(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
排ガスの入口側となる入口端面から排ガスの出口側となる出口端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、所定のセルの前記出口端面側の開口端部及び残余のセルの前記入口端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有し、前記入口端面から前記セル内に流入した排ガスが、前記隔壁を透過した後、前記出口端面から前記セル外に流出するハニカム構造体であって、
前記隔壁全体の内、前記隔壁を透過する排ガスの入口側となる前記隔壁の表面から厚さtまでの部位の気孔率をpとし、前記隔壁の残りの部位の気孔率をPとしたとき、tが50〜100μmであり、pがPより小さく、pが25〜45%であり、前記隔壁を透過する排ガスの出口側となる前記隔壁の表面に、SCR触媒が担持されており、かつ、前記隔壁を透過する排ガスの出口側となる前記隔壁の表面に、酸化触媒が担持されていないハニカム構造体。
前記隔壁を透過する排ガスの入口側となる前記隔壁の表面から厚さtまでの部位に存在する細孔の平均細孔径をrとしたとき、rが10μm以下である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0021】
(1)ハニカム構造体:
図1は、本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略斜視図であり、
図2は、本発明にハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図であり、
図3は、
図2の点線で囲われた部分を拡大して示す概略拡大図である。尚、
図3は、ハニカム構造体の隔壁の一方の表面にSCR触媒が担持され、隔壁の他方の表面にPMが堆積した時の状態を示している。
【0022】
図1及び
図2に示すように、本発明に係るハニカム構造体1は、ハニカム構造部2と目封止部3とを備えるものである。ハニカム構造部2は、排ガスの入口側となる入口端面6から排ガスの出口側となる出口端面7まで延びる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を有する。また、目封止部3は、ハニカム構造部2の所定のセル4aの出口端面7側の開口端部及び残余のセル4bの入口端面6側の開口端部を目封止する。目封止部3は、ハニカム構造部2の入口端面6と出口端面7とが相補的な市松模様を呈するように配置されていることが好ましい。
【0023】
本発明に係るハニカム構造体1は、このようなハニカム構造部2と目封止部3とを備えることにより、入口端面6からセル4内に流入した排ガスGが、隔壁5を透過した後、出口端面7からセル4外に流出する構造となっている。即ち、PMを含む排ガスGは、まず、入口端面6側においては開口端部が目封止されておらず、出口端面7側において開口端部が目封止された所定のセル4a内に流入する。次いで、所定のセル4a内に流入した排ガスGは、多孔質の隔壁5を透過して、入口端面6側において開口端部が目封止され、出口端面7側においては開口端部が目封止されていない残余のセル4b内に移動する。そして、排ガスGが、多孔質の隔壁5を透過する際に、この隔壁5が濾過層となり、排ガスG中のPMが隔壁5に捕捉され隔壁5上に堆積する。こうして、PMが除去され、残余のセル4bに移動した排ガスGは、その後、出口端面7から残余のセル4b外に流出する。
【0024】
濾過層となる隔壁5には、相互に裏と表の関係にある2つの表面がある。これら2つの表面の内、一方は、隔壁5を透過する排ガスの入口側となる隔壁の表面(以下、「入口側隔壁表面」と称する。)8aであり、他方は、隔壁5を透過する排ガスの出口側となる隔壁の表面(以下、「出口側隔壁表面」と称する。)8bである。
図3に示すように、隔壁5に捕捉された排ガス中のPM10は、入口側隔壁表面8aに堆積する。
【0025】
本発明に係るハニカム構造体1においては、隔壁5全体の内、入口側隔壁表面8aから厚さtまでの部位5aの気孔率をpとし、隔壁の残りの部位5bの気孔率をPとしたとき、pがPより小さい。尚、隔壁の各部位の気孔率は、隔壁断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮り、市販の画像解析ソフト(メディアサイバネティックス社製、「イメージプロプラス」)を用いることによって求めることができる。具体的には、隔壁断面のSEM写真を前記画像解析ソフトで二極化し、それぞれの部位の隔壁部分(細孔以外の実体部分)と空孔部分(細孔部分)との面積を計測し、それら計測値から各部位の気孔率を算出する。
【0026】
このように隔壁5全体の内、PM10が捕集される入口側隔壁表面8aから所定の厚さまでの部位5aの気孔率のみを、残りの部位5bの気孔率よりも小さくすることで、隔壁5全体としては、高い排ガス透過性を持たせることができる。このため、入口側隔壁表面8aにPM10が堆積した際の圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0027】
また、PM10が堆積するのは、入口側隔壁表面8aであるため、その反対側の表面、即ち、出口側隔壁表面8bにSCR触媒9を担持させれば、堆積したPM10と担持されたSCR触媒9とが隔壁5を介して離れた状態となる。更に、入口側隔壁表面8aから所定厚さまでの部位5aは、気孔率が小さい、即ち熱容量が大きいため、再生処理により、堆積したPM10を燃焼させた際に生じる熱が、当該部位に吸収され、残りの部位5bの温度上昇が抑制される。よって、再生処理により、堆積したPM10を燃焼させても、その燃焼による熱がSCR触媒9に伝わりにくく、SCR触媒9の熱劣化が効果的に抑制される。
【0028】
本発明に係るハニカム構造体1は、これらの効果を有することにより、PDF等の微粒子捕集フィルタとしての機能と、SCR触媒の担体としての機能とを両立することができる。このため、微粒子捕集フィルタとSCR触媒とを、1つのハニカム構造体に纏めることが可能となり、その結果、排ガス浄化装置を小型化して、従来は当該装置の搭載スペースを確保することが困難であった乗用車等にも当該装置を搭載することが可能となる。
【0029】
本発明に係るハニカム構造体1において、tは50〜100μm、好ましくは50〜90μmである。tが50μm未満では、再生処理の際に、出口側隔壁表面8bに担持させたSCR触媒9の熱劣化を十分に抑制できず、再生処理後のSCR触媒9による浄化性能が大きく低下する。一方、tが100μmを超えると、入口側隔壁表面8aにPM10が堆積した際の圧力損失の上昇を十分に抑制することができなくなるととともに、必要な強度が得られなくなる。
【0030】
また、本発明に係るハニカム構造体1において、pは25〜45%、好ましくは30〜45%である。pが25%未満であるか、45%を超えると、入口側隔壁表面8aにPM10が堆積した際の圧力損失の上昇を十分に抑制することができなくなる場合がある。更に、pが45%を超えると、再生処理の際に、出口側隔壁表面8bに担持させたSCR触媒9の熱劣化を十分に抑制できず、再生処理後のSCR触媒9による浄化性能が大きく低下するとともに、必要な強度が得られなくなる。
【0031】
また、本発明に係るハニカム構造体1においては、入口側隔壁表面8aから厚さtまでの部位5aに存在する細孔11の平均細孔径をrとしたとき、rが10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。rが10μmを超えると、入口側隔壁表面8aにPM10が堆積した際の圧力損失の上昇を十分に抑制することができなくなる場合がある。
【0032】
更に、本発明に係るハニカム構造体1においては、隔壁5の残りの部位(入口側隔壁表面から厚さtまでの部位5aを除いた部位)5bに存在する細孔12の平均細孔径をRとしたとき、Rが30μm未満であることが好ましく、25μm未満であることがより好ましい。Rが30μm以上になると、必要な強度が得られなくなる場合がある。
【0033】
尚、隔壁の各部位に存在する細孔の平均細孔径は、隔壁断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮り、市販の画像解析ソフト(メディアサイバネティックス社製、「イメージプロプラス」)を用いることによって求めることができる。具体的には、隔壁断面のSEM写真を前記画像解析ソフトで二極化し、それぞれの部位に存在する空孔部分(細孔部分)の直径を計測して、その平均値を算出する。
【0034】
本発明に係るハニカム構造体1においては、隔壁5全体の厚さをTとしたとき、Tに対するtの割合が4〜40%であることが好ましく、15〜35%であることがより好ましい。Tに対するtの割合が4%未満では、出口側隔壁表面8bに担持させたSCR触媒9の熱劣化を十分に抑制できず、再生処理後のSCR触媒9による浄化性能が大きく低下する場合がある。一方、Tに対するtの割合が40%を超えると、入口側隔壁表面8aにPM10が堆積した際の圧力損失の上昇を十分に抑制することができなくなったり、必要な強度が得られなくなったりする場合がある。
【0035】
本発明に係るハニカム構造体1において、Tは150〜460μmであることが好ましく、200〜350μmであることがより好ましい。Tが150μm未満では、再生処理の際に、出口側隔壁表面8bに担持させたSCR触媒9の熱劣化を十分に抑制できず、再生処理後のSCR触媒9による浄化性能が大きく低下する場合がある。一方、Tが460μmを超えると、圧力損失の過剰な増大が生じる場合がある。
【0036】
本発明に係るハニカム構造体は、SCR触媒が担持させることにより、微粒子捕集フィルタとしての機能と、SCR触媒の担体としての機能とを併せ持ったものとなる。このようなハニカム構造体を得るに際しては、
図3に示すように、SCR触媒9を、出口側隔壁表面8bに担持させる。既述のとおり、PM10が堆積するのは、入口側隔壁表面8aであるため、その反対側である出口側隔壁表面8bにSCR触媒9を担持させれば、堆積したPM10と担持されたSCR触媒9とが隔壁5を介して離れた状態となる。そして、その結果、再生処理により、堆積したPM10を燃焼させても、その燃焼による熱がSCR触媒9に伝わりにくくなり、SCR触媒9の熱劣化が効果的に抑制される。
【0037】
尚、「SCR」とは、「Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元」の略であり、「SCR触媒」とは、還元反応によって被浄化成分を選択還元する触媒(選択還元触媒)のことを意味する。排ガス浄化用のSCR触媒としては、例えば窒素酸化物(NO
x)を選択還元する触媒を挙げることができる。
【0038】
SCR触媒となる物質としては、例えば、金属置換されたゼオライトを挙げることができる。ゼオライトを金属置換する金属としては、鉄(Fe)、銅(Cu)を挙げることができる。ゼオライトとしては、ベータゼオライトを好適例として挙げることができる。
【0039】
また、SCR触媒が、バナジウム及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種を主たる成分として含有する触媒であってもよい。SCR触媒中のバナジウム及びチタニアの含有量は、60質量%以上であることが好ましい。
【0040】
SCR触媒の担持量については、特に制限はないが、担持量が少なすぎると十分な浄化性能が得られな場合があるので、ハニカム構造体の単位体積当りの担持量として、200g/リットル以上であることが好ましい。但し、担持量が多すぎると、ハニカム構造体の圧力損失が過剰に増大することがあるので、担持量の上限は、400g/リットル程度とすることが好ましい。
【0041】
本発明に係るハニカム構造体においては、隔壁5全体の平均細孔径が、10〜25μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。隔壁5全体の平均細孔径が10μm未満であると、圧力損失が過剰に増大する場合がある。また、隔壁5全体の平均細孔径が25μmを超えると、PM捕集効率が悪化するとともに、必要な強度を得ることが困難となる場合がある。
【0042】
また、本発明に係るハニカム構造体1においては、隔壁5全体の気孔率が、40〜75%であることが好ましく、50〜65%あることがより好ましい。隔壁5全体の気孔率が、40%未満であると、圧力損失の過剰な増大が生じる場合がある。また、隔壁5全体の気孔率が、75%を超えると、必要な強度を得ることが困難となる場合がある。
【0043】
本発明に係るハニカム構造体1において、セル密度は特に限定されないが、15〜80セル/cm
2であることが好ましく、30〜65セル/cm
2であることがより好ましい。セル密度が、15セル/cm
2未満では、PMを捕集する隔壁の面積が小さくなり、排ガスを流通させたときに、短時間で圧力損失が大きくなる場合がある。一方、セル密度が、80セル/cm
2より大きいと、セルの断面積(セルの延びる方向に直交する断面の面積)が小さくなるため、圧力損失が大きくなる場合がある。
【0044】
本発明に係るハニカム構造体1の形状は特に限定されず、例えば、端面が円形の筒状(円筒形状)、端面がオーバル形状の筒状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の筒状等の形状とすることができる。また、セル形状(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)も、特に限定されないが、四角形、六角形、八角形等の多角形が好ましい。
【0045】
本発明に係るハニカム構造体1において、ハニカム構造部2の形成材料については特に制限はないが、セラミックが好ましい。特に、強度及び耐熱性に優れることより、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種のセラミック材料が好適に使用できる。
【0046】
本発明に係るハニカム構造体1において、目封止部3の形成材料には、ハニカム構造部2形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。そうすることにより、隔壁5と目封止部3との熱膨張差を小さくすることができ、隔壁5と目封止部3との間に生じる熱応力を緩和することができる。
【0047】
本発明に係るハニカム構造体は、ディーゼルエンジン等の内燃機関、又は各種燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるPMを捕集するための微粒子捕集フィルタとして使用すると同時に、SCR触媒を担持するための担体としても使用することができる。
【0048】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
以下、本発明に係るハニカム構造体の製造方法の一例を説明する。まず、セラミック原料を含有する成形原料を混合し、混練して坏土を得る。セラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。尚、コージェライト化原料とは、焼成されることによりコージェライトになる原料のことであり、具体的には、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合された原料である。
【0049】
成形原料は、前記セラミック原料に、分散媒、焼結助剤、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を混合して調製することが好ましい。
【0050】
分散媒としては、水を用いることが好ましい。分散媒の含有量は、成形原料を混練して得られる坏土が成形しやすい硬度となるように適宜調整する。具体的な分散媒の含有量としては、成形原料全体に対して20〜80質量%であることが好ましい。
【0051】
焼結助剤としては、例えば、イットリア、マグネシア、酸化ストロンチウム等を用いることができる。焼結助剤の含有量は、成形原料全体に対して0.1〜0.3質量%であることが好ましい。
【0052】
有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、成形原料全体に対して2〜10質量%であることが好ましい。
【0053】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0054】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、中空樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して10質量%以下であることが好ましい。成形原料に含まれる造孔材の平均粒子径は、65μm未満であることが好ましく、30μm未満であることがより好ましい。成形原料に含まれる造孔材の平均粒子径が30μm未満であれば、Rを30μm未満という好ましい値にすることができる。但し、成形原料に含まれる造孔材の平均粒子径が10μm未満であると、気孔を十分に形成できない場合があるので、平均粒子径の下限は10μmとすることが好ましい。
【0055】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0056】
次いで、得られた坏土を成形して、ハニカム成形体を形成する。ハニカム成形体は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有する成形体である。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0057】
こうして得られたハニカム成形体を乾燥させた後、焼成する。乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0058】
乾燥後のハニカム成形体は、焼成(本焼成)の前に仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼の方法については特に制限はない。例えば、ハニカム成形体中の有機物の少なくとも一部を除去することができればよい。前記有機物としては、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を挙げることができる。有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度である。このため、仮焼は、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、10〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0059】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われるものである。焼成の条件は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1350〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、3〜10時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0060】
続いて、焼成後のハニカム成形体(ハニカム焼成体)に目封止部を形成する。この目封止部を形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような方法で作製したハニカム焼成体の端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム焼成体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。こうして充填した目封止用スラリーを乾燥した後、焼成して硬化させることにより、目封止部が形成される。目封止部は、ハニカム焼成体の両端面が相補的な市松模様を呈するような配置で形成されることが好ましい。また、目封止部の形成材料には、ハニカム焼成体の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。尚、目封止部の形成は、ハニカム成形体の乾燥後、仮焼(脱脂)前の段階、又は焼成(本焼成)前の段階で行ってもよい。
図4Aは、こうして目封止部3が形成されたハニカム焼成体13の一部を模式的に示した概略断面図である。この時点では、隔壁5の平均細孔径や気孔率は、隔壁5全体においてほぼ均一な状態となっている。
【0061】
次に、隔壁の一部(入口側隔壁表面から所定厚さまでの部位)に、隔壁の残りの部位よりも気孔率の小さい部位を形成する。具体的には、
図4Bに示すように、ハニカム焼成体13の一方の端面(最終的に入口端面となる端面)側において、目封止部が形成されず開口している所定のセル4a内に、気孔率の小さい部位を形成するためのゾル状原料14を充填する。ゾル状原料14は、前記成形原料と同様に、セラミック原料に、分散媒、焼結助剤、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を混合して調製される。但し、このゾル状原料14に含まれる造孔材のセラミック原料に対する体積割合は、前記成形原料に含まれる造孔材のセラミック原料に対する体積割合より小さい。ゾル状原料14に含まれる造孔材のセラミック原料に対する体積割合は、25〜45%であることが好ましく、30〜45%であることがより好ましい。ゾル状原料14に含まれる造孔材のセラミック原料に対する体積割合をこのような範囲とすることにより、pを25〜45%にすることができる。また、ゾル状原料14に含まれる造孔材の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。ゾル状原料14に含まれる造孔材の平均粒子径が10μm以下であれば、rを10μm以下という好ましい値にすることができる。但し、ゾル状原料14に含まれる造孔材の平均粒子径が4μm未満であると、気孔を十分に形成できない場合があるので、平均粒子径の下限は4μmとすることが好ましい。
【0062】
次いで、
図4Cに示すように、ゾル状原料14が充填された所定のセル4a内に、棒状の器具15を挿入して余分なゾル状原料をセル4a内から除去し、セル4a内に残ったゾル状原料14を乾燥して固化させる。棒状の器具15は、その長さ方向に垂直な断面の形状が、セル形状と同一の形状であることが好ましい。また、棒状の器具15は、その断面の中心がセルの断面の中心と一致するようにセル内に挿入した際に、棒状の器具15とハニカム焼成体13の隔壁5との隙間が50〜100μmとなるような断面寸法を有するものであることが好ましい。このような棒状の器具15を使用することにより、tを50〜100μmとすることができる。
【0063】
こうして、
図4Dに示すように、ハニカム焼成体13の所定のセル4a内に露出していた隔壁の表面にゾル状原料14からなる層を形成した後、ハニカム焼成体13を再度焼成して、このゾル状原料14からなる層をハニカム焼成体と一体化させる。
【0064】
このような製造方法によって、tが50〜100μmであり、pがPより小さく、pが25〜45%である本発明のハニカム構造体を得ることができる。
【0065】
(3)SCR触媒の担持方法:
次に、前記のようにして製造されたハニカム構造体に、SCR触媒を担持する方法の一例を説明する。まず、SCR触媒を含む触媒スラリーを調製する。この触媒スラリーを、ハニカム構造体の出口側隔壁表面にコートする。コートの方法は、特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体の出口側隔壁表面が露出しているセル(ハニカム構造体の入口端面側に目封止部が形成されているセル)内に、触媒スラリーを導入し、ハニカム構造体の入口端面側から吸引する方法が好適なコート方法として挙げられる。尚、こうして出口側隔壁表面にコートされた触媒スラリーは、出口側隔壁表面を覆うとともに、その一部が、出口側隔壁表面近傍に存在する細孔内に充填される。
【0066】
触媒スラリーの粘度は、8mPa・s以下であることが好ましく、5〜7mPa・sであることが更に好ましく、6〜7mPa・sであることが特に好ましい。触媒スラリーの粘度は、触媒スラリー中の水分の比率を調整することによってコントロールすることができる。また、触媒スラリーに含まれるSCR触媒の粒子径は、10μm以下であることが好ましく、3〜5μmであることが更に好ましく、4〜5μmであることが特に好ましい。触媒スラリーの粘度や触媒スラリーに含まれるSCR触媒の粒子径をこのような範囲にすることにより、触媒スラリーが出口側隔壁表面近傍に存在する細孔内に充填され易くなるため、その細孔内により多くのSCR触媒が担持され、高い触媒浄化性能が得られる。
【0067】
ハニカム構造体の出口側隔壁表面に触媒スラリーをコートした後、触媒スラリーを乾燥する。更に、乾燥した触媒スラリーを焼成してもよい。このようにして、SCR触媒が担持されたハニカム構造体を得ることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(比較例1)
タルク、カオリン、アルミナを主原料とするコージェライト化原料に、造孔材、有機バインダ、及び水を加えて、成形原料を調製した。造孔材としては平均粒子径が20μmの中空樹脂粒子を用いた。尚、この平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。また、有機バインダとしては、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロースを用いた。各原料の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、造孔材15質量部、有機バインダ4質量部、水27質量部とした。
【0070】
次に、この成形原料をニーダーを用いて混練し、円柱状の坏土を作製した。そして、得られた円柱状の坏土を真空押出成形機を用いてハニカム形状に成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機で乾燥した後、更に熱風乾燥機で乾燥して、ハニカム乾燥体を得た。
【0071】
次いで、このハニカム乾燥体の各セルの一方の開口端部に、目封止部を形成した。目封止部の形成は、開口端部に目封止部が形成されたセルと、開口端部に目封止部が形成されていないセルとによって、ハニカム乾燥体の各端面(入口端面及び出口端面)が、市松模様を呈するように行った。目封止部の形成方法としては、まず、ハニカム乾燥体の端面にシートを貼り付け、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開けた。続いて、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム乾燥体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填した。尚、目封止部の形成材料には、前記成形原料と同じものを用いた。
【0072】
こうして、セルの開口端部内に充填した目封止用スラリーを乾燥した後、このハニカム乾燥体を、大気雰囲気にて550℃で3時間かけて仮焼(脱脂)した。その後、約1400℃〜1500℃で7時間焼成して、ハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、直径が144mm、長さが152mmの円筒形で、セル形状が正方形、セル密度が47セル/cm
2、隔壁全体の厚さ(T)が300μm、隔壁全体の気孔率が65%、隔壁全体の平均細孔径が20μmであった。
【0073】
続いて、このハニカム構造体の出口側隔壁表面に、SCR触媒を担持させた。SCR触媒には、Cu置換ゼオライトを用いた。具体的な担持方法としては、まず、Cu置換ゼオライトを含む触媒スラリーを調製した。触媒スラリーの分散剤としては、水を用いた。水の量は、スラリーの粘度が7mPa・sに調節した。この触媒スラリーを、ハニカム構造体の出口側隔壁表面が露出しているセル(ハニカム構造体の入口端面側に目封止部が形成されているセル)内に導入し、ハニカム構造体の入口端面側から吸引することにより、出口側隔壁表面にコートした。その後、このハニカム構造体を熱風乾燥機で乾燥して、出口側隔壁表面にSCR触媒が担持された比較例1のハニカム構造体を得た。この比較例1のハニカム構造体は、後述する実施例1〜22及び比較例2〜8のハニカム構造体について評価を行う際の評価基準となるものである。
【0074】
(実施例1〜22及び比較例2〜8)
SCR触媒を担持させる前に、隔壁の一部(入口側隔壁表面から所定厚さまでの部位)に、残りの部位よりも気孔率の小さい部位を形成する工程を行った以外は、比較例1と同様にして、実施例1〜22及び比較例2〜8のハニカム構造体を得た。前記工程では、まず、比較例1と同様にして得られたSCR触媒担持前のハニカム構造体の入口側隔壁表面が露出しているセル(ハニカム構造体の出口端面側に目封止部が形成されているセル)内に、気孔率の小さい部位を形成するためのゾル状原料を充填した。ゾル状原料は、前記成形原料と同様に、コージェライト化原料に、造孔材、有機バインダ、及び水を加えて調製されたものである。但し、このゾル状原料に含まれる造孔材のコージェライト化原料に対する体積割合は、前記成形原料に含まれる造孔材のコージェライト化原料に対する体積割合より小さくなるようにしている。
【0075】
次いで、ゾル状原料が充填されたセル内に、棒状の器具を挿入して余分なゾル状原料を除去し、セル内に残ったゾル状原料を乾燥して固化させた。こうして、ハニカム構造体の所定のセル内に露出していた隔壁の表面にゾル状原料からなる層を形成した後、ハニカム焼成体を再度焼成して、このゾル状原料からなる層をハニカム構造体と一体化させた。
【0076】
その後、比較例1と同様にして、ハニカム構造体の出口側隔壁表面に、SCR触媒を担持させ、実施例1〜22及び比較例2〜8のハニカム構造体を得た。これらハニカム構造体における隔壁全体の厚さT、隔壁全体の内、入口側隔壁表面から厚さtまでの部位の気孔率p、隔壁の残りの部位の気孔率P、Tに対するtの割合は、表1に示すとおりである。また、隔壁全体の内、入口側隔壁表面から厚さtまでの部位に存在する細孔の平均細孔径r、隔壁の残りの部位に存在する細孔の平均細孔径Rも併せて同表に示している。
【0077】
尚、隔壁の各部位の気孔率p,Pは、隔壁断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮り、市販の画像解析ソフト(メディアサイバネティックス社製、「イメージプロプラス」)を用いることによって求めた。具体的には、隔壁断面のSEM写真を前記画像解析ソフトで二極化し、それぞれの部位の隔壁部分(細孔以外の実体部分)と空孔部分(細孔部分)との面積を計測し、それら計測値から各部位の気孔率を算出した。
【0078】
また、隔壁の各部位に存在する細孔の平均細孔径r,Rも、隔壁断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮り、市販の画像解析ソフト(メディアサイバネティックス社製、「イメージプロプラス」)を用いることによって求めた。具体的には、隔壁断面のSEM写真を前記画像解析ソフトで二極化し、それぞれの部位に存在する空孔部分(細孔部分)の直径を計測して、その平均値を算出した。
【0079】
【表1】
【0080】
(評価)
実施例1〜22及び比較例2〜8のハニカム構造体について、下記の方法で、煤付き圧力損失、浄化性能及び強度の評価を行い、更にそれらの評価に基づいて総合評価を行って、その結果を表2に示した。
【0081】
[煤付き圧力損失の評価]
ハニカム構造体に、排気量2.0リットルのディーゼルエンジンを用いて4g/リットルのススを捕集させた。この状態で、2.27Nm
3/minの流量で空気を流し、ハニカム構造体の入口側と、出口側とで圧力を測定した。こうして測定された入口側における圧力と出口側における圧力との圧力差を、ハニカム構造体の煤付き圧力損失とし、以下に示す基準で、A,B,Cの三段階評価を行った。
A:比較例1のハニカム構造体の煤付き圧力損失と比較して、煤付き圧力損失が10%以上低い。
B:比較例1のハニカム構造体の煤付き圧力損失と比較して、煤付き圧力損失が5%以上、10%未満の範囲で低い。
C:比較例1のハニカム構造体の煤付き圧力損失と比較して、煤付き圧力損失が同等以上であるか、5%未満の範囲で低い。
【0082】
[浄化性能の評価]
まず、電気炉を使用し、ハニカム構造体を650℃の空気雰囲気下にて8時間加熱するという方法で熱履歴を与えた。その後、ハニカム構造体を、排気量7リットルのディーゼルエンジンの排気マニホルド直下に装着し、このディーゼルエンジンから排出される約250℃の排ガスを、ハニカム構造体に通気させた。そして、ハニカム構造体の入口側のNO
x濃度と出口側のNO
x濃度とを測定し、その測定値からNO
x浄化率(1−出口側のNO
x濃度/入口側のNO
x濃度×100(%))を求めた。このNO
x浄化率をハニカム構造体の浄化性能とし、以下に示す基準で、A,B,Cの三段階評価を行った。
A:ハニカム構造体の浄化性能が、90%以上である。
B:ハニカム構造体の浄化性能が、70%以上、90%未満である。
C:ハニカム構造体の浄化性能が、70%未満である。
【0083】
[強度の評価]
ハニカム構造体に対して静水圧加圧試験を行い、破損に達したときの圧力を測定した。こうして測定された圧力をハニカム構造体の強度とし、以下に示す基準で、A,B,Cの三段階評価を行った。
A:ハニカム構造体の強度が、1.0MPa以上である。
B:ハニカム構造体の強度が、0.7MPa以上、1.0MPa未満である。
C:ハニカム構造体の強度が、0.7MPa未満である。
【0084】
[総合評価]
煤付き圧力損失、浄化性能及び強度という3つの項目の評価に基づき、以下に示す基準で、A,B,Cの三段階評価を行った。
A:3つの項目の全てにおいて評価がA、又は、何れか2つの項目の評価がAで、残りの1つの項目の評価がBである。
C:3つの項目の内、何れか2つ以上の項目の評価がCである。
B:上記A,Cの何れにも該当しないものである。
【0085】
【表2】
【0086】
(考察)
表2に示すとおり、本発明の実施例である実施例1〜22のハニカム構造体は、総合評価がA又はBであり、微粒子捕集フィルタとしての機能と、SCR触媒の担体としての機能とを概ね両立することが可能であると考えられる。一方、本発明に含まれない比較例2〜8のハニカム構造体は、総合評価がCであり、微粒子捕集フィルタとしての機能と、SCR触媒の担体としての機能とを両立することは困難であると考えられる。