特許第6043269号(P6043269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043269絶縁性に優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043269
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】絶縁性に優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20161206BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20161206BHJP
   C25D 11/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C25D11/18 312
   C25D11/06 C
   C25D11/18 308
   C25D11/20 302
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-239178(P2013-239178)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-98627(P2015-98627A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】高田 悟
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 角王
(72)【発明者】
【氏名】慈幸 範洋
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−132731(JP,A)
【文献】 特開平08−144089(JP,A)
【文献】 特開平06−088292(JP,A)
【文献】 特開2002−241992(JP,A)
【文献】 特開2001−172795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基材と、この基材表面に形成された厚みDが8μm以上150μm以下の陽極酸化皮膜とから構成され、
前記陽極酸化皮膜は、Pを含有し、その任意断面での最大長さが4μm以上の金属間化合物の個数が1mm2当たり40個以下であり、
前記陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造になっていることを特徴とする絶縁性に優れたエレクトロニクス絶縁部材用陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜中に含まれるPの平均含有量(CおよびOを除いた元素に対する割合)が、陽極酸化皮膜表面から深さ5μmの位置で0.003原子%以上である請求項1に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項3】
前記金属間化合物の1mm2当たりの個数が15個以下である請求項1または2に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項4】
前記陽極酸化皮膜表面からの絶縁物における厚みが10μm以下であり、且つ前記陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)が2以上である請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項5】
前記絶縁物は、珪素酸化物、シロキサン結合を含む化合物、ポリシラザン、アルキド樹脂、フッ素樹脂およびエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含む化合物、またはこれら化合物の基本骨格の少なくともいずれかを含む化合物である請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項6】
前記アルミニウム合金基材は、Cu:0.02%以上4.0%以下(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下を満足するものである請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項7】
前記アルミニウム合金基材は、更にMg:3.5%を超え6.5%以下で含有する請求項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項8】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、半導体素子が接合される請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項9】
前記金属間化合物は、Al−Fe系金属間化合物、Mg−Si系金属間化合物、及び非固溶Cuよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1〜8のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項10】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を挟んで半導体素子が接するように構成される請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項11】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、冷却溶液が接するように構成される請求項1〜のいずれかに記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス向け絶縁部材に有用な陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものである。例えば、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶に関する絶縁部材に適用される陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものであり、特に高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)、および良好な放熱性を両立した陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶に適用される部材には、これらの素子から多くの熱が発生することから、高い絶縁性と共に放熱性が良好であることが要求される。こうした特性が要求される部材(以下、こうした部材を「絶縁部材」と呼ぶ)の素材としては、これまでアルミナ(Al23)、窒化珪素(Si34)、窒化アルミ(AlN)等のセラミックスが使用されてきた。しかしながら、これらの素材は、非常に高価であり、またセラミックスであるがゆえに割れが発生する恐れがある。
【0003】
低コスト、高い絶縁性および良好な放熱性を具備する素材として、高い絶縁性および良好な放熱性を有するフィラーを含む樹脂を金属基板表面にコートした絶縁層付基板や、陽極酸化皮膜を絶縁層とする試みがなされている。
【0004】
絶縁部材に要求される絶縁性に関しては、耐電圧性が高く、体積抵抗率(電気抵抗率)が大きいことが必要である。また放熱性の観点からは、皮膜自体の厚みが薄いほど放熱性が向上することから、単位膜厚当たりの耐電圧(所定電流が流れるときの電圧値:以下、単に「耐電圧」と呼ぶことがある)が高いことが望ましい。
【0005】
アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成した部材(陽極酸化皮膜処理アルミニウム合金部材)を、絶縁部材として用いることも検討されている。また陽極酸化皮膜処理アルミニウム合金部材の特性を改善するための技術についても、これまでに様々提案されている。
【0006】
このような技術として、例えば特許文献1には、金属基材として用いるアルミニウム合金の純度を上げることによって、基材中の金属間化合物の個数を減らし、部材の耐電圧性を改善する技術が提案されている。しかしながら、このような陽極酸化処理アルミニウム合金部材は、陽極酸化皮膜のみで十分な体積抵抗率が得られず、絶縁性が低下することが懸念される。
【0007】
一方、特許文献2には、アルミニウム合金中の金属Siをできるだけ低減することによって、耐電圧性を改善した太陽電池用絶縁層付き金属基材が提案されている。この技術においても、基材表面には陽極酸化皮膜だけが形成されたものであり、高電圧側で漏れ電流が増加しやすく、十分な体積抵抗率が得られず、絶縁性が低下しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−241992号公報
【特許文献2】特開2010−283342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)および良好な放熱性を両立する陽極酸化処理アルミニウム合金部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成することのできた本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材とは、アルミニウム合金基材と、この基材表面に形成された厚みDが8μm以上150μm以下の陽極酸化皮膜とから構成され、前記陽極酸化皮膜は、Pを含有し、その任意断面での最大長さが4μm以上の金属間化合物の個数が1mm2当たり40個以下であり、前記陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造になっていることを特徴とする。前記陽極酸化皮膜は、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液体で形成された多孔質型の皮膜であることが好ましい。
【0011】
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材において、前記陽極酸化皮膜中に含まれるPの平均含有量(CおよびOを除いた元素に対する割合)が、陽極酸化皮膜表面から深さ5μmの位置で0.003原子%以上であることが好ましい。また前記金属間化合物の1mm2当たりの個数は、15個以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材において、前記陽極酸化皮膜表面からの絶縁物における厚みdが10μm以下であり、且つ前記陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)が2以上であることが好ましい。
【0013】
本発明で陽極酸化皮膜表面に形成する絶縁物としては、珪素酸化物(シリカ等)、シロキサン結合を含む化合物(シロキサン樹脂、シランカップリング剤処理物、シリコーン樹脂等)、ポリシラザン(熱処理物を含む)、アルキド樹脂、フッ素樹脂やエポキシ樹脂等の体積抵抗率の大きい無機物、有機物等が挙げられ、これらの少なくともいずれか、或はこれらの化合物の基本骨格を少なくともいずれかを含む化合物、を適宜選択することができる。また水分の付着を防止することは、体積抵抗率を上げるためには重要であり、上記の化合物にフルオロ基、アルキル基等の疎水基を含むことができる。
【0014】
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材で基材として用いるアルミニウム合金は、Cu:0.02%以上4.0%以下(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下を満足するものであることが好ましい。前記アルミニウム合金基材は、更にMg:3.5%を超え6.5%以下で含有するものも好ましい要件である。
【0015】
例えば、パワーモジュールの絶縁・放熱構造において、本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材における好ましい実施形態としては、絶縁に必要となる複合皮膜構造(絶縁物を被覆した陽極酸化皮膜)が、絶縁に必要な部分にのみ存在することであり、こうしたことから絶縁に必要な片面だけが複合皮膜構造になっていることが望ましい。なぜなら、陽極酸化皮膜は、溶液に浸漬し電解処理を施すことによって形成されることから、基本的に部材全面に皮膜が形成されるが、絶縁に必要な部分は基本的には片面であり、もう一面は放熱性の妨げになるからである。
【0016】
即ち、絶縁に必要な部分のみ複合皮膜構造になっていればよく、例えば、片面に複合皮膜構造をつけた複合部材において、複合皮膜構造が無いサイドに半導体素子を置く構造としては、(1)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に半導体素子が接合されること、或は(2)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を挟んで半導体素子が接する様に構成されること、等が挙げられる。また、複合皮膜構造が無いサイドに冷却部を置く構造としては、本発明のアルミニウム合金部材を冷却構造に使用し、このアルミニウム合金部材上に、本発明の複合皮膜構造を配することが挙げられ、即ち(3)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、冷却溶液が接する様に構成されること、等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、陽極酸化皮膜の構造(皮膜中の元素、皮膜厚み、皮膜中に存在する金属間化合物の大きさや個数)を適切に規定すること、陽極酸化皮膜の少なくとも一部を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造とすることで、高い絶縁性および良好な放熱性を両立した陽極酸化処理アルミニウム合金部材が実現でき、このような陽極酸化処理アルミニウム合金部材は、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶等に適用される絶縁部材として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)および良好な放熱性を両立した陽極酸化処理アルミニウム合金部材の実現を目指して、様々な角度から検討した。その結果、陽極酸化皮膜の構造(皮膜中の元素、皮膜厚み、皮膜中に存在する金属間化合物の大きさや個数)を適切に規定すること、および陽極酸化皮膜の少なくとも一部を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造とすれば、これらの特性を両立できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明で規定する各要件について説明する。
【0019】
(陽極酸化皮膜構造)
本発明で用いる陽極酸化皮膜は、リン(P)を含有することを特徴とする。陽極酸化皮膜中にリン(P)を含有することで、絶縁物(またはその前駆体)が、陽極酸化皮膜表面の少なくとも一部を被覆(微細孔の充填による被覆も含む)あるいは表面修飾した複合皮膜構造となりやすくなる。その結果、陽極酸化皮膜表面からの水分の浸入を抑えることができ、高い絶縁性(大きい体積抵抗率)を得ることができる。
【0020】
陽極酸化皮膜中にリン(P)を含有させるに際して、リン酸溶液(陽極酸化処理液)による陽極酸化処理では、陽極酸化処理中に形成された陽極酸化皮膜が溶解しやすいことから、経済的に形成できる陽極酸化皮膜の厚みはせいぜい7μm程度であり、膜厚が薄く、高い耐電圧性を得ることができない。また陽極酸化皮膜中に存在する微細孔の壁厚が薄くなることから、放熱性も悪くなる傾向がある。こうしたことから、陽極酸化皮膜の厚膜化の方法として、少なくともシュウ酸とリン酸と含む混酸溶液(陽極酸化処理液)による陽極酸化処理を行うことが好ましい。このときの、シュウ酸とリン酸の混酸溶液に混ぜる他の酸溶液は、特に限定されない。例えば、蟻酸等の有機酸、クロム酸、硫酸などの無機酸等が挙げられ、これらの中から一つ以上の酸溶液を選んで用いることができる。このようにシュウ酸を含む溶液(陽極酸化処理液)を用いることによって、形成される多孔質の陽極酸化皮膜は処理溶液による溶解が少なく、陽極酸化皮膜の厚膜化が可能になると共に、耐クラック性(クラックが生じない特性)に優れる皮膜となる。
【0021】
但し、シュウ酸溶液で陽極酸化処理し、その後リン酸等のリン(P)を含むリン酸溶液に浸漬することで、リン(P)を陽極酸化皮膜中に含有させることもできる。こうした処理では、リン酸溶液は陽極酸化皮膜処理液ではないので、リン酸濃度は若干高めとすることが好ましい。
【0022】
上述した混酸溶液(シュウ酸とリン酸を含む溶液)による陽極酸化処理では、各種酸濃度、処理温度、電解電圧、電流密度は特に定めるものではなく、適宜処理条件を選択すればよい。リン酸溶液中のリン酸濃度が高くなると厚膜化が難しくなるので、リン酸濃度は150g/L以下とすることが好ましい(より好ましくは100g/L以下)。リン酸濃度の下限は限定するものではないが、複合皮膜構造の体積抵抗率を考慮すると、1g/L以上であることが好ましい(より好ましくは2g/L以上)。
【0023】
リン酸溶液に混ぜるシュウ酸溶液の濃度(シュウ酸濃度)についても、所望とする作用効果を有効に発揮することができるように適宜適切に制御すればよいが、おおむね、5g/L〜40g/Lの範囲に制御することが好ましい(より好ましくは10〜35g/L程度)。またシュウ酸溶液で陽極酸化皮膜を形成した後、リン酸溶液に浸漬して陽極酸化皮膜中にリンを含有させる場合には、リン酸溶液中のリン酸濃度は100〜300g/L程度とすることが好ましい(より好ましくは150〜250g/L程度)。またこうした処理を行うときの温度(リン酸溶液温度)は、10〜40℃程度、処理時間は0.5〜10分程度で行えばよい。
【0024】
その他の陽極酸化処理条件についても、特に定めるものではないが、例えば陽極酸化処理を行うときの温度(リン酸溶液または混酸溶液の液温)は、生産性を損なうことなく、また陽極酸化皮膜の溶解が顕著に起こらない範囲で設定すればよく、おおむね、5〜50℃とすることが好ましい。
【0025】
陽極酸化処理を行うときの電解電圧(陽極酸化皮膜形成電圧)や電流密度は、所望の陽極酸化皮膜が得られるように、適宜適切に調節すればよい。このうち電解電圧については、電解電圧が低いと電流密度が小さくなって成膜速度が遅くなり、一方、電解電圧が高すぎると大電流により皮膜の溶解によって陽極酸化皮膜が形成されなくなる傾向がある。電解電圧による影響は、使用する電解処理液(陽極酸化処理溶液)の組成や、陽極酸化皮膜を行う温度などにも関係するため、適宜設定すればよい。陽極酸化処理時の電解電圧は、具体的には5〜120V程度が好ましい(より好ましくは10〜100V程度)。また、陽極酸化処理時に流す電流密度は、100A/dm2以下(より好ましく50A/dm2以下、更に好ましくは30A/dm2以下)である。
【0026】
上記のようにして形成される陽極酸化皮膜の厚みは、耐電圧性を担う重要な因子であり、各種仕様により適宜調整することになるが、耐電圧性を確保するという観点からして8μm以上とする必要がある。好ましくは15μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。陽極酸化皮膜の厚みがあまり厚くなると、コストが増大し、放熱性も低下するので、150μm以下とする必要がある。好ましくは100μm以下である。
【0027】
上記陽極酸化皮膜はPを含有するものであるが、体積抵抗率を上げるための複合皮膜構造とするためには、陽極酸化表面から深さ5μmの位置において、P含有量(CとOを除く元素に対する含有量)が0.003原子%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.01原子%以上である。このP含有量の上限については、特に限定するものではないが、処理溶液中のP濃度や処理条件からして、2原子%以下となる。尚、P含有量を、CとOを除く元素に対する割合(原子%)としたのは、CとOは空気中に存在するコンタミ成分であるので、それ以外の元素(例えば、Al、Mg、Si、Fe、Cu、Cr、Zn、P、S等)に対する割合とした。また、P含有量の測定位置を、陽極酸化皮膜表面から深さ5μmの位置としたのは、多孔質で微細孔が存在する陽極酸化皮膜において、コンタミ成分の影響が少なくなる位置として選んだものである。
【0028】
(陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物の大きさ・個数)
耐電圧性を低下させる要因は、アルミニウム合金中に存在する金属間化合物が陽極酸化処理中に溶解すること無く、ほぼ金属の状態で陽極酸化皮膜中に取り込まれること、および溶解により形成される陽極酸化皮膜中のボイドである。陽極酸化処理中に溶解されず陽極酸化皮膜中に残る金属間化合物は、サイズ(大きさ)が大きいほど単位質量当たりの表面積が小さくなって、溶解に時間がかかるため、陽極酸化皮膜中に残る可能性が高くなる。
【0029】
また、アルミニウム合金中の金属間化合物が陽極酸化皮膜中に溶解されて形成されるボイドの一部には、後工程の絶縁物導入工程で、絶縁物が充填あるいはボイドの内面の一部を被覆あるいは表面修飾することから、この部分での耐電圧性の低下を抑制できる。こうしたことから、ボイドはできるだけ小さい方がよく、また金属間化合物の溶解を完了せずとも、耐電圧性に大きく影響を与えない条件として、陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物の大きさ(最大長さ)が4μm以上のもので、個数が任意断面で1mm2当たり40個(40個/mm2)以下とする必要がある。この要件を満足すれば、十分な耐電圧性を発揮することができる。更に耐電圧性を高めるためには、上記個数は15個/mm2以下であることが好ましい(より好ましくは10個/mm2以下)。尚、本発明で測定対象とした金属間化合物は、Al−Fe系金属間化合物、Mg−Si系金属間化合物、または非固溶Cuである。
【0030】
(陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造)
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材では、陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造となっている。この様な複合皮膜構造では、微細孔が存在する陽極酸化皮膜表面の少なくとも一部を、絶縁物が被覆または表面修飾した複合皮膜構造を有し(微細孔への充填による被覆も含む)、その陽極酸化皮膜上に絶縁物が積層した構造も含まれる。
【0031】
陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造とすることによって、漏れ電流の原因となる微細孔が存在する陽極酸化皮膜表面の大きな表面積を低減でき、また親水性を有する陽極酸化皮膜の表面(水分が吸着しやすく、この水分で漏れ電流が増大する)を被覆または表面修飾することで、漏れ電流を低減し、また耐電圧性を向上させることができる。
【0032】
陽極酸化皮膜上への絶縁物の積層は、熱抵抗を小さくする(熱伝達の障害を小さくする)という観点から、できるだけ薄くすることが望まれる。こうしたことから、絶縁物の厚みは10μm以下であることが望ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0033】
体積抵抗率の観点からは、絶縁物は少なくとも陽極酸化皮膜表面の一部を被覆、或は表面修飾している必要があり、より望ましくは微細孔内についても少なくとも一部が充填、被覆、或は表面修飾していることが望ましい。評価方法としては、EDX等による、微細孔内の元素同定が挙げられる。より好ましくは、少なくとも微細孔の一部に絶縁物が充填、被覆、或は表面修飾されており、且つ陽極酸化皮膜上の厚みが0.001μm以上であることが望ましい(より好ましくは0.005μm以上)。また、絶縁物の熱伝導率が陽極酸化皮膜の熱伝導率より低い場合は、陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)の値は、2以上に設定することが好ましい(より好ましくは5以上)。体積抵抗率を上げるという観点からは、絶縁物が陽極酸化皮膜の表面の少なくとも一部を被覆・表面修飾していればよいことから、この比(D/d)の値の上限は、特に定めるものではないが、被覆・表面修飾の観点から、100000以下に設定することが好ましい(より好ましくは50000以下)。
【0034】
本発明で用いる絶縁物としては、珪素化合物(シリカ等)、シロキサン結合を含む化合物(シロキサン樹脂、シランカップリング剤処理物、シリコーン樹脂等)、ポリシラザン(熱処理物を含む)、アルキド樹脂、フッ素樹脂やエポキシ樹脂等の体積抵抗率の大きい無機物、有機物等が挙げられ、これらの少なくともいずれかの化合物、或はこれらの化合物の基本骨格の少なくともいずれかを含む化合物、を適宜選択することができる。また水分の付着を防止することは、体積抵抗率を上げるためには重要であり、上記の化合物にフルオロ基、アルキル基等の疎水基を含むことができる。
【0035】
分子量が大きな絶縁物を導入する場合は、陽極酸化皮膜表面に存在する微細孔への導入が難しくなるので、分子量が小さな絶縁物を前駆体の形で微細孔に導入した後、熱処理等の方法で分子量を上げることもできる。但し、その前駆体が反応しきらず陽極酸化皮膜上(微細孔内を含む)に残っても不都合はない。また、ポリシラザンのように、熱処理過程でシリカに転化することで基本骨格が変化する場合、完全に変化させる必要はなく、前駆体の基本骨格と、処理後の基本骨格が交じり合う化合物でもよい。
【0036】
絶縁物の形成方法としては、上記各種物質を、CVD等の化学的気相法やディップコート、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーンコートの無電解によるウエットプロセス、電着などの電気化学的な方法等、既存の方法を採用することができる。また、微細孔への絶縁物/前駆体の導入に際しては、減圧による導入を用いることもできる。更に、このようして導入した化合物を、熱処理、紫外線照射等で高分子化、陽極酸化皮膜との化学結合を促すようにしても良い。
【0037】
例えば、絶縁物としてシロキサン系のSOG(スピンオングラス)をウエットプロセスで形成する場合には、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を有するシロキサンポリマーを、陽極酸化皮膜表面にスピンコートし、その後所定雰囲気で乾燥・加熱すればよい。または、Si−N結合を持ち、(−R1SiR2−NR3)[R1,R2,R3はH、またはアルキル基]を基本単位とするポリシラザンを、陽極酸化皮膜表面にスピンコートし、その後所定雰囲気で乾燥・加熱すればよい(後記実施例参照)。
【0038】
上述のようにして作製された陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造は、放熱性を高めるという観点からは、厚みは薄い方が良く、絶縁性を高くするという観点からは厚い方がよい。これらの特性を両立させるためには、単位膜厚当たりの耐電圧が高いことが推奨される。こうしたことから、単位膜厚当たりの耐電圧は50V/μm以上であることが好ましく、より好ましくは60V/μm以上である。
【0039】
本発明で基材として用いるアルミニウム合金は、その化学成分組成については、特に限定されるものではないが、アルミニウム合金中の金属間化合物が陽極酸化皮膜に存在する金属間化合物の起源となること、および部材としては所定の強度が必要となること、更には陽極酸化皮膜の耐熱性(後述する「絶縁モジュール」に組み込むときに必要となる熱でクラックが発生しない特性:高温耐クラック性)も良好であることも望まれる。こうしたことから、基材として用いるアルミニウム合金の含有元素は下記のように制御することが好ましい。
【0040】
(Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下)
FeはAl−Fe系金属間化合物、SiはMg−Si系金属間化合物を夫々生成し、これらの金属間化合物は耐電圧性を低下させる原因となることから、金属間化合物のサイズや個数を所定以下とするために、いずれも0.05%以下に抑制することが好ましい。より高い耐電圧性を得るには、夫々0.02%以下とすることが好ましい。
【0041】
(Cu:0.02%以上4.0%以下)
Cuは、強度を向上させる元素であり、強度を高くすることで基材厚みを薄くすることができることから、放熱性を高めること(熱抵抗を小さくすること)ができる。また、Cuは陽極酸化皮膜の耐熱性(高温耐クラック性)を向上させる上でも有効な元素である。こうした観点から、Cuは0.02%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.03%以上である。また、アルミニウム合金の成分にMgを含まない場合は、Cu含有量は0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上である。
【0042】
しかしながら、Cu含有量が過剰になって4.0%を超えると、強度が高くなりすぎ、圧延が困難となる。Cu含有量のより好ましい上限は3.0%以下(更に好ましくは2.0%以下)である。
【0043】
本発明のアルミニウム合金における好ましい基本成分は上記の通りであり、残部はAlおよび不可避不純物であるが、必要によって、Mg、Cr、Zn等を含有することも許容できる。
【0044】
(Mg:3.5%を超え6.5%以下)
Mgは、基材の強度を向上させる元素であり、強度を高くすることで基材厚みを薄くすることができることから、放熱性を高めること(熱抵抗を小さくすること)ができる。またアルミニウム合金中のMg含有量が多いほど、陽極酸化皮膜の成膜速度が速くなり、製造コストを低減できる。こうした理由から、アルミニウム合金中のMg含有量は3.5%超えで含有することが望ましく、より好ましくは3.6%以上である。しかしながら、Mg含有量が過剰になって6.5%を超えると、アルミニウム合金に圧延割れが発生しやすくなり、圧延加工が困難になる。Mg含有量のより好ましい上限は6.0%以下である。
【0045】
(Cr:0.02%以上0.1%以下)
CrについてもMgと同様に、強度向上に有効な元素(再結晶粒の微細化による)である。こうした効果を発揮させるためには、Crは0.02%以上含有させることが好ましい。より好ましくは、0.03%以上であり、更に好ましくは0.04%以上である。しかしながら、Cr含有量が過剰になって0.1%を超えると、晶出物サイズの粗大化を招くことになる。Cr含有量のより好ましい上限は0.08%以下であり、更に好ましくは0.07%以下である。
【0046】
(Zn:0.5%以下)
Znのようなアルミニウム合金中に均一に固溶する元素は、耐電圧性に影響を与えないので含まれていても問題はない。Znの場合、0.5%を超えると、Znの析出核が大きくなり、前処理のエッチングにより粒界部が深くエッチングされ欠陥が形成されるため、表面処理としては適切な表面状態でなくなる。より好ましくは0.3%以下である。Znの下限については、特に定めるものではないが、含有量が0.002%未満となると、極めて高価なアルミニウム合金地金が必要となるため、0.002%以上であることが好ましい。
【0047】
(絶縁モジュール構造)
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材では、基材として使用されるアルミニウム合金の少なくとも一部に陽極酸化皮膜と絶縁物が形成されていることを特徴とする。即ち、アルミニウム合金基材の全面がこの陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造となっていてもよいが、アルミニウム合金基材の一部がこの構造を持てばよい。
【0048】
半導体素子を搭載する観点からすれば、例えば複合皮膜構造を片面に持つ部材を作製し、半導体素子を複合皮膜構造のないアルミニウム合金側に直接接合、或は銅(銅合金含む)材料を介して、接合することができる。このときの接合には、ハンダやロウ材などが使用できるが、特に方法を規定するものではない。
【0049】
上記銅材料とは、銅若しくは銅合金を指し、アルミニウムと銅(銅合金含む)とのクラッド材や、銅箔(銅合金)をドライプロセスやメッキで形成してもよく、特に方法を規定するものではない。複合皮膜構造側にデバイスを直接、或は銅材料を介して配置してもよい。また、半導体素子を複合皮膜構造に直接配置する場合は、上記絶縁物を接着剤の代わりとして使用することもできる。
【0050】
冷却の観点からは、例えば複合皮膜構造を片面に持つ部材を作製する場合は、複合皮膜構造を、冷却母材のアルミニウム合金上に直接形成することもできる。また、複合皮膜構造のサイドを、冷却サイドに接合することもでき、接合の方法は問わないが、上記絶縁物を冷却器との接合に使用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されず、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
下記表1に示す化学成分組成のアルミニウム合金を、通常の方法により、溶解し鋳造した鋳塊に、500℃の温度で均質化熱処理を行い、板厚が1.5mmになるまで冷間圧延を施し、350℃の温度で焼鈍を行い、45mm×45mm×1.5mmの基材を切り出し、表面を50μm研削し、試料を調製した。尚、下記表1中、「−」は無添加(測定限界未満)であることを意味する。
【0053】
上記のように切り出した試料(基材)を、脱脂工程として、50℃−15%NaOH水溶液中に2分間浸漬した後、水洗した。次に、デスマット工程として、上記脱脂工程を経た試料を40℃−20%硝酸溶液中に2分間浸漬した後、水洗して表面を清浄化した。
【0054】
【表1】
【0055】
次いで、上記の各試料に対し、下記表2に示す条件(処理液種類、処理液温度、電解電圧)にて陽極酸化処理を行い、所定の膜厚の陽極酸化皮膜を作製し、陽極酸化処理後、水洗し乾燥し、基材表面に陽極酸化皮膜を形成した各種陽極酸化処理アルミニウム合金部材を得た。このときの処理時間を適宜調整することで、膜厚を制御した。尚、試験No.7のものは、シュウ酸溶液で陽極酸化処理した後、リン酸溶液に浸漬(5分)してPを導入したものである。
【0056】
【表2】
【0057】
得られた陽極酸化処理アルミニウム合金部材の表面に、絶縁物(若しくはその前駆体)として、シロキサン系SOG、ポリシラザン、シリコーン樹脂、アルキド樹脂を形成した。このときシロキサン系SOGは、全体における15質量%のメチルがSi−O−Si結合(シロキサン結合)のSi原子に結合されているシロキサンポリマーを使用し、スピンコートし、350℃(窒素雰囲気)で1時間加熱して、絶縁物を陽極酸化皮膜上に形成した。またポリシラザンは、全モノマーユニットにおいてモノマーユニットを構成しているSi原子にメチル基2つが結合され、更にN原子にメチル基1つが結合されている化合物を、ブチルアセテートで希釈し、スピンコートし、200℃(大気雰囲気)で0.5時間加熱して、絶縁物を陽極酸化皮膜上に形成した。また膜厚の調整は薬液の希釈、スピンコートの条件の調整や上記の工程を繰り返すことで行った。
【0058】
シリコーン樹脂を形成するときの前駆体(シリコーン樹脂前駆体)は、メチルトリメトキシシランとオクタメチルシクロテトラシロキサンを質量比10:1で混合しアセトンで希釈した溶液を用いて、ディップコートし、100℃(窒素雰囲気)で30分加熱して、絶縁物(シリコーン樹脂)を陽極酸化皮膜上に形成した。膜厚は薬液の希釈、引き上げスピードの条件を調整することで、また厚膜化は上記の工程を数回繰り返すことで行った。
【0059】
アルキド樹脂は、「HPD200」(商品名:日立化成(株)製)をキシレンで希釈した溶液を用いて、ディップコートし、100℃(窒素雰囲気)で30分乾燥し、絶縁物を陽極酸化皮膜上に形成塗布した。膜厚は薬液の希釈、引き上げスピード、上記工程を繰り返すことで調整した。この工程の後、140℃で60分の加熱を行った。
【0060】
陽極酸化皮膜の厚みDは、渦電流式膜厚計を用いて測定した。測定は、同一の箇所を5回測定し、その平均値を箇所の厚みとし、試料の5箇所(全体の測定ができるように)測定し、その平均を陽極酸化皮膜の厚みDとした(前記表2)。
【0061】
絶縁物の厚みdは、試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して、厚みdを見積もった(前記表2)。また、EDX分析により陽極酸化皮膜の微細孔、皮膜表面に存在する元素を調査したところ、絶縁物を形成しなかった試料(試験No.11)ではSiが検出されなかったが、シロキサン、ポリシラザン、シリコーン樹脂を原料として使用した試料からは、微細孔および皮膜表面からSiが検出された。またアルキド樹脂を用いた試料は、陽極酸化皮膜中にも炭素原子(C)が存在することから、アルキド樹脂の存在を確認することは難しいが、微細孔内の炭素原子(C)量は、微細孔壁部よりも多く観察された。
【0062】
陽極酸化皮膜中のP量は、陽極酸化皮膜処理後の皮膜(複合皮膜構造にする前)の段階で、陽極酸化皮膜表面から深さ5μmの位置で、グロー放電発光分光分析(GDOES)により炭素(C)および酸素(O)以外の元素(例えば、Al、Mg、Si、Fe、Cu、Cr、Zn、P、S等)を分析し、その全量に対するP量を求めた(前記表2)。
【0063】
各種の条件で陽極酸化処理を施した後、陽極酸化皮膜中の金属間化合物の大きさ、個数を下記の方法によって測定すると共に、得られた陽極酸化処理アルミニウム合金部材について(試験No.1〜11)、下記の方法によって、耐電圧性(平均耐電圧)、体積抵抗率を評価した。これらの結果を、陽極酸化皮膜厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)の値と共に下記表3に示す。
【0064】
[陽極酸化皮膜中の金属間化合物の大きさ・個数の測定]
陽極酸化皮膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて、倍率1000倍の反射電子像で20視野以上を観察した。母相より白く写る部分、および母相より黒く写る部分を測定対象とし、陽極酸化皮膜上にある窪みと判断がつかない場合は、その部分をEDXで元素分析することで金属間化合物かどうかの判断を行った。画像処理により最大長さを求め、最大長さが4μm以上の金属間化合物の個数を測定し、単位面積当たりの個数(個数密度)を算出した。
【0065】
[体積抵抗率の測定]
各試料を、湿度50%、温度25℃の環境で7日間保管後、そのサンプルにφ3mmの金を蒸着し、電極とした。アドバンテスト R8340A デジタル超高抵抗/微少電流計を用い、+端子を金電極に接続し、−端子をアルミニウム合金基材に接続し、DC電圧(直流電圧)500Vを印加し、そのとき流れる電流を測定することによって、各試料の体積抵抗率(Ωcm)を求めた。
【0066】
シュウ酸とリン酸の混酸で形成された陽極酸化皮膜ままの体積抵抗率は、1.5×109(1.5E9)Ωcmである。上記各試料(絶縁物を形成した試料)の体積抵抗率が、5.0×1011(5E11)Ωcm以上、1.0×1012(1E12)Ωcm未満、および1.0×1012(1E12)Ωcm以上、5.0×1012(5E12)Ωcm未満を、夫々やや良好(△、△○)とし、5.0×1012(5E12)Ωcm以上、1.0×1013(1E13)Ωcm未満を良好(○)、1.0×1013(1E13)Ωcm以上を非常に良好(◎)とした[5.0×1011(5E11)Ωcm未満は不良(×)]。本発明では、体積抵抗率が5.0×1012(5E12)Ωcm以上のとき(評価が○および◎)を、合格とした。
【0067】
[平均耐電圧の測定]
各試料の耐電圧は、耐電圧試験器(「GPT−9802」、商品名:インステック社製、DCモード)を用い、+端子を金電極のプローブに接続し、陽極酸化皮膜上に接触させ、−端子をアルミニウム合金基材に接続し、DC電圧(直流電圧)を徐々に印加し、1mA以上の電流が流れた時点での電圧(測定個数10点での平均値)を平均耐電圧とした。また測定に当たっては、沿面放電を避けるため、N2ガスを金電極に吹き付けながら測定した。
【0068】
測定した平均耐電圧を、複合皮膜構造の膜厚(合計厚み)で割ることで、単位厚み当たりの耐電圧(V/μm)を求めた。単位膜厚当たりの耐電圧が高いことは、仕様耐電圧を作製するための皮膜厚を薄くすることができ、放熱性を向上できることから、この値が50V/μm以上を合格(△)、60V/μm以上を優秀(○)とした[50V/μm未満は不合格(×)]。
【0069】
【表3】
【0070】
これらの結果から、以下のように考察することができる。まず試験No.1〜7は、本発明で規定する要件を満足する実施例であり、良好な絶縁性(高い平均耐電圧、体積抵抗率)を示していることが分かる。
【0071】
これに対し、試験No.8〜11は、本発明で規定する要件を満足しない例であり、いずれかの特性が劣化している。即ち、試験No.8、9は、陽極酸化皮膜中にPを含有しないものであり、Pを含有するものに比べて体積抵抗率が小さくなっている。
【0072】
試験No.10は、Si,Feが過剰なアルミニウム合金を基材として用いたものであり、Si,Feの過剰によって金属間化合物の個数が多くなっており、耐電圧性が不足している。
【0073】
試験No.11は、陽極酸化皮膜表面に絶縁物を形成していない例であり、耐電圧性は確保できているが、体積抵抗率が小さくなっている。