特許第6043188号(P6043188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043188
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】層間熱接続部材および層間熱接続方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/04 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20161206BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C01B31/04 101Z
   H01L23/36 D
   H05K7/20 F
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-1338(P2013-1338)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-133669(P2014-133669A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年11月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト/グラフェン基盤研究開発/高性能フレキシブルグラフェン部材研究開発:グラフェン透明導電フィルムと高熱伝導性多層グラフェン放熱材の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 正満
(72)【発明者】
【氏名】村上 睦明
(72)【発明者】
【氏名】多々見 篤
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−171030(JP,A)
【文献】 特開2009−295921(JP,A)
【文献】 特開2007−012911(JP,A)
【文献】 特開2001−068608(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/142273(WO,A1)
【文献】 特開2004−363432(JP,A)
【文献】 特開2008−153704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
H01L 23/34−23/46
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが10nm〜15μmのグラファイトフィルムを有する層間熱接続部材であって、
前記グラファイトフィルムのフィルム面方向の熱伝導率が500W/mK以上であり、フィルム面方向と厚さ方向の熱伝導率の異方性が100以上である層間熱接続部材
【請求項2】
前記グラファイトフィルムの密度が1.2〜2.26g/cmである請求項1記載の層間熱接続部材。
【請求項3】
熱発生源あるいは熱発生源と熱的に接続された層と、それ以下の温度である第二の層との層間の熱抵抗を低減させるために該層間に狭持される請求項1又は2に記載の層間熱接続部材。
【請求項4】
前記グラファイトフィルムが、厚さが50nm〜50μmの高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の層間熱接続部材。
【請求項5】
前記高分子フィルムが縮合系芳香族高分子を含むものである、請求項4記載の層間熱接続部材。
【請求項6】
前記縮合系芳香族高分子が、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種である、請求項5記載の層間熱接続部材。
【請求項7】
さらに、常温以上で流動性を有する流動性物質を前記グラファイトフィルムの重量に対して1〜100重量%含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の層間熱接続部材。
【請求項8】
前記流動性物質は、沸点が200℃以上のオイルである請求項7記載の層間熱接続部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の層間熱接続部材を、熱接続する部材間に設置する工程を含む層間熱接続方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱源からの熱を速やかに冷却・放熱部に伝達するための層間熱接続部材および層間熱接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプロセッサの高速化やLEDチップの高性能化に伴う発熱量の上昇により、携帯電話、パソコン、PDA、ゲーム機などの電子機器やLED照明などにおける熱の問題はエレクトロニクス分野で解決すべき大きな課題となっている。放熱・冷却には熱伝導、熱放射、熱の対流を利用する方法があり、熱の対流を利用する冷却方式としてはヒートシンクや空冷ファンが、熱放射を利用するものとしてはセラミック板が、熱伝導を利用するものとしては各種の熱伝導(拡散)シート、熱伝導性樹脂などがある。発熱源の熱を効果的に放熱・冷却するには、これらの放熱・冷却方式を組み合わせ、発熱部の熱を回路基板や冷却フィン、ヒートシンクなどの放熱・冷却部に効率よく伝達する必要があり、そのためには発熱部と放熱・冷却部間の熱抵抗の低減が重要となる。
【0003】
図1に示すように、固体同士(金属同士や金属とセラミックなど)の層間を単に接続しても、部材表面の凹凸のために層間の接触は点接触となり、結果として層間には熱伝導率の低い空気層(熱伝導率:0.02W/mK)が存在するために熱抵抗が大きくなる。層間熱接続部材(Thermal Interface Material、以下TIMと略す)はこのような層間の熱抵抗を下げるために用いられ、金属同士や金属とセラミックの間に挟持して使用される。この場合、TIM自体が高熱伝導率である事と、界面(部材とTIMとの間)での熱抵抗が小さいことが重要な要件となる。界面での熱抵抗を小さくするためには、界面の接触面積を増大させる(すなわち界面の接触を面接触とする)ことが必要で、柔軟性が求められる。従来界面を面接触とするための柔軟性高分子材料と、高熱伝導率にするための高熱伝導性無機フィラーを混合したものが用いられて来た(以下、高分子/無機複合体と略す)。図2にその層間の接続状態を示すが、高分子/無機複合体によって界面は面接触となり、層間から空気層が除かれるために層間の熱抵抗が低減できる。一般的に高分子/無機複合体TIMの熱伝導率は1〜5W/mK、厚さは0.5〜5mm程度である。
【0004】
しかしながら、高熱伝導性のために高熱伝導性無機フィラーの添加量を増加させると柔軟性が損なわれ、界面の熱抵抗が増加するという問題がある。そのため、高分子/無機複合体の通常品で1〜2W/mK、高熱伝導品でも5W/mK程度の熱伝導率の物しか商品化されていないのが現状である。実用的な層間の熱抵抗値は、TIM自体の熱抵抗と界面での熱抵抗の和であり、通常0.4〜3.0K・cm/W程度である事が多い。なお、この熱抵抗値は接続面に印加する圧力の大きさによっても変わるので、その熱抵抗値を表示するには圧力の大きさを併記する必要がある。
【0005】
また、高分子/無機複合体の場合に柔軟にするためのマトリックス樹脂である柔軟性高分子材料はアクリル樹脂、あるいはシリコーン樹脂など数種類の高分子に限られ、汎用品であるアクリル樹脂の場合には耐熱性に課題が、シリコーン樹脂の場合には高温で発生するシリコーンモノマーが電子回路の接点不良を起こすという問題があった。
【0006】
ところで、グラファイトはその優れた耐熱性、耐薬品性、高熱伝導性、高電気伝導性のため、構造材、補強材、摺動材、導電材、放熱シートなどとして、エネルギー、宇宙、医療など幅広い分野で利用され、工業材料として重要な位置を占めており、TIM用途ではないものの、熱拡散フィルムとしてのグラファイトフィルムが知られている。グラファイト結晶の基本的な構造は、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面が規則正しく積み重なった層状構造(層が積み重なった方向をc軸方向と言い、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面の広がる方向をa−b面方向と言う)である。基底面内の炭素原子は共有結合で強く結ばれ、一方積み重なった基底面間の結合は弱いvan der Walls力によっており、基底面間隔は0.3354nmである。グラファイトにおける電気伝導率や熱伝導率はこのような異方性を反映してa−b面方向に大きく、この方向の電気伝導率や熱伝導率はグラファイトの品質を判定する良い指標となる。従来知られた、最高品質のグラファイトにおける a−b面方向の熱伝導率は1800W/mKであり、c軸方向の熱伝導率は5W/mKである(非特許文献1、2)。
【0007】
フィルム状の高品質・高熱伝導性グラファイトを得る方法として、特殊な高分子を直接熱処理、炭素化・グラファイト化する方法(以下、高分子焼成法と略す)が開発されている。使用される高分子としては、ポリオキサジアゾール、ポリイミド類、ポリフェニレンビニレンなどがある(非特許文献3、4)。このような方法で得られる高熱伝導性グラファイトフィルムは熱伝導(熱拡散)シートとして広く使用されている(例えば、特許文献1〜3)。熱伝導シートは、CPUやLEDなどの発熱源の熱を広範囲に広げることによる放熱・冷却効率の向上を目的に使用されるものである。グラファイトシートがこのような目的に用いられるのは、そのa−b面方向の熱伝導率が非常に大きく、携帯電話などの小型電子機器において熱対策材料として最適であるためである。これらの高熱伝導性グラファイトフィルムにおいては、通常、接着性の付与、機械的強度の改良、あるいは絶縁性付与のために各種の高分子フィルムや金属との複合化が行われることも多い(特許文献4〜6)。
【0008】
しかしながら、グラファイトの熱伝導(熱拡散)シートとしての応用は、TIM用途とは基本的に異なるものであり、現在のところ、グラファイト製のTIMは実用化されていない。その理由は、TIMとしてグラファイトを用いる場合に重要となる厚さ方向の熱伝導率はせいぜい5W/mK程度であり、グラファイトは固体であるために界面では面接触とならず界面の熱抵抗が高くなると考えられてきたからである。
【0009】
その対策として、グラファイトフィルムのフィルム面と直角方向に高熱伝導率の高いa−b面を配向させ、そのようにしたグラファイトフィルムをTIMとして使用することが考えられる。このような配向が実現できれば、原理的にはグラファイトの面方向の高熱伝導性(1800W/mK)を層間熱接続に用いる事が可能となる(特許文献7〜9)。しかしながら、これらは積層状や円筒状にしたグラファイトブロックを機械的に切断して作製したものであり、大面積化や1mm以下の薄さにする事が不可能であるばかりでなく、工業的にも極めて困難な製造方法であり、実用的な方法ではない。
【0010】
また、グラファイトフィルムをTIMとして使用するために界面での熱抵抗を低下させる工夫として、膨張した(すなわち密度を小さくした)グラファイトフィルムを圧縮して使用し、層間の熱抵抗を下げる方法が報告されている(特許文献10)。しかしながら、そのような処理を施したグラファイトフィルムでは、発泡によってグラファイトフィルム内部に空気層が形成されるために、グラファイトフィルム自体の熱抵抗が高くなり、TIMとしての目的を達成する事が出来ない。
【0011】
さらに、グラファイト層から形成され、これらが金属、ポリマー、セラミックなどによって構造的に支持された熱管理組立体が考えられている(特許文献11)。しかしながら、この熱管理組立体は、高熱伝導性無機フィラーと柔軟性高分子材料から形成される従来の高分子/無機複合体と本質的に異なるものではなく、従来のTIMの欠点が全く改善されていない。すなわち、金属やセラミックとの構造体では基本的に界面の点接触を面接触にする事が出来ず、また、ポリマーとの複合体の場合には、例えポリマーが柔軟であったとしても、高分子/無機複合体と変わるものではない。
【0012】
高分子焼成法によるグラファイトフィルムとして一般に入手可能なフィルムは、17.5〜75μmの厚さのものである。たとえば17.5μmのグラファイトフィルムの層間熱抵抗は、3.2K・cm/W(圧力:1.0kgf/cm)と、TIMとしての特性は、比較的熱抵抗値の高い高分子/無機複合体と同等程度しかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−158393号公報
【特許文献2】特開2005−314168号公報
【特許文献3】特開2006−0044999号公報
【特許文献4】特開2008−171030号公報
【特許文献5】特開2010−001191号公報
【特許文献6】特開2011−023670号公報
【特許文献7】特開2009−295921号公報
【特許文献8】特開2010−189244号公報
【特許文献9】特開2011−23670号公報
【特許文献10】特開2007−217206号公報
【特許文献11】特開2007−273943号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】L. Spain, A. R. Ubbelohde、and D. A. Young. "Electronic properties of oriented graphite" PHILOSOPHICAL TRANSACTIONS OF THE ROYALSOCIETY
【非特許文献2】T. C. Chieu, M. S. Dresselhaus and M. Endo,Phys. Rev. B26, 5867(1982)
【非特許文献3】M. Murakami, N. Nishiki,K. Nakamura, J.Ehara, H. Okada, T. Kouzaki,K. Watanabe,T. Hoshi, and S. Yoshimura, Carbon, vol.30, 2, 255(1992)
【非特許文献4】M.Inagaki, T.Takechi, Y.Hishiyama, and A. Oberin, Chem. Phys. Carbon, 26, 245(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来の高分子/無機複合体の問題点を解決し、高性能で高耐熱性のグラファイト製TIMを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、グラファイトフィルムをTIMとして使用することに関し、鋭意検討を行った結果、グラファイトフィルムTIMが高分子/無機複合体を超える低熱抵抗の熱接続を実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、厚さが10nm〜15μmのグラファイトフィルムを有する層間熱接続部材に関する。
【0018】
上記グラファイトフィルムのフィルム面方向の熱伝導率が500W/mK以上であり、フィルム面方向と厚さ方向の熱伝導率の異方性が100以上であることが好ましい。
【0019】
上記グラファイトフィルムの密度が1.2〜2.26g/cmであることが好ましい。
【0020】
上記グラファイトフィルムが、厚さが50nm〜50μmの高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるものであることが好ましい。
【0021】
上記高分子フィルムが縮合系芳香族高分子を含むものであることが好ましい。
【0022】
上記縮合系芳香族高分子が、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
層間熱接続部材が、さらに、常温以上で流動性を有する流動性物質を前記グラファイトフィルムの重量に対して1〜100重量%含むことが好ましい。
【0024】
上記流動性物質は、沸点が200℃以上のオイルであることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、本発明の層間熱接続部材を熱接続する部材間に設置する工程を含む層間熱接続方法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来の高分子/無機複合体と同等以上の優れた熱接続特性を有し、しかも耐熱性をはじめとする環境安定性に非常に優れた層間熱接続部材が提供され、さらに低熱抵抗層間熱接続が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】TIMを使用しない場合の層間の概念図である。
図2】高分子/無機複合体を用いた場合の層間接続状態の概念図である。図中の黒丸(●)は高熱伝導性無機フィラーである。
図3】本発明のグラファイトフィルムTIMを用いた場合の層間接続状態の概念図である。
図4】実施例で製造したグラファイトフィルム(F)の写真である。
図5】グラファイトフィルム(F)の制限視野電子線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の層間熱接続部材は、厚さが10nm〜15μmのグラファイトフィルムを有する。グラファイトフィルムは薄いゆえにフィルム自体が柔軟性を有し、15μm以下であれば、従来の厚さのグラファイトフィルムと同様に圧縮でき、しかも柔軟化処理を施さなくても、界面は点接触ではなく面接触に近い状況を実現できる。
【0029】
ここで、本明細書では、使用により温度差が生じうる部材と部材の間を層間と定義する。また、層間を熱的に繋ぎ、一方の部材から他方の部材へ熱を伝えることを層間熱接続、そのための部材を層間熱接続部材と定義する。すなわち、熱発生源からの熱を効率よく放散させるために、熱発生源あるいは熱発生源と熱的に接続された層と、それ以下の温度である第二の層との層間の熱抵抗を低減させるために該層間に狭持される部材は層間熱接続部材である。
【0030】
従来のグラファイトフィルムがTIMとして使用できない理由は以下の2点である。
(1)グラファイトは柔軟であるとは言え、高分子/無機複合体に比べて硬く、そのために界面の熱低抗が大きい。
(2)厚さ17.5μmのグラファイトフィルムの柔軟化処理法としてグラファイトを発泡状態にしてから圧縮する方法が知られているが、このような柔軟化処理は接触面を大きくする効果があっても、グラファイトフィルム内部に多くの空気層が存在し、結果的にグラファイトフィルムの熱抵抗を増大させる。すなわち、密度を小さくすることでグラファイトフィルムを柔らかくし、接続界面熱抵抗を下げる手法は、グラファイトフィルム内部に空気層が形成されるためにグラファイトフィルムのTIMとしてのバルク熱抵抗は高くなり、TIMとしての熱抵抗低減を図ることができない。
【0031】
本発明の基本的な考えは以下の通りである。
(1)グラファイトフィルムの厚さ方向の熱伝導率は5W/mKであり、その値は高熱伝導(高性能)タイプの高分子/無機複合体体のバルク熱伝導率と比べて特に優れているとは言えないまでも、同等以上の特性である。
(2)グラファイトは固体であるので、界面の熱抵抗は高分子/無機複合体よりも大きくなる傾向にあるが、一方でグラファイトは柔軟で弾力性に富む素材であるので、ある程度は界面を点接触から面接触へ改善できる。
(3)グラファイトフィルムのフィルム面方向の熱伝導率は極めて大きい(500〜1800W/mK)ため、該フィルムを層間に挟めば、熱が一つの接触点(接触面)から他の接触点(接触面)に高速に広がり、事実上接触点(接触面)を増やすことと同等の効果がある。
(4)このようなグラファイトフィルムの場合、グラファイトフィルム自体による熱抵抗を小さくするために、グラファイトフィルムは可能な限り薄い方が好ましく、従って厚さを薄くしていった場合、どこかの厚さで、高分子/無機複合体を上回る特性が実現できる。
【0032】
グラファイトフィルムTIMの使用原理を図3に示す。図3に示すように接続面は完全に被覆されない(界面の空気層は完全には除かれない)が、グラファイトは柔軟で弾力性に富む素材であるあるため、ある程度の面接触が実現できる。また、グラファイトフィルムは面方向の熱伝導率が極めて高いため、一つの接触面(点)から 熱がフィルム面方向に広範囲に広がり、多くの(広い)面での界面接触と同等の層間熱抵抗低減効果がある。さらに厚さは高分子/無機複合体より薄いため、グラファイトフィルム面に垂直方向のバルク熱抵抗は極めて小さくできる。
【0033】
(グラファイトフィルム)
グラファイトフィルムの厚さの下限は10nmであるが、20nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。また、上限は15μmであるが、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が特に好ましい。15μmを超えると、内部に空気層をほとんど含まないグラファイトフィルムの場合、硬く柔軟性がほとんどなく、TIMとして使用すると、圧力によって割れやひびが発生しやすく、また硬いために界面に空気層を生じやすく、界面熱抵抗が大きくなるという問題がある。また、柔軟化処理の施されたグラファイトフィルムでは、フィルム内部に存在する空気層のためにグラファイトフィルム自体の熱抵抗の値が大きくなり過ぎ、高分子/無機複合体TIMの特性を凌駕することは困難である。一方、10nm未満では、フィルム自体の熱抵抗は小さくなるが自立膜としての取り扱いが極めて困難となる。10nm〜15μmの厚さであれば、従来の高分子/無機フィラー複合体よりはるかに優れた耐熱特性を有し、従来のTIMと比較して、耐熱性、耐久性に優れている。
【0034】
グラファイトフィルムの面方向の熱伝導率は500W/mK以上が好ましく、1000W/mK以上がより好ましい。500W/mK未満では、柔軟性と圧縮性が低下する傾向がある。また、厚さ方向と面方向の熱伝導率の異方性は、100以上が好ましく、200以上がより好ましい。100未満では、柔軟性と圧縮性が低下する傾向がある。ここで、熱伝導率の異方性とは、フィルム面方向の熱伝導率の値と、厚み方向の熱伝導率の値について、大きい方の熱伝導率の値を、小さい方の熱伝導率の値で割った値である。
【0035】
グラファイトフィルムの密度は1.2〜2.26g/cmが好ましく、1.4〜2.26g/cmがより好ましく、1.6〜2.26g/cmがさらに好ましい。1.2g/cm未満ではグラファイトフィルム内の空気層が多くなり、グラファイトフィルムの熱伝導率が小さくなる傾向がある。なお、密度2.26g/cmは空気層を全く含まないグラファイトの密度であり、グラファイトフィルム中に空気層が含まれるかどうかはグラファイトフィルムの密度を測定することで確認できる。グラファイトフィルムの厚さ方向の熱伝導率を向上させることができるので、グラファイトフィルムの内部に空気層があまり存在しないことが望ましい。
【0036】
このような熱伝導率の値とその異方性を満たすと、TIMとして好ましい柔軟性と圧縮性を兼ね備えるグラファイトフィルムを提供できる。高品質のグラファイトは基本的に柔らかくフィルムの厚さ方向に圧縮され、グラファイトフィルム本来の性質とその薄さによって発現する柔軟性を利用して高性能TIMを実現出来る。
【0037】
(グラファイトフィルムの製造方法)
グラファイトフィルムの製造方法は特に限定されず、例えば、高分子フィルムを熱処理する方法によって得ることができる。高分子フィルムとしては、炭素含有率が高く、グラファイトのa−b面と類似の炭素環状構造を有するという観点から縮合系芳香族高分子である事が好ましい。中でも、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、高分子フィルムは、公知の製造方法で製造できる。
【0038】
上記高分子フィルムの中でも、高品質のグラファイトに転化させることができ、熱伝導率が大きくなる効果が顕著に現れるという点からポリイミドフィルムが好ましい。また、ポリイミドフィルムの中でも、グラファイトへの転化がより容易であるという点から、分子構造およびその高次構造が制御されたフィルム、すなわち、配向性に優れたフィルムが好ましい。これは、一般にグラファイト化反応をスムーズに進行させるためには、炭素前駆体中の分子が再配列する必要があるが、配向性にすぐれたポリイミドフィルムではその再配列が少なくて済むために、低温でも十分に高熱伝導性のグラファイトへの転化が進行するためであると推測される。
【0039】
ポリイミドフィルムは、例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液をエンドレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上に流延し、乾燥・イミド化させることにより製造することができる。また、蒸着重合によって形成したポリアミド酸薄膜を加熱し、イミド化させることによっても製造することができる。
【0040】
ポリアミド酸の有機溶剤溶液は、公知の方法で製造することができる。通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的に等モル量になるよう有機溶媒中に溶解させて、得られた溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによってポリアミド酸溶液を製造する。これらのポリアミド酸溶液は、通常5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る事が出来る。
【0041】
ポリアミド酸溶液には、必要に応じてリン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)などの、グラファイトを発泡させる効果のある添加剤を加えてもよい。
これらの発泡効果のある添加剤は、ポリアミド酸の原料成分の合計重量100重量部に対し、0〜0.1重量部添加することが好ましい。添加量が多いとグラファイトフィルム内の空気層が多くなるおそれがある。
【0042】
ポリアミド酸薄膜は、蒸着重合などの公知の方法で製造することができる。蒸着重合では、原料モノマーである芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、予め別々に加熱しておき、蒸着重合膜を形成するための基板を設置した真空状態の槽内に、同時に概ね等モルになるように、それぞれの蒸気を導入する事によって、基板上にポリアミド酸薄膜を形成する。モノマーとしては、通常のポリイミドを作製する際に使用するものを使用できるが、通常の溶液法による重合では使用が難しい、溶媒に難溶性であるものも使用可能である。また、通常の溶液法とは異なり、形成されるポリアミド酸薄膜中に溶媒や添加剤等の不純物が残らないため、高結晶性、高電気伝導度などの所望の特性のグラファイトフィルムを得やすいという利点がある。
【0043】
上記芳香族酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記ジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ポリアミド酸をイミド化させる方法は特に限定されず、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用い、イミド転化するケミカルキュア法を挙げることができる。得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすく、フィルムの焼成中に張力をかけたとしても破損することなく、また、品質の良いグラファイトを得ることができるという点から、ケミカルキュア法が好ましい。
【0046】
ケミカルキュア法によるフィルムの具体的な製造法としては、以下の方法が挙げられる。まず、ポリアミド酸溶液に、化学量論以上の脱水剤と触媒量のイミド化促進剤を加え、支持板やPET等の有機フィルム、ドラム又はエンドレスベルト等の支持体上に流延又は塗布して膜状とし、有機溶媒を蒸発させることにより自己支持性を有する膜を得る。次いで、これを更に加熱して乾燥させつつイミド化させ、ポリイミド重合体からなるポリイミドフィルムを得る。加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲の温度が好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは断続的に、徐々に加熱して最高温度が上記の温度になるようにするのが好ましい。さらに、ポリイミドの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり、延伸したりする工程を含む事が好ましい。
【0047】
次に、高分子フィルムの炭素化・グラファイト化の手法について述べる。炭素化の方法としては特に限定されず、例えば出発物質である高分子フィルムを不活性ガス中で予備加熱し、炭素化を行う。不活性ガスは、窒素、アルゴンあるいはアルゴンと窒素の混合ガスが好ましく用いられる。予備加熱は通常1000℃程度の温度で行う。予備加熱の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われないように、フィルムの破壊が起きない程度の面方向の張力を加える事が有効である。
【0048】
グラファイト化の方法としては特に限定されず、例えば上記の方法で炭素化されたフィルムを高温炉内にセットし、グラファイト化を行なう。グラファイト化は不活性ガス中で行なうが、不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えても良い。処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化でき、2000℃以上が好ましく、2400℃以上がより好ましく、2800℃以上が最も好ましい。このような高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行なう。
【0049】
なお、最終的に得られるグラファイトフィルムの厚さは、一般に出発高分子フィルムの厚さが1μm以上では、元の高分子フィルムの厚さの60〜30%程度となり、1μm未満では40%〜20%程度となる事が多い。一方、長さは100〜60%程度となる事が多い。従って、最終的に厚さ10nm〜15μmのグラファイトフィルムを得るためには、出発高分子フィルムの厚さは50nm〜50μmが好ましく、50nm〜25μmがより好ましく、100nm〜10μmが特に好ましい。
【0050】
(流動性物質)
層間熱接続部材は、さらに、常温以上で流動性を有する流動性物質を含むことが好ましい。グラファイトフィルムの表面を流動性物質でぬらす事により界面の熱抵抗を下げることができ、層間の熱抵抗を小さくし、すぐれた層間熱接続を実現することができる。流動性物質の含有量は、グラファイトフィルムの重量に対して1〜100重量%が好ましく、2〜50重量%であることがより好ましい。1重量%未満であると添加する効果がほとんど得られない傾向がある。100重量%を超えると、流動性物質の熱抵抗のために、複合体の熱接続抵抗が大きくなる傾向がある。ここで、「流動性」とは、液状であり室温で容易に流れる状態、あるいは、ペースト状で粘性が高く容易には流れないが、圧力をかけることにより変形したり広がったりすることが可能な状態を意味する。
【0051】
流動性物質としては特に限定されないが、油状物質や流動性高分子を挙げることができる。油状物質としては、鉱油、植物性油、合成油、精油食用油、動物性油、およびこれらの混合物が好ましい。流動性高分子としては、シリコーン樹脂が好ましい。中でも、TIMの特徴の一つである高耐熱性、高耐久性を失わないためには、蒸気圧の低い物質であることが望ましい。油状物質としては、1気圧での沸点が200℃以上、より好ましくは300℃以上であるものが好ましく、シリコーン樹脂としては、20℃〜100℃の間で流動性を有するものが好ましい。
【0052】
流動性物質を含ませる方法としては特に限定されず、グラファイトフィルムの表面に流動性物質を塗布したり、グラファイトフィルムを流動性物質中に浸漬したりすることで含ませることができる。
【0053】
(層間熱接続部材)
本発明の層間熱接続部材は、グラファイトフィルムのみから構成されていてもよく、また、上記の流動性物質や、金属薄膜、無機薄膜、複数のグラファイトフィルム等をさらに含むものであってもよい。
【0054】
(層間熱接続方法)
本発明の層間熱接続方法は、上記層間熱接続部材を熱接続する部材間に設置する工程を含む。層間に狭持させることにより、熱発生源あるいは熱発生源と熱的に接続された部材から、それ以下の温度である第二の部材へ熱を伝える層間熱接続を行うことができる。グラファイトフィルムが熱源に近い部材と熱源から遠い部材の間に挟持されて設置され、グラファイトフィルムとそれぞれの部材は直接面接触している。優れた耐熱性の層間熱接続を実現するため、各種の接着層を用いないでグラファイトフィルムのみで層間を熱接続することが好ましい。接着層を介さずに層間熱接続を実現する方法として、単に機械的な圧力で固定しても良い。機械的に、ビスやネジ、あるいはバネ等によってかしめる事は直接熱接続のため有効であり好ましい。
【0055】
グラファイトフィルムを狭持する層としては特に制限はないが、アルミニウム(熱伝導率:237W/mK)、銅(熱伝導率:398W/mK)、銀(熱伝導率:428W/mK)、ニッケル(熱伝導率:90W/mK)などの熱伝導率に優れた金属材料、シリカ(熱伝導率:1.5W/mK)、アルミナ(熱伝導率:20W/mK)、酸化マグネシュウム(MgO)(熱伝導率:40W/mK)、窒化ホウ素(BN)(熱伝導率:60W/mK)、窒化アルミ(AlN)(熱伝導率:70〜270W/mK)、炭化ケイ素(SiC)(熱伝導率:88〜128W/mK(結晶系により異なる))などのセラミック材料、またはこれらを組合せた基板を使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例では厚さや面方向の熱伝導率、密度の異なるグラファイトフィルムについて述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
なお、グラファイトフィルムの物性値は以下に示す方法で測定した。
<熱伝導率>
グラファイトフィルムの熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)製「LaserPit」)を用いて、23℃で真空下、10Hzにおいて測定した。測定された熱拡散率から密度および比熱の値を用いて熱伝導率を算出した。
【0058】
<密度>
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm)で除すことにより算出した。なお、グラファイトフィルムの厚みは走査型電子顕微鏡(SEM)によるグラファイトフィルムの断面観察によって決定した。
【0059】
<層間熱抵抗>
グラファイトフィルムを10mm×10mmのサイズに切断し、同じく縦横10mm×10mm、厚さ1.8mmの形状をしたセラミック製のモデルヒーター(発熱体としてのCPUを模擬)と銅ブロック(縦横15cm×15cm、厚さ10cm、ヒートシンクを模擬)の間に挟み、圧力1.0kgf/cm〜4.5kgf/cmを印加した。次にモデルヒーターに2.0Wの電力を供給し、5分後のモデルヒーターの温度と銅ブロックの温度をそれぞれに埋め込まれた熱電対を用いて測定した。モデルヒーター・銅ブロックの層間の熱抵抗値R(K・cm/W)は、モデルヒーターの温度をT、銅ブロックの温度をTとして、以下の式で計算した。
R=(T−T)/2
【0060】
[実施例1〜7]
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミン(モル比で4/3/1)から調製したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して100〜200℃の平均線膨張係数1.6×10−5cm/cm/℃、複屈折率0.14で、厚さの異なる7種類のポリイミドフィルムを製造した。フィルム厚さはそれぞれ25.5μm、12.1μm、5.3μm、2.1μm、1.0μm、0.6μm、0.3μmであった。
【0061】
得られたポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に、グラファイト化処理として、得られた炭素化フィルムを表面研磨したグラファイトブロックに挟み、円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で2800℃まで昇温、10分間保持し、その後40℃/分の速度で降温した。グラファイト化処理はアルゴン雰囲気で0.5kg/cmの加圧下でおこなった。このポリイミドフィルムは2800℃で良質グラファイトへの転化が可能である事が分った。
【0062】
得られた7種類(A〜G)のグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度はそれぞれ以下の通りであった。
(A)厚さ13μm、フィルム面方向熱伝導率:1200W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.5W/mK、密度1.9g/cm
(B)厚さ:4.5μm、フィルム面方向熱伝導率:1300W/mK、厚さ方向熱伝導率4.7W/mK、密度1.9g/cm
(C)厚さ:2.6μm、フィルム面方向熱伝導率:1470W/mK、厚さ方向熱伝導率4.8W/mK、密度2.0g/cm
(D)厚さ:0.9μm、フィルム面方向熱伝導率:1500W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
(E)厚さ、0.3μm、フィルム面方向熱伝導率:1580W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
(F)厚さ、105nm、フィルム面方向熱伝導率:1600W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
(G)厚さ、18nm、フィルム面方向熱伝導率:1680W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
【0063】
図4に(F)のグラファイトフィルムの写真を示す。 図4は、PET基板上に厚さ105nmのグラファイトフィルム(F)を貼り付けて撮影した写真である。フィルムが薄いため背後の蛍光灯の光が透過している。図5は、その制限視野電子線回折像であり、高品質のグラファイトである事が分かる。
【0064】
厚さの異なる上記7種類のグラファイトフィルム(A)〜(G)の熱抵抗値を表1に示した。圧力は1.0〜4.5kgf/cmであり、―は未測定である。グラファイト膜厚が薄くなるに従い、熱抵抗値が小さくなり、本発明のTIMが極めて優れた熱抵抗特性を有している事が分かった。
【0065】
【表1】
【0066】
なお、グラファイトフィルム(F)と(G)を比較すると膜厚がそれぞれ105nm、18nmであるにもかかわらず熱抵抗は(G)の方が大きくなった。(G)は極めて取り扱いが困難であり、その熱抵抗を正確に測定するのは困難であったが、界面の熱抵抗が大きくなったためと考えられる。この結果から実用上厚さ10nm〜15μmのグラファイトフィルムが好ましい事が分かった。
【0067】
[実施例8〜11]
上述の実施例1〜7の項で記載した方法と同じ方法で作製した、厚さ2.1μmのポリイミドフィルムを用い、グラファイト化処理の温度を変えて4種類のグラファイトフィルムを作製した。グラファイト化処理の温度はそれぞれ、2600℃(D−1)、2200℃(D−2)、2000℃(D−3)、1700℃(D−4)である。
【0068】
得られたグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度を以下に示す。
(D−1)厚さ:0.9μm、フィルム面方向熱伝導率:1400W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
(D−2)厚さ:1.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1100W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
(D−3)厚さ:1.1μm、フィルム面方向熱伝導率:500W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
(D−4)厚さ:1.3μm、フィルム面方向熱伝導率:390W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
【0069】
ほぼ同じ厚さのポリイミドフィルムでグラファイト化処理温度を変えて面方向の熱伝導率を変化させた上記グラファイトフィルム(D)および上記グラファイトフィルム(D−1)〜(D−4)を用いて、実施例1〜7と同じ方法で、各グラファイトフィルムをTIMとした場合の層間熱抵抗を測定した。結果を表2に示す。面方向の熱伝導率が390W/mKであるグラファイトフィルム(D−4)では、圧力の大きさにかかわらず層間の熱抵抗を0.5K・cm/W以下にする事は出来なかった。ただし層間の熱抵抗は従来の高性能TIMの熱抵抗(0.5K・cm/W)に近い値であり、さらに耐熱性、耐久性では圧倒的に優れているため、(D−4)も非常に有用なTIMであることに変わりはない。一方、面方向の熱伝導率が500W/mKである(D−3)では4.5kgf/cmの圧力で0.43K・cm/Wの特性を実現できた。この事から本発明のTIMとしては面方向の熱伝導率が500W/mK以上で、熱伝導率の異方性が100以上である事が望ましい事が分かった。
【0070】
【表2】
【0071】
[実施例12〜16]
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミン(モル比で3/1)のDMF溶液に、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、及び、ピロメリット酸二無水物(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミンの合計量と等モル)を添加して、ポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を調製した。該DMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して厚さ2.1μmのポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。
次に、グラファイト化処理として、得られた予備処理済炭素化フィルムを表面研磨したグラファイトブロックに挟み、円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、異なる昇温速度で2800℃まで昇温、10分間保持し、その後40℃/分の速度で降温することにより、密度の異なる5種類のグラファイトフィルムを作製した。グラファイト化処理はアルゴン雰囲気で0.5kg/cmの加圧下でおこなった。
各フィルムにおけるリン酸水素カルシウムの添加量、及び、グラファイト化処理における昇温速度を以下に示す。
リン酸水素カルシウムの添加量:ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミンの重量の合計100重量部に対し、(D−5)0.01重量部、(D−6)0.02重量部、(D−7)0.05重量部、(D−8)0.10重量部、及び、(D−9)0.10重量部。
昇温速度:(D−5)〜(D−8)は20℃/分、(D−9)は30℃/分。
【0072】
得られたグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度を以下に示す。
(D−5)厚さ:1.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1380W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.6W/mK、密度:1.8g/cm
(D−6)厚さ:1.2μm、フィルム面方向熱伝導率:1320W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.3W/mK、密度:1.5g/cm
(D−7)厚さ:1.5μm、フィルム面方向熱伝導率:1300W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.2W/mK、密度:1.2g/cm
(D−8)厚さ:2.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1240W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.0W/mK、密度:0.9g/cm
(D−9)厚さ:2.4μm、フィルム面方向熱伝導率:1210W/mK、厚さ方向熱伝導率:3.8W/mK、密度:0.75g/cm
【0073】
密度(発泡の程度)を変えて作製した上記5種類のグラファイトフィルム(D−5)〜(D−9)を用いて層間の熱抵抗を実施例1〜7と同様の方法で測定した。実験結果を表3に、グラファイトフィルム(D)の結果と共に示す。密度が0.9g/cmであるグラファイトフィルム(D−8)および0.75g/cmであるグラファイトフィルム(D−9)では、その圧力の大きさにかかわらず熱抵抗を0.5K・cm/W以下にする事はできなかった。この結果からグラファイトフィルムの密度としては1.2〜2.26g/cmが好ましい事が分かった。ただし、グラファイトフィルム(D−8)および(D−9)に関しても層間の熱抵抗は従来の高性能TIMに近い値であり、さらに耐熱性、耐久性では圧倒的に優れているため、これらも非常に有用なTIMであることに変わりはない。
【0074】
【表3】
【0075】
[実施例17〜19]
グラファイトフィルム(D−6)を市販のキャノーラ油(発煙点204℃)に浸漬し、その後吸油性の紙の上に置きキャノーラ油を吸収させて、それぞれキャノーラ油の含浸量の異なるグラファイトフィルムを作製した。含浸量は重量測定により行った。これらを用いて層間の熱抵抗を実施例1〜7と同様の方法で測定した。実験結果を表4に示す。2〜57重量%の量のオイルが含浸された場合には、キャノーラ油含浸のない場合の熱抵抗に比べて層間の熱抵抗を低下させることができ、特に圧力の小さい場合にはその効果は顕著であった。これは密度が1.5g/cmであるグラファイトフィルム(D−6)内の空隙に空気よりも熱伝導率の大きいキャノーラ油が挿入されたこと、およびグラファイトフィルム表面のキャノーラ油が界面の空気層を減らして界面の熱抵抗を小さくした効果であると考えられる。
【0076】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5