(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他覚的屈折波面収差測定装置では、被検眼内での屈折の状態を検出するために、被検眼からの反射光の波面の状態を検出する波面センサ光学系を備えている。波面センサ光学系は、被検眼(測定の対象となる人の眼)の度数変化に対応する視度補正機構を必要とする。視度補正機構は、被検眼の度数(つまり視力)に応じて、光学部品を光軸上で遠近させることで、光学系の焦点の位置の調整を行う機構である。しかしながら、視度補正機構は、光学部品を可動させる機構を必要とするので、光学系が大型化し、また装置が高コストとなる。このような背景において、本発明は、小型化・低コスト化を図ることができる他覚的屈折波面収差測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、光源を備え、被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系と、前記被検眼の眼底から反射された反射光束を複数の光束に分割するハルトマン板および前記ハルトマン板で分割された分割光束を受光する第1の受光部を有する波面測定系と、前記被検眼の前眼部を照明する前眼部照明系と、前記前眼部照明系で照明された前記被検眼の前記前眼部から反射された光を受光する第2の受光部を有する前眼部観察系と、前記前眼部観察系で得られた前眼部像の画像データを出力する画像データ出力部とを有し、前記光源を−3Dから−13Dの
間に配置し、射出瞳位置を、像面位置の遠方に配置したことを特徴とする他覚的屈折波面収差測定装置である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記照明光学系の焦点が固定されていることを特徴とする他覚的屈折波面収差測定装置である。請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記射出瞳位置を、像面位置の遠方200mm〜300mmに配置したことを特徴とする他覚的屈折波面収差測定装置である。請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、装置本体から前記被検眼までの距離である作動距離が可変であることを特徴とする他覚的屈折波面収差測定装置である。
【0007】
本発明は、被検眼の瞳入射径が最適な(小さくて円形の)値になるように、ビームウエストの位置、射出瞳位置(絞り位置)の最適化を図り、被検眼の度数の違いがあっても観察される領域となるスポット像の大きさの変化を抑えている。すなわち、本発明は、光源位置をおよそ−10D位置(−3D〜−13D)に置くことによりビームウエスト位置を0.0D眼底位置付近に調整し、また、射出瞳位置を像面位置の遠方200mm〜300mm、に持ってくることで、人眼の瞳位置での入射径を小さくし、焦点深度が深くなるように絞り位置を決定している。このようにすることで、人眼のDioptor変化によるスポット像の大きさの変化を小さくすることができる。すなわち、被検眼の度数の違いがあっても観察される領域となるスポット像の大きさの変化が抑えられる。そしてそれにより、被検眼の度数の変化に対応するための視度補正機構を省略することができ、装置の小型化および低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化・低コスト化を図ることができる他覚的屈折波面収差測定装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1には、発明を利用した実施形態のブロック図が示されている。
図2には、光学系を説明する概念図が示されている。
図1には、実施形態の他覚的屈折波面収差測定装置100が示されている。他覚的屈折波面収差測定装置100は、視度補正機構を備えておらず、照明光学系の焦点は固定されている。このため、光学系を簡素に小型化でき、また省低コスト化を図ることができる。また、小型にできるので、手術用顕微鏡やスリットランプに容易に装着することができる。
【0011】
(照明光学系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系を備えている。以下、照明光学系について説明する。他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼150の眼底に照射する測定光を発光する光源101を備えている。光源101は、波長830nmの赤外光を発光するレーザーダイオードである。符号102は、光源101からの光束を整えるレンズ系である。なお、レンズ系102は、簡略化された記載となっているが、実際は複数のレンズを組み合わせた光学系とされている。これは、後述する他のレンズ系においても同様である。
【0012】
光源101からの照明光は、偏光ビームスプリッタ104、光学絞り105、レンズ系106を介して、ダイクロイックミラー107で図の上方向に反射される。ダイクロイックミラー107は、波長830nmの光を反射し、波長940nmの光を透過する設定とされている。ダイクロイックミラー107で図の上方向に反射された照明光は、対物レンズ108を介して、ダイクロイックミラー109で図の左方向(被検眼150の方向)に反射される。ダイクロイックミラー109は、被検者の視線眼の方向が開放された構造を有しており、波長が略800nmより短い領域の可視光を透過し、波長800nmを超える赤外光を反射する設定とされている。ダイクロイックミラー109で図の左方向に反射された照明光は、被検眼150の眼底に照射される。以上が照明光学系である。
【0013】
照明光学系は、以下の条件を満たすように設計されている。まず、光源101の位置を−3Dないし−13Dのところに持ってくることでビームウエスト位置を像面位置(0.0D)に合わせている。以下、この数値限定の意味について説明する。まず、
図3は、光源の位置(D値)(横軸)と像面からビームウエストまでの距離(縦軸)との関係を示すグラフである。
図4は、ガウスビームを説明する概念図である。
図5は、照明光のビームの断面を撮影した写真である。
図6は、D値と被検眼との関係を示す概念図である。
【0014】
ここで求められるのは、
図6の(B)の位置を中心した前後の範囲において、照明光のビーム径が小さく(無用に広がらず)、且つ、その大きさの変化を小さくできることである。すなわち、被検眼の視度が異なると、被検眼内部の屈折の状態がそれに応じて違うものとなるので、被検眼内部における照明光のビームの状態もその影響を受け、ビームウエスト(ビームが最も絞られた部分)の位置も変化する。しかしながら、
図6の(B)の位置を中心とした前後の範囲にビームウエストの位置が変化しても、ビームウエスト部分のビーム断面形状の変化が小さければ、視度の違いによる悪影響を抑えることができる。見方を変えると、視度補正機構を省略しても、それによるデメリットを抑えることができる。
【0015】
ところで、像面に照射光の焦点(ビームウエストの位置)を極力合わせることが好ましが、この観点から
図3を見ると、光源101の位置は、D値で考えて−13程度以上が適当であることが分かる(−13Dを下回ると、急激に像面からビームウエストの位置が離れる)。他方において、
図4のモデルから、ビームの広がりを考えると、W
0が小さいことが望ましいが、W
0が小さくなると広がり角が大きくなり、そのため適当なW
0の値が必要とされる。ここで、
図6のモデルから明らかように、0Dに近づくと、W
0の値が小さくなり、ビームの広がり角が大きくなる。したがって、D値で捉えた光源の位置を0Dにあまり近づけることは適切でない。そこで、D値で捉えた光源の位置の上限は−3D程度とすることが適切とされる。
【0016】
このことは、
図5から読み取ることができる。
図5には、
図6の3箇所の光軸上の(A)、(B)、(C)位置(
図5の横方向)とD値で捉えた光源の位置(
図5の縦方向)との関係を変化させた場合における照明光のビームの断面写真が示されている。
図5の縦方向の断面写真から明らかなように、光源の位置が−5Dより小さいと、ビームの断面形状の歪みは小さいが、光源の位置が−5Dになると、ビームの断面形状に歪みが見られ始め、0Dになるとそれが顕在化する。これは、上述した
図4のモデルにおけるW
0が小さくなることにより、ビームの広がり角が大きくなり、光学系の収差の影響が顕在化するからである。ビーム断面形状の歪みは、観察される情報の誤差を増大させるので、なるべく小さいことが望まれる。このことから、D値で捉えた光源の位置の上限は−3D程度であることが結論される。
【0017】
また、射出瞳位置が、像面位置の遠方(眼底の後ろの方向)200mm〜300mmとなるように、光学絞り105の位置が調整されている。こうすることで、被検眼の視度の変化(違い)があっても、被検眼の瞳入射径が最適な(小さくて円形の)値から大きく外れないようにできる。なお、射出瞳位置と像面位置との距離は、250mm程度が最適であるが、200mm〜300mmの範囲から選択することができる。
【0018】
もちろん、上述した各パラメータの設定は、レンズ系をも考慮にいれた上で設定されている。なお、
図1には、射出瞳の説明線と照明光の光束が誇張して示されており、
図2および
図1中の光学絞り105の絞り径と整合していない。
【0019】
本実施形態の照明光学系は、上述したように、
図6の(B)の位置の前後の範囲において、照明光のビーム径を小さく(無用に広がらないように)でき、且つ、その大きさの変化を抑えることができる。このため、視度補正機構を省略でき、光学系の簡素化、装置全体の小型化および低コスト化を追求することができる。また、光源を−3Dから−13Dの
間に配置し、射出瞳位置を、像面位置の遠方に配置したことから、装置本体から被検眼までの距離である作動距離を可変にすることができる。
【0020】
(波面測定系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼の眼底から反射された反射光束を複数の光束に分割するハルトマン板およびこのハルトマン板で分割された分割光束を受光する第1の受光部を有する波面測定系を備えている。以下、波面測定系について説明する。被検眼150の眼底で反射された光源101からの照明光(以下、眼底反射光)は、ダイクロイックミラー109で図の下方向に反射され、対物レンズ108を通った後、ダイクロイックミラー107で図の右方向(レンズ系106の方向)に反射される。レンズ系106を図の左方向から右方向に通過した眼底反射光は、偏光ビームスプリッタ104で分離され、その一部の偏光成分(主に眼底で偏波面が回転した偏光成分)が、レンズ系120の方向に反射される。偏光ビームスプリッタ104からレンズ系120の方向に反射された眼底反射光の光束は、ハルトマン板121で複数の光束に分割され、受光部122で受光される。ここで、ハルトマン板121は、被検眼150の瞳と共役な関係にあり、受光部122は、CMOSイメージセンサにより構成されている。受光部122により、被検眼150からの反射光の波面情報が光学的に検出される。この波面情報には、眼の屈折特性に係る情報が含まれており、例えば、眼球内部の検査や屈折矯正手術に利用される。ここで、対物レンズ108は、後述するように、前眼部観察系と共有されている。
【0021】
(前眼部照明系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼の前眼部を照明する前眼部照明系を備えている。以下、前眼部照明系について説明する。他覚的屈折波面収差測定装置100は、前眼部照明系を構成する光源112を有している。光源112は、波長940nmの赤外光を発光するLEDである。光源112は、
図1では明らかでないが、ダイクロイックミラー109の下方の両側(左右)の2箇所に配置されており、ダイクロイックミラー109に照明光を照射し、そこで反射された光(赤外光)が被検眼150に対して照射される構成とされている。
【0022】
(前眼部観察系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、前眼部照明系で照明された被検眼の前眼部から反射された光を受光する受光部を有する前眼部観察系を備えていえる。以下、前眼部観察系について説明する。光源112からダイクロイックミラー109を介して、被検眼150に対して照射された照明光に含まれる波長940nm付近の光は、被検眼150の前眼部で反射され(以下、この反射光を前眼部反射光という)、ダイクロイックミラー109で
図1の下方向に反射される。この波長940nmの光を含む前眼部反射光は、対物レンズ108を通り、更にダイクロイックミラー107を透過し、レンズ系113に至る。そして、レンズ系113を通過した前眼部反射光は、受光部114で受光される。受光部114はCCDセンサであり、波長940nmの前眼部反射光に基づく画像データ(つまり、前眼部の画像データ)を検出する。なお、被検眼150からの可視帯域の反射光は、ダイクロイックミラー109を図の右方向に透過し、他覚的屈折波面収差測定装置100の外部に抜ける。
【0023】
(画像データ出力系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、前眼部観察系で得られた前眼部像の画像データを出力する画像データ出力部115を備えている。画像データ出力部115は、受光部114において得られる前眼部の画像データを出力する機能に加えて、前眼部の画像に受光部122において得られる波面収差の情報を統合した画像データを合成し、それを出力する機能を有する。例えば、前眼部の画像中に眼底からの反射光の波面情報を視覚的に埋め込み、波面情報が色彩情報として表示された画像データを生成し、それを出力する。この場合、部分的な色彩の違いにより、波面収差の様子が視覚的に把握できる前眼像を得ることができる。よって厳密な瞳孔中心を波面収差表示の原点とすることができる。また、他覚的屈折波面収差測定装置100は、角膜形状測定用部材であるプラチド板(図示省略)を取り付けることで角膜形状を測定することができるが、画像データ出力部115は、測定した角膜形状データと波面情報とを連動して出力する機能を有する。このように、前眼部像の画像データや角膜形状データや波面収差情報などを組み合わせて表示することで、様々な診断が可能となる。プラチドリング板は導光板になっており、プラチド板の周辺部の設けられた複数(たとえば36個)のLED光源の光がプラチド内を伝播し、プラチドリング部分で光が眼の方向に拡散しやすいように、その部分が拡散加工されている。また、画像データ出力部115は、ダイクロイックミラー109を回転させた場合や他覚的屈折波面収差測定装置100を傾けた場合に、その影響を取り込んだ上で、波面測定系が測定した波面データの座標軸を変更し、適切な波面データが得られるようにデータの変換を行う。
【0024】
(ダイクロイックミラー回転制御・検知系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、ダイクロイックミラー109の回転を制御・検知するダイクロイックミラー回転制御・検知部116を備えている。ダイクロイックミラー109は、被検眼150に向かう方向を中心として、左右に振ることができる構造とされている。この駆動は、
図1では図示されていない駆動モータおよびギア機構により行われる。ダイクロイックミラー回転制御・検知部116は、この駆動モータの制御を行う。なお、ダイクロイックミラー109の回転角は、図示しないロータリーエンコーダにより検出され、その情報は、ダイクロイックミラー回転制御・検知部116にフィードバックされる。また、この回転角度情報は、画像データ出力部115に送られる。なお、ダイクロイックミラー109の回転を手動で行う構造も可能である。
【0025】
(他覚的屈折波面収差測定装置の傾斜角検出系)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、傾斜角検出部117を備えている。後述するように、他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼の斜め下方に配置され、被検眼の斜め下方から測定を行うことができる構成とされている。この際、正面からの測定でないので、適切な波面情報を得るには、傾いた角度(仰角)に基づいて、波面情報の座標系を変換する必要がある。傾斜角検出部117は、他覚的屈折波面収差測定装置100の傾斜角を検出する傾斜角センサを備え、その出力に基づき、傾斜角の情報を画像データ出力部115に出力する。画像データ出力部115は、この傾斜角の情報に基づき、波面測定系が検出した波面情報の座標系を変換し、傾いた位置から測定した際の誤差を補正した波面データを生成する。
【0026】
(優位性、その他)
他覚的屈折波面収差測定装置100は、手術用顕微鏡やスリットランプなどに装着することもできる。また、他覚的屈折波面収差測定装置100は、被検眼からの波面収差の検出に加えて、前眼部像を観察できるので、以下の優位性が得られる。
(1)他覚的屈折波面収差測定装置の位置合わせが簡単に行える。
(2)眼球運動を波面データにフィードバックさせることができる(画像処理によって)。
(3)眼球運動に合わせて他覚的屈折波面収差測定装置を回転させることができる。
(4)前眼部像をガイド画像として利用することで、視野を確認できない装置とも組み合わせが可能となる。
(5)他の装置と組み合わせる際の組み合わせ位置の自由度が高い。
(6)プラチド板を付加することで角膜形状の測定も可能となる。
また、多角的屈折波面収差測定装置を取り付けるための取付けアームを回動可能に構成することで、軸外収差測定を可能とすることができる。また、仰角(あおり角)を付けた状態での使用が可能であるので、様々なあおり角で波面を測定することにより、累進レンズの評価をすることができる。また、レフラクトメータやハンドヘルド、ヘッドマウントとも組み合わせが可能となる。また、一体化されたユニット構造であるので、子供の測定を行う際に有効な、ハンドヘルド構造や、出来上がった眼鏡を装着して行動し、その行動時の波面を測定することで眼鏡の評価を行うことができるヘッドマウント構造が可能となる。また、小型軽量であるため、とりまわしが容易で、スリットランプステージに単体で装着することで、水平方向に軸外(40度程度まで)の屈折や収差、垂直方向のこれらの軸外量も容易に測定できる(近視の予防で重要)。