(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リチウムを含むリチウム含有化合物、及び、タンタルを含むタンタル含有化合物を含む原料を溶融させて融液を準備し、この融液からタンタル酸リチウム単結晶を製造するタンタル酸リチウム単結晶の製造方法であって、
前記原料中にフッ素を含むフッ素含有化合物を配合し、前記フッ素含有化合物として、前記融液の温度よりも低い融点を有し且つ前記融液の温度よりも高い沸点を有するフッ化マグネシウムを用いる、タンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム単結晶は、光学的品質に優れ、比較的安価で、大口径の結晶を育成することが可能であることから、非線形光学効果及び電気光学効果等を用いた各種光学素子としてよく用いられている。特に、タンタル酸リチウムを用いた非線形効果による波長変換デバイスは、緑色のレーザダイオードが実用化されていない現状においては、レーザプロジェクタやレーザディスプレイなどの光学機器に必須な高出力の緑色レーザを得る唯一の手段であると言っても過言ではない。このように、タンタル酸リチウム単結晶は非常に有用な単結晶として注目されている。
【0003】
しかし、タンタル酸リチウム単結晶には欠陥が多く存在する。このため、タンタル酸リチウム単結晶には、光透過率が低く、光に対するダメージ耐性が低いという問題があった。このため、これまで、タンタル酸リチウム単結晶の欠陥を少なくするために種々の研究がなされてきた。例えば下記特許文献1では、Mgを所定の割合で添加することにより、タンタル酸リチウム単結晶の欠陥を少なくすることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載のタンタル酸リチウム単結晶は、いまだ欠陥が多く、品質の点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良質なタンタル酸リチウム単結晶を製造できるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、タンタル酸リチウム単結晶の原料を溶融させる際、原料中にフッ素含有化合物を配合させることにより、優れた品質のタンタル酸リチウム単結晶が得られる場合があることに気付いた。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、原料の溶融温度よりも融点が低く且つ沸点が高いフッ素含有化合物を原料中に配合することで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、リチウムを含むリチウム含有化合物、及び、タンタルを含むタンタル含有化合物を含む原料を溶融させて融液を準備し、この融液からタンタル酸リチウム単結晶を製造するタンタル酸リチウム単結晶の製造方法であって、前記原料中にフッ素を含むフッ素含有化合物を配合し、前記フッ素含有化合物として、前記融液の温度よりも低い融点を有し且つ前記融液の温度よりも高い沸点を有する
フッ化マグネシウムを用いる、タンタル酸リチウム単結晶の製造方法である。
【0009】
この製造方法によれば、欠陥が少なく、良質なタンタル酸リチウム単結晶を得ることができる。このため、得られるタンタル酸リチウム単結晶は、高い透過率を有することが可能となり、レーザ光に対する耐性が向上する。また本発明によれば、フッ素含有化合物の沸点が、原料の融液の温度より高いため、フッ素含有化合物の揮発が十分に抑制される。
【0010】
上記のように欠陥が少なく、良質なタンタル酸リチウム単結晶が得られる理由について、本発明者らは以下のように推測している。即ち、まずフッ素は、タンタル酸リチウム単結晶における酸素欠陥に入り込み、酸素欠陥を少なくする働きを有するものと考えられる。そして、フッ素含有化合物の沸点が、原料の融液の温度より高いと、フッ素含有化合物の揮発が十分に抑制され、原料中のフッ素含有量の減少を十分に抑制できる。その結果、タンタル酸リチウム単結晶中の酸素欠陥の濃度を減少させることができるのではないかと本発明者らは推測している。
【0011】
上記製造方法において、前記フッ素含有化合物の沸点と前記融液の温度との差が200℃以上であることが好ましい。
【0012】
この場合、フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差が200℃未満である場合と比べて、より欠陥が少なく、より良質なタンタル酸リチウム単結晶を得ることができる。
【0013】
なお、本発明において、「タンタル酸リチウム単結晶」には、タンタル、リチウム、酸素の一部がこれら以外の元素によって置換されているものも含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良質なタンタル酸リチウム単結晶を製造できるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法の実施形態について説明する。
【0017】
本発明は、リチウムを含むリチウム含有化合物、及び、タンタルを含むタンタル含有化合物を含む原料を溶融させて融液を準備し、この融液からタンタル酸リチウム単結晶を製造するタンタル酸リチウム単結晶の製造方法であって、原料中にフッ素を含むフッ素含有化合物を配合し、このフッ素含有化合物として、融液の温度よりも低い融点を有し且つ融液の温度よりも高い沸点を有するフッ素含有化合物を用いるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法である。
【0018】
この製造方法によれば、欠陥が少なく、良質なタンタル酸リチウム単結晶を得ることができる。このため、得られるタンタル酸リチウム単結晶は、高い透過率を有することが可能となり、レーザ光に対する耐性が向上する。さらに本発明の製造方法によれば、フッ素含有化合物の沸点が、原料の融液の温度より高いため、フッ素含有化合物の揮発が十分に抑制される。
【0019】
以下、上記タンタル酸リチウム単結晶の製造方法について具体的に説明する。
【0020】
はじめに、タンタル酸リチウム単結晶の製造方法の説明に先立ち、上記単結晶を製造する結晶製造装置について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るタンタル酸リチウム単結晶の製造方法を実施する製造装置を概略的に示す切断面端面図である。
図1に示すように、単結晶製造装置100は、イリジウム製ルツボ1と、ルツボ1を収容するセラミック製の筒状容器2と、筒状容器2の周囲に巻回される高周波コイル3とを主として備えている。高周波コイル3は、ルツボ1に誘導電流を生じさせ、ルツボ1を加熱するためのものである。
【0021】
次に、上記タンタル酸リチウム単結晶の製造方法について説明する。
【0022】
まず、リチウムを含むリチウム含有化合物、タンタルを含むタンタル含有化合物、及びフッ素を含むフッ素含有化合物を含む原料を準備する。
【0023】
リチウム含有化合物は、リチウムを含む化合物であれば特に制限されるものではない。リチウムを含むリチウム含有化合物としては、例えばLi
2CO
3などが挙げられる。
【0024】
タンタル含有化合物は、タンタルを含む化合物であれば特に制限されるものではない。タンタルを含むタンタル含有化合物としては、例えばTa
2O
5などが挙げられる。
【0025】
フッ素含有化合物は、その沸点が融液の温度よりも高く且つその融点が融液の温度よりも高い化合物であれば特に制限されるものではない。ここで、融液の温度は、通常は1600〜1700℃になるように調整される。融液の温度は、タンタル酸リチウムの融点(1650℃)となるように調整されることが好ましい。この場合、タンタル酸リチウムの単結晶を成長させやすくすることができる。
【0026】
このようなフッ素含有化合物は金属のフッ化物で構成される。
【0027】
金属としては、例えばMg、Ca、Li,Zn,Sc及びInなどが挙げられる。中でも、Mgが好ましい。この場合、金属がMg以外である場合と比べて、更にレーザー光に対する耐性が向上する。なお、フッ素含有化合物は、1種類単独で用いてもよいが、複数種類のフッ素含有化合物の混合物を用いてもよい。
【0028】
フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差は0℃より大きければよいが、200℃以上であることが好ましい。
【0029】
この場合、フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差が200℃未満である場合と比べて、より安定してフッ素を結晶内に供給することができる。
【0030】
フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差はより好ましくは400℃以上であり、さらに好ましくは600℃以上である。但し、フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差は好ましくは1000℃以下であり、より好ましくは700℃以下である。
【0031】
融液4の温度が1600〜1700℃である場合、フッ素含有化合物の沸点と融液の温度との差が200℃以上となるフッ素含有化合物としては、例えばMgF
2、CaF
2などが挙げられる。
【0032】
リチウム含有化合物に対するタンタル含有化合物のモル比は通常は、リチウム含有化合物中のリチウム原子数に対するタンタル含有化合物中のタンタル原子数の比が1〜1.5となるようにすればよい。
【0033】
またフッ素含有化合物の配合量は、リチウム含有化合物とタンタル含有化合物の合計100モルに対して0.1〜10モルとすることが好ましい。フッ素含有化合物の配合量が上記範囲内にあると、上記範囲の上限値を超える場合に比べて、得られるタンタル酸リチウム単結晶においてクラックがより生じにくくなる。またフッ素含有化合物の配合量が上記範囲内にあると、上記範囲の下限値未満である場合に比べて、欠陥をより減少させ、レーザー光に対する耐性をより向上させることができる。フッ素含有化合物の配合量は、リチウム含有化合物とタンタル含有化合物の合計100モルに対して0.5〜5モルとすることがより好ましい。
【0034】
次に、上記原料をルツボ1に投入する。
【0035】
次に、高周波コイル3に電流を印加する。すると、ルツボ1が加熱され、ルツボ1内で原料が溶融され、融液4が得られる。このとき、融液4の温度は、通常は1600〜1700℃である。
【0036】
続いて、上記融液4からチョクラルスキー法によって単結晶6を製造する。具体的には、棒状の種結晶5を用意し、その種結晶5の先端を融液4に漬けた後、種結晶5を所定の回転数で回転させながら、所定の引上げ速度で
図1の矢印A方向に向かって引き上げてバルク状の単結晶6を製造する。
【0037】
このとき、種結晶5としては、例えばタンタル酸リチウムからなる単結晶を用いることができる。
【0038】
また種結晶5の回転数は、好ましくは3〜50rpmとし、より好ましくは3〜15rpmとする。
【0039】
また引上げ速度は、好ましくは0.1〜10mm/hとし、より好ましくは1〜5mm/hとする。
【0040】
また種結晶5の引上げは、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガスとしては、通常は窒素が用いられる。このとき、不活性ガスには、フッ化物を混入させることが好ましい。この場合、単結晶内に、より十分にフッ素を導入することができる。このようなフッ化物としては、例えばCF
4、CH
2F
2、CH
3F、C
2H
5F、HF及びF
2が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、不活性ガスには、少量の酸素を混ぜてもよい。また種結晶5の引上げは通常は、大気圧下で行う。
【0041】
なお、タンタル酸リチウム単結晶の製造装置は、上記製造装置100に限定されるものではなく、他の構成を有する製造装置によっても製造することは可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
まずLi
2CO
3粉末(純度99.99%)、Ta
2O
5粉末(純度99.99%)およびMgF
2粉末(純度99.99%、融点1248℃、沸点(T1)2260℃)を用意し、これらの粉末を含む原料を乾式混合した後、原料を、直径50mm、深さ50mmの筒状のルツボ1に詰めた。このとき、Li
2CO
3粉末およびTa
2O
5粉末は、モル比でLi
2CO
3粉末:Ta
2O
5粉末=0.4875:0.5125となるように混合し、MgF
2粉末は、Li
2CO
3粉末およびTa
2O
5粉末の合計100モルに対して0.75モルとなるように配合した。
【0044】
続いて、高周波コイル3に電流を印加してルツボ1を加熱して原料を溶融させ、融液4を得た。このとき、融液4の温度T2は、パイロメーターを用いて測定しながら、1650℃となるように調整した。続いて、タンタル酸リチウム単結晶からなる3×3×50mmの角棒状の種結晶5を用意し、その種結晶5の先端を融液4に漬けた後、種結晶5を、10rpmの回転数で回転させながら、3mm/hの引上げ速度で引き上げた。このとき、筒状容器2内に1L/minの流量で窒素を流し込み、大気圧下、窒素雰囲気で種結晶5の引上げを行った。
【0045】
こうして直径20mmのバルク状単結晶を得た。
【0046】
こうして得られた単結晶についてX線回折を行ったところ、LiTaO
3のピークが確認された。
【0047】
(比較例1)
MgF
2粉末を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして単結晶を得た。こうして得られた単結晶についても、実施例1と同様にして組成を調べたところ、LiTaO
3のピークが確認された。
【0048】
(比較例2)
MgF
2粉末に代えて、MgO粉末(純度99.99%)を配合したこと以外は実施例1と同様にして単結晶を得た。こうして得られた単結晶についても、実施例1と同様にして組成を調べたところ、LiTaO
3のピークが確認された。
【0049】
[特性評価]
上記のようにして得られた実施例1及び比較例1〜2の単結晶について欠陥の評価を行った。欠陥は一般に、単結晶の吸収端近傍の波長における透過率が低い場合には多く存在し、透過率が高い場合には少なく存在することが知られている。このため、欠陥は、タンタル酸リチウム単結晶の吸収端波長である約270nm近傍の280nmにおける透過率の大小により、欠陥の程度、すなわち品質を調べることが可能である。そこで、タンタル酸リチウム単結晶の吸収端波長である約270nm近傍の280nmにおける透過率を欠陥の程度の指標とした。透過率は、実施例1及び比較例1〜2の単結晶を厚さ1mmのz面ウェハに切り出し、このウェハについて、透過スペクトル測定装置(パーキンエルマー社製Lambda 900)を用いて測定した。結果を表1に示す。なお、表1において、透過率は、比較例1の単結晶の280nmの波長における透過率を100とした場合の相対値を表示している。
【表1】
【0050】
表1に示す結果より、実施例1の単結晶においては、280nmの波長における透過率が、比較例1〜2の単結晶の同波長における透過率よりも十分に大きいことが分かった。
【0051】
よって、本発明のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法によれば、欠陥が少なく、良質なタンタル酸リチウム単結晶が得られることが確認された。