特許第6043242号(P6043242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043242
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】水中設置フラップゲートの係留装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/40 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   E02B7/40
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-107311(P2013-107311)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-227710(P2014-227710A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】森井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】吉識 竜太
(72)【発明者】
【氏名】仲保 京一
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一郎
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111722(JP,A)
【文献】 特開2011−111760(JP,A)
【文献】 特開2011−111761(JP,A)
【文献】 特公昭39−21801(JP,B1)
【文献】 実開昭57−91829(JP,U)
【文献】 特開2010−133094(JP,A)
【文献】 特開2003−268753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20〜 8/04
E04H 9/00〜 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力を得た状態の扉体を水中で係留する水中設置フラップゲートの係留装置であって、
係留状態の前記扉体の側面に設置した扉体係留ピンと相対する位置に、軸中心周りの回転が自在なように設置したトルクシャフトと、
このトルクシャフトの、前記扉体係留ピンとの係合位置に突出状に設置した係留フックと、
この係留フックの前記扉体係留ピンへの係合を開放する方向に前記トルクシャフトを回転すべく、前記トルクシャフトに設置したカウンタウエイトと、
前記係留フックの下面に設けた当接部と一方端部が、前記扉体係留ピンと他方端部がそれぞれ相対し、中央部を支点として所定角度回転自在なように、前記係留フックの下方に設置した係留フック押し上げアームと、
前記扉体を係留する格納部において、係留状態にある扉体の裏面と相対する位置に設置した一方の転向リンクアームと、
前記格納部において、係留状態にある扉体裏面側の一方側外側に設置した他方の転向リンクアームと、
前記トルクシャフトに一端側を設置したトルクアームの他端側寄りの位置に一端側が接続され、他端側は前記両転向リンクアームを介して水面上に引き出されたロッド部材と、
このロッド部材の他端側近傍に設置され、ピストンロッドの先端に滑車を設置したフック着脱用シリンダ装置と、
一端側が前記ロッド部材の他端に接続され、他端側は前記滑車を介して扉体の動揺に伴って伸縮するばね装置と接続するワイヤロープを備え、
前記ロッド部材を構成する一方の鉛直ロッドは、前記トルクアームの他端側寄りの位置に枢支される一端側に長孔を、前記一方の転向リンクアームの一方側端部に枢支される他端側に球面ブッシュをそれぞれ有して、前記長孔に前記トルクアームの他端側寄りの位置に設置したピンを挿入し、
扉体の倒伏動作時、前記扉体係留ピンによる前記係留フック先端の押し下げ開始から前記係留フック先端が前記扉体係留ピンをかわすまでの間に、前記一方の鉛直ロッドは、球面ブッシュを支点として揺動しつつ前記ピンが前記長孔内を下方に移動する一方、前記扉体係留ピンが前記係留フックを通過した後に、前記係留フック押し上げアームは、他方端部が前記扉体係留ピンに押し下げられ、一方端部は当接部を押して係留フックを押し上げることを特徴とする水中設置フラップゲートの係留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高潮対策として港湾に設置される水中設置フラップゲートの扉体を係留する装置に関するものであり、特に、格納時に扉体を倒伏状態に係留する係留フックの、係留時における再上昇動作を確実に行うようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
扉体に設けた浮力室に給気しつつ、浮力室内の海水を排水することで、扉体を浮上させる水中設置フラップゲートには、浮力室への給気・浮力室からの排水を行うための給気装置(コンプレッサ)が必要である。
【0003】
しかしながら、この水中設置フラップゲートの場合、停電時にも必要な圧縮空気を供給できるよう、常に蓄圧タンクに圧縮空気を蓄えておく必要がある。また、扉体の浮力室に海水が充満して、扉体の重量により着床している格納時には、蓄圧タンクの圧力、扉体の転倒モーメント及び傾斜角を常時監視しておく必要がある。但し、この場合も、腐食等により浮力室に孔が開いてしまうような異常は検出できない。さらに、堆積物等により扉体の重量が増加した場合は、浮上操作または浚渫等のメンテナンスを行う必要がある等、維持管理の負担が大きい。
【0004】
一方、例えば地震発生時に津波警報が発令されて扉体を浮上させる場合には、浮上指令に基づき、給気弁を開操作して浮力室への給気・浮力室からの排水を行うので、扉体の浮上に時間がかかり、津波の侵入を遮断するのに間に合わない場合がある。
【0005】
これに対して、浮力により扉体が浮上する水中設置フラップゲートにおいて、常に浮力を有した状態に扉体を保持して係留するものがある(例えば特許文献1)。
【0006】
この特許文献1で開示された水中設置フラップゲートの場合、地上から係留ロープを用いて水中に設置した係留フックを操作することで扉体の係留を行っている。従って、経年又は季節変化により係留ロープが伸びた場合、確実な係留状態を保つためには、係留フックの姿勢を補正する必要があるが、その補正に時間がかかる。また、係留ロープが伸びてその交換を要する場合、ロープの先端を係留フックに取付けるための水中作業が必要になる。
【0007】
そこで、出願人は、係留フックの姿勢の補正に時間を要さず、またロープを水中に位置させないようにした係留装置を特許文献2で提案した。この特許文献2で提案した係留装置は、図6に示すような構成である。
【0008】
1,2はベルクランク状の転向リンクアームであり、一方の転向リンクアーム1は扉体3を水中で係留する格納部Sの、倒伏状態にある係留時の扉体3の裏面3aと相対する位置に設置されている。また、他方の転向リンク部材2は、前記係留時の扉体3の裏面3aと相対する位置の、前記格納部Sにおける前記扉体3の一方端外側に設置されている。
【0009】
4は、軸中心周りの回転が自在なトルクシャフトであり、係留時の前記扉体3の側面3bにおける例えば頂端部側(浮上時は扉体3の上端側)に設けた扉体係留ピン3cと相対する位置に設置されている。このトルクシャフト4の、前記扉体係留ピン3cとの係合位置に、係留フック5を突出状に設けている。
【0010】
6は、前記係留フック5の扉体係留ピン3cへの係合を開放する方向にトルクシャフト4を回転させるカウンタウエイトである。このカウンタウエイト6は、例えばトルクシャフト4の反対側に突出させた前記係留フック5の、この反対側の突出部に設けている。
【0011】
7は、前記トルクシャフト4の軸方向中間位置に一端側を取付けられたトルクアームである。また、8は、前記トルクアーム7の他端側に一端側が接続され、他端側は前記一方の転向リンクアーム1、前記他方の転向リンクアーム2を介して水面上に引き出されたロッド部材である。このロッド部材8は、一方の鉛直ロッド8a、水平ロッド8b、他方の鉛直ロッド8cから構成されている。
【0012】
このうち一方の鉛直ロッド8aは、一方端部に長孔8aaを設け、この長孔8aaに前記トルクアーム7の他端側寄りの位置に設けたピン7aを挿入している。一方、他方端部には球面ブッシュ8abを設け、一方の転向リンクアーム1の一方側端部1aに枢支している。
【0013】
また、水平ロッド8bは、一方端部を一方の転向リンクアーム1の他方側端部1bに枢支し、他方端部は他方の転向リンクアーム2の一方側端部2aに枢支している。この水平ロッド8bは、他方の転向リンクアーム2の設置位置により、水深方向や扉体3の幅方向に平行に配置される場合の他、扉体3が1基の場合には、水深方向や扉体3の幅方向に対して斜めに配置される場合もある。
【0014】
また、他方の鉛直ロッド8cは、一方端部を他方の転向リンクアーム2の他方側端部2bに枢支する一方、他方端部は水面上に引き出され、以下の構成の制御装置11に接続されている。
【0015】
12は、前記係留フック5を扉体係留ピン3cに着脱するためのフック着脱用シリンダ装置であり、前記他方の鉛直ロッド8cの他方端部近傍に設置されている。このフック着脱用シリンダ装置12は、底部を固定されたシリンダから出退するピストンロッドの先端に滑車13を回転自在に設置している。
【0016】
14は、前記滑車13に巻き回したワイヤロープであり、その一端側がロードセル15を介して前記他方の鉛直ロッド8cの他端に接続され、他端側は扉体3の動揺に伴って伸縮するばね装置16に接続されている。
【0017】
前記フック着脱用シリンダ装置12にはピストンロッドの出退量を検出するストロークセンサ12aが、また前記ばね装置16には、ばねのストロークを測定するストロークセンサ16a及びストロークインジケータが設けられている。なお、図6中の9は、一方の転向リンクアーム1の一方側端部1aの動作を制限する動作制限ストッパである。
【0018】
上記係留装置における係留動作を図7に示す。
扉体3の倒伏に伴い、扉体係留ピン3cが係留フック5を押し下げるのと同時に、トルクアーム7のピン7aが一方の鉛直ロッド8aの長孔8aa内を下方に移動する((a)図参照))。
【0019】
扉体係留ピン3cが係留フック5を通過すると、係留フック5は、カウンタウエイト6の重量により、扉体係留ピン3cをかわして水平状態から少し下方に傾いた位置に戻る((b)図参照)。
【0020】
倒伏完了後、浮力室内に圧縮空気を供給するのと共に浮力室内の海水を排水することにより扉体3を浮上させる。この扉体3の浮上により、扉体係留ピン3cが係留フック5を押し上げ、扉体3の浮力を、トルクシャフト4、転向リンクアーム1、ロッド部材8、転向リンクアーム2等を介してばね装置16に伝達する((c)図参照)。作業者は、ばね装置16のストロークセンサ16a、またはロードセル15を監視し、所定の係留力が作用していることを確認して浮力室への給気を停止する。
【0021】
上記係留装置の場合、ロッド部材8の他端側と扉体3の動揺に伴って伸縮するばね装置16を接続するワイヤロープ14を、フック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドの先端に取り付けた滑車13を介して昇降動することで、ロッド部材8の伸びを補正する。
【0022】
ところで、上記一連の係留動作において、係留フックが扉体係留ピンによって一旦押し下げられた後、扉体係留ピンをかわして係留フックが再上昇する動作は、カウンタウエイトのみに依存している。従って、カウンタウエイトの重量は、係留フックの重量、及び軸受その他の抵抗力に勝るように決定する必要がある。
【0023】
しかしながら、水中(海中)環境において、軸受その他の抵抗力は、腐食、海棲生物の付着などの影響で増加し、その増加量を予測することは難しい。従って、確実な係留動作を維持するためには十分に余裕のある重量のカウンタウエイトを装備する必要があるが、カウンタウエイトの重量増加は係留装置が必要とする駆動力を増加させるために好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2010−133095号公報
【特許文献2】特開2011−111722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明が解決しようとする問題点は、係留時、扉体係留ピンに押し下げられた後に扉体係留ピンをかわして係留フックが再上昇する動作をカウンタウエイトのみに依存する場合、カウンタウエイトの重量を十分余裕を持って決定する必要があり、係留装置の駆動力が増加するという点である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、カウンタウエイトの重量を必要最低限に抑えつつ、軸受その他の抵抗力が腐食、海棲生物の付着などの影響で増加しても、確実に係留フックの再上昇が可能なようにすることを目的としたものである。
【0027】
すなわち、本発明は、
浮力を得た状態の扉体を水中で係留する水中設置フラップゲートの係留装置であって、
係留状態の前記扉体の側面に設置した扉体係留ピンと相対する位置に、軸中心周りの回転が自在なように設置したトルクシャフトと、
このトルクシャフトの、前記扉体係留ピンとの係合位置に突出状に設置した係留フックと、
この係留フックの前記扉体係留ピンへの係合を開放する方向に前記トルクシャフトを回転すべく、前記トルクシャフトに設置したカウンタウエイトと、
前記係留フックの下面に設けた当接部と一方端部が、前記扉体係留ピンと他方端部がそれぞれ相対し、中央部を支点として所定角度回転自在なように、前記係留フックの下方に設置した係留フック押し上げアームと、
前記扉体を係留する格納部において、係留状態にある扉体の裏面と相対する位置に設置した一方の転向リンクアームと、
前記格納部において、係留状態にある扉体裏面側の一方側外側に設置した他方の転向リンクアームと、
前記トルクシャフトに一端側を設置したトルクアームの他端側寄りの位置に一端側が接続され、他端側は前記両転向リンクアームを介して水面上に引き出されたロッド部材と、
このロッド部材の他端側近傍に設置され、ピストンロッドの先端に滑車を設置したフック着脱用シリンダ装置と、
一端側が前記ロッド部材の他端に接続され、他端側は前記滑車を介して扉体の動揺に伴って伸縮するばね装置と接続するワイヤロープを備え、
前記ロッド部材を構成する一方の鉛直ロッドは、前記トルクアームの他端側寄りの位置に枢支される一端側に長孔を、前記一方の転向リンクアームの一方側端部に枢支される他端側に球面ブッシュをそれぞれ有して、前記長孔に前記トルクアームの他端側寄りの位置に設置したピンを挿入し、
扉体の倒伏動作時、前記扉体係留ピンによる前記係留フック先端の押し下げ開始から前記係留フック先端が前記扉体係留ピンをかわすまでの間に、前記一方の鉛直ロッドは、球面ブッシュを支点として揺動しつつ前記ピンが前記長孔内を下方に移動する一方、前記扉体係留ピンが前記係留フックを通過した後に、前記係留フック押し上げアームは、他方端部が前記扉体係留ピンに押し下げられ、一方端部は当接部を押して係留フックを押し上げることを最も主要な特徴としている。
【0028】
本発明では、扉体の倒伏動作時、扉体係留ピンが係留フックを通過した後に、扉体の倒伏により係留フック押し上げアームの他方端部が扉体係留ピンによって押し下げられる一方、一方端部は当接部を押して係留フックを押し上げることで、係留フックの再上昇が確実に行える。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、扉体の倒伏動作時、係留フックの下方に設置した係留フック押し上げアームにより、軸受その他の抵抗力が腐食、海棲生物の付着などの影響で増加しても係留フックの再上昇が確実に行える。従って、カウンタウエイトの重量を必要最低限に抑えることができ、係留装置の駆動力を増加する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】係留中における本発明の係留装置を説明する図である。
図2】(a)は図1のA方向から見た扉体係留ピンと係留フック、係留フック押し上げアームの相対位置関係を説明する図、(b)は図1の矢視B−B図、(c)は図1の矢視C−C図である。
図3】扉体の倒伏時、扉体係留ピンによる係留フックの押し下げ時における位置関係を説明する図で、(a)は扉体係留ピンと係留フック押し上げアームの相対位置関係を、(b)はトルクアームのピンと一方の鉛直ロッドの長孔の相対位置関係を示した図である。
図4】扉体の倒伏時、扉体係留ピンをかわした係留フックが上昇した時における位置関係を説明する図2と同様の図である。
図5】扉体の係留完了時における位置関係を説明する図2と同様の図である。
図6】(a)は特許文献2で提案した係留装置を説明する図、(b)は(a)のD方向から見た扉体係留ピンと係留フックの相対位置関係を説明する図である。
図7】(a)〜(c)は特許文献2で提案した係留装置における扉体の倒伏に伴う扉体係留ピンと係留フックの相対位置関係を、順を追って説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明では、扉体の倒伏動作時、係留フックの再上昇を確実に行うようにするという目的を、扉体の倒伏により他方端部が扉体係留ピンによって押し下げられる一方、一方端部は当接部を押して係留フックを押し上げる係留フック押し上げアームを設置することで実現した。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図5を用いて詳細に説明する。
図1及び図2は係留中における本発明の係留装置を説明する図である。
【0033】
本発明の係留装置は、出願人が特許文献2で提案した係留装置の主要構造に、以下に説明する構成を追加したものである。なお、図1図5中、図6及び図7と同一符号は同一部分を示し、詳細な説明を省略する。
【0034】
図1及び図2において、21は、係留フック5の下方に設置した係留フック押し上げアームであり、中央部21aを支点とする所定角度の回転により、シーソーのように一方端部21bと他方端部21cが昇降動するようになされている。
【0035】
そして、係留フック押し上げアーム21の前記一方端部21bを、前記係留フック5の下面に、係留フック5の先端に向けて下がり勾配となるように設けた当接部5aと相対させている。また、係留フック押し上げアーム21の前記他方端部21cを、倒伏動作時における扉体係留ピン3cと相対させている。
【0036】
22は、係留フック押し上げアーム21の一方端部21b側に設置された回転制限ストッパであり、係留フック押し上げアーム21の一方端部21b側が回転制限ストッパ22に接触することにより、係留フック押し上げアーム21の一方端部21b側への回転範囲を制限している。
【0037】
上記係留フック押し上げアーム21を備えた本発明係留装置によって係留する水中設置フラップゲートとしては、例えば、港湾の底部に設けた格納部Sの基台に回転自在に枢支した基端側を支点として先端側が起伏する扉体3を備えたものが採用される。
【0038】
前記扉体3は、例えば頂部側に浮力室が設けられ、給気装置により前記浮力室に給気することによって、扉体3の浮上に必要な浮力を得るように構成されている。しかしながら、浮力を得た状態の扉体3を水中で係留するものであればその構成は特に問わない。
【0039】
また、水中設置フラップゲートの扉体3は、港口幅の広い水域に設置する場合は、幅方向に複数組の扉体ブロックを一定の間隔を存して並設し、隣接した扉体ブロック同士を例えばロープで連結した構成のものとする。
【0040】
上記本発明の係留装置では、格納部Sに係留した扉体3の上を波浪が通過した際に扉体3に生じる浮上力に起因する動揺を、ばね装置16のばねの伸縮により許容して波力を相殺する。また、ワイヤロープ14の伸びによる交換は水中作業が不要で、地上作業だけで済む。
【0041】
上記本発明の係留装置は、次に述べる操作によって、水中設置フラップゲートの扉体3の係留や係留の解除を行う。
【0042】
(係留の準備動作)
フック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドを突出させ、一方の転向リンクアーム1の一方側端部1aを動作制限ストッパ9に当接させる。
【0043】
その後、ばね装置16のストロークセンサ16aまたはロードセル15を監視しながら、扉体3の係留時の基準となる浮力が作用する時と同等の係留力(以下、所定係留力という。)が作用するまで、フック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドを突出させる。そして、その時のフック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドのストローク位置をストロークセンサ12aにより検出し、基準位置として記憶する。
【0044】
この時、動作制限ストッパ9と制御装置11の間の転向リンクアームおよびばね装置一式(一方の転向リンクアーム1、ロッド部材8b,8c、他方の転向リンクアーム2、ロードセル15、ワイヤロープ14、ばね装置16)は所定係留力相当が作用して伸びている状態である。
【0045】
一方の転向リンクアーム1と係留フック5の姿勢の相対関係は予め判っている。従って、記憶している前記基準位置における一方の転向リンクアーム1の姿勢で、一方の転向リンクアーム1が動作制限ストッパ9に接触している位置から係留フック5が水平状態となる時の相当位置までのストローク分相当量(所定のストローク相当量という。)だけ、フック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドを退入させる。
【0046】
上記状態で、フック着脱用シリンダ装置12のピストンロッドを所定のストローク相当量だけ退入させた時、伸ばされていた前記転向リンクアーム及びばね装置一式が縮み、その後一方の転向リンクアーム1の一方端部1aが動作制限ストッパ9から離れる。係留フック5は、前記転向リンクアーム及びばね装置一式の縮み相当分だけ、水平状態から下方に傾いた位置となる。これで、係留準備動作が完了する。
【0047】
(係留動作:図3図5参照)
上記係留準備操作を完了した状態で、扉体3の上端部に設けた排気弁を開放して、浮力室内の空気を排気しつつ、浮力室内に海水を入れて扉体3を倒伏させる。
【0048】
扉体3の倒伏に伴い、扉体3に設けた扉体係留ピン3cが係留フック5を押し下げる。係留フック5は、扉体係留ピン3cをかわすまで、押し下げられる(図3(a))。同時に、トルクアーム7のピン7aが一方の鉛直ロッド8aの長孔8aa内を下方に移動する(図3(b))。この間、一方の鉛直ロッド8aは球面ブッシュ8abを支点として揺動するので、トルクアーム7のピン7aの前記長孔8aa内の移動は円滑に行われる。
【0049】
扉体係留ピン3cが係留フック5を通過すると、一方端部21b側が回転制限ストッパ22に接触した状態の係留フック押し上げアーム21の他方端部21cを、扉体係留ピン3cが押し下げる。
【0050】
この押し下げにより係留フック押し上げアーム21は中央部21aを支点としてシーソー運動して一方端部21bが上昇し、当接部5aを押して係留フック5を押し上げる。押し上げられた係留フック5は、扉体係留ピン3cをかわして水平状態から少し下方に傾いた位置に戻る(図4(a))。この係留フック5の押し上げは、前記カウンタウエイト6による係留フック5の押し上げと同時に行われる(図4(b))。
【0051】
倒伏完了後、浮力室内に圧縮空気を供給し、浮力室内の海水を排水する。これにより扉体3が浮上し、扉体係留ピン3cが前記係留フック5を押し上げ、扉体3の浮力を伝達する。同時に、ロッド部材8、一方の転向リンクアーム1、他方の転向リンクアーム2、ワイヤロープ14に扉体3の浮力による係留力が作用してばね装置16のばねが伸ばされ、ばねの変位分だけ係留フック5は上方へ移動する。
【0052】
その後、ばね装置16のストロークセンサ16aまたはロードセル15を監視し、所定係留力が作用していることを確認して浮力室への給気を停止する。このとき、係留フック5は水平状態となる(図5(a))。
【0053】
以上の一連の係留動作に関しては地上に設置する制御装置11の動きは不要であるため、フック着脱用シリンダ装置12のストロークを低減することができる。
【0054】
また、カウンタウエイト6で転向リンクアーム1,2やロッド部材8を動かす必要が無いので、カウンタウエイト6の重量を軽減することができる。その際、係留フック押し上げアーム21の作用により係留フック5の再上昇が確実に行えるので、軸受その他の抵抗力が腐食、海棲生物の付着などに影響を及ぼされることがない。従って、カウンタウエイト6の重量を必要最低限に抑えることができ、係留装置の駆動力を増加する必要もなくなる。
【0055】
また、係留動作前に、毎回、上記一連の係留準備動作をしておけば、ロッド部材8、一方の転向リンクアーム1、他方の転向リンクアーム2に伸びやたわみ等の変化があった場合でも、水中の係留フック5の姿勢を目視で確認することなく、常にその姿勢を保って正常な係留状態を維持することができる。
【0056】
(扉体3の浮上操作時)
フック着脱用シリンダ装置12の油圧力を開放して保持力を緩める。これにより、他方の鉛直ロッド8c、他方の転向リンクアーム2、水平ロッド8b、一方の転向リンクアーム1、一方の鉛直ロッド8a、トルクアーム7を介して係留フック5の係留力が緩んで扉体3の浮力及びカウンタウエイト6の力により係留フック5が押し上げられ、扉体係留ピン3cとの係合を解除する。
【0057】
その後、ばね装置16のばねが縮んでいることを確認すると共に、ロードセル15により係留力がないことを確認する。
【0058】
上記本発明の係留装置では、ばね装置16によって扉体3の動揺を許容して係留する。この場合、扉体3が上方に変位することで扉体3の下側の空間が負圧になり、扉体3の上面との圧力差によって扉体3に対して下向きに作用する力が発生する。
【0059】
これにより、波によって生じる扉体3の回転軸周りのモーメントとしての作用荷重を全て係留機構が負担しなければならない、扉体3を固定して係留する場合に比べて、扉体3の係留に必要な荷重が少なくなる。
【0060】
本発明は、前記の例に限るものではなく、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
S 格納部
1 一方の転向リンクアーム
1a 一方側端部
2 他方の転向リンクアーム
3 扉体
3a 裏面
3b 側面
3c 扉体係留ピン
4 トルクシャフト
5 係留フック
5a 当接部
6 カウンタウエイト
7 トルクアーム
7a ピン
8 ロッド部材
8a 一方の鉛直ロッド
8aa 長孔
8ab 球面ブッシュ
8b 水平ロッド
8c 他方の鉛直ロッド
11 制御装置
12 フック着脱用シリンダ装置
13 滑車
14 ワイヤロープ
16 ばね装置
21 係留フック押し上げアーム
21a 中央部
21b 一方端部
21c 他方端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7