(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043077
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】撥水性構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20161206BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
C09K3/18 102
B01J35/02 J
【請求項の数】12
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-80390(P2012-80390)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209509(P2013-209509A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、経済産業省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新的部材産業創出プログラム、循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591243103
【氏名又は名称】公益財団法人神奈川科学技術アカデミー
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 宗寿
(72)【発明者】
【氏名】中島 章
【審査官】
吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−162672(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0304120(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
B01J 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm〜10μmの孔径を有する空隙と該空隙を形成する骨格とが三次元網目状に連結された共連続構造を有するモノリス構造体からなり、前記骨格の表面に細孔が形成され、前記空隙の内部に液状の撥水性充填材またはこれをゲル化した撥水性充填材が充填されていることを特徴とする撥水性構造体。
【請求項2】
前記骨格が100nm〜10μmの柱体径を有する、請求項1に記載の撥水性構造体。
【請求項3】
前記細孔が、前記骨格の表面上の1μm×1μmの領域内に1個以上存在する、請求項1または2に記載の撥水性構造体。
【請求項4】
前記撥水性充填材が、フッ素を含有するフッ素系撥水性充填材である、請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性構造体。
【請求項5】
前記骨格の表面に、フッ素を含有するフッ素系樹脂が配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水性構造体。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂が、前記骨格の内部にも含まれている、請求項5に記載の撥水性構造体。
【請求項7】
前記骨格の表面および/または内部に光触媒が配置されている、請求項1〜6のいずれかに記載の撥水性構造体。
【請求項8】
前記光触媒が酸化チタンからなる、請求項7に記載の撥水性構造体。
【請求項9】
前記光触媒が可視光応答型光触媒からなる、請求項7または8に記載の撥水性構造体。
【請求項10】
前記光触媒が、体積比で前記モノリス構造体の10%以下を占める、請求項7〜9のいずれかに記載の撥水性構造体。
【請求項11】
前記モノリス構造体が、エポキシ樹脂硬化物からなる有機モノリス構造体である、請求項1〜10のいずれかに記載の撥水性構造体。
【請求項12】
200nm〜10μmの孔径を有する空隙と該空隙を形成する骨格とが三次元網目状に連結された共連続構造を有するモノリス構造体において前記骨格の表面に細孔を形成し、前記空隙に、液状の撥水性充填材またはこれをゲル化した撥水性充填材を充填することを特徴とする撥水性構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度撥水性状態の高耐久性を有しつつ、防汚性や抗菌性を有する撥水性構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接触角が高い撥水性の表面は、低表面エネルギーに表面粗さを組み合わせることにより作製できることが知られている。この作製方法には様々なものがある。
【0003】
超撥水性表面は、表面と水との接触面積を著しく小さくすることができるため、水を介した化学反応の進行や局部電池の形成、電気回線のショート、あるいは水素結合の形成を抑えることができる。このため、固体表面における着雪雨滴防止、汚れ防止、防錆、電気絶縁性、離型性などの様々な目的に対して、高い効果が期待できる。
【0004】
ここで述べる高度撥水性表面とは、平滑面では実現できない接触角120°以上のものである。そしてその適用範囲は、自動車や新幹線等の乗り物の外装、船底塗料、外灯、台所及び台所用品、浴室や洗面所とその用品、漁業用網、ブイ、歯科用品、電気機器、住宅の床や外装、玄関ドア及びノブ、屋根、プール及びプールサイド、橋脚、門扉、ポスト、ベンチ、鉄塔、アンテナ、電線、ガレージ、テント、傘、レインコート、スポーツ用品およびスポーツ衣料、ヘルメット、靴や鞄などの皮革製品、カメラ、ビデオ、紙、スピーカー等の屋外拡声器や音響機器、カーテン、絨毯、ガソリンスタンド等の注油ノズル、精油所等の化学プラント、金属製工具類、釘やネジ、バケツ類等、極めて広範囲に及ぶ。
【0005】
しかしながら、高度撥水性表面は、微細な表面構造と低表面エネルギーの組み合わせで実現させることから、その表面構造を形成する基材に固い素材を用いたとしても、摩耗等に対する耐久性を担保させることが最も困難であった。
【0006】
その改善策として、特許文献1に開示されるような有機モノリス構造体を用いた高度撥水性表面が実現された。有機モノリス構造体とは、空隙(0.1〜10μm)と該空隙を構成する骨格が連結した共連続構造(スピノーダル)であることから、その塊をいかなる方向で切り分けても、一定の凹凸構造を有する表面になる。さらに、モノリス構造体は、骨格表面上及び/又は骨格内部に直径数10 nm の細孔が存在する二重細孔構造を有している。有機モノリス構造体は、その骨格を撥水性にする表面改質を行った場合、高い撥水性を呈するのに十分な凹凸構造を有する。
【0007】
さらに、生物の新陳代謝による“自己修復機能”を模倣した材料設計指針に取り入れ、常に新鮮な表面をさらすことで凹凸構造を維持するような高度撥水性を維持するような材料が実現された。例えば、分離精製媒体やカラムクロマトグラフィーの充填剤に使用される多孔性架橋ポリマー樹脂が、細い骨格により分離性能を示す一体構造を有する分離媒体として注目され(特許文献2参照。)、一部実用化に至っている。これは、エポキシ樹脂硬化物の三次元網目骨格を有する多孔体であり、三次元網目構造が柱状のエポキシ樹脂硬化物の共連続構造である。その際に用いることができる樹脂は、エポキシ樹脂の他に、スチレン、メタクリレート、アクリレートであった。
【0008】
従来、多くの撥水性表面は空気層を微細な表面構造に空気(気体)を噛み込ませることで高撥水表面を実現してきた(特許文献1)が、表面に凹凸構造や微細なファイバーを設置し、その構造体の隙間にフッ素系溶液を配置して転落性のよい高撥水性表面を形成した報告もある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−162672号公報
【特許文献2】特開2009−269948号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bioinspired self-repairing slippery surfaces with pressure-stable omniphobicity, Nature, 477, 443 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術に述べたように、高度撥水性表面の作製例は多数報告されているが、実用化までに至ったのは極めて限定的である。例えば特許文献1に開示される有機モノリス構造体を用いた高度撥水性表面では、耐久性(特に、耐摩耗性)が改善されたが、水及び油の滴の転落性が不十分であることから、防汚性が不十分であった。
【0012】
その際、表面張力が小さい液体を構造体に配置する方策がとられることがあったが、蒸気圧を考慮して蒸発を抑制する必要があった。加えて、その液体の物理的保持性(水流等による洗い流しなどに対する保持性)が求められた。
【0013】
加えて、光触媒は強い酸化還元力による抗菌性を有するが、定常的に汚れが付着する部位に用いると必ずしも威力を発揮できなかった。
【0014】
そこで本発明の課題は、高度撥水性状態の高耐久性を有しつつ、防汚性や抗菌性を有する撥水性構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る撥水性構造体は、空隙と該空隙を形成する骨格とが三次元網目状に連結された共連続構造を有するモノリス構造体からなり、前記骨格の表面に細孔が形成され、前記空隙の内部に液状またはゲル状の撥水性充填材が充填されていることを特徴とするものからなる。
【0016】
モノリス構造体は、空隙と該空隙を形成する骨格とが連結された共連続構造(スピノーダル)を有するので、いかなる方向に沿って切り分けても、一定の凹凸構造が表面に露出される。従って、強い摩擦を与えつつ表面を剥ぎ取った場合でも、高度撥水性表面の形成に必要な凹凸構造を常に維持することが可能である。モノリス構造体の空隙率は、60〜80%であることが好ましい。さらに、細孔内に充填された撥水性充填剤の蒸発と流動性を抑制するために、モノリス構造体の骨格上には数10nmの細孔が形成されていることが好ましい。モノリス構造体の具体例としては、例えば前述の特許文献2に記載されているようなエポキシ樹脂硬化物からなるモノリス構造体を使用できる。
【0017】
このような本発明の撥水性構造体によれば、モノリス構造体の空隙に低表面エネルギーの液状またはゲル状の撥水性充填材が充填されているので、水や油の転落性・防汚性・抗菌性を著しく向上させた高撥水性表面を大面積で形成することが可能となる。
【0018】
かかる撥水性構造体において、前記撥水性充填材が、フッ素を含有するフッ素系撥水性充填材であることが好ましい。撥水性充填材は、撥水性および撥油性を実現するために表面張力が低いのが望ましく、含浸後の揮発を防ぐためには蒸気圧が低いのが望ましい。このような物性を有する撥水性充填材の具体例として、パーフルオロカーボン、直鎖構造を有するパーフルオロポリエーテル油やフッ素系不活性液体等のフッ素系撥水性充填材が挙げられる。とくに水や油が溶解しにくい不活性液体を用いることで、防汚性を飛躍的に向上させることが可能である。
【0019】
また、前記骨格の表面および/または内部に、フッ素を含有するフッ素系樹脂が配置されていることが好ましい。骨格部分にフッ素系ポリマー樹脂等をコーティング等により配置することにより、外部に露出する骨格部分の撥水性が向上し、本発明に係る撥水性構造体全体として高い撥水性が実現される。このようなフッ素系樹脂は、骨格の内部に練り込まれるなどして含まれていてもよく、骨格の表面にコーティングされていてもよい。高い撥水性を発現させるために、フッ素系樹脂として例えばポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。
【0020】
また、前記骨格の表面や内部に光触媒が配置されていることが好ましい。このようにすることで、二酸化チタンや可視光応答型光触媒等の光触媒が骨格表面の汚れを分解することが可能となる。とくにモノリス構造体が有機物材料からなる有機モノリス構造体である場合には、モノリス構造体を徐々に分解する自己エッチング作用によって、常に新鮮な表面があらわれるようになる。その結果として、いわば「新陳代謝による自己修復機能」を付加されたことによる高耐久性が維持される。
【0021】
ここで、自己エッチング作用とは、二酸化チタン等の光触媒に紫外線が照射された場合に発揮される有機物分解反応を促進させる作用をいう。有機モノリス構造体に適当な量の光触媒を内部構造や表面に添加し、有機モノリス構造体に紫外線を照射すると、表面から順に有機モノリス構造体が分解する。そして、降雨時等に雨水で分解生成物が洗い流されることで常に新鮮なモノリス構造が表面に露出するので、高い撥水性を長期間にわたり維持することができるのである。
【0022】
このような本発明の撥水性構造体において、前記光触媒が、体積比で前記モノリス構造体の10%以下を占めることが好ましい。光触媒はモノリス構造体を分解する自己エッチング作用を有するが、撥水性構造体自体に十分な撥水性を持たせるためにはモノリス構造体の露出面積をある程度確保するのが有利である。具体的には、光触媒がモノリス構造体の10%以下を占める程度であれば、十分な撥水性が発揮される。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る撥水性構造体の製造方法は、空隙と該空隙を形成する骨格とが三次元網目状に連結された共連続構造を有するモノリス構造体において前記骨格の表面に細孔を形成し、前記空隙に、液状またはゲル状の撥水性充填材を充填することを特徴とする方法からなる。
【0024】
このような本発明に係る撥水性構造体の製造方法によれば、モノリス構造体の空隙に低表面エネルギーの液状またはゲル状の撥水性充填材が充填されるので、水や油の転落性・防汚性・抗菌性を著しく向上させた高撥水性表面を大面積で形成することが可能となる。骨格表面上の細孔の数は多いほど望ましく、例えば走査型電子顕微鏡で断面観察を行った場合に、1μm×1μmの領域内に1個以上、さらには0.1μm×0.1μmの領域内に1個以上存在することが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る撥水性構造体によれば、高い撥水性を呈するモノリス構造体の空隙の内部に液状またはゲル状の撥水性充填材が充填されているので、水や油が空隙内に進入することが効果的に防止される結果、水滴や油滴の転落性が向上するので、耐久性が高く防汚性や抗菌性に優れた撥水性構造体が提供可能となる。
【0026】
また、ゲル化及び/若しくは骨格表面上の細孔で撥水性充填剤の流動性を制限することで、蒸発の抑制やその液体の物理的保持(水流等に対する保持)が可能な撥水性構造体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施態様に係る撥水性構造体における有機モノリス構造体の共連続構造を示す概略断面図である。
【
図2】固体表面の転落角を測定する方法を示し、(A)は
図1の有機モノリス構造体にフッ化炭素溶液を含浸させてなる撥水性構造体の固体表面を傾斜角2°で傾斜させたときの正面図、(B)は
図1の有機モノリス構造体の固体表面を傾斜角90°で傾斜させたときの正面図である。
【
図3】
図2(A)および
図2(B)の固体表面における水滴の転落特性図である。
【
図4】本発明の一実施態様に係る撥水性構造体を構成する有機モノリス構造体を走査型電子顕微鏡で断面観察した際の骨格部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(モノリス構造体の作製方法)
基材に、空隙と該空隙を構成する骨格が連結した共連続構造(スピノーダル)を有する有機モノリス構造体を用意する。これは、化学的に安定な粘弾性体で、空隙の孔径の制御がある程度可能であり(特許文献2参照。)、エポキシ系モノマーを重合させたものである。その孔径は特に限定されないが、望ましくは200nm〜10μm、より望ましくは、500nm〜1μmである。加えて、骨格表面上の細孔径は、それぞれの骨格径より十分小さいが、その細孔の数が多いほど望ましい。光触媒の酸化分解反応を用いてモノリス構造体を光照射表面から分解し常に初期状態と同等の凹凸構造を維持する、自己エッチング機能を用いた自己修復機能を付加するために、二酸化チタン光触媒をモノリス構造内部及び/又は表面に設置する(特許文献1参照。)。モノリス構造体内部に設置する場合には(
図1)、モノリス構造体を作製する際にモノマーに二酸化チタン光触媒を0.01〜95Mass%の体積比で添加する。壁材等の緩やかな汚染に対するものは5Mass%以下で骨格を形成し、望ましくは、1.5〜0.5 Mass%の範囲で添加することが望ましい。高撥水性の維持性を重視するには、骨格中に例えば30〜65Mass%のポリテトラフルオロエチレンが練り込まれていてもよい。抗菌性を重視する場合には、50Mass%以上で骨格を形成し、望ましくは、50〜80 Mass%の範囲で添加することが望ましい。いずれの場合であっても、二酸化チタン等の光触媒の粒子サイズは特に限定されないが、モノリス構造体の空隙の孔径よりも十分に小さい粒径が適切であり、数10nm以下が望ましい。最後に、二酸化チタン光触媒が添加されたモノリス構造体を、撥水系ポリマー(シリコン系・フッ素系)を0.0001〜40Mass%を有機溶媒に溶解したものに含浸させ、表面改質を行う。
【0029】
(充填する液体またはゲル)
充填する液体またはゲルは、低表面張力(撥水・撥油をもたらすため)および低蒸気圧(含浸後の揮発を防ぐため)を有するものであることが好ましく、具体的には以下のようなものを使用することができる。
【0030】
・パーフルオロカーボン単体若しくは複数のパーフルオロカーボンの液体(C6F14など)
・フッ素系不活性液体(表面張力=12〜18mN/m@25℃:住友3M フォロリナート)
・フッ素系不活性液体(表面張力=16mN/m@25℃:三菱マテリアル イナートリキッド)
・フッ素オイル(表面張力=17.7〜19.1mN/m@25℃:ダイキン イナートリキッド)
・直鎖構造を有するパーフルオロポリエーテル油
・シリコーンオイル(表面張力=19〜22mN/m@25℃:信越シリコーン)
【0031】
上記具体例のほか、モノリス構造体に含浸させることにより撥水性構造体の表面エネルギーが12〜45mJ/m
2となるような液体またはゲルが適用可能である。この表面エネルギーの数値範囲は、Owens and Wendt法に準拠して、極性・非極性の2液の液滴の接触角をそれぞれ測定することにより算出されたものである。所定の液体を有機モノリス構造体に含浸させた撥水性構造体について、実際に計測された表面エネルギーの値の一例は37.6mJ/m
2である。
【0032】
以下、実施例を例示して、本発明をより具体的に説明する。尚、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0033】
(接触角)
図1は、本発明の一実施態様に係る撥水性構造体における有機モノリス構造体の共連続構造を示す概略断面図である。
図1において有機モノリス構造体1は、骨格2(白抜き部分)と空隙3(格子柄を付した部分)とが三次元網目状に連結された共連続構造を有し、骨格2の表面には細孔4が形成されている。かかる有機モノリス構造体1中(骨格2内)にTiO
2光触媒及びPTFEを配置し、フッ化炭素系溶媒を含浸させた固体表面に液滴を滴下したところ、接触角は概ね140°以上を示した。
【0034】
(液滴の転落性)
図2に、固体表面の転落角を測定する方法を示す。
図2(A)は
図1の有機モノリス構造体にフッ化炭素溶液を含浸させてなる撥水性構造体の固体表面を傾斜角2°で傾斜させたときの正面図である。また、
図2(B)は
図1の有機モノリス構造体の固体表面を傾斜角90°で傾斜させたときの正面図である。実施例(
図2(A))においては転落角が2°と測定され、比較例(
図2(B))においては転落角が「無し」と測定された。ここで転落角とは、撥水性構造体の表面に滴下した30μLの水滴が、ゆっくりと傾斜を大きくしていったときに転落を開始する角度をいう。
図3には、
図2(A)の固体表面(実施例)と
図2(B)の固体表面(比較例)とに30μLの水滴を滴下し、固体表面の傾斜角が35°となるように傾けたときの転落特性の例を示す。
図2〜3より、実施例においては比較例と比べ圧倒的に転落角が小さく、転落速度(=転落距離/経過時間)が大きいことがわかる。
【0035】
図4は、本発明の一実施態様に係る撥水性構造体を構成する有機モノリス構造体を走査型電子顕微鏡で断面観察した際の骨格部分の拡大図である。
図4によれば、有機モノリス構造体内に100nm〜10μmの柱体径を有する骨格と、200nm〜10μmの径を有する空隙3とが存在することが観察される。その骨格の表面には、数10nm(正規分布における最頻値)の孔径を有する細孔4が至る所に存在する。この細孔の数は、モノリス構造体の作製段階で制御可能である。
【0036】
(着色性)
熱可塑性エポキシ系のモノマー及び硬化剤・TiO2光触媒・ポリテトラフルオロエチレン粒子の混合液に、Brilliant Blue FCF若しくはNew Coccineをさらに混入させ、75度の温度環境下に24時間放置させて分相させることで、着色したモノリス構造体を作製することが可能である。着色した色は、24時間程度水につけると色落ちはほとんど発生しなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る撥水性構造体は、高撥水撥油性・高液滴滑落性・高耐久性・高防汚性を備えた機能性表面が必要とされる建築材料その他の各種材料に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 有機モノリス構造体
2 骨格
3 空隙
4 細孔