特許第6043198号(P6043198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043198任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)における要素細分化法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043198
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)における要素細分化法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   G06F17/50 612J
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-22897(P2013-22897)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-164848(P2013-164848A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】13/371,804
(32)【優先日】2012年2月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509059893
【氏名又は名称】リバーモア ソフトウェア テクノロジー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100130568
【弁理士】
【氏名又は名称】金高 善子
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス アクエレット
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−244531(JP,A)
【文献】 特開2010−026581(JP,A)
【文献】 特開2011−248878(JP,A)
【文献】 特開2008−165804(JP,A)
【文献】 米国特許第07167816(US,B1)
【文献】 野村卓史 外1名,ALE有限要素流れ解析のためのメッシュ変形パターン生成法,土木学会論文集 [online],社団法人土木学会,1992年10月,No.455,pp.65−74,[2016年10月21日検索], J−STAGE,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1992/455/1992_455_65/_article/-char/ja/
【文献】 安藤周作 外1名,大領域変動を伴う流体構造連成有限要素解析における適応メッシュ制御,日本機械学会第21回計算力学講演会CD−ROM論文集 [online],一般社団法人日本機械学会,2008年11月,pp.906−907,[2016年10月21日検索], CiNii,URL,http://ci.nii.ac.jp/naid/110008702066/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
J−STAGE
CiNii
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限要素解析(FEA)モデルの任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)要素を細分化する方法であって、前記有限要素法は物理的領域の物理的現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて用いられるものであり、
前記ALE要素を細分化する方法は、
ALEに基づくFEAアプリケーションモジュールがインストールされたコンピュータシステムにおいて複数のALE要素によって物理的領域を表すFEAモデルを受け取るステップであって、ALE要素のそれぞれは六つの要素面を有する8ノードのソリッド有限要素であるステップと、
ユーザ特定条件に応じたFEAモデルを用いる時間進行シミュレーションの実行により、物理的領域のシミュレートされた物理的現象を取得するステップと、
を備える方法であり、
前記時間進行シミュレーションの実行が、
ユーザ定義の作動条件の検出に応じて細分化する工程であって、ALE要素のうちのいくつかを、ALE要素のうちのいくつかのそれぞれを複数の子要素へと分割することによって、細分化する段階と、ALE要素の前記それぞれの隣接要素のリストを決定するとともに生成し、ALE要素の前記それぞれのどの要素面が細分化されていない隣接要素のすぐ隣であるかを決定する段階と、備える細分化工程と、
各時間ステップの第一ソリューションフェーズにおいて、FEAモデルのFEAの実行により、シミュレートされた応答をALE要素の前記それぞれの変形したノード位置の形式で取得する工程と、
前記各時間ステップの第二ソリューションフェーズにおいて、シミュレートされた応答を他のFEAメッシュにマッピングする工程と、
を備えており、
前記マッピング工程は、
前記変形したノード位置と前記他のFEAメッシュのノード位置に基づいてALE要素の前記それぞれの各要素面における少なくとも一つの材料フラックスを演算する段階と、
前記各要素面においてドナーと少なくとも一つの対応するレセプターとを決定する段階であって、該決定段階においては前記少なくとも一つの材料フラックスが前記ドナーから流出して前記少なくとも一つの対応するレセプターへと流入する段階と、
前記各要素面が細分化されていない要素と細分化された要素との間に位置する場合、前記少なくとも一つの対応するレセプターにおいて受け取られる前記少なくとも一つの材料フラックスの各部分を演算し、その他の場合は該各部分を前記ドナーにおいて演算する段階と、
前記各部分を前記ドナーから前記少なくとも一つの対応するレセプターへと分配する段階と、
を備えている方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ユーザ特定条件は初期条件を備える方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、ユーザ特定条件は境界条件を備える方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、ユーザ定義の作動条件は、時間進行シミュレーションの開始時に実行される一回の細分化を備える方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、ユーザ定義の作動条件は、周期的に実行される複数回の細分化を備える方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、ユーザ定義の作動条件は、一つ以上の特定の基準が満たされた場合に実行される複数回の細分化を備える方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記一つ以上の特定の基準には、予め定義された閾値より大きな圧力変化の検出が含まれる方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、前記一つ以上の特定の基準には、先の時間ステップからの構造境界の出現が含まれる方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、さらに、ALE要素の前記いくつかの前記それぞれが、一より多い材料を含んでいる場合、子要素の前記それぞれの各体積分率を演算することを備える方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、少なくとも一つの材料フラックスが、前記変形したノード位置とマッピングされるFEMメッシュの前記ノード位置との間で体積差を有している方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記マッピングされるFEAメッシュは、FEAモデルの当初FEAメッシュである方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記マッピングされるFEAメッシュは、新しいユーザ定義のFEAメッシュである方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記第一ソリューションフェーズはラグランジュ法フェーズであり、前記第二ソリューションフェーズはALEに基づくFEAに関連する移流フェーズである方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記ドナーは、他のドナーの前記少なくとも一つのレセプターのうちの一つである方法。
【請求項15】
コンピュータシステムにおいて実行されたとき、方法に基づいて、物理的領域の物理的現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて用いられる有限要素解析(FEA)モデルの任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)要素を細分化する命令を備える非一時的コンピュータ可読記憶媒体において、
ALEに基づくFEAアプリケーションモジュールがインストールされたコンピュータシステムにおいて複数のALE要素によって物理的領域を表すFEAモデルを受け取る命令であって、ALE要素のそれぞれは六つの要素面を有する8ノードのソリッド有限要素である命令と、
ユーザ特定条件に応じたFEAモデルを用いる時間進行シミュレーションの実行により、物理的領域のシミュレートされた物理的現象を取得する命令と、
を備えるコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記時間進行シミュレーションの実行が、
ユーザ定義の作動条件の検出に応じて細分化する工程であって、ALE要素のうちのいくつかを、ALE要素のうちのいくつかのそれぞれを複数の子要素へと分割することによって、細分化する段階と、ALE要素の前記それぞれの隣接要素のリストを決定するとともに生成し、ALE要素の前記それぞれのどの要素面が細分化されていない隣接要素のすぐ隣であるかを決定する段階と、を備える細分化工程と、
各時間ステップの第一ソリューションフェーズにおいて、FEAモデルのFEAの実行により、シミュレートされた応答をALE要素の前記それぞれの変形したノード位置の形式で取得する工程と、
前記各時間ステップの第二ソリューションフェーズにおいて、シミュレートされた応答を他のFEAメッシュにマッピングする工程と、
を備えており、
前記マッピング工程は、
前記変形したノード位置と前記他のFEAメッシュのノード位置に基づいてALE要素の前記それぞれの各要素面における少なくとも一つの材料フラックスを演算する段階と、
前記各要素面においてドナーと少なくとも一つの対応するレセプターとを決定する段階であって、該決定段階においては前記少なくとも一つの材料フラックスが前記ドナーから流出して前記少なくとも一つの対応するレセプターへと流入する段階と、
前記各要素面が細分化されていない要素と細分化された要素との間に位置する場合、前記少なくとも一つの対応するレセプターにおいて受け取られる前記少なくとも一つの材料フラックスの各部分を演算し、その他の場合は該各部分を前記ドナーにおいて演算する段階と、
前記各部分を前記ドナーから前記少なくとも一つの対応するレセプターへと分配する段階と、
を備える非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項16】
物理的領域の物理的現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて用いられる有限要素解析(FEA)モデルの任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)要素を細分化するシステムにおいて、
明示的有限要素解析(FEA)アプリケーションモジュールに関するコンピュータ可読コードを記憶しているメインメモリと、
前記メインメモリに接続される少なくとも一つのプロセッサであって、該少なくとも一つのプロセッサが前記メインメモリ内の前記コンピュータ可読コードを実行して、明示的FEAアプリケーションモジュールに、方法に基づいてオペレーションを実行させるシステムであって、
複数のALE要素によって物理的領域を表すFEAモデルを受け取るオペレーションであって、ALE要素のそれぞれは六つの要素面を有する8ノードのソリッド有限要素であるオペレーションと、
ユーザ特定条件に応じたFEAモデルを用いる時間進行シミュレーションの実行により、物理的領域のシミュレートされた物理的現象を取得するオペレーションと、
を備えるシステムであって、
前記時間進行シミュレーションの実行が、
ユーザ定義の作動条件の検出に応じて細分化する工程であって、ALE要素のうちのいくつかを、ALE要素のうちのいくつかのそれぞれを複数の子要素へと分割することによって、細分化する段階と、 ALE要素の前記それぞれの隣接要素のリストを決定するとともに生成し、ALE要素の前記それぞれのどの要素面が細分化されていない隣接要素のすぐ隣であるかを決定する段階と、備える細分化工程と、
各時間ステップの第一ソリューションフェーズにおいて、FEAモデルのFEAの実行により、シミュレートされた応答をALE要素の前記それぞれの変形したノード位置の形式で取得する工程と、
前記各時間ステップの第二ソリューションフェーズにおいて、シミュレートされた応答を他のFEAメッシュにマッピングする工程と、
を備えており、
前記マッピング工程は、
前記変形したノード位置と前記他のFEAメッシュのノード位置に基づいてALE要素の前記それぞれの各要素面における少なくとも一つの材料フラックスを演算する段階と、
前記各要素面においてドナーと少なくとも一つの対応するレセプターとを決定する段階であって、該決定段階においては前記少なくとも一つの材料フラックスが前記ドナーから流出して前記少なくとも一つの対応するレセプターへと流入する段階と、
前記各要素面が細分化されていない要素と細分化された要素との間に位置する場合、前記少なくとも一つの対応するレセプターにおいて受け取られる前記少なくとも一つの材料フラックスの各部分を演算し、その他の場合は該各部分を前記ドナーにおいて演算する段階と、
前記各部分を前記ドナーから前記少なくとも一つの対応するレセプターへと分配する段階と、
を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ支援工学解析における要素細分化技術に関し、特に、有限要素解析に基づいた任意ラグランジュ・オイラー法(Arbitrary Lagrangian-Eulerian)(ALE)における要素細分化方法およびそれに関連するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)に基づく有限要素定式は、空間的に固定されない(例えばオイラー法に基づく有限要素定式)、あるいは材料から見た(例えばラグランジュ法に基づく有限要素定式)演算系を用いる。ALEに基づく有限要素シミュレーションは、従来のラグランジュ法に基づく有限要素シミュレーションやオイラー法に基づく有限要素シミュレーションが有する多くの欠点を軽減できる。ALE技術は、多くの工学的課題、例えば、流体−構造体相互作用、複数の材料を有する複数の物理域の連結(移動境界や界面)、金属成形/切断、鋳造(キャスティング)などに適用できる。
【0003】
工学的シミュレーションにおいてALE技術を用いる場合、領域の内部の演算メッシュは任意に移動でき、これにより、要素の形状を最適化することができ、同時に、境界や界面のメッシュは材料とともに移動でき、これにより、複数材料の系の境界や界面を正確に追跡することができる。
【0004】
ALEに基づく有限要素解析(FEA)を用いる時間進行シミュレーションにおいて、シミュレートされた応答は、各時間ステップにおける二つのソリューションフェーズあるいはサイクル(ラグランジュ法および移流(advection))において取得される。まず、ラグランジュ法フェーズにおいて、材料フラックスの形式のFEAメッシュモデルの応答が演算される。それに応じて、FEAメッシュのノードが移動される。次に、移流フェーズにおいて、演算された材料フラックスが、演算された材料フラックス(つまり測定される体積が変形する部分)をドナーから一つ以上のレセプターへと移動させることによって、当初の変形していないメッシュへとマッピング(写像)される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良好なシミュレーション応答を取得するためには、関心のある位置におけるFEAメッシュを細分化する必要がある。ALE要素の細分化に関する問題の一つは、従来技術アプローチにおいて問題であった演算結果のマッピングと関連する。したがって、ALEに基づいたFEAを用いる時間進行シミュレーションにおいてALE要素を細分化する方法およびシステムの改良が望まれよう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ALEに基づくFEAを用いる時間進行シミュレーションにおいて、FEAモデルのALE要素を細分化するシステムおよび方法を提供する。本発明の一の例示的態様では、複数のALE要素によって物理的領域(例えば物体を囲む空気または水のような流体、内部に複数の材料を有する固体)を表すFEAモデルが、物理的領域の物理的現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて定義され、用いられる。シミュレートされた応答は、ユーザが、製品の特定のデザインが適当か否かに関して製品の設計決定を行うのを支援するために用いられる。例えば空気を通じて移動する爆破源からの衝撃波、空気と飛行機との間の流体−構造体相互作用、波と船との間の流体−構造体相互作用が挙げられる。
【0007】
一群のALE要素は、ユーザによって定義された作動条件の検出に応じて細分化される。細分化プロシージャにおいて、各六面体すなわち8ノードソリッド親ALE要素は、八つの六面体子要素に分割される。細分化は複数のレベルで実行できる。各ALE要素は、少なくとも一つの材料を含んでいる。ALE要素が一つより多い材料を含んでいる場合、細分化オペレーションの直後に、子要素のそれぞれにおいて各材料を表す体積分率が演算される。限定するものではないが、作動条件には、静的細分化、動的細分化などが含まれる。動的細分化は、周期的に実行し、かつ/または閾値を超える圧力変化の検出や固体境界の出現などの他の条件に基づいて実行することができる。
【0008】
時間進行シミュレーションにおいて、各移流フェーズでは、各ドナーが、演算された材料フラックスを一つ以上のレセプターへとマッピングする。一つのドナーが、演算された材料フラックスを複数のレセプターへとマッピングする場合、各レセプターは、そのドナーからの材料フラックスのうちのそのレセプター自身の部分を演算する。ドナーが一つより多い材料を含んでいる場合、各レセプターはそのような状況を記述する必要がある。
【0009】
本発明のこれらおよび他の特徴、面および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付した図面を考慮してより理解されよう。図面は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の実施形態にかかる物理的領域の現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて用いられる有限要素解析(FEA)モデルの任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)要素を細分化する例示的なプロセスを示すフローチャートである。
図1B図1Aの例示的なプロセスのALE要素の細分化の、より詳細なオペレーションを示すフローチャートである。
図1C図1Aの例示的なプロセスの各時間ステップにおける移流フェーズのより詳細なオペレーションを示すフローチャートである。
図2A】本発明の一の実施形態にかかる種々の例示的な六面体ALE要素細分化スキームを図示する二次元図である。
図2B】本発明の一の実施形態にかかる種々の例示的な六面体ALE要素細分化スキームを図示する二次元図である。
図2C】本発明の一の実施形態にかかる種々の例示的な六面体ALE要素細分化スキームを図示する二次元図である。
図2D】本発明の一の実施形態にかかる種々の例示的な六面体ALE要素細分化スキームを図示する二次元図である。
図3A】本発明の一の実施形態にかかる、八つの子要素へと細分化される例示的な六面体ALE要素を示す図である。
図3B】本発明の一の実施形態にかかる、一つより多い材料を含んでいる例示的な親要素および子要素を示す二次元図である。
図4】本発明の一の実施形態にかかる、細分化された要素と細分化されていない要素との間の例示的な関係を示す図である。
図5A】本発明の一の実施形態にかかる、ラグランジュ法フェーズにおいて演算された材料フラックスの例示的な移流フェーズマッピングを示す概略図である。
図5B】本発明の一の実施形態にかかる、ラグランジュ法フェーズにおいて演算された材料フラックスの例示的な移流フェーズマッピングを示す概略図である。
図5C】本発明の一の実施形態にかかる、ラグランジュ法フェーズにおいて演算された材料フラックスの例示的な移流フェーズマッピングを示す概略図である。
図6A】本発明の一の実施形態にかかる、先に細分化された子要素の例示的な再結合を示す概略図である。
図6B】本発明の一の実施形態にかかる、先に細分化された子要素の例示的な再結合を示す概略図である。
図6C】本発明の一の実施形態にかかる、先に細分化された子要素の例示的な再結合を示す概略図である。
図7】本発明の実施形態を実現可能である例示的なコンピュータの主要な部品を示す機能図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1Aは、本発明の実施形態にかかる、物理的領域(例えば流体域)の物理的現象をシミュレートする時間進行シミュレーションにおいて用いられる有限要素解析(FEA)モデルの任意ラグランジュ・オイラー法(ALE)要素を細分化する例示的なプロセス100を示すフローチャートである。プロセス100は、ソフトウェアで実行される。プロセス100は、好ましくは本願の他の図面と組み合わせて理解されよう。
【0012】
ステップ102において、複数のALE要素によって物理的領域(例えば空気、海洋など)を表す有限要素解析(FEA)モデルを受け取ることによって、プロセス100がスタートする。次に、ステップ104において、ALEに基づくFEAを用いて、ユーザ特定条件に応じた物理的領域のシミュレートされた物理的現象(例えば空気力学、流体力学)を取得するよう、時間進行シミュレーションが実行される。限定するものではないが、ユーザ特定条件には、初期条件、境界条件、荷重条件などが含まれる。時間進行シミュレーションは、複数の時間ステップ(ときにソリューションサイクルともいう)で実行される。一般に、時間進行シミュレーションにおいては、初期のシミュレートされた応答は、時間ゼロ(t=0)で取得される。その後、以降のシミュレートされた応答は、時間ステップサイズ(Δt)で時間をインクリメントすることにより、多数の以降の時間ステップ(t=t+Δt)において取得される。
【0013】
ステップ106において、ALE要素細分化プロシージャがユーザ定義の作動条件の検出に応じて実行される。例えば、細分化は、時間進行シミュレーションの始まりに最初に一度だけ実行することができる。これを静的細分化という。また細分化を複数回周期的に、例えば10の(あるいは他の数の)時間ステップごとに、行うこともできる。さらに、ある基準が満たされた場合に、例えば、圧力変化がある要素において閾値より大きい(例えば衝撃波)場合に、あるいは構造境界がある要素において出現する場合に(図2Dを参照)、細分化を複数回実行することができる。図2Dの左側では、構造境界240がALE要素241〜243と交差している。動的細分化が実行されて(矢印として示す)、ALE要素241〜243のそれぞれが図2Dの右側に示す八つの子要素へと分割される。静的細分化とは対照的に、これらは動的細分化である。
【0014】
図1Bは、ALE要素細分化を実行する詳細なステップ106a〜106cを示す。ステップ106aにおいて、一群の六面体のALE要素(あるいくつかのALE要素を親要素という)が、各親要素302を図3Aにおいて示す八つの子要素304へと分割することにより、細分化される。図2Aは、ALE要素を細分化する一例の二次元図を示す。親ALE要素202は、八つの子要素204(二次元図のため四つだけを示す)へと細分化されている。一群の親ALE要素は、ユーザによって周知の方法で指定される。例えば、部品番号や識別子を、ALE要素のうちのどの要素を細分化するか指定するのに用いることができる。所望により、各子要素204をさらに八つの要素へと細分化することができる(図示せず)ことも付言しておく。必ずしも限定するものではないが、子要素を生成する他の選択的な例には、図2Bに示すように指定された親要素202の周囲に一層の子要素214をさらに形成すること、あるいは図2Cに示すように二層の子要素224をさらに形成することが含まれる。
【0015】
次に、ステップ106bにおいて、各要素に対して、移流フェーズにおけるマッピングペオレーションのため、隣接要素のリストおよびそれらの接続が決定され生成されて、例えば、少なくとも一つの材料フラックスの各部分がこのインフォーム(inform)を用いることにより計算される。また、ステップ106bにおいて、移流フェーズにおいて力のバランスおよび速度の補間のために、各要素のどの要素面が細分化されていない要素と隣接しているかが決定される。図4は、細分化された隣接要素412を有する子要素402と、細分化されていない要素414と隣接する他の子要素404と、を示す。例示の明瞭化および簡単化のために、三つの要素のみを図示しており、これら隣接要素を互いから離間して示している。
【0016】
ステップ106cにおいては、一つより多い材料を含んでいる親ALE要素に対しては、材料の各体積分率が子要素のそれぞれにおいて計算される。一例を図3Bに示す。親ALE要素312は三つの材料314〜316を含んでいる。細分化オペレーションの後、親ALE要素312は八つの子要素322になる。子要素のそれぞれに対して(例示の簡単化のため、二次元図において322a〜322dの四つのみを示す)、これらの三つの材料314−316に関する体積分率が計算される。例えば、要素322aは三つの材料を含んでおり、したがって三つの体積分率の演算が必要である。一方、要素322b〜322dは二つの材料しか含んでいない。体積分率は、材料体積、質量、ノードの質量、内部エネルギーなどの演算のために用いられることを付言しておく。
【0017】
ステップ112を参照して、時間進行シミュレーションの各時間ステップにおける第一ソリューションフェーズ(ラグランジュ法フェーズ)において、ノードの力が、FEAを用いてFEAモデルに対して演算される。そして、これに応じてFEAモデルが変形する。その結果、変形したノード位置の形式のシミュレートされた応答が取得される。次に、ステップ114では、各時間ステップにおける第二ソリューションフェーズ(移流フェーズ)において、第一ソリューションフェーズにおいて得られたシミュレートされた応答が、他のFEAメッシュ(一般的には当初のFEAメッシュすなわち初期のFEAメッシュ)にマッピングされる。他のFEAメッシュもまた任意にユーザによって定義された新しいメッシュとできることを付言しておく。
【0018】
マッピングオペレーションにおいて、プロセス100は、まず、図1Cに示すステップ114aにおいて、変形したノード位置とマッピングされるFEAメッシュのノード位置との間の体積差を用いて、各ALE要素の各要素面における少なくとも一つの材料フラックスを計算する。そして、ステップ114bにおいては、ドナーおよび少なくとも一つの対応するレセプターが、材料フラックスの方向によって決定される。ドナーは、特定の要素面において材料フラックスを与える要素である。一方、レセプターは材料フラックスを受け取る要素である。すなわち、材料フラックスはドナーから一つ以上のレセプターへと流れる。ある環境下では、ドナーは、他のドナーのレセプターにもなりえる。言いかえれば、第一ALE要素は、第二ALE要素に材料フラックスを与えると同時に、第三ALE要素から他の材料フラックスを受け取る。ドナーおよびレセプターを決定するには、各ALE要素に関する隣接要素のリスト(例えば、細分化された要素の細分化されていない隣接要素をリストするステップ106bにおいて生成されたリスト)がわかっている必要がある。
【0019】
次に、ステップ114cにおいて、要素面が細分化されていない要素と細分化された要素との間に位置する場合、分配される少なくとも一つの材料フラックスの各部分が、少なくとも一つのレセプターにおいて演算される。他の場合、演算はドナーにおいて実行される。最後に、ステップ114dにおいては、これに応じて、少なくとも一つの材料フラックスの計算された各部分が分配される。
【0020】
図5Aは、ALEに基づくFEAのソリューションマッピングの第一の例を示す。二つの当初は変形していないALE要素502および504を左側に示している。そして、これら要素は、中央に示すラグランジュ法フェーズ510の後に、変形される。材料フラックス503は、ドナーとしての要素502とともに陰影をつけた領域として例示しており、要素504をレセプターとして例示している。移流フェーズ520において、材料フラックスは、右側に示す当初のFEAメッシュにマッピングされる。
【0021】
図5Bに示す第二の例において、レセプター504は、八つの要素514に細分化される(二次元図のため四つだけを示す)。ドナーのすぐ隣の四つの子要素に関しては(二つのみを示す)、図の右側に示す材料フラックス503の各部分を演算する必要がある。
【0022】
図5Cは、要素522が部分的に材料を含んでいる(あるいは二つの材料を含んでいる)第三の例を示す。ラグランジュ法および移流フェーズ510〜520の後、ドナー要素に隣接している二つのレセプターの断面545に示すように、細分化された要素544における材料フラックス523は複雑である。
【0023】
ステップ116を再び参照して、プロセス100は、任意選択的に、もはや必要がなくなった、例えば、構造境界が出現し通過してしまった、先に細分化された子要素を再結合する。図6Aに示すように、八つの子要素602が一つのALE要素604へと再結合される。図6Bにおいて、ソリッド境界620は矢印622で示す方向に移動する。要素612(陰影をつけた領域で示す)は、もはや細分化する必要がないメッシュである。再結合の結果、図6Cにおいては、一つの要素614だけが示されている。
【0024】
最後に、プロセス100は判断118に移行し、時間進行シミュレーションが終了したか否か(例えばユーザ定義の終了時間)を決定する。「no」の場合、プロセス100は、ステップ106に戻り、判断118が真になるまで上記ステップが繰り返される。そして、プロセス100は、終了する。静的細分化が定義されている場合、ステップ106の細分化は一回だけ実行されることを付言しておく。
【0025】
一の側面において、本発明は、ここに説明した機能を実行可能な一つ以上のコンピュータシステムに対してなされたものである。コンピュータシステム700の一例を、図7に示す。コンピュータシステム700は、プロセッサ704など一つ以上のプロセッサを有する。プロセッサ704は、コンピュータシステム内部通信バス702に接続されている。種々のソフトウェアの実施形態を、この例示的なコンピュータシステムの点から説明する。この説明を読むと、いかにして、他のコンピュータシステムおよび/またはコンピューターアーキテクチャーを用いて、本発明を実行するかが、関連する技術分野に習熟している者には明らかになるであろう。
【0026】
コンピュータシステム700は、また、メインメモリ708好ましくはランダムアクセスメモリ(RAM)を有しており、そして二次メモリ710を有することもできる。二次メモリ710は、例えば、一つ以上のハードディスクドライブ712、および/またはフレキシブルディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブなどを表わす一つ以上のリムーバブルストレージドライブ714を有することができる。リムーバブルストレージドライブ714は、よく知られている方法で、リムーバブルストレージユニット718を読み取りおよび/またはリムーバブルストレージユニット718に書き込む。リムーバブルストレージユニット718は、リムーバブルストレージドライブ714によって読み取り・書き込みされるフレキシブルディスク、磁気テープ、光ディスクなどを表わす。以下にわかるように、リムーバブルストレージユニット718は、コンピューターソフトウェアおよび/またはデータを内部に記憶しているコンピュータで使用可能な記憶媒体を有している。
【0027】
代替的な実施形態において、二次メモリ710は、コンピュータプログラムあるいは他の命令をコンピュータシステム700にロードすることを可能にする他の同様な手段を有することもできる。そのような手段は、例えば、リムーバブルストレージユニット722とインタフェース720とを有することができる。そのようなものの例には、プログラムカートリッジおよびカートリッジのインタフェース(ビデオゲーム機に見られるようなものなど)と、リムーバブルメモリチップ(消去可能なプログラマブルROM(EPROM)、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュメモリ、あるいはPROMなど)および関連するソケットと、ソフトウェアおよびデータをリムーバブルストレージユニット722からコンピュータシステム700に転送することを可能にする他のリムーバブルストレージユニット722およびインタフェース720と、が含まれうる。一般に、コンピュータシステム700は、プロセススケジューリング、メモリ管理、ネットワーキングおよびI/Oサービスなどのタスクを行なうオペレーティングシステム(OS)ソフトウェアによって、制御され連係される。
【0028】
通信用インタフェース724も、また、バス702に接続することができる。通信用インタフェース724は、ソフトウェアおよびデータをコンピュータシステム700と外部装置との間で転送することを可能にする。通信用インタフェース724の例には、モデム、ネットワークインターフェイス(イーサネット(登録商標)・カードなど)、コミュニケーションポート、PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)スロットおよびカードなど、が含まれうる。コンピュータ700は、専用のセットの規則(つまりプロトコル)に基づいて、データネットワーク上の他の演算装置と通信する。一般的なプロトコルのうちの一つは、インターネットにおいて一般に用いられているTCP/IP(伝送コントロール・プロトコル/インターネット・プロトコル)である。一般に、通信インタフェース724は、データファイルをデータネットワーク上で伝達される小さいパケットへのアセンブリングを管理し、あるいは受信したパケットを元のデータファイルへと再アセンブルする。さらに、通信インタフェース724は、正しい宛先に届くようそれぞれのパケットのアドレス部分に対処し、あるいはコンピュータ700が宛先となっているパケットを他に向かわせることなく受信する。この書類において、「コンピュータプログラム媒体」および「コンピュータで使用可能な媒体」という用語は、リムーバブルストレージドライブ714および/またはハードディスクドライブ712に組み込まれたハードディスクなどの媒体を概ね意味して用いられている。これらのコンピュータプログラム製品は、コンピュータシステム700にソフトウェアを提供する手段である。本発明は、このようなコンピュータプログラム製品に対してなされたものである。
【0029】
コンピュータシステム700は、また、コンピュータシステム700をアクセスモニタ、キーボード、マウス、プリンタ、スキャナ、プロッタなどに提供する入出力(I/O)インタフェース730を有することができる。
【0030】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御ロジックともいう)は、メインメモリ708および/または二次メモリ710にアプリケーションモジュール706として記憶される。コンピュータプログラムを、通信用インタフェース724を介して受け取ることもできる。このようなコンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、コンピュータシステム700がここに説明した本発明の特徴を実行することが可能になる。詳細には、コンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、プロセッサ704が本発明の特徴を実行することが可能になる。したがって、このようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステム700のコントローラを表わしている。
【0031】
ソフトウェアを用いて発明が実行される実施形態において、ソフトウェアをコンピュータプログラム製品に記憶でき、リムーバブルストレージドライブ714、ハードドライブ712あるいは通信用インタフェース724を用いてコンピュータシステム700へとロードすることができる。アプリケーションモジュール706は、プロセッサ704によって実行された時、アプリケーションモジュールによって、プロセッサ704がここに説明した本発明の機能を実行する。
【0032】
所望のタスクを達成するために、I/Oインタフェース730を介したユーザ入力によってあるいはよることなしに、一つ以上のプロセッサ704によって実行することができる一つ以上のアプリケーションモジュール706を、メインメモリ708に、ロードすることもできる。動作においては、少なくとも一つのプロセッサ704がアプリケーションモジュール706のうちの一つが実行されると、結果が演算されて二次メモリ710(つまりハードディスクドライブ712)に記憶される。有限要素解析の状況は、テキストあるいはグラフィック表現で、I/Oインタフェース730を介してユーザに報告される。
【0033】
一の実施形態において、アプリケーションモジュール706は、製品を表す有限要素解析モデルの生成を容易にするよう構成される。アプリケーションモジュール706は、さらに,明示的有限要素解析とともに用いられるサブサイクリングおよび質量スケーリング(mass scaling)の技術を組み合わせることもできる。他の実施形態において、アプリケーションモジュール706は、サブサイクリングにより安定したソリューションを維持するよう、ある変形した有限要素に対する質量スケーリングを容易にするように、構成される。
【0034】
本発明を具体的な実施形態を参照しながら説明したが、これらの実施形態は単なる例示であって、本発明を限定するものではない。開示した例示的な実施形態に対する種々の変更あるいは変形を、当業者は思いつくであろう。例えば、二次元図を例示し説明したが、本発明は三次元の六面体要素に対してなされる。さらに、概略的に一つの材料のみを例示し説明したが、本発明はモデルにおいて一つの材料に限定されない。また、例示の簡単化のため、材料フラックスが一つのALE要素から他の要素へと流れる例を示した。任意のALE要素が、材料フラックスを同時に受け取り、与えることができる。つまり、発明の範囲は、ここで開示した具体的で例示的な実施形態に限定されず、当業者が容易に想到するあらゆる変更が、本願の精神および認識範囲そして添付の特許請求の範囲の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
202 親ALE要素
204 子要素
214 追加的な一層の子要素
224 追加的な二層の子要素
240 構造境界
241〜243 ALE要素
302 親要素
304 子要素
312 親要素
314〜316 材料
322 子要素
402 子要素
404 他の子要素
414 細分化されていない要素
502 当初は変形していないALE要素
503 材料フラックス
504 当初は変形していないALE要素
510 ラグランジュ法フェーズ
520 移流フェーズ
514 細分化された要素
522 部分的に材料を含んでいる要素
523 材料フラックス
545 レセプターの断面
602 子要素
604 ALE要素
612 細分化する必要がないメッシュである要素
614 再結合された要素
620 ソリッド境界
622 ソリッド境界の移動方向
718 リムーバブルストレージユニット
722 リムーバブルストレージユニット
710 2次メモリ
712 ハードディスクドライブ
714 リムーバブルストレージドライブ
720 インタフェース
708 メインメモリ(RAM)
706 モジュール
704 プロセッサ
702 バス
724 通信インタフェース
730 I/Oインタフェース
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7