(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1化成処理では、前記アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が30℃〜80℃であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
前記第1化成処理では、前記アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%〜1.3重量%であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
前記熱デポラリゼーション処理における処理温度が450℃〜550℃であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の多孔性アルミニウム電極を用いた場合に、化成をアジピン酸アンモニウム水溶液中で行うと、熱デポラリゼーション処理を行った際に、多孔性アルミニウム電極に付着していたアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発し、多孔質層が破壊してしまうという問題が発生する。
【0006】
かかる原因について鋭意検討した結果、本願発明者は以下の新たな知見を得た。まず、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層では空隙が深くまで複雑に入り組んでいるので、その分、高い静電容量が得られる一方、化成時に溶出したアルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出した際に、多孔質層の空隙内にアジピン酸アンモニウム水溶液が閉じ込められやすい。それ故、熱デポラリゼーション処理を行った際に、空隙に閉じ込められていたアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発し、多孔質層が破壊してしまうのである。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、多孔性アルミニウム電極に対する化成にアジピン酸アンモニウム水溶液を用いた場合でも、熱デポラリゼーション処理の際に多孔質層が破壊されることを防止することができるアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、アルミニウム電極を純水中でボイルする純水ボイル工程と、該純水ボイル工程の後、前記アルミニウム電極に皮膜耐電圧が200V以上となる
化成電圧まで化成する化成工程と、を有するアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法であって、前記アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層された多孔性アルミニウム電極であり、前記化成工程では、少なくとも、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で
定電流化成を行う第1化成処理と、該第1化成処理の後、
無機酸系化成液中で前記化成電圧を印加する定電圧化成を行う第2化成処理と、を行い、
前記第1化成処理の途中に、リン酸イオン水溶液に前記アルミニウム電極を浸漬する中間処理を行い、前記第2化成処理の途中に、前記アルミニウム電極を加熱する
最初の熱デポラリゼーション処理
を行うとともに、当該熱デポラリゼーション処理の前に前記多孔性アルミニウム電極に5分間以上の水洗浄処理を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明では、アルミニウム電極を純水中でボイルした後、化成処理を行うため、少ない電気量で十分に厚い酸化皮膜を形成することができ、これにより、皮膜耐電圧の高いアルミニウム電極を得ることができる。また、アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層された多孔性アルミニウム電極であるため、塩酸等を用いたエッチング処理を行う必要がないとともに、エッチング処理を行ったアルミニウム電極に比して高い静電容量を得ることができる。また、化成工程ではアジピン酸アンモニウム水溶液中での第1化成処理を行った後、硼酸系やリン酸系等の無機系化成液中での第2化成処理を行うので、高い静電容量を得ることができるとともに、漏れ電流を低減することができる。また、第1化成処理では、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成を行うため、化成時のアルミニウムイオンの溶出を低く抑えることができる。このため、アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出することによって多孔質層の空隙内にアジピン酸アンモニウム水溶液が閉じ込められるという事態が発生しにくい。また、第1化成処理を行った後、アルミニウム電極を加熱する熱デポラリゼーション処理を最初に行う際には、熱デポラリゼーション処理の前にアルミニウム電極に5分間以上の水洗浄処理を行うため、空隙からアジピン酸アンモニウム水溶液を確実に洗い出すことができる。それ故、熱デポラリゼーション処理の際、多孔質層の空隙内でアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発することを防止することができるので、多孔質層が破壊されることを防止することができる。
また、第1化成処理の途中に、リン酸水溶液にアルミニウム電極を浸漬する中間処理を行うため、第1化成処理の途中で、多孔質層の空隙を塞ぐような水酸化アルミニウムを除去することができる。従って、熱デポラリゼーション処理の際、多孔質層の空隙内でアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発することを
防止することができる。
【0010】
本発明は、前記多孔質層の厚さが150μm〜3000μmである場合に適用すると特に効果的である。多孔質層が厚い程、高い静電容量が得られる一方、多孔質層の空隙内にアジピン酸アンモニウム水溶液が閉じ込められるという事態が発生しやすいが、本発明によれば、多孔質層の厚さが150μm以上であっても、熱デポラリゼーション処理の際には、多孔質層の空隙内にアジピン酸アンモニウムが残存しにくい。それ故、空隙内のアジピン酸が燃焼して爆発することを防止することができるので、多孔質層が破壊されることを防止することができる。
【0011】
本発明において、前記第1化成処理では、前記アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が30℃〜80℃であることが好ましい。アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が30℃以上であれば、高い静電容量を得ることができる。
【0012】
本発明において、前記第1化成処理では、前記アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%〜1.3重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記多孔質層は、平均粒径が1μm〜5μmのアルミニウム粉体を焼結してなることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記熱デポラリゼーション処理における処理温度が450℃〜550℃であることが好ましい。処理温度が450℃未満では、熱デポラリゼーションの効果が不十分であるため、漏れ電流を十分に低減することができない一方、550℃を超えると、皮膜成長が起こり、静電容量が低下する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、アルミニウム電極を純水中でボイルした後、化成処理を行うため、少ない電気量で十分に厚い酸化皮膜を形成することができる。また、アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層された多孔性アルミニウム電極であるため、塩酸等を用いたエッチング処理を行う必要がないとともに、エッチング処理を行ったアルミニウム電極に比して高い静電容量を得ることができる。また、化成工程ではアジピン酸アンモニウム水溶液中での第1化成処理を行った後、硼酸系やリン酸系等の無機系化成液中での第2化成処理を行うので、高い静電容量を得ることができるとともに、漏れ電流を低減することができる。また、第1化成処理では、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成を行うため、化成時のアルミニウムイオンの溶出を低く抑えることができる。このため、アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出することによって多孔質層の空隙内にアジピン酸アンモニウム水溶液を閉じ込められるという事態が発生しにくい。また、第1化成処理を行った後、アルミニウム電極を加熱する熱デポラリゼーション処理を最初に行う際には、熱デポラリゼーション処理の前にアルミニウム電極に5分間以上の水洗浄処理を行うため、空隙からアジピン酸アンモニウム水溶液を確実に洗い出すことができる。それ故、熱デポラリゼーション処理の際、多孔質層の空隙内でアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発することを防止することができるので、多孔質層が破壊されることを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、アルミニウム電解コンデンサ用電極を製造するにあたって、アルミニウムエッチング箔に代えて、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層された多孔性アルミニウム電極を用い、かかる多孔性アルミニウム電極に化成を行う。以下、多孔性アルミニウム電極の構成を説明した後、化成方法を説明する。
【0019】
(多孔性アルミニウム電極の構成)
図1は、本発明を適用した多孔性アルミニウム電極の断面構造を示す説明図であり、
図1(a)、(b)は、多孔性アルミニウム電極の断面を電子顕微鏡により120倍に拡大して撮影した写真、および多孔性アルミニウム電極の芯金付近を電子顕微鏡により600倍に拡大して撮影した写真である。
図2は、本発明を適用した多孔性アルミニウム電極の詳細構造を示す説明図であり、
図2(a)、(b)は、多孔性アルミニウム電極の表面を電子顕微鏡により拡大して撮影した写真、および多孔性アルミニウム電極を化成してなるアルミニウム電解コンデンサ用電極の断面を電子顕微鏡により3000倍に拡大して撮影した写真である。なお、
図2(a)には、多孔性アルミニウム電極の表面を1000倍で拡大した写真と、3000倍で拡大した写真とを示してある。
【0020】
図1および
図2に示す多孔性アルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20と、アルミニウム芯材20の表面に積層された多孔質層30とを有しており、多孔質層30は、アルミニウム粉体を焼結してなる層である。本形態において、多孔性アルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20の両面に多孔質層30を有している。
【0021】
本形態において、アルミニウム芯材20は、厚さが10μm〜50μmである。
図1には、厚さが約30μmのアルミニウム芯材20を用いた多孔性アルミニウム電極10が示されている。多孔質層30の厚さは、例えば、150μm〜3000μmであり、
図1には、厚さが30μmのアルミニウム芯材20の両面に、厚さが約350μmの多孔質層30が形成された多孔性アルミニウム電極10が示されている。多孔質層30の厚さは、厚い程、静電容量が増大するので、厚い方が好ましいが、厚さが3000μmを超えると、多孔質層30の空隙35の深部まで化成を行いにくくなることから、多孔質層30の厚さは3000μm以下であることが好ましい。
【0022】
アルミニウム芯材20は、鉄含有量が1000重量ppm未満である。また、多孔質層30は、鉄含有量が1000重量ppm未満のアルミニウム粉体を焼結してなる層であり、アルミニウム粉体は、互いに空隙35を維持しながら焼結されている。
【0023】
本形態において、アルミニウム粉体の形状は、特に限定されず、略球状、不定形状、鱗片状、短繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、アルミニウム粉体間の空隙を維持するために、略球状粒子からなる粉体が好ましい。本形態におけるアルミニウム粉体の平均粒径は1μm〜10μmである。このため、表面積を効果的に拡大することができる。より具体的には、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、アルミニウム粉体間の間隙が狭すぎて電極等として機能しない無効部分が増大する一方、アルミニウム粉体の平均粒径が10μmを超えると、アルミニウム粉体間の間隙が広すぎて表面積の拡大が不十分である。すなわち、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、皮膜耐電圧が200V以上の化成皮膜を形成した際、アルミニウム粉体間の空隙35が埋没し静電容量が低下する。一方、平均粒径が10μmを超えると空隙35が大きくなりすぎ、静電容量の大幅な向上が望めない。従って、皮膜耐電圧が200V以上の厚い化成皮膜を形成した場合に高い容量を得るという観点からすれば、多孔質層30に用いたアルミニウム粉体の平均粒径は1μm〜10μmが好ましく、かかる構成によれば、従来のエッチング箔と同等、またはそれ以上の静電容量を得ることができる。また、多孔質層30に用いたアルミニウム粉体の平均粒径が1μm〜5μmであれば、より確実に高い静電容量を得ることができ、アルミニウム粉体の平均粒径が2μm〜5μmであれば、さらに高い静電容量を得ることができる。
【0024】
本形態においては、アルミニウム芯材20の鉄含有量、および多孔質層30に用いたアルミニウム粉体の鉄含有量が1000重量ppm未満であるため、多孔質層30に化成を行った際、良質な化成皮膜を形成することができる。すなわち、鉄含有量が1000重量ppm以上であると、化成皮膜中に残存する粗大なAl-Fe系金属間化合物が起点となって漏れ電流値が大となるが、鉄含有量が1000重量ppm未満であれば、かかる漏れ電流値の増大が発生しない。
【0025】
本形態において、多孔性アルミニウム電極10をアルミニウム電解コンデンサの陽極として用いる際、
図2(b)に陽極(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)を示すように、多孔質層30には化成皮膜31が形成される。その際、アルミニウム芯材20において、多孔質層30から露出している部分がある場合、アルミニウム芯材20にも化成皮膜31が形成される。なお、本形態においては、化成皮膜31を形成する際、多孔性アルミニウム電極10に純水ボイルを行った後、化成を行ったため、
図2(b)において、多孔質層30の表面に形成された膜の一部が化成皮膜31である。
【0026】
(多孔性アルミニウム電極10の製造方法)
本発明を適用した多孔性アルミニウム電極10の製造方法は、まず、第1工程で、厚さが10〜50μmで、鉄含有量が1000重量ppm未満のアルミニウム芯材20の表面に、鉄含有量が1000重量ppm未満のアルミニウム粉体を含む組成物からなる皮膜を形成する。ここで、アルミニウム芯材20およびアルミニウム粉体は、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素の1種又は2種以上を含んでいてもよい。但し、その場合、これらの元素の含有量は、それぞれ100重量ppm以下、特に50重量ppm以下であることが好ましい。アルミニウム粉体は、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、その他の急冷凝固法等により製造されたものである。これらの方法のうち、工業的生産にはアトマイズ法、特にガスアトマイズ法が好ましく、アトマイズ法では、溶湯をアトマイズすることにより粉体を得る。
【0027】
前記組成物は、必要に応じて樹脂バインダ、溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていても良い。これらはいずれも公知または市販のものを使用することができる。本形態では、樹脂バインダおよび溶剤の少なくとも1種を含有させてペースト状組成物として用いることが好ましい。これにより効率よく皮膜を形成することができる。樹脂バインダとしては、例えばカルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、ニトロセルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂またはワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂、またはワックスが好適に使用できる。これらのバインダは、それぞれ分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、静電特性等の要求に応じて使い分けすることができる。前記組成物を調製する際、溶媒を添加するが、かかる溶媒としては、水、エタノール、トルエン、ケトン類、エステル類等を単独あるいは混合して用いることができる。
【0028】
また、前記皮膜の形成は、組成物の性状等に応じて公知の方法から適宜採択することができる。例えば、組成物が粉末(固体)である場合は、その圧粉体を基材上に形成(または熱圧着)すれば良い。この場合は、圧粉体を焼結することにより固化するとともに、アルミニウム芯材20上にアルミニウム粉末を固着させることができる。また、液状(ペースト状)である場合は、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法により形成できるほか、公知の印刷方法により形成することもできる。なお、皮膜は、必要に応じて、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させても良い。
【0029】
なお、アルミニウム芯材20については、皮膜の形成に先立って、アルミニウム芯材20の表面を粗面化する工程を行ってもよい。かかる粗面化方法としては、例えば、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0030】
次に、第2工程においては、皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する。焼結時間は、焼結温度等により異なるが、通常は5〜24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであっても良いが、特に、真空雰囲気または還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧または加圧のいずれでも良い。なお、組成物中(皮膜中)に樹脂バインダ等の有機成分が含有している場合は、第1工程後、第2工程に先立って予め100℃以上から600℃以下の温度範囲で保持時間が5時間以上の加熱処理(脱脂処理)を行なうことが好ましい。その際の加熱処理雰囲気は特に限定されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気または酸化性ガス雰囲気中のいずれでも良い。また、圧力条件も、常圧、減圧または加圧のいずれでも良い。
【0031】
本形態の化成済みの多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みの多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後には、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合、化成済みの多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。
【0032】
また、多孔性アルミニウム電極10としては、棒状のアルミニウム芯材20の表面に多孔質層30が積層された構造が採用される場合もある。かかる多孔性アルミニウム電極10を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みの多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)からなる陽極の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。
【0033】
(化成方法)
図3は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極1の製造方法(化成方法)を示す説明図である。
【0034】
図3に示すように、本形態のアルミニウム電解コンデンサ用電極1の製造方法では、多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電極)を純水中でボイルする純水ボイル工程ST11を行った後、多孔性アルミニウム電極10に皮膜耐電圧が200V以上となるまで化成する化成工程ST12を行い、その後、乾燥工程ST13を行う。ここで、化成工程ST12では、少なくとも、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成を行う第1化成処理ST31と、第1化成処理ST31の後、硼酸系やリン酸系等の無機酸系化成液中で化成を行う第2化成処理ST41、ST42、ST43、ST44、ST45とを行う。その間に多孔性アルミニウム電極10を加熱する熱デポラリゼーション処理ST51、ST52や、リン酸イオンを含む水溶液等に多孔性アルミニウム電極10を浸漬する液中デポラリゼーション処理ST61、ST62を行う。ここで、デポラリゼーション処理については、熱デポラリゼーション処理ST51、ST52と、液中デポラリゼーション処理ST61、ST62とを組み合わせて行うが、いずれの組み合わせの場合も、最後のデポラリゼーション処理については熱デポラリゼーション処理とすることが好ましい。
【0035】
本形態では、熱デポラリゼーション処理ST51、ST52のうち、最初に行う熱デポラリゼーション処理ST51の前には、多孔性アルミニウム電極10に対して5分間以上の水洗浄処理ST10を行う。
【0036】
上記の化成方法を、
図3を参照して詳述する。まず、純水ボイル工程ST11では、多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電極)を純水中で3分から10分ボイルし、多孔性アルミニウム電極10にベーマイト等のアルミニウム水和物を形成する。
【0037】
次に、多孔性アルミニウム電極10に皮膜耐電圧が200V以上となるまで化成する化成工程ST12を行う。かかる化成工程ST12において、本形態では、まず、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成電圧Vfまで定電流化成を行う(第1化成処理ST31)。本形態において、第1化成処理ST31では、アジピン酸アンモニウム水溶液の温度は30℃〜80℃であり、アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%〜1.3重量%である。
【0038】
第1化成処理ST31での定電流化成で電源電圧が化成電圧Vfに到達した後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、第2化成処理ST41において、硼酸系の化成液中で定電圧化成を行う。その際、電源電圧を化成電圧Vfに保持する。本形態において、第2化成処理ST41、および後述する第2化成処理ST42、ST43、ST44、ST45では、化成液として、8重量%〜10重量%のホウ酸と1%重量程度のホウ酸アンモニウムの水溶液が用いられ、化成液の温度は85℃〜95℃である。
【0039】
第2化成処理ST41を所定時間行った後は、多孔性アルミニウム電極10に対して5分間以上の水洗浄処理ST10を行う。本形態では、水洗浄処理ST10として、浸漬洗浄、流水洗浄、シャワー洗浄、それらを組み合わせた洗浄方法を採用することができる。なお、洗浄時間の上限は特には無いが、次の熱デポラリゼーション処理ST51を行った際、焦げたような臭いが発生しない時間、例えば、10分以内であれば十分である。
【0040】
次に、多孔性アルミニウム電極10を加熱する熱デポラリゼーション処理ST51を行う。その際の処理温度は450℃〜550℃であり、処理時間は2分〜10分である。
【0041】
次に、再び、硼酸系の化成液中で定電圧化成を行う(第2化成処理ST42)。その際、電源電圧を化成電圧Vfに保持する。
【0042】
第2化成処理ST42を所定時間行った後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、液中デポラリゼーション処理ST61において、多孔性アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に浸漬する。かかる液中デポラリゼーション処理ST61では、多孔性アルミニウム電極10には電圧を印加しない。本形態では、液中デポラリゼーション処理ST61、および後述する液中デポラリゼーション処理ST62では、20重量%〜30重量%リン酸の水溶液を用い、液温度を60℃〜70℃とする。浸漬時間は皮膜耐電圧に応じて5分〜15分とする。
【0043】
液中デポラリゼーション処理ST61を所定時間行った後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、再び、硼酸系の化成液中で定電圧化成を行う(第2化成処理ST43)。その際、電源電圧を化成電圧Vfに保持する。
【0044】
第2化成処理ST43を所定時間行った後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、再び、多孔性アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に浸漬する(液中デポラリゼーション処理ST62)。その際、多孔性アルミニウム電極10には電圧を印加しない。
【0045】
液中デポラリゼーション処理ST62を所定時間行った後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、再び、硼酸系の化成液中で定電圧化成を行う(第2化成処理ST44)。その際、電源電圧を化成電圧Vfに保持する。
【0046】
第2化成処理ST44を所定時間行った後は、必要に応じて多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、再び、多孔性アルミニウム電極10を加熱する熱デポラリゼーション処理ST52を行う。その際の処理温度は450℃〜550℃であり、処理時間は3分〜15分である。
【0047】
次に、再び、硼酸系の化成液中で定電圧化成を行う(第2化成処理ST45)。その際、電源電圧を化成電圧Vfに保持する。
【0048】
第2化成処理ST45を所定時間行った後は、多孔性アルミニウム電極10に水洗浄を行い、その後、乾燥工程ST13を行う。なお、多孔性アルミニウム電極10の水洗浄に代えて、あるいは多孔性アルミニウム電極10の水洗浄の後に、多孔性アルミニウム電極10をリン酸水溶液に浸漬し、その後、乾燥工程ST13を行ってもよい。かかる工程によれば、アルミニウム電解コンデンサ用電極1の耐水性を向上することができる。
【0049】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、多孔性アルミニウム電極10を純水中でボイルした後、化成処理を行うため、少ない電気量で十分に厚い酸化皮膜を形成することができ、これにより、皮膜耐電圧の高いアルミニウム電極を得ることができる。また、アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層30がアルミニウム芯材20の表面に積層された多孔性アルミニウム電極10であるため、塩酸等を用いたエッチング処理を行う必要がない。また、多孔性アルミニウム電極10では空隙35が深くまで複雑に入り組んでいるので、エッチング処理を行ったアルミニウム電極に比して高い静電容量を得ることができる。
【0050】
また、化成工程ST12ではアジピン酸アンモニウム水溶液中での第1化成処理ST31を行うため、化成皮膜31の結晶性が高い。このため、高い静電容量を得ることができる。また、アジピン酸アンモニウム水溶液中での第1化成処理ST31の後、硼酸系等の無機酸系化成液中で第2化成処理ST41、ST42、ST43、ST44、ST45を行うので、漏れ電流が低く、かつ、目詰まりに起因する静電容量の低下等を防止することができる。すなわち、全化成工程をアジピン酸アンモニウム水溶液中で行うと、空隙35の目詰まり等が起こり、静電容量の低下や漏れ電流の増大が発生するが、本形態では、アジピン酸アンモニウム水溶液中での第1化成処理ST31を途中まで行い、その後、硼酸系の水溶液中で第2化成処理ST41、ST42、ST43、ST44、ST45を行う。このため、空隙35の目詰まり等に起因する静電容量の低下や漏れ電流の増大の発生を防止することができる。
【0051】
また、第1化成処理ST31では、液温が80℃以下のアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成を行うため、化成時のアルミニウムイオンの溶出を低く抑えることができる。このため、アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出することによって多孔質層30の空隙35内にアジピン酸アンモニウム水溶液が閉じ込められるという事態が発生しにくい。また、第1化成処理ST31を行った後、多孔性アルミニウム電極10を最初に加熱する熱デポラリゼーション処理ST51を行う際には、熱デポラリゼーション処理ST51の前に多孔性アルミニウム電極10に5分間以上の水洗浄処理を行うため、多孔質層30の空隙35からアジピン酸アンモニウム水溶液を確実に洗い出すことができる。それ故、熱デポラリゼーション処理ST51の際、多孔質層30の空隙35内でアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発することを防止することができるので、多孔質層30が破壊されることを防止することができる。
【0052】
また、第1化成処理ST31において、アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が30℃未満であると、化成皮膜31の結晶性が低下するが、本形態では、アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が30℃以上であるため、化成皮膜31の結晶性が高い。従って、高い静電容量を得ることができる。なお、アジピン酸アンモニウム水溶液の温度が40℃以上である場合には、化成皮膜31の結晶性がさらに高まるので、アジピン酸アンモニウム水溶液の温度は、40℃以上、かつ、80℃以下が好ましい。
【0053】
また、本形態において、第1化成処理ST31では、アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%〜1.3重量%である。アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%未満であると、化成液の比抵抗が高いため、空隙35の深くまで緻密な化成皮膜が形成されずに漏れ電流が大きくなるが、本形態では、アジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%以上であるため、漏れ電流が小さい。また、アジピン酸アンモニウム水溶液におけるアジピン酸アンモニウムの濃度が1.3重量%を超えると、放電電圧が低くなる傾向にあるが、本形態では、アジピン酸アンモニウムの濃度が1.3重量%以下であるため、高い化成電圧にも対応することができる。
【0054】
また、本形態では、多孔質層30の厚さが150μm〜3000μmである場合に本発明を適用しているため、効果が顕著である。すなわち、多孔質層30が厚い程、多孔質層30の空隙35内にアジピン酸アンモニウム水溶液が閉じ込められるという事態が発生しやすいが、本形態によれば、多孔質層30の厚さが150μm以上であっても、熱デポラリゼーション処理の際には、多孔質層30の空隙35内にアジピン酸が残存しにくい。それ故、多孔質層30の厚さを150μm以上にして、エッチング箔を用いた場合に比して3倍以上にまで静電容量を高めても、空隙35内のアジピン酸が燃焼して爆発することを防止することができる。それ故、多孔質層30が破壊されることを防止することができる。
【0055】
(他の実施の形態)
上記実施の形態では、第1化成処理ST31を連続して行ったが、アルミニウム多孔質層30の厚さが250μm以上の場合、第1化成処理ST31の途中で、リン酸イオン水溶液に多孔性アルミニウム電極10を浸漬する中間処理を行い、その後、第1化成処理ST31を再開することが好ましい。かかる構成によれば、第1化成処理ST31の途中で、多孔質層30の空隙35を塞ぐような水酸化アルミニウムを除去することができるので、熱デポラリゼーション処理ST51の際、多孔質層30の空隙35内でアジピン酸アンモニウムが燃焼して爆発することを防止することができる。かかる中間処理に用いるリン酸水溶液は、例えば、リン酸濃度が10重量%〜20重量%を用いることができ、その際の液温度は50℃〜60℃であり、処理時間は、アルミニウム多孔質層30の厚さに応じて5分〜15分である。また、中間処理の回数はアルミニウム多孔質層30の厚さが250μm以上の場合、1回で十分であるが、アルミニウム多孔質層30の厚さ1000μm以上の場合には2回以上行うことが好ましい。
【0056】
(実施例)
次に、本発明の実施例を説明する。まず、表1に示す各種の多孔性アルミニウム電極10、および表2に示す化成液を準備し、多孔性アルミニウム電極10を表3に示す条件で化成を行ってアルミニウム電解コンデンサ用電極1を作製した。また、表3に示す条件で化成を行った多孔性アルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極1)に対して、皮膜耐電圧、静電容量(CV積値)、漏れ電流、漏れ電流/静電容量を測定し、それらの結果を表4に示す。なお、化成電圧は300Vであり、皮膜耐圧や静電容量の測定は、JEITA規格に準じる形で行った。また、アルミニウム粉体の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定した。
表3および表4には、実施例1〜実施例14が記載されているが、これらの実施例のうち、中間処理を行った実施例4、14が本発明を適用した製造方法に相当し、中間処理を行わない実施例1〜3、5〜13は本発明の参考例に係る製造方法に相当する。
【0061】
表4から分かるように、熱デポラリゼーション処理ST10の前に行う水洗浄処理ST10の時間が5分未満(2分)である比較例1では、他の条件が適正であっても、熱デポラリゼーション処理ST10の際に多孔質層30の空隙35内のアジピン酸が燃焼して爆発し、多孔質層30が損傷した。
【0062】
また、第1化成処理ST30の際のアジピン酸アンモニウム水溶液(化成液)の温度が80℃を超える温度(90℃)である比較例2では、他の条件が適正であっても、熱デポラリゼーション処理ST10の際に多孔質層30の空隙35内のアジピン酸が燃焼して爆発し、多孔質層30が損傷した。
【0063】
これに対して、水洗浄処理ST10の時間が5分以上、かつ、第1化成処理ST30の際のアジピン酸アンモニウム水溶液(化成液)の温度が80℃以下である実施例1〜14では、熱デポラリゼーション処理ST10の際に多孔質層30の空隙35内のアジピン酸が燃焼して爆発するという不具合が発生しなかった。
【0064】
また、実施例1〜14の中でも、多孔質層30を形成するのに用いたアルミニウム粉体の平均粒径が2μm〜5μmである実施例1〜7、10〜13は、平均粒径が2μm〜5μmの範囲から外れた実施例8、9に比して容量が高い。
【0065】
また、実施例1〜14の中でも、多孔質層30を形成するのに用いたアジピン酸アンモニウム水溶液(化成液)の温度が30℃未満の温度(25℃)である実施例10では、他の実施例1〜3等に比して容量が低い。
【0066】
また、実施例1〜14の中でも、多孔質層30を形成するのに用いたアジピン酸アンモニウム水溶液(化成液)のアジピン酸アンモニウムの濃度が0.3重量%未満(0.25重量%)である実施例13では、他の実施例1〜3等に比して漏れ電流が大きい。
【0067】
また、実施例1〜14の中でも、第2化成処理ST41、ST42、ST43、ST44、ST45の処理時間の合計が、40分〜120分より長い時間(150分)である実施例6では、他の実施例1〜3等に比して静電容量が低く、40分〜120分より短い時間(30分)である実施例11では、他の実施例1〜5等に比して漏れ電流が大きい。それ故、第2化成処理ST41、ST42、ST43、ST44、ST45の処理時間については、40分〜120分が好ましく、40分〜90分がより好ましい。その理由は、化成時間が短い場合には緻密な化成皮膜31の形成が十分ではなく、化成時間が長い場合には皮膜が余計に成長するためと考えられる。
【0068】
また、実施例1〜14の中でも、液中デポラリゼーションの回数が2回〜4回より多い実施例7(5回)では、他の実施例1〜3等に比して静電容量が低く、2回〜4回より少ない実施例12(1回)では、他の実施例1〜3等に比して漏れ電流が大きい。それ故、液中デポラリゼーションの回数は2回〜4回が好ましい。液中デポラリゼーションの回数が少なすぎると、欠陥の修復が十分でなく、液中デポラリゼーションの回数が多すぎると、化成皮膜の過剰な成長や溶解等が発生すると考えられる。また、実施例12では、熱デポラリゼーション処理ST51を熱デポラリゼーション処理ST52のタイミングで行うとともに、その直前に水洗浄処理ST10を行ったため、熱デポラリゼーションの回数が1回であるため、実施例1〜3等に比して漏れ電流が大きい。それ故、熱デポラリゼーションの回数は2回〜4回が好ましい。熱デポラリゼーションの回数が少なすぎると、欠陥の修復が十分でなく、熱デポラリゼーションの回数が多すぎると、生産性が低下する。
【0069】
また、実施例4、14では、多孔質層30の厚さが300μm、1000μmと厚いが、リン酸水溶液を用いた中間処理を行ったため、多孔質層30の厚さが200μmである実施例1〜3等と同様、多孔質層30の空隙35に目詰まり等が発生していない。