(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043234
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20161206BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
G05B19/18 X
B23Q17/20 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-85041(P2013-85041)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-206910(P2014-206910A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國光 克則
(72)【発明者】
【氏名】杉江 正行
【審査官】
中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/093473(WO,A1)
【文献】
特開2012−053508(JP,A)
【文献】
特開2005−001022(JP,A)
【文献】
特開平8−150540(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/134128(WO,A1)
【文献】
特開2007−18145(JP,A)
【文献】
特開2000−284819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/18−19/416,19/42−19/46,
B23Q17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御情報に従い、工作機械に取り付けられた加工物と冶具と工具との相対移動を制御する数値制御装置において、
実際の加工物よりも大きく作成された前記加工物の3次元モデルを格納する3次元モデル格納部と、
前記工作機械に取り付けられた加工物および冶具の形状を一体的に計測する3次元計測部と、
前記3次元計測部が計測した加工物および冶具を一体とみなした計測データを格納する計測データ格納部と、
計測データ格納部に格納された加工物および冶具の計測データに基づき加工物および冶具を一体とみなした一体計測モデルを生成し、生成した前記一体計測モデルと加工物の3次元モデルとに基づいて、加工物および冶具を個別に区別した個別計測モデルを加工物および冶具それぞれに関して生成する形状処理部と、
を備え、前記形状処理部により生成された個別計測モデルを参照し、早送り指令の場合には、前記加工物と治具と工具との干渉を避け、切削中は、前記治具と前記工具の干渉を避け、かつ、前記加工物と前記工具との干渉は無視するように加工物と冶具と工具との相対移動を制御することを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記形状処理部は、前記一体計測モデルと加工物の一方の3次元モデルとを比較し、前記一体計測モデルのうち、前記加工物の一方の3次元モデルに含まれない部分を前記冶具の個別計測モデルとして生成する、ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記形状処理部は、前記一体計測モデルと加工物の一方の3次元モデルとを比較し、前記一体計測モデルのうち、前記加工物の一方の3次元モデルに含まれる部分を前記加工物の個別計測モデルとして生成する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に取り付けられた加工物や治具、工具等の3次元モデルを参照しながら、数値制御情報に従い、工作機械に取り付けられた加工物と工具の相対位置を制御する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の数値制御装置は、機械データとして、加工物や治具、工具、機械等の3次元モデルを持つことが出来、干渉チェックを行いながら、加工物と工具の相対位置を制御し、工具での加工物の加工を制御する。
【0003】
干渉チェックでは、加工物の3次元モデルと工具の3次元モデルとの干渉は切削とみなして無視することができる他、工具の3次元モデルの移動に応じた切削領域を計算し、加工物の3次元モデルを変形させることができる。
【0004】
また、下記特許文献1に記載の数値制御工作機械や、下記特許文献2に記載の数値制御工作機械では、工作機械に取り付けられたワークの3次元的な形状と位置および向きを非接触で計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−53508
【特許文献2】特開2012−53509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
干渉チェックを行うためには、加工物・治具と、工具と、の3次元モデルが必要になる。繰り返し加工する場合、加工物の形状がばらつく場合があるため、実際に工作機械に取り付けられている加工物の形状を計測して、加工物の3次元モデルとすることが確実である。また、加工物の形状にばらつきのない場合でも、加工物を保持する治具の位置が、加工する度に変化する場合があるため、実際に工作機械に取り付けられた治具の形状を計測して、治具の3次元モデルとすることが確実である。
【0007】
そのため、3次元計測装置を用いて、加工物や治具の形状を計測し、3次元モデルを作成することが考えられる。しかし、3次元計測装置を用いて、工作機械に取り付けられた加工物と治具を計測して3次元モデルを作成する場合、3次元計測装置は、計測した3次元座標が加工物を計測した結果なのか、治具を計測した結果なのかを判定をする事が出来ない。そのため、加工物の3次元モデルと、治具の3次元モデルを区別して準備することが出来ない。
【0008】
干渉チェックを行いながら加工物を加工する場合、切削中は、治具と工具の干渉は検知する必要があるが、加工物と工具との干渉は無視する必要があり、加工物の3次元モデルと治具の3次元モデルは区別されている必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の数値制御装置は、数値制御情報に従い、工作機械に取り付けられた加工物と冶具と工具との相対移動を制御する数値制御装置において、
実際の加工物よりも大きく作成された前記加工
物の3次元モデルを格納する3次元モデル格納部と、前記工作機械に取り付けられた加工物および冶具の形状を一体的に計測する3次元計測部と、前記3次元計測部が計測した加工物および冶具を一体とみなした計測データを格納する計測データ格納部と、計測データ格納部に格納された加工物および冶具の計測データに基づき加工物および冶具を一体とみなした一体計測モデルを生成し、生成した前記一体計測モデルと加工
物の3次元モデルとに基づいて、加工物および冶具を個別に区別した個別計測モデルを加工物および冶具
それぞれに関して生成する形状処理部と、を備え、前記形状処理部により生成された個別計測モデルを参照し、
早送り指令の場合には、前記加工物と治具と工具との干渉を避け、切削中は、前記治具と前記工具の干渉を避け、かつ、前記加工物と前記工具との干渉は無視するように加工物と冶具と工具との相対移動を制御することを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記形状処理部は、前記一体計測モデルと加工
物の一方の3次元モデルとを比較し、前記一体計測モデルのうち、前記加工
物の一方の3次元モデルに含まれない部分を
前記冶具の個別計測モデルとして生成する。他の好適な態様では、前記形状処理部は、前記一体計測モデルと加工
物の一方の3次元モデルとを比較し、前記一体計測モデルのうち、前記加工
物の一方の3次元モデルに含まれる部分を前記
加工物の個別計測モデルとして生成する。
【発明の効果】
【0011】
予め、加工物の3次元モデル、もしくは、治具の3次元モデルを与えておくことにより、工作機械に取り付けられた加工物と治具を3次元計測した結果を、加工物の領域と治具の領域とを区別することができるようになる。その結果、早送り指令の場合には、加工物、治具、工具のすべての3次元モデルの干渉を検知し、切削送りの場合には、加工物と工具の3次元モデルの干渉を無視することができる干渉検知機能を実現することができるようになる。さらに、加工物の3次元モデルと治具の3次元モデルを区別できることにより、切削送り指令時は、工具モデルの通過領域を計算し、加工物の3次元モデルに対しては、工具モデルの通過領域と重なった領域を削除することにより、削り取りのシミュレーションができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図6】一体計測モデル生成の流れを示すフローチャートである。
【
図8】一体計測モデル生成の過程を説明する図である。
【
図9】一体計測モデル生成の過程を説明する図である。
【
図10】一体計測モデル生成の過程を説明する図である。
【
図11】一体計測モデル生成の過程を説明する図である。
【
図12】一体計測モデル生成の過程を説明する図である。
【
図13】生成された一体計測モデルの一例を示す図である。
【
図14】加工物の個別計測モデルと治具の個別計測モデルの一例を説明する図である。
【
図16】個別計測モデル生成の流れを示すフローチャートである。
【
図17】二つのモデルを構成する三角形が重なっている様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明を実施する工作機械全体の構成図の一例を示す図である。
図1は、工作機械1の全体を示しており、工作機械1の主軸2に3次元計測装置3が取り付けてある。一方、工作機械1のテーブル4に加工物5が配置され、治具6で固定されている。
【0014】
図2は、本発明を実施するための一例を示すブロック図である。3次元計測装置3は、工作機械1に取り付けられた加工物5と治具6を一体的に計測し、加工物5と治具6を一体とみなした計測データ12を出力する。
図3は、計測データ12を模式的に示しており、工作機械1のテーブル4のある点を工作機械1の基準点13とし、基準点13に対する3次元座標(X,Y,Z)の点群データで表現される。出力された計測データ12は、計測データ格納部7に格納される。
【0015】
3次元モデル格納部8は、加工物モデル14を格納している。
図4は、加工物モデル14を模式的に示しており、3次元モデルの形状を基準点15に対する三角形の頂点情報で表現される。加工物モデル14は、シミュレーション部11にて使用するモデルとして使用可能なモデルであり、加工物5に近い形状をしていることが望ましいが、本実施例においては、この加工物モデル14は、シミュレーション部11にて使用しないため、
図4に示すような簡略形状であっても良い。また、この加工物モデル14は、加工物の形状のばらつきを考慮し、常に、加工物の形状を包含するように、実際の加工物5よりも大きく作成しておく。さらに、加工物モデル14は、工作機械1のテーブル4に配置された加工物5の位置を考慮し、計測データ12の基準点13に一致する位置を基準点15とした座標値で定義される。
【0016】
図5は、基準点13と基準点15の位置が一致するとした場合、計測データ12と加工物モデル14の位置が一致していない状態を示している。工作機械1のテーブル4に配置された加工物5の位置を測定し、
図4に示すように計測データ12と加工物モデル14の位置が一致するように、加工物モデル5を移動してもよい。
【0017】
形状処理部9は、計測データ12を構成する点群データを三角形の集合で表現した計測モデル16を生成する。
図6は、形状処理部9が、計測データ12から加工物および冶具を一体とみなした一体計測モデル16を生成するまでの手順を示すフローチャートである。また、
図7は、計測データ12を上方から見た図を示している。
【0018】
計測データ12から一体計測モデル16を生成する場合は、まず、計測データ12の点を結び、三角形を生成する(S1)。
図8は、計測データ12の点を結び、三角形を生成した状態を示している。
【0019】
次に、生成した三角形について、隣に位置する三角形と同じ平面に属すると判定できる場合に、三角形を統合する(S2)。
図9は、生成した三角形を統合した状態を示している。次に、計測データ12の最外郭の点について、一定の高さまで下ろした位置に点を生成する(S3)。
図10は、点を生成した状態を示している。
【0020】
次に、計測データ12の最外郭の点と生成した点を利用して三角形を生成する(S4)。
図11は、三角形を生成した状態を示している。その後、生成した三角形について、隣に位置する三角形と同じ平面に属すると判定できる場合に、三角形を統合する(S5)。
図12は、三角形を統合した状態を示している。そして、
図13は、このように生成した一体計測モデル16を模式的に示しており、基準点17に対する三角形の頂点情報で表現される。計測データの基準点13と、一体計測モデル16の基準点17は、同じ点を示している。
【0021】
一体計測モデル16が生成できれば、形状処理部9は、一体計測モデル16と、加工物モデル14との間で論理演算を行い、一体計測モデル16のうち、加工物モデル14の内側に含まれる部分を、一体計測モデル16から加工物5の領域を個別に取り出した加工物の個別計測モデル18とする。また、一体計測モデル16のうち、加工物モデル14、または、個別計測モデル18に含まれない部分を、一体計測モデル16から冶具6の領域を個別に取り出した治具の個別計測モデル19とする。
【0022】
図14は、一体計測モデルから生成された加工物の個別計測モデル18と、治具の個別計測モデル19を示しており、基準点20に対する三角形の頂点座標で表現される。基準点20と、一体計測モデル16の基準点17は、同じ点を示している。形状処理部9は、加工物の個別計測モデル18と、治具の個別計測モデル19を、3次元モデル格納部8に格納する。
【0023】
3次元モデル格納部8には、工具モデル21も格納しておく。
図15は、工具モデル21を示しており、基準点22に対する三角形の頂点座標で表現される。シミュレーション部11は、数値制御部10から送出される数値制御情報に基づき、加工物の個別計測モデル18、治具の個別計測モデル19と工具モデル21を動作させ、干渉検知を行う。
【0024】
先の説明では、3次元モデル格納部には加工物モデル14が格納されていることを前提としたが、冶具の取り付け位置にばらつきが少ない場合や冶具の取付位置が既知の場合などには、治具モデルを格納するようにしてもよく、治具モデルに含まれる部分を治具の個別計測モデル、治具モデルに含まれない部分を加工物の個別計測モデルとしてもよい。
【0025】
図16は、
図2に示す3次元計測装置3からシミュレーション部11において、計測データ12から、加工物の個別計測モデル18と、治具の個別計測モデル19を生成するまでの手順を示すフローチャートである。
【0026】
計測データから、加工物・冶具の個別計測モデル18,19を生成する場合には、まず、工作機械1に加工物5と治具6を取り付ける(S6)。3次元計測装置3は、工作機械1のテーブル4に取り付けられた加工物5と治具6の表面の高さ情報を計測し、テーブル4の特定の位置を示す基準点13に対する3次元座標(X,Y,Z)の点群データで表現される計測データ12を出力する(S7)。
【0027】
次に、加工物5の加工物モデル14を作成する(S8)。そして、テーブル4の特定の位置に対する加工物5の位置を計測する(S9)。なお、工作機械1で、NCプログラム等の数値制御指令により、加工物5を加工する場合には、工作機械1のテーブル4の特定の位置に対する加工物5の位置を計測し、加工物5の位置を補正して、工具の位置を指令する必要がある。接触式の計測器を利用して、加工物5の位置を計測する方法もあるが、計測データ12を解析し、計測データの特徴点を抽出することにより、加工物5の位置を推定することも可能である。
【0028】
次に、S4にて計測された加工物5の位置を利用し、加工物5の加工物モデル14を、工作機械1に取り付けた加工物5の位置に相当する位置に移動する(S10)。そして、計測データ12を一体計測モデル16に変換し、加工物5の加工物モデル14と形状を比較する(S11)。計測データ12は点の座標値の集合にて表現されるが、点と点を線で結び、三角形を生成することにより、一体計測モデル16に変換することが出来る。
【0029】
次に、一体計測モデル16のうち、加工物モデル14に含まれる部分を加工物の個別計測モデル18とする(S12)。また、一体計測モデル16のうち、加工物モデル14に含まれない部分を治具の個別計測モデル19とする(S13)。なお、加工物モデル14と一体計測モデル16は、三角形の頂点座標で表現されている。三角形の頂点座標で表現されるモデルとモデルを比較する場合、三角形の重なりを計算することにより、モデルの包含関係を判定することが出来る。
【0030】
図17は、三角形23と三角形24が重なっている状態を示す。三角形23の1つの辺と三角形24の交点を求める。さらに、三角形23のもう一つの辺と三角形24の交点を求める。この2つの交点を結ぶ交線25を求める。この処理を繰り返す結果、交線25の連続線が得られ、この連続線を境界線としてモデルの包含関係を判定することが出来、一体計測モデル16から加工物の個別計測モデル18と、治具の個別計測モデル19を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0031】
1 工作機械、2 主軸、3 3次元計測装置、4 テーブル、5 加工物、6 治具、7 計測データ格納部、8 3次元モデル格納部、9 形状処理部、10 数値制御部、11 シミュレーション部、12 計測データ、13 計測データの基準点、14 加工物モデル、15 加工物モデルの基準点、16 一体計測モデル、17 一体計測モデルの基準点、18 加工物の個別計測モデル、19 治具の個別計測モデル、20 個別計測モデルの基準点、21 工具モデル、22 工具モデルの基準点、23,24 三角形、25 交線。