特許第6043010号(P6043010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043010マンドレル、それを用いたリングロール成形機、及び、リングロール製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6043010
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】マンドレル、それを用いたリングロール成形機、及び、リングロール製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21H 1/06 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B21H1/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-110168(P2016-110168)
(22)【出願日】2016年6月1日
【審査請求日】2016年7月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514243715
【氏名又は名称】東洋産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孝範
【審査官】 矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−043404(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/027871(WO,A1)
【文献】 特開2015−024420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 1/06
B21D 39/10
B21B 19/14
B21B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状ワークの内周側に配置され、前記円環状ワークの外周側に配置された成形ロールとの間で前記円環状ワークの一部を挟圧することにより、前記円環状ワークを薄肉化しつつ拡径するマンドレルであって、
中芯部材と、
この中芯部材の外周において前記円環状ワークが当接する領域に配設されたダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材とを備え、
前記外リング部材の円環状ワークが接触する部分における最少肉厚の厚みは、5mm以上10mm以下であり、
前記中芯部材は、クロムモリブデン鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、又は、一般構造用圧延鋼材よりなり、
前記外リング部材の内周には、長さ方向における一方の端部に、内径が大きくなるように傾斜された外リング傾斜部が設けられ、前記中芯部材の外周には、前記外リング部材の配設位置において前記外リング傾斜部に対応して、外径が大きくなるように傾斜された中芯傾斜部が設けられた
ことを特徴とするマンドレル。
【請求項2】
円環状ワークの内周側に配置されたマンドレルと、前記円環状ワークの外周側に配置された成形ロールとの間で、前記円環状ワークの一部を挟圧することにより、前記円環状ワークを薄肉化しつつ拡径するリングロール成形機であって、
前記マンドレルは、請求項1に記載の構成を有することを特徴とするリングルール成形機。
【請求項3】
請求項に記載のリングロール成形機を用いて、円環状ワークを薄肉化しつつ拡径してリングロール製品を製造することを特徴とするリングロール製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングロール工法に用いるマンドレル、リングロール成形機、及び、リングロール工法により製造するリングロール製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リングロール工法は、円環状のワークに対し、その内周側に位置させたマンドレルと外周側に位置させた成形ロールとでワークの円環の一部を挟圧しつつ回転させて、ワークをより薄肉で大径の製品に成形するものである(例えば、特許文献1参照)。このリングロール工法によれば、製造時の材料歩留まりを向上させることができ、また、溝付き製品を容易に製造することができ、更に、厚みのばらつきを非常に小さくすることができる。
【0003】
従来、リングロール工法で用いるマンドレルには、全体をダイス鋼(JIS SKD61 及びその改良鋼種)により構成したり、クロムモリブデン鋼鋼材(SCM材)やニッケルクロムモリブデン鋼鋼材(SNCM材)の表面に、耐摩耗性を向上させるための表面処理皮膜を形成したものあるいは高硬度材を肉盛り溶接したものが用いられている。場合によっては、ダイス鋼に表面処理皮膜や肉盛り等の表面処理を行うこともある。しかし、ダイス鋼は、クロムモリブデン鋼鋼材(SCM材)やニッケルクロムモリブデン鋼鋼材(SNCM材)に比べて価格が高く、また、表面処理皮膜は非常に薄いので、摩耗により取れてしまうと耐摩耗性が著しく低下してしまう上に、表面処理の費用が高いという問題があった。そこで、より安価で、かつ、耐摩耗性が高いリングロール工法で用いるマンドレルの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−24420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、より安価に耐摩耗性を向上させることができるマンドレル、それを用いたリングロール成形機、及び、リングロール製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマンドレルは、円環状ワークの内周側に配置され、円環状ワークの外周側に配置された成形ロールとの間で円環状ワークの一部を挟圧することにより、円環状ワークを薄肉化しつつ拡径するものであって、中芯部材と、この中芯部材の外周において円環状ワークが当接する領域に配設されたダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材とを備えたものである。
【0007】
本発明のリングロール成形機は、円環状ワークの内周側に配置されたマンドレルと、円環状ワークの外周側に配置された成形ロールとの間で、円環状ワークの一部を挟圧することにより、円環状ワークを薄肉化しつつ拡径するものであって、マンドレルは、本発明の構成を有するものである。
【0008】
本発明のリングロール製品の製造方法は、本発明のリングロール成形機を用いて、円環状ワークを薄肉化しつつ拡径してリングロール製品を製造するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マンドレルについて、中芯部材の外周にダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材を配設するようにしたので、円環状ワークが当接する部分は外リング部材により硬度を高くし、中芯部材はダイス鋼又は耐熱鋼よりも安価な材料で形成することができる。よって、全体として安価とすることができる。また、全体をダイス鋼又は耐熱鋼で形成する場合に比べて外リング部材の厚みが薄いので、質量効果により内部まで焼きが入りやすく、内部まで硬くすることができる。よって、表面処理皮膜などの形成を省略することもでき、安価に耐摩耗性を向上させることができる。更に、外リング部材の内部まで硬くすることができるので、使用により表面が摩耗した場合には、表面を削ることにより補修することができる。よって、長期間にわたり使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係るリングロール成形機の要部の構成を表す図である。
図2図1に示したリングロール成形機のマンドレルの構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係るリングロール成形機10の要部の構成を表すものである。図2は、図1に示したリングロール成形機10のマンドレル11の構成を表すものであり、(A)は外観構成を表し、(B)は断面構成を表している。このリングロール成形機10は、円環状ワークWの内周側に配置されたマンドレル11と、円環状ワークWの外周側に配置された成形ロール12との間で、円環状ワークWの一部を挟圧するリングロール工法によりリングロール製品を製造するものである。
【0013】
マンドレル11及び成形ロール12は、成形ロール12の回転によりマンドレル11及び円環状ワークWが従回転するように配設されており、マンドレル11よりも成形ロール12の方が大径となっている。このリングロール成形機10は、例えば、成形ロール12の外周面に円環状ワークWの外周面が圧接され、円環状ワークWの内周面にマンドレル11の外周面が圧接されて、それらを回転させながら、成形ロール12とマンドレル11とが相対的に近づく方向に移動するように構成されている。これにより、成形ロール12とマンドレル11とに挟持された円環状ワークWは薄肉化しつつ拡径するようになっている。マンドレル11の外周面形状は、製造するリングロール製品の内周面形状に対応して形成されており、成形ロール12の外周面形状は、製造するリングロール製品の外周面及び幅面形状に対応して形成されている。
【0014】
マンドレル11は、中芯部材11Aと、この中芯部材11Aの外周において円環状ワークWが当接する領域に配設されたダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材11Bとを備えている。中芯部材11Aの外周にダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材11Bを配設するようにすれば、円環状ワークWが当接する部分は外リング部材11Bにより硬度を高くし、中芯部材11Aはダイス鋼よりも安価な材料で形成することができるので、全体として安価とすることができるからである。また、マンドレル11の全体をダイス鋼又は耐熱鋼で形成する場合に比べて外リング部材11Bの厚みが薄いので、質量効果により内部まで焼きが入りやすく、内部まで硬くすることができ、これにより表面処理皮膜などの形成を省略することもできる。なお、外部リング部材11Bの表面に表面処理皮膜などを形成するようにしてもよく、表面処理皮膜などを組み合わせることにより更に硬度を向上させることができる。
【0015】
更に、外リング部材11Bを内部まで硬くすることができるので、使用により表面が摩耗した場合には、表面を削って再び使用することもできる。なお、ダイス鋼は、例えば、JIS SKD61及びその改良鋼種であり、耐熱鋼は、例えば、JIS SUH及びその改良鋼種である。
【0016】
中芯部材11Aは、例えば、クロムモリブデン鋼鋼材(SCM材)、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材(SNCM材)、又は、一般構造用圧延鋼材(SS材)により構成することが好ましい。なお、外リング部材11Bが使用により摩耗した場合には、そのまま外リング部材11Bの外削を行い、又は、場合によっては、摩耗した外リング部材11Bを取り外して中芯部材11Aの表面を削り、新しい外リング部材11Bの内径を小さく変えることにより、中芯部材11Aを継続して使用することができる。
【0017】
外リング部材11Bの円環状ワークWが接触する部分における最少肉厚の厚みは、例えば、5mm以上10mm以下であることが好ましい。厚すぎると、外リング部材11Bの内部まで硬くすることができず、また、価格も高くなり好ましくないからであり、薄すぎると、外リング部材11Bの表面が摩耗した場合に表面を削って補修することが難しくなるからである。
【0018】
外リング部材11Bの内周には、長さ方向における一方の端部に、内径が徐々に大きくなるように傾斜された外リング傾斜部11Cが設けられていることが好ましい。また、中芯部材11Aの外周には、外リング部材11Bの配設位置において外リング傾斜部11Cに対応して、外径が徐々に大きくなるように傾斜された中芯傾斜部11Dが設けられていることが好ましい。これらは、中芯部材11Aの一端部から外リング部材11Bを嵌めこんで中芯部材11Aの外周に外リング部材11Bを配設する際に、外リング部材11Bの配設位置を位置決めするためのものである。具体的には、外リング傾斜部11Cの側から外リング部材11Bの中に、中芯部材11Aを外径が小さい方を頭にして挿入し、外リング傾斜部11Cと中芯傾斜部11Dとが当接するまで移動させることにより位置決めする。
【0019】
このように外リング部材11Bと中芯部材11Aとの位置決め部を段差ではなく傾斜状とするのは、段差にすると角に応力が集中してしまい亀裂が発生する恐れがあるからである。中芯傾斜部11D及び隣接する外径が小さい方の側面の中芯傾斜部11Dの側には、例えば、フレームハードンあるいは高周波焼き入れなどにより部分的に焼き入れをして、硬度を高くした高硬度領域を形成するようにしてもよい。亀裂の発生をより抑制することができるからである。
【0020】
なお、外リング部材11Bは、例えば、温めて膨張させた状態で中芯部材11Aに配設し、冷却による収縮により中芯部材11Aに固着させることが好ましい。例えば、外リング部材11Bを中芯部材11Aに配設する前における外リング部材11Bの内径と中芯部材11Aの外径とは、0.04mm以上0.06mm以下の範囲内で中芯部材11Aの外径の方が外リング部材11Bの内径よりも大きいことが好ましい。また、外リング部材11Bと中芯部材11Aとの間にゆるみがあり、外リング部材11Bが中芯部材11Aに対して回ってしまう場合には、固定ピン(図示せず)等の固定部材で固定するようにしてもよい。
【0021】
このリングロール成形機10は、例えば、次のようにしてリングロール製品を製造する。まず、例えば、円環状ワークWの内周面にマンドレル11の外周面を当接させて配設すると共に、円環状ワークWの外周面に成形ロール12の外周面を当接させて配設する。次いで、これらを回転させながら、マンドレル11と成形ロール12とを相対的に近づけるように移動させる。これにより、円環状ワークWの肉厚が薄くなると共に、その分、円環状ワークWの径が拡大されて、リングロール製品が得られる。なお、リングロール製品の製造を繰り返すに従い、マンドレル11の外リング部材11Bが摩耗した場合には、上述したように表面を削って補修する。
【0022】
このように、本実施の形態によれば、マンドレル11について、中芯部材11Aの外周にダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材11Bを配設するようにしたので、円環状ワークWが当接する部分は外リング部材11Bにより硬度を高くし、中芯部材11Aはダイス鋼又は耐熱鋼よりも安価な材料で形成することができる。よって、全体として安価とすることができる。また、全体をダイス鋼又は耐熱鋼で形成する場合に比べて外リング部材11Bの厚みが薄いので、質量効果により内部まで焼きが入りやすく、内部まで硬くすることができる。よって、表面処理皮膜などの形成を省略することもでき、安価に耐摩耗性を向上させることができる。更に、外リング部材11Bの内部まで硬くすることができるので、使用により表面が摩耗した場合には、表面を削ることにより補修することができる。よって、長期間にわたり使用することができる。
【0023】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
リングロール工法に用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
10…リングロール成形機、11…マンドレル、11A…中芯部材、11B…外リング部材、11C…外リング傾斜部、11D…中芯傾斜部、12…成形ロール、W…円環状ワーク
【要約】
【課題】より安価に耐摩耗性を向上させることができるマンドレル、それを用いたリングロール成形機、及び、リングロール製品の製造方法を提供する。
【解決手段】円環状ワークの内周側に配置されたマンドレル11と、円環状ワークの外周側に配置された成形ロールとの間で、円環状ワークの一部を挟圧することにより、円環状ワークを薄肉化しつつ拡径する。マンドレル11は、中芯部材11Aと、この中芯部材11Aの外周において円環状ワークが当接する領域に配設されたダイス鋼又は耐熱鋼よりなる外リング部材11Bとを備えている。
【選択図】図2
図1
図2