特許第6043238号(P6043238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043238
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/34 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01L23/34 C
   H01L25/04 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-93978(P2013-93978)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-216543(P2014-216543A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄司 智幸
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正則
(72)【発明者】
【氏名】今井 誠
(72)【発明者】
【氏名】織本 憲宗
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−003995(JP,A)
【文献】 特開平05−259334(JP,A)
【文献】 特開平09−107068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と配線層が圧接固定される圧接型の半導体モジュールであって、
前記半導体素子と前記配線層の間に設けられており、圧接方向に直交する面内に配置されている複数の弾性機構と、
複数の抜け防止部材と、を備えており、
前記弾性機構は、
前記半導体素子に接触する導電性の接触体と、
前記接触体を前記半導体素子に向けて付勢する弾性体と、を有しており、
前記配線層には、複数の溝が設けられており、
前記配線層の複数の前記溝の各々には、前記弾性機構と前記抜け防止部材が収容されており、
前記抜け防止部材は、前記接触体が前記配線層の溝内に収容されたときに、前記圧接方向に直交する方向に沿って前記接触体を付勢するように構成されており、
前記半導体素子と前記配線層は、前記接触体を介して電気的に接続可能に構成されている半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、半導体素子と配線層が圧接固定される圧接型の半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4に開示されるように、半導体素子と配線層が圧接固定される圧接型の半導体モジュールが開発されている。このような圧接型の半導体モジュールでは、半導体素子と配線層がはんだ等によって固定されていないので、半導体素子と配線層は、両者の接触面に平行な方向に拘束されない。このため、半導体素子が動作したときに発生する熱の影響によって半導体素子と配線層の間に熱膨張差が生じても、半導体素子と配線層の接触面に平行な方向における滑りの効果によって、半導体素子と配線層に加わる応力が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−211259号公報
【特許文献2】特開平7−99284号公報
【特許文献3】特開2005−101489号公報
【特許文献4】特開2012−119651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体素子は、素子部と終端部を有している。素子部は、ゲート構造が設けられており、電流が流れる部分である。終端部は、その素子部の周囲に設けられており、横方向の耐圧を向上させるための部分である。
【0005】
半導体素子が動作したときに発生する熱は、終端部よりも素子部で大きくなる。このため、半導体素子の温度は、素子部で高く、終端部で低い。このような温度分布が形成されると、素子部が終端部よりも大きく熱膨張するので、半導体素子が湾曲するように変形しようとする。しかしながら、圧接型の半導体モジュールでは、半導体素子は、配線層によって圧接方向が拘束されているので、湾曲変形が阻害され、大きな応力が加わる。
【0006】
本明細書では、半導体素子が動作したときの温度分布に起因する応力を緩和する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される技術は、半導体素子と配線層が圧接固定される圧接型の半導体モジュールに具現化される。半導体モジュールは、半導体素子と配線層の間に設けられており、圧接方向に直交する面内に配置されている複数の弾性機構を備えている。弾性機構は、半導体素子に接触する導電性の接触体、及び接触体を半導体素子に向けて付勢する弾性体を有している。半導体素子と配線層は、接触体を介して電気的に接続可能に構成されている。
【0008】
半導体素子が動作して温度分布が形成されると、半導体素子は湾曲するように変形しようとする。半導体モジュールでは、弾性機構の弾性体が圧縮することにより、半導体素子の湾曲変形を許容することができる。このため、半導体素子に加わる応力が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施例の半導体モジュールの一実施形態の要部断面図を模式的に示す。
図2図2は、第1実施例の弾性機構部の要部拡大断面図を模式的に示す。
図3図3は、第1実施例の弾性機構部の作用効果を説明する図である。
図4図4は、第1実施例の弾性機構の一実施形態の断面図を模式的に示す。
図5図5は、第1実施例の弾性機構の一実施形態の断面図を模式的に示す。
図6図6は、第2実施例の半導体モジュールの一実施形態の要部断面図を模式的に示す。
図7A図7Aは、第2実施例の弾性機構の一実施形態の断面図を模式的に示す。
図7B図7Bは、第2実施例の弾性機構の一実施形態の断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
(特徴1)本明細書で開示される半導体モジュールは、半導体素子と配線層が圧接固定される圧接型である。半導体モジュールは、半導体素子と配線層の間に設けられており、圧接方向に直交する面内に配置されている複数の弾性機構を備えていてもよい。弾性機構は、半導体素子に接触する導電性の接触体、及び接触体を半導体素子に向けて付勢する弾性体を有していてもよい。半導体素子と配線層は、接触体を介して電気的に接続可能に構成されていてもよい。ここで、接触体の材料は、電気抵抗が低く、熱伝導が大きい材料が望ましく、金属であるのが望ましい。接触体の材料は、一例では、銅、アルミ、グラファイト及びその複合材であってもよい。弾性体の形態及び材料は、特に限定されるものではない。弾性体には、圧縮変形後に復元力を有する様々なものが採用可能である。
(特徴2)弾性機構は、接触体と弾性体を収容しており、配線層に接触する導電性の筐体をさらに有していてもよい。接触体は、筐体に対して摺動可能に筐体に収容されていてもよい。半導体素子と配線層は、接触体及び筐体を介して電気的に接続可能に構成されていてもよい。ここで、接触体は、筐体の内壁に当接しながら摺動してもよく、摺動機構(接触体と筐体の間の電気的な接続を許容するガイド機構等)を利用して摺動してもよい。
(特徴3)筐体は、接触体が抜け落ちるのを防止する抜け防止部を有していてもよい。抜け防止部には、様々な形態を採用することができる。一例では、抜け防止部は、筐体の内壁の一部に形成された溝内に接触体の一部が突出するように構成されてもよい。また、抜け防止部は、接触体を横方向から付勢する弾性体によって構成されてもよい。
【実施例1】
【0011】
以下、図面を参照して各実施例を説明する。なお、各実施例において共通する構成要素については共通の符号を付している。
【0012】
図1に示されるように、圧接型の半導体モジュール1は、冷却器2、絶縁基板3、半導体素子4、弾性機構部5及び配線層6を備えている。冷却器2と配線層6は、図示しない締結具(一例では、ナットとボルト)によって結合されており、絶縁基板3と半導体素子4と弾性機構部5を圧接方向(紙面上下方向)に圧接固定している。
【0013】
冷却器2には冷媒を流通させる流路が形成されており、半導体素子4で発生した熱はその冷媒を介して外部に放熱される。冷却器11の材料は、一例ではアルミニウムである。
【0014】
絶縁基板3は、上側金属層3a、絶縁層3b及び下側金属層3cを有している。上側金属層3aは、半導体素子4の裏面電極に電気的に接続されており、配線層として用いられる。絶縁層3bは、半導体素子4と冷却器2を電気的に絶縁している。下側金属層3cは、冷却器2にろう材あるいはグリースを介して接合している。上側金属層3a及び下側金属層3cの材料は、一例ではアルミニウムである。絶縁層3bの材料は、一例では窒化アルミニウムである。
【0015】
半導体素子4は、一例では縦型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。半導体素子4の裏面電極であるコレクタ電極が絶縁基板3の上側金属層3aに電気的に接続されており、表面電極であるエミッタ電極が弾性機構部5を介して配線層6に電気的に接続されている。
【0016】
図2に示されるように、弾性機構部5は、配線層6と半導体素子4の間に設けられており、圧接方向に直交する面内に配置されている複数の弾性機構10を備えている。弾性機構10の個数は、後述するように、半導体素子4の湾曲変形に追従できる程度であればよい。例えば、弾性機構10は、10mm×10mmの半導体素子4に対して5×5個が用いられている。弾性機構10の各々は、半導体素子4に接触する導電性の接触体12、接触体12を半導体素子4に向けて付勢する弾性体14、及び接触体12と弾性体14を収容している導電性の筐体16を有している。
【0017】
接触体12は、一例では概ね円柱状の形態を有しており、一端が半導体素子4に接触しており、他端が弾性体14に接触している。半導体素子4に接触する側の接触体12の端部が曲面で構成されており、接触体12と半導体素子4は点接触している。接触体12は、筐体16の内壁に当接しており、筐体16に当接した状態で筐体16に対して圧接方向に沿って摺動可能である。接触体12の材料には、一例では銅が用いられる。接触体12は、配線層6に筐体16を接合した後に、筐体16内に収容される。
【0018】
弾性体14は、一例では絶縁性の樹脂ばねであり、一端が接触体12に接触しており、他端が配線層6に接触している。弾性体14は、接触体12を半導体素子4に向けて付勢する。弾性体14は、配線層6に筐体16を接合した後に、所定の圧縮荷重が加えられた状態で筐体16内に収容される。
【0019】
筐体16は、一例では筒状の形態を有しており、接触体12に対応した形態の内壁面を有している。筐体16は、一端が配線層6に接合されている。筐体16と配線層6は、例えばエッチング技術を利用して接合されている。筐体16の材料には、一例では銅が用いられる。
【0020】
次に、半導体素子4が動作したときに半導体素子4に加わる応力が緩和される作用を説明する。半導体素子4は、素子部と終端部を有している。素子部は、ゲート構造が設けられており、電流が流れる部分である。終端部は、その素子部の周囲に設けられており、横方向の耐圧を向上させるための部分である。例えば、終端部には、ガードリング、リサーフ層等の耐圧構造が設けられている。
【0021】
半導体素子4が動作したときに発生する熱は、終端部よりも素子部で大きい。特に、半導体素子4の素子部の上面側で多くの熱が発生する。このため、半導体素子4の温度は、素子部の上面側で高くなる分布を有する。図3に示されるように、このような温度分布が形成されると、素子部の上面側が残部よりも大きく熱膨張するので、上に凸となるように湾曲変形する。
【0022】
弾性機構10は、弾性体14が圧縮変形することによって、半導体素子4の湾曲変形に良好に追従することができる。これにより、半導体素子4に加わる応力が緩和される。
【0023】
また、弾性機構10では、接触体12と筐体16を介して半導体素子4と配線層6の電気的な接続、及び熱伝導の経路が確保されており、低い電気抵抗と高い熱伝導の特性が確保されている。さらに、接触体12と筐体16を介して電流が流れるので、弾性体14のインダクタンス成分の影響が抑えられる。
【0024】
また、弾性機構10では、1つの接触体12に対して1つの弾性体14が設けられているので、接触体12の大きさにバラツキがあっても、弾性体14によってそのバラツキが吸収される。
【0025】
また、弾性機構10では、半導体素子4と接触する側の接触体12の端部が曲面で構成されており、半導体素子4と接触体12が点接触している。これにより、半導体素子4と接触体12の接触面に平行な方向における半導体素子4の熱膨張に対して、滑り効果によって半導体素子4に加わる応力が緩和される。
【0026】
図4に、弾性機構10の他の例を示す。なお、図4では、図示の明瞭化のために、複数の弾性機構10のうちの1つのみを示している。この例では、接触体22がスライド部材22aと球状部材22bで構成されている。スライド部材22aは、一端が弾性体14に接触しており、他端が球状部材22bに接触している。スライド部材22aはまた、筐体16の内壁に当接しており、筐体16に対して圧接方向に沿って摺動可能である。球状部材22bは、一端がスライド部材22aに接触しており、他端が半導体素子4(図示省略)に接触している。筐体26は、内壁面26aの一部に凹状の溝が形成されており、その溝内に球状部材22bが収容されている。筐体26の端部の内径26Wは、球状部材22bの外径22Wよりも小さく構成されている。これにより、球状部材22bが筐体26から抜け落ちることが防止されている。なお、これらの抜け防止用の構造が、特許請求の範囲に記載されている「抜け防止部」の一例である。このような抜け防止部が設けられていると、弾性機構10を配線層6に取り付ける作業時にスライド部材22a及び球状部材22bが抜け落ちることが防止され、製造時の作業負担が軽減される。
【0027】
また、図5に示すように、接触体32は、スライド部材32aと鍔部32bを有していてもよい。なお、スライド部材32aは、図2及び図3に示される接触体12と同一のものであってもよい。鍔部32bは、スライド部材32aの側面の一部に設けられている。鍔部32bは、スライド部材32aの側面を周方向に一巡するリング状の形態であってもよい。また、鍔部32bは、スライド部材32aと一体で構成されていてもよい。この例でも、接触体32が筐体26から抜け落ちることが防止されている。
【実施例2】
【0028】
図6に示されるように、弾性体114と接触体112を有する弾性機構110が、配線層6に設けられた溝6a内に収容されていてもよい。なお、弾性体114と接触体112は、図2及び図3に示される弾性体14と接触体12と同一のものであってもよい。この例では、図2〜5で例示した筐体16,26が不要となり、構成が簡単化される。
【0029】
図7A,7Bに示すように、配線層6の溝6a内に抜け防止部材116が設けられていてもよい。抜け防止部材116は、接触体112が配線層6の溝6a内に収容されたときに、横方向(紙面左右方向)に沿って接触体112を付勢する。これにより、接触体112が配線層6の溝6aから抜け落ちることが防止されている。
【0030】
本実施例では、弾性機構部5が半導体素子4と配線層6の間にのみ設けられているが、弾性機構部5と同一な構造が半導体素子4と絶縁基板3の間にも設けられていてもよい。この場合、半導体素子4が湾曲変形したときに、半導体素子4の表面と裏面の双方において、電気的な接続と熱伝導の経路が確保されるので、半導体素子4を安定して動作させることができる。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0032】
1:半導体モジュール
2:冷却器
3:絶縁基板
4:半導体素子
5:弾性機構部
6:配線層
10,110:弾性機構
11:冷却器
12,22,32:接触体
14,114:弾性体
16,26:筐体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B