(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043239
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】光増幅器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20161206BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20161206BHJP
G02B 6/26 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/10 D
G02B6/26
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-98035(P2013-98035)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-220347(P2014-220347A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 朋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰生
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
【審査官】
廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−164032(JP,A)
【文献】
特開2011−186267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02− 6/10
6/26− 6/27
6/30− 6/34
6/42− 6/44
H01S 3/00− 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の信号用光ファイバと、複数本の励起光用光ファイバとで構成された光結合器と、増幅用光ファイバとで構成された光増幅器であって、該信号用光ファイバを中心に略同心円周上にある該複数本の励起光用光ファイバの少なくとも1本は、同じ略同心円周上にある他の励起光用光ファイバと異なる開口数を有することを特徴とする、光増幅器。
【請求項2】
該異なる開口数を有する励起光用光ファイバには、該他の励起光用光ファイバに入力される励起光とは異なる出力の励起光が入力されることを特徴とする、請求項1に記載の光増幅器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光増幅器を使用したファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にファイバレーザ装置に使用される
、光増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途などへの適用を目的として、ファイバレーザは、高効率でしかも高ビーム品質のレーザ光を簡単に取り出せるという理由で注目を集めている。
一般的なファイバレーザ装置は、
図1に示すような構成をしている。
すなわち、信号光源1から発生した信号光2と、励起光源3から発生する励起光4を、光結合器5を介して希土類元素を添加したコアを有する増幅用光ファイバ7へ入力し、励起光4がコアに添加された希土類元素に作用することで、増幅用光ファイバ7のコアを伝搬する信号光2を増幅し、高エネルギーを有するレーザ光10を得る。
【0003】
光結合器5と増幅用光ファイバ7を光学的に接続したものは光増幅器と呼ばれ、特許文献1に記載されたクラッドポンピングファイバ光ファイバデバイス(
図2)などが従来例として知られている。
図2において、複数のマルチモードファイバを束ね、端部に向かって傾斜させた左側の部分が光結合器、右側に接続された光ファイバが増幅用光ファイバ(特許文献1においてはクラッドポンピングファイバと称呼)である。
通常、光結合器5は信号光を入力する信号光用光ファイバ11と、励起光を入力する励起光用光ファイバ12とで構成される。
【0004】
図3は、
図2のような従来の光増幅器に、信号光2と励起光4を入力した際の模式図である。
光結合器5を通じて増幅用光ファイバ7に入力された励起光4は、
図3に示したように増幅用光ファイバ7内を伝搬し、コアに添加された希土類元素に作用することで、増幅用光ファイバ7のコア13を伝搬する信号光2を増幅する。
【0005】
通常、増幅用光ファイバ7に入力された励起光4は、増幅用光ファイバ7のコア13に1回作用する度、言い換えればコア13を1回通過する度に、そのエネルギーの一部が吸収され、吸収に伴って増幅用光ファイバ7は発熱する。
【0006】
図1に示したようなレーザファイバ装置においてレーザ光10のエネルギーを高めたい場合、励起光源3の数を増やし、増幅用光ファイバ7のコア13における励起光4の希土類元素への作用をより活発にして増幅を促す方法がある。
【0007】
ところが、励起光源3を増やす、すなわち励起光4の数を増やした場合、吸収に伴う増幅用光ファイバ7の発熱も増大する。このため、増幅用光ファイバ7への熱的負荷が大きくなり、発熱によって増幅用光ファイバ7が損傷してしまう場合も存在する。
【0008】
また、励起光4が少ない場合でも、増幅用光ファイバのコア13を1回目に通過する際に、そのエネルギーの一部が吸収されてしまうため、コア13を2回目以降に通過する際に発生する励起光の希土類元素への作用は、1回目に通過する際に発生する作用と比較して弱いものとなってしまう。すなわち、増幅用光ファイバ7の入射端側から出射端側に向かうにつれて信号光2の増幅作用が弱くなってしまうため、増幅用光ファイバ7の有する信号光増幅機能は、増幅用光ファイバ7の全長に渡って有効に働いているとは言い難く、入射端側付近でしか有効に働いていないのが現状である。この問題は励起光4の数が増えた際に、より顕著に影響する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−72629
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、光増幅用光ファイバが損傷するような熱的負荷を掛けることなく、かつ増幅用光ファイバの信号光増幅機能がより長い距離に渡って有効に働いて、励起光を増やすことによるファイバレーザの高エネルギー化を実現する、
光増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、光結合器に使用される複数の励起光用光ファイバの開口数を全て同じものとせず、一部の励起光用光ファイバの開口数を他の励起光用光ファイバと異なるものにすることで、励起光が増幅用光ファイバのコアを1回目に通過する場所と、一定長さあたりのコア通過回数を変化させ、従来の問題を解消できることを究明した。
【0012】
本発明に
使用する光結合器は、1本の信号用光ファイバと、複数本の励起光用光ファイバとで構成され、
該信号用光ファイバを中心に略同心円周上にある該複数本の励起光用光ファイバの少なくとも1本は、
同じ略同心円周上にある他の励起光用ファイバと異なる開口数を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の
光増幅器にあっては、以下に記載した優れた効果が期待できる。
(1)励起光用光ファイバから増幅用光ファイバに入力される励起光は、励起光用光ファイバの開口数によって入力角度が異なるため、励起光用光ファイバの開口数によって、入力された励起光が増幅用光ファイバのコアに吸収される位置が異なる。
(2)このため、励起光の数が増えた場合でも、増幅用光ファイバのコアに励起光が吸収される場所が1箇所に集中せず、発熱が分散するため、増幅用光ファイバに掛かる熱的負荷が軽減される。
(3)増幅用光ファイバへの入射角度が小さい励起光は、入射角度が大きい励起光よりも、増幅用光ファイバのコアを1回目に通過する場所が、増幅用光ファイバの入射端から離れた場所になるとともに、増幅用光ファイバの単位長さあたりのコアを通過する回数が少ないため、信号光増幅機能がより長い距離に渡って有効に働く。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】光結合器と光増幅ファイバとで構成された、従来の光増幅機である。
【
図3】従来の光増幅器において、信号光と励起光を入力した際の模式図である。
【
図4】本発明
に使用する光結合器の基本的構成である。
【
図5】本発明
の光増幅器において、信号光と励起光を同時入力した際の各光の伝搬の様子を示したものである。
【
図7】本発明の
光増幅器を使用した、ファイバレーザ装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の基本的構成を、添付図面を参照しながら説明する。
図4において、5は光結合器、11は信号光用光ファイバ、12Aは第1の開口数(NA1)を有する励起光用光ファイバ、12Bは第2の開口数(NA2)を有する光ファイバ、7は増幅用光ファイバである。
本発明で特徴的なことは、励起光用光ファイバとして第1の開口数(NA1)を有するもの12Aと、第2の開口数(NA2)を有するもの12Bを組み合わせたことである。以下、NA1>NA2として説明する。
【0016】
開口数の小さいファイバは、開口数の大きいファイバと比較して、受光できる範囲(角度)が小さく、これに対応して出射する光の広がり(角度)も小さいという性質を有する。本発明は、この開口数の小さいファイバが有する、出射する光の広がりが小さいという特徴に着目して得られたものである。
【0017】
すなわち、開口数NA1の励起光用光ファイバ12Aから増幅用光ファイバ7に入力される励起光4Aは、
図5に示すように光軸に対して大きい角度で入力されるため、増幅用光ファイバ7の入射端付近で1回目のコア通過が起きるとともに、一定長さあたりのコア通過回数が多い。
一方、開口数NA2の励起光用光ファイバ12Bから増幅用光ファイバ5に入力される励起光4Bは、
図5に示すように光軸に対して小さい角度で入力されるため、増幅用光ファイバ7の入射端から離れた場所で1回目のコア通過が起きるとともに、一定長さあたりのコア通過回数が少ない。
【0018】
このように、他の励起光用光ファイバ12Aと開口数の異なる励起光用光ファイバ12Bを使用することにより、励起光4が増幅用光ファイバ7のコア13を1回目に通過する場所と、一定長さあたりのコア通過回数を変化させることができる。これによって以下に述べる効果が得られる。
【0019】
第1の効果として、増幅用光ファイバ7への熱的負荷の軽減が挙げられる。
先述したように、励起光4が増幅用光ファイバ7のコア13を通過する際にそのエネルギーの一部が吸収され、増幅用光ファイバ7は発熱する。
励起光用光ファイバ12の開口数が全て等しい場合、増幅用光ファイバ7のコア13における励起光の1回目の吸収が起きる場所がある1点とその付近に集中するため、増幅用光ファイバ7への熱的負荷が大きくなり、増幅用光ファイバ7が損傷する場合もある。
【0020】
本発明では、他の励起光用光ファイバ12Aと開口数の異なる励起光用光ファイバ12Bから増幅用光ファイバ7に入力された励起光4Bは、他の励起光用光ファイバ12Aからの励起光4Aが1回目に吸収される場所とは異なる場所で1回目の吸収が起きるため、発熱が発生する場所がある1点に集中せず、増幅用光ファイバ7への熱的負荷が軽減される。
特に、レーザ光10のエネルギーを高めるために励起光用光ファイバの本数を増やした際に、この熱的負荷の軽減効果は、増幅用光ファイバ7の損傷を防ぐために重要なものとなる。
【0021】
第2の効果として、増幅用光ファイバ7の信号光増幅機能がより長い距離に渡って有効に働くようになることが挙げられる。
先述したように、開口数の小さい励起光用光ファイバ12Bから増幅用光ファイバ7に入力される励起光4Bは、光軸に対して小さい角度で入力されるため、増幅用光ファイバ7の入射端から離れた場所で1回目のコア通過が起きるとともに、単位長さあたりのコア通過回数が少ない。
これの意味する所は、開口数の小さい励起光用光ファイバ12Bから入力された励起光4Bは、開口数の大きい励起光用光ファイバ12Aから入力された励起光4Aと比較して、増幅用光ファイバ7内における吸収(エネルギー減衰)が緩やかであるということである。
【0022】
すなわち、他の励起光用光ファイバ12Aと開口数の異なる励起光用光ファイバ12Bが存在する場合、言い換えれば、開口数の大きいものと小さいものが存在する場合、開口数の大きい励起光用光ファイバ12Aから入力された励起光4Aは、増幅用光ファイバ7の入射端に近い領域で吸収されることで信号光増幅機能を生み出すのに対し、開口数の小さい励起光用光ファイバ12Bから入力された励起光4Bは、相対的に高いエネルギーを有したまま増幅用光ファイバ7の入射端から離れた領域で吸収され、その離れた領域で信号光増幅機能を生み出す。
【0023】
このように、他の励起光用光ファイバ12Aと開口数の異なる励起光用光ファイバ12Bが存在する場合、励起光用光ファイバ12の開口数が全て同じ場合と比較して、増幅用光ファイバ7の信号光増幅機能がより長い距離に渡って有効に働くようになる。
高エネルギーのレーザ光10を得たい場合、励起光用光ファイバ7の信号光増幅機能が長い距離に渡って有効に働くことが重要である。
【0024】
また、本発明によって得られる上述の効果をより高めるために、他の励起光用光ファイバ12Aと開口数の異なる励起光用光ファイバ12Bに入力される励起光4Bの出力を、他の励起光用光ファイバ12Aに入力される励起光4Aの出力と異なるものとするのが好ましい。
具体的には、開口数の小さい励起光用光ファイバ12Bに入力する励起光4Bのエネルギーを、開口数の大きい励起光用光ファイバ12Aに入力する励起光4Aのエネルギーより高くするのが良い。
【0025】
開口数の小さい励起光用光ファイバ12Bから増幅用光ファイバ7に入力される励起光4Bは、増幅用光ファイバ内7におけるエネルギー減衰が緩やかであり、増幅用光ファイバ7の入射端から離れた領域で信号光増幅機能を生み出すため、エネルギーを高くすることで、増幅用光ファイバ7の入射端から離れた領域での信号光増幅機能をより強くすることができる。
【実施例】
【0026】
本発明の
光増幅器の実施例として、
図7を示す。
信号光用光ファイバ11として、コア径20μm、クラッド径400μm、NA=0.06の光ファイバを1本使用した。
第1の開口数を有する励起光用光ファイバ12Aとして、コア径105μm、クラッド径125μm、NA=0.26の光ファイバを8本使用した。
第2の開口数を有する励起光用光ファイバ12Bとして、コア径105μm、クラッド径125μm、NA=0.22の光ファイバを5本使用した。
さらに、第3の開口数を有する励起光用光ファイバ12Cとして、コア径105μm、クラッド径125μm、NA=0.15の光ファイバを5本使用した。
各光ファイバを
図6に示したように配列し、互いに加熱融着して光結合器5を得た。
【0027】
以上のように得た光結合器5を、コア径20μm、第1クラッド径400μm、第2クラッド径=550μm、コアのNA=0.06、第1クラッドのNA=0.46である、ダブルクラッド構造の増幅用光ファイバ7に光学接続し
て光増幅器を得た。増幅用光ファイバ7のコアにはレーザ活性物質としてYbが添加されている。
【0028】
信号光源1、励起光源3、出射用光ファイバ9を接続してファイバレーザ装置とした。
信号用光ファイバ11には波長1080nm、出力10Wの信号光2を、第1の開口数を有する励起光用光ファイバ12Aには波長915nm、出力15Wの励起光4Aを、第2の開口数を有する励起光用光ファイバ12Bには波長915nm、出力20Wの励起光4Bを、第3の開口数を有する励起光用光ファイバ12Cには波長915nm、出力25Wの励起光4Cを入力し、出力光として波長1080nm、出力265Wのレーザ光10を得る。
【0029】
このようにして得たファイバレーザ装置のレーザ照射試験を行ったところ、増幅用光ファイバ7が損傷することなく、265Wのレーザ光10が安定して出力され、本発明の
光増幅器はファイバレーザ装置に使用される
光増幅器として十分な機能が確保されていることが確認できた。
【0030】
以上の例は、本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、種々の変更および応用が可能であることは言うまでもない。例えば、本発明の
光増幅器は、接続される増幅用光ファイバや所望するレーザのエネルギーに応じて、励起光用ファイバの本数を増減したり、開口数を変化させたりするなど、種々変形されて供されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 信号光源
2 信号光
3 励起光源
4、4A、4B、4C 励起光
5 光結合器
6 光結合器と増幅用光ファイバの接続部
7 増幅用光ファイバ
8 増幅用光ファイバとレーザ出射用光ファイバの接続部
9 レーザ出射用光ファイバ
10 レーザ光
11 信号光用光ファイバ
12 励起光用光ファイバ
12A 第1の開口数(NA1)を有する励起光用光ファイバ
12B 第2の開口数(NA2)を有する励起光用光ファイバ
12C 第2の開口数(NA2)を有する励起光用光ファイバ
13 増幅用光ファイバのコア
14 増幅用光ファイバのクラッド