(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.燃料電池
(1−1)燃料電池の構成
図1は、燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【0017】
図1において、燃料電池1は、固体高分子形燃料電池であって、複数の燃料電池セルSを備えており、これらの燃料電池セルSが積層されたスタック構造(セル積層体15(後述))として形成されている。
【0018】
なお、
図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSを取り出して示している。
【0019】
燃料電池セルSは、膜電極接合体16を備えている。
【0020】
膜電極接合体16は、電解質層4と、電解質層4の厚み方向一方側の面(以下、単に一方面と記載する。)に形成され、燃料(後述)が供給される燃料側電極2と、電解質層4の厚み方向他方側の面(以下、単に他方面と記載する。)に形成され、酸素(空気)が供給される酸素側電極3とを備えている。
【0021】
電解質層4は、アニオン成分として水酸化物イオン(OH
−)が移動可能な固体高分子膜(アニオン交換樹脂)からなる層であり、具体的には、分子末端に4級アンモニウム基をアニオン交換基として有する炭化水素系アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0022】
アニオン交換膜を形成する固体高分子としては、例えば、ポリスチレンおよびその変性体などの炭化水素系の固体高分子などが挙げられる。
【0023】
また、アニオン交換膜を形成する固体高分子は、その分子構造において、架橋構造を有していてもよい。
【0024】
このようなアニオン交換膜は、特に制限されないが、例えば、特開2010−165459号公報に記載の方法などによって、得ることができる。
【0025】
また、アニオン交換膜は、市販品として入手可能であり、例えば、セレミオン(旭硝子社製)、ネオセプタ(アストム社製)などが挙げられる。
【0026】
また、電解質層4の膜厚は、例えば、10〜100μmである。
【0027】
燃料側電極2は、例えば、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒を用い、その触媒を、直接、燃料側電極2として形成してもよい。
【0028】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素、さらには亜鉛(Zn)などの金属単体や、それらの合金などが挙げられる。
【0029】
これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0030】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。
【0031】
触媒の触媒担体に対する担持量は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0032】
燃料側電極2の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmである。
【0033】
酸素側電極3は、例えば、上記した燃料側電極2と同様に、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒を用い、その触媒を、直接、酸素側電極3として形成してもよい。
【0034】
また、酸素側電極3では、電極材料として、例えば、錯体形成有機化合物および/または導電性高分子とカーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)に、遷移金属が担持されている触媒を用いることもできる。
【0035】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、銀、コバルトが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0036】
錯体形成有機化合物は、金属原子に配位することによって、当該金属原子と錯体を形成する有機化合物であって、例えば、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリン、フェナントロリン、サルコミンなどの錯体形成有機化合物またはこれらの重合体が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ピロールの重合体であるポリピロール、フェナントロリン、サルコミンが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
導電性高分子としては、上記錯体形成有機化合物と重複する化合物もあるが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン、ポリイソチアナフテン、ポリピリジンジイル、ポリチエニレン、ポリパラフェニレン、ポリフルラン、ポリアセン、ポリフラン、ポリアズレン、ポリインドール、ポリジアミノアントラキノンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
酸素側電極3の厚みは、例えば、10〜300μm、好ましくは、20〜150μmである。
【0039】
また、燃料電池セルSは、さらに、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを備えている。
【0040】
燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この燃料側流路7は、その上流側端部および下流側端部に、燃料供給部材5を貫通する燃料供給口8および燃料排出口9がそれぞれ連続して形成されている。具体的には、上流側端部(
図1における紙面下側)に燃料供給口8が形成され、下流側端部(
図1における紙面上側)に燃料排出口9が形成されている。
【0041】
また、酸素供給部材6も、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、酸素側電極3における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この酸素供給部材6にも、酸素側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この酸素側流路10にも、その上流側端部および下流側端部に、酸素供給部材6を貫通する酸素供給口11および酸素排出口12がそれぞれ連続して形成されている。具体的には、上流側端部(
図1における紙面上側)に酸素供給口11が形成され、下流側端部(
図1における紙面下側)に酸素排出口12が形成されている。
【0042】
そして、この燃料電池1は、上述したように、燃料電池セルSが、複数積層されるスタック構造として形成されている。そのため、燃料供給部材5および酸素供給部材6は、図示されていないが、両面に燃料側流路7および酸素側流路10が形成されるセパレータとして構成(兼用)される。
【0043】
なお、
図1には表われていないが、燃料電池1には、導電性材料によって形成される集電板が備えられており、燃料電池1で発生した起電力は、集電板に備えられた端子から外部に取り出される。
【0044】
また、試験的(モデル的)には、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを、外部回路13によって接続し、その外部回路13に電圧計14を介在させることにより、燃料電池1で発生する電圧を計測することもできる。
【0045】
なお、図示しないが、セル積層体15においては、必要に応じて、膜電極接合体16、燃料供給部材5および酸素供給部材6とともに、公知のガス拡散層などを積層することができ、また、必要に応じて、ガスケットなどを設けることもできる。
(1−2)燃料電池による発電
上記した燃料電池1では、酸素側流路10に空気が供給されるとともに、燃料側流路7に、燃料化合物を含む液体燃料が供給されることによって、発電が行われる。
【0046】
この燃料電池1において、燃料側流路7に供給される液体燃料としては、例えば、燃料化合物としてヒドラジン類を含む液体燃料などが挙げられ、具体的には、ヒドラジン類の水溶液が挙げられる。ヒドラジン類としては、例えば、無水ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、トリアザン(NH
2NHNH
2)、テトラザン(NH
2NHNHNH
2)などが挙げられる。
【0047】
また、液体燃料には、添加剤として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物などが添加することができる。添加剤の添加量は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0048】
また、燃料は、上述した燃料化合物をそのまま供給してもよいし、例えば、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール)などの溶液として供給してもよい。この場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、燃料化合物の種類によっても異なるが、例えば、1〜90質量%、好ましくは、1〜30質量%である。
【0049】
そして、燃料電池1における発電を、より具体的に説明すると、酸素供給部材6の酸素側流路10に酸素(空気)を供給しつつ、燃料供給部材5の燃料側流路7に上記した燃料を供給すれば、酸素側電極3においては、次に述べるように、燃料側電極2で発生し、外部回路13を介して移動する電子(e
−)と、水(H
2O)と、酸素(O
2)とが反応して、水酸化物イオン(OH
−)を生成する。生成した水酸化物イオン(OH
−)は、アニオン交換膜からなる電解質層4を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動する。そして、燃料側電極2においては、電解質層4を通過した水酸化物イオン(OH
−)と、燃料とが反応して、電子(e
−)が生成する。生成した電子(e
−)は、燃料供給部材5から外部回路13を介して酸素供給部材6に移動され、酸素側電極3へ供給される。このような燃料側電極2および酸素側電極3における電気化学的反応によって、起電力が生じ、発電が行われる。
【0050】
例えば、燃料としてヒドラジン(NH
2NH
2)を用いた場合には、上記反応は、燃料側電極2、酸素側電極3および全体として、次の反応式(1)〜(3)で表すことができる。
(1) NH
2NH
2+4OH
−→4H
2O+N
2+4e
− (燃料側電極)
(2) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (酸素側電極)
(3) NH
2NH
2+O
2→2H
2O+N
2 (全体)
なお、この燃料電池1の運転条件は、特に限定されないが、例えば、燃料側電極2側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、酸素側電極3側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、燃料電池セルSの温度が30〜100℃、好ましくは、60〜90℃として設定される。
2.膜電極接合体の製造方法
図2は、
図1に示す膜電極接合体の製造工程図を示す。
【0051】
次に、本実施形態の膜電極接合体の製造方法について、
図2を参照して説明する。
【0052】
まず、この方法では、
図2(a)に示すように、分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換膜からなる電解質層4を用意する(電解質層用意工程)。
【0053】
その後、この方法では、
図2(b)に示すように、電解質層4の一方側面に燃料側電極2を形成するとともに、電解質層4の他方側面に酸素側電極3を形成する(触媒層形成工程)。
【0054】
燃料側電極2および酸素側電極3を形成するには、より具体的には、まず、燃料側電極用の触媒とアイオノマーとを含有する燃料側電極用の触媒インク、および、酸素側電極用の触媒とアイオノマーとを含有する酸素側電極用の触媒インクを調製する。
【0055】
燃料側電極用の触媒インクの調製では、まず、上記した触媒100質量部に対して、アイオノマー5〜50質量部、および、溶媒100〜10000質量部を加え、攪拌することによって、燃料側電極用の触媒インクを調製する。
【0056】
アイオノマーとしては、例えば、電解質層と同じアニオン導電性の樹脂(電解質樹脂)からなるアイオノマーが挙げられる。アイオノマーは、予め溶媒に溶解されたものを用いてもよい。
【0057】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール、水、テトラヒドロフランなど、公知の溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。また、このときの攪拌温度は、好ましくは10〜30℃であり、攪拌時間は、好ましくは1〜60分間である。
【0058】
酸素側電極用の触媒インクは、例えば、燃料側電極用の触媒インクと同様にして、調製する。
【0059】
また、酸素側電極用の触媒インクは、例えば、カーボンコンポジットを形成した後、このカーボンコンポジットに遷移金属を担持させて、調製してもよい。
【0060】
具体的には、まず、カーボン100質量部に対して100質量部〜1000質量部の溶媒を加え、攪拌することによって、溶媒にカーボンが分散したカーボン分散液を調製する。溶媒としては、例えば、上記した溶媒が挙げられる。また、このときの攪拌温度は、好ましくは10℃〜30℃であり、攪拌時間は、好ましくは10〜60分間である。
【0061】
また、このとき、必要により酢酸、シュウ酸などの有機酸を添加してもよい。有機酸の添加量は、例えば、カーボン100質量部に対して、1質量部〜50質量部である。
【0062】
次いで、導電性高分子および/または錯体形成有機化合物の重合体を用いる場合には、カーボン100質量部に対して、それらの総量として、例えば1〜50質量部、好ましくは、10〜20質量部の対応するモノマー(錯体形成有機化合物)をカーボン分散液に加え、攪拌する。このときの攪拌温度は、好ましくは10〜30℃であり、攪拌時間は、好ましくは1〜10分間である。
【0063】
続いて、カーボン分散液中のモノマーを重合させる。重合方法としては、例えば、化学酸化重合、電解酸化重合などの酸化重合が挙げられ、好ましくは、化学酸化重合が挙げられる。
【0064】
化学酸化重合では、モノマーを含有したカーボン分散液に、酸化重合用触媒を加え、攪拌することによってモノマーを重合させる。酸化重合用触媒としては、例えば、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウムなどの過マンガン酸など、公知の酸化重合用触媒が挙げられる。これらのうち、好ましくは、過酸化水素が挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。また、重合温度は、好ましくは10〜30℃であり、重合時間は、好ましくは10〜90分間である。
【0065】
一方、錯体形成有機化合物を重合せずに用いる場合には、カーボン100質量部に対して、例えば1〜50質量部、好ましくは、10〜20質量部の低分子錯体形成有機化合物をカーボン分散液に加え、攪拌する。このときの攪拌温度は、好ましくは50〜100℃であり、攪拌時間は、好ましくは10〜60分間である。
【0066】
その後、カーボンと導電性高分子および/または錯体形成有機化合物とが分散した分散液を濾過して洗浄し、例えば、50℃〜100℃で真空乾燥する。これにより、カーボンコンポジットの乾燥粉末が得られる。
【0067】
カーボンコンポジットが得られた後には、このカーボンコンポジットに遷移金属を担持させる。
【0068】
具体的には、カーボンコンポジット100質量部に対して、100〜3000質量部の溶媒を加え、攪拌する。これによって、溶媒中にカーボンコンポジットが分散したカーボンコンポジット分散液を調製する。溶媒としては、例えば、上記した溶媒が挙げられる。
【0069】
一方、カーボンコンポジット100質量部に対して、1〜150質量部の遷移金属を含む塩を、100〜1000質量部の溶媒に溶解させ、遷移金属溶液を調製する。
【0070】
そして、この遷移金属溶液を、カーボンコンポジット分散液に加え、攪拌することによって、遷移金属溶液とカーボンコンポジット分散液との混合液を調製する。このときの攪拌温度は、好ましくは50〜100℃であり、攪拌時間は、好ましくは10〜60分間である。
【0071】
続いて、調製された混合液のpHが10〜12の範囲になるまで、還元剤を含有する還元剤溶液を加え、その後、混合液を、例えば、60〜100℃で、10〜60分間放置することで、遷移金属をカーボンコンポジットに担持させ、続いて、ろ過、洗浄した後、真空乾燥することで遷移金属担持カーボンコンポジットを得る。
【0072】
なお、還元剤溶液に含有される還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジンなど、公知の還元剤が挙げられる。これらのうち、好ましくは、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。
【0073】
水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として用いる場合には、水素化ホウ素ナトリウムを水酸化ナトリウムとともに水に溶解させた水溶液として用い、かつ、窒素雰囲気下で混合液に加える。これによって、水素化ホウ素ナトリウムと酸素との接触を防止することができるので、水素化ホウ素ナトリウムが酸素と接触することによって分解されることを防止することができる。
【0074】
続いて、燃料側電極用の触媒インク調製と同様に、遷移金属担持カーボンコンポジットに、アイオノマーおよび溶媒を加えて、攪拌することで、酸素側電極用の触媒インクを調製する。
【0075】
次いで、得られた各触媒インクを、電解質層4に塗布および乾燥させることにより、燃料側電極2および酸素側電極3を形成する。
【0076】
具体的には、まず、電解質層4の一方面に燃料側電極用の触媒インクを塗布し、電解質層4の他方面に酸素側電極用の触媒インクを塗布する。
【0077】
各触媒インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ダイコーター法、インクジェット法など公知の塗布方法が挙げられ、好ましくは、スプレー法が挙げられる。
【0078】
次いで、塗布した各触媒インクを、例えば、10〜60℃で乾燥させる。これにより、燃料側電極2および酸素側電極3を形成することができる。
【0079】
また、この方法では、必要により、燃料側電極2および酸素側電極3と、電解質層4とを接合させる。
【0080】
燃料側電極2および酸素側電極3と、電解質層4とを接合させるには、燃料側電極2および酸素側電極3が形成された電解質層4を、電解質層4の厚み方向両側から、例えば、1〜50MPa、好ましくは、2〜30MPaの圧力で、例えば、0.1〜10分、好ましくは、0.2〜5分、加圧する。電解質層4を加圧するには、例えば、油圧プレス機などが用いられる。
【0081】
なお、このとき、加圧と同時に加熱してもよい(ホットプレス)。ホットプレスにより、燃料側電極2および酸素側電極3と、電解質層4とを接合させる場合には、電解質層4のTgとほぼ同じ温度で加熱しながら、上記した圧力で加圧する。加熱温度は、例えば、電解質層4のTgと同じ温度からTgよりも40℃高い温度まで、好ましくは、電解質層4のTgと同じ温度からTgよりも20℃高い温度までである。
【0082】
ホットプレスすることにより、より低い圧力で、燃料側電極2および酸素側電極3を電解質層4に接合させることができる。
【0083】
また、必要により、燃料側電極2および酸素側電極3と、電解質層4とを接合させた後、さらに、加熱処理することができる。
【0084】
加熱条件としては、加熱温度が、例えば、50℃以上、好ましくは、70℃以上であり、例えば、120℃以下、好ましくは、90℃以下であり、加熱時間が、例えば、0.5時間以上、好ましくは、1時間以上であり、例えば、6時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0085】
その後、この方法では、
図2(c)に示すように、電解質層4に含まれる陰イオンを水酸化物イオンによりイオン交換する(イオン交換工程)。
【0086】
好ましくは、イオン交換工程では、電解質層4に含まれる陰イオンと、燃料側電極2および酸素側電極3中のアイオノマーに含まれる陰イオンとを、水酸化物イオンによりイオン交換する。
【0087】
水酸化物イオンによりイオン交換する方法としては、例えば、水酸化物イオンを含有する溶液を調製し、その溶液に電解質層4と、電解質層4に形成された燃料側電極2および酸素側電極3とを浸漬させる。
【0088】
水酸化物イオンを含有する溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
【0089】
溶液中の水酸化物イオン濃度は、例えば、0.1mol/L以上、好ましくは、0.2mol/L以上であり、例えば、2mol/L以下、好ましくは、1mol/L以下である。
【0090】
また、浸漬条件としては、浸漬温度が、例えば、0℃以上、好ましくは、20℃以上であり、例えば、60℃以下、好ましくは、40℃以下であり、浸漬時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、4時間以上であり、例えば、24時間以下、好ましくは、16時間以下である。
【0091】
これにより、電解質層4を膨潤させ、電解質層4に含まれる陰イオンと、燃料側電極2および酸素側電極3中のアイオノマーに含まれる陰イオンとを、水酸化物イオンによりイオン交換することができ、膜電極接合体16を得ることができる。
【0092】
一方、この上記したイオン交換工程では、水酸化物イオンを含有する溶液に電解質層4を浸漬させるため、電解質層4が膨潤し、変形する場合がある。
【0093】
このような場合において、イオン交換工程の前の触媒層形成工程で、燃料側電極2および酸素側電極3を所望形状に形成すると、イオン交換工程における電解質層4の変形に伴って、燃料側電極2および酸素側電極3が変形し、所望形状として得られない場合がある。
【0094】
そこで、好ましくは、触媒層形成工程では、電解質層4の膨潤による変形率を予め測定し、変形後に所望形状の燃料側電極2および酸素側電極3が得られるように、上記で求められた変形率に基づいて、電解質層4に燃料側電極2および酸素側電極3を形成する。
【0095】
図3は、電解質層の変形率を予め測定して膜電極接合体を製造する工程図を示し、
図4は、
図3に続いて電解質層の変形率を予め測定して膜電極接合体を製造する工程図を示す。
【0096】
以下において、電解質層4の変形率を予め測定して膜電極接合体16を製造する方法について、
図3および
図4を参照して詳述する。
【0097】
より具体的には、この方法では、まず、
図3(a)に示すように、電解質層4を用意する。
【0098】
次いで、
図3(b)に示すように、電解質層4の一方側面および/または他方側面の任意の箇所に、ポイントPをマーキングする。
【0099】
次いで、この方法では、上記したイオン交換工程と同様の条件で、水酸化物イオンを含有する溶液に電解質層4を浸漬させる。これにより、
図3(c)に示すように、電解質層4を膨潤させ、後述するイオン交換工程における変形と同程度の変形率で変形させる(矢印参照)。
【0100】
そして、マーキングしたポイントPの変形時における移動距離等から、電解質層4の変形率を求め、その変形率に基づいて、変形後に所望形状となるような触媒層形成領域(すなわち、変形後に所望形状となる変形前の領域)Aを特定する。
【0101】
そして、この方法では、
図4(d)に示すように、別途、電解質層4を用意する(電解質層用意工程(
図2(a)参照))。
【0102】
次いで、
図4(e)に示すように、変形後に所望形状の燃料側電極2および酸素側電極3が得られるように、上記で求められた変形率に基づいて、電解質層4に燃料側電極2および酸素側電極3を形成する。具体的には、上記により求められた電解質層4の触媒層形成領域Aに、燃料側電極2および酸素側電極3を、上記した方法で形成する(触媒層形成工程(
図2(b)参照))。
【0103】
その後、この方法では、
図4(f)に示すように、電解質層4に含まれる陰イオンと、燃料側電極2および酸素側電極3中のアイオノマーに含まれる陰イオンとを、上記と同様の方法で、水酸化物イオンによりイオン交換する(イオン交換工程(
図2(c)参照))。
【0104】
このとき、水酸化物イオンを含有する溶液に電解質層4を浸漬させ、膨潤させることにより、電解質層4を変形させる。そして、この電解質層4の変形によって、燃料側電極2および酸素側電極3を所望の形状に変形させる。
【0105】
次いで、この方法では、電解質層4が膨潤した状態において、公知の冶具などを用いて、電解質層4を所定形状に打ち抜く。これにより、所望形状の燃料側電極2および酸素側電極3を備える膜電極接合体16を得ることができる。
【0106】
そして、このようにして得られた膜電極接合体16を複数(例えば、2〜500枚)用意し、それら膜電極接合体16の間に、燃料供給部材5および酸素供給部材6を兼ねるセパレータを介在させるように、複数の膜電極接合体16を順次積層する。
【0107】
また、図示しないが、必要により、膜電極接合体16、燃料供給部材5および酸素供給部材6とともに、公知のガス拡散層などを積層し、また、必要に応じて、ガスケットなどを設ける。
【0108】
これにより、燃料電池セルS(単位セル)が、複数積層されたセル積層体15として、燃料電池1を得ることができる。
3.作用効果
このような膜電極接合体16の製造方法では、分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換膜からなる電解質層4に、燃料側電極2および酸素側電極3を形成した後、電解質層4に含まれる陰イオンを水酸化物イオンによりイオン交換するため、発電性能に優れた膜電極接合体16を得ることができる。
【0109】
具体的には、通常、分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換膜からなる電解質層4は、4級アンモニウム基のカウンターアニオンとして水酸化物イオンを有しており、アニオン成分として水酸化物イオンを移動可能としている。しかし、このような電解質層4が製造された後、経時に伴って4級アンモニウム基のカウンターアニオンが水酸化物イオンとは異なる陰イオン(例えば、塩素イオン(Cl
−)など)に置換される場合があり、このような場合には、水酸化物イオンの移動が阻害されるため、膜電極接合体16の製造に用いた場合に、得られる膜電極接合体16の発電性能に劣る場合がある。
【0110】
一方、上記の膜電極接合体16の製造方法では、4級アンモニウム基のカウンターアニオンが水酸化物イオンとは異なる陰イオン(例えば、塩素イオン(Cl
−)など)に置換される場合にも、その電解質層4に含まれる陰イオンが水酸化物イオンによりイオン交換されるため、水酸化物イオンの移動が阻害されることなく、優れた発電性能を得ることができる。
【0111】
また、このような膜電極接合体16の製造方法では、燃料側電極2および酸素側電極3に、電解質層4と同じアニオン導電性の樹脂からなるアイオノマーが含有され、また、そのアイオノマーが電解質層4とともにイオン交換される。そのため、このような膜電極接合体16の製造方法によれば、より一層発電性能に優れた膜電極接合体16を得ることができる。
【0112】
さらに、このような膜電極接合体16の製造方法では、イオン交換工程において電解質層4が膨潤により変形することを予測し、その変形後に所望形状となるように燃料側電極2および酸素側電極3を形成するので、優れた精度で膜電極接合体16を得ることができる。
【0113】
なお、上記した説明では、燃料側電極2および酸素側電極3の両方に電解質層4と同じアニオン導電性の樹脂からなるアイオノマーを含有させたが、例えば、燃料側電極2または酸素側電極3のいずれか一方のみに電解質層4と同じアニオン導電性の樹脂からなるアイオノマーを含有させてもよく、また、例えば、燃料側電極2および酸素側電極3のいずれにも電解質層4と同じアニオン導電性の樹脂からなるアイオノマーを含有させなくともよい。
【0114】
発電性能の観点から、好ましくは、燃料側電極2および酸素側電極3の両方に電解質層4と同じアニオン導電性の樹脂からなるアイオノマーを含有させる。
【0115】
そして、このような燃料電池1の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源、携帯電話機などの通信端末における電源などが挙げられる。
【実施例】
【0116】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。以下に示す実施例の数値は、実施形態において記載される数値(すなわち、上限値または下限値)に代替することができる。
【0117】
調製例1(燃料側電極用の触媒インクの調製)
電子天秤にて、非担持金属触媒(NiZn合金(Ni:Zn=87:13(モル比)、Cabot社製)3g、溶媒(1−プロパノールとテトラヒドロフランとの混合溶媒(質量比1:1))28.8g(14.4g+14.4g)、アイオノマー(分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換樹脂、トクヤマ社製)16.6gを秤量し、混合した。
【0118】
次いで、得られた混合液を、ホモジナイザー(タイテック製、VP−050)を出力約35%で稼動させることにより、約10分間攪拌し、分散液(スラリー)として、燃料側電極用の触媒インクを得た。
【0119】
調製例2(酸素側電極用の触媒インクの調製)
電子天秤にて、金属錯体触媒(化合物名コバルトポリピロールカーボン、品番D8L001、北興化学工業社製)2.2g、溶媒(1−プロパノールとテトラヒドロフランとの混合溶媒(質量比1:1))36.0g(18.0g+18.0g)、アイオノマー(分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換樹脂、トクヤマ社製)36.2gを秤量し、混合した。
【0120】
次いで、得られた混合液を、ホモジナイザー(タイテック製、VP−050)を出力約40%で稼動させることにより、約3分間攪拌し、分散液(スラリー)として、酸素側電極用の触媒インクを得た。
【0121】
実施例1
(1)電解質層の変形率測定
まず、電解質層(分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換樹脂、トクヤマ社製)を用意し(
図3(a)参照)、その一方側面および他方側面に複数点マーキングした(
図3(b)参照)。
【0122】
次いで、1mol/LのKOH水溶液に25℃で4時間浸漬させ、電解質層を膨潤および変形させ、その後、マーキングポイントの変形時における移動距離等から、電解質層の変形率を求め、その変形率に基づいて、変形後に所望形状となるような触媒層形成領域(変形後に所望形状となる変形前の領域)を特定した(
図3(c)参照)。
(2)膜電極接合体の製造
まず、電解質層(分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換樹脂、トクヤマ社製)を用意した(電解質層用意工程(
図2(a)および
図4(d)参照))。
【0123】
次いで、上記により特定された触媒層形成領域に、ハンドスプレーガンを用いて、電解質層(分子末端に4級アンモニウム基を有する炭化水素系アニオン交換樹脂、トクヤマ社製)の一方側面に燃料側電極用の触媒インクを吹き付け、また、他方側面に酸素側電極用の触媒インクを吹き付け、乾燥後(溶媒揮発後)の触媒の担持量が、燃料側電極で2.5mg/cm
2、酸素側電極で1.0mg/cm
2となるよう均一に50℃で塗布した。この塗布では、予め電解質層の変形を見込んだ領域に、触媒インクを吹き付けた。
【0124】
次いで、25℃において30分間乾燥させることにより、電解質層の一方側面に燃料側電極を、他方側面に酸素側電極をそれぞれ形成した。その後、燃料側電極および酸素側電極が形成された電解質層を、電解質層の厚み方向両側から、10MPaの圧力で0.5分間加圧し、その後、70〜80℃で3時間熱処理することにより、燃料側電極および酸素側電極と電解質層とを接合させた(触媒層形成工程(
図2(b)および
図4(e)参照))。
【0125】
その後、燃料側電極および酸素側電極が接合された電解質層を、1mol/LのKOH水溶液に25℃で4時間浸漬させ、電解質層中の陰イオンと、燃料側電極および酸素側電極中のアイオノマーに含まれる陰イオンとを、水酸化物イオンによりイオン交換した。また、これとともに電解質層を膨潤および変形させ、その変形によって、燃料側電極および酸素側電極を所望の形状に形成した(イオン交換工程(
図2(c)および
図4(f)参照。))。
【0126】
その後、電解質層が膨潤した状態において冶具を用いて電解質層を所定形状に打ち抜き、膜電極接合体を得た。
【0127】
比較例1
イオン交換工程を省略した以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得た。
【0128】
評価
実施例1および比較例1において得られた膨潤した状態の膜電極接合体に、燃料供給部材および酸素供給部材を積層し、燃料電池を形成した。
【0129】
その後、燃料電池の燃料側流路に液体燃料(水加ヒドラジン20質量%+1mol/LのKOH)を0.1L/min/cellの流速で供給し、一方、酸素供給路に空気を13.7L/min/cellで供給することにより、燃料電池を発電させ、発電性能を評価した。その結果を、
図5に示す。