特許第6043138号(P6043138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043138
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】可変容量型ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   F04C2/344 331C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-216350(P2012-216350)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-70542(P2014-70542A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史恭
(72)【発明者】
【氏名】藤田 朋之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 雅道
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 浩一朗
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−156211(JP,A)
【文献】 特開平05−079469(JP,A)
【文献】 特開平07−119648(JP,A)
【文献】 特開2011−179485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧機器における流体圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプであって、
ボディの収容空間内に設けられるアダプタリングと、
前記アダプタリングの内側に移動可能に設けられるカムリングと、
前記カムリングの内側に配置され、回転駆動されるロータと、
前記ロータに往復動可能に設けられ、前記カムリングの内周との間にポンプ室を画成する複数のベーンと、
前記カムリングの外周と前記アダプタリングの内周の間に画成され、互いの圧力差によって前記カムリングを前記ロータに対して偏心させる流体圧力が導かれる第一流体圧室及び第二流体圧室と、
前記ボディの収容空間を封止するハウジングの端面に開口し、前記第一流体圧室に流体圧力を導く第一流体圧通路と、
前記ハウジングの端面に開口し、前記第二流体圧室に流体圧力を導く第二流体圧通路と、を備え、
前記カムリングの外周において前記第一流体圧室に面する第一外周領域と前記第二流体圧室に面する第二外周領域との少なくとも一方に、前記第一流体圧通路または前記第二流体圧通路を通じて前記第一流体圧室または前記第二流体圧室に出入りする作動流体を案内するとともに、前記カムリングの偏心位置にかかわらず前記第一流体圧通路の開口端または前記第二流体圧通路の開口端が干渉しないように案内凹部が切り欠かれて形成されることを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項2】
前記カムリングを前記アダプタリングに対して揺動可能に支持する支持ピンを備え、
前記第一流体圧室には、前記第一流体圧通路を通じて前記カムリングを吐出容量が小さくなる方向に揺動させる流体圧力が導かれ、
前記案内凹部として、前記第一外周領域に第一案内凹部が形成され、
前記第一案内凹部は、前記カムリングが吐出容量を最大にする最大偏心位置に揺動した状態で、前記第一流体圧通路の開口端に干渉しないように配置されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項3】
前記カムリングを前記アダプタリングに対して揺動可能に支持する支持ピンを備え、
前記第二流体圧室には、前記第二流体圧通路を通じて前記カムリングを吐出容量が大きくなる方向に揺動させる流体圧力が導かれ、
前記案内凹部として、前記第二外周領域に第二案内凹部が形成され、
前記第二案内凹部は、前記カムリングが吐出容量を最小にする最小偏心位置に揺動した状態で、前記第二流体圧通路の開口端に干渉しないように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項4】
前記案内凹部は、前記ロータの回転中心軸に対して傾斜した溝状に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の可変容量型ベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧機器における流体圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧供給源として、可変容量型ベーンポンプが用いられている。
【0003】
特許文献1に開示された可変容量型ベーンポンプは、制御バルブを介して導かれる流体圧力によってカムリングが支持ピンを支点として揺動することで、吐出容量が変化するようになっている。
【0004】
カムリングの外周には、第一、第二流体圧室が設けられている。第一、第二流体圧室には、第一、第二流体圧通路を通じて制御バルブからの流体圧力が導かれる。カムリングは、第一、第二流体圧室の圧力差によって揺動する。
【0005】
第一流体圧通路は、カムリングを収容するアダプタリングを貫通して設けられ、その一端がアダプタリングの内周に開口して第一流体圧室に連通している。
【0006】
第二流体圧通路は、カムリングが摺接するハウジングに設けられ、その開口がハウジングの端面に開口して第二流体圧室に連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−337146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された可変容量型ベーンポンプにあっては、第二流体圧通路の開口が、カムリングが摺動するハウジングの端面に開口し、移動するカムリングによって部分的に塞がれるため、第二流体圧通路を通じて第二流体圧室に出入りする作動油の流れがカムリングによって圧力損失を与えられ、カムリングの位置によってカムリングが移動する作動応答性が損なわれるという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、可変容量型ベーンポンプにおいて、カムリングが移動する作動応答性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、流体圧機器における流体圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプであって、ボディの収容空間内に設けられるアダプタリングと、アダプタリングの内側に移動可能に設けられるカムリングと、カムリングの内側に配置され、回転駆動されるロータと、ロータに往復動可能に設けられ、カムリングの内周との間にポンプ室を画成する複数のベーンと、カムリングの外周とアダプタリングの内周の間に画成され、互いの圧力差によってカムリングをロータに対して偏心させる流体圧力が導かれる第一流体圧室及び第二流体圧室と、ボディの収容空間を封止するハウジングの端面に開口し、第一流体圧室に流体圧力を導く第一流体圧通路と、ハウジングの端面に開口し、第二流体圧室に流体圧力を導く第二流体圧通路と、を備え、カムリングの外周において第一流体圧室に面する第一外周領域と第二流体圧室に面する第二外周領域との少なくとも一方に、第一流体圧通路または第二流体圧通路を通じて第一流体圧室または第二流体圧室に出入りする作動流体を案内するとともに、カムリングの偏心位置にかかわらず第一流体圧通路の開口端または第二流体圧通路の開口端が干渉しないように案内凹部が切り欠かれて形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、可変容量型ベーンポンプの吐出容量を変える際に、第一流体圧通路、第二流体圧通路を通じて第一流体圧室、第二流体圧室にそれぞれ出入りする作動流体がカムリングの外周面に切り欠かれて形成された案内凹部によって案内される。したがって、移動するカムリングによって第一流体圧通路、第二流体圧通路が部分的に塞がれることが抑えられ、カムリングが作動流体の流れに与える圧力損失を低減して、カムリングが移動する作動応答性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る可変容量型ベーンポンプの正面図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図3A】最大偏心位置にあるカムリングを示す正面図である。
図3B】最小偏心位置にあるカムリングを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1、2を参照して、本発明の実施形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。
【0015】
可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)100は、車両に搭載される油圧機器(流体圧機器)、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧(流体圧)供給源として用いられるものである。
【0016】
以下、ベーンポンプ100が作動油を供給する構成について説明する。なお、ベーンポンプ100は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0017】
ベーンポンプ100は、駆動シャフト1にエンジン(図示省略)の動力が伝達され、駆動シャフト1に連結されたロータ2が回転するものである。図1では、ロータ2は矢印で示すように時計回りに回転する。
【0018】
ベーンポンプ100は、作動油を加圧するポンプ機構として、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容するカムリング4とを備える。ロータ2の回転に伴ってカムリング4の内周に形勢されるカム面4Aにベーン3の先端部が摺動する。ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。
【0019】
ベーンポンプ100は、ボディとしてポンプボディ5、ハウジングとしてポンプカバー6、及びサイドプレート8を備える。ポンプボディ5とポンプカバー6は、複数のボルト10を介して締結される。駆動シャフト1は、ポンプボディ5及びサイドプレート8に軸受(図示省略)を介して回転自在に支持される。
【0020】
ポンプボディ5には、ポンプ機構を収容する収容空間15が形成される。収容空間15の底面には、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート8が配置される。収容空間15の開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー6によって封止される。ポンプカバー6とサイドプレート8は、アダプタリング11、ロータ2、及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。ポンプカバー6とサイドプレート8の間にアダプタリング11が介在することにより、ポンプカバー6及びサイドプレート8のロータ2及びカムリング4に対する隙間が精度よく形成される。
【0021】
サイドプレート8には、作動油をポンプ室7内に導く吸込ポート16と、ポンプ室7内の作動油を取り出してベーンポンプ100外部の油圧機器に導く吐出ポート18と、が形成される。吸込ポート16は、吸込通路(図示省略)を介してタンク(図示省略)に連通される。吐出ポート18は、ポンプ吐出通路(図示省略)を介して油圧機器に連通される。
【0022】
ベーンポンプ100の作動時に、カムリング4の吸込領域では、カム面4Aに摺接するベーン3がロータ2から突出してポンプ室7が拡張し、タンクの作動油が吸込通路を通じて吸込ポート16からポンプ室7に吸い込まれる。カムリング4の吐出領域では、カム面4Aに摺接するベーン3がロータ2に押し込まれてポンプ室7が収縮し、ポンプ室7にて加圧された作動油が吐出ポート18からポンプ吐出通路を通じて油圧機器に供給される。
【0023】
以下、ベーンポンプ100の吐出容量(押しのけ容積)を変化させる構成について説明する。
【0024】
ポンプボディ5の収容空間15には、環状のアダプタリング11が収容される。アダプタリング11とカムリング4の間には、支持ピン13が介装される。カムリング4の外周には支持ピン13に係合する係合凹部4Eが形成される。カムリング4はアダプタリング11の内側で支持ピン13を支点に揺動し、ロータ2の中心に対して偏心する。カムリング4は、ロータ2の回転中心軸に直交する端面4D、4Fを有する。一方の端面4Dはポンプカバー6の端面6Aに摺接する。他方の端面4Fはサイドプレート8の端面8Aに摺接する。
【0025】
アダプタリング11のシール溝11Aには、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周が摺接するシール材14が介装される。カムリング4の外周とアダプタリング11の内周との間には、支持ピン13とシール材14とによって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが区画される。なお、カムリング4の外周面は、第一流体圧室31に面する第一外周領域4Bと、第二流体圧室32に面する第二外周領域4Cとに分けられる。
【0026】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32とポンプ室7の圧力バランスによって、支持ピン13について揺動する。カムリング4が揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ室7の吐出容量が変化する。カムリング4が図1にて右方向に揺動すると、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ室7の吐出容量が小さくなる。これに対して、カムリング4が図1にて左方向に揺動すると、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ室7の吐出容量が大きくなる。
【0027】
ベーンポンプ100は、第一流体圧室31と第二流体圧室32に導かれる作動油の圧力を制御する制御バルブ21を備える。
【0028】
制御バルブ21は、ポンプボディ5に形成されるバルブ収容穴29と、バルブ収容穴29に摺動自在に挿入されるスプール22と、を備える。スプール22は、ポンプ吐出通路に介装された絞り部(図示省略)の前後圧力差によって動作するように構成されている。
【0029】
制御バルブ21には、第一流体圧室31に連通する第一流体圧通路33と、第二流体圧室32に連通する第二流体圧通路34と、タンクに連通するドレン通路(図示省略)とポンプ吐出通路と、がそれぞれ接続される。
【0030】
第一流体圧通路33は、ポンプボディ5及びポンプカバー6に渡って形成される。第一流体圧通路33は、ポンプボディ5に形成される通孔41、42及び凹部43と、ポンプカバー6に形成される通孔44、45とによって構成される。ポンプボディ5の通孔41、42は、互いに同軸上に延び、ロータ2の回転中心軸と平行に配置される。ポンプカバー6の通孔44、45は、互いに傾斜して延びる。通孔44は、ロータ2の回転中心軸と傾斜して配置される。通孔45は、ロータ2の回転中心軸と平行に配置される。
【0031】
ポンプボディ5とポンプカバー6の合わせ部には、シールリング46が介装される。ポンプボディ5の端面5Aにはシールリング46が介装される環状溝48が凹部43を取り囲むように形成される。シールリング46は、凹部43による通孔42と通孔44の接続部を密封する。
【0032】
このようにして、第一流体圧通路33は、ポンプボディ5及びポンプカバー6に渡って形成されるため、ポンプボディ5及びアダプタリング11を貫通して設けられることが避けられる。これにより、第一流体圧通路33の油圧力がポンプボディ5とアダプタリング11の隙間から逃げることが回避され、制御バルブ21からの油圧力が第一流体圧通路33を通じて第一流体圧室31に速やかに導かれる。
【0033】
ポンプカバー6の端面6Aに形成される通孔45の一端が第一流体圧通路33の開口端33Aとなる。開口端33Aは、ロータ2の回転中心軸と平行に延び、ポンプカバー6の端面6Aに直交するように形成される。
【0034】
開口端33Aの開口径は、第一流体圧通路33に要求される流路断面積によって任意に設定される。しかし、第一流体圧通路33の流路断面積を十分に確保しようとすると、開口端33Aの開口径がアダプタリング11とカムリング4の間に画成される第一流体圧室31の最小幅より大きくなる。このため、従来装置では、カムリングが吐出容量を最大にする最大偏心位置に揺動した状態で、カムリングが第一流体圧通路の開口端の一部を塞ぐことになる。
【0035】
これに対処して、カムリング4の第一外周領域4Bには、第一流体圧通路33の開口端33Aに対峙して凹状に窪む第一案内凹部47が形成される。
【0036】
第一案内凹部47は、その深さがロータ2の回転中心軸について次第に小さくなるテーパ溝状に形成される。第一案内凹部47は、その溝基端47Aがカムリング4の端面4Dに開口し、その溝先端47Bがカムリング4の第一外周領域4Bに開口する。第一案内凹部47の深さは、その溝基端47Aから溝先端47Bにかけて次第に小さくなる。これにより、カムリング4の断面が第一案内凹部47によって削減されることが抑えられ、カムリング4の強度が確保される。
【0037】
第一案内凹部47は、ロータ2の回転中心軸に対して傾斜する断面円形の溝状に形成される。カムリング4が吐出容量を最大にする最大偏心位置に揺動した状態(図1、3A参照)で、第一案内凹部47の溝基端47Aは、第一流体圧通路33の開口端33Aに沿うように円弧状に形成される。これにより、第一案内凹部47が第一流体圧通路33の開口端33Aに干渉せず、第一案内凹部47の底面と第一流体圧通路33の内面が段差なく連続する。
【0038】
第二流体圧通路34は、上記した第一流体圧通路33と同様に、ポンプボディ5及びポンプカバー6に渡って形成される。
【0039】
ポンプボディ5とポンプカバー6の合わせ部にはシールリング(図示省略)が介装され、このシールリングによって第二流体圧通路34を構成する通孔どうしの接続部に設けられる凹部53が密封される。ポンプボディ5の端面5Aにはこのシールリングが介装される環状溝58が形成される。
【0040】
このように、第二流体圧通路34は、ポンプボディ5及びポンプカバー6に渡って形成されるため、ポンプボディ5及びアダプタリング11を貫通して設けられることが避けられる。これにより、第二流体圧通路34の油圧力がポンプボディ5とアダプタリング11の隙間から逃げることが回避され、制御バルブ21からの油圧力が第二流体圧通路34を通じて第二流体圧室32に速やかに導かれる。
【0041】
カムリング4の第二外周領域4Cには、第二流体圧通路34の開口端34Aに対峙して凹状に窪む第二案内凹部57が形成される。
【0042】
第二案内凹部57は、前記した第一案内凹部47と同様に、その深さがロータ2の回転中心軸について次第に小さくなるテーパ溝状に形成される。第二案内凹部57は、その基端57Aがカムリング4の端面4Dに開口し、その先端(図示省略)がカムリング4の第二外周領域4Cに開口する。第二案内凹部57の深さは、その基端57Aから先端にかけて次第に小さくなる。これにより、カムリング4の断面が第二案内凹部57によって削減されることが抑えられ、カムリング4の強度が確保される。
【0043】
第二案内凹部57は、ロータ2の回転中心軸に対して傾斜する断面円形の溝状に形成される。カムリング4が吐出容量を最小にする最小偏心位置に揺動した状態(図3B参照)で、第二案内凹部57の基端57Aは、第二流体圧通路34の開口端34Aに沿うように円弧状に形成される。これにより、第二案内凹部57が第二流体圧通路34の開口端34Aに干渉せず、第二案内凹部57の底面と第二流体圧通路34の内面が段差なく連続する。
【0044】
第一案内凹部47と第二案内凹部57は、支持ピン13を挟んで並ぶように形成される。第一案内凹部47と第二案内凹部57は、ロータ2の回転中心軸に対して制御バルブ21と同一径方向に配置され、これらを結ぶ第一流体圧通路33と第二流体圧通路34の通路長の短縮化が図られている。
【0045】
第一案内凹部47、第二案内凹部57は、焼結によって形成されるカムリング4に一体成形して形成される。なお、これに限らず、成形されたカムリング4に第一案内凹部47、第二案内凹部57を切削加工により形成してもよい。
【0046】
以下、ベーンポンプ100の作動について説明する。
【0047】
ポンプ始動時等、ロータ2の回転速度が低い場合には、第一流体圧室31にはタンクに連通するドレン通路からの低圧が第一流体圧通路33を通じて導かれ、第二流体圧室32にはポンプ吐出圧が絞り通路(図示省略)を通じて導かれる。これにより、カムリング4は、第一流体圧室31及び第二流体圧室32内の作動油の圧力差によってポンプ室7の吐出容量が大きくなる方向に揺動し、図1に示すように、その第一外周領域4Bがアダプタリング11の内周の膨出部11Bに当接して、ロータ2に対する偏心量が最大となる最大偏心位置に保持される。
【0048】
カムリング4が最大偏心位置にある状態では、ベーンポンプ100は最大吐出容量で作動油を吐出し、ベーンポンプ100から吐出される作動油の流量はロータ2の回転速度に略比例して高まる。これにより、ロータ2の回転速度が低い場合でも、油圧機器に対して十分な流量の作動油を供給することができる。
【0049】
ロータ2の回転速度が高まり、ポンプ吐出通路に介装された絞り部の前後圧力差が大きくなるのに伴って、制御バルブ21は、スプール22がリターンスプリング(図示省略)の付勢力に抗して移動し、ポンプ吐出通路と第一流体圧通路33が連通する開度を調節するとともに、ドレン通路(図示省略)と第二流体圧通路34が連通する開度を調節する。これにより、第一流体圧室31にはポンプ吐出通路の作動油が第一流体圧通路33を通じて流入する。一方、第二流体圧室32の作動油が第二流体圧通路34を通じて流出し、制御バルブ21からドレン通路を通じてタンクへと排出される。これにより、カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差に応じて、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向(図1において右方向)へと移動する。ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなっていくと、カムリング4の第二外周領域4Cがアダプタリング11の内周の膨出部11Cに当接して、カムリング4の移動が規制される。これによりロータ2に対するカムリング4の偏心量が最低となり、ポンプ室7は最低吐出容量となる。
【0050】
このようにして制御バルブ21がポンプ吐出通路に介装された絞り部の前後圧力差に応じて作動することにより、ロータ2の回転速度が高まってもベーンポンプ100の吐出容量が略一定に調整される。これにより、車両の走行時に油圧機器に対して供給される作動油の圧力が適度に調節される。
【0051】
図3Aは、カムリング4が最大偏心位置にある状態を示す正面図である。この状態で、第一案内凹部47が第一流体圧通路33の開口端33Aに干渉しないように配置されている。この状態からカムリング4が吐出容量を小さくする方向に揺動するのに伴って、第一案内凹部47が第一流体圧通路33の開口端33Aから離れる。このようにカムリング4が移動しても、第一流体圧通路33の開口端33Aがカムリング4によって部分的に塞がれることが抑えられ、第一流体圧通路33の流路面積が確保される。これにより、カムリング4が揺動して吐出容量が変えられる際には、第一流体圧通路33から第一流体圧室31に出入りする作動油の流れにカムリング4が付与する圧力損失が抑えられるため、第一流体圧室31に速やかに作動油圧が導かれる。
【0052】
図3Bは、カムリング4が最小偏心位置にある状態を示す正面図である。この状態で、第二案内凹部57が第二流体圧通路34の開口端34Aに干渉しないように配置されている。この状態からカムリング4が吐出容量を小さくする方向に揺動するのに伴って、第二案内凹部57が第二流体圧通路34の開口端34Aから離れる。このようにカムリング4が移動しても、第二流体圧通路34の開口端34Aがカムリング4によって部分的に塞がれることが抑えられ、第二流体圧通路34の流路面積が確保される。これにより、カムリング4が揺動して吐出容量が変えられる際には、第二流体圧室32から第二流体圧通路34を通じて流出する作動油の流れにカムリング4が付与する圧力損失が抑えられるため、第二流体圧室32に速やかに作動油圧が導かれる。
【0053】
以上の本実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0054】
〔1〕ベーンポンプ100のカムリング4の外周には、第一流体圧通路33、第二流体圧通路34を通じて第一流体圧室31、第二流体圧室32に出入りする作動流体を案内する案内凹部47、57が切り欠かれて形成されるため、ベーンポンプ100の吐出容量を変える際に、移動するカムリング4によって第一流体圧通路33、第二流体圧通路34が部分的に塞がれることが抑えられ、第一流体圧通路33、第二流体圧通路34を通じて第一流体圧室31、第二流体圧室32に作動流体が速やかに出入りして、カムリング4が移動する作動応答性が確保される。
【0055】
〔2〕カムリング4をアダプタリング11に対して揺動可能に支持する支持ピン13を備え、第一流体圧室31には、第一流体圧通路33を通じてカムリング4を吐出容量が小さくなる方向に揺動させる流体圧力が導かれ、第一外周領域4Bに形成される第一案内凹部47は、カムリング4が吐出容量を最大にする最大偏心位置に揺動した状態で、第一流体圧通路33の開口端33Aに干渉しないように配置されるため、カムリング4が移動しても、第一流体圧通路33の開口端33Aがカムリング4によって部分的に塞がれることが抑えられ、第一流体圧室31に作動流体が速やかに出入りして、カムリング4が移動する作動応答性が確保される。
【0056】
〔3〕カムリング4をアダプタリング11に対して揺動可能に支持する支持ピン13を備え、第二流体圧室32には、第二流体圧通路34を通じてカムリング4を吐出容量が大きくなる方向に揺動させる流体圧力が導かれ、第二外周領域4Cに形成される第二案内凹部57は、カムリング4が吐出容量を最小にする最小偏心位置に揺動した状態で、第二流体圧通路34の開口端34Aに干渉しないように配置されるため、カムリング4が移動しても、第二流体圧通路34の開口端34Aがカムリング4によって部分的に塞がれることが抑えられ、第二流体圧室32に作動流体が速やかに出入りして、カムリング4が移動する作動応答性が確保される。
【0057】
〔4〕案内凹部47、57は、ロータ2の回転中心軸に対して傾斜した溝状に形成され、カムリング4の端面4Dに開口する溝基端47A、57Aと、カムリング4の外周面に開口する溝先端47Bと、を有するため、作動流体が流体圧室31、32に速やかに出入りして、カムリング4が移動する作動応答性が確保されることと、カムリング4の強度を確保することとを両立できる。
【0058】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0059】
例えば、第一流体圧室31にポンプ室7に吸い込まれる作動油の吸込圧力が常に導かれ、制御バルブ21がポンプ室7から第二流体圧室32に導かれる作動流体の圧力を制御し、制御バルブ21を介して第二流体圧室32に導かれる流体圧力が低下する作動時にカム面4Aに作用するポンプ室7の圧力によってカムリング4が吐出容量が減少する方向(図1において右方向)に揺動する一方、制御バルブ21を介して第二流体圧室32に導かれる流体圧力が上昇する作動時にカムリング4が吐出容量が増大する方向(図1において左方向)に揺動する構成としてもよい。
【0060】
また、カムリング4をアダプタリング11に対して揺動可能に支持する支持ピン13を設ける構成に限らず、例えば、カムリング4をアダプタリング11に対して摺動して移動する構成としてもよい。
【0061】
また、アダプタリング11の内周にも、流体圧通路33、34を通じて流体圧室31、32に出入りする作動流体を案内する案内凹部を形成してもよい。これにより、流体圧通路33、34の流路面積を拡大して、カムリング4が移動する作動応答性を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の可変容量型ベーンポンプは、車両に搭載される例えばパワーステアリング装置や無段変速機等の油圧供給源に利用できるとともに、他の機械、設備の流体圧供給源にも利用できる。
【符号の説明】
【0063】
2 ロータ
3 ベーン
4 カムリング
4B 第一外周領域
4C 第二外周領域
4D 端面
5 ポンプボディ(ボディ)
6 ポンプカバー(ハウジング)
6A 端面
7 ポンプ室
11 アダプタリング
13 支持ピン
15 収容空間
31 第一流体圧室
32 第二流体圧室
33 第一流体圧通路
33A 開口端
34 第二流体圧通路
34A 開口端
47 第一案内凹部 (案内凹部)
47A 溝基端
47B 溝先端
57 第二案内凹部 (案内凹部)
100 可変容量型ベーンポンプ
図1
図2
図3A
図3B