(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043069
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】特に自動車用である乗り物用ハッチシステム
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20161206BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20161206BHJP
B60J 7/08 20060101ALI20161206BHJP
E05F 15/53 20150101ALI20161206BHJP
【FI】
B60J5/00 Z
B60J5/04 L
B60J7/08 P
E05F15/53
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-31256(P2012-31256)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2012-171617(P2012-171617A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】1100483
(32)【優先日】2011年2月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルドル ローラン
(72)【発明者】
【氏名】フロレンツ ベルトラン
【審査官】
鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−504200(JP,A)
【文献】
特開平09−220934(JP,A)
【文献】
実開平01−068916(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B60J 5/04
B60J 7/08
E05F 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に自動車用であるが、乗り物用のハッチシステムであって、ハッチ(1、101)が、乗り物の胴体によって支持されたほぼ水平な固定の主回転軸(A)を中心にして旋回可能に取り付けられ、当該ハッチシステムに含まれる駆動手段(5、105)によって閉鎖位置と開放位置との間を前記主回転軸(A)を中心にして手動または自動で移動可能であるハッチシステムであり、
前記ハッチ(1)の移動の段階において、該ハッチ(1、101)を前記主回転軸(A)を中心にして回転駆動する前記駆動手段(5、105)が、該ハッチ(1、101)を操って第2の回転軸(B)を中心にして反対の方向に回転させる操縦手段(7、107)を作動させ、該操縦手段も当該ハッチシステムに含まれており、前記ハッチ(1、101)の移動の該段階において、前記2つの回転運動の組み合わせにより、前記ハッチ(1、101)が、該ハッチの横移動を必ずしも生じさせることなくほぼ垂直な面内を移動し、
前記ハッチ(1、101)を操るための前記操縦手段(7、107)が、関節リンク機構(30、130)を備えており、該関節リンク機構(30、130)の幾何学的構成が、前記ハッチ(1、101)がほぼ垂直な面内を移動する段階において変形し、前記ハッチ(1、101)の移動の残りの段階においては変化せずに、前記第2の回転軸(B)を中心とする前記ハッチ(1、101)の回転を防止することを特徴とするハッチシステム。
【請求項2】
前記関節リンク機構(30)が、前記ハッチ(1)がほぼ垂直な面内を移動する段階において長さを変化させる少なくとも1つの部品(33、33’)を備えている請求項1に記載のハッチシステム。
【請求項3】
前記関節リンク機構(30、130)が、前記ハッチ(1、101)がほぼ垂直な面内を移動する段階において変化し、前記ハッチ(1、101)の移動の残りの段階においては変化しない角度αを間に形成する2つの部品(32および33または33’、132および133)で構成されている請求項1に記載のハッチシステム。
【請求項4】
前記関節リンク機構(30、130)の第1の部品(32、132)が、車両の胴体によって支持された前記主回転軸(A)および前記ハッチ(1、101)によって支持された前記第2の回転軸(B)を中心にして回転するように取り付けられ、少なくとも1つのアクチュエータ(9、109)を備える前記回転駆動手段(5)が、車両の胴体によって支持された別の回転軸(42、142)および前記リンク機構(30、130)の前記第1の部品(32、132)によって支持されて前記主回転軸(A)と前記第2の回転軸(B)との間に位置する回転軸(46、146)を中心にして旋回可能に取り付けられている請求項3に記載のハッチシステム。
【請求項5】
前記関節リンク機構(30)の前記第2の部品(33)が、前記ハッチ(1)によって支持された回転軸(48)と前記リンク機構(30)の前記第1の部品(32)によって支持された前記回転軸(46)との間に旋回可能に取り付けられた可変長のバランス手段(50)によって構成されている請求項4に記載のハッチシステム。
【請求項6】
前記関節リンク機構(30)の前記第2の部品(33’)が、前記リンク機構の前記第1の部品(32)の溝(57)を移動することができるスライダ(55)によって構成されており、該スライダ(55)が前記溝(57)をスライドすることで、該スライダ(55)の長さが変化し、該スライダが旋回可能に取り付けられた前記ハッチ(1)によって支持された回転軸(48)の位置が変化する請求項4に記載のハッチシステム。
【請求項7】
前記関節リンク機構(130)の前記第1の部品(132)が、前記第2の回転軸(B)を中心とする該第1の部品(132)の回転の際に前記ハッチ(101)に堅固に取り付けられて該リンク機構(130)の第2の部品(133)を形成している角度に関する当接部(133)に当接するように構成された要素(150)を備えている請求項4に記載のハッチシステム。
【請求項8】
前記角度に関する当接部(133)が、前記ハッチに取り付けられて該ハッチに対して固定され、前記第2の回転軸(B)にすぐ隣接している請求項7に記載のハッチシステム。
【請求項9】
前記駆動手段(105)および前記操縦手段(107)に加えて、前記第2の回転軸(B)を中心とする前記第1の部品(132)の回転を減衰させるための減衰手段(180)を備えており、油圧ダンパなどの該減衰手段が、前記第1の部品(132)に取り付けられて該第1の部品(132)に固定され、前記ハッチ(101)が開かれるときに該ハッチ(101)と協働する請求項7または8に記載のハッチシステム。
【請求項10】
前記ハッチ(1、101)を回転駆動するための前記駆動手段を構成する前記アクチュエータ(9、109)が、前記ハッチ(1、101)を前記主回転軸(A)を中心として回転駆動するために、たとえばリモートコントローラ(T)によって自動的に駆動され、あるいは前記ハッチ(1、101)を前記主回転軸(A)を中心として回転駆動し、前記回転駆動手段(5、105)に組み合わせられた前記アクチュエータ(9、109)を作動させるために、前記主回転軸(A)が駆動ユニット(60)によって回転駆動される請求項4に記載のハッチシステム。
【請求項11】
ロック/ロック解除装置(3)が、前記ハッチ(1)の開放の動きの始まりにおいて該ハッチ(1)を車両の車体上の支持点から切り離す請求項1に記載のハッチシステム。
【請求項12】
前記ロック/ロック解除装置(3)が、前記ハッチ(1)がほぼ垂直な面内を移動するときに案内レール(16)上を転がる引き込み式のローラ(10)を備えている請求項11に記載のハッチシステム。
【請求項13】
前記案内レール(16)が、該案内レール(16)の高さに限られたBピラーを形成している請求項12に記載のハッチシステム。
【請求項14】
前記ハッチ(1、101)の前記駆動手段(5、105)が、前記ハッチ(1、101)の上部枠の高さに取り付けられ、屋根にアウトセットされている請求項1に記載のハッチシステム。
【請求項15】
前記案内レール(16)が、車両の車体に対して外面化されている請求項12または13に記載のハッチシステム。
【請求項16】
前記ハッチ(1)の開閉時の事故を防止するための安全手段(70)が設けられている請求項1に記載のハッチシステム。
【請求項17】
少なくとも1つのハッチ(1)を備えており、該ハッチ(1)が、請求項1〜16のいずれか一項に記載のハッチシステムによって開放または閉鎖されることを特徴とする乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用のハッチシステムに関し、特に自動車用のハッチシステムに関するが、このシステムは、たとえば航空、鉄道、または海洋の分野においても充分に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
自動車の分野において、「ハッチ」という用語は、車両の車室、エンジン室、またはトランクの内部へのアクセスを可能にする可動の車体パネル(窓ガラスを備えていても、備えていなくてもよい)を指す。
【0003】
一般的に言えば、ハッチには複数の種類が存在する。
− 自動車業界において最も広く使用されている「ヒンジ扉」式ハッチ。これらのハッチの一辺が、ほぼ水平または垂直な軸を中心にして閉鎖位置と開放位置との間を枢動する。
− ほぼ垂直な面内で閉鎖位置と開放位置との間をスライドする「スライド」式ハッチ。
− ハッチの面におおむね垂直なほぼ水平な軸を中心にしてほぼ垂直な面内で閉鎖位置と開放位置との間を枢動する「垂直」式ハッチ。
− ほぼ水平な軸を中心にして閉鎖位置と開放位置との間を枢動する「ガルウイング」式ハッチ。
【0004】
これらの種類のハッチは、明らかに利点を有しており、特に「ガルウイング」式および「垂直」式のハッチにおいて独創的な設計および見た目に魅力的な動作の態様を有しているが、枢動するすべてのハッチにおいて、特に車庫または駐車場において扉を開く場合に不便も抱えており、そのような不便は、背の低い車両または小さなハッチの場合に最小限にできるが、車両の内部へのアクセスが制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、使用の容易さと動作の各段階におけるコンパクトさとを組み合わせつつ、新たな美的様相に貢献する「スライド/ヒンジ扉」式の新たな種類のハッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため、本発明は、乗り物用(たとえば、特に自動車用)のハッチシステムであって、ハッチが、乗り物の胴体によって支持されたほぼ水平な固定の主回転軸を中心にして旋回可能に取り付けられ、当該ハッチシステムに含まれる駆動手段によって閉鎖位置と開放位置との間を前記主回転軸を中心にして手動または自動で移動可能であるハッチシステムを提案し、そのようなハッチシステムが、前記ハッチの移動の段階において、該ハッチを前記主回転軸を中心にして回転駆動する前記駆動手段が、該ハッチを操って第2の回転軸を中心にして反対の方向に回転させる操縦手段を作動させ、該操縦手段も当該ハッチシステムに含まれており、前記ハッチの移動の該段階において、前記2つの回転運動の組み合わせにより、前記ハッチが、該ハッチの横移動を必ずしも生じさせることなくほぼ垂直な面内を移動することを特徴とする。
【0007】
前記ハッチを操るための手段は、好都合には関節リンク機構を備え、該関節リンク機構の幾何学的構成が、前記ハッチがほぼ垂直な面内を移動する段階において変形し、前記ハッチの移動の残りの段階においては変化せずに、前記第2の回転軸を中心とする前記ハッチの回転を防止する。
【0008】
一般的に言えば、前記関節リンク機構を、前記ハッチがほぼ垂直な面内を移動する段階において変化し、前記ハッチの移動の残りの段階においては変化しない角度αを間に形成する2つの部品で構成することができる。
【0009】
前記関節リンク機構の第1の部品を、車両の胴体によって支持された前記主回転軸および前記ハッチによって支持された前記第2の回転軸を中心にして回転するように取り付けることができ、少なくとも1つのアクチュエータを備える前記回転駆動手段を、車両の胴体によって支持された別の回転軸および前記リンク機構の前記第1の部品によって支持された前記主回転軸と前記第2の回転軸との間に位置する回転軸を中心にしてハッチが回転運動できるように旋回可能に取り付けることができる。
本発明の第1の実施形態においては、前記関節リンク機構が、前記ハッチがほぼ垂直な面内を移動する段階において長さを変化させる少なくとも1つの部品を備え、したがってこのリンク機構の前記2つの部品が、2つのリンクで好都合に構成される。
【0010】
この第1の実施形態の第1の例では、前記関節リンク機構の前記第2の部品が、前記ハッチによって支持された回転軸と前記リンク機構の前記第1の部品によって支持された前記回転軸との間に旋回可能に取り付けられた可変長のバランス手段によって構成される。
この第1の実施形態の第2の例では、前記関節リンク機構の前記第2の部品が、前記リンク機構の前記第1の部品の溝を移動することができるスライダによって構成され、該スライダが前記溝をスライドすることで、該スライダの長さが変化し、該スライダが旋回可能に取り付けられた前記ハッチによって支持された回転軸の位置が変化する。
本発明の第2の実施形態においては、前記関節リンク機構の前記第1の部品が、前記第2の回転軸を中心とする該第1の部品の回転の際に前記ハッチに堅固に取り付けられて該リンク機構の第2の部品を形成している角度に関する当接部に当接するように構成された要素を備える。この角度(すなわち、回転)に関する当接部を、好都合には、前記ハッチに取り付けて該ハッチに対して固定し、前記第2の回転軸のすぐ隣に位置させることができる。
【0011】
この第2の実施形態において、ハッチシステムは、好都合には、前記駆動手段および前記操縦手段に加えて、前記第2の回転軸を中心とする前記第1の部品の回転を減衰させるための減衰手段を備えることができ、油圧ダンパなどの該減衰手段が、前記第1の部品に取り付けられて該第1の部品に固定され、前記ハッチが開かれるときに該ハッチと協働する。
【0012】
一般的に言うと、前記ハッチを回転駆動するための前記駆動手段を構成する前記アクチュエータを、好都合には、前記ハッチを前記主回転軸を中心として回転駆動するために、たとえば遠隔制御することができ、あるいは前記ハッチを前記主回転軸を中心として回転駆動し、前記回転駆動手段に組み合わせられた前記アクチュエータを作動させるために、前記主回転軸を駆動ユニットによって回転駆動することができる。
【0013】
本発明のシステムは、前記ハッチの開放の動きの始まりにおいて(すなわち、前記ハッチが開放の方向への移動を開始する前に)該ハッチを車両の車体上の支持点から切り離すために使用されるロック/ロック解除装置をさらに備えることができ、この装置が、たとえば固定の案内レールを形成しているほぼ垂直なランプと協働する引き込み式のローラを備え、このローラが、前記ハッチがほぼ垂直な面内を移動するときに案内レール上を転がり、前記ランプに当接し続ける。
【0014】
一般的に言えば、たとえば4枚のヒンジ扉を備える自動車型の乗り物においては、とりわけ4枚の扉の開閉システムの支持部の機能を有する中間の垂直材または「Bピラー」を備えることが必要である。さらに、これらの開閉システムが扉によって隠され、したがってBピラーを車両の全体空間に対して後退させる必要がある。
本発明のハッチシステムにおいては、Bピラーの下部だけが、ロック/ロック解除システムのローラのための案内ランプまたは転がりランプを構成するために残される。したがって、好都合なことに、この案内ランプまたはレールが、このレールの高さまでに限られたBピラーを形成することができる。
【0015】
ハッチを駆動するための手段を、好都合には、ハッチの上部枠の高さに位置させ、車両の屋根へと移動させる(すなわち、アウトセットする)ことができ、結果としてBピラーを外面化し、車両の外側の体積を変更することなく車両の内部空間を拡大することができる(すなわち、案内レールが車両の車体に対して外面化される)。
【0016】
最後に、ハッチの開閉時に車両の乗客を苦しめかねない事故を防止するための安全手段を、ハッチシステムに設けることもできる。
【0017】
当然ながら、さらに本発明は、上述のようなシステムによって開放または閉鎖の方向に駆動される少なくとも1つのハッチを備える乗り物に関する。
【0018】
上述した本発明の両方の実施形態に共通の本発明の重要な利点によれば、ハッチの開放の際に生じるハッチの横移動が、主回転軸だけを中心にして旋回するスイング式のハッチと比べて小さくなり、これはたとえば車両が駐車場にある場合に空間を節約するためにきわめて有用である。さらに、この空間の節約が、ハッチのしきい高さ、すなわち地面からの高さを不必要に増加させることなく維持される。
【0019】
本発明の他の利点、特徴、および詳細が、あくまでも例として提示される添付の図面を参照しての以下のさらなる説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態における扉の開放の各段階をそれぞれ示している自動車の正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における扉の開放の各段階をそれぞれ示している自動車の正面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態における扉の開放の各段階をそれぞれ示している自動車の正面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における扉の開放の各段階をそれぞれ示している自動車の正面図である。
【
図5】前記ハッチを
図1の位置から
図2の位置へと移動させるためのロック/ロック解除装置の2つの状態を示している。
【
図6】前記ハッチを
図1の位置から
図2の位置へと移動させるためのロック/ロック解除装置の2つの状態を示している。
【
図7】第1の実施形態の第1の例におけるハッチの操縦手段を示している。
【
図8】第1の実施形態の第1の例におけるハッチの操縦手段を示している。
【
図9】第1の実施形態の第1の例におけるハッチの操縦手段を示している。
【
図10】第1の実施形態の第1の例におけるハッチの操縦手段を示している。
【
図11】第1の実施形態の第2の例におけるハッチの操縦手段を示している。
【
図12】本発明の第1および第2の実施形態において使用することができる本発明のハッチシステムの詳細を示した図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態の扉式ハッチシステムの一部分をそれぞれハッチが閉じた状態および途中まで開いた状態について示している2つの概略の側面図である。
【
図14】本発明の第2の実施形態の扉式ハッチシステムの一部分をそれぞれハッチが閉じた状態および途中まで開いた状態について示している2つの概略の側面図である。
【
図15】完全に開いた状態にある前記第2の実施形態のハッチの駆動手段および操縦手段ならびにハッチの枢動を減衰させるための復帰手段の構造を示している斜視詳細図である。
【
図16】それぞれ閉じた状態および途中まで開いた状態にある
図15からのハッチシステムの2つの同一な対のリンク機構を備えている構造の詳細を示している2つの斜視図である。
【
図17】それぞれ閉じた状態および途中まで開いた状態にある
図15からのハッチシステムの2つの同一な対のリンク機構を備えている構造の詳細を示している2つの斜視図である。
【
図18】ハッチが最後の完全に開いた状態にある
図16および
図17からのハッチシステムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜
図4が、本発明の第1の実施形態の「スライド/ヒンジ扉」式ハッチ1の開放の際の種々の動作段階を示しており、このハッチ1は、たとえば自動車の前席扉である。ハッチ1の上部フレームが、車両の車体によって車両の屋根の高さに支持されたほぼ水平な固定の主回転軸Aを中心にして、旋回可能に取り付けられている。
【0022】
図1においては、ハッチ1が、閉鎖位置に示されている。ハッチ1の開放時、後述されるロック/ロック解除装置3の機械的または電気的な作動に続いて、ハッチ1が、主回転軸Aを中心とするわずかな回転にて外方向への移動(
図2に示されるとおり、距離d0の小さな横移動に反映される)を実行することによって、車両の車体上の支持点から切り離される。次いで、
図3に示されるように、ハッチ1は、理想的にはいかなる横移動も生じないほぼ垂直な面内での矢印Fの方向の平行移動を達成するが、この平行移動は、駆動手段5の作動の結果としての主回転軸Aを中心とする回転運動と、駆動手段5によって駆動される操縦手段7(主回転軸Aとハッチ1との間に取り付けられている)の第2の回転軸Bを中心とする反対方向の回転運動との組み合わせである。
図3が、平行移動の終わりにおけるハッチ1を示しており、ハッチ1の横移動は、ほぼ値d0に保たれている。最後に、ハッチ1は、第2の回転軸Bの固定を承けて操縦手段7を介在させることなく主回転軸Aを中心とする回転運動を達成し、この回転運動は、ハッチ1を最終的な開放位置に示している
図4に示されているように、横方向の移動d1に反映される。当然ながら、ハッチ1のこれらの動きは、基本的に、ハッチ1を閉じる場合には逆方向に達成される。
【0023】
図4において見て取ることができるとおり、開放位置におけるハッチ1の横移動が、d0+d1に等しく、ハッチ1が主回転軸Aを中心にして回転運動するだけである場合に生じるであろう移動
dよりも小さいことに、注目すべきである。
【0024】
一般的に言えば、ハッチ1の種々の運動は、ハッチ1を主回転軸Aを中心にして回転するように駆動する駆動手段5によって得られ、この手段を、たとえば少なくとも1つのアクチュエータ9によって構成することができる(アクチュエータ9の取り付けについては、操縦手段7の説明において説明する)。
【0025】
次に、上述した開放の場合におけるハッチ1の種々の運動を、詳しく説明する。
【0026】
図5および
図6が、ハッチ1の開放の段階の始めにおいて作動するロック/ロック解除装置3の一実施形態を示している。装置3は、とりわけ、ハッチ1の主回転軸Aに平行な回転軸12を中心にして旋回するように取り付けられた引き込み式のローラ10を備えている。引き込み式のローラ10は、休止位置または引き込み位置(
図5)と、主回転軸Aを中心とするハッチ1のわずかな回転運動を承けてハッチ1を解放する作動位置(
図6)とのいずれかをとるように、たとえばねじりばね14によって弾性的に付勢されている。引き込み式のローラ10は、ハッチ1の下部に取り付けられ、車両の胴体に堅固に取り付けられたほぼ垂直な固定の案内ランプ(guide ramp)16と協働する。ねじりばね14は、たとえばローラ10の回転軸12の周囲を少なくとも1回転している。ねじりばね14の一端が、ハッチ1の固定点18に係止され、ねじりばね14の他端は、ローラ10の支持アーム20に係止されている。引き込み位置(
図5)において、ローラ10は、ハッチ1のハウジング22内の位置をとり、ねじりばね14が蓄勢された状態にあり、案内ランプ16の下端に向かって位置している。ロック/ロック解除装置3の作動時に、ねじりばね14が解放され、主回転軸Aを中心とするハッチ1のわずかな回転運動が生じる一方で、ローラ10は、ランプ16に接触したままでランプ16上をわずかな距離だけ移動する。
【0027】
図2に示されている位置から
図3に示されている位置への移行のために、ハッチ1の上述の駆動手段5が、ハッチ1を主回転軸Aを中心にして枢動させつつ上述の第2の回転軸Bを中心にして反対方向に枢動させることを可能にする変形可能なリンク機構30によって構成された上述の操縦手段7を作動させる。これら2つの回転運動の組み合わせにより、ハッチ1は、スライド扉の様相でほぼ垂直な面内を移動する。
【0028】
変形可能なリンク機構30は、
図7〜
図10に示されている第1の実施形態の第1の例においては、2つの部品32および33を備えている。
図7を参照すると、第1の部品32は、ヒール35と2つの横ブランチ37とを有するU字形であってよい接続バー34によって構成されている。この接続バー34は、ヒール35が車両の胴体によって支持された主回転軸Aを中心にして旋回する一方で、2つのブランチ37の端部がハッチ1によって支持された第2の回転軸Bを中心にして旋回するように、取り付けられている。駆動手段5のアクチュエータクチュエータ9のシリンダ40が、車両の胴体によって支持された回転軸42を中心にして枢動可能に取り付けられ、駆動手段5のアクチュエータ9のロッド44は、ヒール35の近傍において接続バー34の2つの横ブランチ37を通過している回転軸46を中心にして枢動可能に取り付けられている(あるいは反対に、シリンダ40が回転軸46に取り付けられ、ロッド44が回転軸42に取り付けられる)。4つの回転軸A、B、42、および46が、互いに平行であり、駆動手段5のアクチュエータ9の回転軸46が、主回転軸Aと第2の回転軸Bとの間に位置していることに、注目することが重要である。このようにして、アクチュエータ9の作動により、ハッチ1を主回転軸Aを中心にして回転駆動することができる。第2の部品33は、たとえばアクチュエータまたはガス支柱など、限られた行程の伸縮要素であるいわゆるバランス手段50によって構成されている。バランス手段50の一端が、接続バー34および駆動アクチュエータ9と共通の回転軸46を中心にして回転するように枢動可能に取り付けられ、バランス手段50の他端は、ハッチ1に取り付けられ、回転軸48を中心にして旋回する。
【0029】
リンク機構30が、角度
αを間に形成する2つの部品32および33で構成されている。より正確には、ハッチ1が
図2に示されている位置(
図8に示されている位置でもある)にあるとき、2つの部品32および33によって形成される角度αは、数度程度である最小値α
1を有し、すなわち2つの部品32および33が互いにほぼ平行である。ハッチ1は、
図3に示されている位置(
図9に示されている位置でもある)に移行するとき、主回転軸Aを中心にして旋回するが、バランス手段50が長くなる結果として、さらに第2の回転軸Bを中心にして枢動し、これが最大値α
2へと開く2つの部品32および33の間の角度αに反映されている。
【0030】
換言すると、主回転軸Aを中心とするハッチ1の回転によって生じるハッチ1の角度運動が、バランス要素50が長くなる結果としての第2の回転軸Bを中心とするハッチ1の自重のもとでの反対方向のハッチ1の運動によって補償され、結果としてハッチ1が、ほぼ垂直な面内で平行移動することができる。
【0031】
ひとたびハッチ1がほぼ垂直な面内での移動を完了すると(
図3)、バランス要素50が所定の長さに達し、結果として第2の軸Bを中心とするハッチの回転が阻止され、角度
αが最大値に達し、リンク機構30が固定された状態または変形できない状態になる。
図3に示されている位置と
図4に示されている位置との間のハッチの運動の終わりは、単純に駆動手段5のアクチュエータ9を駆動することによって達成され、これがハッチ1の移動d1を生じさせる主回転軸Aを中心とする回転運動に反映されている。
図10が、ハッチ1が完全に開いた
図4と同じ状態を示している。当然ながら、ハッチ1の開放についてただいま説明したハッチ1の動きは、ハッチ1が閉鎖位置に向かって下げられるときには、逆の順序で実行される。アクチュエータ9を、たとえば
図8に概略的に示されているリモートコントローラTによって制御することができる。
【0032】
図11に示されるように、第1の実施形態のハッチ1の操縦手段7の第2の例においては、バランス手段50によって形成される第2の部品33’を、たとえばリンク機構30の部品32の2つの横ブランチ37の間に設けられる溝57において移動させることによって長さを変化させることができるスライダ55で置き換えることができる。
【0033】
図13〜
図18が、本発明の第2の実施形態の開放システムを示しており、
図15が、とりわけ、
・主回転軸Aを中心とするハッチ101の回転(
図14および
図17の矢印F1の方向)を駆動するための手段105であって、たとえばガスシリンダ109などのアクチュエータで構成され、横方向内側の端部において車両の胴体によって支持された回転軸142(上述の第1の実施形態の軸42と対照的に、この固定の軸142は、軸Aに隣接し、この例では軸Aのすぐ下方かつ車両の横方向における軸Aの外側に位置している)に枢支されている手段105と、
・ハッチ101によって支持された第2の回転軸Bを中心にしてハッチ101を反対の方向に回転(
図14および
図17の矢印F2を参照)するように操縦するための手段107であって、アクチュエータ109の他端が当該手段107によって支持された回転軸146へと枢支されていることでアクチュエータ109の運動によって駆動される手段107と
を示しており、
操縦手段107が、
*端部が軸AおよびBに枢支されたリンクの形態であり、アクチュエータ109の軸146を軸Aよりも軸Bの近くに保持している第1の部品132または接続バーと、
*ハッチ101のフレーム102に取り付けられて固定された角度に関する当接部を形成している第2の部品133であって、第1の部品132の横要素132aが回転の最中に当接し、結果として軸AおよびBを中心とする上記2つの回転運動の組み合わせによってハッチ101がほぼ垂直な面内を移動するように設計された第2の部品133と
で形成されるリンク機構30によって構成されている。
【0034】
より正確には、角度に関する当接部133が、軸Bの周囲に取り付けられ、この軸Bの直下に位置するリンク132との枢動する当接面133aを定めていることを、
図15において見ることができる(当接面133aのこの相対位置については、とくに
図13および
図14を参照)。
【0035】
さらに、
図15〜
図18において見ることができるとおり、本発明のこの第2の実施形態のハッチシステムは、たとえばリンク132に堅固に取り付けられ、このリンク132の当接部133に対する枢動の勢いを鈍らせるべくハッチ101のフレーム102と協働する油圧ダンパで構成される復帰手段または減衰手段180を、好都合に備えることができる。この実施形態においては、このダンパ180が、軸Bの近傍でリンク132に堅固に固定された貫通サポート(threaded support)182の内側に平行移動可能に取り付けられたロッド181を含んでおり、ロッド181の自由端が、ハッチ101が
図16の閉鎖位置を占めていないとき(すなわち、途中まで開いた位置または完全に開いた位置(
図17および
図18を参照)にあるとき)にハッチ101のフレーム102に接触する。
【0036】
次に、このハッチシステムの開放時の動作を、ガスシリンダ109が圧縮されており、軸AおよびBを中心とするリンク132の回転を生じさせていない
図16の閉鎖位置から出発して説明する。この
図16において、ダンパ180がハッチ101に接触しておらず、したがって有効でないことを、見て取ることができる。
【0037】
図17の中間的な開放位置を得るために、リンク132が、ガスシリンダ109の行程の増加を生じさせるガスシリンダ109の膨張作用の結果として主軸Aを中心にして枢動するとともに、第2の軸Bに隣接するリンク132の端部が逆方向に回転し、ハッチ101の角度ストッパ133に当接する。さらに、リンク132の該当の端部において、軸Bの高さにおけるハッチ101のこの枢動は、このリンク132の横要素132aが当接部133の表面133aに達するまで、ダンパ180によって和らげられる。
【0038】
上述の第1の実施形態と同様、この反対の方向F1およびF2の2つの回転の組み合わせにより、ハッチ101の開放の初期の段階において、ほぼ垂直な面内でのハッチ101の移動を生じさせることができ、すなわちこの初期の開放の際に、ハッチ101の横移動が生じることがない。
【0039】
ひとたび角度に関する当接部133に達すると、
図18の完全に開いた位置においてガスシリンダ109の行程が最大となるハッチ101の開放の残りの段階において、リンク132とハッチ101との組み合わせが、軸Bがこの当接部133に対して固定された状態で、主軸Aを中心にして旋回する。
【0040】
ただいま説明した実施形態においては、ハッチ1を開閉するための駆動手段5が、アクチュエータ9または長さが変化する任意の他の類似の駆動手段によって作動させられるが、アクチュエータ9を、ハッチ1の外側のハンドルを操作することによって手動で作動させることも可能である。あるいは、主駆動軸Aを回転駆動する駆動手段5を同様に設けてもよい。この目的のため、
図11に象徴的に示されているように、駆動ユニット60を、リンク機構の部品32を駆動して回転させるべく、部品32へと堅固に固定された主回転軸Aを駆動して回転させるために使用することができる。この場合、駆動手段のアクチュエータ9は、リンク機構30の部品32の回転によって駆動される。駆動ユニット60を、たとえばリモートコントローラTによって制御することができる。
【0041】
一般的に言えば、たとえば4枚のヒンジ扉を備える自動車においては、とりわけ扉の開閉システムの支持部の機能を有する中間の垂直材または「Bピラー」を備えることが必要である。さらに、このBピラーが、車両の全体的な体積に対して後退させられている。
【0042】
本発明によれば、
図12に図式的に示されているように、ハッチ1の開放の動きの始まりにおいてハッチ1が実質的に垂直な面内を移動するときに引き込み式のローラ10のための転がり軌道として機能する案内ランプ16が、扉の枠の高さの全体までは延びていないBピラーも形成する。
【0043】
さらに、ハッチ駆動システム5がハッチ1の上部枠の高さに位置し、主回転軸Aを中心とするハッチ1の枢支が屋根へと進出するため、案内ランプ16を外側へと移動させることが可能になり、案内ランプ16がもはや車両の車室の内部空間へと進入することがない。
【0044】
たとえば、ハッチ1に、ハッチ1の近傍に人間が位置するときにハッチの開閉を防止することができる超音波式の近接センサ70(
図1)を備えることができる。同様に、ハッチの開放または閉鎖を警告する音響システムを備えることもできる。最後に、ハッチ1が、たとえばハッチ1の閉鎖時に障害となりうる異物(たとえば、手)が存在するときに開放または閉鎖のプロセスを停止させる挟み込み防止センサを備えることができる。