(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
軟磁性混合粉末は、主にモータや、チョークコイル、リアクトルに代表されるインダクタ等において磁心として用いられる圧粉磁心を製造するために用いられている。圧粉磁心には、優れた磁気的特性、機械的特性の両立が求められている。
【0003】
磁気的特性としては、鉄損、磁束密度、透磁率、保磁力、残留磁束密度等の性質が挙げられ、特に圧粉磁心には鉄損が小さいことが求められる。鉄損は、強磁性体内部に交流磁界を加えたときに生じる磁性体内部でのエネルギー損失として定義されるものであり、通常の条件下では、ヒステリシス損失と渦電流損失との和で表される。ヒステリシス損失は、磁束密度を変化させるために必要なエネルギーによって生じるエネルギー損失であり、渦電流損失は、主として圧粉磁心を構成するそれぞれの金属粒子内および金属粒子間を流れる渦電流によって生じるエネルギー損失である。
また、機械的特性は、軟磁性粉末の成形により得られる圧粉磁心が高密度となることが求められる。
【0004】
圧粉磁心の磁気的特性、機械的特性を両立するための技術として、圧粉磁心の原料である軟磁性粉末を電気絶縁物で被覆する技術が知られている。電気絶縁物により軟磁性粉末を被覆することで電気抵抗が高まるため鉄損、特に渦電流による損失が低減され磁気的特性が向上るとともに、軟磁性粉末同士が電気絶縁物を介して接着されるため機械的強度が向上する。前記電気絶縁物としては、耐熱性の高いシリコーン樹脂やリン酸等から得られるガラス状化合物等が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
ところが、このような電気絶縁物を用いた場合、成形体を金型から抜出す際に、成形体と金型面との摩擦係数が増加して、金型の型かじりや損傷など様々な問題が生じる場合があった。
【0006】
この金型の型かじりや損傷を低減するため、主原料となる軟磁性粉末と副原料粉末との混合粉末に、金型壁面と成形体表面とのすべり性を良好にするための潤滑剤の添加が提案されている。
このような軟磁性粉末に用いられる潤滑剤としては、従来から公知のものとして、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸の金属塩粉末、エチレンビスステアリルアミドや脂肪酸アミド、パラフィンワックスなどが挙げられる。
【0007】
また、特許文献3、4、5にも、軟磁性粉末に用いられている潤滑剤が挙げられている。特許文献3には、第1の融点を有する潤滑剤としての有機物と第1の融点よりも大きい第2の融点を有する高粘度の有機物の組み合わせが開示されている。特許文献4には、潤滑剤として融点が100℃以下であるワックスが開示されている。また、特許文献5には、脂肪酸モノアミド、脂肪酸モノエステルを含む融点が100℃以下である潤滑剤が開示されている。
さらに、特許文献6には、脂肪酸が14〜22個のC原子を有する1級アミドのみを用いた潤滑剤が開示されている。そして、特許文献7では、潤滑剤である熱可塑性樹脂と65℃以下の圧密化温度で成形する方法を組み合わせる方法が提案され、特許文献8では、内部潤滑剤の種類を決め、固化成分の全有機物顔料を低減させる方法などが提案されている。
【0008】
しかしながら、潤滑剤を添加すると、混合粉末の流動性が悪くなることがあった。流動性が悪化すると、混合粉末を貯蔵ホッパから排出して成形金型に移送する際、または混合粉末を成形金型に充填する際などの加圧成形工程で、貯蔵容器の排出上部で詰まりなどによる排出不良が生じたり、貯蔵ホッパから粉末供給箱までのホースが閉塞したりするなどの問題が生じる。さらに、成形金型の特に薄肉部分内全体に混合粉末が均一に充填され難くなり、均質な圧粉体が得られ難いという問題もある。
【0009】
このように、高密度、高均一性を有し、かつ製造の際にも金型の型かじりや損傷などを生じない圧粉磁心等の製造は困難であり、(1)高潤滑性、(2)低抜き圧性、(3)高流動性、(4)得られる成形体の高密度性の4点を同時に兼ね備える軟磁性粉末が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.絶縁被覆軟磁性粉末
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、軟磁性粉末とその表面に形成された絶縁被覆層とを含むものであり、前記絶縁被覆層が、炭素数2以上22以下の脂肪酸モノアミド(以下、単に「脂肪酸モノアミド」という。)と、大気圧下25℃において固体である極圧添加剤(以下、単に「極圧添加剤」という。)とを含むことを特徴とする。本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、脂肪酸モノアミドと極圧添加剤を含むため、脂肪酸モノアミドによる流動性向上効果、潤滑性向上効果、抜き圧低減効果が増強されるとともに、成形体製造時に400MPa以上という高圧下で極圧添加剤による潤滑作用が強められるため、得られる成形体の密度が向上する。
【0018】
前記脂肪酸モノアミドは、脂肪族炭化水素を酸化することにより得られる1価のカルボン酸(以下、「脂肪酸」という。)と、アンモニアとが脱水縮合した化合物を意味する。脂肪酸モノアミドは、脂肪族炭化水素基を有するとともに、2級、3級の脂肪酸アミドに比べて高い水素結合性を有するため、絶縁皮膜中に埋没することなく大気圧下において潤滑性、抜き圧性、流動性を向上することができる。また、極圧添加剤と接触することにより、成形体製造時の400MPa以上という高圧下で、極圧添加剤の潤滑作用を強めることができる。さらに、脂肪酸モノアミドを用いることにより、金属石鹸等の脂肪酸金属塩と比較して異種金属の混入を抑制することができ、軟磁性混合粉末の安定性を向上して、得られる成形体の磁気的特性を高めることができる。
【0019】
絶縁被覆層がリン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層とを含む場合、脂肪酸モノアミドは、シリコーン樹脂皮膜層の表面に存在していることが好ましい。これにより、脂肪酸モノアミドが絶縁被覆軟磁性粉末の表面に存在することとなるので、特に大気圧下における潤滑性、抜き圧性、流動性がさらに向上する。
【0020】
脂肪酸モノアミドの炭素数は、2以上22以下であれば、潤滑性、抜き圧性、流動性が良好となるが、潤滑性、抜き圧性、流動性を一層向上させるには、8以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であり、12以上であることが特に好ましい。脂肪酸モノアミドの炭素数が多いほど、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上することができる。なお、脂肪酸モノアミドの炭素数が22を超えると、添加量に対して得られる潤滑性、抜き圧性、流動性が相対的に低くなり、潤滑性、抜き圧性、流動性を維持しようとすると高い成形体密度が得られなくなる。
【0021】
上記のように、脂肪酸は、脂肪族炭化水素を酸化することにより得られる1価のカルボン酸であり、炭素数1以上21以下、好ましくは7以上21以下の脂肪族炭化水素基とカルバモイル基とで構成される。前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよいが、潤滑性、抜き圧性、流動性向上の観点からは、直鎖状であることが好ましい。
【0022】
このような脂肪酸モノアミドとしては、具体的には、カプリル酸モノアミド(8)、ペラルゴン酸モノアミド(9)、カプリン酸モノアミド(10)、ラウリン酸モノアミド(12)、ミリスチン酸モノアミド(14)、ペンタデシル酸モノアミド(15)、パルミチン酸モノアミド(16)、マルガリン酸モノアミド(17)、ステアリン酸モノアミド(18)、アラキジン酸モノアミド(20)、ベヘン酸モノアミド(22)が挙げられる。ただし、この段落において、かっこ内に記載する数は脂肪酸モノアミドの炭素数を示すものとする。中でも、本発明に好ましく用いられる脂肪酸モノアミドとしては、カプリン酸モノアミド、ラウリン酸モノアミド、ミリスチン酸モノアミド、ペンタデシル酸モノアミド、パルミチン酸モノアミド、マルガリン酸モノアミド、ステアリン酸モノアミド、アラキジン酸モノアミド、ベヘン酸モノアミドが好ましく、より好ましくはラウリン酸モノアミド、パルミチン酸モノアミド、ステアリン酸モノアミド、ベヘン酸モノアミドである。
【0023】
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、脂肪酸モノアミドの使用量は、軟磁性粉末100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量部以上であり、さらに好ましくは0.05質量部以上である。軟磁性粉末に対する脂肪酸モノアミドの使用量が多いほど、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。また、脂肪酸モノアミドの使用量は、軟磁性粉末100質量部に対して0.7質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.3質量部以下である。脂肪酸モノアミドの使用量を適量とすることで、成形体密度を高くすることができる。
【0024】
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、絶縁被覆層に含まれる脂肪酸モノアミドの使用量は、絶縁被覆層100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは20質量部以上である。脂肪酸モノアミドの使用量が多いほど、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。また、脂肪酸モノアミドの使用量は、絶縁被覆層100質量部に対して80質量部以下であることが好ましく、より好ましくは70質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以下である。脂肪酸モノアミドの使用量を適量とすることで、成形体密度を高くすることができる。
【0025】
また、本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、後述するシリコーン樹脂皮膜層に対する脂肪酸モノアミドの使用量は、シリコーン樹脂皮膜層100質量部に対して120質量部以上であることが好ましく、より好ましくは140質量部以上であり、さらに好ましくは160質量部以上である。脂肪酸モノアミドの割合が多いほど、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上することができる。また、脂肪酸モノアミドの使用量は、シリコーン樹脂皮膜層100質量部に対して、300質量部以下であり、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下である。脂肪酸モノアミドの割合が適度な範囲にあると、潤滑性、抜き圧性、流動性を維持したまま成形体密度を高めることができる。
【0026】
前記極圧添加剤は、一種の潤滑剤として作用するものであり、金属同士が極めて高い接触圧、例えば400MPa以上で接し、被覆層の破断が起こりやすい条件下においても、金属の摩擦、摩耗の減少や焼付を防止することができる。本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、絶縁被覆層に極圧添加剤を含むことにより、成形体製造時の400MPa以上という高圧下でも、軟磁性粉末を潤滑でき、成形体密度を高めることができる。また、大気圧下においても、水素結合性の高い脂肪酸アミンと接することにより、脂肪酸アミンのアルキル基による潤滑性向上作用、抜き圧低減作用、流動性向上作用を強めることができる。
【0027】
極圧添加剤の数平均分子量は、700以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。数平均分子量の上限は特に限定されないが、例えば100,000である。
【0028】
また、極圧添加剤の融点は、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは50℃以上である。極圧添加剤の融点が高いほど、軟磁性粉末の流動性がより一層優れたものとなる。極圧添加剤の融点の上限は特に限定されないが、例えば200℃である。
【0029】
また、絶縁被覆層がリン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層とを含む場合、極圧添加剤は、シリコーン樹脂皮膜層中に存在していることが好ましい。これにより、絶縁被覆層において、極圧添加剤が一定の厚みを持って存在できるようになり、成形体製造時の400MPa以上という高圧下でも軟磁性粉末に対する潤滑性能が一層向上するため、より高い成形体密度を得ることができる。
【0030】
極圧添加剤は、その作用によって、金属表面に吸着して吸着膜を形成する油性向上剤や、金属表面に吸着し、温度、圧力の影響で分解し、金属と複合化合物を形成して摩擦を低減する摩耗防止剤等に分類される。本発明においては、軟磁性混合粉末の磁気的特性を保持するため、極圧添加剤として油性向上剤を用いることが好ましい。
【0031】
油性向上剤としては、オレイン酸等の脂肪酸系油性剤、動植物油脂系油性剤、合成エステル系油性向上剤、グリコール系油性向上剤が挙げられ、本発明に用いられる極圧添加剤としては、グリコール系油性向上剤を好ましく用いることができる。このようなグリコール系油性向上剤としては、例えば、アデカエコロイヤル(登録商標)シリーズを挙げることができる。
【0032】
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、絶縁皮膜層中の極圧添加剤の使用量は、軟磁性粉末100質量部に対して0.001質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.005質量部以上であり、さらに好ましくは0.01質量部以上である。極圧添加剤の使用量が多いほど、成形時の軟磁性粉末に対する潤滑性能が向上するため、高い成形体密度を得ることができる。また、極圧添加剤の使用量は、軟磁性粉末100質量部に対して、0.1質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以下、さらに好ましくは0.03質量部以下である。極圧添加剤の使用量が適度な範囲にあると、絶縁被覆軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を維持でき、成形時の軟磁性粉末間の潤滑が可能となる。
【0033】
また、本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、絶縁被覆層がシリコーン樹脂皮膜層を含む場合、シリコーン樹脂皮膜層中の極圧添加剤の使用量は、シリコーン樹脂皮膜層100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは15質量部以上である。シリコーン樹脂皮膜層に含まれる極圧添加剤の量が多いほど、成形時の軟磁性粉末に対する潤滑性能が向上するため、高い成形体密度を得ることができる。また、極圧添加剤の使用量は、シリコーン樹脂皮膜層100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは25質量部以下である。シリコーン樹脂皮膜層における極圧添加剤の使用量が適度な範囲にあると、シリコーン樹脂による機械的強度向上効果を効果的に発揮することが可能となる。
【0034】
また、極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比、すなわち、極圧添加剤/脂肪酸モノアミドは、質量比として、1/20以上であることが好ましく、より好ましくは1/15以上であり、さらに好ましくは1/10以上である。極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの含有量の比が大きいほど、成形時の軟磁性粉末に対する潤滑性能が向上するため、高い成形体密度を得ることができる。また、極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比、すなわち、極圧添加剤/脂肪酸モノアミドは、質量比として、1/3以下であることが好ましく、より好ましくは1/5以下であり、さらに好ましくは1/8以下である。極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比が適度な範囲にあると、絶縁被覆軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。
【0035】
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、絶縁被覆層が前記脂肪酸モノアミドと前記極圧添加剤とを含むものであればよく、絶縁被覆層の形成方法としては、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、脂肪酸モノアミドと極圧添加剤とを含む絶縁被覆層形成用の原材料と、軟磁性粉末を混合する等の方法が挙げられる。
【0036】
前記絶縁被覆層形成用の原材料としては、脂肪酸モノアミド、極圧添加剤に加えて、オルトリン酸、すなわち、H
3PO
4等のリンを含有する化合物(以下、「リン含有化合物」という。)、シリコーン樹脂、溶剤等が挙げられる。前記リン含有化合物、シリコーン樹脂、溶剤としては、後述するリン含有化合物、シリコーン樹脂、溶剤と同様のものを用いることができる。また、絶縁被覆層形成用の原材料は、脂肪酸モノアミド、極圧添加剤と、リン含有化合物、シリコーン樹脂のみからなるものであることが好ましい。
【0037】
脂肪酸モノアミドと極圧添加剤の添加順序はどのような順序であってもよいが、脂肪酸モノアミドが絶縁被覆層の表面に存在すると、軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を一層向上でき、また得られる成形体密度もより高いものとなるため、脂肪酸モノアミド以外の成分と軟磁性粉末とを混合した後に、さらに脂肪酸モノアミドと混合することが好ましい。
絶縁被覆層形成用の原材料と、軟磁性粉末を混合する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、公知のミキサー、ボールミル、ニーター、V型混合機、造粒機等で混合することができる。
【0038】
また、本発明の絶縁被覆軟磁性粉末において、絶縁被覆層は、リン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層とを含むものであることが好ましい。より好ましくは、リン酸化成皮膜層と、リン酸化成皮膜上の極圧添加剤を含むシリコーン樹脂皮膜層と、シリコーン樹脂皮膜層上の脂肪酸モノアミドといった構成のものであることが好ましい。前記シリコーン樹脂皮膜層上の脂肪酸モノアミドは、層を形成していてもよく、シリコーン樹脂皮膜上に点在した状態であってもよい。
【0039】
リン酸化成皮膜層は、リン含有化合物を用いた化成処理によって生成するガラス状の皮膜である。リン酸化成皮膜層が存在することにより、絶縁被覆層の電気絶縁性を向上することができる。
【0040】
また、リン酸化成皮膜層の付着量は、軟磁性粉末100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.003質量部以上であり、さらに好ましくは0.005質量部以上である。リン酸化成皮膜層の付着量が大きいほど、リン酸化成皮膜層の電気絶縁性が効果的に発揮される。また、リン酸化成皮膜層の付着量は、軟磁性粉末100質量部に対して、0.1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.07質量部以下であり、さらに好ましくは0.05質量部以下である。リン酸化成皮膜層の付着量が適度な範囲にあることで、得られる成形体密度を高めることができる。
なお、リン酸化成皮膜層の付着量は、軟磁性粉末と、リン酸化成皮膜層を形成した軟磁性粉末の質量の差を意味するものとする。リン酸化成皮膜層においては、リン酸化成皮膜と鉄とが複合してリン酸−鉄化合物を形成している場合もあると考えられるが、このような場合でも、リン酸化成皮膜層の付着量は上記の意味とする。
【0041】
リン酸化成皮膜層は、水性溶媒とリン含有化合物とを含むリン酸化成処理液と、軟磁性粉末とを混合し、さらに乾燥させることによって形成できる。
水性溶媒としては、水;エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン等のケトン溶媒;や、これらを混合した混合溶媒を好ましく用いることができる。
リン含有化合物としては、従来公知の化合物を用いることができるが、オルトリン酸、NaH
2PO
4、Na
2HPO
4、CO
3(PO
4)
2、CO(PO
4)
2・8H
2O、(NH
2OH)
2H
2H
2SO
4、(NH
2OH)H
2SO
4等を好ましく用いることができる。また、リン含有化合物は、少なくともオルトリン酸を含むことがより好ましい。
【0042】
前記リン酸化成処理液中、リン含有化合物の使用量は、リン酸化成処理液100質量部中、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1.2質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上である。リン含有化合物の使用量が多いほど、リン酸化成皮膜層を強固なものとできる。また、リン含有化合物の使用量は、リン酸化成処理液100質量部中、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下である。リン含有化合物の使用量が適度な範囲であると、成形体密度を向上できる。
【0043】
また、リン酸化成処理液100質量%中、リン酸の濃度は、0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは1.2質量%以上である。リン酸の濃度が高いほど、リン酸化成皮膜層を強固なものとできる。また、リン酸化成処理液100質量中、リン酸の濃度は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。リン含有化合物の使用量が前記範囲であると、成形体密度を向上できる。なお、前記リン酸の濃度とは、各リン含有化合物の濃度と分子量中のリン分の割合から、リン酸の質量割合として算出した濃度を意味する。
【0044】
水性溶媒とリン含有化合物とを含むリン酸化成処理液と、軟磁性粉末とを混合する方法としては、絶縁被覆層形成用の原材料と、軟磁性粉末を混合する方法として上記した方法と同様のものを用いることができる。前記乾燥方法としては、大気圧下、減圧下、または真空下で、150〜250℃の温度に加熱する方法が好ましい。
【0045】
軟磁性粉末とリン酸化成処理液とを混合する際、軟磁性粉末100質量部に対するリン酸化成処理液の使用量は、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。また、軟磁性粉末100質量部に対するリン酸化成処理液の使用量は、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0046】
シリコーン樹脂皮膜層は、シリコーン樹脂により形成される層であり、絶縁被覆層がシリコーン樹脂皮膜層を有することにより、電気絶縁性が向上するとともに、成形体の機械的強度を高めることができる。成形体の機械的強度を高める観点から、シリコーン樹脂皮膜層は、リン酸化成皮膜層上に形成されることが好ましい。
【0047】
シリコーン樹脂皮膜層に用いられるシリコーン樹脂としては、反応性ケイ素化合物を含むシリコーン樹脂であることが好ましい。前記反応性ケイ素化合物によりシリコーン樹脂が架橋されSi−O−Si結合、すなわち、シロキサン結合が形成されるため、シリコーン樹脂皮膜層の耐熱性を向上できる。また、成形体製造時、反応性ケイ素基による架橋がさらに進行して硬化するため、シリコーン樹脂皮膜層を強固なものとすることができるとともに、得られる成形体の機械的特性を向上することができる。
【0048】
前記反応性ケイ素化合物は、ケイ素原子に加水分解性基と不活性基が結合した化合物を意味する。
前記加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子基等が挙げられるが、反応性制御の観点からは、アルコキシ基が好ましい。
前記不活性基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基は、一般的に耐熱性に優れるため、好ましい。芳香族炭化水素基のうち、フェニル基が特に好ましい。また、成形体の形成温度は非常に高温になる場合もあり、このような場合においてもシリコーン樹脂皮膜層におけるSi−O−Si結合の緻密なガラス状網目構造を保つためには、芳香族炭化水素基よりも嵩高くない脂肪族炭化水素基であることが好ましい場合もある。脂肪族炭化水素基のうち、メチル基が特に好ましい。
【0049】
前記反応性ケイ素化合物としては、より具体的には、R
2SiX
2で表される二官能性ケイ素化合物;RSiX
3で表される三官能性ケイ素化合物;SiX
4で表される四官能性ケイ素化合物;等が挙げられる。ただし、上記R
2SiX
2、RSiX
3、SiX
4において、Xは加水分解性基、Rは不活性基を表すものとする。これらの中でも、絶縁被覆軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できるとともに、成形体の機械的強度を向上できるため三官能性ケイ素化合物が好ましい。
なお、シリコーン樹脂の脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基の含有割合や、官能基数については、FT−IRで分析可能である。
【0050】
このようなシリコーン樹脂としては、信越化学工業社製のKR255、KR311、KR300、KR251、KR400、KR220L、KR242A、KR240、KR500、KC89等が挙げられる。
【0051】
また、シリコーン樹脂皮膜層の付着量は、軟磁性粉末100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量部以上であり、さらに好ましくは0.05質量部以上である。シリコーン樹脂皮膜層の付着量が大きいほど、軟磁性粉末を効果的に電気絶縁することができるとともに、成形体の機械的強度を高めることができる。また、シリコーン樹脂皮膜層の付着量は、軟磁性粉末100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量部以下であり、さらに好ましくは0.2質量部以下である。シリコーン樹脂皮膜層の付着量が適度な範囲にあると、得られる成形体を高密度なものとすることができる。
【0052】
シリコーン樹脂皮膜層の付着量は、また、軟磁性粉末とリン酸化成皮膜層の付着量の合計100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量部以上であり、さらに好ましくは0.05質量部以上である。シリコーン樹脂皮膜層の付着量が大きいほど、軟磁性粉末を効果的に電気絶縁することができるとともに、成形体の機械的強度を高めることができる。また、シリコーン樹脂皮膜層の付着量は、軟磁性粉末とリン酸化成皮膜層の付着量の合計100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量部以下であり、さらに好ましくは0.2質量部以下である。シリコーン樹脂皮膜層の付着量が適度な範囲にあると、得られる成形体を高密度なものとすることができる。
【0053】
シリコーン樹脂皮膜層の膜厚は、軟磁性粉末を効果的に電気絶縁する観点から、1nm以上であることが好ましい。また、得られる成形体の密度を高める観点から、シリコーン樹脂皮膜層の膜厚は、250nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。また、リン酸化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜との合計厚みは250nm以下とすることが好ましい。合計厚みが250nmを超えると、磁束密度の低下が大きくなることがある。また、鉄損を小さくするには、リン酸系化成皮膜をシリコーン樹脂皮膜より厚めに形成することが好ましい。
【0054】
リン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層の合計の厚みは250nm以下とすることが好ましい。これにより一層成形体密度を向上し、磁束密度を向上することができる。
また、リン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層の厚みの比、すなわち、リン酸化成皮膜層/シリコーン樹脂皮膜層は、1.1/1以上であることが好ましく、より好ましくは1.2/1以上であり、さらに好ましくは1.3/1以上である。前記比が大きいほど、鉄損を低減することができる。前記比の上限は特に限定されないが、例えば10/1であることが好ましい。
【0055】
シリコーン樹脂皮膜層は、リン酸化成皮膜層を形成した軟磁性粉末と、シリコーン樹脂と有機溶剤とを含むシリコーン樹脂処理液とを混合し、さらに、前記有機溶剤を乾燥除去することによって形成することができる。極圧添加剤をシリコーン樹脂皮膜層に含有させる場合は、前記シリコーン樹脂処理液には、シリコーン樹脂と有機溶剤に加えて極圧添加剤も配合する。また、前記有機溶剤としては、アルコール溶剤や、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を使用することができる。
【0056】
前記シリコーン樹脂処理液において、処理液全体から液体成分を除いた成分(以下、「固形分」という。)の割合は、シリコーン樹脂処理液100質量%中、2質量%以上であることが好ましい。固形分の割合が大きいほど、有機溶剤の乾燥除去が容易である。また、固形分の割合は、シリコーン樹脂処理液100質量%中、10質量%以下であることが好ましい。固形分の割合が前記範囲であると、均質なシリコーン樹脂皮膜層を形成することができる。
【0057】
また、前記シリコーン樹脂処理液の使用量は、リン酸系化成皮膜層を形成した軟磁性粉末の使用量、すなわち、リン酸系化成皮膜層と軟磁性粉末の合計の使用量100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましい。前記シリコーン樹脂処理液の使用量が多いほど、リン酸系化成皮膜層を形成した軟磁性粉末との混合が容易であり、均一なシリコーン樹脂皮膜層を形成することができる。また、シリコーン樹脂処理液の使用量は、リン酸系化成皮膜層を形成した軟磁性粉末の使用量、すなわち、リン酸系化成皮膜層と軟磁性粉末の合計の使用量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。シリコーン樹脂処理液の使用量が前記範囲であると、有機溶剤の乾燥除去が容易である。
リン酸化成皮膜層を形成した軟磁性粉末と、シリコーン樹脂処理液とを混合する方法としては、絶縁被覆層形成用の原材料と、軟磁性粉末を混合する方法として上記した方法と同様のものを用いることができる。
【0058】
前記有機溶剤を乾燥除去する方法としては、大気圧下、減圧下、または真空下で、シリコーン樹脂処理液に使用した有機溶剤が揮発し、かつ、シリコーン樹脂が硬化しない温度(以下、「乾燥温度」という場合がある。)に加熱する方法が好ましい。前記乾燥温度としては、具体的には、60〜80℃が好適である。また、有機溶剤の乾燥除去後、シリコーン樹脂皮膜層を形成した軟磁性粉末の凝集を防ぐために、目開き300〜500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
【0059】
前記有機溶剤の乾燥除去後、さらに、シリコーン樹脂皮膜層を予備硬化させておくことが好ましい。予備硬化とは、シリコーン樹脂の架橋、すなわち、Si−O−Si結合の形成が異なる軟磁性粉末のものにまたがって進行しない程度に加熱する処理を意味する。これにより、シリコーン樹脂皮膜層の硬度が向上し、得られる絶縁被覆軟磁性粉末の流動性をさらに向上することができる。なお、予備硬化と、成形体製造時の完全硬化との違いは、予備硬化処理では、軟磁性粉末同士が完全に接着固化することなく、容易に解砕が可能であるのに対し、成形体製造時における完全硬化はシリコーン樹脂皮膜層の硬化が異なる軟磁性粉末にまたがって進行し、軟磁性粉末同士が接着固化して解砕が極めて困難なものとなる点にある。
予備硬化するには、具体的には、リン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層を形成した軟磁性粉末を、大気圧下、減圧下、または真空下で、100〜250℃に加熱すればよい。予備硬化における加熱時間は、5〜100分程度であることが好ましい。特に、予備硬化温度が150〜170℃であるときは、加熱時間は10〜30分であることが好ましい。加熱温度、加熱時間が前記範囲であれば、完全硬化を避けて予備硬化することができる。
【0060】
2.軟磁性粉末
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末に用いられる軟磁性粉末は、強磁性体の金属粉末を意味し、具体的には、純鉄粉、Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等の鉄基合金粉末および鉄基アモルファス粉末等が挙げられる。これらの軟磁性粉末は、例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法等のアトマイズ法によって原料となる強磁性体の金属粉末を微粒子とし、還元して、粉砕する等の方法によって製造できる。これらの製造方法により、ふるい分け法による粒度分布において、累積粒度分布が50%となる粒径(「D50」という場合がある。)が20〜250μm程度となる軟磁性粉末を得ることができる。本発明においては、平均粒径が50〜150μm、より好ましくは100〜120μmの軟磁性粉末を好ましく用いることができる。
【0061】
3.絶縁被覆軟磁性粉末の製造方法
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、(A)軟磁性粉末表面にリン酸化成皮膜層を形成する工程、(B)前記リン酸化成皮膜層上に、シリコーン樹脂と極圧添加剤とを含む組成物を用いてシリコーン樹脂皮膜層を形成する工程、(C)前記リン酸化成皮膜層とその上にシリコーン樹脂皮膜層とを有する軟磁性粉末と、脂肪酸モノアミドとを混合する工程、を含む製造方法により製造することができる。
【0062】
(A)軟磁性粉末表面にリン酸化成皮膜層を形成する工程においては、水性溶媒とリン含有化合物とを含むリン酸化成処理液と、軟磁性粉末とを混合し、さらに乾燥させることが好ましい。前記水性溶媒、リン含有化合物としては、上記と同様の物質を使用することができ、混合、乾燥の方法としては上記と同様の方法を用いることができる。
【0063】
(B)前記リン酸化成皮膜上に、シリコーン樹脂と極圧添加剤とを含む組成物を用いてシリコーン樹脂皮膜層を形成する工程においては、リン酸化成皮膜層を形成した軟磁性粉末と、組成物としての、シリコーン樹脂と極圧添加剤と有機溶剤とを含むシリコーン樹脂処理液とを混合し、さらに、前記有機溶剤を乾燥除去することによって形成することができる。前記シリコーン樹脂、極圧添加剤、有機溶剤としては、上記と同様の物質を使用することができ、混合、有機溶剤の乾燥除去の方法としては上記と同様の方法を用いることができる。
【0064】
(C)前記リン酸化成皮膜層とその上にシリコーン樹脂皮膜層とを有する軟磁性粉末に、脂肪酸モノアミドとを混合する工程において、リン酸化成皮膜層とシリコーン樹脂皮膜層とを形成した軟磁性粉末と、脂肪酸モノアミドとを混合する方法としては、特に限定されず、絶縁被覆層形成用の原材料と、軟磁性粉末を混合する方法として上記した方法を用いることができる。
【0065】
絶縁被覆軟磁性粉末の製造方法は、(B)シリコーン樹脂皮膜層を形成する工程と、(C)脂肪酸モノアミドと混合する工程の間に、さらに、(B−1)シリコーン樹脂皮膜層を予備硬化させる工程を含んでもよい。予備硬化は、上記と同様の方法で行うことができる。これにより、得られる絶縁被覆軟磁性粉末の流動性をさらに向上することができる。
【0066】
4.潤滑剤
本発明の潤滑剤は、軟磁性粉末に用いられるものであり、炭素数2以上22以下の脂肪酸モノアミドと、大気圧下25℃において固体である極圧添加剤とを含むことを特徴とする。脂肪酸モノアミドは水素結合性が高く、このような脂肪酸アミドと極圧添加剤とが接触することによって、絶縁被覆軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を向上するとともに、成形体製造時の400MPa以上という高圧下においても潤滑性能を発揮できる結果、高密度の成形体を得ることができる。本発明の潤滑剤は、より好ましくは、軟磁性粉末表面に形成される絶縁被覆層に含有されるものである。また本発明の潤滑剤は、脂肪酸モノアミドと、極圧添加剤のみで構成されるものであることが好ましい。
【0067】
前記脂肪酸モノアミドとしては、上記と同様のものを使用することができる。
本発明の潤滑剤において、脂肪酸モノアミドの使用量は、潤滑剤100質量部中60質量部以上であることが好ましく、より好ましくは70質量部以上であり、さらに好ましくは80質量部以上である。脂肪酸モノアミドの使用量が多いほど、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。また、脂肪酸モノアミドの使用量は、潤滑剤100質量部中98質量部以下であることが好ましく、より好ましくは95質量部以下であり、さらに好ましくは93質量部以下である。脂肪酸モノアミドの使用量を適量とすると、成形体密度を向上できる。
【0068】
また、前記極圧添加剤としては、上記と同様のものを用いることができる。
本発明の潤滑剤において、極圧添加剤の使用量は、潤滑剤100質量部中2質量部以上であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上であり、さらに好ましくは7質量部以上である。極圧添加剤の使用量が多いほど、得られる成形体の密度を向上することができる。また、極圧添加剤の使用量を適量とすると、潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。そのため、極圧添加剤の使用量は、潤滑剤100質量部中40質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0069】
また、本発明の潤滑剤において、極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比、すなわち、極圧添加剤/脂肪酸モノアミドは、質量比として、1/20以上であることが好ましく、より好ましくは1/15以上であり、さらに好ましくは1/10以上である。極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比が大きいほど、成形時の軟磁性粉末に対する潤滑性能が向上するため、高い成形体密度を得ることができる。また、極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比、すなわち、極圧添加剤/脂肪酸モノアミドは、質量比として、1/3以下であることが好ましく、より好ましくは1/5以下であり、さらに好ましくは1/8以下である。極圧添加剤と脂肪酸モノアミドの量比が適度な範囲にあると、絶縁被覆軟磁性粉末の潤滑性、抜き圧性、流動性を向上できる。
【0070】
前記潤滑剤のうち、脂肪酸モノアミドと極圧添加剤は、絶縁被覆層中に、どのように存在していてもよいが、絶縁被覆層において、脂肪酸モノアミドが極圧添加剤よりも表面側に存在していることが好ましい。このように添加することによって、大気圧下において、脂肪酸モノアミドによる潤滑作用、抜き圧低減作用、流動作用が特に効果的に発揮されるとともに、成形体製造時の400MPa以上という高圧下下でも極圧添加剤の潤滑作用が特に効果的に発揮されるためである。従って、本発明の潤滑剤は、脂肪酸モノアミドと極圧添加剤とが混合されたものではなく、これらは別々の容器に入れられ、セットになった状態で流通する。
【0071】
絶縁被覆軟磁性粉末において、絶縁被覆層中、脂肪酸モノアミドが極圧添加剤よりも表面側(「外側」という場合もある。)に存在するようにするためには、絶縁被覆層形成用の原材料のうち脂肪酸モノアミド以外の成分を、まず軟磁性粉末に混合し、その後に、脂肪酸モノアミドを混合すればよい。前記絶縁被覆層形成用の原材料としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0072】
5.圧粉磁心
本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、圧粉磁心の原料として好適に使用できる。圧粉磁心は、絶縁被覆軟磁性粉末を圧縮成形した後、必要により熱処理することにより成形体としたものである。前記圧縮成形の際の面圧は、490MPa以上であることが好ましく、より好ましくは520MPa以上であり、さらに好ましくは550MPa以上である。面圧が高いほど成形体の密度を高めることができる。本発明の絶縁被覆軟磁性粉末は、脂肪酸モノアミドと極圧添加剤とを含むため、面圧が上記範囲であっても、軟磁性粉末を潤滑できる。その結果、圧縮成形時に軟磁性粉末に付与される歪みを低減することができ、鉄損、特にヒステリシス損を低減できる。また、圧縮成形の際の面圧は、1960MPa以下であることが好ましく、より好ましくは1180MPa以下である。面圧がこの範囲にあれば、圧縮成形時に軟磁性粉末に付与される歪みが高くなりすぎず、鉄損、特にヒステリシス損を低減することができる。
圧縮成形の際の温度は、特に限定されず、室温成形、100〜250℃の温度範囲で成形する温間成形のいずれでもよい。高強度の圧粉磁心を得る観点からは、温間成形が好ましい。
【0073】
前記圧縮成形後に熱処理する場合、熱処理温度は400℃以上であることが好ましく、絶縁被覆層の劣化が生じず比抵抗の劣化がなければ、より高温で熱処理することが好ましい。熱処理温度の上限は特に限定されないが、例えば800℃である。熱処理雰囲気は、酸素原子を含まなければ特に限定されないが、窒素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また、熱処理時間は、比抵抗の劣化がなければ特に限定されないが、20分以上であることが好ましく、より好ましくは30分以上であり、さらに好ましくは1時間以上である。熱処理時間の上限は、特に限定されないが、例えば10時間である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0075】
本発明で使用した試験方法は下記の通りである。
【0076】
(フロー試験)
金属粉−流動度測定方法に関するJIS−Z−2502に準じて、50gの絶縁被覆軟磁性粉末が、2.63mmφのオリフィスを流れ出るまでの時間を測定し、この時間を混合粉末流動性として、流動性を評価した。単位は「sec/50g」とした。
混合粉末流動性が27sec/50g以下の場合を○、27sec/50gを超える場合を×として評価した。
【0077】
(成形試験)
軟磁性混合粉末を面圧589MPa(CGS単位系では「6tonf/cm
2」となる。)として25℃の室温で成形した。成形体寸法は25mmφ、高さ25mmであった。
得られた成形体密度が7.25g/cm
3以上の場合を◎、7.23g/cm
3未満の場合を○として評価した。
また、成形体を金型から外す際の抜き圧を潤滑性として評価した。単位は「MPa」とした。抜き圧が19MPa以下の場合を○、19MPaを超え25MPa以下である場合を△、25MPaを超える場合を×とした。
【0078】
(製造例1)
軟磁性粉末として、純鉄粉(アトメル(登録商標)ML35N:平均粒径 100〜120μm)を用いた。
リン酸化成処理液としては、水:1000部、H
3PO
4:193部、MgO:31部、H
3BO
3:30部を混合して、さらに10倍に希釈したものを用いた。リン酸化成処理液のリン酸濃度は1.5%であった。シリコーン樹脂処理液としては、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、KR212)4.16部とトルエン95部、極圧添加剤(グリコール系極圧添加剤、融点:63℃で常温固体、製品名:ADEKA、アデカエコロイヤル(登録商標)FMD−410)0.64部とを混合し、固形分濃度を4.8%としたものを用いた。
【0079】
まず、軟磁性粉末200部とリン酸化成処理液10部を大気圧下で混合し、その後、200℃で乾燥させ、軟磁性粉末の表面にリン酸化成皮膜層を形成した。軟磁性粉末100部に対するリン酸化成皮膜層の付着量は0.025部であった。次に、リン酸化成皮膜層を形成した軟磁性粉末100部と、シリコーン樹脂処理液3.125部(固形分0.15部)を混合した後、75℃で30分間加熱し、シリコーン樹脂処理液中のトルエンを乾燥除去して、リン酸化成皮膜上にシリコーン樹脂皮膜層を形成した。リン酸化成皮膜層と軟磁性粉末の合計100部に対するシリコーン樹脂皮膜層の付着量は、0.1部であった。さらに、このリン酸化成皮膜とその上にシリコーン樹脂皮膜層を形成した軟磁性粉末110部と、脂肪酸モノアミドとしてのラウリン酸アミド0.18部を混合して、本発明の絶縁被覆軟磁性粉末を得た。
この絶縁被覆軟磁性粉末において、極圧添加剤とラウリン酸アミドの合計の使用量は、軟磁性粉末100部に対して、0.2部であった。
【0080】
(製造例2〜4)
ラウリン酸アミドの代わりに、表1中、脂肪酸アミドとして示す化合物を使用した以外は製造例1と同様にして、本発明の絶縁被覆軟磁性粉末を得た。
この絶縁被覆軟磁性粉末において、極圧添加剤と脂肪酸アミドの合計の使用量は、軟磁性粉末100部に対して0.2部であった。
【0081】
(製造例5〜7)
ラウリン酸アミドの代わりに、表1中、脂肪酸アミドとして示す化合物を使用し、極圧添加剤(グリコール系極圧添加剤、融点:63℃で常温固体、製品名:ADEKA、アデカエコロイヤル(登録商標)FMD−410)の代わりに、表1中、添加剤として示す物質を使用した以外は製造例1と同様にして、絶縁被覆軟磁性粉末を得た。
ただし、表1中、ポリオレフィン系樹脂は、ブテン−プロピレン系樹脂(ブテン−プロピレン共重合体、製品名:三井化学社製:タフマーXM5070)を表し、エチレングリコールはエチレングリコールジステアレート(製品名:EGDS 日本精化社製)を表し、ビスアミド樹脂は、N−オレイルパルミチン酸アミド(ニッカアマイドSO−1、日本化成社製)を表すものとする。
この絶縁被覆軟磁性粉末において、添加剤と脂肪酸モノアミドの合計の使用量は、軟磁性粉末100部に対して0.2部であった。
【0082】
(製造例8〜14)
ラウリン酸アミドの代わりに、表1中、脂肪酸アミドとして示す化合物を使用し、シリコーン樹脂処理液として、トルエン95部とシリコーン樹脂(信越化学工業社製、KR212)4.16部、極圧添加剤としての極圧添加剤(グリコール系極圧添加剤、融点:63℃で常温固体、製品名:ADEKA、アデカエコロイヤル(登録商標)FMD−410)0.64部とを混合し、固形分濃度を5%としたものの代わりに、トルエン95.2部とシリコーン樹脂(信越化学工業社製、KR212)4.8部とを混合し、固形分濃度を4.8%としたものを用いた以外は製造例1と同様にして、絶縁被覆軟磁性粉末を得た。
この絶縁被覆軟磁性粉末において、脂肪酸アミドの使用量は、軟磁性粉末100部に対して0.2部であった。
【0083】
製造例1〜14で得られた絶縁被覆軟磁性粉末についてフロー試験、成形試験を行い、流動性、潤滑性、成形体密度を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
製造例1〜4は、本発明で規定する要件を満足する発明例であり、絶縁被覆層に脂肪酸モノアミドと極圧添加剤とを含むものである。その結果、これらの絶縁被覆軟磁性粉末は、流動性に優れ、抜き圧が低く潤滑性に優れるとともに、高い成形体密度を得ることができた。
【0086】
一方、製造例5〜7は、絶縁被覆層が脂肪酸モノアミドを含むものの、極圧添加剤の代わりに他の潤滑剤を含むものである。これらの絶縁被覆軟磁性粉末では、流動性が維持されず、低下していた。
また、製造例8〜11は、絶縁被覆層が脂肪酸モノアミドを含むものの、極圧添加剤を含まないものである。これらの絶縁被覆軟磁性粉末では、適度な流動性が得られたものの、抜き圧は増加し潤滑性が低下しており、成形体密度は十分ではなかった。
さらに、製造例12〜14は、絶縁被覆層が、脂肪酸モノアミドの代わりに、脂肪酸メチロールアミド、脂肪酸ビスアミドを含み、極圧添加剤を含まないものである。これらの脂肪酸アミドは、流動性が低下し、抜き圧も増加して潤滑性も低下しており、さらに得られた成形体密度も十分ではなかった。
【0087】
上記より、絶縁被覆層に脂肪酸モノアミドと極圧添加剤とを含むことにより、優れた流動性、抜き圧性と潤滑性を得ることができ、かつ成形体密度も向上できることがわかる。