【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例では厚さや面方向の熱伝導率、密度の異なるグラファイトフィルムについて述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
なお、グラファイトフィルムの物性値は以下に示す方法で測定した。
<熱伝導率>
グラファイトフィルムの熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)製「LaserPit」)を用いて、23℃で真空下、10Hzにおいて測定した。測定された熱拡散率から密度および比熱の値を用いて熱伝導率を算出した。
【0058】
<密度>
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm
3)で除すことにより算出した。なお、グラファイトフィルムの厚みは走査型電子顕微鏡(SEM)によるグラファイトフィルムの断面観察によって決定した。
【0059】
<層間熱抵抗>
グラファイトフィルムを10mm×10mmのサイズに切断し、同じく縦横10mm×10mm、厚さ1.8mmの形状をしたセラミック製のモデルヒーター(発熱体としてのCPUを模擬)と銅ブロック(縦横15cm×15cm、厚さ10cm、ヒートシンクを模擬)の間に挟み、圧力1.0kgf/cm
2〜4.5kgf/cm
2を印加した。次にモデルヒーターに2.0Wの電力を供給し、5分後のモデルヒーターの温度と銅ブロックの温度をそれぞれに埋め込まれた熱電対を用いて測定した。モデルヒーター・銅ブロックの層間の熱抵抗値R(K・cm
2/W)は、モデルヒーターの温度をT
1、銅ブロックの温度をT
2として、以下の式で計算した。
R=(T
1−T
2)/2
【0060】
[実施例1〜7]
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミン(モル比で4/3/1)から調製したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して100〜200℃の平均線膨張係数1.6×10
−5cm/cm/℃、複屈折率0.14で、厚さの異なる7種類のポリイミドフィルムを製造した。フィルム厚さはそれぞれ25.5μm、12.1μm、5.3μm、2.1μm、1.0μm、0.6μm、0.3μmであった。
【0061】
得られたポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に、グラファイト化処理として、得られた炭素化フィルムを表面研磨したグラファイトブロックに挟み、円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で2800℃まで昇温、10分間保持し、その後40℃/分の速度で降温した。グラファイト化処理はアルゴン雰囲気で0.5kg/cm
2の加圧下でおこなった。このポリイミドフィルムは2800℃で良質グラファイトへの転化が可能である事が分った。
【0062】
得られた7種類(A〜G)のグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度はそれぞれ以下の通りであった。
(A)厚さ13μm、フィルム面方向熱伝導率:1200W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.5W/mK、密度1.9g/cm
3
(B)厚さ:4.5μm、フィルム面方向熱伝導率:1300W/mK、厚さ方向熱伝導率4.7W/mK、密度1.9g/cm
3
(C)厚さ:2.6μm、フィルム面方向熱伝導率:1470W/mK、厚さ方向熱伝導率4.8W/mK、密度2.0g/cm
3
(D)厚さ:0.9μm、フィルム面方向熱伝導率:1500W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
3
(E)厚さ、0.3μm、フィルム面方向熱伝導率:1580W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
3
(F)厚さ、105nm、フィルム面方向熱伝導率:1600W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
3
(G)厚さ、18nm、フィルム面方向熱伝導率:1680W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
3
【0063】
図4に(F)のグラファイトフィルムの写真を示す。
図4は、PET基板上に厚さ105nmのグラファイトフィルム(F)を貼り付けて撮影した写真である。フィルムが薄いため背後の蛍光灯の光が透過している。
図5は、その制限視野電子線回折像であり、高品質のグラファイトである事が分かる。
【0064】
厚さの異なる上記7種類のグラファイトフィルム(A)〜(G)の熱抵抗値を表1に示した。圧力は1.0〜4.5kgf/cm
2であり、―は未測定である。グラファイト膜厚が薄くなるに従い、熱抵抗値が小さくなり、本発明のTIMが極めて優れた熱抵抗特性を有している事が分かった。
【0065】
【表1】
【0066】
なお、グラファイトフィルム(F)と(G)を比較すると膜厚がそれぞれ105nm、18nmであるにもかかわらず熱抵抗は(G)の方が大きくなった。(G)は極めて取り扱いが困難であり、その熱抵抗を正確に測定するのは困難であったが、界面の熱抵抗が大きくなったためと考えられる。この結果から実用上厚さ10nm〜15μmのグラファイトフィルムが好ましい事が分かった。
【0067】
[実施例8〜11]
上述の実施例1〜7の項で記載した方法と同じ方法で作製した、厚さ2.1μmのポリイミドフィルムを用い、グラファイト化処理の温度を変えて4種類のグラファイトフィルムを作製した。グラファイト化処理の温度はそれぞれ、2600℃(D−1)、2200℃(D−2)、2000℃(D−3)、1700℃(D−4)である。
【0068】
得られたグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度を以下に示す。
(D−1)厚さ:0.9μm、フィルム面方向熱伝導率:1400W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
3
(D−2)厚さ:1.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1100W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.0g/cm
3
(D−3)厚さ:1.1μm、フィルム面方向熱伝導率:500W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
3
(D−4)厚さ:1.3μm、フィルム面方向熱伝導率:390W/mK、厚さ方向熱伝導率:5.0W/mK、密度2.1g/cm
3
【0069】
ほぼ同じ厚さのポリイミドフィルムでグラファイト化処理温度を変えて面方向の熱伝導率を変化させた上記グラファイトフィルム(D)および上記グラファイトフィルム(D−1)〜(D−4)を用いて、実施例1〜7と同じ方法で、各グラファイトフィルムをTIMとした場合の層間熱抵抗を測定した。結果を表2に示す。面方向の熱伝導率が390W/mKであるグラファイトフィルム(D−4)では、圧力の大きさにかかわらず層間の熱抵抗を0.5K・cm
2/W以下にする事は出来なかった。ただし層間の熱抵抗は従来の高性能TIMの熱抵抗(0.5K・cm
2/W)に近い値であり、さらに耐熱性、耐久性では圧倒的に優れているため、(D−4)も非常に有用なTIMであることに変わりはない。一方、面方向の熱伝導率が500W/mKである(D−3)では4.5kgf/cm
2の圧力で0.43K・cm
2/Wの特性を実現できた。この事から本発明のTIMとしては面方向の熱伝導率が500W/mK以上で、熱伝導率の異方性が100以上である事が望ましい事が分かった。
【0070】
【表2】
【0071】
[実施例12〜16]
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミン(モル比で3/1)のDMF溶液に、リン酸水素カルシウム(CaHPO
4)、及び、ピロメリット酸二無水物(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミンの合計量と等モル)を添加して、ポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を調製した。該DMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して厚さ2.1μmのポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。
次に、グラファイト化処理として、得られた予備処理済炭素化フィルムを表面研磨したグラファイトブロックに挟み、円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、異なる昇温速度で2800℃まで昇温、10分間保持し、その後40℃/分の速度で降温することにより、密度の異なる5種類のグラファイトフィルムを作製した。グラファイト化処理はアルゴン雰囲気で0.5kg/cm
2の加圧下でおこなった。
各フィルムにおけるリン酸水素カルシウムの添加量、及び、グラファイト化処理における昇温速度を以下に示す。
リン酸水素カルシウムの添加量:ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び、p−フェニレンジアミンの重量の合計100重量部に対し、(D−5)0.01重量部、(D−6)0.02重量部、(D−7)0.05重量部、(D−8)0.10重量部、及び、(D−9)0.10重量部。
昇温速度:(D−5)〜(D−8)は20℃/分、(D−9)は30℃/分。
【0072】
得られたグラファイトフィルムの厚さと熱伝導率、密度を以下に示す。
(D−5)厚さ:1.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1380W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.6W/mK、密度:1.8g/cm
3
(D−6)厚さ:1.2μm、フィルム面方向熱伝導率:1320W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.3W/mK、密度:1.5g/cm
3
(D−7)厚さ:1.5μm、フィルム面方向熱伝導率:1300W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.2W/mK、密度:1.2g/cm
3
(D−8)厚さ:2.0μm、フィルム面方向熱伝導率:1240W/mK、厚さ方向熱伝導率:4.0W/mK、密度:0.9g/cm
3
(D−9)厚さ:2.4μm、フィルム面方向熱伝導率:1210W/mK、厚さ方向熱伝導率:3.8W/mK、密度:0.75g/cm
3
【0073】
密度(発泡の程度)を変えて作製した上記5種類のグラファイトフィルム(D−5)〜(D−9)を用いて層間の熱抵抗を実施例1〜7と同様の方法で測定した。実験結果を表3に、グラファイトフィルム(D)の結果と共に示す。密度が0.9g/cm
3であるグラファイトフィルム(D−8)および0.75g/cm
3であるグラファイトフィルム(D−9)では、その圧力の大きさにかかわらず熱抵抗を0.5K・cm
2/W以下にする事はできなかった。この結果からグラファイトフィルムの密度としては1.2〜2.26g/cm
3が好ましい事が分かった。ただし、グラファイトフィルム(D−8)および(D−9)に関しても層間の熱抵抗は従来の高性能TIMに近い値であり、さらに耐熱性、耐久性では圧倒的に優れているため、これらも非常に有用なTIMであることに変わりはない。
【0074】
【表3】
【0075】
[実施例17〜19]
グラファイトフィルム(D−6)を市販のキャノーラ油(発煙点204℃)に浸漬し、その後吸油性の紙の上に置きキャノーラ油を吸収させて、それぞれキャノーラ油の含浸量の異なるグラファイトフィルムを作製した。含浸量は重量測定により行った。これらを用いて層間の熱抵抗を実施例1〜7と同様の方法で測定した。実験結果を表4に示す。2〜57重量%の量のオイルが含浸された場合には、キャノーラ油含浸のない場合の熱抵抗に比べて層間の熱抵抗を低下させることができ、特に圧力の小さい場合にはその効果は顕著であった。これは密度が1.5g/cm
3であるグラファイトフィルム(D−6)内の空隙に空気よりも熱伝導率の大きいキャノーラ油が挿入されたこと、およびグラファイトフィルム表面のキャノーラ油が界面の空気層を減らして界面の熱抵抗を小さくした効果であると考えられる。
【0076】
【表4】