(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043191
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】モータ速度制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20161206BHJP
【FI】
H02P29/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-3364(P2013-3364)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-135860(P2014-135860A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】亀山 智寿
【審査官】
尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−155294(JP,A)
【文献】
特開2003−084839(JP,A)
【文献】
特開平09−093971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00− 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位装置からの速度指令値と、モータ位置検出器で検出されたモータ位置検出値から演算する速度検出値と、に基づきモータの回転数を制御するモータ速度制御装置であって、
前記速度指令値と前記速度検出値の差である速度偏差値を演算する減算器と、
前記速度偏差値を入力として速度偏差比例成分を出力する速度比例演算器、および、前記速度偏差値を入力として速度偏差積分成分を出力する速度積分演算器を有し、速度比例演算器および速度積分演算器の出力に基づきトルク指令を出力するトルク指令出力部と、
前記速度積分演算器のゲインを、前記トルク指令の値に応じて変更する積分ゲイン操作器と、
を備え、
前記積分ゲイン操作器は、前記速度積分演算器のゲインを、前記トルク指令が予め規定された閾値を超えた場合には0に、前記トルク指令が前記閾値以下の場合には予め規定された積分ゲインに、設定する、
ことを特徴とするモータ速度制御装置。
【請求項2】
上位装置からの速度指令値と、モータ位置検出器で検出されたモータ位置検出値から演算する速度検出値と、に基づきモータの回転数を制御するモータ速度制御装置であって、
前記速度指令値と前記速度検出値の差である速度偏差値を演算する減算器と、
前記速度偏差値を入力として速度偏差比例成分を出力する速度比例演算器、および、前記速度偏差値を入力として速度偏差積分成分を出力する速度積分演算器を有し、速度比例演算器および速度積分演算器の出力に基づきトルク指令を出力するトルク指令出力部と、
前記速度積分演算器のゲインを、磁束密度の指令値と磁束密度の推定値との誤差量に応じて変更する積分ゲイン操作器と、
を備え、
前記積分ゲイン操作器は、
モータへの磁束密度指令と、モータの磁束密度の推定値と、の差分量を算出し、
前記差分量が予め規定された閾値以下の場合には、前記速度積分演算器のゲインを予め規定された積分ゲインに設定し、前記差分量が予め規定された閾値を超えた場合には、前記速度積分演算器のゲインとして0を設定するとともに、前記速度積分演算器の積算値をリセットする指令を出力する、
ことを特徴とするモータ速度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸等におけるモータ速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の主軸において、主軸の回転数を変化させる時には、高速かつオーバシュートを生じることなく目標の回転数となることが望ましく、その方式に関しては各種の試みがなされている。
【0003】
図6に従来技術のモータ制御装置のブロック図を示す。微分器11は、モータ8に取り付けられた位置検出器7の位置検出値Pmからの出力を微分し、速度検出値Vmを出力する。減算器2は、上位制御装置1から出力される速度指令値Vcから前記速度検出値Vmを減算し、速度偏差値Vdを出力する。該速度偏差値Vdと速度ループ比例ゲインPvと速度ループ積分ゲインIvに基づき、速度偏差比例演算器3と速度偏差積分演算器4がそれぞれ速度偏差比例成分と速度偏差積分成分を出力し、加算器5が速度偏差比例成分と速度偏差積分成分を加算しトルク指令Tcを出力する。該トルク指令Tcに基づき電流制御部6がモータ8の電流を制御する。積分ゲイン操作器9は、前記速度偏差値Vdを入力とし、前記速度偏差積分演算器4で演算に用いる速度ループ積分ゲインとして速度ループ積分ゲイン指令Ivsを出力する。
【0004】
図7に積分ゲイン操作器9のブロック図を示す。絶対値化器920により、入力された前記速度偏差値Vdが絶対値化され、速度偏差絶対値|Vd|となり、比較器921が前記速度偏差値|Vd|と速度偏差基準定数Vdlimとを比較し、切替器925が、前記速度偏差絶対値|Vd|が前記速度偏差基準定数Vdlimより大きい場合は前記速度ループ積分ゲイン指令として0を出力し、前記速度偏差絶対値|Vd|が前記速度偏差基準定数Vdlim以下の場合は前記速度ループ積分ゲイン指令として速度ループ積分ゲインIvを出力する。
【0005】
モータの回転数を変化させるため加減速する場合には、前記速度偏差値Vdが大きく発生する。速度偏差値Vdの値に関わらず速度ループ積分ゲインIvが常に一定の場合、前記速度偏差積分演算器4が、速度ループ積分ゲインIvに基づき、速度偏差積分成分を演算し、速度偏差積分成分が大きくなるため、速度検出値Vmが前記速度指令値Vc近傍に到達したときに、前記速度偏差積分成分により、余分なトルクが出力され、オーバシュートが生じる。一方、
図6のモータ制御装置では、前記速度偏差値Vdが前記速度偏差基準定数Vdlimより大きい場合は、速度ループ積分ゲインは0となるため、速度偏差積分成分は0となり、速度検出値Vmが前記速度指令値Vc指令回転数近傍に到達した際に、余分なトルクが出力されず、オーバシュートが小さくなる。
【0006】
図8は前記積分ゲイン操作器9がないモータ制御装置での、速度指令値Vc、速度検出値Vm、速度偏差値Vdおよび速度偏差積分成分の動作例を示す。速度指令値Vcを変化させた直後から、速度偏差積分成分が大きくなり、速度検出値Vmが速度指令値Vcの近傍になったときに、前記速度偏差積分成分の余分なトルク指令Tcが出力され、オーバシュートが生じる。
図9に
図6のモータ制御装置での速度指令値Vc、速度検出値Vm、速度偏差値Vdおよび速度偏差積分成分の動作例を示す。速度偏差値Vdが速度偏差基準定数Vdlimより小さくなるまで速度偏差積分成分は0のままであるため、
図8に対して、速度検出値Vmが速度指令値Vcの近傍に到達したときの、速度偏差積分成分が小さく、余分なトルク指令Tcも小さいため、オーバシュートを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−236883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6に示した従来技術において、速度偏差基準定数Vdlimは一定の値であるが、実際には、この速度偏差基準定数Vdlimの最適値は、前記速度指令値Vcや主軸のイナーシャによって異なる。よって、速度偏差基準定数Vdlimが最適値より大きい場合はオーバシュートが生じ、速度偏差基準定数Vdlimが最適値より小さい場合は速度指令値Vcへの到達時間が長くなるという課題がある。また、そもそも、従来は、速度偏差の大きさに基づいて速度ループ積分ゲインの値を切り替えていたが、この速度偏差は、実際に生じているモータトルクや指令トルクの大きさを直接表すパラメータではない。したがって、この速度偏差に基づいて、オーバシュートや到達時間の長期化の原因となるモータの指令トルクへの追従性の悪さを改善することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のモータ速度制御装置は、上位装置からの速度指令値と、モータ位置検出器で検出されたモータ位置検出値から演算する速度検出値と、に基づきモータの回転数を制御するモータ速度制御装置であって、前記速度指令値と前記速度検出値の差である速度偏差値を演算する減算器と、前記速度偏差値を入力として速度偏差比例成分を出力する速度比例演算器、および、前記速度偏差値を入力として速度偏差積分成分を出力する速度積分演算器を有し、速度比例演算器および速度積分演算器の出力に基づきトルク指令を出力するトルク指令出力部と、前記速度積分演算器のゲインを、前記トルク指令の値に応じて変更する積分ゲイン操作器と、を備え、前記積分ゲイン操作器は、前記速度積分演算器のゲインを、前記トルク指令が予め規定された閾値を超えた場合には0に、前記トルク指令が前記閾値以下の場合には予め規定された積分ゲインに、設定する。
【0011】
本発明のモータ速度制御装置は、上位装置からの速度指令値と、モータ位置検出器で検出されたモータ位置検出値から演算する速度検出値と、に基づきモータの回転数を制御するモータ速度制御装置であって、前記速度指令値と前記速度検出値の差である速度偏差値を演算する減算器と、前記速度偏差値を入力として速度偏差比例成分を出力する速度比例演算器、および、前記速度偏差値を入力として速度偏差積分成分を出力する速度積分演算器を有し、速度比例演算器および速度積分演算器の出力に基づきトルク指令を出力するトルク指令出力部と、前記速度積分演算器のゲインを、磁束密度の指令値と磁束密度の推定値との誤差量に応じて変更する積分ゲイン操作器と、を備え、前記積分ゲイン操作器は、モータへの磁束密度指令と、モータの磁束密度の推定値と、の差分量を算出し、前記差分量が予め規定された閾値以下の場合には、前記速度積分演算器のゲインを予め規定された積分ゲインに設定し、前記差分量が予め規定された閾値を超えた場合には、前記速度積分演算器のゲインとして0を設定するとともに、前記速度積分演算器の積算値をリセットする指令を出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモータ速度制御装置によれば、速度指令値や主軸のイナーシャによらず、オーバシュートを防止しつつ、高速にモータの速度を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態であるモータ速度制御装置を示すブロック図である。
【
図3】積分ゲイン操作器の他の例を示すブロック図である。
【
図4】モータ速度制御装置の動作を説明する図である。
【
図6】従来のモータ速度制御装置を示すブロック図である。
【
図7】
図6の積分ゲイン操作器を示すブロック図である。
【
図8】積分ゲイン操作器がない場合のモータ速度制御装置の動作を説明する図である。
【
図9】
図6のモータ速度制御装置の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態であるモータ速度制御装置について図面を参照して説明する。従来技術と同一要素には同一符号を付しており説明は省略する。モータ速度制御装置の制御ブロック図を
図1に示す。積分ゲイン操作器9は、前記トルク指令値Tcを入力とし、前記速度偏差積分演算器4で演算に用いる速度ループ積分ゲインとして速度ループ積分ゲイン指令Ivsを出力する。あるいは、積分ゲイン操作器9は、前記速度検出値Vmより磁束密度指令演算部10で演算された磁束密度指令φcと前記電流制御部6より公知の磁束密度オブザーバ等で演算され、出力される磁束密度推定値φeを入力とし、前記速度偏差積分演算器4で演算に用いる速度ループ積分ゲインとして速度ループ積分ゲイン指令Ivsを出力する。
【0015】
図2に、積分ゲイン操作器9のブロック図を示す。比較器901が前記トルク指令値Tcとトルク指令基準定数Tclimとを比較し、切替器905が、前記トルク指令値Tcが前記トルク指令基準定数Tclimより大きい場合は前記速度ループ積分ゲイン指令として0を出力し、前記トルク指令値Tcがトルク指令基準定数Tclim以下の場合は前記速度ループ積分ゲイン指令としてIvを出力する。ここで、トルク指令基準定数Tclimとしては、想定する最大の主軸イナーシャと所望の加速度の積から演算するトルク値を設定することが望ましい。なお、「所望の加速度」は、速度ループ比例ゲインPvおよび速度ループ積分ゲインIvの応答性から定まるもので、応答性が高いほど、所望の加速度の値も大きくなる。
【0016】
図4に、
図2の積分ゲイン操作器9を搭載したモータ速度制御装置での、速度指令値Vc、速度検出値Vm、トルク指令Tcおよび速度偏差積分成分の動作例を示す。トルク指令基準定数Tclimに、想定する最大のイナーシャと所望の加速度の積から演算するトルク値を設定することで、トルク指令値Tcがトルク指令基準定数Tclimより小さくなるまで、すなわち、所望のトルクが出力できる状態(モータがトルク指令に追従できる状態)まで、トルク値速度偏差積分成分は0のままであるため、
図9に対して、速度検出値Vmが速度指令値Vcの近傍になったときの、速度偏差積分成分が小さく、余分なトルク指令Tcも小さいため、オーバシュートを抑制することができる。
【0017】
図3に、積分ゲイン操作器9の他の例のブロック図を示す。減算器911が前記磁束密度指令φcと、前記磁束密度推定値φeとの差を磁束密度誤差φdとして出力し、絶対値化器912が絶対値化した磁束密度誤差絶対値|φd|を出力する。前記磁束密度推定値φeは、実測が困難な磁束密度を、モータへの印加電流値等から推測した推定値である。かかる磁束密度の推定には、公知のオブザーバなどを利用できるため、ここでの詳説は省略する。したがって、この磁束密度誤差絶対値|φd|は、磁束密度の指令値と、現時点の磁束密度の値との差分量とみなすことができる。
【0018】
比較器913が前記磁束密度誤差絶対値|φd|と磁束密度誤差基準定数φlimとを比較し、切替器917が、前記磁束密度誤差絶対値|φd|が前記磁束密度誤差基準定数φlimより大きい場合は、前記速度ループ積分ゲイン指令として0を出力し、また、速度偏差積分演算器4の積算値を0にリセットする積算成分0リセット信号RSTを出力する。一方、前記磁束密度誤差絶対値|φd|が前記磁束密度誤差基準定数φlim以下の場合は前記速度ループ積分ゲイン指令としてIvを出力する。
【0019】
図5に、
図3の積分ゲイン操作器9を搭載したモータ速度制御装置での、速度指令値Vc、速度検出値Vm、磁束密度指令φcと磁束密度推定値φeの動作例を示す。
図5は磁束密度誤差基準定数φlimを0としている。なお、ここでいう「0」とは、完全0ではなく、無視できる程度の誤差を含んだ、ほぼ0の値である。換言すれば、「前記磁束密度誤差絶対値|φd|が前記磁束密度誤差基準定数φlim以下の場合」というのは、前記磁束密度誤差絶対値|φd|がほぼ0の場合の意味であり、磁束密度の指令値と、実際の値(の推測値)と、がほぼ同じ場合の意味である。
【0020】
また、磁束密度誤差絶対値|φd|が0とは、磁束密度が所望の状態となり、その結果、所望のトルクが出力できる状態(モータがトルク指令に追従できる状態)であることを表している。前記磁束密度誤差絶対値|φd|が0でない場合、速度偏差積分成分は0のままであり、前記磁束密度誤差絶対値|φd|が0の場合、すなわち、所望のトルクが出力できる状態の場合、速度偏差積分演算器が有効に働くため、速度検出値Vmが速度指令値Vc近傍に到達したときの速度偏差積分成分が小さく、余分なトルク指令Tcも小さいため、オーバシュートを抑制することができる。なお、トルクは磁束密度φに比例するため、磁束密度誤差基準定数φlimには、磁束密度誤差絶対値|φd|に起因して発生する所望のトルクとのずれが、想定する最大のイナーシャと所望の加速度の積から演算するトルク値より小さくなるような値を設定してもよい。また、上述の説明では、指令トルクTc、または、磁束密度誤差絶対値|φd|のいずれか一方のみを用いる場合を例示したが、両方のパラメータに基づいて、速度ループ積分ゲインを切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 上位制御装置、2 減算器、3 速度偏差比例演算器、4 速度偏差積分演算器、5 加算器、6 電流制御部、7 位置検出器、8 モータ、9 積分ゲイン操作器、10 磁束密度指令演算部、11 微分器、901 比較器、902 トルク指令基準定数、903 速度偏差積分ゲイン定数、904 0定数、905 切替器、911 減算器、912 絶対値化器、913 比較器、914 磁束密度誤差基準定数、915 速度偏差積分ゲイン定数、916 0定数、917 切替器、920 絶対値化器、921 比較器、922 速度偏差基準定数、923 速度偏差積分ゲイン定数、924 0定数及びリセット信号、925 切替器。