特許第6043231号(P6043231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043231
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/04 20160101AFI20161206BHJP
【FI】
   H02P6/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-83697(P2013-83697)
(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公開番号】特開2014-207770(P2014-207770A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健史
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 明喜
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−172054(JP,A)
【文献】 特開2008−225780(JP,A)
【文献】 特開2003−079180(JP,A)
【文献】 米国特許第05646495(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電動機と副電動機とを用いて、重力に起因する負荷量が可動位置に応じて変化する一つの可動部を駆動するタンデム制御を行う電動機制御装置であって、
前記電動機毎に、
可動部の位置を制御するための共通の位置指令に基づき、対応する電動機の速度指令を演算する位置制御部と、
前記位置制御部で演算された速度指令に基づき、対応する電動機のトルク指令を演算する速度制御部と、
前記速度制御部で演算されたトルク指令に、前記主電動機および副電動機で極性が逆の予圧トルクを印加する予圧制御部と、
前記トルク指令に基づき、対応する電動機の電流指令を演算する電流制御部と、
をそれぞれ備え、
前記予圧制御部は、前記可動部の位置に応じて、印加する予圧トルクを変化させる、
ことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機制御装置であって、
前記予圧制御部は、規定の基準トルクに、前記可動部の位置に応じて変化する係数を乗算した値を前記予圧トルクとして印加しており、
前記係数は、任意に設定される原点に対して対称となる係数一定区間では一定であり、前記係数一定区間外では、原点から離れるに従って低減する、
ことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動機制御装置であって、
前記印加する予圧トルクは、前記可動部を指令位置で保持するトルクであって可動部の位置に応じて変化する保持トルクとの加算値が、可動部の位置に関わらず常に一定になる値である、ことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項4】
主電動機と副電動機とを用いて、一つの可動部を駆動するタンデム制御を行う電動機制御装置であって、
前記電動機毎に、
可動部の位置を制御するための共通の位置指令に基づき、対応する電動機の速度指令を演算する位置制御部と、
前記位置制御部で演算された速度指令に基づき、対応する電動機のトルク指令を演算する速度制御部と、
前記速度制御部で演算されたトルク指令に、前記主電動機および副電動機で極性が逆の予圧トルクを印加する予圧制御部と、
前記トルク指令に基づき、対応する電動機の電流指令を演算する電流制御部と、
をそれぞれ備え、さらに、
前記主電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令と前記副電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令との差を調停するトルク調停値を、少なくとも前記予圧トルクを印加ないし除去してからの経過時間に応じて演算し、前記副電動機の前記予圧制御部に入力する前のトルク指令に加算するトルク調停部を備える、
ことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動機制御装置であって、
前記トルク調停部は、前記予圧トルクを印加ないし除去からの経過時間が規定の基準時間以下の間は、前記トルク調停値としてゼロを出力し、前記経過時間が規定の基準時間以上の場合は、前記トルク調停値として、前記主電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令と前記副電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令との差に対してローパスフィルタ処理を行った値を出力する、ことを特徴とする電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等に利用される複数の電動機をタンデム駆動する制御装置に関するものであり、特に各電動機に印加するトルク指令値に対して極性の異なる微小トルク補償を行うことで、電動機と制御対象間のベルトや歯車などに代表される動力伝達機構に起因する制御の不安定要因を排除することを目的とする制御方法であって、また、機械姿勢に応じて電動機に印加する電流を変化させる制御に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等において、移動させようとする可動部が大きく、一つのモータだけでは駆動できない場合において、複数のモータに対して同一の移動指令を行い、可動部の同一移動軸上での動作を複数のモータで駆動制御するタンデム制御が行われている。
【0003】
特許文献1には、主電動機と副電動機とを用いて、一つの可動部を駆動するタンデム制御電動機制御装置であって、主制御装置のトルク指令と副制御装置のトルク指令の差に対してローパスフィルタ処理を行い、副制御装置のトルク指令を補正するためのトルク調停部を具備する技術が開示されている。図6は、特許文献1に開示されるタンデム制御の要部ブロック図である。図6において、図示しない位置制御部は、可動部の位置を制御するための共通の位置指令と、位置検出器4で検出される位置帰還情報に基づき電動機の速度指令を演算する。
【0004】
速度制御部11,21は、位置制御部からの速度指令と、速度検出器15,25で検出される速度帰還情報に基づきPI制御等の制御を行い、それぞれトルク指令Tm,Tsを演算する。トルク調停部40は主制御装置のトルク指令Tmと、副制御装置のトルク指令Tsとの差に対してローパスフィルタ処理を行い、副制御装置のトルク指令に加算する。電流制御部12,22は、トルク指令Tm,Tsと、電流帰還情報に基づき、電圧指令を演算する。電流帰還情報については記載を省略する。
【0005】
サーボアンプ13,23は、電流制御部12,22からそれぞれ出力される電圧指令から、電動機14,24を駆動する駆動電流を出力し、電動機14,24を駆動する。そして、動力伝達機構16,26を介して可動部3を移動させる。
【0006】
このように、複数の電動機14,24は共通の位置指令に基づいて位置、速度、電流のループ制御がなされ、電動機14,24の出力トルクの合力によって可動部を駆動する。
【0007】
特許文献2には、トルクタンデム制御と、ポジションタンデム制御との二つのタンデム制御方式において、二つのモータ間のバックラッシを抑制するために、それぞれのトルク指令に予圧(プリロード)トルク値を印加する補正部を具備する技術が開示されている。図7は、特許文献1に開示されるタンデム制御に対して、特許文献2に開示される予圧トルク値を印加する補正部を具備した要部ブロック図である。図7において、予圧量出力部70は、一定値である予圧トルクを、主制御装置のトルク指令Tmに加算し、また副制御装置のトルク指令Tsに極性を反転させて、トルク指令Tsに加算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−079180公報
【特許文献2】特開2010−172054公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示されるトルク調停部を具備したタンデム制御電動機制御装置では、図7に表すように、特許文献2に開示される二つのモータに予圧トルクを付加する技術を適用すると、予圧トルク印加ないし除去時にトルク調停値が発生し、可動部に変位が発生するため、予圧トルクを付加する技術が適用できない。ここで、予圧トルクを印加ないし除去時に変位が発生する仕組みについて説明する。速度制御部11,21は予圧トルクが変化した時に発生する電動機14,24の速度変化を、速度検出器15,25の速度帰還情報に基づき、速度偏差量を零にするためのトルク指令Tm,Tsを出力する。この時、トルク調停部40を無視すると、トルク指令Tm,Tsは極性の異なる同値の出力となるため、電動機の出力トルクの合力は零となり、可動部に変位は発生しない。しかし、実際にはトルク調停部40により、副電動機のトルク指令Tsは主電動機のトルク指令Tmと異なる値となるため、電動機の出力トルクの合力は零でなくなり、可動部に変位が発生してしまう。
【0010】
このため、機械の動力伝達機構、たとえば減速機や歯車のバックラッシや捻れモーメントが大きい場合、速度、位置制御ループのゲインを上げると電動機が発振して振動や異音の原因となるので、ゲインを下げる必要があり、追従性能が低下する。また、機構的に減速機や歯車のバックラッシや捻れモーメントを小さくする場合、伝達機構の剛性を高くする必要があり、また精度(等級)の高い歯車が必要となるため、コストアップにつながる。
【0011】
また、特許文献2に開示される予圧トルク値を印加する補正部を具備したタンデム制御電動機制御装置では、重力の影響を受けて保持トルクが必要な軸構成の場合、保持トルクとバックラッシを抑える予圧トルクがトルク指令に加算されるため、電動機発熱が大きくなる。これにより、熱変位が大きくなることで、軸心が変化することによる加工精度の悪化や、電動機保護の為のオーバーロードアラームによる機械停止により、加工効率が低下することになる。
【0012】
こうした発熱による熱変位を抑える方法として、電動機や機械を水冷することで課題が解決できるが、コストアップにつながる。また、電動機の発熱を抑える方法として、連続定格の大きな電動機を適用することで課題が解決できるが、電動機容量を大きくすることで、コストアップにつながるばかりか、電動機容積の拡大となるため、機械サイズのアップにつながり機械設計の自由度が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電動機制御装置は、主電動機と副電動機とを用いて、重力に起因する負荷量が可動位置に応じて変化する一つの可動部を駆動するタンデム制御を行う電動機制御装置であって、前記電動機毎に、可動部の位置を制御するための共通の位置指令に基づき、対応する電動機の速度指令を演算する位置制御部と、前記位置制御部で演算された速度指令に基づき、対応する電動機のトルク指令を演算する速度制御部と、前記速度制御部で演算されたトルク指令に、前記主電動機および副電動機で極性が逆の予圧トルクを印加する予圧制御部と、前記トルク指令に基づき、対応する電動機の電流指令を演算する電流制御部と、をそれぞれ備え、前記予圧制御部は、前記可動部の位置に応じて、印加する予圧トルクを変化させる、ことを特徴とする。
【0014】
好適な態様では、前記予圧制御部は、規定の基準トルクに、前記可動部の位置に応じて変化する係数を乗算した値を前記予圧トルクとして印加しており、前記係数は、任意に設定される原点に対して対称となる係数一定区間では一定であり、前記係数一定区間外では、原点から離れるに従って低減する。他の好適な態様では、前記印加する予圧トルクは、前記可動部を指令位置で保持するトルクであって可動部の位置に応じて変化する保持トルクとの加算値が、可動部の位置に関わらず常に一定になる値である。
【0015】
他の本発明である電動機制御装置は、主電動機と副電動機とを用いて、一つの可動部を駆動するタンデム制御を行う電動機制御装置であって、前記電動機毎に、可動部の位置を制御するための共通の位置指令に基づき、対応する電動機の速度指令を演算する位置制御部と、前記位置制御部で演算された速度指令に基づき、対応する電動機のトルク指令を演算する速度制御部と、前記速度制御部で演算されたトルク指令に、前記主電動機および副電動機で極性が逆の予圧トルクを印加する予圧制御部と、前記トルク指令に基づき、対応する電動機の電流指令を演算する電流制御部と、をそれぞれ備え、さらに、前記主電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令と前記副電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令との差を調停するトルク調停値を、少なくとも前記予圧トルクを印加ないし除去してからの経過時間に応じて演算し、前記副電動機の前記予圧制御部に入力する前のトルク指令に加算するトルク調停部を備える、ことを特徴とする。
【0016】
好適な態様では、前記トルク調停部は、前記予圧トルクを印加ないし除去からの経過時間が規定の基準時間以下の間は、前記トルク調停値としてゼロを出力し、前記経過時間が規定の基準時間以上の場合は、前記トルク調停値として、前記主電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令と前記副電動機に対応する速度制御部で演算されたトルク指令との差に対してローパスフィルタ処理を行った値を出力する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、トルク調停制御部と、予圧トルクを付加する予圧制御部とを具備したタンデム制御電動機制御装置において、予圧トルク印加ないし除去してからの経過時間に応じて副電動機のトルク指令を補正するためのトルク調停値を演算することで、予圧トルクに起因する可動部の変位を抑制することが可能となる。
【0018】
また、可動部の位置に応じて予圧トルクを変化させることで、重力の影響を受けて保持トルクが必要な軸の場合、保持トルクと予圧トルクがトルク指令に加算されて電動機発熱が大きくなることを避けることが可能となり、かつ、熱変位を抑えることで、加工精度の悪化や電動機保護の為のオーバーロードアラームによる機械停止を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態におけるトルク調停制御部と、予圧トルクを付加する予圧制御部とを具備したタンデム制御電動機制御装置の制御系のブロック図である。
図2】本発明が適用される動力伝達機構のモデル図である。
図3】本発明が適用される重力の影響を受ける軸を説明する図である。
図4図1のトルク調停制御部を説明するブロック図である。
図5図1の予圧量演算部6で演算する、重力の影響を受ける機構に適用される予圧可変量を算出する関数の一例である。
図6】従来技術であるタンデム制御の要部ブロック図である。
図7】従来技術である予圧トルクを付加したタンデム制御の要部ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。特に断らない限り同記号、番号の要素、信号等は同機能・同性能を有するものである。
【0021】
図1は本発明の一実施形態におけるトルク調停制御部と、予圧トルクを付加する予圧制御部とを具備したタンデム制御電動機制御装置の制御系のブロック図である。従来技術と重複する部分は省略する。
【0022】
図1の予圧制御部10は、位置検出器4で検出される位置情報に基づき予圧量を演算し出力する予圧量演算部6と、固定の予圧量を出力する固定予圧量出力部5と、を有し、予圧量を可変する予圧量可変機能が有効か無効かを判定し、出力する予圧トルクを選択切り替えする機能を備えている。可動部が重力の影響を受けず、一定の予圧をかけることでバックラッシを抑制できる機構の場合は予圧量可変機能を無効とし、可動部が重力の影響を受ける場合は予圧量可変機能を有効とすることで、予圧トルクを駆動する機構に応じて選択することができる。予圧量の可変値は、可動部の位置(例えば、機械姿勢や回転軸角度)に応じて変化する。出力された予圧トルクは、速度制御部11で演算されたトルク指令値Tmに加算され、また反転器8を介して極性反転されてトルク指令値Tsに加算される。
【0023】
図4図1のトルク調停制御部9を説明するブロック図である。トルク調停制御部9は、特許文献1に開示されるトルク調停部40と、零を出力する零出力器41と、予圧トルク印加カウンタに応じてトルク調停部40と零出力器41のどちらかの出力を選択するスイッチ47を有する。
【0024】
スイッチ47は、予圧トルク印加カウンタが設定したカウンタ上限値以下の場合、零出力器41の出力を、予圧トルク印加カウンタが設定したカウンタ上限値を超えた場合、トルク調停部40の出力を選択する。
【0025】
予圧トルク印加カウンタは0から始まり、予圧トルクが変化していない間はインクリメントせず、予圧トルクの印加ないし除去が開始された時からインクリメントを開始するもので、設定したカウント上限値を超えたらインクリメントを停止する。また、予圧トルクの除去ないし印加が開始された場合、カウンタを0に戻す。カウント上限値は、予圧トルクを印加開始後、電動機14,24の速度偏差量が零に収束する時間を設定する。
【0026】
トルク調停制御部9により、予圧印加ないし除去時に電動機14,24で発生する速度変化に対し、電動機14,24に速度偏差量が残っている場合はトルク調停値を零とし、速度偏差量が零になった時点からトルク調停部40から出力されるトルク調停値を副電動機のトルク指令に加算することで、可動部に変位を発生させなくすることが可能である。
【0027】
図2は本発明が適用される動力伝達機構のモデル図である。図2(a)は、歯車により電動機の動力を可動部に伝達する機構であり、可動部側歯車20と主電動機側歯車28、および副電動機側歯車29の歯車間にバックラッシが存在することを表している。このような機構において、図6に示される従来技術では速度、位置制御ループのゲインを上げるとバックラッシに起因して電動機が発振し、振動や異音が発生するので、ゲインを上げることができない。
【0028】
図2(b)は、主電動機、副電動機にそれぞれ極性の異なる予圧を印加することでバックラッシを抑制できることを表している。図7に示される従来技術、および図1に示される本発明では、トルク指令Tm,Tsにそれぞれ極性の異なる予圧トルクを加算することでバックラッシ抑制を実現している。
【0029】
図3は本発明が適用される重力の影響を受ける軸を説明する図である。図3は工作機械等において使用されるトラニオン構造の動作を模式したものを表している。トラニオン構造は、回転軸中心30に動力を与えることでアーム31を介して被駆動体32を駆動するもので、回転角度により軸駆動方向への重力の影響が異なり、重力の影響を相殺するための保持トルクがかかる。軸駆動方向に対して重力の影響が最も小さい位置を0度とすると、保持トルクは被駆動体32の質量M、重力加速度g、回転角度θを用いると、M×g×sinθで表される。
【0030】
ここで、動力伝達機構に歯車を用いたタンデム制御電動機制御装置でトラニオン構造を駆動制御する場合、バックラッシの抑制のため予圧トルクを印加すると、電動機へのトルク指令には、保持トルクと予圧トルクが含まれるため、発熱量が大きくなる。これにより、電動機保護の為のオーバーロードアラームが発生する場合がある。しかも、主電動機と副電動機には極性の異なる予圧トルクを印加するため、電動機発熱に偏りが生じ、駆動軸の偏心を起こす場合がある。このため、重力の影響を受ける機構において、電動機の発熱抑制とバックラッシ抑制とを両立するには、保持トルクと印加する予圧トルクの和がバックラッシ抑制に必要最小限なトルクとなるように、印加する予圧トルクを制御することが必要となる。トラニオン構造を例にとると、予圧トルクは回転角度θ、0度における予圧トルクToを用いると、ToからM×g×sinθを差分した値にすることが望ましい。ここで、角度θにおける保持トルクをKθとした場合、Kθ=M×g×sinθであるから、角度θにおける予圧トルクTθは、Tθ=To−Kθであり、予圧トルクTθと保持トルクKθの加算値は、常に一定の値Toになることが望ましいともいえる。
【0031】
図5図1の予圧制御部10で演算する、重力の影響を受ける機構に適用される予圧可変量を算出する関数の一例である。図5の関数は予圧トルクに乗ずる可変係数K(K≦1)を表しており、可変係数Kは領域A((−θp)〜θp)の区間は1で、それ以外の区間はθ=90度の位置で可変係数Kが最小となるよう正弦波状に変化するものである。可変係数Kを式1に表す。
(式1)
K=1 ((−θp)<θ<θp)
K=1−α×sinθa ((−90)≦θ<(−θp),θp≦θ≦90)
ただし、θa=(θ−θp)×90/(90−θp)
【0032】
ここで、θは可動部の角度、θpは一定予圧区間、αは最小値補正係数(0≦α≦1)である。図5の関数a51は式1にα=1を、関数b50は式1にα≠1を代入したものを表している。
【0033】
図5の関数a51ないし関数b50において、領域A((−θp)<θ<θpの区間)は動力伝達機構におけるバックラッシや捻れモーメントなどに応じて設定することができる。これは角度0度近傍において、重力の影響が小さいため、予圧トルクが十分に必要な機構において有効である。例えば、角度0度から45度近傍までは可変係数K≧0.5が必要な機構の場合、式1よりθp≧22.5と設定すれば良い。当然、角度0度近傍でのバックラッシや捻れモーメントなどが顕著でなければ、領域Aを持たなくてもよい。また、関数b50において、角度90度におけるオフセットB(1−α)は角度90度近傍のバックラッシや捻れモーメントなどに応じて設定することができる。これは、角度90度近傍において保持トルクだけではバックラッシ抑制が十分にできない機構において有効である。例えば、角度90度における保持トルクが、バックラッシ抑制に必要な予圧トルクの0.7倍である機構の場合、α=0.3とすれば良い。当然、角度90度近傍において、保持トルクだけでバックラッシ抑制が可能な時はオフセットBを持たなくてもよい。
【0034】
この関数a51ないし関数b50を用いて予圧トルクを演算することで、保持トルクと印加する予圧トルクの和がバックラッシ抑制に必要最小限なトルクとなり、電動機の発熱抑制とバックラッシ抑制とを両立することが可能となる。
【0035】
なお、上記説明では省略したが、予圧制御部10は上位制御装置、または主制御装置、または副制御装置のいずれかで演算すれば良い。また、説明では位置検出器の位置帰還情報を用いて予圧可変量を算出しているが、上位制御装置にて位置指令から予圧可変量を算出してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 加算器、2 減算器、3 可動部、4 位置検出器、5 固定予圧量出力部、6 予圧量演算部、7,47 スイッチ、8 反転器、9 トルク調停制御部、10 予圧制御部、11,21 速度制御部、12,22 電流制御部、13,23 サーボアンプ、14,24 電動機、15,25 速度検出器、16,26 動力伝達機構、17,27 制御装置、20 可動部側歯車、28 主電動機側歯車、29 副電動機側歯車、30 回転軸中心、31 アーム、32 被駆動体、40 トルク調停部、41 零出力器、50 関数b、51 関数a、70 予圧量出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7