(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、このようなサークリップによってダストカバーがソケットに固定された構成のボールジョイントにおいては、ソケット内部への異物の侵入、取分けダストカバーとソケットとの嵌合部への水滴や油滴などの侵入を防ぐ防水性能の向上が常に求められるものである。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、サークリップによってダストカバーがソケットに固定された構成のボールジョイントにおいて、ダストカバーとソケットとの嵌合部の防水性能を向上させることができるボールジョイントを提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、軸状に形成されたスタッド部の先端部に球面を有するボール部が形成されたボールスタッドと、ボールスタッドにおけるボール部を摺動自在に収容する保持部の外周部から張り出した状態でダストカバー受け面を有するとともに同保持部に連通して前記ボールスタッドが揺動自在に貫通するスタッド貫通開口部を有するソケットと、筒体における一方の開口部側に形成されたソケット嵌合部がスタッド貫通開口部の外周部に嵌められるとともに他方の開口部側がボールスタッドの外周部に嵌められてスタッド貫通開口部上を覆う弾性部材からなるダストカバーと、スタッド貫通開口部の外周部に嵌められたソケット嵌合部の外周部を締め付けるサークリップとを備えたボールジョイントにおいて、ダストカバーは、前記一方の開口部側にダストカバー受け面に対向するソケット対向面を有するとともに同ソケット対向面における径方向の一部にダストカバー受け面に向かってリング状に突出する軸方向突起を有し、ソケットは、ダストカバー受け面が少なくとも軸方向突起が対向する位置から内側に向かってソケット対向面側に向かう傾斜面で構成されて
、軸方向突起を有するソケット対向面は、サークリップの締付力によってソケットにおける傾斜面に押し付けられていることにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーにおけるソケットに対向するソケット対向面の一部にリング状に突出する軸方向突起を有するとともに、ソケットにおけるダストカバーに対向するダストカバー受け面に軸方向突起が対向する位置から内側に向かってソケット対向面側に向かう傾斜面が形成されて構成されている。これにより、ボールジョイントは、サークリップの締付力によってダストカバーにおけるソケット嵌合部、ソケット対向面および軸方向突起がソケットのスタッド貫通開口部の外周部、ダストカバー受け面における傾斜面にそれぞれ押し付けられる。この場合、ソケットにおけるダストカバー受け面がソケット対向面に向かって傾斜する傾斜面で構成されているため、同傾斜面に押し付けられるソケット対向面および軸方向突起にダストカバーの軸方向の押圧力が生じて密着力が増大する。また、この場合、軸方向突起がソケット対向面から突出して形成されているため軸方向突起のダストカバー受け面に対する面圧が増大して密着力が増大する。これらの結果、本願発明に係るボールジョイントは、従来のボールジョイントに比べてダストカバーとソケットとの嵌合部における防水性能を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ダストカバーは、軸方向突起の内周面が先端部に向かってダストカバーの径方向に広がる傾斜面で構成されていることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーにおける軸方向突起の内周面が先端部に向かってダストカバーの径方向に広がる傾斜面を有して構成されている。これにより、ボールジョイントは、ダストカバーの軸方向突起における内周面とソケットのダストカバー受け面における傾斜面とが互に傾斜方向が同じ平面で構成されるため両者の密着性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ダストカバーは、軸方向突起の外側にダストカバーの径方向に広がりつつダストカバー受け面側に延びる傾斜面で構成されたテーパ鍔部を有し、ソケットは、ダストカバー受け面がダストカバーにおける軸方向突起よりも径方向外側に延びて形成されるとともに、同ダストカバー受け面の全体が外側から内側に向かってソケット対向面側に向かう傾斜面で構成されていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーが軸方向突起の外側にダストカバーの径方向に広がりつつダストカバー受け面側に延びる傾斜面で構成されたテーパ鍔部を有し、かつ、ソケットのダストカバー受け面がダストカバーにおける軸方向突起の径方向外側に延びて形成されるとともに同カバー受向面の全体が外側から内側に向かってソケット対向面側に向かう傾斜面で構成されている。これにより、ボールジョイントは、ダストカバーにおける軸方向突起の外側部分においてもテーパ鍔部とダストカバー受け面とが軸方向に作用する押圧力によって密着性が向上する。この結果、ボールジョイントは、ダストカバーとソケットとの嵌合部における防水性能をより一層向上させることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、テーパ鍔部は、軸方向突起の根元部分にダストカバー受け面に対して凹状に切り欠かれた切欠き部が形成されていることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、テーパ鍔部が軸方向突起と隣接する部分にダストカバー受け面に対して凹状に切り欠かれた切欠き部を備えている構成されている。これにより、ボールジョイントは、ダストカバーがサークリップによって締め付けられた際に、テーパ鍔部のカバー受け対向面に対する浮き上がりを防止して密着性を良好に確保することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ソケットは、ダストカバー受け面がダストカバーにおけるテーパ鍔部の先端部より外側に張り出して形成されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ソケットにおけるダストカバー受け面がダストカバーにおけるテーパ鍔部の先端部より外側に張り出して形成されて構成されている。これによれば、ボールジョイントは、ダストカバーにおけるテーパ鍔部がソケットにおけるダストカバー受け面の先端部より外側に張り出して形成されている場合に比べてテーパ鍔部のダストカバー受け面からの捲れを防止して防水性を良好に維持することができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ソケットは、ダストカバー受け面がソケット対向面に形成される傾斜面よりも小さい傾斜角度に形成されていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ソケットのダストカバー受け面がソケット対向面に形成される傾斜面よりも小さい傾斜角度に形成されている。これにより、ボールジョイントは、軸方向突起がダストカバー受け面の傾斜面に押し付けられた際における接触面積を増大させることができるため、ダストカバーのソケット対向面とソケットのダストカバー受け面との接触面における内部(奥部)への浸水を効果的に防止することができる
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ダストカバーは、ソケット嵌合部の内周面にリング状に突出する径方向突起を有することにある。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーがソケット嵌合部の内周面にリング状に突出する径方向突起を有して構成されている。これにより、ボールジョイントは、仮にスタッド貫通開口部の外周部とソケット嵌合部の内周面との間にまで浸水した場合であっても、それ以上の浸水、すなわち、スタッド貫通開口部まで至る浸水を防止することができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ダストカバーは、ソケット対向面における軸方向突起よりも内側部分がソケット嵌合部側に向かって傾斜する傾斜面で構成されていることにある。
【0022】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーのソケット対向面における軸方向突起よりも内側部分がソケット嵌合部側に向かって傾斜する傾斜面で構成されている。これにより、ボールジョイントは、ダストカバーにおける軸方向突起よりも内側部分においても同内側部分とダストカバー受け面とが軸方向突起と同様に軸方向に作用する押圧力によって密着するため、ダストカバーとソケットとの嵌合部における防水性能をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るボールジョイントの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るボールジョイント100の縦断面を概略的に示す一部破断断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素間の角度変化を許容しつつ各構成要素を互いに連結するジョイント部材である。
【0025】
(ボールジョイント100の構成)
ボールジョイント100は、主として、ボールスタッド110、ソケット120、ボールシート130およびダストカバー140によって構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、鋼材で構成された軸部材であり、軸状に形成されたスタッド部111と略球状に形成されたボール部112とが鍔部113および括れ部114を介して一体的に形成されている。スタッド部111の外周部には、ボールジョイント100を図示しない相手部材に連結するための雄ネジ115が形成されている。一方、ボール部112の表面には、ボールシート130との円滑な摺動を確保するため研削加工が施されている。
【0026】
ソケット120は、鉄鋼材またはアルミニウム材などの非鉄金属を鋳造加工、または鍛造加工することにより略円筒状に形成されている。より具体的には、このソケットは、円筒体の一方の端部(図示上端部)が図示上方に向かって開口するスタッド貫通開口部121を有するとともに他方の端部(図示下端部)がプラグ122によって閉塞された有底円筒状に形成されている。この場合、プラグ122は、円筒状に形成されたソケット120の前記他方の端部を塞ぐ板状部材であり、鋼材を中央部が凹んだ略円板状に形成されている。
【0027】
ソケット120における内部は、前記ボールスタッド110におけるボール部112をボールシート130を介して収容して保持する保持部123が形成されている。一方、ソケット120の外周部には、スタッド貫通開口部121の上端部に外側に向かってフランジ状に突出した小鍔部124が形成されるとともに、同小鍔部124の下方にダストカバー溝125を介してダストカバー受け面126が小鍔部124より更に外側に突出したフランジ状に形成されている。
【0028】
これらのうち、小鍔部124は、ダストカバー溝125に嵌め込まれるダストカバー140の抜けを防止する部分である。また、ダストカバー溝125は、ダストカバー140における径方向突起142が押し付けられる円筒状の部分であり、軸方向に沿って同一の外形に形成された凹凸のない滑らかな曲面形状に形成されている。
【0029】
ダストカバー受け面126は、詳しくは
図2に示すように、ダストカバー140の図示下側の端部であるソケット対向面143を支持する部分であり、外側から内側に向かってソケット対向面143側に向かう図示上り傾斜となる傾斜面で構成されている。本実施形態においては、ダストカバー受け面126の傾斜角θ
1は、ソケット120の径方向(図示水平方向)に対して約10°に設定されている。このダストカバー受け面126の先端部は、ダストカバー140のソケット対向面143より張り出して形成されている。
【0030】
このソケット120の外周部には、アーム体127が設けられている。アーム部127は、このボールジョイント100を他の部品に連結するために棒状に延びた部分であり、一方(図左側)の端部に前記ソケット120が一体的に繋がるとともに図示しない他方(図示右側)の端部にこのボールジョイント100と同様の図示しないボールジョイントのソケットが一体的に繋がって設けられている。すなわち、このボールジョイント100は、例えば、スタビライザーリンクやライロッドエンドなどの棒状の連結部材の両端部または一方の端部に設けられているものである。
【0031】
ソケット120における保持部123内には、前記プラグ122によって支持された状態でベアリングシートとしてのボールシート130が嵌め込まれている。ボールシート130は、ソケット120の保持部123内においてボールスタッド110のボール部112を回動摺動自在な状態で保持する合成樹脂製(例えば、PEEK樹脂)の部材であり、縦断面形状が略U字状に形成されている。このボールシート130の上側開口部および下側開口部には、ボールシート130の内周面とボール部112の外周面との潤滑性を確保するための図示しないグリースが塗布されている。
【0032】
また、ソケット120の上部には、保持部123内に収容されるボールスタッド110のボール部112およびボールシート130を覆う状態でダストカバー140が設けられている。ダストカバー140は、
図3に示すように、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー140は、一方(図示上側)の開口部がボールスタッド110の外周部に嵌合する内径に形成されているとともに、他方(図示下側)の開口部にボールスタッド110におけるダストカバー溝125の外周部に嵌合するソケット嵌合部141が形成されている。
【0033】
ソケット嵌合部141は、詳しくは
図4に示すように、ソケット120のダストカバー溝125に嵌合する円筒状の部分であり、ダストカバー溝125の外形よりも小さい内径に形成されている。このソケット嵌合部141の内周面には、径方向突起142が形成されている。径方向突起142は、ダストカバー溝125の外周面との間で水滴や埃などの異物の侵入を防ぐためにソケット嵌合部141の内側に向かってリング状に突出する突起であり、ダストカバー140の軸方向に沿って複数(本実施形態においては、4つ)形成されている。そして、このソケット嵌合部141の端面には、ソケット120のダストカバー受け面126に対向した状態でソケット対向面143が形成されている。
【0034】
ソケット対向面143は、ダストカバー140をソケット120に装着した際に、同ソケット120におけるダストカバー受け面126に押し付けられる部分であり、ダストカバー140の径方向に突出したフランジ状に形成されている。より具体的には、ソケット対向面143は、径方向突起142における図示下端部から径方向に広がりつつダストカバー受け面126に向かって延びるテーパ状の傾斜面状に形成されている。この場合、ソケット対向面143には、径方向突起142側から外周部側に向かって内側テーパ部144、軸方向突起145およびテーパ鍔部146がそれぞれ形成されている。
【0035】
内側テーパ部144は、径方向突起142側からソケット嵌合部141の厚さの略中央付近までの範囲で水平面に対して若干傾斜した傾斜面で構成されている。本実施形態においては、内側テーパ部144の傾斜角θ
2は、ダストカバー140の径方向(図示水平方向)に対して約10°に設定されている。
【0036】
軸方向突起145は、ソケット120におけるダストカバー溝125の外径と略同一の外径位置付近を中心としてダストカバー受け面126側(図示下側)に向かってリング状に突出して形成されている。この軸方向突起145は、ダストカバー140の内側に向く内周面が軸方向突起145の先端部に向かってダストカバー140の径方向に広がる傾斜面で構成されるとともに、先端部が円弧状に形成されている。本実施形態においては、軸方向突起145における内周面の傾斜角θ
3は、内側テーパ面144に対して30°に設定されている。また、この軸方向突起145の突出量は、径方向突起142の下端部、換言すれば内側テーパ部144の最内周部から軸方向に0.1〜1.5mmの範囲の高さに設定される。
【0037】
テーパ鍔部146は、軸方向突起145の外周面の根元部分からダストカバー140の径方向外側に形成されており、先端部が軸方向突起145の先端部よりダストカバー受け面126側(図示下方)に張り出す傾斜面で構成されている。本実施形態においては、テーパ鍔部146の傾斜角θ
4は、前記内側テーパ144の傾斜角θ
2よりも大きな傾斜角の傾斜面に形成されるとともに、ソケット120のダストカバー受け面126の先端部(外周部)より内側に収まる長さに形成されている。
【0038】
このテーパ鍔部146と前記軸方向突起145との間には、溝状の切欠き部147が環状に形成されている。この切欠き部147は、テーパ鍔部146の捲れ上がりを防止するための溝であり、軸方向突起145の外周面の根元部分にソケット120のダストカバー受け面125に対して凹状に凹んで切り欠かれた形状で形成されている。
【0039】
一方、ソケット嵌合部141の外周部には、サークリップ150が嵌め込まれている。サークリップ150は、ソケット嵌合部141の外周部を締め付けることによって径方向突起142およびソケット対向面143をそれぞれダストカバー溝125およびダストカバー受け面126に押し付けてダストカバー140をソケット120に固定するための金具であり、鋼鉄材をリング状に形成して構成されている。
【0040】
(ボールジョイント100の組み付け)
このように構成されたボールジョイント100の組み付けについて説明する。なお、このボールジョイント100の組み付けの説明においては、本発明に直接関わらない工程については適宜省略する。
【0041】
まず、作業者は、ボールジョイント100を構成する部品であるボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ122をそれぞれ用意する。この場合、ボールスタッド110は、鍛造加工および研削加工により予め軸状に成形されている。また、ボールシート130は、射出成形加工により予め円筒状に形成されている。また、プラグ122は、プレス加工により予め円板状に形成されている。次に、作業者は、これらの各部品をソケット120を成型するための図示しない鋳型内にセットする。この場合、ボールスタッド110は、ボール部112がボールシート130内にて回転摺動可能に保持された状態で鋳型内にセットされる。
【0042】
次に、作業者は、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ122がそれぞれセットされた鋳型内にアルミニウム合金を鋳込む(アルミダイキャスト)。これにより、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ122を一体的に備えたソケット120が成形される。なお、本実施形態においては、ソケット120は、ソケット120の外周部にアーム体127が一体的に形成された状態で成形される。次に、作業者は、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ122を備えたソケット120にダストカバー140を装着する。
【0043】
具体的には、作業者は、ダストカバー140およびサークリップ150をそれぞれ用意した後、ダストカバー140における一方(図示上側)の開口部をボールスタッド110の外周部に嵌め込むとともに、同ダストカバー140における他方(図示下側)の開口部、すなわち、ソケット嵌合部141の内形を押し広げてソケット120のダストカバー溝125上に嵌め込む。そして、作業者は、ソケット嵌合部141の外周面上にサークリップ150を嵌め込む。
【0044】
この場合、ダストカバー140におけるソケット嵌合部141は、サークリップ150による締め付け力によってダストカバー溝125に強く押し付けられる。これにより、ソケット嵌合部141の内側に形成された径方向突起142は、ダストカバー溝125に強く押し付けられることによって押し潰された状態で密着する。また、ソケット嵌合部141におけるソケット対向面143は、ダストカバー140の径方向内側に向かってソケット120におけるダストカバー受け面126上を摩擦摺動する。この場合、ソケット120におけるダストカバー受け面126がソケット対向面143側に向かって傾斜して形成されている。
【0045】
このため、軸方向突起145を含むソケット対向面143には、ダストカバー140およびソケット120の径方向内側への押圧力に加えてダストカバー140およびソケット120の軸方向への押圧力が作用する。これにより、ダストカバー140における軸方向突起145を含むソケット対向面143は、ダストカバー140およびソケット120の径方向内側に引き摺られながら押し潰された状態でソケット120のダストカバー受け面125に強く密着する。
【0046】
また、ダストカバー140のソケット対向面143に設けられた軸方向突起145は、ソケット120のダストカバー受け面125に向かってソケット対向面143から突出して形成されている。このため、軸方向突起145は、内側テーパ部144およびテーパ鍔部146に比べて強い押圧力(面圧)によってダストカバー受け面125に押し付けられる。これらにより、軸方向突起145を含むソケット対向面143とダストカバー受け面126とは、極めて高い圧力で密着して水滴や油滴の侵入を防止できる状態となる。そして、この場合、ダストカバー140のソケット対向面143は、軸方向突起145の外周面における根元部分に切欠き部147が設けられているため、テーパ鍔部146の捲れ上がりを防止できダストカバー受け面126への密着性を良好に維持することができる。
【0047】
このダストカバー140のソケット120への取り付けによってボールジョイント100が完成する。なお、作業者は、ソケット120を鋳込む際およびダストカバー140を取り付ける際にボールスタッド110におけるボール部111とプラグ122との間、ボールシート130の内周面およびスタッド貫通開口部121から露出するボール部111の外周面上に図示しないグリースを塗布しておくことによりボール部111を円滑に回転摺動させることができる。
【0048】
(ボールジョイント100の作動)
このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。ボールジョイント100は、図示しない車両におけるサスペンション機構やステアリング機構におけるジョイント部材として用いられる。そして、車両の走行時においては、車輪の挙動や車両の姿勢に応じた負荷、具体的には、曲げ、引張り、圧縮、せん断などの各種応力および振動がボールジョイント100に作用する。
【0049】
この場合、ボールジョイント100におけるダストカバー140にも上記負荷に起因して振動が作用するが、ダストカバー140におけるソケット対向面143にはダストカバー受け面126の傾斜面によってダストカバー140の径方向に加えて軸方向にも押圧力が作用している。これにより、ボールジョイント100は、内側テーパ部144、軸方向突起145およびテーパ鍔部146のダストカバー受け面126への密着状態を精度良く維持することができる。
【0050】
特に、この場合、軸方向突起145は、ソケット対向面143から突出して形成されているため、面圧の集中によって高い密着性を維持することができる。また、この場合、テーパ鍔部146は、軸方向突起145との間に凹状に切り欠かれた切欠き部147が設けられているため、テーパ鍔部146の捲れ上がりが防止されてダストカバー受け面126への密着性を良好に維持することができる。また、この場合、ダストカバー140におけるソケット嵌合部141には、内周面から突出した状態で径方向突起142が形成されているため、面圧の集中によって高い密着性を維持することができるため、仮に内側テーパ部144にまで浸水した場合であっても径方向突起142以降への浸水を効果的に防止することができる。これらによって、ボールジョイント100は、ダストカバー140の内部への水滴や油滴の侵入を効果的に防止することができる。
【0051】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ボールジョイント100は、ダストカバー140におけるソケット120に対向するソケット対向面143の一部にリング状に突出する軸方向突起145を有するとともに、ソケット120におけるダストカバー140に対向するダストカバー受け面126に軸方向突起145が対向する位置から内側に向かってソケット対向面143側に向かう傾斜面が形成されて構成されている。これにより、ボールジョイント100は、サークリップ150の締付力によってダストカバー140におけるソケット嵌合部141、ソケット対向面143および軸方向突起145がソケット120のスタッド貫通開口部121の外周部、ダストカバー受け面126における傾斜面にそれぞれ押し付けられる。この場合、ソケット120におけるダストカバー受け面126がソケット対向面143に向かって傾斜する傾斜面で構成されているため、同傾斜面に押し付けられるソケット対向面143および軸方向突起145にダストカバー140の軸方向の押圧力が生じて密着力が増大する。また、この場合、軸方向突起145がソケット対向面143から突出して形成されているため軸方向突起145のダストカバー受け面126に対する面圧が増大して密着力が増大する。これらの結果、本願発明に係るボールジョイント100は、従来のボールジョイントに比べてダストカバー140とソケット120との嵌合部における防水性能を向上させることができる。
【0052】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記各実施形態と同様の構成部分には対応する符号を付して、その説明は省略する。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、ソケット120におけるダストカバー受け面126の全体を外側から内側に向かってダストカバー140のソケット対向面143に近づく傾斜面に構成した。しかし、ソケット120におけるダストカバー受け面126は、少なくともダストカバー140における軸方向突起145が対向する位置よりも内側部分に形成されていればよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140における軸方向突起145の内周面を傾斜面に形成した。しかし、軸方向突起145の内周面は、例えば、
図5に示すように、ダストカバー140の軸方向に平行に形成することもできる。
【0055】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140は、ソケット対向面143における軸方向突起145の外側にテーパ鍔部146を形成して構成した。しかし、ダストカバー140は、ソケット対向面143における軸方向突起145の外側にテーパ鍔部146を形成しない形状、すなわち、ソケット対向面143の最外周部が軸方向突起145で構成されていても防水性能を発揮できるものである。すなわち、テーパ鍔部146は、ダストカバー140とソケット120との間の防水性能をより向上させるための構成である。したがって、ダストカバー140は、ソケット対向面143にテーパ鍔部146を設けた場合、必ずしも切欠き部147を設ける必要もない。
【0056】
また、上記実施形態においては、ボールジョイント100は、ソケット120におけるダストカバー受け面126の外周部をダストカバー140のソケット対向面143の外周部よりも張り出して形成した。これにより、ボールジョイント100は、ソケット対向面143の外周部の捲れによる浸水を効果的に防止することができる。しかし、ボールジョイント100は、ソケット対向面143の外周部の捲れが許容できる場合などには、ダストカバー140のソケット対向面143の外周部ソケット120におけるダストカバー受け面126の外周部より張り出して構成することもできる。
【0057】
また、上記実施形態においては、ソケット120のダストカバー受け面126の傾斜角θ
1をダストカバー140のソケット対向面143のうちの軸方向突起145の内周面の傾斜角θ
3よりもより小さい傾斜角とした。これにより、ボールジョイント100は、軸方向突起145がダストカバー受け面126の傾斜面に押し付けられた際における接触面積を増大させることができるため、ダストカバー140のソケット対向面143とソケット120のダストカバー受け面126との接触面における内部(奥部)への浸水を効果的に防止することができる。したがって、ダストカバー受け面126の傾斜角θ
1をダストカバー140のソケット対向面143のうちの軸方向突起145の内周面の傾斜角θ
3以外の傾斜角、すなわち、内側テーパ部144の傾斜角θ2またはテーパ鍔部146の傾斜角θ4に対して小さい傾斜角とすれば、内側テーパ部144およびテーパ鍔部146についても軸方向突起145と同様の作用効果を期待することができる。
【0058】
また、ボールジョイント100は、ソケット120のダストカバー受け面126の傾斜角θ1をダストカバー140のソケット対向面143の傾斜角θ2〜
θ4のうちの少なくとも1つと同じまたはそれ以上の傾斜角に設定した場合であってもソケット対向面143とダストカバー受け面126との接触面における防水性能自体は発揮できるものある。
【0059】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140のソケット対向面143におけるテーパ鍔部146の傾斜角を内側テーパ部144の傾斜角よりも大きく設定した。しかし、テーパ鍔部146の傾斜角は、ソケット120のダストカバー受け面126との間の密着性との兼ね合いで設定されるものであるため、内側テーパ部144の傾斜角と同一またはこれよりも小さい角度に設定されることは当然有り得ることである。
【0060】
また、上記実施形態においては、軸方向突起145および径方向突起142の先端部の形状を円弧状に形成した。しかし、軸方向突起145および径方向突起142の先端部の形状は、必ずしも上記実施形態に限定されるものでなく、円弧状以外の形状、例えば、三角形状、四角形状または楕円形状などに形成することができる。また、軸方向突起145および径方向突起142の先端部の形状は、2重や3重以上のひだ状に形成することもできる。
【0061】
また、上記実施形態においては、軸方向突起145は、ソケット対向面143に1つのリング状に形成した。しかし、軸方向突起145は、ソケット対向面143の径方向に2つ以上のリング状に形成することもできる。
【0062】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140のソケット対向面143における内側テーパ部144を傾斜面で構成した。しかし、ダストカバー140のソケット対向面143における内側テーパ部144は、
図6に示すように、ダストカバー140の径方向(図示水平方向)に平行に形成することもできる。
【0063】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140のソケット嵌合部141の内周面に複数の径方向突起142を形成した。しかし、径方向突起142は、ソケット対向面143における内側テーパ部144にまで浸水した場合において内側テーパ部144以降の浸水を防止して防水性能の信頼性を向上させるものである。したがって、径方向突起142は、ソケット嵌合部141の内周面で必要な防水性能に応じて適宜適切な数だけ形成、すなわち1つ以上形成されればよい。また、径方向突起142は、ダストカバー140におけるソケット対向面143とソケット120におけるダストカバー受け面126との間の防水性能が十分である場合やソケット嵌合部141の内周面での防水性能を考慮する必要がない場合には、省略することもできる。