特許第6043237号(P6043237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6043237-空気入りタイヤ 図000003
  • 特許6043237-空気入りタイヤ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043237
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20161206BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B60C11/03 100A
   B60C11/03 B
   B60C11/12 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-92893(P2013-92893)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-213744(P2014-213744A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−269144(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/114430(WO,A1)
【文献】 実開平06−016106(JP,U)
【文献】 特開2011−140268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ赤道面を境界とするトレッド踏面の車両装着時内側半部に、トレッド周方向に延びる複数本の内側周方向主溝と、隣接する2本の内側周方向主溝により区画される内側陸部とを有し、トレッド踏面の車両装着時外側半部に、トレッド周方向に延びる複数本の外側周方向主溝と、隣接する2本の外側周方向主溝により区画される外側陸部とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記内側陸部に、両端が該内側陸部内で終端する第1副溝部と、該第1副溝部よりも狭い溝幅であって該第1副溝部及び前記2本の内側周方向主溝のうちの一方に開口する一方の第1枝溝部と、該第1副溝部よりも狭い溝幅であって該第1副溝部及び前記2本の内側周方向主溝のうちの他方に開口する他方の第1枝溝部と、によって構成される第1共鳴器部を複数個有し、
前記外側陸部に、両端が該外側陸部内で終端する第2副溝部と、該第2副溝部よりも狭い溝幅であって該第2副溝部及び前記2本の外側周方向主溝のうちの一方に開口する第2枝溝部と、によって構成される第2共鳴器部を複数個有し、且つ両端が該外側陸部内で終端する第3副溝部と、該第3副溝部よりも狭い溝幅であって該第3副溝部及び前記2本の外側周方向主溝のうちの他方に開口する第3枝溝部と、によって構成される第3共鳴器部を複数個有し、
前記第2共鳴器部及び前記第3共鳴器部の溝容積はそれぞれ、前記第1共鳴器部の溝容積よりも小さく、
前記第1副溝部は、前記第1副溝部の延在方向中央部から前記一方の第1枝溝部の開口部分と前記他方の第1枝溝部の開口部分とのそれぞれに向かって溝深さが漸増し、前記第2副溝部は、前記第2枝溝部が開口する側とトレッド周方向反対側の端部のみに底上げ部を有し、前記第3副溝部は、前記第3枝溝部が開口する側とトレッド周方向反対側の端部のみに底上げ部を有し、
前記外側陸部において、前記第2枝溝部の略延長線上及び前記第3枝溝部の略延長線上に細溝が配置されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内側周方向主溝の溝幅は、前記外側周方向主溝の溝幅よりも大きい、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記一方及び他方の第1枝溝部、並びに前記第2枝溝部及び前記第3枝溝部は、溝幅が1mm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤ赤道面上に、トレッド周方向に連続して延びるリブ状の陸部を有する、請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第2共鳴器部と前記第3共鳴器部とをトレッド周方向に交互に配置してなる請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、車両走行時の騒音を低減し、静粛性を高めることが要求されている。これに対し、気室部と枝溝部とからなる共鳴器(いわゆる、ヘルムホルツ共鳴器)によって車外騒音を低減する技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、トレッド踏面に設けた1本の周方向主溝と、隣接する陸部内でトレッド周方向に断続して延びる周方向副溝とを有し、1本の傾斜溝を介して周方向副溝を周方向主溝に開口させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこのような共鳴器構造は、タイヤの陸部に溝を形成するものであるため、接地面積が低下するという一面がある。特に、車両旋回時での操縦安定性やウェット制動性は、接地面積によって性能が変わるため、騒音を低減しつつも高いレベルで操縦安定性等を維持するためには、未だ検討の余地が残されていた。ここで、騒音の原因である周方向主溝を減らしすぎると、排水性の低下につながる一面もあるため、周方向主溝を減らしすぎずに上記改善を達成することが期待されていた。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、排水性を損なうことなく周方向主溝に起因する騒音を低減できることに加えて、操縦安定性やウェット制動性を高いレベルで維持することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タイヤ赤道面を境界とするトレッド踏面の車両装着時内側半部に、トレッド周方向に延びる複数本の内側周方向主溝と、隣接する2本の内側周方向主溝により区画される内側陸部とを有し、トレッド踏面の車両装着時外側半部に、トレッド周方向に延びる複数本の外側周方向主溝と、隣接する2本の外側周方向主溝により区画される外側陸部とを有する空気入りタイヤにおいて、前記内側陸部に、両端が該内側陸部内で終端する第1副溝部と、該第1副溝部よりも狭い溝幅であって該第1副溝部及び前記2本の内側周方向主溝のうちの一方に開口する一方の第1枝溝部と、該第1副溝部よりも狭い溝幅であって該第1副溝部及び前記2本の内側周方向主溝のうちの他方に開口する他方の第1枝溝部と、によって構成される第1共鳴器部を複数個有し、前記外側陸部に、両端が該外側陸部内で終端する第2副溝部と、該第2副溝部よりも狭い溝幅であって該第2副溝部及び前記2本の外側周方向主溝のうちの一方に開口する第2枝溝部と、によって構成される第2共鳴器部を複数個有し、且つ両端が該外側陸部内で終端する第3副溝部と、該第3副溝部よりも狭い溝幅であって該第3副溝部及び前記2本の外側周方向主溝のうちの他方に開口する第3枝溝部と、によって構成される第3共鳴器部を複数個有し、前記第1共鳴器部の溝容積は、前記第2共鳴器部の溝容積よりも大きく且つ前記第3共鳴器部の溝容積よりも大きく、前記第1副溝部は、前記第1副溝部の延在方向中央部から前記一方の第1枝溝部の開口部分と前記他方の第1枝溝部の開口部分とのそれぞれに向かって溝深さが漸増し、前記第2副溝部は、前記第2枝溝部が開口する側とトレッド周方向反対側の端部のみに底上げ部を有し、前記第3副溝部は、前記第3枝溝部が開口する側とトレッド周方向反対側の端部のみに底上げ部を有し、前記外側陸部において、前記第2枝溝部の略延長線上及び前記第3枝溝部の略延長線上に細溝が配置されることを特徴とする。この構成によれば、周方向主溝に起因する騒音を低減できることに加えて、操縦安定性やウェット制動性を高いレベルで維持することができる。
【0008】
ここで、「溝幅」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷状態とした基準状態の際の開口幅をいうものとし、また、「溝容積」とは、この状況下での接地面と溝との間に形成される空間の容積をいうものとする。ここで、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムを指す。また、「規定内圧」とは、タイヤを適用リムに装着し、適用サイズのタイヤにおけるJATMA等の規格のタイヤ最大負荷能力に対応する内圧(最高空気圧)とした状態をいうものとする。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記内側周方向主溝の溝幅は、前記外側周方向主溝の溝幅よりも大きいことが好ましい。特にキャンバー角度が付いた車両においては、車両装着時内側が直進時の接地領域として大きな面積を占めるため、排水性がより十分に確保される。また、車両装着時外側の接地面積を確保できるので、操縦安定性をさらに高めることができる。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記一方及び他方の第1枝溝部、並びに前記第2枝溝部及び前記第3枝溝部は、溝幅が1mm以下であることが好ましい。この構成によれば、接地面積の低下を低減させることができるので、操縦安定性を一層高めることができる。
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記タイヤ赤道面上に、トレッド周方向に連続して延びるリブ状の陸部を有することが好ましい。この構成によれば、ハンドリング性能に大きく寄与するタイヤ赤道面上の陸部の剛性を高めることができるので、より一層操縦安定性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記第2共鳴器部と前記第3共鳴器部とをトレッド周方向に交互に配置することが好ましい。この構成によれば、トレッド周方向の剛性バランスを高く保つことができるので、静粛性、操縦安定性を高い次元で両立させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気入りタイヤによれば、周方向主溝に起因する騒音を低減できることに加えて、操縦安定性やウェット制動性を高いレベルで維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図2】(a)図1におけるA−A´断面図である。(b)図1におけるB−B´断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤ(以下、タイヤとも称する)ついて、図面を参照して詳細に例示説明する。なお、カーカス、ベルト等のタイヤの内部構造等については、従来のそれと同様であるため、説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。図1に示すようにこのタイヤは、トレッド踏面1に、タイヤ赤道面CLを境界とする車両装着時内側に位置する半部(車両装着時内側半部1a)に、トレッド周方向に連続して延びる内側周方向主溝2が複数本、図示例では総計2本の内側周方向主溝2a、2bが設けられている。また、タイヤ赤道面CLを境界とする車両装着時外側に位置する半部(車両装着時外側半部1b)に、トレッド周方向に連続して延びる外側周方向主溝3が複数本、図示例では総計2本の外側周方向主溝3a、3bが設けられている。また、内側周方向主溝2a、2b同士、及び外側周方向主溝3a、3b同士の溝幅は略同一であるが、内側周方向主溝2a、2bの溝幅は、外側周方向主溝3a、3bの溝幅よりも大きくなっている。
【0017】
図1に示すように、隣接する2本の内側周方向主溝2により、その相互間には内側陸部4が区画され、また、隣接する2本の外側周方向主溝3により、その相互間には外側陸部5が区画されている。さらに、内側周方向主溝2及び外側周方向主溝3のうち、トレッド幅方向最内側の内側周方向主溝2a及び外側周方向主溝3aの相互間には、タイヤ赤道面上に位置する中央陸部6が区画されている。また、内側周方向主溝2及び外側周方向主溝3のうち、トレッド幅方向最外側の内側周方向主溝2b及び外側周方向主溝3bと両トレッド端TEとの相互間には、車両装着時内側のショルダー域に位置する内側ショルダー陸部7及び車両装着時外側のショルダー域に位置する外側ショルダー陸部8が区画されている。
【0018】
ここで、図1に示すように内側陸部4には、延在方向両端が内側陸部4内で終端する第1副溝部9aと、第1副溝部9aよりも狭い溝幅であって第1副溝部9a及び隣接する2本の内側周方向主溝2のうちの一方(図示例では内側周方向主溝2a)に開口する一方の第1枝溝部9bと、第1副溝部9aよりも狭い溝幅であって第1副溝部9a及び隣接する2本の内側周方向主溝2のうちの他方(図示例では内側周方向主溝2b)に開口する他方の第1枝溝部9cと、によって構成される第1共鳴器部9が、複数個形成されている。図示例で、第1枝溝部9bは、第1副溝部9aのトレッド周方向一方の端部に接続されていて、第1枝溝部9cは、第1副溝部9aのトレッド周方向他方の端部に接続されている。また、第1副溝部9aは、第1枝溝部9bが接続する端部から第1枝溝部9cが接続する端部に向けて溝幅が漸増している。
【0019】
さらに、内側陸部4には、トレッド周方向に隣接する一方の第1枝溝部9b同士の相互間に(図示例では、中間付近に)、内側周方向主溝2aに開口して内側陸部4内で終端する第1細溝10aが形成され、同様に、トレッド周方向に隣接する他方の第1枝溝部9c同士の相互間に(図示例では、中間付近に)、内側周方向主溝2bに開口して内側陸部4内で終端する第2細溝10bが形成されている。
【0020】
また、図1に示すように外側陸部5には、延在方向両端が外側陸部5内で終端する第2副溝部11aと、第2副溝部11aよりも狭い溝幅であって第2副溝部11a及び隣接する2本の外側周方向主溝のうちの一方(図示例では外側周方向主溝3a)に開口する第2枝溝部11bと、によって構成される第2共鳴器部11が複数個形成されている。また、トレッド周方向に隣接する2本の第2共鳴器部11の相互間には、延在方向両端が該外側陸部内で終端する第3副溝部12aと、第3副溝部12aよりも狭い溝幅であって第3副溝部12a及び隣接する2本の外側周方向主溝のうちの他方(図示例では外側周方向主溝3b)に開口する第3枝溝部12bと、によって構成される第3共鳴器部12が複数個形成されている。換言すると、外側陸部5には、第2共鳴器部11と第3共鳴器部12とが、トレッド周方向に交互に配置されている。図示例で、第2枝溝部11b及び第3枝溝部12bはそれぞれ、第2副溝部11aにおけるトレッド周方向一方の端部及び第3副溝部12aにおけるトレッド周方向一方の端部に接続されている。また、第2副溝部11a及び第3副溝部12aは何れも、第2枝溝部11b及び第3枝溝部12bが接続されたトレッド周方向一方の端部からトレッド周方向他方の端部に向けて、溝幅が漸減している。なお、第2共鳴器部11及び前記第3共鳴器部12の溝容積はそれぞれ、第1共鳴器部9の溝容積よりも小さくなっている。
【0021】
さらに、外側陸部5には、外側周方向主溝3aに開口して外側陸部5で終端する第3細溝13と、外側周方向主溝3bに開口して外側陸部5で終端する第4細溝14とが形成されている。図示例では、第3細溝13は、第3枝溝部12bの略延長線上に配置されており、第4細溝14は、第2枝溝部11bの略延長線上に配置されている。そして図示例では、第2枝溝部11bと第3細溝13との、外側周方向主溝3aへの開口部分におけるトレッド周方向間隔は、第3枝溝部12bと第4細溝14との、外側周方向主溝3bへの開口部分におけるトレッド周方向間隔に略等しくなっている。また、第3細溝13及び第4細溝14が、それぞれ外側陸部5内で終端しているため、外側陸部5は、トレッド周方向には完全に分断されていないものである。
【0022】
ここで、図2(a)は、図1における線A−A´に沿った断面図である。また、図2(b)は、図1における線B−B´に沿った断面図である。図2(a)に示すように、第1副溝部9aは、その延在方向の一部に底上げ部15を有しており、図示例では、延在方向中央部から延在方向両端に向かって溝深さが漸増している。また、図2(b)に示すように、第3副溝部12aは、トレッド周方向他方の端部(第3枝溝部12bが開口している側と反対側の端部)に底上げ部16を有している。また、図示は省略するが、第2副溝部11aについても同様に、トレッド周方向他方の端部(第2枝溝部11bが開口している側と反対側の端部)に底上げ部16を有している。
【0023】
次に、図1に示すように中央陸部6には、外側周方向主溝3aからトレッド幅方向内側にタイヤ赤道面CLを跨いで傾斜して延びて中央陸部6内で終端する第5細溝17が、トレッド周方向に間隔をおいて(図示例では等間隔に)複数設けられている。図示のように、第5細溝17が中央陸部6内で終端しているため、中央陸部6は、タイヤ赤道面CL上をトレッド周方向に連続して延びるリブ状の陸部となっている。
【0024】
また、図1に示すように内側ショルダー陸部7には、トレッド幅方向に延びてトレッド端TE及び内側周方向主溝2bに開口する第6細溝18がトレッド周方向に間隔をおいて(図示例では等間隔に)複数設けられている。さらに、内側ショルダー陸部7には、トレッド端TEからトレッド幅方向内側に延びて内側ショルダー陸部7内で終端する、複数の第7細溝19が、トレッド周方向に隣接する2本の第6細溝18間に、1本ずつ形成されている。そして、内側ショルダー陸部7は、トレッド周方向に延びる1本の第8細溝20を有し、図示例では、第7細溝19は、第8細溝20との交差部において終端している。これらの第6細溝18、第7細溝19、第8細溝20によりエッジ成分を確保してグリップ性能を確保することができる。
【0025】
さらに、図1に示すように外側ショルダー陸部8には、トレッド幅方向に延びてトレッド端TE及び外側周方向主溝3bに開口する第9細溝21がトレッド周方向に間隔をおいて(図示例では等間隔に)複数設けられている。さらに、外側ショルダー陸部8には、トレッド端TEからトレッド幅方向内側に延びて外側ショルダー陸部8内で終端する、複数の第10細溝22が、トレッド周方向に隣接する2本の第9細溝21間に、1本ずつ形成されている。そして、外側ショルダー陸部8は、トレッド周方向に延びる1本の第11細溝23を有し、図示例では、第11細溝23は、第10細溝22の終端よりトレッド幅方向内側に位置している。これらの第9細溝21、第10細溝22、第11細溝23によりエッジ成分を確保してグリップ性能を確保することができる。
【0026】
このような構成となる本実施形態のタイヤでは、内側周方向主溝2a、2bに対し、これら両方に連通する第1共鳴器部9が複数設けられていて、また外側周方向主溝3a、3bに対し、それぞれに連通する第2共鳴器部11、第3共鳴器部12が複数設けているので、内側周方向主溝2a、2b及び外側周方向主溝3a、3bで発生する音を、第1共鳴器部9、第2共鳴器部11、第3共鳴器部12によって低減することができる。また、排水性への寄与に大きいトレッド踏面1の車両装着時内側に、2本の内側周方向主溝2a、2bを設けるとともに、車両装着時外側にも2本の外側周方向主溝3a、3bを設けているので、排水性は十分に確保される。また、第2共鳴器部11及び第3共鳴器部12の溝容積はそれぞれ、第1共鳴器部9の溝容積よりも小さくなっているので、車両旋回時での操縦安定性に重要な、車両装着時外側の接地面積が十分に確保されることになり、操縦安定性を高いレベルで維持することができる。また、内側陸部4及び外側陸部5以外の他の陸部には、共鳴器部を配置しない(あるいは、必要以上に大きい共鳴器部を配置しない)ようにすることができ、ハンドリング性能への寄与の大きいタイヤ赤道面CLに位置する中央陸部6や、ウェット制動性への寄与の大きいショルダー域に位置する内側ショルダー陸部7、外側ショルダー陸部8の接地面積を確保することができるため、操縦安定性、ウェット制動性などの走行性能を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態のタイヤでは、排水性への寄与に大きいトレッド踏面1の車両装着時内側に設けた内側周方向主溝2a、2bの溝幅を、車両装着時外側の外側周方向主溝3a、3bよりも大きくしているため、排水性がより十分に確保される。特にキャンバー角度が付いた車両である場合に、車両装着時内側が直進時の接地領域として大きな面積を占めるからである。一方で、操縦安定性等への寄与の大きい車両装着時外側の外側周方向主溝3a、3bの溝幅は小さくしており、これにより、接地面積を確保して操縦安定性等を確保することができる。このように、本実施形態のタイヤでは、排水性と操縦安定性とを効率的に高い次元で両立させることができる。なお、具体的には、特には限定しないが、内側周方向主溝2a、2bの溝幅は、例えば、5〜20mmとすることが好ましく、一方で、外側周方向主溝3a、3bの溝幅は、内側周方向主溝2a、2bの溝幅のよりも小さくした上で、例えば、5〜20mmとすることが好ましい。
【0028】
また、内側陸部4に設けた第1枝溝部9b、9c、及び外側陸部5に設けた第2枝溝部11b、第3枝溝部12bは、溝幅が1mm以下であることが好ましい。接地面積の低下や陸部の剛性の低下を低く抑えることができるので、操縦安定性を一層高めることができるからである。一方で、共鳴器部9、11、12を機能させて静粛性を維持するために、これら枝溝部の溝幅は、接地時に接地面に開口する程度を確保するものとする。なお、第1枝溝部9b、9c、第2枝溝部11b、及び第3枝溝部12bは、溝であってもよく、また、サイプであってもよい。さらに、内側陸部4に設けた第1細溝10a及び第2細溝10b、並びに外側陸部5に設けた第3細溝13及び第4細溝14も、同様の観点から溝幅が1mm以下であることが好ましい。
【0029】
さらに、タイヤ赤道面CL上をトレッド周方向に連続して延びる中央陸部6は、図1に示すように、リブ状にすることが好ましい。タイヤ赤道面CLの位置は、ハンドリング性能に大きく寄与するため、剛性の高いリブ状陸部とすることにより、一層操縦安定性を向上させることができるからである。
【0030】
また、外側陸部5に設ける第2共鳴器部11と第3共鳴器部12は、図1に示すように、それらをトレッド周方向に交互に配置することが好ましい。この構成によれば、トレッド周方向の剛性バランスを高く保つことができるので、静粛性、操縦安定性を高い次元で両立させることができる。
【0031】
また、図2(a)に示すように、第1副溝部9aは、その延在方向の一部に底上げ部15を有することが好ましい。陸部の剛性を確保して、操縦安定性をより一層向上させることができるからである。一方で、底上げ部15は、第1副溝部9aのうち、第1枝溝部9b、9cが連通していない部分(例えば、図1に示すように、第1副溝部9aの延在方向中央部分)に設けることが好ましい。摩耗進展時に第1副溝部9aと第1枝溝部9b、9cとが途切れないようにして、摩耗進展後も共鳴器としての機能を維持することができるからである。具体的には、第1副溝部9aの溝の最大深さは、例えば、5〜8mmとすることができ、一方で、底上げ部10における第3副溝部8aの溝深さ(最小深さ)は、3〜6mmとすることができる。
【0032】
さらに、図2(b)に示すように、第3副溝部12aは、その延在方向の一部に底上げ部16を有することが好ましく、同様に、第2副溝部11aは、その延在方向の一部に底上げ部16を有することが好ましい。陸部の剛性を確保して、操縦安定性をより一層向上させることができるからである。具体的には、第2副溝部11a、第3副溝部12aの溝の最大深さは、例えば、5〜8mmとすることができ、一方で、底上げ部16における第2副溝部11a、第3副溝部12aの溝深さ(最小深さ)は、3〜6mmとすることができる。また、図1図2(b)に示すように、第2副溝部11a、第3副溝部12aの端部のうち、第2枝溝部11b、第3枝溝部12bがそれぞれ連通する側の第2副溝部11a、第3副溝部12aの端部では、底上げ部16を設けずに、溝深さを深くすることが好ましい。摩耗進展時に副溝部と枝溝部とが途切れないようしにて摩耗進展後も共鳴器として機能させることができるからである。
【0033】
さらに、隣接する2本の内側周方向主溝2及び隣接する2本の外側周方向主溝3に挟まれる、内側陸部4、外側陸部5、中央陸部6では、両端が上記周方向主溝に開口し、且つ溝幅が1mm超である溝が配置されていないことが好ましい。接地面積をさらに確保して、操縦安定性をさらに確保することができるからである。また、内側ショルダー陸部7及び外側ショルダー陸部8では、配置する溝やサイプは全て溝幅が1mm以下であることが接地面積を確保する上で好ましい。
【0034】
なお、図1に示す例では、外側陸部5において、剛性のバランスを確保するため、第2共鳴器部11(及び第4細溝14)と第3共鳴器部12(及び第3細溝13)とを交互に、且つトレッド周方向に等間隔で配置しているが、パターンノイズを抑制する観点からは、第2共鳴器部11(及び第4細溝14)と第3共鳴器部12(及び第3細溝13)とを異なるトレッド周方向間隔で配置することが好ましい。さらに、内側陸部4においても同様に、パターンノイズを抑制するために、第1共鳴器部9(及び第1細溝10a、第2細溝10b)を異なるトレッド周方向間隔で配置することが好ましい。また、他の陸部(中央陸部6、内側ショルダー陸部7、外側ショルダー陸部8)に配置する溝(第5細溝17〜第11細溝23)についても、トレッド周方向にピッチバリエーションを設けることがパターンノイズを抑制する上で好ましい。
【0035】
さらに、図1に示す例では、外側陸部5において、第3枝溝部12bの略延長線上に第3細溝13が配置され、第2枝溝部11bの略延長線上に第4細溝14が配置されているので、外側陸部5のトレッド幅方向での剛性バランスが保たれて、偏摩耗を抑制することができる。
【実施例】
【0036】
本発明の効果を確かめるため、発明例1〜4及び比較例1にかかるタイヤを試作した。発明例1に示すタイヤは、図1に示すトレッドパターンを有し、発明例2〜4及び比較例1は、以下の表1に示す諸元以外の諸元については、発明例1にかかるタイヤと同様のタイヤである。なお、「共鳴器の枝溝数」が2本とは、図1の第1共鳴器部9のような、隣接する両側の主溝にそれぞれ開口する2本の枝溝部を有している共鳴器をいい、「共鳴器の枝溝数」が1本とは、図1の第2共鳴器部11、第3共鳴器部12のような、隣接する両側の主溝の一方に開口する1本の枝溝部を有している共鳴器をいう。換言すると、2本の枝溝を設けた共鳴器は、2本の周方向主溝の騒音を低減させることができるように、1本の枝溝を設けた共鳴器よりも溝容積が大きくなるので、その分、接地面積が小さくなることを意味する。加えて、「溝幅」とは、枝溝部の溝幅、及び、細溝を有する場合はその溝幅を意味する。また、「外側陸部における2種類の共鳴器」とは、図1の第2共鳴器部11と第3共鳴器部12のような、隣接する両側の主溝の一方に開口する共鳴器と、他方に開口する共鳴器とを意味する。
【0037】
タイヤサイズ245/60R16の上記各タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填して、車両に装着し、以下の試験を行った。
<静粛性>
時速80km/hにて、室内ドラム試験機上で走行させた際のタイヤ側方音をJASO C606規格にて定める条件で測定して気柱共鳴音を評価した。比較例1にかかるタイヤの評価結果を100とした場合の相対値で評価し、数値が大きい方が静粛性に優れていることを示す。
<操縦安定性>
上記各タイヤについて、ドライ路面上を走行した際の走行性能をドライバーによる官能により評価した。比較例1にかかるタイヤの評価結果を100とした場合の相対値で評価し、数値が大きい方が操縦安定性に優れていることを示す。
<ウェット制動性>
上記各タイヤについて、ウェット路面を、初速40km/hで走行し、フルブレーキ時の停止距離を評価した。比較例1にかかるタイヤの評価結果を100とした場合の相対値で評価し、数値が大きい方が性能がウェット制動性に優れていることを示す。
以上の各評価結果について、タイヤ諸元と共に、以下の表1に示している。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、発明例1〜4にかかるタイヤは、何れも比較例1にかかるタイヤと比較して、静粛性を維持したまま、操縦安定性及びウェット制動性を向上することができる。また、発明例1、2を比較して、内側周方向主溝の溝幅を外側周方向主溝の溝幅よりも大きくする場合は、操縦安定性及びウェット制動性をより高めることができる。また、発明例1、3を比較して、第1枝溝部、第2枝溝部、及び第3枝溝部の溝幅が1mm以下である場合は、より操縦安定性に優れている。また、発明例1、4を比較して、タイヤ赤道面上に位置する中央陸部がトレッド周方向に連続して延びるリブ状である場合は、操縦安定性をより高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、静粛性を維持しつつ、操縦安定性やウェット制動性を向上させた空気入りタイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:トレッド踏面、2、2a、2b:内側周方向主溝、3、3a、3b:外側周方向主溝、
4:内側陸部、5:外側陸部、6:中央陸部、7:内側ショルダー陸部、
8:外側ショルダー陸部、
9:第1共鳴器部、9a:第1副溝部、9b、9c:第1枝溝部、
10a:第1細溝、10b:第2細溝、
11:第2共鳴器部、11a:第2副溝部、11b:第2枝溝部、
12:第3共鳴器部、12a:第3副溝部、12b:第3枝溝部、
13:第3細溝、14:第4細溝、15、16:底上げ部、17:第5細溝、
18:第6細溝、19:第7細溝、20:第8細溝、21:第9細溝、
22:第10細溝、23:第11細溝、
CL:タイヤ赤道面、TE:トレッド端
図1
図2