(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042989
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】MEMSデバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20161206BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20161206BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20161206BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H04R19/04
B81B3/00
H04R31/00 C
H01L29/84 Z
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-526925(P2015-526925)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公表番号】特表2015-532038(P2015-532038A)
(43)【公表日】2015年11月5日
(86)【国際出願番号】EP2013066208
(87)【国際公開番号】WO2014026857
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2015年4月15日
(31)【優先権主張番号】102012107457.7
(32)【優先日】2012年8月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ロンバッハ, ピルミン, ヘルマン, オットー
【審査官】
千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−541644(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0175418(US,A1)
【文献】
特開2006−157863(JP,A)
【文献】
特表平09−508777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/04
B81B 3/00
H01L 29/84
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部(AN)を備えた結晶質の基体(GK)と
基体上に、少なくとも1つの第1の機能層(MN)または複数の機能層を備え、かつ前記空洞部を覆う、パターニングされた構造体(A)と、
を有するMEMSデバイスであって、
前記構造体の前記第1の機能層において、前記空洞部の上に1つの開口部(OG)がパターニングされており、その有効開口断面積が前記第1の機能層の両側の圧力差に依存して変化し、
前記開口部(OG)は、前記第1の機能層を開裂する二次元のスリットパターン(SM)によって形成されており、
さらに前記スリットパターンは、弁フラップ(VK)を画定し、当該弁フラップは、少なくとも1つの第1の端部で、1つの接続ブリッジを介して、前記第1の機能層(MN)の残りの面部分と接続されており、1つの第2の端部が固定されないようにパターニングされており、
前記弁フラップは、片面側に印加される所定の圧力から、前記第1の機能層の層平面から離れて開弁されて、前記開口部(OG)の断面積を増大するすることができ、
前記弁フラップ(VK)は、少なくとも1つの第1の端部で、1つの接続ブリッジを介して前記残りの部分の機能層(MN)と接続されており、1つの第2の端部が固定されないようにパターニングされており、前記層平面から離れて開弁することができる、
ことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
前記弁フラップ(VK)は、前記圧力差に対応する印加された実効的な圧力PEが所定の限界圧PGより小さい限り、前記開口部(OG)の断面が、前記第1の機能層(MN)を開裂する前記二次元のスリットパターン(SM)の面上に留まるように、形成されており、
実際に前記デバイスに作用する圧力PEがPE≧PGの場合に、前記弁フラップが開弁し、
前記限界圧PGは、前記限界圧を負荷した際にデバイスの損傷が起こり得ないかまたは起こらないように設定される、
ことを特徴とする、請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項3】
前記弁フラップ(VK)の大きさは、1つの閉じた輪郭線によって画定されており、
前記スリットパターンは、前記弁フラップの輪郭線に沿って複数回分断されて開裂され、前記弁フラップが前記第1の端部で2つ以上の、互いに離間し、互いに整列した接続ブリッジを介して前記第1の機能層の残りの面部分と接続されている、
とを特徴とする、請求項1または2に記載のMEMSデバイス。
【請求項4】
前記弁フラップ(VK)の大きさは、1つの閉じた輪郭線によって画定されており、
前記輪郭線の前記スリットパターン(SM)は、その輪郭線の長さの75%より長いか、80%より長いか、90%より長いかまたは95%より長い部分を辿っており、
前記輪郭線で100%にならない前記スリットパターンの欠落部分は、前記接続ブリッジの幅または前記接続ブリッジに対応している、
ことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項5】
前記弁フラップ(VK)は、前記第1の端部、前記第2の端部、または両方の端部で丸くなった輪郭線を有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項6】
前記弁フラップ(VK)の大きさは、1つの閉じた輪郭線によって画定されており、
前記輪郭線は、少なくとも1つの隅部(Ecke)を備えることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項7】
1つ以上の弁フラップ(VK)を備えることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項8】
異なる大きさの複数の弁フラップ(VK)が形成されており、当該複数の弁フラップの開口断面積は、異なる圧力依存性を備えることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項9】
前記第1の機能層(MN)は、前記開口部(OG)と電気的に導通して形成され、前記MEMSデバイスのメンブレンとなっており、
前記構造体は、前記開口部(OG)を有する前記第1の機能層(MN)に対して、第2の機能層より離間した、有孔固定電極(FE)を備え、
前記メンブレン(MN)は、前記空洞部(AN)におけるバックキャビティを封止し、
前記MEMSデバイスは、圧力センサまたはマイクロフォンとして利用可能である、
ことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項10】
前記メンブレン(MN)は、ポリシリコン層または金属層を備えることを特徴とする、請求項9に記載のMEMSデバイス。
【請求項11】
前記弁フラップ(VK)は、前記第1の機能層(MN)の前記層平面から両方向に離間して開弁されることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項12】
前記圧力差に対応する印加された実効的な圧力PEが所定の限界圧PGに対し、PE≧PGの場合に、前記弁フラップが開弁し、
前記限界圧PGは、前記接続ブリッジの幅の寸法により、0.05〜1.00bar,0.1〜0.8bar,0.15〜0.60bar,または0.2〜0.5barにある1つの値に設定されることを特徴とする、請求項2乃至11のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のMEMSデバイスの製造方法であって、
前記基体(GK)上に、少なくとも前記第1の機能層(MN)からなる前記構造体(A)が取り付けられてパターニングされており、
前記第1の機能層(MN)のパターニングにおいて、このパターニングは、その領域が画定されかつ面状のパターニングによって前記スリットパターンが生成され、
前記弁フラップ(VK)の大きさは、1つの閉じた輪郭線によって画定されており、
前記弁フラップ(VK)の前記輪郭線の前記スリットパターンは、当該輪郭線の長さの75%より長い部分を辿っており、
前記基体(GK)において空洞部(AN)が生成され、当該空洞部は、その内部にキャビティが封止されるように前記機能層によって覆われており、
前記スリットパターン(SM)は、前記空洞部の上方の領域に生成される、
ことを特徴とする、MEMSデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記第1の機能層(MN)の上方に、当該機能層のパターニングの後に、全面的に犠牲層が取り付けられ、
前記犠牲層は、前記空洞部(AN)の生成の後に、少なくとも前記空洞部の上方の領域で完全にエッチング除去されるかまたは溶出される、
ことを特徴とする、請求項13に記載のMEMSデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力の測定およびとりわけマイクロフォンでの使用のため、センサとして形成されたMEMSデバイスを用いることができる。このようなMEMSセンサーは、コンデンサの原理で動作し、したがって導電性のメンブレンとこれから離間して配設された固定電極とを備える。このメンブレンの変位のため、変化する静電容量が測定値として検出される。
【0003】
MEMSマイクロフォンの感度は、とりわけそのメンブレンの機械的剛性で決定される。僅かな圧力差を検出するために、薄くかつ容易に変位可能なメンブレン(複数)を使用するよう努力しなければならない。しかしながらこれは、高い音圧または急速な圧力上昇の作用の下では、これらのメンブレンは損傷される可能性がある。この際メンブレンおよび/または固定電極は破損し、こうしてこのマイクロフォンまたは圧力センサは破壊される。
【0004】
急速に上昇する高い圧力に対する感度を速やかに低減する可能性には、メンブレンに圧力平衡開口部を設けることと、この圧力平衡開口部を十分に大きく形成することがあり、これによって高すぎる相対圧を急速に低下することができる。しかしながらこれは、このマイクロフォン応答における、より高い下限周波数LLF(Lower Limiting Frequency)をもたらす。これによって、このマイクロフォンのノイズは上昇し、信号−ノイズ比SNRは低下する。これによって低域側周波数帯域も制限され、低周波数に対する感度は損なわれる。しかしこのLLF値が高く設定されるほど、急速な圧力上昇または大きな圧力差の際のメンブレンの損傷または固定電極の損傷の虞は低くなる。しかしながらこれと同時にこのセンサの性能は、大幅に低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、圧力センサまたはマイクロフォンとして使用可能なMEMSデバイスを提供することであり、このMEMSデバイスのメンブレンが、高い音圧への急峻な立ち上がりに対して、公知の対策よりも良好に耐えることであり、この際にこのセンサの特性を大きく損ねることがないことである。これに付随する本発明の課題は、このようなデバイスを簡単な製造方法で提供できることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの課題は本願請求項1に記載の発明のMEMSデバイスによって解決される。本発明の有利な構成例が他の請求項で示される。
【0007】
このMEMSデバイスにおけるアイデアは、圧力平衡開口部を恒久的に大きくするのではなく、可変となるようにかつ上昇する圧力差に依存してその開口断面積を変化するように形成することである。
【0008】
MEMSデバイスは、1つの結晶質の基体を備え、この基体はMEMSパターンの担体として、またさらなるMEMSパターンのためのパターニング可能な材料として機能する。このデバイスの基体は、1つの空洞部(Ausnehmung)を備える。この基体上には、パターニングされた構造体(Aufbau)が配設されており、この構造体は1つ以上の機能層を備え、上記の空洞部を覆っている。この構造体の第1の機能層には、1つの開口部がパターニングされており、その実効的な開口断面積は、この層の両側の圧力差に依存して変化する。
【0009】
このような可変開口部は、1つの過圧弁の機能を担うことができる。
【0010】
弁として機能する簡単な開口部は、1つの弁フラップ(Ventilklappe)で実現され、圧力の作用によって開き、すなわちこの作用する圧力の大きさに依存してこれに対応した分だけ開く。このようなフラップバルブ(Klappenventil)の実装は、上記の空洞部を覆っている構造体の層で、ここでは第1の機能層で、2次元のスリットパターン(Schlitzmuster)をパターニングすることによって行われる。このスリットパターンによって、弁フラップが形成される。この弁フラップは、1つの第1の端部によって、残りの第1の機能層と接続されている。別の1つの端部では、この弁フラップは、固定されないようにパターニングされており、一面側に作用する圧力負荷により、この固定されないようにパターニングされた端部でこの層の平面から離れて開弁することができる。第1の端部では、この弁フラップは、接続ブリッジを介して残りの部分の機能層と接続されている。ここでこの接続ブリッジの幅は、適合したばね定数に調整され、これによって圧力上昇に依存した弁フラップの所望の変位動作が調整されるように設定される。
【0011】
上記のスリットパターンは、この弁フラップの輪郭をなぞっており、この弁フラップは3つの方向で連続して、残りの部分の機能層から分離されている。第4の方向に対応する第1の端部においては、このスリットパターンは、この輪郭線の一部のみに沿ってこの層を切開しており、こうしてこのスリットパターンは、この輪郭線の75%以上の長さに渡ってなぞっている。換言すれば、たとえば正方形の弁フラップでは、この弁フラップの幅は、この弁フラップをこの機能層の残りの面積部分と接続する上記の接続ブリッジの幅より大きくなっている。
【0012】
もっと長く伸びた形状で形成された弁フラップの場合は、上記の輪郭線のスリットパターンは、実質的にこの輪郭線のたとえば80%より大きい長さ,90%より大きい長さ,または有利には95%より大きい長さに渡っている。これはこの接続ブリッジの幅および弁フラップの変位に抗する力定数を小さくすることを可能とする。
【0013】
このスリットパターンは、任意の輪郭線で画定され得る。弁フラップの輪郭線には矩形の基本的形状の他に、円形の輪郭線または部分的に丸くなった輪郭線および混成形状、また他の形状も適合する。接続ブリッジを介して弁フラップが残りの部分の機能層と接続されている第1の端部では、この輪郭線は、ここで中断されるスリットパターンでなく、むしろこのスリットパターンの端部間の最短の接続ラインによって画定される。これに対応して、この弁フラップの第1の端部での輪郭線は、少なくともこの接続ブリッジの領域で直線状の縁部を備える。その他には、この輪郭線は、両方の端部で部分的または全体が丸くなっていてよい。しかしながらこの輪郭線は、1つ,2つ,3つ,あるいは4つの隅部を備えてよい。
【0014】
このスリットパターンは、上記の接続ブリッジによって形成される領域まで、常に弁フラップの輪郭線をなぞっている。1つの同じ弁フラップに対して、互いに離れて配設された2つ以上の接続ブリッジを設けることも可能である。この場合このスリットパターンは、弁フラップの輪郭線に沿って複数回分断され、これに対応した数の、残りの機能層との接続ブリッジを形成する。
【0015】
この接続ブリッジあるいはこれらの接続ブリッジの幅は、層の材料定数と共に、弁フラップの変位に必要な力を決定する。より小さなばね定数は、弁フラップの素早い変位をもたらし、この弁フラップの両側すなわち上記の第1の機能層の両側の、より低い圧力差で既にこの変位が起こる。こうしてこの弁フラップで形成された弁の素早い開弁が行われる。
【0016】
変位されていない状態においては、このスリットパターン、すなわちこの機能層の平面で測ったこのスリットパターンのスリットの面積が、開口部の大きさを決定し、これによって圧力平衡の速さが決定される、この(外側の)輪郭線によって画定された弁フラップの大きさは、この場合この開口部の最大断面積を決定する。この断面積が大きいほど、圧力平衡はより高速に行われる。
【0017】
しかしながら、複数の開口部およびこれにより複数の弁フラップをこの層に設けることも可能である。この場合、異なる面積を有する異なる弁フラップ,この接続ブリッジまたはこれらの接続ブリッジの幅によって決定される異なるばね素子を有する異なる弁フラップ,または異なる形状とされた輪郭線を有する異なる弁フラップを設けることも可能である。さらに開弁方向を変化させることが可能である。これは、それに沿ってこれらの弁フラップが開く軸(複数)が、互いに角度を持って配設されることによって達成される。平行した軸を有する複数の弁フラップでは、その弁フラップの開弁方向は180°変化する。
【0018】
異なる弁フラップが異なるばね定数を備えると、これらの弁フラップの圧力依存の応答特性の総和、すなわち全部の弁フラップの全開口断面積の圧力上昇への依存性を所望に調整することができる。たとえば、小さなばね定数を有する第1の弁フラップが、比較的小さな設置面積で設けられる場合、これらの弁フラップは既に小さい圧力差で開弁されるように、適合した特性を達成することができる。原理的に大きな圧力差になってからメンブレンの損傷が引き起こされ得るので、素早く開口断面積を増大することは有利である。これは第2の弁フラップのより大きな弁フラップ面積によって達成されるが、この第2の弁フラップは、より大きなばね定数あるいはより幅広の接続ブリッジを備えている。
【0019】
本発明によるMEMSデバイスの1つの実施形態においては、上記の開口部を有する機能層は、導電性に設定されており、またこのデバイスのメンブレンとして形成されている。この構造体においては、この開口部を有する機能層に対して平行かつ離間した別の機能層として、1つの有孔固定電極が配設されている。ここでメンブレンは、第1の機能層であり、上記の空洞部を覆い、かつこれによってこの空洞部におけるバックキャビティ(Ruckvolumen)を封止している。このようなMEMSデバイスは、圧力センサまたはマイクロフォンとして使用可能である。この構造体においては、上記の有孔固定電極は、上記の基体にメンブレンよりも近接して配設されていてよい。しかしながらこの固定電極をメンブレンの上側に配設すること、すなわちこのメンブレンの基体から離れる側に配設することも可能である。いずれの場合においても、上記の有孔固定電極は、穴パターン(Lochmuster)を備え、すなわち格子を形成しており、この格子を介してこのMEMSデバイスのメンブレンは、周囲の大気と結合され、この周囲での圧力がこのメンブレンにも印加される。上記のバックキャビティは、そこに封止された大気によって背圧(Gegendruck)となり、この背圧は、メンブレンの変位および弁フラップに対し反対に作用する。
【0020】
このMEMSデバイスのメンブレンは、圧力差に依存して両側に変位し得る。
また外側へのメンブレンの変位が大きすぎる場合は、このメンブレンで損傷が生じ得るが、この損傷は本発明で提示される弁フラップの構成によって避けられる。
【0021】
空洞部を覆う第1の機能層に開口部がパターン形成され、その実効的な開口断面積がこの層の両側の圧力差に依存して変化する、本発明で提示されるMEMSデバイスを用いて、急速に上昇または低下する外圧の際に素早い圧力平衡が可能となる。これは、たとえばメンブレンとして形成された第1の機能層の動的な挙動を可能としたまま、ただしあまりに急峻なピークは均されることになる。ゆっくりと上昇あるいは低下する圧力は、上記のスリットパターンによって提供される開口部を介して低減あるいは平衡化される。弁フラップの大きさおよびばね定数によって、メンブレンとして機能する層の最大の変位が、上記の第1の機能層または別の機能層をも損傷することがあり得ないように、調整することができる。
【0022】
それ以上では弁フラップが、ある程度の大きさで開弁される、限界圧力P
Gは、この弁フラップのばね定数によって調整され得る。このような限界圧力は、所望のアプリケーションおよびその所望の感度に依存して、ほぼ任意に調整することができる。
【0023】
マイクロフォンのアプリケーションに対しては、この値は0.05〜1.00bar,0.1〜0.8bar,0.15〜0.60bar,または0.2〜0.5barで設定されてよい。
【0024】
メンブレンとして用いられる機能層は、ポリシリコン層を含んでよい。ポリシリコンは、ドーピング物質によって導電性とすることができる。このようにして、メンブレンを静電容量として機能するMEMSデバイスの1つの電極として形成することができる。第2の電極は、同様に導電性とされた固定電極から構成される。
【0025】
MEMSデバイスのメンブレンは多層でも形成することができ、この多層でポリシリコン層が1つの副層(Teilschicht)を形成し、好ましくは対称的な層構造の中央の副層を形成する。しかしながらこのメンブレンの1つの副層は金属層として形成することも可能であり、これに対して他の副層は誘電体または電気的な絶縁材料から形成されている。
【0026】
メンブレンに適合した層構造は、2つの窒化シリコン層の間に対称に埋め込まれたポリシリコン層を備える。
【0027】
本発明で提示するMEMSデバイスの製造は、正に公知のMEMSデバイスの製造のように、平面的な拡がりにおけるメンブレンのパターニングも開口部の生成も必要とする。そしてこのパターニングは、公知のMEMSデバイスと異なり、適合したスリットパターンの上に弁フラップが形成されるように行われる。したがってこのデバイスは、製造コストの増加無しに製造可能であり、また複雑な処理ステップも追加の処理ステップも必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下では、実施形態例とこれに付随する図を参照して、本発明を説明する。これらの図は、概略的にのみ示してあり、正確な寸法では示されていない。したがってこれらの図からは絶対的な寸法値も相対的な寸法値も得られない。同一かまたは同様に機能する部分は、同じ参照番号で示されている。
【
図1A】1つの公知のMEMSマイクロフォンを概略断面図で示す。
【
図2A】本発明による1つのMEMSマイクロフォンを概略断面図で示す。
【
図3A】スリットパターンの1つの実施形態を示す。
【
図3B】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3C】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3D】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3E】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3F】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3G】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【
図3H】スリットパターンのもう1つの実施形態を示す。
【0029】
図1Aは、従来技術で知られている1つのMEMSマイクロフォンの概略断面を示す。この図を参照してこのデバイスの基本的動作を説明する。開口部までと、その機能については、本発明によよるデバイスの構造および機能は、ここで説明する公知のMEMSデバイスと一致する。
【0030】
このMEMSデバイスは、結晶質の基体GKを備え、この基体には空洞部ANが、好ましくは垂直な側壁(複数)を有してパターニングされている。ここでこの基体GKの上面には、複数の機能層を備える構造体Aが配設されている。この構造体は、メンブレンとして形成されている第1の機能層MNと、固定電極FEとして形成されている第2の機能層とを備える。この構造体Aの2つの機能層は、上記の空洞を覆っており、また互いに平行に離間して配設されている。第1の機能層MNは、空洞部全体に渡っており、この空洞部を上方に対して密封している。これによって封止されるバックキャビティは、したがって小さくかつたとえば円形の開口部OGを通してのみ、このMEMSデバイスの上側の大気とゆっくりと圧力交換を行うように結合されている。
【0031】
この空洞部ANの外側の領域においては、この層構造体Aは、さらなる層(複数)または機能層(複数)を備えてよく、これらは特に第1の機能層と第2の機能層との間のスペーサとして機能し、またたとえば犠牲層の残りであってよく、これらを利用することによって機能層間に空いている中間空間をパターニングすることができる。さらに加えて上記のさらなる層は、後で機能層をメンブレンとなる部分の縁部領域に固定するために、好ましくは基体GKの上面上の空洞部の縁部領域に固定するために用いられる。
【0032】
このようなデバイスは、マイクロフォンとして使用することができ、またたとえば容量デバイスとして動作させることができる。このため第1の機能層MNおよび第2の機能層FEは導電性に設定され、2つのコンデンサ電極を形成する。これらのコンデンサ電極の電気的接続端子は、図には示されていない。
【0033】
空洞部ANは、気体GKの下面上でバックプレートRPによって封止されており、このバックプレートはデバイスと一緒に生成されているか、あるいはこのMEMSデバイスが取り付けられている上面の一部となっている。このバックプレートRPは、基体GKの一部であってもよい。このようにしてこの空洞内にバックキャビティが封止され、このバックキャビティは、メンブレンの両側に圧力差を生じる外部圧力または音波の測定の基準として使用することができる。この外部圧力とバックキャビティ内部の内部圧力との圧力差は、メンブレンMNの変位をもたらし、これによって固定電極FEに対する距離が変化し、またコンデンサの静電容量が変化する。この値は信号強度あるいは圧力差の大きさとして使用することができ、適合した増幅器回路を介して利用可能な信号として出力される。開口部OGを介して圧力平衡が行われ、ここでこのために必要な時間は、この開口部の大きさあるいはこの開口部OGの断面積に依存するが、この時間は従来のMEMSデバイスでは一定値であった。
【0034】
図1Bは、同じMEMSデバイスを上面図で示しており、この上面図には圧力平衡のために設けられた開口部OGがより明瞭に示されている。ここでメンブレンは円形の領域を備えているが、円形の形状に限定するものではなく、また基体GKも同様に四角形の形状に限定するものではない。
【0035】
メンブレンMNおよび固定電極FEは、互いに僅かな間隔を置いて配設されることが好ましいが、メンブレンの大きな変位をもたらす大きな圧力差がこのメンブレンに印加されると、メンブレンが固定電極に衝突してこのメンブレンの破壊または損傷の虞を生じ得る。
【0036】
図2Aは、本発明が提示するMEMSデバイスの概略断面図を示し、このデバイスは、上記の問題の発生を防いでいる。このMEMSデバイスは、結晶質の基体GKを備え、ここでもこの基体を貫通する空洞部ANが設けられている。上面ではこの空洞部は構造体Aによって覆われている。この構造体は、少なくとも1つの第1の機能層MNを備える。この第1の機能層には、圧力平衡に用いられる1つの開口部OGが設けられている。この今まで副パターン(Teilstruktur)として従来技術で公知の構成体は、ここではさらにこの開口部OGの適合したパターニングによってこれが弁のように機能するように形成され、この弁は第1の機能層MNに印加されている圧力差に依存して開口断面積を変化する。この図ではメンブレン(第1の機能層)は、このデバイスの基本状態であり、通常の大きさの開口部OGが連続線で示されている。点線で示されているものは、この第1の機能層MNの下側の圧力がこの第1の機能層の上側の圧力より大きい場合の状態である。これは上記の開口部OGの断面積が増大するように、この第1の機能層の一部としての弁フラップの移動をもたらす。一点鎖線で示されているものは、第1の機能層MNの上側の圧力がこの第1の機能層の下側の圧力より大きい場合である。これは上記の可動な機能層の下側への移動をもたらし、これによって同様に上記の開口部OGの断面積が増大する。
【0037】
この第1の機能層における可動部分は、スリットパターンを用いてパターニングされており、このパターニングによって弁フラップVKが画定されている。
【0038】
図2Bは、このような弁フラップVKのパターニングのための簡略化した実施例を示す。この図は、
図2Aに示すデバイスを上面図で示している。スリットパターンSMはその全長に沿って第1の機能層MNを開裂している。このスリットパターンは、上記の接続ブリッジまでの弁フラップVKの輪郭線をなぞっており、この接続ブリッジによってこの弁フラップは、第1の機能層MNの残りの面と接続されて、保持されている。こうしてこの接続部の機能層に対して自由な弁フラップの端部は、この層平面から開弁され、この際この接続ブリッジを介して残りの機能層MNと接続されている。
【0039】
このスリットパターンSMは、第1の機能層MNを開裂しており、これによって既に1つの開口部OGとなっており、この開口部は、この開口の大きさに依存した所定の速度で、この第1の機能層の両側の圧力平衡を行うことができる。この弁フラップVKに作用する圧力が、限界圧P
Gまで達していなければ、この弁フラップは、層平面からある程度の大きさで移動する。
【0040】
この限界圧P
Gより大きい有効圧P
E(あるいは圧力差)が作用する場合、この弁フラップに作用する力は、開口部OGの有効断面積が顕著に大きくなるようにこの弁フラップを変位させる。この変位の程度によって、開口部OGの断面積は、最大でこの弁フラップの外側輪郭線で囲まれる断面積まで増大し得る。このような拡大された開口部は、大きな印加圧力あるいは圧力差の際に、速やかな圧力平衡をもたらし、これによって上記の第1の機能層MNに作用する力を取り除く。このようにしてこの第1の機能層MNの高い圧力による大きすぎる変位およびこれによる損傷が回避される。
【0041】
図3A〜3Hは、スリットパターンあるいはこのスリットパターンで画定される弁フラップの可能な様々な実施例を例示する。
図3Aは、矩形から正方形の弁フラップおよび接続ブリッジVSを画定するスリットパターンを示す。
この接続ブリッジVSの幅は、好ましくは、それによって接続ブリッジが接続されている、この四角形の弁フラップVKの辺の長さより小さい。
図3Aには、この接続ブリッジVSは、ブリッジに対し平行に両側に延在するラインによって画定され、したがってこの接続ブリッジVSの長さは、このスリットパターンによって画定される。
【0042】
図3Bは、接続ブリッジが輪郭線の欠落部によってのみ画定されているスリットパターンSMの実施例を示す。ここでも接続ブリッジVSの幅が、層平面からの弁フラップの変位のために必要な力を実質的に決定する。ここでこの接続ブリッジの幅は、このスリットパターンの両方の端部が互いに挟み込んでいる間隔によって画定されている。この幅の部分は、この間隔に渡っては、弁フラップの輪郭線を辿っていない。こうしてこの接続ブリッジVSは、このスリットパターンの中断部となっている。
【0043】
図3Bは同様の構造を示しているが、スリットパターンが2回分断されており、これによって2つの接続ブリッジVSが形成されている。両方の接続ブリッジは、この弁フラップすなわちスリットパターンの同一の端部に配設されている。しかしながら複数の接続ブリッジを、このスリットパターンの異なる辺に設けることも可能である。
【0044】
図3Dは、実質的に
図3Cと同様な構造を示しており、接続ブリッジのみがこのスリットパターンの反対側の辺に設けられている。
【0045】
矩形形状の他に、スリットパターンすなわち弁フラップの輪郭線は、任意の他の形状で設けられてもよい。
たとえば輪郭線の少なくとも1つの端部が、少なくとも部分的に丸くなっていてよい。
図3Eは、その端部によって弁フラップが残りの機能層と接続されている、第1の端部が丸くなっている構造を示す。この反対側の端部は、ほぼ矩形の形状を有している。
図3Fは、同一または類似の輪郭線を辿るスリットパターンを示しているが、丸くなった端部に2つの接続ブリッジの代わりに只1つの接続ブリッジが設けられている。
図3Gは、
図3Fと類似の輪郭線を示しており、ここでは接続ブリッジは、矩形に形成された第1の端部に設けられており、これに対し第2の端部は丸くなっている。
図3Hは、
図3E〜3Gに類似した輪郭線を辿るスリットパターンを示しているが、接続ブリッジは、丸くなった端部に設けられている。
図3Fのスリットパターンに対して、接続ブリッジの幅が低減されている。
【0046】
以上より本発明によるMEMSデバイスは、
図2Aのように形成されることができ、この際スリットパターンは
図3A〜3Hに示すようなものであってよい。
【0047】
たとえば
図3A〜3Hのように形成されたスリットパターンは、好ましくは第1の機能層MNの縁部領域の近くで、ただし空洞部ANの上方に配設される。しかしながらこの機能層では、この空洞部ANの上方に複数のスリットパターンが設けられていてもよい。様々なスリットパターンは様々に変形されてよく、その輪郭線は、様々な大きさの弁フラップVKを画定してよく、様々な幅の接続ブリッジを備えてよく、これによって圧力差に対する様々な応答特性を備えることができる。しかしながら、このスリットパターンSMの他に、その開口断面積が変化しない従来の開口部OGを設けることも可能である。このようにして開口部OGのその有効開口断面積は、この第1の機能層の両側で限界圧力P
Gより小さい、圧力差無しにあるいはほんの僅かな圧力差が与えられるように、良好に設定され得る。
【0048】
図2Aに示すような、本発明によるスリットパターンを有するMEMSデバイスは、任意の過圧弁(Uberdruckventil)または負圧弁(Unterdruckventil)として用いることことができる。しかしながら
図2Aに示すMEMSデバイスの好ましい使用は、MEMS圧力センサまたはMEMSマイクロフォンに応用される他の形態である。この際、
図1Aに類似して、公知の方法で第2の機能層が設けられてよく、この第2の機能層は、この圧力センサまたはマイクロフォンの固定電極FEとなる。もう1つの図示しない実施形態においては、MEMSデバイスは、2つの固定電極FEを備え、この場合これらの2つの固定電極FEは、メンブレンMNとして機能する第1の機能層の下側に配設されている。このようなマイクロフォンは、差動で駆動することができ、これによって測定値をより正確に取得することができる。
【0049】
MEMS圧力センサまたはMEMSマイクロフォンにおいては、メンブレンMNとして形成された第1の機能層MNは、好ましくは導電性にドーピングされているポリシリコン層である。機械的剛性を大きくするために、この第1の機能層は多層構造を備えてよい。好ましくはこのポリシリコン層は、機械的剛性のある層の間、たとえば2つの窒化シリコン層の間に埋め込まれる。このメンブレンMNとして形成されている第1の機能層は、金属層として設けられてもよい。
【0050】
構造体Aの残りの機能層(複数)は、好ましくは構造的剛性がありかつ導電性の層材料から構成されている。
【0051】
この構造体Aの製造は基本的に基体GK上での層堆積方法によって行われ、好ましくは空洞部ANが生成される前の製造段階で行われる。様々なパターニング工程によって、個々の層堆積部の間に副層がパターニングされてよい。しかしながらこの構造体の複数の機能層を同時にパターニングすることも可能である。機能層間に空洞部(複数)が生成されてよく、ここに犠牲材料が堆積され、後の処理工程で溶出される。パターニング工程は、好ましくは化学的または物理的エッチング方法によって行われ、ここでパターンはレジストを用いて所定に設けることができる。しかしながらこのパターニングは、正確な位置で材料除去を行うことによってレジストマスクを用いることなく直接行うことも可能である。
【0052】
圧力センサまたはマイクロフォンとして形成されたMEMSデバイスを駆動する場合は、空洞部ANの下側がバックプレートRPによってカバーされる。このバックプレートは、上記の構造体Aと同様に、適合した層堆積によって生成することができる。この場合、第1の処理ステップでこのバックプレートに開口部(複数)が備えられ、この開口部を通して空洞部ANを、エッチングを用いて生成することができる。第2またはさらなる処理ステップにおいて、これらの開口部は再び封止される。
【0053】
しかしながらこの空洞部ANを下面で、1つのチップをバックプレートRPとして封止することも可能であり、好ましくはこのMEMSデバイスが搭載される1つの半導体チップによって封止される。しかしながら上記の空洞部で形成される空洞の封止のために他の基板材料の塊を用いるか、あるいはこのMEMSデバイスを、この空洞部が下側で密封されてバックキャビティが封止されるように、回路基板上に搭載することも可能である。
【0054】
本発明で提示されるMEMSデバイスは、公知の方法で、追加の処理コスト無しに製造することができる。従来丸い形状あるいは類似の形状の開口部OGが、メンブレンにおいてパターニングされたのに対して、本発明ではその場所に、追加のコスト無しにスリットパターンをパターニングして製造することができる。このようにして得られたMEMSマイクロフォンは、低い限界周波数LLFを備え、ノイズを低減し、これによって改善されたS/N特性を呈する。
【0055】
本発明によるデバイスは、従来のマイクロフォンのように動作する通常動作モードを備える。限界圧力P
Gより上では、本発明による開口部OGの開口断面積の拡大は大きく、速やかな圧力平衡をもたらす。これはメンブレンの両側の圧力差を速やかに減少し、これによってメンブレンの変位は僅かとなる。以上により、メンブレンまたはこれに隣接する固定電極が過度のメンブレンの変位によって損傷される虞が低減される。
【0056】
本発明は、上記の実施形態例や図に限定されない。
本発明の基本的アイデアは、印加される圧力に依存して変化される開口断面が1つのMEMSデバイスのメンブレンに設けられるということだけに基づいている。
【符号の説明】
【0057】
GK : 結晶質の基体
AN : 空洞部
A : パターニングされた構造体
MN : 第1の機能層、メンブレン
OG : 開口部、開口部の開口断面
SM : 二次元のスリットパターン
VK : 移動可能な弁フラップ
FE : 固定電極
RP : バックプレート
P
E : 有効圧
P
G : 限界圧