特許第6043264号(P6043264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043264
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】入力装置に用いられる電極
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   G06F3/041 400
   G06F3/041 495
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-205502(P2013-205502)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-69573(P2015-69573A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100125173
【弁理士】
【氏名又は名称】竹岡 明美
(72)【発明者】
【氏名】奥野 博行
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕史
(72)【発明者】
【氏名】越智 元隆
(72)【発明者】
【氏名】志田 陽子
【審査官】 萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/065292(WO,A1)
【文献】 特開2013−156975(JP,A)
【文献】 特開2012−088836(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090446(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/117692(WO,A1)
【文献】 特開2009−259063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の上に形成される電極であって、
前記電極は、透明基板の反対側(表面側)から順に、
透明導電膜からなる第1層、
Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種からなる第2層、および
反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜からなり、MoまたはMo合金の少なくとも一種で構成される第3層の積層構造を有することを特徴とする入力装置に用いられる電極。
【請求項2】
前記透明基板の直上に前記第3層を有するものである請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記第2層と前記第3層との間に、透明導電膜からなる第4層を更に有する請求項1記載の電極。
【請求項4】
前記第2層と前記第3層との間に、透明導電膜からなる第4層を更に有する請求項2に記載の電極。
【請求項5】
前記第4層の透明導電膜の膜厚が6〜100nmである請求項3または4に記載の電極。
【請求項6】
前記透明基板と前記第3層との間に、前記第3層よりも電気抵抗率が低い金属膜からなる第5層を更に有する請求項1または3に記載の電極。
【請求項7】
前記第5層の金属膜が、Al、Al合金、Cu、Cu合金、Ag、およびAg合金よりなる群から選択される少なくとも一種で構成される請求項に記載の電極。
【請求項8】
前記第2層の窒化物中に含まれる窒素量が、表面側と透明基板側とで異なるものである請求項1〜のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
前記第1層の透明導電膜が、InまたはZnの少なくとも一種を含む請求項1〜のいずれかに記載の電極。
【請求項10】
前記第2層のMo合金が、Nb、W、Ti、V、Crの少なくとも一種を含む請求項1〜のいずれかに記載の電極。
【請求項11】
前記第1層の透明導電膜の膜厚が35〜100nmである請求項1〜10のいずれかに記載の電極。
【請求項12】
前記第2層の窒化物の膜厚が5〜80nmである請求項1〜11のいずれかに記載の電極。
【請求項13】
前記第3層の金属膜の膜厚が20〜200nmである請求項1〜12のいずれかに記載の電極。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の電極を有する入力装置。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の電極を有するタッチパネルセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力装置に用いられる電極、およびその製造方法に関する。以下では、入力装置の代表例としてタッチパネルセンサーを例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルセンサーは、液晶表示装置や有機EL装置などの表示装置の表示画面上に入力装置として貼り合わせて使用される。タッチパネルセンサーは、その使い勝手の良さから、銀行のATMや券売機、カーナビ、PDA(Personal Digital Assistants、個人用の携帯情報端末)、コピー機の操作画面などに使用されており、近年では携帯電話やタブレットPCに至るまで幅広く使用されている。その入力ポイントの検出方式には、抵抗膜方式、静電容量方式、光学式、超音波表面弾性波方式、圧電式等が挙げられる。これらのうち、携帯電話やタブレットPCには、静電容量方式が、応答性が良くコストがかからず構造が単純である等の理由から好適に用いられている。
【0003】
静電容量方式のタッチパネルセンサーは、ガラス基板などの透明基板上に、二種類の透明導電膜が直交して配置され、その表面に保護ガラスなどのカバー(絶縁体)が被覆された構造を有している。上記構成のタッチパネルセンサー表面を指やペン等でタッチすると、両透明導電膜間の静電容量が変化するため、当該静電容量を介して流れる電流量の変化をセンサーで感知することにより、タッチされた箇所を把握することができる。
【0004】
上記構成のタッチパネルセンサーに用いられる透明基板として、タッチパネルセンサー専用の基板を用いても良いが、表示装置に用いられる透明基板を用いることもできる。具体的には、例えば、液晶表示装置に用いられるカラーフィルタ基板や、有機EL装置に用いられるガラス基板などが挙げられる。このような表示装置用透明基板の使用により、タッチパネルセンサーに要求される特性(例えば、ディスプレイのコントラスト比の向上、輝度の向上、スマートフォンなどの薄型化など)に対応可能となる。
【0005】
図2に、タッチパネルセンサー用電極を、図1に示す液晶表示装置のカラーフィルタ基板(CF基板)に搭載したときの概略断面図を示す。図2では、ブラックマトリックスのパターンに併せて電極が配置されている。最近では、バックライトからの光の透過率向上のため、上記図2に示す電極として、低抵抗な金属電極の使用が検討されている。
【0006】
しかし、金属電極は反射率が高く、使用者の肉眼で見える(視認される)ため、コントラスト比が低下するという問題がある。そのため、金属電極を用いる場合には、金属膜に黒色化処理を施して反射率を低減させるなどの方法が採用されている。
【0007】
例えば特許文献1には、導電性透明パターンセルを相互接続するブリッジ電極における視認性の問題を解決するため、導電性パターンセルに形成される絶縁層上に、黒色の導電材料を用いてブリッジ電極を形成する方法が記載されている。具体的には、ブリッジ電極として、Al、Au、Ag、Sn、Cr、Ni、Ti又はMgの金属を、薬品との反応により酸化物、窒化物、フッ化物などに黒色化させる方法が例示されている。しかし、特許文献1では、金属の黒色化処理によるブリッジ電極の反射率低減化技術が開示されているに過ぎず、電気抵抗率の低減には全く留意していない。そのため、上記例示のなかには、金属の酸化物のような高電気抵抗率のものも含まれており、低電気抵抗率配線用電極に適用することは出来ない。また、上記特許文献1には、Agの窒化物やMgの酸化物などのように反応性が高く危険な物質も含まれており、実用性に乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−127792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静電容量方式のタッチパネルセンサーなどに代表される入力装置に用いられる電極であって、電気抵抗率が低く、且つ、反射率が低い新規な電極;およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明に係る静電容量方式の入力装置に用いられる電極は、透明基板の上に形成される電極であって、前記電極は、透明基板の反対側(表面側)から順に、透明導電膜からなる第1層、Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種からなる第2層、および反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜からなる第3層の積層構造を有するところに要旨を有する。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3層の金属膜は、MoまたはMo合金の少なくとも一種で構成される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2層と前記第3層との間に、透明導電膜からなる第4層を更に有する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、上記透明基板と前記第3層との間に、前記第3層よりも電気抵抗率が低い金属膜からなる第5層を更に有する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、上記第5層の金属膜は、Al、Al合金、Cu、Cu合金、Ag、およびAg合金よりなる群から選択される少なくとも一種で構成される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2層の窒化物中に含まれる窒素量は、表面側と透明基板側とで異なる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1層の透明導電膜は、InまたはZnの少なくとも一種を含む。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2層のMo合金は、Nb、W、Ti、V、Crの少なくとも一種を含む。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1層の透明導電膜の膜厚は35〜100nmである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2層の窒化物の膜厚は5〜80nmである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3層の金属膜の膜厚は20〜200nmである。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記第4層の透明導電膜の膜厚は6〜100nmである。
【0022】
本発明には、上記のいずれかに記載の電極を有する入力装置も含まれる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、上記入力装置はタッチパネルセンサーである。
【0024】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る電極の製造方法は、窒素ガスを含む反応性スパッタリング法によって上記第2層の窒化物を成膜するところに要旨を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る積層構造の電極では、Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種からなる金属膜を第2層として用いているため、金属膜本来の低電気抵抗率だけでなく、低反射率も両方達成できる。よって、上記金属膜(第2層)の上(表面側)に透明導電膜を有し、当該第2層の下(透明基板側)に所定の反射率と透過率を有する金属膜(第3層)を有する積層構造の本発明電極を、入力装置用電極として用いれば、透明導電膜単独では不可能であった低電気抵抗率と、金属膜単独では不可能であった低反射率を兼ね備えた電極を備えた入力装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、一般的な液晶表示装置の構成を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は、入力装置用電極をカラーフィルタ基板上に適用したときの構成を模式的に示す概略断面図である。
図3図3は、本発明に係る電極の構成(表面側から順に、第1層、第2層、第3層の三層構造)を模式的に示す概略断面図である。
図4図4は、本発明に係る電極の他の構成(表面側から順に、第1層、第2層、第4層、第3層の四層構造)を模式的に示す概略断面図である。
図5図5は、本発明に係る電極の他の構成(表面側から順に、第1層、第2層、第3層、第5層の四層構造)を模式的に示す概略断面図である。
図6図6は、本発明に係る電極の他の構成(表面側から順に、第1層、第2層、第4層、第3層、第5層の五層構造)を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、入力装置に用いられる金属膜を含む電極であって、低電気抵抗率、且つ、低反射率の電極を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、透明基板の反対側(表面側)から順に、透明導電膜からなる第1層、Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種からなる第2層、および反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜からなる第3層の積層構造の電極を用いれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
以下、図3図6を参照しながら、本発明に係る電極の好ましい実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の電極はこれらの図に限定されない。例えば図3図6では、液晶表示装置への適用を考慮して、透明基板としてCF基板を用いたが、これに限定されない。液晶表示装置でなく有機EL表示装置を用いる場合は、CF基板は不要な場合が多いため、透明基板としてカバーガラスのようなガラス基板などを用いることができる。本発明に用いられる透明基板の種類は後に詳述する。
【0029】
(1)第1の態様:第1層〜第3層からなる三層構造の電極
図3に示す電極は、本発明に係る電極の基本構成を示すものであり、透明基板の反対側(表面側)から順に、透明導電膜からなる第1層、Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種からなる第2層、および反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜からなる第3層の積層構造(三層構造)を有している。ここで「三層構造」は、上述した第1層、第2層、第3層の合計三層で構成されているという意味であって、例えば以下に記載するように、第2層が二層以上の複数層で構成されている態様のものも上記「三層構造」に含む。以下、後記する「四層構造」および「五層構造」も同様である。
【0030】
第1層は透明導電膜で構成される。これにより、低反射率が得られる。上記透明導電膜としては、本発明の技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されないが、InまたはZnの少なくとも一種を含むことが好ましい。例えば、加工性なども考慮すると、In−Zn−O、Zn−Al−O、Zn−O、In−Oなどが、より好ましい。
【0031】
透明導電膜形成による低反射率効果を有効に発揮させるためには、第1層の膜厚を35nm以上とすることが好ましい。より好ましくは45nm以上である。しかし、第1層の膜厚が100nmを超えると、反射率が上昇し、エッチング残渣を招く虞があるため、100nm以下とすることが好ましい。より好ましくは80nm以下である。
【0032】
第2層は、Moの窒化物またはMo合金の窒化物の少なくとも一種で構成され、本発明を最も特徴付ける層である。上記化合物の使用により、金属材料の使用による低電気抵抗率を発揮させつつ、反射率も低減することができる。これに対し、特許文献1のように金属の酸化物を用いると、反射率を低減できたとしても、電気抵抗率が増加してしまう。また、本発明において金属材料のうち特にMoに着目したのは、低電気抵抗率のみならず、ウェットエッチング加工性にも優れるからである。すなわち、Moの窒化物またはMo合金の窒化物を用いることにより、低電気抵抗率に加えて低反射率、更には高加工性の特性が発揮される。
【0033】
本明細書において「窒化物としては、所望の効果が有効に発揮されるよう、MoまたはMo合金中に少なくとも窒素を含有していれば良く、必ずしも、化学両論組成を満足する窒化物である必要はない。例えばMoの窒化物をMoNxで表した場合、xは約0.1〜0.95であっても良い。
【0034】
上記Mo合金は、Nb、W、Ti、V、の少なくとも一種を含むことが好ましく、例えば、Mo−Nb合金、Mo−W合金、Mo−Ti合金、Mo−V合金、Mo-Cr合金などが挙げられる。ウェットエッチング加工性などを考慮すると、より好ましくはMo−Nb合金である。
【0035】
上記第2層の膜厚は、低反射率の観点から、5nm以上であることが好ましい。より好ましくは10nm以上である。しかし、第2層の膜厚が80nmを超えると、反射率が上昇するほか、生産性の低下を招く虞があるため、第2層の膜厚を80nm以下とすることが好ましい。より好ましくは50nm以下である。
【0036】
上記第2層は、上記要件を満足する限り、一種類のみで構成されていても良いし、二種類以上で構成されていても良い。具体的には、上記第2層は、Moの窒化物(一種類)のみで構成されていても良いし、Mo合金の窒化物(一種類)のみで構成されていても良い。或いは、上記第2層は、Moの窒化物とMo合金の窒化物(二種類以上)で構成されていても良い。或いは、上記第2層は、Mo合金の種類が異なる二種以上のMo合金窒化物で構成されていても良い。
【0037】
また、上記第2層は、上記要件を満足する限り、単一の層で構成されていても良いし、二層以上の複数層で構成されていても良い。複数層の例としては、複数の種類を積層する態様(例えば、Moの窒化物と、Mo−Nb合金の窒化物を二層積層させる態様)のほか、同じ種類からなるが窒素含有量の異なるものを積層する態様(例えば、窒素含有量の多いMo−Nb合金の窒化物と、窒素含有量の少ないMo−Nb合金を二層積層させる態様)などが挙げられる。
【0038】
また、上記第2層中の窒素含有量は、第2層内の膜厚方向において、一定であっても良いし、変化しても良い(すなわち、濃度分布を有していても良い)。本発明では、第2層中の窒素含有量が表面側と透明基板側で異なることが好ましい。例えば、透明基板側の窒素含有量に比べて、表面側の窒素含有量を少なくすることにより、光の吸収を増やす(反射率を低減させる)ことが可能である。
【0039】
第3層は、反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜で構成される。第3層は、積層の電極構造としたときに所望の低電気抵抗率を確保するために必要である。更に本発明では、上記第1層と第2層のいずれも反射率が低いため、第2層を透過した光が透明基板まで達するのを防止するためにも必要であり、そのため、反射率が40%以上、透過率が10%以下の金属膜を設置する必要がある。よって、本発明では、例えば、Ag薄膜などの高透過率の金属膜は第3層に採用できない。
【0040】
上記要件を満足する金属膜として、例えば、MoまたはMo合金、CrまたはCr合金などが挙げられる。後記するように本発明の電極を構成する各層は、好ましくはスパッタリング法によって成膜されるため、製造効率などを考慮すると、第3層は、第2層と同じ金属(すなわち、MoまたはMo合金の少なくとも一種)で構成されていることが好ましい。第3層に好ましく用いられるMo合金の種類は、前述した第2層と同じである。
【0041】
第3層の膜厚は、低電気抵抗率を得るため、20nm以上であることが好ましい。より好ましくは25nm以上である。しかし、第3層の膜厚が200nmを超えると、加工性の低下や基板の反りなどの虞があるため、第3層の膜厚を200nm以下とすることが好ましい。より好ましくは150nm以下である。
【0042】
本発明に用いられる透明基板は、本発明の技術分野に通常用いられ、透明性を有するものであれば特に限定されず、例えば、カラーフィルタ基板やカバーガラスを構成する、ガラス基板、フィルム基板、石英基板などが挙げられる。
【0043】
本発明の電極は上記(1)に記載したとおり、第1層〜第3層の三層構造を基本構成とするが、所望とする低電気抵抗率、低反射率の更なる向上を目的として、例えば、四層以上の構造を有していても良い。以下に、四層以上の構造からなる本発明電極の、好ましい実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
(2)第2の態様:四層構造の電極(その1)/第1層〜第4層の四層構造
図4に示す電極は、本発明に係る電極の好ましい実施形態の一つであり、上述した図3の電極において、第2層と第3層との間に透明導電膜からなる第4層を介在させたもの(四層構造)である。上記第4層の透明導電膜を介在させることにより、反射率が一層低減する。
【0045】
第4層による上記作用を有効に発揮させるためには、第4層の膜厚を6nm以上とすることが好ましい。より好ましくは10nm以上である。しかし、第4層の膜厚が100nmを超えると、反射率の上昇やエッチング残渣を招く虞があるため、第4層の膜厚を100nm以下とすることが好ましい。より好ましくは80nm以下である。
【0046】
上記第4層の透明導電膜は、前述した(1)の第1層と同じであり、説明を省略する。なお、第4層と、前述した第1層とは、透明導電膜である限り、同じ種類で構成されていても良いし、異なる種類で構成されていても良い。
【0047】
また、第4層以外の、第1層〜第3層の構成(種類および好ましい膜厚)は上記(1)と同じであり、説明を省略する。
【0048】
(3)第3の態様:四層構造の電極(その2)/第1層〜第3層、第5層の四層構造
図5に示す電極は、本発明に係る電極の他の好ましい実施形態の一つであり、上述した図3の電極において、第3層と透明基板(図4ではCF基板)との間に、上記第3層よりも電気抵抗率が低い金属膜からなる第5層を介在させたもの(四層構造)である。上記第5層の金属膜を介在させることにより、電気抵抗率が一層低減する。
【0049】
上記第5層を構成する金属膜の電気抵抗率は、Moの電気抵抗率(約12μΩ・cm)以下であることが好ましい。このような金属膜の種類として、例えば、AlまたはAl合金(Al−Nd合金、Al−Ni合金など)、CuまたはCu合金(Cu−Mn合金、Cu−Ni合金など)、AgまたはAg合金(Ag−Bi合金、Ag−Pd合金、Ag−In合金など)などが挙げられる。
【0050】
第5層による上記作用を有効に発揮させるためには、第5層の膜厚を50nm以上とすることが好ましい。より好ましくは100nm以上である。しかし、第5層の膜厚が500nmを超えると、サイドエッチの増大による加工性の低下などを招く虞があるため、第5層の膜厚を500nm以下とすることが好ましい。より好ましくは400nm以下である。
【0051】
なお、第5層以外の、第1層〜第3層の構成(種類および好ましい膜厚)は上記(1)と同じであり、説明を省略する。
【0052】
(4)第4の態様:第1層〜第5層からなる五層構造の電極
図6に示す電極は、本発明に係る電極の他の好ましい実施形態の一つであり、上述した図3の電極において、第2層と第3層との間に透明導電膜からなる第4層を介在させると共に、第1層と第3層との間に、第3層よりも低電気抵抗率の金属膜からなる第5層を介在させたもの(五層構造)である。上記第4層の透明導電膜、および上記第5層の低電気抵抗率金属膜を介在させることにより、電極の低反射率化、低電気抵抗率化が一層促進される。
【0053】
上記第4層の構成(種類および好ましい膜厚)は上記(2)に記載したとおりであり、上記第5層の構成(種類および好ましい膜厚)は上記(3)に記載したとおりであり、説明を省略する。また、第4層および第5層以外の、第1層〜第3層の構成(種類および好ましい膜厚)は上記(1)と同じであり、説明を省略する。
【0054】
以上、本発明の電極について詳述した。
【0055】
本明細書において「電極」は電極形状に加工する前の配線も含む。上述したように本発明の電極は、低い電気抵抗率と低い反射率を兼ね備えているため、入力装置の入力領域に用いられる電極のみならず、当該電極を延長してパネル外周部の配線領域にも適用可能である。
【0056】
本発明の電極が適用される入力装置には、タッチパネルなどのように表示装置に入力手段を備えた入力装置;タッチパッドのような表示装置を有さない入力装置の両方が含まれる。具体的には上記各種表示装置と位置入力手段を組み合わせ、画面上の表示を押すことで機器を操作する入力装置や、位置入力手段上の入力位置に対応して別途設置されている表示装置を操作する入力装置の電極にも本発明の電極を用いることができる。
【0057】
次に、本発明の電極を製造する方法について説明する。
【0058】
上述した積層構造を有する電極を製造するに当たっては、細線化や膜内の合金成分の均一化、更には添加元素量の制御のし易さなどの観点から、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法にて成膜することが好ましい。
【0059】
特に本発明の電極を特徴付ける第2層の窒化物(Moの窒化物またはMo合金の窒化物)を成膜するには、生産性および膜質制御などの観点から、窒素ガスを含む反応性スパッタリング法を採用することが好ましい。すなわち、本発明に係る電極の製造方法は、窒素ガスを含む反応性スパッタリング法によって上記第2層を構成するMoの窒化物またはMo合金の窒化物を成膜するところに特徴がある。
【0060】
上記第2層の窒化物を成膜するための反応性スパッタリング法の条件は、例えば、使用するMo合金の種類や導入したい窒素層などに応じて適切に制御すれば良いが、以下のように制御することが好ましい。
・基板温度:室温〜400℃
・成膜温度:室温〜400℃
・雰囲気ガス:窒素ガス、Arガス
・成膜時の窒素ガス流量:Arガスの5〜50%
・スパッタパワー:200〜300W
・到達真空度:1×10-6Torr以下
【0061】
なお、第2層の膜厚方向における窒素含有量を変化させる場合は、例えばArガスと窒素ガスの比率を変えるなどして行なえば良い。
【0062】
使用するスパッタリングターゲットは、成膜したい第2層に対応するMoまたはMo合金のスパッタリングターゲットを用いれば良い。なお、スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒状など)に加工したものを用いることができる。
【0063】
但し、第2層の成膜方法は上記方法に限定されない。例えば、予め窒化処理された、Mo窒化物またはMo合金窒化物のスパッタリングターゲットを用い、Ar等の希ガス元素のみを含む雰囲気(窒素ガスの導入なし)でスパッタリングし、所望とする第2層を成膜しても良い。
【0064】
本発明は上記第2層の成膜方法に特徴があり、それ以外の各層の成膜方法は、本発明の技術分野において通常用いられる方法を適宜採用することができる。
【0065】
上記方法によれば、主成分である金属(合金)をマトリックスとして、数十nm〜数百μmオーダー径の金属窒化物がおおむね、数十nm以上、数百nm以下の間隔で表面に形成されていると推察される。すなわち、上記方法により、金属(合金)薄膜内で自己組織化的に積層型電極構造の低反射率を実現できたと考えられる。そのため、例えば、電極薄膜の表面に、入射光の波長よりも短い周期で錘形を配列させて反射防止効果を得る所謂モスアイ(Moth Eye)構造などを形成するに当たり、複雑で精緻な金型の使用は不要であるというメリットがある。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
実施例1
本実施例では、表1に示す積層構造(三層構造〜五層構造)の試料を成膜し、反射率および電気抵抗率を測定した。以下では、透明基板側から順に、第5層、第3層、第4層、第2層、第1層を成膜する方法を順番に説明するが、対応する層がない場合(例えば表1のNo.1は、第5層および第4層なし)は、その方法を行なわなかったものとする。
【0068】
(1)試料の作製
(1−1)必要に応じて、第5層の成膜
まず、透明基板として無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を用い、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1に示す金属膜(第5層)を成膜した。なお、表1の第5層の欄において、「Al−2Nd」とは、Al−2原子%Nd合金を意味する。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10-6Torrに調整してから、上記Al合金膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
【0069】
(1−2)第3層の成膜
次に、上記第5層の表面に(第5層を成膜しない場合は、上記透明基板の表面に)、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1に示すMoまたはMo合金膜(第3層)を成膜した。なお、表1の第3層の欄において、「Mo−10Nb」とは、Mo−10原子%Nb合金を意味する。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10-6Torrに調整してから、各MoまたはMo合金膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
【0070】
(1−3)必要に応じて、第4層の成膜
必要に応じて、上記第3層の上に第4層の透明導電膜を成膜した。第4層を有しない場合(例えば表1のNo.1)は、この成膜を行なわなかった。
【0071】
詳細には、上記のようにして第3層のMoまたはMo合金膜を成膜した後、引続き、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記のスパッタリング条件で透明導電膜(第4層)を成膜した。透明導電膜の成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10-6Torrに調整してから、透明導電膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用いて行なった。
(スパッタリング条件)
・Arガス流量:30sccm
・O2ガス流量:0.8sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
【0072】
(1−4)第2層の成膜
上記第3層の上(または、上記第4層を成膜したときは上記第4層の上)に、引続き、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記のスパッタリング条件で、表1に示すMoの窒化物またはMo合金の窒化物(第2層)を成膜した。本実施例では、第2層成膜時のArガスと窒素ガスの比率は一定とした(第2層中の膜厚方向窒素含有量は変化せず、一定である)。なお、表1の第2層の欄において、「Mo−10Nb−N」とは、Mo−10原子%Nb合金の窒化物を意味する。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10-6Torrに調整してから、上記窒化物と同一組成のMoまたはMo合金を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、反応性スパッタリング法によりスパッタリングを行なった。
(反応性スパッタリング条件)
・Arガス流量:26sccm
・Nガス流量:4sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
【0073】
(1−5)第1層の成膜
上記のようにして第2層のMo窒化物またはMo合金窒化物を成膜した後、引き続き、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記のスパッタリング条件で、透明導電膜(第1層)を成膜した。透明導電膜の成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10-6Torrに調整してから、透明導電膜と同一組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス流量:8sccm
・Oガス流量:0.8sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
【0074】
このようにして得られた積層構造の反射率および電気抵抗率を以下のようにして測定した。
【0075】
(2)反射率の測定
反射率は、JIS R 3106に基づき、D65光源での波長380〜780nmの光によって可視光反射率を分光光度計(日本分光株式会社製:可視・紫外分光光度計「V−570」)を用いて測定した。具体的には、基準ミラーの反射光強度に対する、上記試料の反射光強度(測定値)を「反射率」(=[試料の反射光強度/基準ミラーの反射光強度]×100%)として算出した。本実施例では、λ=450nm、550nm、650nmの各波長における上記試料の反射率を測定したとき、いずれの波長域においても全て反射率が30%以下のものを合格(低反射率に優れる)、1つでも30%超のものを不合格と評価した。
【0076】
(3)電気抵抗率の測定
上記試料に10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成し、4端子法で電気抵抗率を測定した。本実施例では、電気抵抗率が50μΩ・cm以下のものを合格(低電気抵抗率に優れる)、50μΩ・cm超のものを不合格と評価した。
【0077】
これらの結果を表1に併記する。なお、表1中、「第3層」の欄に記載の金属膜はいずれも、本発明で規定する「反射率が40%以上、透過率が10%以下」の要件を満足する。また、表1中、「第5層」の欄に記載の金属膜(No.18のAl−Nd合金膜)は、本発明で規定する「第3層(No.18ではMo膜)よりも電気抵抗率が低い」という要件を満足する。
【0078】
【表1】
【0079】
表1のNo.1〜18はいずれも、本発明の要件を満足する本発明例であり、反射率および電気抵抗率の両方を低く抑えることができた。
【0080】
これに対し、表1のNo.19〜23は、以下の不具合を有している。
【0081】
No.19は第1層(透明導電膜)の膜厚が本発明の好ましい下限を外れて薄いため、所定の低反射率が得られなかった。
【0082】
No.20は第2層(Moの窒化物/Mo合金の窒化物)の膜厚が本発明の好ましい下限を外れて薄いため、やはり、所定の低反射率が得られなかった。一方、No.21は上記第2層の膜厚が本発明の好ましい上限を超えて厚いため、所定の低反射率が得られなかった。
【0083】
No.22は第3層(Mo/Mo合金)の膜厚が本発明の好ましい下限を外れて薄いため、所定の低抵抗率が得られなかった。
【0084】
No.23は、第2層が本発明の要件を満足しないAl−N合金で構成された例であり、反射率および電気抵抗率の両方が上昇した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6