(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記薄膜は、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングによって薄膜パターンを形成するために設けられたものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
前記カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンは、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングによって前記薄膜にパターンを形成するときに、エッチングを阻害する要因となる物質であることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マスクブランクは通常、膜の表面に存在する油滴やパーティクル等の除去を目的として、洗浄水や界面活性剤が含まれた洗浄液を用いた洗浄が行われる。また、レジスト膜形成後のプロセスにおける微細パターンの剥がれや倒れを防止するため、レジスト膜の塗布前に、マスクブランクの表面エネルギーを低減させておくための表面処理が行われる場合もある。この場合の表面処理としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やその他の有機シリコン系の表面処理剤でマスクブランクの表面をアルキルシリル化することなどが行われる。
【0006】
マスクブランクの欠陥検査は、その表面にレジスト膜を形成する前や、レジスト膜を形成した後に行われる。そして、所望の仕様(品質)を満足するマスクブランクをエッチングすることによって、転写用マスクが製造される。特許文献1に記載のマスクブランクをエッチングするエッチング工程では、マスクブランク上に形成したレジスト膜に描画・現像・リンスを行い、レジストパターンを形成した後、レジストパターンをマスクにして、反射防止層をエッチングして反射防止層パターンを形成する。反射防止層のエッチングでは、酸素含有塩素系ガスあるいはフッ素系ガスが用いられる。つぎに、反射防止層パターンをマスクにして、遮光層をエッチングして遮光層パターンを形成する。遮光層のエッチングでは、酸素非含有塩素系ガスが用いられる。最後に、レジスト膜を除去することによって、転写用マスクが完成する。完成した転写用マスクは、マスク欠陥検査装置により、黒欠陥、白欠陥がないか検査され、欠陥が見つかった場合は、EB照射等の修正技術を用いて欠陥が修正される。
【0007】
タンタル系材料からなる遮光膜を備えたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造した場合、クロム系材料からなる遮光膜を備えたマスクブランクを用いた場合よりも、黒欠陥が多く発生するという問題が生じていた。このタンタル系材料からなる遮光膜を備えたマスクブランクは、レジスト塗布前の段階で行った欠陥検査では、欠陥数は許容範囲内の個数であった。つまり、マスクブランクの欠陥検査では検出されないが、マスクブランクを用いて転写用マスクを製造した後の欠陥検査において初めて検出される微小黒欠陥が多く存在することがわかった。この微小黒欠陥は、基板の表面にスポット状に存在するサイズが20〜100nmで、高さが薄膜の膜厚相当のものであり、半導体デザインルールでDRAMハーフピッチ32nm以降の転写用マスクを作製する場合に初めて認識されたものである。このような微小黒欠陥は、半導体デバイスを製造するに際しては致命欠陥となるもので全て除去・修正しなければならないが、欠陥数が50個を超えると欠陥修正の負荷が大きく、事実上欠陥修正が困難である。また、近年の半導体デバイスの高集積化において、転写用マスクに形成される薄膜パターンの複雑化(例えば、OPCパターン)、微細化(例えば、アシストバー等のSub-Resolution Assist Feature)、狭小化によって、欠陥の除去・修正にも限界があり問題となっていた。
【0008】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、転写用マスクの黒欠陥の発生を抑制することのできるマスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述のマスクの微小黒欠陥の発生要因について調査したところ、マスクブランクの欠陥検査では検出されない潜在化した欠陥が一つの要因であることを突き止めた。
そして、上述の潜在化したマスクブランクの欠陥は、カルシウム等のエッチングを阻害する要因となる物質がマスクブランクの表面に存在することによって発生していることがわかった。
【0010】
本発明は上述の課題を解決するための手段として、以下の構成を有する。
(構成1)
基板上に薄膜が形成された構造を有するマスクブランクであって、
前記薄膜は、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、ニッケル、チタン、パラジウム、モリブデンおよびケイ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、
一次イオン種がBi
3++、一次加速電圧が30kV、一次イオン電流が3.0nAの測定条件とした飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によって、前記薄膜の表面を測定したときのカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度が、1.0×10
−3以下であることを特徴とするマスクブランク。
なお、本明細書でいう規格化2次イオン強度とは、薄膜の表面に一次イオンが照射されたことによって、薄膜の表面から放出された二次イオンを前記の測定範囲でカウントした総個数で、対象のイオン(カルシウムイオン等)の個数を除して算出した数値である。
【0011】
(構成2)
前記薄膜は、タンタルを含有する材料からなることを特徴とする構成1に記載のマスクブランク。
(構成3)
前記薄膜は、表層に酸素を含有した酸化層を有することを特徴とする構成2に記載のマスクブランク。
(構成4)
前記薄膜は、前記基板側から下層と上層の積層構造を有し、前記上層は、酸素を含有していることを特徴とする構成2に記載のマスクブランク。
【0012】
(構成5)
前記薄膜は、エッチングによって薄膜パターンを形成するために設けられたものであることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成6)
前記規格化二次イオン強度は、一次イオン照射領域を一辺が200μmである四角形の内側の領域とした測定条件で行われたものであることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【0013】
(構成7)
前記カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンは、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングによって前記薄膜にパターンを形成するときに、エッチングを阻害する要因となる物質であることを特徴とする構成1に記載のマスクブランク。
【0014】
(構成8)
前記基板は、露光光に対して透過性を有するガラス基板であり、
前記薄膜は、このマスクブランクから転写用マスクを作製する際に転写パターンを形成するために用いられるものであることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記基板と薄膜の間に露光光を反射する機能を有する多層反射膜を備え、
前記薄膜は、このマスクブランクから転写用マスクを作製する際に転写パターンを形成するために用いられるものであることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成10)
構成1から9のいずれかに記載のマスクブランクの前記薄膜にドライエッチングによって転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
(構成11)
前記ドライエッチングは、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いることを特徴とする構成10に記載の転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の測定条件による飛行時間型二次イオン質量分析法で薄膜表面を測定したときのカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度が1.0×10
−3以下であるマスクブランクとしたことにより、エッチングで薄膜にパターンを形成して転写用マスクを作製した際、黒欠陥の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマスクブランクを完成させるに当たり、転写用マスクにおける微小黒欠陥の発生要因を調べるため、以下の実験・考察を行った。
【0019】
転写用マスクにおける微小黒欠陥の発生要因を調べるため、2種類のマスクブランクを用意した。1つは、タンタル系材料からなる薄膜が形成されたマスクブランク、もう1つは、クロム系材料からなる薄膜が形成されたマスクブランクである。
タンタル系材料からなる薄膜が形成されたマスクブランクとして、透光性基板上に、実質的にタンタルと窒素とからなるTaNの遮光層(膜厚:42nm)と、実質的にタンタルと酸素とからなるTaOの反射防止層(膜厚:9nm)の積層構造からなるバイナリーマスクブランク(以下、タンタル系マスクブランクと称し、そのマスクをタンタル系マスクと称す。)を用意した。
クロム系材料からなる薄膜が形成されたマスクブランクとして、透光性基板上に、実質的にクロムと酸素と窒素と炭素からなるCrCONの膜(膜厚:38.5nm)と、実質的にクロムと酸素と窒素からなるCrONの膜(膜厚:16.5nm)の積層構造の遮光層と、実質的にクロムと酸素と窒素と炭素からなるCrCONの反射防止層(膜厚:14nm)の積層構造からなるバイナリーマスクブランク(以下、クロム系マスクブランクと称し、そのマスクをクロム系マスクと称す。)を用意した。
【0020】
上述の2種類のバイナリーマスクブランクに対して、反射防止層上に付着している異物(パーティクル)や、遮光層、反射防止層に混入している異物(パーティクル)の除去を目的として、界面活性剤が含有されたアルカリ性洗浄液を、マスクブランク表面に供給し、表面洗浄を行った。
表面洗浄を行ったマスクブランクの表面について、マスクブランク欠陥検査装置(M1350:レーザーテック社製)により欠陥検査を行った。その結果、いずれのマスクブランクにおいても、薄膜の表面にパーティクルやピンホール等の欠陥を確認することができなかった。
【0021】
次に、前記と同様の表面洗浄を行った2種類のマスクブランクを用いて転写用マスクを作製した。タンタル系マスクブランクについては、マスクブランク表面にレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクにしてフッ素系(CF
4)ガスを用いたドライエッチングを行い、反射防止層をパターニングし、その後、反射防止層のパターンをマスクにして塩素系(Cl
2)ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光層をパターニングし、最後にレジストパターンを除去して、転写用マスク(タンタル系マスク)を作製した。 一方、クロム系マスクブランクについては、マスクブランク表面にレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクにして塩素系(Cl
2)ガスと酸素(O
2)ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、反射防止層と遮光層をパターニングし、最後にレジストパターンを除去して、転写用マスク(クロム系マスク)を作製した。
【0022】
得られた2種類の転写用マスクについて、マスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製)により欠陥検査を行った。その結果、タンタル系マスクには、微小黒欠陥が多数(50個超)存在していることが確認された。一方、クロム系マスクには、ほとんど微小黒欠陥は確認されなかった(マスク欠陥修正技術で実務上、修正可能な欠陥個数。)。なお、タンタル系マスクにおけるこの微小黒欠陥は、レジスト膜を形成する前のマスクブランクの汚れの除去等を目的としてUV処理、オゾン処理、あるいは加熱処理を行っても、同様に確認された。
【0023】
なお、上述のタンタル系マスクの微少黒欠陥は、フッ素系(CF
4)ガスを用いたドライエッチングによって反射防止層及び遮光層を一度にパターニングした場合においても、同様に確認された。
【0024】
欠陥検査により検出されたタンタル系マスクの微小黒欠陥について、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)にて明視野で断面観察を行った。断面観察を行う際には、薄膜パターンが形成された透光性基板の全面に白金合金をコーティングした。
その結果、微小黒欠陥は、高さが遮光層と反射防止層の積層膜の膜厚とほぼ同等であることが確認された。詳しくは、微少黒欠陥は、幅が約23nm、高さが約43nmの核に、5〜10nmの厚さの表面酸化物と思われる物質が積層した積層構造物であることが確認できた(
図1参照)。
【0025】
この結果から、タンタル系マスクブランクにおけるタンタル系材料からなる薄膜の表面に、最新のマスクブランク欠陥検査装置でも検出困難な状態(厚さ)で、エッチングを阻害する要因となる物質が付着していることが、微小黒欠陥の発生要因になっている可能性を考えた。具体的には、エッチング阻害要因物質として、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、またはそれらの化合物を考えた。これらの物質は、フッ素系ガスや塩素系ガスによる薄膜のドライエッチングの際に、フッ化カルシウム(沸点:2500℃)、フッ化マグネシウム(沸点:1260℃)、フッ化アルミニウム(沸点:1275℃)、や、塩化カルシウム(沸点:1600℃)、塩化マグネシウム(沸点:1412℃)等の化合物を生成し、これらの化合物がエッチング阻害物質となるためである。
【0026】
次に、タンタル系マスクブランクとクロム系マスクブランクとの間で、転写用マスクを作製した時に発生する微小黒欠陥の個数に大きな差が生じる理由が、前記のエッチング阻害物質にあるのかを確認するため、マスクブランク欠陥検査装置では検出されないマスクブランク表面のエッチング阻害要因物質の存在について調べた。
具体的には、アルカリ性洗浄液により表面洗浄された上述の2種類のマスクブランク(タンタル系マスクブランク、及び、クロム系マスクブランク)をそれぞれ5枚ずつ準備した。そして、各マスクブランクにおける薄膜の表面を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time-Of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により分析した。なお、このときのTOF−SIMSの測定条件は、一次イオン種をBi
3++、一次加速電圧を30kV、一次イオン電流を3.0nA、一次イオン照射領域を一辺が200μmである四角形の内側の領域とし、二次イオンの測定範囲は、0.5〜3000m/zと、いずれのマスクブランクも同条件とした。
【0027】
その結果、いずれのタンタル系マスクブランクにおいても、その薄膜の表面にエッチングを阻害する要因となる物質であるカルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムの各イオンのうちの少なくとも1種以上が検出された。カルシウム、マグネシウム、アルミニウムが検出された場合は、いずれも規格化二次イオン強度が、1.0×10
−3よりも大きかった。
【0028】
一方、クロム系マスクブランクにおいては、エッチングを阻害する要因となる物質であるカルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムの各イオンの規格化二次イオン強度は、いずれも極小であった(1.0×10
−4未満)。
【0029】
上述したように、タンタル系マスクブランクの薄膜の表面に付着していると推察されるエッチング阻害要因物質は厚みが薄いことから、マスクブランクの欠陥検査装置では検出困難である。薄膜の全面を原子間力顕微鏡(AFM)で走査してエッチング阻害要因物質が付着している箇所を特定することは不可能ではないが、検出に膨大な時間を要する。このため、洗浄液による表面洗浄を行ったタンタル系マスクブランクの薄膜(タンタル系膜)の上に、エッチング阻害要因物質が付着する恐れの少ないクロム系材料からなる薄膜を100nmの膜厚で2層分積層した。このようにすることで、タンタル系材料の薄膜にエッチング阻害要因物質が存在している凸部があれば、いわゆるデコレーション効果で凸部の高さが相対的に高くなり、マスクブランクの欠陥検査装置で凸欠陥として検出できるようになる。
【0030】
このような手法を使い、マスクブランクの欠陥検査装置で欠陥検査を行い、全ての凸欠陥の位置を特定した。特定した複数の凸欠陥について、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)にて暗視野で断面観察を行ったところ、表面にエッチング阻害要因物質からなる層が形成されていることを確認することができた(
図2参照)。このとき、STEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いて、エッチング阻害要因物質を構成する元素について分析も行った。EDXによる分析は、エッチング阻害要因物質の存在が確認されているタンタル系薄膜の表面上の部分(
図2中のSpot1という記号で示された部分)と、参照データとして、エッチング阻害要因物質の存在が確認されていないタンタル系薄膜の表面上の部分(
図2中のSpot2という記号で示された部分)のそれぞれに対して行った。その結果、Spot1の箇所では、Ca(カルシウム)とO(酸素)の検出強度が高かったのに対し、Spot2の箇所では、Ca(カルシウム)の検出強度が非常に小さかった。この分析結果から、Spot1には、エッチング阻害要因物質であるカルシウムを含有する物質からなる層が存在していると推定できる。
【0031】
クロム系マスクブランクについても、同様にクロム系材料からなる薄膜を積層した上で、マスクブランクの欠陥検査装置で欠陥検査を行った。検出された凸欠陥について、同様にSTEMでの断面観察とEDXによる元素の特定を行ったが、同様の層は見当たらなかった。
以上のTOF−SIMSとSTEMの結果から、タンタル系マスクブランクとクロム系マスクブランクとの間で、転写用マスクを作製した時に発生する微小黒欠陥の個数に大きな差が生じる理由が、そのエッチング阻害要因物質の付着数の違いによるものであることが明らかとなった。
【0032】
上記の各種検証の結果、タンタル系マスクブランクから転写用マスクを作製したときに多発する微小黒欠陥は、以下のように発生したものと推察される。
(1)マスクブランクの薄膜の表面には、カルシウム等のエッチング阻害要因物質が強固に付着している。このエッチング阻害要因物質の厚みは、極めて薄いので、最新のマスクブランクの欠陥検査装置によっても検出困難である(
図3(a))。
(2)フッ素系ガスによるドライエッチングにより、マスクブランクの薄膜表面の反射防止層(TaO)をパターニングする。このとき、反射防止層の表面に付着しているカルシウムとフッ素系ガスが反応し、フッ化カルシウムからなるエッチング阻害物質を形成する(
図3(b))。フッ化カルシウムは沸点が高く、フッ素系ガスによってもエッチングされにくいため、エッチング阻害物質となる。このエッチング阻害物質がマスクとなって、反射防止層(TaO)の一部がエッチングされずに残存する(
図3(c))。
(3)塩素系ガスによるドライエッチングによって、遮光層(TaN)をパターニングする。このとき、TaOは塩素系ガスに対するエッチングレートがTaNに比べて大幅に小さいことから、反射防止層の残りがマスクとなって、遮光層(TaN)の一部がエッチングされずに残存する。これにより、微少黒欠陥の核が形成される(
図3(d))。
(4)その後、微小黒欠陥の核の表面が酸化され、核の周りに酸化層が形成されることによって、基板(合成石英ガラス)の表面に微小黒欠陥が形成される(
図3(e))。
【0033】
前記の微小黒欠陥の発生メカニズムについては、カルシウムについて説明したが、エッチング阻害要因物質となるマグネシウム、アルミニウムについても、エッチングガスに含まれるフッ素や塩素等と反応してエッチング阻害物質を形成する可能性が高いことから、上述と同様のメカニズムにより微小黒欠陥を発生させると考えられる。また、カルシウムやマグネシウムのエッチング阻害要因物質は、塩素系ガスでドライエッチングした場合に、その塩素系ガスと反応して塩化カルシウムや塩化マグネシウムを形成する。これらの塩化物も沸点が高くドライエッチングされにくいため、エッチング阻害物質となりうる。なお、エッチング阻害要因物質とは、ドライエッチングガスに含まれるフッ素(F)や塩素(Cl)等と反応してエッチング阻害物質を生成する材料のことをいう。
【0034】
以上の実験、考察の結果、転写用マスクにおける微小黒欠陥の発生を抑制するマスクブランクとしては、以下の構成とするとよいという結論に至った。
具体的には、本発明のマスクブランクは、基板上に薄膜が形成された構造を有するマスクブランクであって、前記薄膜は、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、ニッケル、チタン、パラジウム、モリブデンおよびケイ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、一次イオン種がBi
3++、一次加速電圧が30kV、一次イオン電流が3.0nAの測定条件とした飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によって、前記薄膜の表面を測定したときのカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度が、1.0×10
−3以下であることを特徴とするものである。
【0035】
前記のTOF−SIMSによって薄膜の表面を測定した結果を考慮すると、転写用マスクを作製した際における微小黒欠陥の発生個数を50個以下に抑制するには、TOF−SIMSによって薄膜の表面を測定したときにおける、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度は、少なくとも1.0×10
−3以下とすることが必要である。また、転写用マスクを作製した際における微小黒欠陥の発生個数をさらに抑制する(例えば、40個以下)には、TOF−SIMSによって薄膜の表面を測定したときにおける、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度は、少なくとも5.0×10
−4以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、TOF−SIMSによって薄膜の表面を測定したときにおける、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度は、少なくとも1.0×10
−4以下である。
【0036】
前記のTOF−SIMSによる薄膜の表面の測定におけるその他の測定条件としては、一次イオン照射領域を一辺が200μmである四角形の内側の領域とすると好ましい。また、二次イオンの測定範囲は、0.5〜3000m/zとすると好ましい。
【0037】
また、マスクブランクの構成として、基板上に薄膜が形成された構造を有するマスクブランクであって、前記薄膜は、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、ニッケル、チタン、パラジウム、モリブデンおよびケイ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、一次イオン種がBi
3++、一次加速電圧が30kV、一次イオン電流が3.0nAの測定条件とした飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によって、前記薄膜の表面を測定したときのカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンの規格化二次イオン強度が、1.0×10
−3以下であると、より好ましい。さらに、TOF−SIMSによって薄膜の表面を測定したときにおける、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびアルミニウムイオンの規格化二次イオン強度が、5.0×10
−4以下であると好ましく、1.0×10
−4以下であると特に好ましい。
【0038】
前記マスクブランクにおいて、基板上に形成される薄膜は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)およびケイ素(Si)から選ばれる1以上の金属を含有する材料で形成されていることが好ましい。また、光学特性やエッチング特性の制御の視点から、上述の材料に、酸素、窒素、炭素、ホウ素、水素、フッ素等が含まれていると好ましい。これらの材料からなる薄膜は、フッ素系ガスや実質的に酸素を含まない塩素系ガスを用いたドライエッチングで、半導体デザインルールでいうDRAMハーフピッチ32nm以降の世代に対応する転写パターンを形成することが可能である。例えば、DRAMハーフピッチ32nm以降の世代に対応する転写パターンに形成されることが多い、線幅40nm以下のSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)等の補助パターンを形成することが可能である。
【0039】
前記のフッ素を含有するエッチングガス(フッ素系ガス)としては、CHF
3、CF
4、SF
6、C
2F
6、C
4F
8等が挙げられる。前記の塩素を含有するエッチングガス(塩素系ガス)としては、Cl
2、SiCl
4、CHCl
3、CH
2Cl
2、CCl
4等が挙げられる。また、ドライエッチングガスとしては、前記のフッ素系ガス、塩素系ガス以外に、He、H
2、Ar、C
2H
4等のガスを添加した混合ガスを用いることもできる。
【0040】
ここで、フッ素系ガスや実質的に酸素を含有しない塩素系ガスをエッチングガスとするドライエッチングの場合、イオン主体のドライエッチングになる傾向が強い。イオン主体のドライエッチングの場合、異方性のドライエッチングに制御しやすく、薄膜に形成されるパターンの側壁の垂直性を高くできるという優れた効果がある。しかし、異方性のドライエッチングの場合、パターン側壁方向のエッチングが抑制されるため、薄膜上にカルシウム等のエッチング阻害要因物質やそれに起因して生成されるエッチング阻害物質があると、そのドライエッチングで除去されにくくなってしまう。
【0041】
一方、酸素ガスと塩素系ガスの混合ガスをエッチングガスとするドライエッチングの場合、ラジカル主体のドライエッチングになる傾向が強い。ラジカル主体のドライエッチングの場合、異方性のドライエッチングに制御することが難しく、薄膜に形成されるパターンの側壁の垂直性を高くすることは容易ではない。しかし、このような等方性の傾向を有するドライエッチングの場合、パターン側壁方向のエッチングも比較的進みやすいため、薄膜上にカルシウム等のエッチング阻害要因物質やそれに起因して生成されるエッチング阻害物質があっても、そのドライエッチング時に比較的除去されやすい。
【0042】
前記の実験において、タンタル系マスクブランクのタンタル系材料からなる薄膜にパターンを形成するドライエッチングを行ったときに使用するエッチングガスは、フッ素系ガスと実質的に酸素を含有しない塩素系ガスであった。よって、イオン主体のドライエッチングの傾向が強く、エッチング阻害物質が除去されにくい。また、タンタル系マスクブランク以外においても、前記に列挙したマスクブランクの薄膜は、いずれもイオン主体のドライエッチングが可能な材料で形成されているため、薄膜表面にエッチング阻害要因物質が存在すると、ドライエッチング時に微小黒欠陥が発生しやすいといえる。一方、前記の実験において、クロム系マスクブランクのクロム系材料からなる薄膜にパターンを形成するドライエッチングを行ったときに使用するエッチングガスは、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスであった。よって、ラジカル主体のドライエッチングの傾向が強く、エッチング阻害物質が比較的除去されやすい。このことも、クロム系マスクブランクから転写用マスクを作製したときの微小黒欠陥の発生数が少ない理由の1つに挙げることができる。
【0043】
上述の理由から、前記マスクブランクの薄膜は、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングによって薄膜パターンを形成するために設けられたものであることが好ましい。特に、塩素を含有するエッチングガスの中でも、酸素を実質的に含有しない塩素を含有するエッチングガスが好ましい。ここで、酸素を実質的に含有しない塩素を含有するエッチングガスとは、そのエッチングガス中の酸素濃度が少なくとも5体積%以下であるものをいい、より好ましくは3体積%以下である。また、前記薄膜は、イオン主体のエッチングによってパターンが形成されることがより好ましい。
【0044】
前記マスクブランクの薄膜の材料は、タンタルを含有する材料であることが好ましい。また、タンタルを含有する材料で薄膜を形成する場合、その薄膜の表層に、表層以外の部分に比べて酸素を多く含有する酸化層が形成されていることが好ましい。このような薄膜の例として、タンタル窒化膜(TaN膜)やタンタル膜(Ta膜)の表層に酸化層(TaO、特に酸素含有量が60at%以上であり、Ta
2O
5結合の存在比率の高い高酸化層)が形成されている薄膜が挙げられる。タンタルを含有する酸化層の表層の表面には、水酸基(OH基)が多く存在する。表面に水酸基が多く存在すると、後述の理由からカルシウム等のエッチング阻害要因物質が付着しやすいため、本発明の効果がより多く得られる。
【0045】
前記マスクブランクにおけるタンタルを含有する材料からなる薄膜は、基板側から下層と上層の積層構造を有し、その上層は、酸素を含有していることが好ましい。より好ましくは、タンタルと窒素とを含有する材料からなる下層と、タンタルと酸素を含有する材料からなる上層とが積層された積層膜である。この場合において、上層の表層に、その他の上層内の領域よりも多くの酸素(例えば、酸素含有量が60at%以上)を含有し、Ta
2O
5結合の存在比率の高い高酸化層が形成されていてもよい。タンタルを含有する酸化層やタンタル酸化膜は、その表面における水酸基(OH基)の存在比率が高くなる傾向がある。表面に水酸基が多く存在すると、後述の理由からカルシウム等のエッチング阻害要因物質が付着しやすいため、本発明の効果がより多く得られる。ここで、タンタルと窒素とを含有する材料としては、TaN、TaBN、TaCN、TaBCN等が挙げられるが、タンタルと窒素以外の他の元素を含んでも構わない。また、タンタルと酸素とを含有する材料としては、TaO、TaBO、TaCO、TaBCO、TaON、TaBON、TaCON、TaBCON等が挙げられるが、タンタルと酸素以外の他の元素を含んでも構わない。
【0046】
また、前記マスクブランクにおけるタンタルを含有する材料からなる薄膜は、基板側から、タンタルのみからなる下層と、タンタルと酸素を含有する材料からなる上層とが積層された構造としてもよい。特に、酸素および窒素を含有しない材料であるタンタルのみからなる材料は、酸素を実質的に含有しない塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングでのエッチングレートが、タンタルと窒素とを含有する材料に比べて大きい。なお、タンタルと酸素を含有する材料からなる上層に関しては、前記の上層と同様である。
【0047】
また、前記マスクブランクにおけるタンタルを含有する材料からなる薄膜は、基板側から、タンタルとケイ素を含有する材料からなる下層と、タンタルと酸素を含有する材料からなる上層とが積層された構成としてもよい。タンタルとケイ素を含有する材料は、タンタルと窒素を含有する材料よりも、材料中の結晶状態をより微結晶または非晶質とすることができる。また、タンタルにケイ素を含有させることで、露光光に対する光学濃度(消衰係数)をタンタルのみからなる材料よりも高くすることができる。特に、タンタルとケイ素のみからなる材料の場合、材料中のタンタル(Ta)とケイ素(Si)の混合比率がTa:Si=1:2(原子%比)のときに消衰係数が最大となり、下層の厚さを大幅に低減することができる。
【0048】
他方、タンタルにケイ素を含有させることで、酸素を実質的に含有しない塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングでのエッチングレートを、タンタルのみからなる材料よりも大きくすることができる。特に、タンタルとケイ素のみからなる材料の場合、材料中のケイ素の含有量を増やしていくに従い、そのエッチングレートは大きくなっていき、材料中のタンタル(Ta)とケイ素(Si)の混合比率がTa:Si=1:2(原子%比)のときにそのエッチングレートが最大となる。
【0049】
これらのことを考慮すると、下層を構成する材料中のタンタルとケイ素の合計含有量[原子%]に対するタンタルの含有量[原子%]の比率[%]は、20%以上が好ましく、30%以上であるとより好ましく、33%以上であるとさらに好ましい。また、下層を構成する材料中のタンタルとケイ素の合計含有量[原子%]に対するタンタルの含有量[原子%]の比率[%]は、95%以下が好ましく、90%以下であるとより好ましく、85%以下であるとさらに好ましい。なお、タンタルと酸素を含有する材料からなる上層に関しては、前記の上層と同様である。
【0050】
マスクブランクの薄膜の表面にカルシウム、マグネシウム、アルミニウム等のエッチング阻害要因物質が付着する1つの要因としては、薄膜の表面洗浄を行うときに使用する洗剤(界面活性剤)が挙げられる。マスクブランクの表面洗浄に使用する界面活性剤には、その製法およびpHによっては、不純物としてカルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)、アルミニウムイオン(Al
3+)、アルミニウム水酸化物イオン(Al(OH)
4−)が含まれている場合があり、これらはイオン化していることから除去することが困難である。前記のTOF−SIMSにより検出されたカルシウム等は、今回使用した洗浄液に含まれる界面活性剤中に含まれていたものと考えられる。
【0051】
上述したように、界面活性剤を含むアルカリ性洗浄液による洗浄処理後、タンタル系マスクブランクの表面には、エッチング阻害要因物質としてのカルシウム等が検出された。一方、クロム系マスクブランクの表面には、カルシウム等はほとんど検出されなかった。以下、このような違いが生じた原因について考察する。なお、以下の考察は、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0052】
タンタル系マスクブランクの表面には、水酸基(OH基)が多数存在しており、この水酸基に、洗浄液に含まれるカルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)が引き寄せられる(
図4(a))。そして、洗浄液による洗浄処理後、洗浄液を洗い流すための純水によるリンスの際に、マスクブランクの表面を覆う液体がアルカリ性(pH10)から中性(pH7前後)に急激に変化するため、マスクブランクの表面に引き寄せられていたカルシウムイオン、マグネシウムイオンが、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)となって膜表面に析出しやすくなる(
図4(b))。この水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが、マスクブランク表面のエッチング阻害要因物質となったと考えられる。
【0053】
一方、クロム系マスクブランクの表面には、水酸基(OH基)が少数しか存在していない。このため、マスクブランクの表面には、洗浄液に含まれるカルシウムイオン、マグネシウムイオンがあまり引き寄せられない。もともと洗浄液に含まれる不純物であるカルシウム等の濃度自体が低いため、膜表面近傍のカルシウムイオン、マグネシウムイオンの濃度は極めて低くなっている(
図5(a))。その結果、洗浄液による洗浄処理後、洗浄液を洗い流すための純水によるリンスの際にも、マスクブランクの表面に引き寄せられていたカルシウムイオン、マグネシウムイオンが、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムとなる前に膜表面から洗い流されるか、あるいは、エッチングを阻害しない程度の少数しか水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムとなって膜表面に析出しない(
図5(b))。
【0054】
前記マスクブランクにおいて、基板は、露光光に対して透過性を有するガラス基板であり、薄膜は、このマスクブランクから転写用マスクを作製する際に転写パターンを形成するために用いられるものであることが好ましい。このような構成のマスクブランクを透過型マスクブランクともいう。また、この透過型マスクブランクから作製された転写用マスクを透過型マスクともいう。この構成のマスクブランクの場合、転写パターンを形成するための薄膜の例としては、露光光を遮光する機能を有する遮光膜、被転写体との多重反射を抑制するために表面の反射を抑制する機能を有する反射防止膜、パターンの解像性を高めるため露光光に対して所定の透過率と所定の位相差を生じさせる機能を有する位相シフト膜等が挙げられる。また、転写パターンを形成するための薄膜の例としては、露光光に対して所定の透過率は生じさせるが、位相シフト効果が生じるような位相差は生じさせない半透過膜も含まれる。このような半透過膜を有するマスクブランクは、エンハンサ型位相シフトマスクを製造する際に主に用いられる。これらの薄膜は、単層膜であってもよいし、これらの膜を複数積層させた積層膜であってもよい。なお、これらの転写パターンを形成するための薄膜を備えるマスクブランクから製造される転写用マスクには、露光光として、ArFエキシマレーザー光やKrFエキシマレーザー光等が適用される。
【0055】
前記マスクブランクにおいて、基板と薄膜の間に露光光を反射する機能を有する多層反射膜を備え、薄膜は、このマスクブランクから転写用マスクを作製する際に転写パターンを形成するために用いられるものであることが好ましい。このような構成のマスクブランクを反射型マスクブランクともいう。また、その反射型マスクブランクから作製された転写用マスクを反射型マスクともいう。この反射型マスクブランクにおいて、転写パターンを形成するための薄膜の例としては、露光光を吸収する機能を有する吸収体膜、露光光の反射を低減させる反射低減膜、上述の吸収体膜のパターニング時の多層反射膜に対するエッチングダメージを防止するためのバッファ層などが挙げられる。なお、本発明の転写用マスクには、前記の反射型マスクが含まれる。この反射型マスクには、露光光として、EUV(Extreme Ultra Violet)光が適用されることが好ましい。EUV光は、0.1nm〜100nmの間の波長を有する光(電磁波)であるが、特に使用されているのは、波長が13nm〜14nmの光(電磁波)である。
【0056】
反射型マスクブランクの多層反射膜の構成としては、例えば、ケイ素膜(Si膜、膜厚4.2nm)とモリブデン膜(Mo膜、膜厚2.8nm)を1周期とし、これを複数周期(20周期〜60周期、40周期前後が好ましい。)積層した膜構造が用いられることが多い。また、多層反射膜と、吸収体膜やバッファ層との間に、多層反射膜を保護する保護膜(例えば、Ru、RuNb、RuZr、RuY、RuMo等)を設ける場合もある。
【0057】
マスクブランクを構成する膜として、下層の膜をエッチングする際にエッチングマスク(ハードマスク)として機能するエッチングマスク膜(又はハードマスク膜)を、上述の転写パターンとなる薄膜以外に設けても良い。または、転写パターンとなる薄膜を積層膜とし、その積層膜の一部として、エッチングマスク(ハードマスク)を設けても良い。
【0058】
前記基板は、透過型マスクブランクの場合、露光光を透過する材料であれば良く、例えば、合成石英ガラスが挙げられる。反射型マスクブランクの場合、露光光の吸収による熱膨張を防止できる材料であれば良く、例えば、TiO
2−SiO
2低膨張ガラス、β石英固溶体を析出させた結晶化ガラス、単結晶シリコン、SiC等が挙げられる。
【0059】
前記の転写用マスクは、前記のマスクブランクの薄膜にドライエッチングによって転写パターンを形成する工程を有する製造方法で製造されることが好ましい。また、この転写用マスクの製造方法におけるドライエッチングには、フッ素を含有するエッチングガスまたは塩素を含有するエッチングガスを用いるとより好ましい。
【0060】
前記のマスクブランクの薄膜に対して、フッ素を含有するエッチングガスや塩素を含有するエッチングガスを用いたドライエッチングを行う場合、エッチングを阻害する物質としては、前記に列挙した物質のほかに、マンガン、鉄、ニッケルがある。このため、前記のマスクブランクにおいて、一次イオン種がBi
3++、一次加速電圧が30kV、一次イオン電流が3.0nAの測定条件とした飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によって、前記薄膜の表面を測定したときのマンガンイオン、鉄イオンおよびニッケルイオンから選ばれる少なくとも一以上のイオンの規格化二次イオン強度が、1.0×10
−3以下であることが好ましい。さらに、前記規格化二次イオン強度が、5.0×10
−4以下であるとより好ましく、1.0×10
−4以下であると特に好ましい。
【0061】
上述の通り、マスクブランクの薄膜の表面に、前記のエッチング阻害要因物質等が付着する大きな要因として、基板上に薄膜を成膜した後等に行われる界面活性剤を含有するアルカリ性洗浄液を用いた表面洗浄がある。製法に起因して洗浄液に一度混入してしまったエッチング阻害要因物質をこの洗浄液から取り除くことは、固体の状態で存在している場合でも容易ではなく、イオンの状態で存在している場合は除去が困難である。このため、マスクブランクの薄膜を洗浄する洗浄液は、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等のエッチング阻害要因物質等が検出下限値以下であるもの(例えば、DI水)を使用することが最も好ましい。
【0062】
しかし、特に、界面活性剤を含有するアルカリ性洗浄液の場合、これらのエッチング阻害要因物質が混入することを回避することは難しい。エッチング阻害要因物質の濃度が異なる複数の洗浄液を用いて、マスクブランクの薄膜の表面を洗浄した後、薄膜をドライエッチングして微小黒欠陥の発生数を検証した。その結果、エッチング阻害要因物質等の洗浄液中の濃度が0.3ppb以下であれば、微少黒欠陥の発生数を実用上問題ないレベルに抑制できることを確認できた。以上のことから、前記マスクブランクの薄膜に対して行う表面洗浄には、前記のエッチング阻害要因物質等の濃度が0.3ppb以下の洗浄液を用いることが好ましい。
【0063】
マスクブランクの薄膜がレジスト膜との密着性が低い材料(特に、Siを含有する材料)で形成されている場合、レジスト膜に形成された微細パターンの剥がれや倒れを防止するために、マスクブランクの表面エネルギーを低減させるための処理を行う場合がある。この表面処理では、マスクブランクの表面をアルキルシリル化するための表面処理液、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)や、その他の有機シリコン系の表面処理液が用いられる。これらの表面処理液についても、エッチング阻害要因物質等の濃度が検出下限値以下であることが好ましい。ただし、表面処理液に含まれるエッチング阻害要因物質等の濃度が0.3ppb以下であっても、本発明のマスクブランクを製造することができる。
【0064】
なお、前記の各処理液に含まれるエッチング阻害要因物質の濃度は、マスクブランクの表面に供給する直前の処理液について、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−MS:Inductively Coupled Plasma-Mass Spectroscopy)により測定可能であり、該分析方法に基づいて検出される元素(検出限界以下の元素を除く)の合計濃度のことをいう。なお、この分析法では、元素の特定は可能であるが、元素間の結合状態を特定することは困難である。よって、例えば、液体中のカルシウム濃度の検出値は、カルシウムとカルシウム化合物の総量で算出した濃度になる(マグネシウム、アルミニウムの場合においても同様である。)。
【0065】
次に、本発明のマスクブランクについて、実施例および比較例を用いて説明する。
(実施例1,比較例1)
主表面および端面が精密研磨された合成石英ガラス基板(約152.1mm×約152.1mm×約6.25mm)を複数枚準備した。次に、各ガラス基板の主表面上に、タンタルを含有する材料からなる薄膜を形成した。具体的には、ガラス基板側から、TaNからなり、膜厚が42nmである下層(Ta:N=84:16 at%比)と、TaOからなり、膜厚が9nmの上層(Ta:O=42:58 at%比)が積層した薄膜を形成した。以上の手順により、半導体デザインルールDRAMハーフピッチ32nm対応のArFエキシマレーザー露光用の複数枚のバイナリーマスクブランクを準備した。
【0066】
準備した複数枚のバイナリーマスクブランクから5枚選定し、各マスクブランクの薄膜表面に対し、表1に示す洗浄液A〜Eのそれぞれを用いた表面洗浄処理(スピン洗浄)を行った。さらに、各洗浄液で表面洗浄した各マスクブランク(マスクブランクA1〜E1)に対し、DI水を用いたリンス洗浄(スピン洗浄)を行ってから、スピン乾燥処理を行った。
【0067】
スピン乾燥後の各マスクブランクの薄膜の表面に対し、TOF−SIMSによって、カルシウムイオンの規格化二次イオン強度を測定した。その結果を、表1に示す。なお、このTOF−SIMSにおける測定条件は、以下のとおりである。
一次イオン種 :Bi
3++
一次加速電圧 :30kV
一次イオン電流 :3.0nA
一次イオン照射領域:一辺200μmの四角形の内側領域
二次イオン測定範囲:0.5〜3000m/z
【0069】
前記と同様の表面洗浄処理を行ったマスクブランクA1〜E1を別に準備した。準備した各マスクブランクの表面に、ポジ型の化学増幅型レジスト(PRL009:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)をスピンコーティングにより塗布した後、プリベークを行い、レジスト膜を形成した。
次に、レジスト膜に対して描画・現像・リンスを行い、マスクブランク表面にレジストパターンを形成した後、レジストパターンをマスクにしてフッ素系(CF
4)ガスを用いたドライエッチングを行い、上層をパターニングして上層パターンを形成し(このとき、下層の一部もエッチングされる)、その後、塩素系(Cl
2)ガスを用いたドライエッチングを行い、上層パターンをマスクにして下層をパターニングして下層パターンを形成し、最後にレジストパターンを除去して、転写用マスクをそれぞれ作製した。
【0070】
この得られた各転写用マスクについて、マスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社
製)を用いて転写パターン形成領域内(132mm×104mm)の欠陥検査を行った。
各転写用マスクで検出された黒欠陥数を、それぞれ表1に示す。
【0071】
以上の結果から、上記測定条件でマスクブランクにおける薄膜の表面に対してTOF−SIMSで測定したカルシウムイオンの規格化二次イオン強度が1.0×10
−3以下であるマスクブランクを選定することにより、転写用マスクを作製したときの微小黒欠陥の発生数を50個以下に抑制することができることがわかる。
【0072】
(実施例2,比較例2)
実施例1および比較例1の場合と同様に、ガラス基板側から、TaNの下層とTaOの上層が積層した薄膜を有する、半導体デザインルールDRAMハーフピッチ32nm対応のArFエキシマレーザー露光用の複数枚のバイナリーマスクブランクを準備した。
【0073】
準備した複数枚のバイナリーマスクブランクから5枚選定し、各マスクブランクの薄膜表面に対し、表2に示す洗浄液F〜Jのそれぞれを用いた表面洗浄処理(スピン洗浄)を行った。さらに、各洗浄液で表面洗浄した各マスクブランク(マスクブランクF1〜J1)に対し、DI水を用いたリンス洗浄(スピン洗浄)を行ってから、スピン乾燥処理を行った。
【0074】
スピン乾燥後の各マスクブランクの薄膜の表面に対し、TOF−SIMSによって、マグネシウムイオンの規格化二次イオン強度を測定した。その結果を、表2に示す。なお、このときのTOF−SIMSにおける測定条件は、実施例1および比較例1と同様である。
【0076】
前記と同様の表面洗浄処理を行ったマスクブランクF1〜J1を別に準備した。準備した各マスクブランクを用いて、実施例1および比較例1と同様の手順により、転写用マスクを作製した。さらに、得られた各転写用マスクについて、マスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製)を用いて転写パターン形成領域内(132mm×104mm)の欠陥検査を行った。各転写用マスクで検出された黒欠陥数を、それぞれ表2に示す。
【0077】
以上の結果から、上記測定条件でマスクブランクにおける薄膜の表面に対してTOF−SIMSで測定したマグネシウムイオンの規格化二次イオン強度が1.0×10
−3以下であるマスクブランクを選定することにより、転写用マスクを作製したときの微小黒欠陥の発生数を50個以下に抑制することができることがわかる。
【0078】
(実施例3,比較例3)
実施例1および比較例1の場合と同様に、ガラス基板側から、TaNの下層とTaOの上層が積層した薄膜を有する、半導体デザインルールDRAMハーフピッチ32nm対応のArFエキシマレーザー露光用の複数枚のバイナリーマスクブランクを準備した。
【0079】
準備した複数枚のバイナリーマスクブランクから5枚選定し、各マスクブランクの薄膜表面に対し、表3に示す洗浄液K〜Pのそれぞれを用いた表面洗浄処理(スピン洗浄)を行った。さらに、各洗浄液で表面洗浄した各マスクブランク(マスクブランクK1〜P1)に対し、DI水を用いたリンス洗浄(スピン洗浄)を行ってから、スピン乾燥処理を行った。
【0080】
スピン乾燥後の各マスクブランクの薄膜の表面に対し、TOF−SIMSによって、アルミニウムイオンの規格化二次イオン強度を測定した。その結果を、表3に示す。なお、このときのTOF−SIMSにおける測定条件は、実施例1および比較例1と同様である。
【0082】
前記と同様の表面洗浄処理を行ったマスクブランクK1〜P1を別に準備した。準備した各マスクブランクを用いて、実施例1および比較例1と同様の手順により、転写用マスクを作製した。さらに、得られた各転写用マスクについて、マスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製)を用いて転写パターン形成領域内(132mm×104mm)の欠陥検査を行った。それらの結果を、表3に示す。
【0083】
以上の結果から、上記測定条件でマスクブランクにおける薄膜の表面に対してTOF−SIMSで測定したアルミニウムイオンの規格化二次イオン強度が1.0×10
−3以下であるマスクブランクを選定することにより、転写用マスクを作製したときの微小黒欠陥の発生数を50個以下に抑制することができることがわかる。