミラーゼが存在していないか、又は極微量にしか存在していない場合には、当該十二指腸液には充分量の膵液成分が含まれていない可能性が高い。そこで、膵疾患マーカー検査に供試する前に、十二指腸液試料のP型アミラーゼ濃度を測定し、当該濃度が所定の基準濃度以上である十二指腸液試料を選定することにより、擬陰性の頻度低減、検査性能の向上、及び検査の効率化を図ることができる。
【0022】
以上まとめると、十二指腸液試料は、液色が薄いものよりも濃いもののほうが、pHが低いものよりも高いもののほうが、P型アミラーゼ濃度が低いものよりも高いもののほうが、膵疾患マーカーの検査に対する適性が高い。そこで、本発明に係る試料決定方法においては、十二指腸液試料の液色とpH、又は十二指腸液試料の液色とP型アミラーゼ濃度を指標として、いずれの指標についても検査適性があると判定された十二指腸試料のみを、十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試する試料として決定することも好ましい。十二指腸液試料の液色とpHとP型アミラーゼ濃度の全てを指標としてもよい。
【0023】
すなわち、本発明に係る試料決定方法のうち、液色のみを指標として決定する方法は、下記工程(a1)及び(b1)を有することを特徴とする。
(a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程。
(b1)色の濃さが前記基準色と同等以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程。
【0024】
また、本発明に係る試料決定方法のうち、十二指腸液試料の液色とpHを指標として決定する方法は、下記工程(a1)、(a2)、及び(b2)を有することを特徴とする。液色とpHの両方に基づいて選定することにより、膵疾患マーカー検査に対する適性の高い十二指腸液試料をより効率よく選定することができる。
(a1)十二指腸液試料の色の濃さを、所定の基準色と比較する工程と、
(a2)前記十二指腸液試料のpHを、所定の基準値と比較する工程と、
(b2)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、かつpHが前記基準値以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料及び前記十二指腸液試料のpHが前記基準値未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程。
【0025】
当該方法において、工程(a1)及び工程(a2)は、いずれを先に行ってもよい。
【0026】
当該方法においては、工程(a1)及び工程(a2)を全ての十二指腸液試料に対して行ってもよいが、工程(a1)を行った後、当該工程において色の濃さが前記基準色と同等以上であった(すなわち、検査適性ありと判断された)十二指腸液試料に対してのみ、工程(a2)を行うことが好ましい。これにより、工程(a2)においてpHを調べる十二指腸液試料の数を制限でき、方法全体における労力を減らすことができる。なお、工程(a2)を行った後、当該工程においてpHが前記基準値以上であった十二指腸液試料に対してのみ、工程(a1)を行ってもよい。
【0027】
また、本発明に係る試料決定方法のうち、十二指腸液試料の液色とpHとP型アミラーゼ濃度を指標として決定する方法は、前記工程(a1)と下記工程(a2)、(a3)、及び(b3)を有することを特徴とする。液色とpHとP型アミラーゼ濃度の全てに基づいて選定することにより、膵疾患マーカー検査に対する適性の高い十二指腸液試料をより効率よく選定することができる。
(a2)前記十二指腸液試料のpHを、所定の基準値と比較する工程と、
(a3)前記十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度を、所定の基準濃度と比較する工程と、
(b3)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、pHが前記基準値以上であり、かつP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料、pHが前記基準値未満である十二指腸液試料、及びP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程。
【0028】
当該方法において、工程(a1)、工程(a2)、及び工程(a3)は、どの順番で行ってもよい。
【0029】
当該方法においては、工程(a1)を行った後、当該工程において色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ、工程(a2)及び(a3)を行うことが好ましい。また、工程(a1)を行った後、当該工程において色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ工程(a2)を行い、当該工程においてpHが前記基準値以上であった(すなわち、検査適性ありと判断された)十二指腸液試料に対してのみ工程(a3)を行うことや、工程(a1)を行った後、当該工程において色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ工程(a3)を行い、当該工程においてP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上であった(すなわち、検査適性ありと判断された)十二指腸液試料に対してのみ工程(a2)を行うことがより好ましい。このように先に行った工程において検査適性ありと判断された十二指腸液試料に対してのみ残りの工程を行うことにより、方法全体における労力を減らすことができる。なお、工程(a2)を行った後、当該工程において膵疾患マーカーの検査に適性があると判断された十二指腸液試料に対してのみ、工程(a1)を行ってもよく、工程(a3)を行った後、当該工程において膵疾患マーカーの検査に適性があると判断された十二指腸液試料に対してのみ、工程(a1)及び(a2)を行ってもよい。
【0030】
本発明に係る試料決定方法のうち、十二指腸液試料の液色とP型アミラーゼ濃度を指標として決定する方法は、前記工程(a1)及び(a3)と下記工程(b4)を有することを特徴とする。液色とP型アミラーゼ濃度の両方に基づいて選定することにより、膵疾患マーカー検査に対する適性の高い十二指腸液試料をより効率よく選定することができる。
(b4)色の濃さが前記基準色と同等以上であり、かつP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試し、色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料及びP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度未満である十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないことを決定する工程。
【0031】
当該方法において、工程(a1)及び工程(a3)は、いずれを先にしてもよい。また、前記の方法と同様に、当該方法においても、工程(a1)を行った後、当該工程において色の濃さが前記基準色と同等以上であった十二指腸液試料に対してのみ、工程(a3)を行うことが好ましい。工程(a3)を行った後、当該工程においてP型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上であった十二指腸液試料に対してのみ、工程(a1)を行ってもよい。
【0032】
本発明に係る試料決定方法において決定の対象となる十二指腸液試料は、十二指腸の腸管内のどこから採取された十二指腸液であってもよいが、十二指腸の第二ポーション又は第三ポーションに存在する十二指腸液であることが好ましい。十二指腸の第一ポーションは胃の幽門部から直接つながる部位であり、胃液の混入の可能性があること、また、採取のための内視鏡の固定が比較的難しく、採取が難しい場合があること等のためである。
【0033】
なお、十二指腸液は、常法により採取することができる。例えば、十二指腸液を内視鏡カテーテルに接続したシリンジや真空ポンプなどの吸引手段にて採取することができる。具体的には、内視鏡を口腔から十二指腸まで挿入し、鉗子チャネルを挿通して挿入したカテーテルを用いて、十二指腸の第二・第三ポーションに存在する十二指腸液を吸引し採取する。例えば、いわゆる胃カメラとしての胃・十二指腸の内視鏡検査(上部内視鏡検査)のついでに、十二指腸の腸管内に貯留している十二指腸液を採取してもよい。
【0034】
同一被験者から同日に採取された十二指腸液試料同士であっても色が違う場合もある。その理由としては、十二指腸液試料を採取する部位や採取するタイミングの違いが考えられる。そこで、同一被検者から採取された十二指腸液試料が複数ある場合には、より色の濃い試料と、所定の基準色とを比較する。なお、同一被検者から採取された十二指腸液試料が複数ある場合には、工程(a2)及び(a3)は、基準色と比較して当該基準色と同等以上であった十二指腸液試料(すなわち、工程(a1)を行った十二指腸液試料)に対して行う。
【0035】
十二指腸液には通常多種多様な酵素が含まれているため、保存状態いかんによっては、十二指腸液試料中の成分の分解や変性が生じるおそれがある。また、ビリルビンなどの色成分は光により分解される可能性がある。このため、被検者から採取した時点から色の濃さを基準色と比較するまでに時間を要する場合には、十二指腸液試料は、必要に応じて遮光状態で冷蔵又は冷凍保存しておくことが好ましい。
【0036】
また、被検者から採取された十二指腸液試料は、液の色の濃さを変更しない限り、色の濃さを基準色と比較する前に、各種添加剤やバッファー等を添加してもよい。添加剤としては、界面活性剤、タンパク質分解酵素阻害剤、核酸分解酵素阻害剤等の、十二指腸液試料中の成分の分解や変性を抑制するための試薬等が挙げられる。添加剤等は、生体から採取された十二指腸液を含む容器に添加してもよく、予め容器に入れておき、当該容器に十二指腸液を直接採取することもできる。
【0037】
十二指腸液試料の色と基準色の比較は、目視で行うことができる。目視で行うことにより、特段の分析装置や操作等を要することなく、簡便かつ迅速に、複数の十二指腸液試料のから最も色の濃い試料を選定することができる。例えば、基準色を付した色見本を予め用意し、十二指腸液試料と色見本とを目視で比較し、当該十二指腸液試料の色が色見本の基準色と同等以上の濃さの場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試すると決定され、基準色よりも薄い場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないと決定される。
【0038】
十二指腸液試料の色と基準色の比較は、各十二指腸液試料の分光スペクトル情報に基づいて行うこともできる。分光スペクトルとは、吸収スペクトル、透過スペクトルなどを指す。分光スペクトル情報を利用することにより、目視では難しい僅かな色差をも数値として比較することができる。また、色比較を客観的に行うことができ、多数の試料の比較も容易に行うことができる。十二指腸液試料の分光スペクトルは、分光光度計等の液体試料の分光スペクトル分析に一般的に用いられている各種装置を用いて測定し得る。
【0039】
ビリルビン等の胆汁由来の黄色物質は、350〜540nmに、その中でも特に400〜460nmに吸収スペクトルのピーク波長域を持つ。そこで、十二指腸液試料のこの波長域の吸収スペクトル情報に基づいて、色の濃さを基準色と比較することができる。具体的には、十二指腸液試料と、基準色を有する液体(基準液、例えば、0.005mg/mLのビリルビン水溶液等。)について、350〜540nmの範囲内における所定の波長の吸光度を測定し、比較する。当該吸光度が大きいほど、色が濃いと判断する。つまり、当該吸光度が基準液と同等以上の場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試すると決定され、基準液よりも小さい場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないと決定される。当該吸光度は、350〜540nmの範囲内にある波長の吸光度であればよく、400〜460nmの範囲内にある波長の吸光度が好ましく、450〜460nmの範囲内にある波長の吸光度がより好ましい。
【0040】
また、十二指腸液試料の色と基準色の濃さの比較を、CIE(国際照明委員会) XYZ表色系(若しくは、CIE Yxy表色系)又はCIE L
*a
*b
*表色系の色度図上における水との色度点間距離に基づいて行うことも好ましい。具体的には、まず、十二指腸液試料について、380〜780nmの吸光スペクトル[A
10]を測定し、これを下記式に従い、透過スペクトル[T
10]に換算する。
【0042】
得られた透過スペクトルから、十二指腸液試料の液色を表色系の色度点として求める。ついで、当該色度点と、同様にして求めた水(無彩色透明溶液)の色度点との色度図上における色度点間距離を算出する。この水の色度との色度点間距離が、「色の濃さ」を表し、当該色度点間距離が大きいほど色が濃く、当該色度点間距離が小さいほど色が薄いと判定される。算出された水との色度点間距離が、同様にして算出した基準液と水との色度点間距離以上の場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試すると決定され、基準液と水との色度点間距離よりも短い場合には、当該十二指腸液試料は膵疾患マーカーの検査に供試しないと決定される。
【0043】
各表色系における十二指腸液試料と基準液の色度は、常法により求めることができる。なお、十二指腸液試料と基準液の間の相対的な比較であるため、十二指腸液試料と基準液を同じ条件で測定していればよく、吸光スペクトルの測定や各表色系における色度を求める際の各種条件(光源、フィルタ、光学系等)は任意とする。
【0044】
胃液のpHは2付近であり、膵液及び胆汁はpH8付近である。このため、十二指腸で胃液と十二指腸液が混ざることにより、pHは中性付近になる。十二指腸液試料のpHが酸性を示した場合には、採取した十二指腸液中に胃液が多く混入していることが予想できる。そこで、十二指腸液試料のpHの基準値は、中性〜アルカリ性の範囲内で設定することがより好ましく、7.5以上に設定することがさらに好ましく、8.2以上に設定してもよい。当該範囲内にpHの基準値を設定することにより、胃酸の混入による影響が少なく、品質の高い十二指腸液試料を選定できる。なお、十二指腸液試料のpHは、pH試験紙を用いる方法やpH計測器で測定する方法等、公知の測定方法の中から適宜選択して測定することができる。
【0045】
工程(a3)において比較される十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度は、当該酵素のタンパク質濃度自体であってもよく、酵素活性濃度(U/L)であってもよい。酵素活性濃度を用いる場合、十二指腸液試料中のP型アミラーゼ濃度の基準濃度は、5000U/L以上が好ましく、10000U/L以上であってもよい。なお、P型アミラーゼの酵素活性濃度は、例えば、免疫阻害法(S型アミラーゼのみを特異的に阻害するモノクローナル抗体存在下で、標識した基質を用いてアミラーゼ活性を測定する方法)等の臨床検査等で一般的に使用されている方法で行うことができる。
【0046】
<膵疾患マーカーの検出方法>
本発明に係る膵疾患マーカーの検出方法(以下、「本発明に係るマーカー検出方法」ということがある。)は、本発明に係る試料決定方法によって決定された十二指腸液試料のみを、膵疾患マーカーの検出に供試することを特徴とする。本発明に係る試料決定方法によって、充分量の膵液が含まれている可能性が高い十二指腸液試料を選定し、この選定された十二指腸液試料中の膵疾患マーカーを検出することにより、膵疾患マーカーの検出感度が高く、信頼性の高い検出結果を得ることができる。
【0047】
本発明に係る試料決定方法によって決定された十二指腸液試料は、決定後ただちに膵疾患マーカーの検出に用いてもよく、決定後から所定期間保存した後に膵疾患マーカーの検出(膵疾患マーカーの測定試験)に用いてもよい。決定後の十二指腸液試料は、冷蔵又は冷凍で保存してもよく、室温で保存してもよく、凍結乾燥処理を行い、凍結粉末として保存してもよい。また、各種添加剤を添加した状態で保存してもよい。当該添加剤としては、界面活性剤、タンパク質分解酵素阻害剤、核酸分解酵素阻害剤、pH調整剤、pH指示薬等が挙げられる。さらに、決定された十二指腸液試料は、そのまま膵疾患マーカーの測定試験に用いてもよく、遠心分離処理等により、細胞等の固形分を分離除去した後に用いてもよい。
【0048】
本発明に係るマーカー検出方法において検出される膵疾患マーカーは、膵疾患の非罹患者と比較して、膵疾患に罹患している患者において、膵液中の濃度が有意に高くなる生体分子であればよく、特に限定されるものではない。本発明においては、膵疾患マーカーは、糖タンパク質や酵素等の、十二指腸液中に含まれている消化酵素の影響を受け難い生体分子であることが好ましい。本発明に係るマーカー検出方法において検出される膵疾患マーカーとしては、糖タンパク質であるCEA、CA19−9(例えば、Pancreas,1994, vol.9, No.6号,p741−747参照。)、MUC−1(KL−6)(例えば、特開2006−308576号公報等参照。)、酵素であるMMP2(Matrix Metalloproteinase−2)(例えば、Pancreas, 2002, vol.24, No.54, p344−347参照。)、MMP7(Matrix Metalloproteinase−7)等が挙げられる。その他にも、S100P、NGAL、MIC−1等、膵疾患に罹患している患者において膵液中の濃度が有意に高くなる物質が挙げられる。
【0049】
本発明に係るマーカー検出方法において検出される膵疾患マーカーは、CEAであることが特に好ましい。十二指腸液中のCEA濃度を指標とすることによって、膵癌、IPMN、MCN、慢性膵炎、及び急性膵炎等の発症の有無や発症リスク等を調べることができる。
【0050】
本発明に係るマーカー検出方法において、膵疾患マーカーの検出方法は、試料中の膵疾患マーカーの検出又は定量を目的としてなされる検査であれば特に限定されるものではない。例えば、ELISA、イムノクロマト、二次元電気泳動、ウエスタンブロット、質量分析法などを用いた種々のタンパク質解析や、PCR、RT−PCR、プローブを用いたハイブリダイゼーションなどを用いた種々の核酸解析、細胞数カウントや細胞診のような細胞解析等によって、各種膵疾患マーカーを検出することができる。また、生化学自動分析装置等の各種分析装置を用いることにより、多数の十二指腸液試料について、迅速かつ容易に膵疾患マーカーの検出又は定量を行うことができる。
【0051】
図1に、本発明に係るマーカー検出方法のうち、液色のみを指標とし、色比較を、分光スペクトル情報を用いて行う一態様のフローチャートの概略を示す。前述のように、まず、被検者から採取された十二指腸液試料について、分光スペクトルを測定する。次いで、得られた分光スペクトル情報を、基準液の分光スペクトル情報と比較し、膵疾患マーカーの検査に供試するか否かを決定する。膵疾患マーカーの検査に供試する(検査可)と選定された十二指腸液試料に対しては、当該十二指腸液試料中の膵疾患マーカーを測定する。膵疾患マーカーの検査に供試しない(検査不可)と選定された十二指腸液試料に対しては、膵疾患マーカーの検査は行わず、その他の検査の実施等を検討する。
【0052】
図2に、本発明に係るマーカー検出方法のうち、液色、pH、及びP型アミラーゼ濃度を指標とし、色比較を、分光スペクトル情報を用いて行い、検査適性を判定した後、pH比較による検査適性を判定し、その後P型アミラーゼ濃度による検査適性を判定することにより選定された十二指腸液試料に対して検査を行う一態様のフローチャートの概略を示す。また、
図3に、本発明に係るマーカー検出方法のうち、液色、pH、及びP型アミラーゼ濃度を指標とし、色比較を、分光スペクトル情報を用いて行い、検査適性を判定した後、P型アミラーゼ濃度による検査適性を判定し、その後pH比較による検査適性を判定することにより選定された十二指腸液試料に対して検査を行う一態様のフローチャートの概略を示す。
図2に記載のフローチャートにおいては、前述のように、まず、被検者から採取された十二指腸液試料について、分光スペクトルを測定する。次いで、得られた分光スペクトル情報を、基準液の分光スペクトル情報と比較する。色の濃さが前記基準色よりも薄い十二指腸液試料は検査不可とし、色の濃さが前記基準色と同等以上の十二指腸液試料に対しては、pHを基準値と比較する。pHが前記基準値未満の十二指腸液試料は検査不可とし、pHが前記基準値以上の十二指腸液試料に対しては、P型アミラーゼ濃度を基準濃度と比較する。P型アミラーゼ濃度が前記基準濃度未満の十二指腸液試料は検査不可とし、P型アミラーゼ濃度が前記基準濃度以上の十二指腸液試料に対しては、当該十二指腸液試料中の膵疾患マーカーを測定する。各工程において検査不可と判定された十二指腸液試料に対しては、膵疾患マーカーの検査は行わず、その他の検査の実施等を検討する。
図3に記載のフローチャートにおいては、色比較工程の後にP型アミラーゼ濃度の比較工程を行い、その後pHの比較工程を行う以外は、
図2に記載のフローチャートと同様にして行う。
【0053】
例えば、CEAのように膵疾患の罹患者において十二指腸液中の濃度が健常者よりも高くなる傾向にある膵疾患マーカーの場合、十二指腸液試料の測定値が所定の閾値未満の場合に陰性と判断し、所定の閾値以上の場合には陽性と判断することができる。陰性の場合には、当該十二指腸液試料が採取された被験者は健常者である(若しくは、膵疾患には罹患していない)可能性が高く、陽性の場合には、当該被験者は膵疾患に罹患している可能性が高い。そこで、陽性と判断された被験者に対しては、さらに精密検査を行うか否かを検討することも有用である。精密検査とは、例えばERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)やEUS−FNA(超音波内視鏡下穿刺生検法)、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴映像法)等を指す。
【実施例】
【0054】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[参考例1]
膵癌症例49例から経内視鏡的に十二指腸液試料を採取し、試料中のCEA濃度を測定した。CEA濃度は、市販のキット(IBL社製)を用いてELISA法によって測定した。測定されたCEA濃度から、カットオフ値を126ng/mLとして、陰性及び陽性を判断した。
【0056】
検査結果から求められた感度と全検体数に対する陽性検体数の割合を、主病巣の膵局所進展度を表すT分類ごとに表1に示す。Tisは非浸潤癌、T1は腫瘍径が2cm以下で膵内に限局したもの、T2は腫瘍径が2cmを超え膵内に限局したもの、T3は癌の浸潤が膵内胆管、十二指腸、膵周囲組織のいずれかに及ぶもの、T4は癌の浸潤が隣接する大血管、膵外神経叢、他臓器のいずれかに及ぶもの、である。Tis、T1、T2、T3に比べ、T4の症例群においては、非常に検出感度が低いことが明らかであり、T4の症例が検出できないことが、CEAを膵癌マーカーとした検査の感度低下のボトルネックになっていると考えられた。また、擬陰性(膵癌かつCEA濃度が閾値未満)の割合は、32.7%(49症例中、16症例)であり、見落としの確率が比較的高いことが示唆された。
【0057】
【表1】
【0058】
T4において感度が下がる理由は、浸潤範囲が広く、膵管と胆管の両方とも狭窄し、膵液と胆汁の両方ともが乳頭部より排出されていないことが考えられる。実際に、T4患者から採取された十二指腸液試料は、他の分類の患者から採取されたものに比べ、透明検体が多かった。これらの結果より、より色の濃い検体を選別して十二指腸液検査を実施する有用性が示唆された。
【0059】
[実施例1]
膵癌49症例、膵良性疾患7症例から経内視鏡的に採取された十二指腸液試料について、吸収スペクトルを測定した。全検体の吸収スペクトルを
図2に示す。
図2中の吸収ピーク付近(300〜56nm)を拡大した図を
図3に示す。十二指腸液試料は、350〜540nmに、その中でも特に400〜460nmに吸収ピーク波長域を持つことが明らかとなった。
【0060】
さらに、各十二指腸液試料(検体)の色の濃さを評価した。具体的には、分光光度計を用い、光路長10mmで、各検体の380〜780nmの吸光スペクトルを測定した(A
10)。次いで、下記式に基づいて、得られた吸光スペクトルを透過スペクトルに換算(T
10)し、さらに光路長5mmに換算(T
5)した。
【0061】
【数2】
【0062】
光路長換算後の透過スペクトルから、下記の一連の式に従い、CIE XYZ表色系の三刺激値(X、Y、Z)からなる色度を求め、色度図上のXY座標にプロットした。各検体のX値及びY値を表2〜5に示す。
【0063】
【数3】
【0064】
さらに、各検体について、455nmの吸光度と、CEA濃度も測定した。測定結果を表2〜5に示す。CEA濃度は参考例1と同様にして測定した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表2に示すように、良性検体のCEA濃度は0.0〜125.5ng/mLであった。そこで、特異度を100%とするために、CEA濃度のカットオフ値を126ng/mLに設定した。そこで、このカットオフ値を用いて膵癌の49検体を評価したところ、33検体が陽性、16検体が陰性となった。つまり、真陽性は67.3%、偽陰性は32.7%であった。膵癌の各進展度における感度を調べたところ、膵癌(Tis、T1、T2)群では66.7%(6検体/9検体)、膵癌(T3)群では80.0%(20検体/25検体)、膵癌(T4)群では46.7%(7検体/15検体)であった(表3〜5中、「感度(全検体)」欄参照。)。
【0070】
次いで、CIE XYZ表色系におけるX値が0.345、かつY値が0.349の色度点を基準色(基準色1)とし、同じ表色系におけるX値が0.345以上であり、かつY値が0.349以上である検体を、基準色1と同等以上の濃さの検体として選定した。表3〜5の「検体No.」欄中、星印がついている検体が、基準色1に基づいて選定された検体である。なお、各検体について、455nmの吸光度が0.137となる液の液色を基準色としたところ、前記基準色1に基づいて選定された検体と同じ検体のみが選定された。この選定された検体のみについて、感度を調べたところ、膵癌(Tis、T1、T2)群では62.5%(5検体/8検体)、膵癌(T3)群では89.5%(17検体/19検体)、膵癌(T4)群では75.0%(6検体/8検体)であった(表3〜5中、「感度(選定検体)」欄参照。)。また、膵癌49検体のうちの選定された35検体全体では、感度は80.0%(28検体/35検体)であり、偽陰性は20.0%(7検体/35検体)であった。これに対して、膵癌検体のうちの選定されなかった14検体では、真陽性35.7%(5検体/14検体)、偽陰性は64.3%(9検体/14検体)であった。このように、全検体に対して行った場合よりも、基準色1に基づいて選定した検体のみを対象とした場合のほうが、膵癌(Tis、T1、T2)群ではやや感度が低くなっていたものの、膵癌全体や、膵癌(T3)群、膵癌(T4)群では感度が向上していた。特に膵癌(T4)群では46.7%から75.0%にまで飛躍的に向上していた。
【0071】
CIE XYZ表色系におけるX値が0.335、かつY値が0.335の色度点を基準色(基準色2)とし、同じ表色系におけるX値が0.335以上であり、かつY値が0.335以上である検体を、基準色2と同等以上の濃さの検体として選定した。表3〜5の「検体No.」欄中、シャープ印がついている検体が、基準色2に基づいて選定された検体である。なお、各検体について、455nmの吸光度が0.06となる液の液色を基準色としたところ、前記基準色2に基づいて選定された検体と同じ検体のみが選定された。この選定された検体のみについて、感度を調べたところ、膵癌(Tis、T1、T2)群では66.7%(6検体/9検体)、膵癌(T3)群では91.0%(20検体/22検体)、膵癌(T4)群では63.6%(7検体/11検体)であった。また、膵癌49検体のうちの選定された42検体全体では、感度は78.0%であった。全検体に対して行った場合よりも、基準色2に基づいて選定した検体のみを対象とした場合のほうが、膵癌全体や膵癌(T4)群では感度が向上していた。
【0072】
ビリルビン(Bilirubin Conjugate Ditaurate Disodium Salt,Calbiochem社製、製品番号:201102)を水に溶解させた希釈系列を調製し、前記検体と同様にして、それぞれの吸光スペクトルを測定し、色度を求め、CIE XYZ表色系の色度図上のXY座標にプロットした。また、対照として水についても同様に吸光スペクトルを測定し、色度を求め、色度図上のXY座標にプロットした。色度図上における各希釈系列の色度点と水の色度点と色度点間距離を算出した。算出結果を
図4に示す。この結果、ビリルビン水溶液においては、ビリルビン濃度に依存して、色度図上における当該ビリルビン水溶液と水との色度点間距離が長くなることがわかった。
【0073】
また、水の色度点と、前記基準色1の色度点(X=0.345、Y=0.349)との色度点間距離は0.0195であり、水の色度点と、前記基準色2の色度点(X=0.335、Y=0.335)との色度点間距離は0.0024であった。これらの色度点間距離を
図4の検量線に照らすと、基準色1の色の濃さは0.04mg/mLのビリルビン水溶液と同じであり、基準色2の色の濃さは0.005mg/mLのビリルビン水溶液と同じことがわかった。これらの結果から、基準色1として、0.04mg/mLのビリルビン水溶液の液色を、基準色2として、0.005mg/mLのビリルビン水溶液の液色を用いて十二指腸液試料を選定することにより、膵疾患マーカー検査における感度を向上させ、検査の信頼性と効率を高められることが明らかである。
【0074】
[参考例2]
膵癌症例11例から経内視鏡的に十二指腸液試料を採取し、試料中のCEA濃度を測定した。CEA濃度は、市販のキット(IBL社製)を用いてELISA法によって測定した。測定されたCEA濃度から、カットオフ値を126ng/mLとして、陰性及び陽性を判断した。なお、当該11例中、M7及びM11検体は、参考例1及び実施例1におけるM7及びM11検体と同一の検体である。
【0075】
各試料中のCEA濃度を測定した結果を表6に示す。この結果、11例中5例(検体F67、S136、F9、M7及びM11)が擬陰性(膵癌かつCEA濃度が閾値未満)であり、感度54.5%であった。
【0076】
[実施例2]
参考例2でCEA濃度を測定した早期膵癌9症例の十二指腸液試料について、吸収スペクトルを測定した。各十二指腸液試料は、350〜540nmに、その中でも特に400〜460nmに吸収ピーク波長域を持つことが明らかとなった。
【0077】
さらに、各十二指腸液試料(検体)の色の濃さを、実施例1と同様にして評価した。各検体のX値及びY値、並びに455nmの吸光度を表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
CIE XYZ表色系におけるX値が0.345、かつY値が0.349の色度点を基準色(基準色1)とし、同じ表色系におけるX値0.345以上であり、かつY値が0.349以上である検体を、基準色1と同等以上の濃さの検体として選定した。基準色1と同等以上の濃さの検体を検査適性あり、基準色1よりも薄い検体を検査適性なしと判定した。表6の「色判定」欄中、丸印がついている検体が、基準色1に基づいて検査適性ありと判定された検体であり、×印がついている検体が検査適性なしと判定された検体である。つまり、F9以外の全ての検体が、検査適性ありと判定された。なお、各検体について、455nmの吸光度が0.137となる液の液色を基準色としたところ、前記基準色1に基づいて選定された検体と同じ検体のみが選定された。
【0080】
さらに、各検体について、pHも測定した。pH7.5を規準値として、pHが当該規準値以上の検体を検査適性あり、当該規準値未満の検体を検査適性なしと判定した。pHの測定結果と判定結果を表6に示す。表6の「pH判定」欄中、丸印がついている検体が、基準値(pH7.5)に基づいて検査適性ありと判定された検体であり、×印がついている検体が検査適性なしと判定された検体である。この結果、検体M11は、検査適性なしと判定されたため、色判定の結果と共に、9検体を検査適性ありとして選定した。検体M11は、胃液の混入、及び膵液の含有量が少ないために、偽陰性になったことが推測された。
【0081】
選定された9検体のCEA濃度から、当該選定により、感度は66.7%(6/9)となり、感度の成績が改善した。これらの結果から、十二指腸液試料の色とpHを指標として、当該十二指腸液試料が膵疾患マーカー検査に適しているかどうか(供試して信頼できる結果が期待できるかどうか)を判断でき、色とpHを指標とすることにより、膵疾患マーカー検査に適した十二指腸液試料を選定し得ることがわかった。
【0082】
[実施例3]
実施例2において、色とpHを調べた11検体について、さらにP型アミラーゼ濃度(酵素活性濃度)を測定した。
P型アミラーゼ濃度は、日本臨床化学会(Japan Society of Clinical Chemistry,JSCC)常用基準法に従い測定した。すなわち、抗ヒト唾液腺型アミラーゼ(S−AMY)抗体を用いたS−AMY阻害法によって残存するAMY活性を、IFCC勧告法に準じた方法で測定した。
【0083】
P型アミラーゼの酵素活性濃度の基準濃度を5000U/Lとして、P型アミラーゼ濃度が当該規準濃度以上の検体を検査適性あり、当該規準濃度未満の検体を検査適性なしと判定した。各検体のP型アミラーゼ濃度の測定結果とP型アミラーゼ濃度に基づく判定結果を、参考例2及び実施例2におけるCEA濃度、色判定、pH判定の結果と共に、表7に示す。「P型アミラーゼ濃度判定」欄中、丸印がついている検体が、基準値(5000U/L)に基づいて検査適性ありと判定された検体であり、×印がついている検体が検査適性なしと判定された検体である。
【0084】
【表7】
【0085】
十二指腸液試料の色とpHとP型アミラーゼ濃度の基準に基づいて、7検体が選定された。選定された7検体のCEA濃度から感度は85.7%(6/7)となり、当該選定により感度の成績が改善した。これらの結果から、十二指腸液試料の色とpHとP型アミラーゼ濃度を指標とすることにより、膵疾患マーカー検査に適した十二指腸液試料を選定し得ることがわかった。すなわち、これらの結果から、十二指腸液試料の色とP型アミラーゼ濃度を指標として、当該十二指腸液試料が膵疾患マーカー検査に供試可能かどうかを判断でき、色とP型アミラーゼ濃度に基づいて選択することにより、検査の感度を改善し得ることがわかった。