特許第6043305号(P6043305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043305制音具付き空気入りタイヤ及びタイヤ用制音具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043305
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】制音具付き空気入りタイヤ及びタイヤ用制音具
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B60C5/00 F
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-22579(P2014-22579)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-147544(P2015-147544A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/012007(WO,A1)
【文献】 特開2006−182280(JP,A)
【文献】 特開2008−254339(JP,A)
【文献】 特開2012−000989(JP,A)
【文献】 特開2006−341629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤと、前記トレッド部のタイヤ内腔側の面に固着されかつタイヤ周方向にのびるスポンジ状の制音具とを含む制音具付き空気入りタイヤであって、
前記制音具は、タイヤ内腔を向く露出面に、複数本のスリットが形成され、
前記スリットは、タイヤ軸方向に対して傾斜する第1スリットと、前記第1スリットの傾斜とは逆向きに傾斜する第2スリットとを含み、
前記第1スリットの両端、及び、前記第2スリットの両端は、前記制音具のタイヤ軸方向の両端に開口していることを特徴とする制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1スリットのタイヤ軸方向に対する角度と前記第2スリットのタイヤ軸方向に対する角度との差の絶対値は、10度以下である請求項1記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1スリットは、前記第2スリットと交差しない請求項1又は2に記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1スリットと前記第2スリットとは、タイヤ周方向に交互に設けられている請求項3記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1スリット、及び、前記第2スリットは、タイヤ軸方向に対して20度以下の角度でのびている請求項3又は4に記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1スリットと、前記第2スリットとが交差して配されている請求項1又は2に記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記スリットは、タイヤ軸方向に対して45度以下の角度でのびている請求項6記載の制音具付き空気入りタイヤ。
【請求項8】
空気入りタイヤのトレッド部のタイヤ内腔側の面に、タイヤ周方向に沿って配される帯状スポンジ状のタイヤ用制音具であって、
前記制音具は、前記トレッド部への取付面と、その反対側に位置する露出面とを含み、
前記露出面には、複数本のスリットが形成され、
前記スリットは、タイヤ軸方向に対して傾斜する第1スリットと、前記第1スリットの傾斜とは逆向きに傾斜する第2スリットとを含み、
前記第1スリットの両端、及び、前記第2スリットの両端は、前記制音具のタイヤ軸方向の両端に開口していることを特徴とするタイヤ用制音具。
【請求項9】
前記第1スリットのタイヤ軸方向に対する角度と前記第2スリットのタイヤ軸方向に対する角度との差の絶対値は、10度以下である請求項8記載のタイヤ用制音具。
【請求項10】
前記第1スリットは、前記第2スリットと交差しない請求項8又は9に記載のタイヤ用制音具。
【請求項11】
前記第1スリットと前記第2スリットとは、タイヤ周方向に交互に設けられている請求項10記載のタイヤ用制音具。
【請求項12】
前記第1スリット、及び、前記第2スリットは、タイヤ軸方向に対して20度以下の角度でのびている請求項10又は11に記載のタイヤ用制音具。
【請求項13】
前記第1スリットと、前記第2スリットとが交差して配されている請求項8又は9に記載のタイヤ用制音具。
【請求項14】
前記スリットは、タイヤ軸方向に対して45度以下の角度でのびている請求項13に記載のタイヤ用制音具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードノイズを低減しうる制音具付き空気入りタイヤ及びタイヤ用制音具に関し、詳しくは、制音具の外観の悪化が防止される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのロードノイズを低減するために、トレッド部のタイヤ内腔側面にスポンジ状の制音具を設けた空気入りタイヤが知られている。
【0003】
上述の空気入りタイヤが寒冷地で使用される場合、タイヤ内腔の空気中の水分が制音具の中で凍結・膨張することがある。このような現象は、制音具に多数の亀裂を生じさせ、その外観を悪化させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、制音具の露出面を改善することを基本として、寒冷地等での使用時でも、制音具の外観の悪化を防止しうる制音具付き空気入りタイヤ及びタイヤ用制音具を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤと、前記トレッド部のタイヤ内腔側の面に固着されかつタイヤ周方向にのびるスポンジ状の制音具とを含む制音具付き空気入りタイヤであって、前記制音具は、タイヤ内腔を向く露出面に、複数本のスリットが形成され、前記スリットは、タイヤ軸方向に対して傾斜する第1スリットと、前記第1スリットの傾斜とは逆向きに傾斜する第2スリットとを含み、前記スリットの両端は、前記制音具のタイヤ軸方向の両端に開口していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記第1スリットのタイヤ軸方向に対する角度と前記第2スリットのタイヤ軸方向に対する角度との差の絶対値が、10度以下であるのが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記第1スリットが、前記第2スリットと交差しないのが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記第1スリットと前記第2スリットとが、タイヤ周方向に交互に設けられているのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記スリットが、タイヤ軸方向に対して20度以下の角度でのびているであるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記第1スリットと、前記第2スリットとが交差して配されているのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記制音具付き空気入りタイヤは、前記スリットが、タイヤ軸方向に対して45度以下の角度でのびているのが望ましい。
【0013】
また本発明は、空気入りタイヤのトレッド部のタイヤ内腔側の面に、タイヤ周方向に沿って配される帯状スポンジ状のタイヤ用制音具であって、前記制音具は、前記トレッド部への取付面と、その反対側に位置する露出面とを含み、前記露出面には、複数本のスリットが形成され、前記スリットは、タイヤ軸方向に対して傾斜する第1スリットと、前記第1スリットの傾斜とは逆向きに傾斜する第2スリットとを含み、前記スリットの両端は、前記制音具のタイヤ軸方向の両端に開口していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記第1スリットのタイヤ軸方向に対する角度と前記第2スリットのタイヤ軸方向に対する角度との差の絶対値が、10度以下であるのが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記第1スリットが、前記第2スリットと交差しないのが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記第1スリットと前記第2スリットとが、タイヤ周方向に交互に設けられているのが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記スリットが、タイヤ軸方向に対して20度以下の角度でのびているであるのが望ましい。
【0018】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記第1スリットと、前記第2スリットとが交差して配されているのが望ましい。
【0019】
本発明に係る前記タイヤ用制音具は、前記スリットが、タイヤ軸方向に対して45度以下の角度でのびているのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の制音具付き空気入りタイヤは、トレッド部のタイヤ内腔側面に固着されかつタイヤ周方向にのびるスポンジ状の制音具を含んでいる。この制音具は、タイヤ内腔を向く露出面に、複数本のスリットが形成されている。このようなスリットは、例えば、寒冷時において、制音具中の水分の凍結に伴う膨張変形時に追随して開閉するため、制音具の亀裂を抑制する。また、制音具に亀裂が生じた場合でも、スリットは、亀裂を目立ち難くすることができる。従って、本発明の制音具付き空気入りタイヤは、制音具の外観の悪化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の制音具付き空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2図1の制音具付き空気入りタイヤの周方向断面図である。
図3】本実施形態の制音具を示す平面図である。
図4】他の実施形態の制音具を示す平面図である。
図5】さらに他の実施形態の制音具を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の制音具付き空気入りタイヤTの正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図が示されている。図1に示されるように、本実施形態の制音具付き空気入りタイヤTは、例えば、乗用車用タイヤとして好適に利用される。
【0023】
正規状態とは、タイヤが正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない場合、タイヤの各部の寸法等は、この正規状態において測定される値である。
【0024】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"である。また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。タイヤが乗用車用である場合は、正規内圧は、180kPaである。
【0025】
制音具付き空気入りタイヤTは、トロイド状をなす空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1と、このタイヤ1のタイヤ内腔側の面2bに固着されかつタイヤ周方向にのびる制音具10とを含んでいる。
【0026】
タイヤ1は、チューブレスタイヤであって、トレッド部2と、そのタイヤ軸方向両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3のタイヤ半径方向内方に設けられ、ビードコア5が埋設されたビード部4とを具えている。
【0027】
トレッド部2は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に、路面と接地するトレッドゴム9が配されている。トレッドゴム9には、適宜排水用の溝Gが設けられている。
【0028】
本実施形態のタイヤ1は、カーカス6と、ベルト層7と、インナーライナー層8とを含んでいる。
【0029】
カーカス6は、1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、本体部6aと折返し部6bとを具える。本体部6aは、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折返し部6bは、本体部6aに連なりかつビードコア5の回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。
【0030】
カーカスプライ6Aは、カーカスコードをトッピングゴムで被覆したコードプライである。カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して、例えば70〜90度の角度で配列されている。カーカスコードには、例えば、アラミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、レーヨン等から選択される。
【0031】
カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのび、かつ硬質ゴムからなるビードエーペックスゴムBaが配されている。
【0032】
ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ赤道Cに対して、例えば、5〜45度の角度で傾けて配列された少なくとも1枚以上、本実施形態ではタイヤ半径方向内、外2枚のベルトプライ7A、7Bで構成されている。ベルトコードには、例えば、スチールコードが好適に用いられる。
【0033】
インナーライナー層8は、内のカーカスプライ6Aのタイヤ半径方向内側に配されている。本実施形態のインナーライナー層8は、一対のビード部4、4間に跨って連続してのびている。インナーライナー層8は、空気非透過性のゴム材からなり、タイヤ内腔内に充填される空気の漏出を防ぐ。本実施形態では、インナーライナー層8が、タイヤ内腔側の面2bを形成している。
【0034】
制音具10は、例えば、表面又は内部に多孔部を有するスポンジ材からなる。スポンジ材は、例えば、連続気泡又は独立気泡を有するゴムや合成樹脂からなる。本実施形態の制音具10には、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。このような制音具10は、多孔部がタイヤ内腔N内の空気の振動エネルギーを吸収することにより、共鳴振動を低減し、ロードノイズを低減する。
【0035】
図2は、制音具付き空気入りタイヤTの周方向断面図である。本実施形態の制音具10は、長尺帯状のスポンジ材が、図2に示されるように、タイヤ周方向に沿って円環状に形成されている。図2では、制音具10の両端部10e、10eが、互いに突き合わされているが、離間していても良い。このような制音具10は、タイヤ周方向に亘って、ロードノイズの低減効果を大きく発揮することができる。
【0036】
図1に示されるように、制音具10は、タイヤ子午線断面において、タイヤ軸方向の幅Waが、タイヤ半径方向の厚さtaよりも大きい横長矩形状をなす。このような制音具10は、大きな剛性が確保され、タイヤ1の振動や横揺れによる亀裂が抑制される。このような作用を効果的に発揮させるため、制音具10の厚さtaは、好ましくは、その幅Waの0.1〜0.5倍である。
【0037】
制音具10の断面形状は、矩形状に限定されるものではなく、例えば、台形状、三角形状、弾頭形状、半円形状など種々のものが採用される。制音具10の断面形状は、好ましくは、そのタイヤ軸方向の中間位置を通るタイヤ半径方向線において、対称形状である。本実施形態の制音具10は、そのタイヤ軸方向の中間位置が、タイヤ赤道C上に配されている。
【0038】
特に限定されるものではないが、ロードノイズを効果的に低減するため、制音具10のタイヤ軸方向の幅Waは、好ましくは、トレッド接地幅TWの30%〜70%である。制音具10の厚さtaは、好ましくは、5〜50mmである。
【0039】
「トレッド接地幅」TWは、前記正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置間のタイヤ軸方向の距離として定められる。そして、この最もタイヤ軸方向外側の接地位置が接地端Teとして定められる。「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0040】
本実施形態の制音具10は、トレッド部2のタイヤ内腔側の面2bへ取り付けられる取付面11と、その反対側に位置する露出面12とを含んでいる。即ち、露出面12は、タイヤ内腔Nを向いている。
【0041】
露出面12は、本実施形態では、タイヤ軸方向にのびる軸方向面12aと、軸方向面12aと取付面11とを継ぎかつタイヤ半径方向にのびる一対の側面12b、12bとを含んでいる。
【0042】
図3は、制音具10の平面図である。図3に示されるように、本実施形態では、軸方向面12aに、複数本のスリット15が形成されている。このようなスリット15は、例えば、寒冷時において、制音具10中の水分の凍結に伴う膨張変形時に追随して開閉するため、制音具10の亀裂を抑制する。また、例えば、制音具10に亀裂が生じた場合でも、スリット15は、亀裂を目立ち難くすることができる。従って、スリット15を設けることにより、制音具10の外観の悪化を防止することができる。
【0043】
スリット15は、本実施形態では、直線状にのびている。このようなスリット15は、開閉方向がスリット15の長さに亘って同じであるため、上述の凍結に伴う開閉を大きくすることができる。このため、亀裂の発生をさらに抑制することができる。
【0044】
スリット15の幅W1が大きい場合、制音具1の容積が小さくなり、ロードノイズを低減する効果が得られなくおそれがある。このため、スリット15の幅W1は、好ましくは、2mm以下である。スリット15の幅W1の下限値は、亀裂を目立ち難くする観点からは、実質的な幅を有するものでなくて良い。しかしながら、制音具10中の水分の凍結時における開閉変形をスムーズにするため、スリット15の幅W1は、より好ましくは、0.5mm以上である。
【0045】
スリット15は、少なくとも、制音具10のタイヤ軸方向の両端10a、10aから制音具10の幅Waの20%以上のタイヤ軸方向の長さで設けられるのが望ましい。即ち、制音具10は、タイヤ軸方向の中央部分の剛性に比してタイヤ軸方向の両端部分の剛性が小さい。このため、亀裂は、制音具10のタイヤ軸方向の両側でより大きく生じる可能性が高い。従って、上述の範囲にスリット15を設けることにより、効果的に、亀裂の抑制効果を得ることができる。スリット15は、本実施形態では、制音具10のタイヤ軸方向の両端10a、10aに開口している。
【0046】
スリット15は、制音具10の厚さtaの50%以下の深さD1(図1に示す)を有するのが望ましい。スリット15の深さD1が制音具10の厚さtaの50%を超える場合、制音具10の剛性が低下し、スリット15の底から亀裂が生じ、制音具10に欠けが生じるおそれがある。
【0047】
スリット15の深さD1が小さい場合、制音具10中の水分の凍結時における開閉変形が小さくなり、亀裂を抑制する効果が小さくなるおそれがある。このため、スリット15の深さD1は、より好ましくは、2〜5mmである。
【0048】
スリット15のタイヤ周方向のピッチP1が10mmを超える場合、凍結時の亀裂を抑制する効果や、亀裂が生じた場合の亀裂を目立つ難くさせる効果が小さくなるおそれがある。スリット15のタイヤ周方向のピッチP1が2mm未満の場合、制音具10の剛性が低下し、スリット15の底やスリット15、15間に欠け等の破損が生じるおそれがある。このため、スリット15のタイヤ周方向ピッチP1は、好ましくは、2〜10mmである。
【0049】
本実施形態のように、円環状の制音具10は、タイヤ軸方向の剛性がタイヤ周方向の剛性に比して小さい。このため、制音具10に生じる亀裂は、タイヤ軸方向に生じる可能性が高い。従って、スリット15は、タイヤ軸方向に対して20度以下の角度θ1で設けられるのが望ましい。本実施形態のスリット15の角度θ1は、0度である。
【0050】
図4は、本発明の他の実施形態の制音具10の平面図である。図4に示されるように、制音具10の露出面12に設けられたスリット15は、第1スリット16と、第1スリット16と交差する向きにのびる第2スリット17とを含んでいる。このようなスリット15は、制音具10の水分の凍結に伴う多方向への膨張変形に追随できるため、制音具10に生じる亀裂を、より効果的に抑制しうる。本実施形態では、第1スリット16と第2スリット17とが、タイヤ周方向に交互に設けられている。なお、この実施形態に限定されるものではなく、タイヤ周方向に複数本並んだ第1スリット16と、タイヤ周方向に複数本並んだ第2スリット17とが交互に設けられた態様でも良い。
【0051】
図5は、本発明のさらに他の実施形態の制音具10の平面図である。図5に示されるように、露出面12には、第1スリット16と第2スリット17とが交差して配されている。このようなスリット15は、制音具10の膨張変形に追随して第1スリット16及びこの第1スリット16に近傍する第2スリット17が開閉するため、より一層、制音具10の亀裂を抑制することができる。
【0052】
第1スリット16のタイヤ軸方向に対する角度θ2と第2スリット17のタイヤ軸方向に対する角度θ3との差の絶対値|θ2−θ3|は、好ましくは10度以下、より好ましくは5度以下である。これにより、制音具10の水分の凍結による膨張変形時に、第1スリット16及び第2スリット17が、バランス良くタイヤ周方向に開閉できるため、とりわけ、タイヤ軸方向にのび易い亀裂を抑制することができる。従って、制音具10の外観の悪化が、さらに防止される。
【0053】
第1スリット16又は第2スリット17を、タイヤ周方向により大きく開閉させるために、第1スリット16のタイヤ軸方向に対する角度θ2及び第2スリット17のタイヤ軸方向に対する角度θ3は、好ましくは45度以下、より好ましくは20度以下である。
【0054】
上述の作用をより効果的に発揮させるために、第1スリット16のタイヤ周方向のピッチP2は、第2スリット17のタイヤ周方向のピッチ3と同じであるのが望ましい。第1スリット16のピッチP2は、2〜10mmである。第1スリット16及び第2スリット17の深さは、好ましくは、制音具10のタイヤ半径方向の厚さtaの50%以下、より好ましくは、2〜5mmである。
【0055】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。
【実施例】
【0056】
図1及び図2に示される基本構造を有するサイズ215/45R17の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、テストされた。各試供タイヤの主な共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
制音具の幅Wa:100mm
制音具の厚さta:30mm
制音具:株式会社イノアック製のエーテル系ポリウレタンスポンジ(型番ESH2)
第1スリット及び第2スリットの深さ:5mm
第1スリットのピッチP2及び第2スリットのピッチP3:5mm
比較例1及び比較例2:スリット無し
【0057】
<耐亀裂性能>
各試供タイヤが、下記の条件で、直径1.7mのドラム走行試験機にて走行された。この後、リムが取り外されて制音具での亀裂の発生状態が確認された。結果は、亀裂の発生状態について、下記の評価方法により点数化した5点法で表示している。数値が大きいほど良好である。なお、試供タイヤは、制音具に50ccの水を含ませた状態で、庫内が−30度の冷蔵庫にて12時間放置した後、テストに使用されている。
リム:17×7.0JJ
内圧:220kPa
荷重:4.2kN
速度:60km/h
走行時間:5分
<亀裂の発生状態の評価方法>
1:長さが50mmを超える亀裂あり。
2:長さが50mmを超える亀裂はないが、50mm以下の亀裂が5本以上あり。
3:長さが50mmを超える亀裂はないが、50mm以下の亀裂が1〜4本あり。
4:亀裂の兆候あり。
5:亀裂の兆候なし。
【0058】
<外観性能>
上記テストの後、各試供タイヤの制音具の外観が確認された。結果は、露出面の外観について、実施例1を5とする評点で表示している。数値が大きいほど良好である。
【0059】
【表1】
【0060】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、制音具の外観の悪化が防止していることが確認できる。
【符号の説明】
【0061】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2b トレッド部のタイヤ内腔側の面
10 制音具
12 露出面
15 スリット
N タイヤ内腔
図1
図2
図3
図4
図5