(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
ここでは、本発明の一実施形態である判定方法について、
図1〜
図8を参照しつつ説明する。なお、
図3,5では断面を示すハッチングを省略している。
【0018】
〔連続鋳造機〕
連続鋳造機100は、
図1に示すように、垂直曲げ型連続鋳造機であって、タンディッシュ1と、タンディッシュ1の底部に取り付けられた浸漬ノズル2と、浸漬ノズル2の下部が配置された鋳型3と、鋳型3の直下から鋳造経路Qに沿って設けられた複数のロール4と、鋳造方向に隣り合うロール4,4間に配置された冷却ノズル5とを備えている。タンディッシュ1には、二次精錬で成分調整が行われた溶鋼6が取鍋(図示省略)から供給されている。鋳型3には、平面視において略矩形状の開口が形成されており、スラブ(厚みD×幅Wの鋳片)が鋳造可能である。
【0019】
鋳造経路Qは、垂直方向に延在した垂直部と、垂直部から緩やかに湾曲した曲げ部と、曲げ部から水平方向に延在した水平部とを有する。
【0020】
鋳造を行うときは、タンディッシュ1内の溶鋼6を、浸漬ノズル2を介して鋳型3内に注入する。溶鋼6は、鋳型3内で冷却され、凝固シェルが形成しながら下方へ引き抜かれ、内部まで凝固することにより、スラブ(鋳片)が鋳造される。その後、スラブは、圧延処理等が施されることにより鋼板となり、耐サワー鋼(耐水素誘起割れ鋼)やその他の製品に充当される。
【0021】
耐サワー鋼には、上述したように、優れた耐HIC性(耐水素誘起割れ性)が要求される。HICは、鋼材中のMnSやTi(C,N)、Nb(C,N)等の介在物が存在する位置(偏析部)を起点に発生し、硬化相に沿って伝播する。偏析はスラブの内部割れ部や中心偏析部に存在し、偏析度が高いほどHICが発生しやすいことがわかっている(特開2007−136496号参照)。
【0022】
そこで、本発明では、内部割れ及び中心偏析の偏析度を調査し、これらを基に鋳片の段階でHIC性を評価する。
【0023】
なお、2次デンドライト樹間(ミクロ偏析)にも偏析が存在するが、2次デンドライト樹間は非常に小さいため、HICの原因となる介在物や硬化組織が生成しない。そのため、上記偏析を起点にHICは発生しないと考えられる。
【0024】
また、内部割れには「水平割れ」と「その他の内部割れ」とが有り、これらはロール間バルジングや冷却水のアンバランスや矯正通過時の変形が原因となって生じる。「水平割れ」は、
図4に示すように、スラブの幅方向で幅端部からD/2の範囲に存在する割れであり、スラブ幅方向及び鋳造方向に伝播した割れである。一方、「その他の内部割れ」は、スラブ全幅に存在する割れであり、スラブ厚み方向及びスラブ幅方向、またはスラブ厚み方向及びスラブ鋳造方向に伝播した割れである。そのため、「水平割れ」は圧延によって伸展するが、「その他の内部割れ」は圧延によって縮小する。したがって、HICが発生した場合、「水平割れ」ではHICが伝播・伸展し易いが、「その他の内部割れ」ではHICが伝播・伸展しないため、品質上、問題とならない。
また、HIC試験を実施したところ、「水平割れ」発生部ではHICが発生する場合があったが、「その他の内部割れ」発生部ではHICが発生しなかった。そこで、本発明では、内部割れのうち「水平割れ」のみを調査する。
【0025】
以下では、本発明の判定方法について、
図2のフローチャートに沿って詳細に説明する。
【0026】
〔判定方法〕
鋳造後のスラブを、鋳造方向に対して垂直な方向に切断し(
図3参照)、切断面で内部品質(水平割れ及び中心偏析の偏析度)を調査する。
【0027】
水平割れが発生する位置は、鋳造方向よりも鋳片幅方向及び厚み方向にばらつきが生じやすい。また、中心偏析のレベル(偏析粒径、所定の粒径以上の偏析粒の個数)は鋳片幅方向にばらつき、幅方向の特定の部位で悪化している場合がある。そこで、鋳造方向に対して垂直な切断面を調査対象とすることにより、水平割れ及び中心偏析が最も悪化している部位を調査できる。
【0028】
また、上記スラブは、耐サワー鋼と同様な鋼種(成分)とする。鋼種が異なると添加元素の濃度が変わるため、偏析部の介在物量や硬化相が変化するためである。
【0029】
次に、スラブ切断面で(
図3参照)、幅方向両端から幅D/2の範囲の領域R
1,R
2に存在する水平割れの最大開孔厚みt
1,t
2を測定する(
図2のS1,第1開孔厚み測定工程)。ここで、最大開孔厚みt
1は領域R
1での最大開孔厚みであり、最大開孔厚みt
2は領域R
2での最大開孔厚みである。
【0030】
水平割れは、スラブの幅方向両端(狭面)から幅方向中央に向かって凝固が進行する過程で発生する。領域R
1,R
2(第1の範囲)では、狭面側(短辺側)の冷却の影響を受け、凝固が幅方向中央に向かって進行する。一方、幅方向両端からD/2を除いた幅W−Dの領域R
3(第2の範囲)では、狭面側(短辺側)の冷却が殆ど影響しないため、幅方向に凝固が殆ど進行しない。そのため、水平割れは領域R
1,R
2で発生すると考えられる。そこで、ステップS2では、領域R
1,R
2で水平割れを調査する。ここで、各領域R
1,R
2に2つ以上の水平割れが存在する場合は、各領域R
1,R
2の最大の開孔厚みを最大開孔厚みt
1,t
2とする。例えば、領域R
1に2つ以上の水平割れが存在する場合は、最も大きな開孔を有する水平割れの最も開孔している部分(開孔厚みが最も厚い部分)の開孔厚みを測定し、その開孔厚みを最大開孔厚みt
1とする。
【0031】
また、本発明では、「水平割れ」の偏析度を「開孔厚み(最大開孔厚み)」から評価している。「水平割れ」とは、凝固時に、固液界面で発生する割れであり、デンドライト樹間に濃化溶鋼が進入して生じた偏析線を伴っている。程度が悪い場合は、偏析線に沿って開孔している。そして、「偏析度」と「開孔厚み(開孔幅)」には相関関係があり、「開孔厚み」が大きいほど「偏析度」が高い傾向がある。HICは「偏析度」が高いほど発生しやすいため、「開孔厚み」が大きいほどHICが発生しやすく、開孔厚みによってHIC発生の有無を判断できることを見出した。そこで、本発明では、「開孔厚み」を基にHIC性を評価する。
【0032】
なお、「開孔厚み」が数10[μm]程度である微細な水平割れは、圧延時に圧着されるため、製品段階でUT欠陥とならないが、HIC発生の原因となる。そうすると、HICは、開孔が原因で発生するのでなく、偏析度が高いことが原因で発生すると考えられる。
【0033】
次に、スラブ切断面において(
図3参照)、幅方向両端からD/2を除いた幅W−Dの領域R
3で中心偏析の偏析度(「最大偏析粒径(偏析粒の最大径)」と「所定の径以上の偏析粒の個数密度」)を調査する(
図2のS2、第1偏析粒測定工程)。なお、以下において、「所定の径以上の偏析粒の個数密度」を単に「偏析粒の個数密度」又は「個数密度」と呼ぶことがある。
【0034】
中心偏析は最終凝固部に生成する欠陥である。
図3に示すように、領域R
1,R
2は広面側及び狭面側から冷却されるが、領域R
3は、主に広面側だけから冷却される。そのため、領域R
3では、広面から厚み中心に向かって凝固が進行し、厚み中心部が最終凝固部となる。したがって、中心偏析は領域R
3の厚み中心部近傍に発生する。そこで、ステップS2では、領域R
3の厚み中心部近傍で中心偏析の偏析度を調査する。
【0035】
また、本発明では、中心偏析の偏析度を「最大偏析粒径」及び「所定の径以上の偏析粒の個数密度」から評価している。偏析度の調査方法には種々の方法があるが、「偏析粒径」と「偏析度」には相関関係があり、「偏析粒径」が大きいほど「偏析度」が高い傾向がある(参考文献:日本鋼管技報No.121 (1988))。「偏析度」が高いほどHICが発生しやすいため、「偏析粒径」が大きいほどHICが発生しやすいといえる。
【0036】
また、「所定の径以上の偏析粒の個数密度」と「最大偏析粒径」にも相関関係があり、「個数密度」が多いほど「最大偏析粒径」は大きい傾向がある(参考文献:CAMP-ISIJ Vol.2(1989) p,1150)。上述したように、「偏析粒径」が大きいほど「偏析度」が高い傾向があることから、「個数密度」が多いほど、「偏析度」が高い、つまり、HICが発生しやすいといえる。
【0037】
以上から、「最大偏析粒径」及び「偏析粒の個数密度」によって「偏析度」を評価できると考えられる。また、「偏析粒径」及び「個数密度」は目視で測定できるため、簡易に且つ短時間で偏析度を調査できる。そこで、本発明では、「最大偏析粒径」及び「偏析粒の個数密度」を基にHIC性を評価する。
【0038】
ここで、「最大偏析粒径」及び「偏析粒の個数密度」の測定方法の一例を、
図3を参照しつつ説明する。
【0039】
図3(a)に示すように、領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・
r
nに区切り(nは1以上の自然数)、各区間の厚み中心部で「最大偏析粒径」及び「個数密度」を測定する。ここで、所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nは、それぞれ、幅W
1×厚みD
1の長方形状の領域である。(
図3(b)参照)。また、「所定の径以上の偏析粒の個数
密度」は、以下の式から算出される。
区間r
1に所定の径以上の偏析粒がN個存在する場合(
図3(b)参照)、
区間r
1の「所定の径以上の偏析粒の個数
密度」=N/(W
1×D
1)
【0040】
次に、ステップS1及びステップS2で調査したスラブと同一の鋳造条件で鋳造したスラブを耐サワー鋼用の圧延条件(圧延開始表面温度、圧延終了表面温度、最終製品厚み等)で圧延し、製品(鋼材)を製造する。そして、製品に対してHIC試験を行い(
図2のS3)、HIC発生の有無を調べる(HIC性の評価)。
【0041】
ここで、「同一の鋳造条件」とは、i)鋳造速度が一定であること、ii)ノズル詰まり等の操業異常が発生していないこと、iii)冷却条件やロール隙間が同じであること等である。これらの操業因子は水平割れ及び中心偏析に大きな影響を与えるため、これらの因子が変化するとHIC性の評価が異なる。後述する閾値決定工程では(S4)、ステップS1及びステップS2で得た偏析度とステップS3で得たHIC試験結果とを対応させるため、これらのHIC性が異なると閾値を決定することができない。そこで、同一の鋳造条件としている。なお、「同一の鋳造条件で鋳造したスラブ」には、ステップS1及びステップS2で調査したスラブが含まれる。
【0042】
また、HIC試験は、スラブの領域R
1,R
2,R
3に対応する領域(製品領域)でそれぞれ実施する(
図3参照)。そして、ステップS2で領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切った場合は、区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに対応する領域(製品領域)でそれぞれHIC試験を実施する。
【0043】
例えば、スラブを鋳造方向に圧延した場合(圧延方向が鋳造方向である場合)は、
図5(a)に示すように、圧延前後で幅が変化しないため、スラブの幅W=製品の幅Wである。この場合、「(スラブ)領域R
1,R
2に対応する領域」は「製品の幅方向両端から幅D/2の範囲の領域R
11,R
12」であり、「(スラブ)領域R
3に対応する領域」は「製品の幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲の領域R
13」である。
【0044】
また、「(スラブ)領域R
3の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに対応する領域」は、製品の領域R
13を幅方向にn個の所定の区間に区切った場合の「所定の区間r
11,r
12,r
13・・・r
n1」にそれぞれ対応する。ここで、所定の区間r
11,r
12,r
13・・・r
n1は、幅W
1×厚みD
1の長方形状の領域である。
【0045】
一方、スラブを幅方向に圧延した場合(圧延方向に幅方向が含まれる場合)は、
図5(b)に示すように、圧延前後で幅が変化するため、スラブの幅W<製品の幅Waとなる。この場合、スラブの領域R
1,R
2,R
3に対応する領域R
21,R
22,R
23は圧延比(製品の幅Wa/スラブの幅W)によって決まる。また、「(スラブ)領域R
3の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに対応する領域」も、圧延比Wa/Wによって定まる「区間r
21,r
22,r
23・・・r
n2」となる。
【0046】
次に、
図2のフローチャートに戻って、『ステップS1で得た「最大開孔厚みt
1,t
2」』と『ステップS3で得た「評価結果」(HIC性)』とから、内部割れが原因のHIC性に関する(HICが発生しない)「最大開孔厚みの閾値(t
θ)」を決定する(S4、閾値決定工程)。
【0047】
このとき、スラブと製品で互いに対応する領域で得られた結果を対応させる。
例えば、スラブを鋳造方向に圧延した場合(
図5(a)参照)、
ステップS3(HIC試験)の結果が、製品領域R
11では「HIC発生有」、領域R
12では「HIC発生無」であるとき、
i)開孔厚みt
1(スラブ領域R
1の開孔厚み)のときに「HIC発生有」(製品領域R
11の結果)
i)開孔厚みt
2(スラブ領域R
2の開孔厚み)のときに「HIC発生無」(製品領域R
12の結果)
とする。
【0048】
また、スラブを幅方向に圧延した場合は(
図5(b)参照)、
ステップS3(HIC試験)の結果が、製品領域R
21では「HIC発生有り」、領域R
12では「HIC発生無し」であるとき、
i)開孔厚みt
1(スラブ領域R
1の開孔厚み)のときに「HIC発生有」(製品領域R
21の結果)
i)開孔厚みt
2(スラブ領域R
2の開孔厚み)のときに「HIC発生無」(製品領域R
22の結果)
とする。
【0049】
上記の複数の結果から、HIC発生有無の境界となる開孔厚みの閾値t
θを決定する。本実施形態では、HICが発生しない最大の開孔厚みを「閾値t
θ」としている。
【0050】
次に、
図2のフローチャートに戻って、『ステップS2で得た「最大偏析粒径」及び「個数密度」』と『ステップS3で得た「評価結果」(HIC性)』とから、HIC性に関する(HICが発生するか否かを決める)「最大偏析粒径及び個数密度の閾値関数f
θ(d,m)」を決定する(S4)。中心偏析の偏析度は「最大偏析粒径」及び「偏析粒の個数密度」によって評価できることから、中心偏析が原因のHICが発生するか否かの境界となる値(閾値)は最大偏析粒径及び個数密度の関数で表される。
【0051】
このときも、スラブと製品で互いに対応する領域で得られた結果を対応させる。
例えば、スラブを鋳造方向に圧延した場合(
図5(a)参照)、
ステップS3(HIC試験)の結果が、製品領域r
11では「HIC発生有」、領域r
12では「HIC発生有」、・・・、領域r
n1では「HIC発生無」であるとき、
i)最大偏析粒径d
1、個数密度m
1(スラブ領域r
1の最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生有」(製品領域r
11の結果)
ii)最大偏析粒径d
2、個数密度m
2(スラブ領域r
2の最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生有」(製品領域r
12の結果)・・・
iii)最大偏析粒径d
n、個数密度m
n(スラブ領域r
nの最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生無」(製品領域r
n1の結果)
とする。
【0052】
また、スラブを幅方向に圧延した場合(
図5(b)参照)、
ステップS3(HIC試験)の結果が、製品領域r
21では「HIC発生有」、領域r
22では「HIC発生有」、・・・、領域r
n2では「HIC発生無」であるとき、
i)最大偏析粒径d
1、個数密度m
1(スラブ領域r
1の最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生有」(製品領域r
21の結果)
ii)最大偏析粒径d
2、個数密度m
2(スラブ領域r
2の最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生有」(製品領域r
22の結果)・・・
iii)最大偏析粒径d
n、個数密度m
n(スラブ領域r
nの最大偏析粒径、個数密度)のときに「HIC発生無」(製品領域r
n2の結果)
とする。
【0053】
上記の複数の結果から、HIC発生有無の境界となる最大偏析粒径及び個数密度の閾値関数f
θ(d,m)を決定する。ここで、閾値関数f
θ(d,m)とは、最大偏析粒径d及び個数密度mから決まる、HICが発生するか否かを判定する閾値となる関数である。そして、閾値関数f
θ(d,m)から、「HICが発生する最大偏析粒径及び個数密度の範囲」(HIC発生範囲)と「HICが発生しない最大偏析粒径及び個数密度の範囲」(HIC不発生範囲)を決定する(
図2のS5、HIC発生範囲決定工程)。
【0054】
以上のように、ステップS1〜S4から、「開孔厚みの閾値t
θ」と「最大偏析粒径及び個数密度の閾値関数f
θ(d,m)」とを決定する。また、「最大偏析粒径及び個数密度の閾値関数f
θ(d,m)」から、「HICが発生する最大偏析粒径及び個数密度の範囲」(HIC発生範囲)と「HICが発生しない最大偏析粒径及び個数密度の範囲」(HICが発生しない範囲)を決定する(ステップS5)。
【0055】
次に、判定対象のスラブのHIC性を評価する。
【0056】
判定対象のスラブを鋳造方向に対して垂直な方向に切断し、切断面において(
図3参照)、幅方向両端から幅D/2の範囲(領域R
1,R
2)で水平割れが存在するかを調べる(
図2に示すS6)。水平割れが存在する場合は(S6:YES)、幅D/2の範囲で水平割れの「最大開孔厚みt」を測定する(S7、第2開孔厚み測定工程)。なお、幅D/2の範囲に2つ以上の水平割れが存在する場合は、ステップS1と同様に、最も大きな開孔を有する水平割れの最も開孔している部分(開孔厚みが最も厚い部分)の開孔厚みを最大開孔厚みtとする。
【0057】
そして、「開孔厚みt」とステップS4で決定した「閾値(t
θ)」とを比較し、開孔厚みt>閾値t
θである場合は(S8:YES)、水平割れ部の偏析度が高いため、水平割れが原因のHICが発生すると判断する。このようなスラブを耐サワー鋼に充当することはできないため、判定対象のスラブを耐サワー鋼以外の製品へ向け先を変更する(S9、変更工程)。
【0058】
一方、開孔厚みt≦閾値t
θである場合は(S8:NO)、水平割れ部の偏析度が低いため、水平割れが原因のHICが発生しないと判断する。また、ステップS6に戻って、スラブ切断面の領域R
1,R
2に水平割れが存在しない場合も(S6:NO)、水平割れ部の偏析度が低いため、水平割れが原因のHICが発生しないと判断する。
【0059】
しかし、中心偏析が原因のHICが発生する可能性があるため、ステップS10に移行して、判定対象のスラブ切断面の幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲(領域R
3)において(
図3参照)、厚み中心部で「最大偏析粒径d」と「所定の径以上の偏析粒の個数密度m」を測定する(S10、第2偏析粒測定工程)。
【0060】
ここで、「所定の径以上の偏析粒の個数密度m」の「所定の径」は、ステップS2の「所定の径以上の偏析粒の個数密度m
1」の「所定の径」と同一の径である。例えば、ステップS2の「所定の径」を直径1.2[mm]とした場合は、ステップS10の「所定の径」を直径1.2[mm]とする。
【0061】
また、ステップS2で、スラブの領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切った場合は(
図3,5参照)、ステップS10でも、領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切り、各区間の厚み中心部で「最大偏析粒径d」と「個数密度m」を測定する。この場合、ステップS10の「所定の区間」は、ステップS2の「所定の区間」と同じ区間(幅W
1×厚みD
1の長方形状の領域)とする。
【0062】
次に、判定対象スラブ(各区間)の「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」と、閾値d
θ,m
θから決定した「HIC発生範囲」とを比較し、「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」が「HIC発生範囲」にある場合は(S11:YES)、中心偏析部の偏析度が高いため、中心偏析が原因のHICが発生すると判断する。また、スラブの領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切った場合は(
図3参照)、最大偏析粒径d>閾値d
θである区間が1つでもあるとき(S11:YES)、中心偏析が原因のHICが発生すると判断し、判定対象のスラブを耐サワー鋼以外の製品へ向け先を変更する(S9)。
【0063】
一方、判定対象スラブ(各区間)の「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」が「HIC発生範囲」にない場合は(S11:NO)、「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」が「HIC不発生範囲」にあると判断する。この場合は、中心偏析部の偏析度が低いため、中心偏析が原因のHICは発生しないと判断し、判定対象のスラブを耐サワー鋼へ充当する(S12)。
【0064】
また、スラブの領域R
3を幅方向にn個の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切った場合は(
図3参照)、n個の全区間で「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」が「HIC発生範囲」にないときは(S11:NO)、領域R
3の全範囲で「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」が「HIC不発生範囲」にあるため、中心偏析が原因のHICは発生しないと判断し、判定対象のスラブを耐サワー鋼へ充当する(S12)。
【0065】
このように、本実施形態では、HIC性の評価に「内部割れの開孔厚み」と「最大偏析粒径及び個数密度」を用いている。これらにより、鋳片の内部品質(内部割れ及び中心偏析の偏析度)を正確に評価できるため、HIC試験を行うことなく、スラブの段階でHIC性を評価できる。そして、この評価結果から製品の用途を決定できる。これにより、数週間を要するHIC試験を省略して製品を出荷できるため、製造期間を大幅に短縮することができる。
【0066】
また、本実施形態では、中心偏析の偏析度を「最大偏析粒径及び個数密度」によって評価している。偏析度の評価方法にはEPMAや燃焼赤外線吸収法が知られているが、これらの方法では、(1)設備導入が必要となり、(2)複数の偏析を測定するために長時間を要し、また、(3)分析者の確保が必要となる。これに対し、本発明では、スラブの凝固組織を目視観察するだけで「最大偏析粒径及び個数密度」を測定できるため、簡易に且つ短時間で偏析度を評価できる。
【0067】
なお、本実施形態では、HICが発生すると判断した場合、スラブを耐サワー鋼以外の製品へ向け先を変更したが、耐サワー鋼向けに鋳造したスラブは、その他のラインパイプ材に充当可能な品質である。特に、耐サワー鋼で要求される水平割れ及び中心偏析レベルはその他のラインパイプ材で要求される水平割れ及び中心偏析レベルに比べて厳格であるため、上記判定で偏析度が高い(水平割れ又は中心偏析が原因でHICが発生する)と判断しても、その他のラインパイプ材に充当可能な良好な品質である。
【0068】
また、閾値の決定(S1〜S4)には、複数のスラブの測定結果及び試験結果を用いることが好ましい。複数のスラブの測定結果及び試験結果を用いることによって、より正確な閾値を得ることができ、HIC発生有無の誤判定を減らすことができる。
【0069】
〔スラブの調査断面数〕
内部品質やHIC性の調査は、スラブや製品の1断面から評価してもよく、2断面以上から評価してもよい。以下に、同一チャージのスラブにおいて複数断面を調査した結果(例1,2)を説明する。ここで、例1は、同一チャージの2断面を調査した例(後述する「実施例15」(表1参照))であり、例2は、同一チャージの3断面を調査した例(後述する「実施例2」(表1参照))である。
【0070】
<開孔厚みとHIC性>
図6に示すように、例1では、2断面のいずれも開孔厚みが0[mm]であり、また、HIC試験で水平割れ部を起点としたHICが発生しなかった。
また、例2では、3断面の開孔厚みが0.72[mm],0.73[mm],0.71[mm]であり、略同じ厚みであった。また、全ての断面で水平割れ部を起点にHICが発生した。
このように、同一チャージでは、断面が異なっても略同じ結果が得られた。
また、1断面だけを調査した場合も(50チャージ)、誤判定がなく、正確な評価ができることがわかった。
【0071】
<最大偏析粒径及び個数密度とHIC性>
図7に示すように、例1では、2断面の最大偏析粒径が1.12[mm]、1.15[mm]であり、個数密度はいずれも0[個/m
2]であった。そして、HIC試験では、いずれの断面でも中心偏析部を起点としたHICが発生しなかった。
また、例2では、3断面の最大偏析粒径が2.45[mm]、2.42[mm]、2.48[mm]であり、個数密度は全て2000[個/m
2]であった。そして、全ての断面で中心偏析部を起点にHICが発生した。
このように、同一チャージでは、断面が異なっても略同じ結果が得られた。
また、1断面だけを調査した場合も(50チャージ)、誤判定がなく、正確な評価ができることがわかった。
【0072】
以上のように、同一チャージでは、各断面で略同じ結果が得られた。また、1断面を調査した場合も正確な評価が得られた。よって、調査断面数は、1断面でもよく、2断面以上でもよいことがわかった。
【0073】
〔スラブの調査位置〕
スラブの調査位置(調査面)は、定常部であることが好ましいが、非定常部でもよい。ここで、「非定常部」とは、鋳造条件の変化時に鋳造された部分であり、鋳造初期(鋳造速度の上昇時)や鋳造末期(鋳造速度の下降時)に鋳造された部分等が挙げられる。非定常部で調査する場合は、
図8に示すように、HIC試験を実施する部位に隣接した部分とすることが好ましい。このような部分はHIC試験結果と同様なHIC性を示すため、より正確な評価を行うことができる。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の判定方法を用いた実施例を説明する。表1及び
図9,10には、閾値を決定するための実験条件及び実験結果を示している。
【0075】
【表1】
【0076】
<鋳造>
表1に示す鋳造条件で、垂直曲げ連続鋳造機を用いてスラブを鋳造した。そして、スラブの全長が10〜15[m]である位置(定常部)でスラブを切断した。ここで、定常部とは、下記の条件を満たす部位である。
1)鋳造速度が一定である。
2)浸漬ノズル詰まり等の操業以上が発生していない。
3)冷却条件が変化していない。
4)ロール隙間が変化していない。
また、閾値を決定するため21チャージを鋳造した。そして、21チャージで水平割れを調査し、7チャージで中心偏析を調査した。
【0077】
次に、表1に示す条件を説明する。
(タンディッシュ内溶鋼の成分)
C,Mn,Nb,P,Caの濃度を発光分光分析法によって測定した。S濃度は低いため、発光分光分析法による測定が困難であった。そこで、S濃度の測定に燃焼−赤外線吸収法を用いた。
(鋳造条件)
・比水量
比水量=(鋳型直下から連鋳機最終ロールまでの単位時間当たりの全二次冷却水量[l/min.])/(単位時間当たりの鋳造鋳片重量[kg/min.])
・鋳造速度
鋳片の引抜き速度[m/min.]であり、鋳片に接触するロール(メジャーロール)の直径(周長)と回転速度(単位時間当たりの回転数)から算出した。
(圧延条件)
・圧延終了表面温度
圧延終了時の鋼板の表面温度[℃]であり、放射温度計で測定した。
・冷却開始表面温度
圧延後の冷却開始時の鋼板の表面温度[℃]であり、放射温度計で測定した。
・冷却速度
圧延後の冷却時の平均表面冷却速度[℃/S]である。
【0078】
<水平割れの調査>
下記の順に作業を行った。
(1)スラブ切断面の幅方向両端からD/2の範囲を#800まで研磨した。
(2)研磨面をピクリン酸(20g/L)、塩化第二銅(5g/L)及び表面活性剤(60ml/L)で腐食した。
(3)腐食面を目視で確認し、水平割れが存在する部分を40mm×70mmの大きさに切り出した。
(4)切り出した試料をバフ研磨し、1μm以下の粗さに仕上げた。
(5)EPMAを用いてビーム径20μmで試料中の水平割れ部のMn偏析度をライン分析した(C
max(Mn))。
(6)鋳造時に測定したタンディッシュ内溶鋼のMn濃度(C
0(Mn))とC
max(Mn)から、C
max(Mn)/C
0(Mn)を算出した。
(7)EPMAを実施した部分の水平割れを顕微鏡(20倍〜50倍)で観察し、開孔厚みを測定した。
【0079】
<中心偏析の調査>
下記の順に作業を行った。
(1)スラブ切断面の幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲を#800まで研磨した。
(2)研磨面をピクリン酸(20g/L)、塩化第二銅(5g/L)及び表面活性剤(60ml/L)で腐食した。
(3)最大偏析粒径を下記の方法によって算出した。
(a)スラブの幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲を幅方向に110mmの区間に区切り、各区間で、厚み中央から±15mmの範囲に存在する偏析粒の長径a及び短径bを、直尺を用いて目視で測定した。
(b)偏析粒の円相当径(粒径)dsを下記の式から算出した。
π×a/2×b/2(楕円面積)=π×(ds/2)
2
ds=(a×b)
0.5
(c)全区間の粒径dsのうち最大の粒径ds
maxを最大偏析粒径(偏析粒の最大径)とした。
(4)所定の径以上の偏析粒の個数密度を下記の方法によって算出した。
(a)スラブの幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲を幅方向に110[mm]の区間に区切り、各区間において、厚み中央から±15[mm]の範囲に存在する偏析粒(直径1.2[mm]の円より大きい偏析粒)の個数を目視で数えた。
ここで、偏析粒が直径1.2[mm]の円より大きいか否かは、偏析粒に直径1.2[mm]の円を印刷した透明なシートを重ねることによって確認した。
(b)各区間の個数密度を下記の式から算出した。
個数密度=個数/1つの区間の面積
=個数/(0.11[m]×0.03[m])
【0080】
<圧延条件>
スラブを鋳造方向に圧延し、スラブ厚み280[mm]が45[mm]になるまで圧延した。なお、スラブ幅方向には圧延を実施しなかった。
【0081】
<HIC試験>
(a)圧延後の製品を幅方向に110mmの区間に区切り、各区間から幅110[mm]×厚み20[mm]×鋳造方向に30[mm]のサンプルを切り出した。
(b)各サンプルにHIC試験を実施した。HIC試験はNACE standard TM0284−2003に規定される方法に従って実施した。
(c)HIC試験後、サンプルを3箇所で切断し、各断面(3断面)を顕微鏡で観察し、割れの有無を確認した。
【0082】
これらの結果を表1及び
図9,10に示す。
図9には、「開孔厚み」及び「C
max(Mn)/(Co(Mn))」とHIC性の関係を示している。また、
図10には、「最大偏析粒」及び「所定の径以上の偏析粒の個数密度」とHIC性の関係を示している。
【0083】
<閾値の決定>
図9から、開孔厚み≦0.054[mm]の場合はHICが発生しなかったが、開孔厚み>0.054[mm]の場合はHICが発生する場合があった。そこで、開孔厚みの閾値を0.054[mm]とした(t
θ=0.054[mm])。なお、開孔していない水平割れ(開孔厚み=0[mm])では、HICが発生しなかった。
上記閾値から判定対象のスラブにおいて、
(a)開孔厚み≦0.054[mm]の場合はHICが発生しないと判断する。
(b)開孔厚み>0.054[mm]の場合はHICが発生すると判断する。
【0084】
また、
図10から、
i)最大偏析粒径≦1.30[mm]の場合は、HICが発生しなかった。
ii)1.30[mm]<最大偏析粒径<1.86[mm]の場合は、HICが発生する場合と発生しない場合とが混在した。この範囲では、HICが発生するか否かの境界をy=−4166.67×x+8083.33で表すことができ、
y≦−4166.67×x+8083.33ではHICが発生しないが、
y>−4166.67×x+8083.33ではHICが発生することがわかった。
ここで、xは「最大偏析粒径」であり、yは「直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度」である。
iii)最大偏析粒径≧1.86[mm]の場合は、HICが発生した。
【0085】
そこで、最大偏析粒径及び個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)の閾値関数を下記とした。
・x=1.30[mm]
・y=−4166.67×x+8083.33(1.30[mm]<x<1.86[mm])
・x=1.86[mm]
そして、
i)HIC発生範囲を下記の2つの範囲とし、
・1.30[mm]<x<1.86[mm]且つy>−4166.67×x+8083.33
・x≧1.86[mm](yは全ての値を含む)
ii)HIC不発生範囲を下記の2つの範囲とした。
・x≦1.30[mm](yは全ての値を含む)
・1.30[mm]<x<1.86[mm]且つy≦−4166.67×x+8083.33
上記から、判定対象のスラブにおいて、
(a)x≦1.30[mm]では、yの値に関わらず、HICが発生しないと判断する。
(b)1.30[mm]<x<1.86[mm]では、
y≦−4166.67×x+8083.33の場合は、HICが発生しないと判断し、
y>−4166.67×x+8083.33の場合は、HICが発生すると判断する。
(c)x≧1.86[mm]では、yの値に関わらず、HICが発生すると判断する。
【0086】
そして、上記の閾値とHIC発生範囲及びHIC不発生範囲を用いて判定対象のスラブのHIC性を評価した。この結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
ここで、表2での調査方法及び評価方法について説明する。
<水平割れ>
(a)判定対象のスラブ切断面の幅方向両端から幅D/2の範囲をフライス加工し、染色浸透探傷試験(JIS Z2343)を実施した。
(b)水平割れが検出されなかった場合は(割れ無)、開孔厚みが検出下限以下(10μ[m]程度以下)と判断した。この厚みは閾値0.054[mm]以下であるため、水平割れが原因のHICが発生しないと判断した(試験a,c)。
(c)水平割れが検出された場合は(割れ有)、開孔していた部位をバフ研磨し、研磨面を20倍〜50倍の顕微鏡で観察して開孔厚みを測定した(試験b,d,e)。
試験bでは、開孔厚みが0.04[mm](<閾値0.054[mm])であったため、水平割れが原因のHICが発生しないと判断した。
一方、試験d,eでは、開孔厚みが0.11[mm],0.16[mm](>閾値0.054[mm])であったため、水平割れが原因のHICが発生すると判断した。
【0089】
<中心偏析>
・試験a
全区間で最も大きい最大偏析粒径は1.41[mm]であり、最大の個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)は1000[個/m
2](<閾値2208.33)であり、HIC不発生範囲にある。そこで、中心偏析が原因のHICが発生しないと判断した。
・試験b
全区間で最も大きい最大偏析粒径は1.36[mm]であり、最大の個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)は1333[個/m
2](<閾値2416.67)であり、HIC不発生範囲にある。そこで、中心偏析が原因のHICが発生しないと判断した。
・試験c
全区間で最も大きい最大偏析粒径は2.52[mm](>閾値1.86)であり、最大の個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)は2000[個/m
2]であり、HIC発生範囲にある。そこで、中心偏析が原因のHICが発生すると判断した。
・試験d
全区間で最も大きい最大偏析粒径は1.15[mm](<閾値1.30)であり、最大の個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)は0[個/m
2]であり、HIC不発生範囲にある。そこで、中心偏析が原因のHICが発生しないと判断した。
・試験e
全区間で最も大きい最大偏析粒径は2.75[mm](>閾値1.86)であり、最大の個数密度(直径1.2mmの円より大きい偏析粒の個数密度)は3000[個/m
2]であり、HIC発生範囲にある。そこで、中心偏析が原因のHICが発生すると判断した。
【0090】
上記結果から、実験No.a,bでは、HICが発生しないと判断し、製品を耐サワー鋼へ充当した(向け先を変更無し)。また、確認のため、HIC試験を実施すると、HICが発生しなかった。このように、判定結果は試験結果と同じ結果となった。
【0091】
一方、実験No.c〜eでは、HICが発生すると判断し、製品の向け先をラインパイプ向けのX60へ変更した。
また、確認のため、HIC試験を実施すると、
(i)実験No.cではスラブの幅方向両端からD/2を除く幅W-Dの範囲(中心偏析調査範囲)でHICが発生し、
(ii)実験No.dではスラブの幅方向両端から幅D/2の範囲(水平割れ調査範囲)でHICが発生し、
(iii)実験No.eではスラブの幅D/2の範囲(水平割れ調査範囲)及び幅W-Dの範囲(中心偏析調査範囲)で共にHICが発生した。
このように、判定結果は試験結果と同じ結果となった。なお、製品の向け先を変更しても、製品特性に問題はなかった。
【0092】
そして、実験No.a,bでは、鋳造開始から出荷までの期間(鋳造→圧延→出荷)が19日であった。これに対し、HIC試験によってHIC性を評価する方法では、鋳造開始から出荷までの期間(鋳造→圧延→HIC試験→出荷)が28日と長期間を要した。本実施例では、HIC試験を省略できたため、鋳造開始から出荷までの期間を28日→19日へ大幅に短縮できた。
【0093】
また、実験No.c〜eにおいて、スラブの段階で再溶製を開始したところ、鋳造開始から耐サワー鋼の出荷までの期間(鋳造→再溶製→圧延→出荷)が54日であった。これに対し、HIC試験で製品のHIC性を評価する方法では、HIC試験を行った後に再溶製を開始したため、鋳造開始から耐サワー鋼の出荷までの期間(鋳造→圧延→HIC試験→再溶製→圧延→HIC試験→出荷)が72日と長期間を要した。このように、本実施例では、圧延及びHIC試験を省略できたため、鋳造開始から出荷までの期間を72日→54日へ大幅に短縮できた。
【0094】
以上のように、本発明の判定方法を利用すると、HIC試験を行うことなく、鋳片の段階でHIC性を評価できたため、製造リードタイムを大幅に短縮できた。
【0095】
また、別の試験で50チャージを鋳造し、各チャージのHIC性を評価したところ、47チャージではHICが発生しないと判断し、残りの3チャージのスラブではHICが発生すると判断した。その後、確認のため、HIC試験を行うと、上記の47チャージではHICが発生せず、残りの3チャージではHICが発生した。このように、本発明による判定結果は、HIC試験結果と同一の結果であり、本発明の判定方法は精度が高いといえる。また、残りの3チャージで製造した製品をHIC性が要求されないラインパイプ材へ充当したが、品質上の問題が生じなかった。
【0096】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0097】
例えば、上述の実施形態及び実施例では、
図2に示すように、先ず、水平割れの「開孔厚み」を測定し、その後「最大偏析粒径」及び「個数密度」を測定したが(S1→S2、S6〜S10)、これらの順序を変更してもよい。例えば、「最大偏析粒径」及び「個数密度」を測定した後に、水平割れの「開孔厚み」を測定してもよい(S2→S1等)。また、水平割れの「開孔厚み」、「最大偏析粒径」及び「個数密度」の測定を同時期に行ってもよい。
【0098】
さらに、上述の実施形態では、判定対象のスラブのHIC性を評価するときに(
図2に)、先ず、水平割れの「開孔厚みt」と閾値t
θとを比較し、その後、『「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」』と『閾値d
θ,m
θから決定した「HIC発生範囲」』とを比較したが(S6→S7→S8→S10→S11)、これらの順序を変更してもよい。例えば、「最大偏析粒径d」及び「個数密度m」と「HIC発生範囲」とを比較した後に、「開孔厚みt」と閾値t
θとを比較してもよい(S10→S11→S6→S7→S8)。
【0099】
また、上述の実施形態では、判定対象のスラブのHIC性を評価するとき(
図2参照)、ステップS6で水平割れの「開孔厚み」の有無を確認したが、ステップS6を省略してもよい。例えば、「開孔厚み」が無い場合は開孔厚みt=0とし、t=0と閾値t
θを比較してもよい。
【0100】
さらに、上述の実施形態及び実施例では、「所定の径以上の偏析粒の個数密度」を「直径12[mm]以上の偏析粒の個数密度」としたが、所定の径は12[mm]に限定されず、変更可能である。
【0101】
加えて、上述の実施形態では、「最大偏析粒径」及び「個数密度」を測定するときに、
図3,5では、スラブの幅方向両端からD/2を除く幅W−Dの範囲(領域R
3)を幅方向に2個以上の所定の区間r
1,r
2,r
3・・・r
nに区切った場合を図示したが、領域R
3を1つの区間としてもよい。
【0102】
また、「開孔厚み」、「最大偏析粒径」及び「個数密度」の測定方法は、上述の実施例で説明した方法に限定されず、その他の方法を用いてもよい。
【0103】
さらに、上述の実施形態及び実施例では、垂直曲げ型連続鋳造鋳造機したスラブについて説明したが、本発明の判定方法は、他の構成の鋳造鋳造機で鋳造したスラブにも適用可能である。