(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱硬化性成分が、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂成分である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
前記結着樹脂中の前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量(P)と、前記非晶性ポリエステル樹脂の含有量(Q)との質量比(P/Q)が、0.01以上1以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の静電潜像現像用トナー。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定しない。
【0012】
本実施形態に係る静電潜像現像用トナー(単にトナーともいう)は、複数のトナー粒子を含む粉体である。本実施形態に係るトナーは、例えば、画像形成装置で用いることができる。
【0013】
画像形成装置では、トナーを含む現像剤を用いて静電潜像を現像する。これにより、感光体上に形成された静電潜像に、帯電したトナーが付着する。そして、付着したトナーを転写ベルトに転写した後、更に転写ベルト上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して記録媒体に定着させる。これにより、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色のトナーを用いて形成したそれぞれのトナー像を重ね合わせれば、フルカラー画像を得ることができる。
【0014】
トナー粒子は、粒子状のトナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とを含む。トナーコアは結着樹脂を必須成分として含み、更に、結着樹脂中に、必要に応じて任意の成分(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)を含んでいてもよい。シェル層は熱硬化性成分と熱可塑性成分とを含む樹脂を含有する。
【0015】
トナー粒子(トナー母粒子)の表面は、必要に応じて、外添剤を用いて処理されていてもよい。外添剤により処理される前のトナー粒子を、トナー母粒子と称する場合がある。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されていてもよい。
【0016】
トナーコアがアニオン性を有し、シェル層がカチオン性を有することが好ましい。トナーコアがアニオン性を有することで、シェル層の形成時にカチオン性のシェル層の材料をトナーコアの表面に引き付けることが可能になる。詳しくは、例えば水性媒体中で負に帯電するトナーコアの材料と水性媒体中で正に帯電するシェル層の材料とのうちの一方が他方に電気的に引き寄せられ、例えばin−situ重合によりトナーコアの表面にシェル層が形成される。これにより、分散剤を用いて水性媒体中にトナーコアを過度に分散させずとも、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成し易くなる。
【0017】
トナーコア成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占めることが好ましい。このため、結着樹脂の極性がトナーコア全体の極性に大きな影響を与える。例えば結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基又はメチル基を有している場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、例えば結着樹脂がアミノ基、アミン又はアミド基を有している場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
【0018】
トナーは、1成分現像剤として用いてもよいし、所望のキャリアと混合して2成分現像剤において使用することもできる。
【0019】
トナー粒子を構成するトナーコアは、結着樹脂を含む。結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを含む。また、後述するように、トナーコアは、熱硬化性成分と熱可塑性成分とを含む樹脂を含むシェル層で被覆されている。このため、結着樹脂としては、水酸基、カルボキシル基及びアミノ基からなる群から選択される1種以上の官能基を分子中に有する樹脂が好ましく、水酸基及び/又はカルボキシル基を分子中に有する樹脂がより好ましい。このような樹脂は、メチロールメラミンのような熱硬化性成分と反応して共有結合が形成される。従って、このような結着樹脂を用いると、シェル層がトナーコアに強固に結合しているトナーを調製できる。
【0020】
更に、トナー粒子は熱硬化性成分を含む固いシェル層により保護されている構造を有しているため、現像器内で長期間トナー粒子がストレスを受けても、このトナー粒子は破砕されにくい。更に、シェル層はトナーコアに対して強固に結合し、トナーコアからの剥離が生じにくい。そのため、本実施形態のトナーは、耐熱保存性に優れる。
【0021】
示差走査熱量計を用いて結晶性ポリエステル樹脂を含有する本発明のトナーを測定する場合、トナーのガラス転移点(Tg)が、ファーストラン時には確認されるが、セカンドラン時には確認されない。
図1及び
図2を参照して、このガラス転移点(Tg)の読み取り方を説明する。
図1は、トナーにおけるファーストラン時の吸熱曲線である。
図2は、トナーにおけるセカンドラン時の吸熱曲線である。
図1及び
図2の縦軸は熱流を示し、横軸は温度を示す。具体的には、アルミ皿に5mg以上20mg以下のトナーを入れ、示差走査熱量計の測定部にセットする。次にファーストランとして、5℃以上20℃以下を測定開始温度とし、5℃/分以上20℃/分以下の速度で100℃以上200℃以下まで昇温を行う。その後、5℃/分以上20℃/分以下で5℃以上20℃以下まで冷却する。その後、セカンドランとして再度5℃/分以上20℃/分以下で100℃以上200℃以下まで昇温を行う。このとき、
図1及び
図2に示すような吸熱曲線が得られる。
【0022】
トナーのガラス転移点は、示差走査熱量計を用いて得られる吸熱曲線における比熱の変化点である。具体的には、ファーストラン時の吸熱曲線では、
図1に示されるように、領域R1において吸熱曲線の傾き(比熱)が変化するため、ガラス転移点(Tg)を確認できる。一方、セカンドラン時の吸熱曲線では、
図2に示されるように、領域R2において吸熱曲線の傾き(比熱)はほとんど変化しない。よって、セカンドラン時にはトナーのガラス転移点(Tg)を確認できない。トナーに含有される結晶性ポリエステル樹脂の結晶性が低いため、セカンドラン時の吸熱曲線では、トナーのガラス転移点(Tg)を確認できないと考えられる。
【0023】
結晶性の高い結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーにおいて、セカンドラン時の吸熱曲線は、ファーストラン時の吸熱曲線と同様な曲線となりやすい。このため、セカンドラン時においてもガラス転移点(Tg)を確認できる。本実施形態におけるファーストラン時にガラス転移点(Tg)を確認できるが、セカンドラン時に確認できなければ、低温定着性に優れるトナーコアとなる。このようなトナーは、トナーコアに含まれる結晶性ポリエステル樹脂の結晶性が高くなく、トナーコア中の非晶性ポリエステル樹脂との相溶性が向上するためである。
【0024】
本実施形態のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂を有する結着樹脂を含有するため、低温定着性に優れる。以下、結晶性ポリエステル樹脂と、非晶性ポリエステル樹脂とについて順に説明する。
【0025】
結晶性ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合又は共縮重合によって得られる。アルコール成分としては2価又は3価以上のアルコールを使用できる。2価のアルコール成分の具体例としては、ジオール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコール)、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールA)が挙げられる。
【0026】
3価以上のアルコール成分の具体例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0027】
これらのアルコール成分の中では、ポリエステル樹脂の結晶化を促進しやすいため、炭素原子数2〜8の脂肪族ジオールが好ましく、炭素原子数が2〜8であるα,ω−アルカンジオールがより好ましい。
【0028】
結晶性ポリエステル樹脂を得るためには、アルコール成分中の炭素原子数2〜10の脂肪族ジオールの割合が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。同様に、アルコール成分に最も多量に含まれる成分(単一の化合物)の含有量が70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
【0029】
カルボン酸成分としては2価又は3価以上のカルボン酸を使用できる。2価のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、アルキルコハク酸(例えば、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸)又はアルケニルコハク酸(例えば、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸)が挙げられる。
【0030】
3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分を、エステル形成性誘導体(例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数が1から6であるアルキル基を意味する。
【0031】
これらのカルボン酸成分の中では、ポリエステル樹脂の結晶化を促進しやすいことから、炭素原子数2〜16の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素原子数が2〜16であるα,ω−アルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0032】
結晶性ポリエステル樹脂を得るためには、カルボン酸成分中の炭素原子数2〜16の脂肪族ジカルボン酸が70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。同様に、カルボン酸成分に最も多量に含まれる成分(単一の化合物)の含有量が70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
【0033】
結晶性ポリエステル樹脂とは、結晶性指数が、0.90以上1.10未満であり、好ましくは0.98以上1.05以下であるポリエステル樹脂のことである。
【0034】
結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数とは、軟化点(Tm)と融点(吸熱曲線中の最大吸熱ピークの温度、Mp
c)との比(Tm/Mp
c)から求めることができる。Tmは、後述の方法に従って測定できる。なお、ポリエステル樹脂の結晶性指数は、単量体であるアルコール成分又はカルボン酸成分の、種類、及び使用量により適宜調整できる。結晶性ポリエステル樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
結晶性ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)の測定には高化式フローテスター(例えば、株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いる。測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)を高化式フローテスターにセットし、ダイス細孔経1mm、プランジャー荷重20kg/cm
2、及び昇温速度6℃/分の条件で、1cm
3の試料を溶融流出させて
図3に示すようなS字カーブ(温度(℃)/ストローク(mm)に関するS字カーブ)を得る。このS字カーブの最初のショルダー部における温度が軟化点(Tm)である。
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)は、特に限定されないが、70℃以上100℃以下であることが好ましい。複数種類の結晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、Tmは複数の結晶性ポリエステル樹脂を均一に溶融混練した樹脂の軟化点(Tm)である。
【0037】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂はトナー中で結晶化しにくいもの、言い換えると非晶性ポリエステル樹脂と相溶しやすいもの、を添加する。通常、耐熱性と保存性とを両立させるためには、トナー中で結晶性ポリエステル樹脂をいかに結晶化させるかが重要になるが、本発明は熱硬化性成分と熱可塑性成分とを含むシェル層によって保存性を確保できるため、高い結晶化は必要なく、その分低温で溶けることに特化した材料を適応することができる。トナー中の結晶化のしやすさは示差走査熱量測定によって確認することができる。
【0038】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)の求め方を、
図4を用いて説明する。結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)は、例えば、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC6220」)を用いて測定できる。具体的には、アルミ皿に10mg以上20mg以下の結晶性ポリエステル樹脂を入れ、測定部にセットする。リファレンスには空のアルミ皿を用いる。10℃をスタートに150℃まで10℃/分で昇温させる。このとき、
図4に示すような融解熱曲線が得られる。この融解熱曲線において、観測される融解熱の最大ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)とする。
【0039】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)は80℃以上120℃以下である。融点(Mp
c)が80℃以上120℃以下である結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、更に高温でオフセットの発生を抑制できる。具体的には、融点(Mp
c)が低すぎる(80℃未満である)結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーは、高温環境下で容易に変形しやすく、高温で定着を行う際に定着ローラーに結着樹脂が付着しやすいため、耐熱保存性に劣り、高温でのオフセットの発生を抑制できない。融点(Mp
c)が高すぎる(120℃を超える)結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、トナーを被記録媒体へ定着させる際にトナーコアが溶融し難いため、低温定着性に劣る。
【0040】
非晶性ポリエステル樹脂は単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。なお、非晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数の求め方と同様の方法で求めることができ、1.10以上4.00以下であり、好ましくは1.50以上3.00以下である。
【0041】
非晶性ポリエステル樹脂を調製する場合、得られるポリエステル樹脂の結晶化を抑制する必要がある。ポリエステル樹脂の結晶化抑制方法は、特に限定されないが、一般的な結晶化抑制方法として、例えば以下の(1)〜(3)の方法があげられる。
【0042】
(1)結晶性ポリエステル樹脂について説明した結晶化を促進したアルコール成分及びカルボン酸成分を少量だけ使用するか、使用しない方法。
【0043】
(2)アルコール成分、及びカルボン酸成分として、それぞれ2種以上の化合物を使用する方法。
【0044】
(3)ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のようなアルコール成分や、アルキル置換コハク酸のようなカルボン酸成分を使用して結晶化を抑制する方法。
【0045】
これらの結晶化抑制方法の中では、単量体の種類が少なく非晶性ポリエステル樹脂の調製が容易であることから、(3)の方法がより好ましい。(3)の方法では、アルコール成分(例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物)及びカルボン酸成分(例えば、アルキル置換コハク酸)の使用量を増やすほど結晶化を抑制しやすい。しかし、これらの単量体の使用量は、得られるポリエステル樹脂の結晶性指数と、他の物性とを考慮して、適宜調整されることが好ましい。なお、非晶性ポリエステル樹脂は単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg
nc)は、特に限定されないが、50℃以上70℃以下であることが好ましく、60℃以上65℃以下であることがより好ましい。複数種類の非晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg
nc)は、複数の非晶性ポリエステル樹脂を均一に溶融混練した場合のガラス転移点である。非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg
nc)は、Mp
cの測定方法と同様の方法に従い、示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0047】
非晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)は、コアの強度及びトナーの定着性を向上させるために、39,000以上58,000以下であることが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は8以上50以下であることが好ましい。ここで、分子量分布(Mw/Mn)とは、非晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)に対する非晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)の比率である。非晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とはゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定できる。
【0048】
非晶性ポリエステル樹脂の酸価は、十分なアニオン性を有するため、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが好ましい。同様の理由から、非晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0049】
非晶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、非晶性ポリエステル樹脂を製造する際の、アルコール成分とカルボン酸成分との使用量を適宜変更することで調整できる。また、非晶性ポリエステル樹脂の分子量を上げると、非晶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価が低下する傾向がある。
【0050】
結着樹脂において、非晶性ポリエステル樹脂の含有量(Q)に対する結晶性ポリエステル樹脂の含有量(P)の比率(P/Q、質量比)が、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットを抑制するために、0.01以上1以下であることが好ましい。
【0051】
結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂とは異なる他の熱可塑性樹脂(以下、他の熱可塑性樹脂)を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として使用される熱可塑性樹脂から適宜選択される。
【0052】
結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量(P)と非晶性ポリエステル樹脂の含有量(Q)との合計は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0053】
着色剤としては、トナー粒子の色に合わせて、公知の顔料や染料を用いることができる。好適な着色剤の具体例としては以下の着色剤が挙げられる。着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0054】
黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。また、例えば、後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も、黒色着色剤として利用できる。
【0055】
トナー粒子がカラートナーである場合、用いられる着色剤としては、例えば、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤が挙げられる。
【0056】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローが挙げられる。
【0057】
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)が挙げられる。
【0058】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーが挙げられる。
【0059】
離型剤は、トナーの定着性や耐オフセット性を向上させる目的で使用される。離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
離型剤としてはワックスが好ましい。ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、又はモンタンワックスが挙げられる。これらの離型剤の中では、エステルワックスがより好ましい。エステルワックスとしては、合成エステルワックス又は天然エステルワックス(カルナウバワックス又はライスワックス)が挙げられる。合成エステルワックスであれば、合成原料を適宜選択することで離型剤の融点(Mp
r)を後述する好適な範囲に調整しやすいため、合成エステルワックスがより好ましい。これらの離型剤は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、離型剤の融点(Mp
r)は示差走査熱量計を用いて測定される。
【0061】
合成エステルワックスを製造する方法は、化学合成法であれば特に限定されない。例えば、公知の方法(酸触媒の存在下でのアルコールとカルボン酸との反応、又はカルボン酸ハライドとアルコールとの反応)を用いて合成エステルワックスを製造することができる。なお、合成エステルワックスの原料は、例えば、天然物に由来するもの(例えば、天然油脂から製造される長鎖脂肪酸)でもよいし、合成品として市販されているものでもよい。
【0062】
離型剤の融点(Mp
r)は、50℃以上80℃以下であることが好ましい。離型剤の融点(Mp
r)は示差走査熱量計を用いて測定される吸熱曲線中の最大吸熱ピークの温度である。離型剤の融点(Mp
r)が50℃以上80℃以下である離型剤を用いたトナーは、低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。
【0063】
トナーコア又はシェル層には、トナーコア中の結着樹脂の酸価を調整したり、又はシェル層の帯電性を調整したりするために電荷制御剤が使用されてもよい。
【0064】
トナーコアは、必要に応じて、結着樹脂中に磁性粉を含有させてもよい。磁性粉を含むトナーコアを含むトナー粒子を含有するトナーは、磁性1成分現像剤として使用される。好適な磁性粉としては、鉄(例えば、フェライト、又はマグネタイト)、強磁性金属(例えば、コバルト、又はニッケル)、鉄及び/又は強磁性金属を含む合金、鉄及び/又は強磁性金属を含む化合物、熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金、又は二酸化クロムが挙げられる。
【0065】
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。このような範囲の粒子径の磁性粉を用いる場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
【0066】
磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合は、トナー全量を100質量部とする場合に、35質量部以上60質量部以下であることが好ましく、40質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。また、トナーを2成分現像剤において使用する場合は、トナー全量を100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0067】
シェル層を構成する樹脂は、熱硬化性成分と熱可塑性成分とを含む。
【0068】
シェル層を構成する樹脂の熱可塑性成分は、熱硬化性成分で架橋されている。こうすることでシェル層は、熱可塑性成分に基づく適度な柔軟性と、熱硬化性成分が形成する三次元の架橋構造に基づく適度な機械的強度との両方を兼ね備える。このため、このようなシェル層を有するトナー粒子から構成されるトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れる。詳しくは、シェル層は保管時又は輸送時に容易に破壊されない。一方、定着時には、温度及び圧力が付与されることで容易に破壊され、トナーコアの軟化又は溶融が速やかに進行する。このため、低い温度でトナーを記録媒体に定着させることが可能になる。
【0069】
なお、熱可塑性成分には、官能基の導入、酸化、還元、又は原子の置き換えなど、熱可塑性成分の母体の構造又は性質を大幅に変えない程度の改変がなされた単位が含まれる。また、熱硬化性成分には、官能基の導入、酸化、還元、又は原子の置き換えなど、熱硬化性成分の母体の構造又は性質を大幅に変えない程度の改変がなされた単位が含まれる。
【0070】
熱硬化性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーは、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなる群から選択される1種以上の熱硬化性樹脂の形成に使用されるモノマー又はプレポリマーであることが好ましい。
【0071】
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーはメラミンである。尿素樹脂は尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは尿素である。グリオキザール樹脂は、グリオキザールと尿素との反応生成物とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーはグリオキザールと尿素との反応生成物である。メラミン、尿素及びグリオキザールと反応させる尿素は、公知の変性を受けていてもよい。熱硬化性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーは、シェル層の形成前にホルムアルデヒドによりメチロール化された誘導体として使用され得る。
【0072】
シェル層は、メラミン、尿素又はグリオキザールに由来する窒素原子を含むことが好ましい。これにより、窒素原子を含むシェル層を備える本実施形態のトナーは、正帯電されやすい。よって、本実施形態のトナーを正帯電させて画像を形成する場合、トナーに含まれるトナー粒子が、所望する帯電量に正帯電されやすい。トナーに含まれるトナー粒子を、所望する帯電量に正帯電させやすい点から、シェル層中の窒素原子の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
【0073】
熱可塑性成分は、熱硬化性成分が有する官能基との反応性を有する官能基を有するものが好ましい。例えば、熱可塑性成分は活性水素原子を含む官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基)を有することが好ましい。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH
2)として熱可塑性成分中に含まれてもよい。シェル層の形成が容易であるため、熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、又はカルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基等を有する熱可塑性樹脂を構成するモノマーが好ましい。
【0074】
熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーの具体例としては、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系共重合体樹脂、シリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、又はエチレンビニルアルコール共重合体を構成するモノマーが挙げられる。これらの熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーは、カルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基等を有するモノマーであってもよい。これらの中でも、熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーとしては、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系共重合体樹脂、又はシリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体を構成するモノマーが好ましく、アクリル系樹脂を構成するモノマーがより好ましい。
【0075】
アクリル系樹脂の調製に用いることができるアクリル系のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル);(メタ)アクリル酸アリールエステル(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル);(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル);(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物;アルキルエーテル(例えば、(メタ)アクリル酸エステルのエチレンオキシド付加物のメチルエーテル、エチルエーテル、n−プロピルエーテル、又はn−ブチルエーテル)が挙げられる。なお、アクリル酸及びメタクリル酸を包括的に「(メタ)アクリル酸」と総称する場合がある。
【0076】
結着樹脂の溶解、又はトナーコア中の離型剤成分の溶出が生じにくいため、シェル層の形成は水性媒体中で行われることが好ましい。このため、シェル層の形成に用いられる熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーは水溶性であることが好ましく、特に熱可塑性成分を樹脂に導入するために用いられるモノマーを水溶液として用いることが好ましい。
【0077】
シェル層の厚さは、1nm以上20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。シェル層が厚すぎると、トナーを被記録媒体へ定着させる際に圧力が加えられても、シェル層が破壊されにくい。この場合、トナーコアに含まれる結着樹脂及び離型剤の軟化又は溶融が速やかに進行せず、低温域でトナーを被記録媒体上に定着させにくい。一方、薄過ぎるシェル層は強度が低く、輸送時のような状況での衝撃によってシェル層が破壊される場合がある。ここで、高温でトナーを保存する場合、シェル層の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子は凝集しやすい。なぜなら、高温下では、シェル層における破壊された箇所を通じて、離型剤のような成分がトナー粒子の表面に染み出しやすいためである。
【0078】
シェル層の厚さは、トナー粒子の断面のTEM撮影像を市販の画像解析ソフトウェアを用いて解析することによって計測できる。市販の画像解析ソフトウェアとしては、例えば、WinROOF(三谷商事株式会社製)が挙げられる。具体的には、トナーの断面の略中心で直交する2本の直線を引き、2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定する。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を、測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとする。このようなシェル層の厚さの測定を、10個以上のトナー粒子に対して行い、測定対象の複数のトナー粒子それぞれが備えるシェル層の膜厚の平均値を求める。求められる平均値を、トナー粒子が備えるシェル層の膜厚とする。
【0079】
シェル層が薄過ぎる場合、TEM撮影像上でシェル層とトナーコアとの界面が不明瞭であるため、シェル層の厚さの測定が困難である場合がある。このような場合、TEM撮影とエネルギー分散X線分光分析(EDX)とを組み合わせて、TEM撮影像中で、シェル層の材料に特徴的な元素(例えば、窒素)のマッピングを行い、シェル層とトナーコアとの界面を明確化して、シェル層の厚さを計測すればよい。
【0080】
シェル層の厚さを調整するために、シェル層を形成するために使用される材料(熱硬化性成分、及び熱可塑性成分)の使用量を調整する。
【0081】
トナー粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。外添剤としては、シリカ、又は金属酸化物(例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム又はチタン酸バリウム)の微粒子が挙げられる。
【0082】
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0083】
本実施形態のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤において使用できる。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いることが好ましい。
【0084】
好適なキャリアとしては、キャリアコアが樹脂で被覆されたものが挙げられる。キャリアコアの具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、又はコバルトの粒子;これらの材料とマンガン、亜鉛、又はアルミニウムのような金属との合金の粒子;鉄−ニッケル合金、又は鉄−コバルト合金の粒子;セラミックス(酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、又はニオブ酸リチウム)の粒子;高誘電率物質(リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、又はロッシェル塩)の粒子;樹脂中に上記粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
【0085】
キャリアコアを被覆する樹脂の例としては、アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレンアクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、又はポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、又はアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0086】
キャリアの粒子径は、電子顕微鏡により測定され、20μm以上120μm以下であることが好ましく、25μm以上80μm以下であることがより好ましい。
【0087】
トナーを2成分現像剤において用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0088】
[トナーの製造方法]
トナーの製造方法は、トナーコアを上記の所定の材料からなるシェル層で被覆できる方法であれば特に限定されない。以下、本実施形態の静電潜像現像用トナーの好適な製造方法について説明する。この製造方法は、トナーコアを製造する工程(トナーコア製造工程)と、トナーコアの表面にシェル層を形成する工程(シェル層形成工程)とを含む。
【0089】
トナーコア製造工程は、結着樹脂中に、任意成分(着色剤、電荷制御剤、離型剤、又は磁性粉のような成分)を良好に分散させることができれば特に限定されず、公知の方法を適宜採用できる。トナーコア製造工程には、粉砕法、凝集法等が採用される。
【0090】
粉砕法は、結着樹脂と、任意成分(着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)とを混合し(混合工程)、更に混合物を溶融混練(混練工程)し、得られる混練物を粉砕し(粉砕工程)分級して(分級工程)、所望の粒子径のトナーコアを得る方法である。粉砕法によれば、トナーコアの調製が比較的容易である。しかし、粉砕工程を経てトナーコアを得るために、凝集法と比較すると、球形度の高いトナーコアを得にくい。しかし、後述するシェル層の形成工程ではシェル層の硬化反応が進行する前に、トナーコアが表面張力によって収縮するか、やや軟化することでトナーコアが球形化される。従って、本実施形態のトナーを製造する場合、トナーコアの球形度が幾分低くても大きなデメリットとはならない。
【0091】
凝集法は、例えば、凝集工程及び合一化工程を含む。凝集工程は、トナーコアを構成する成分を含む微粒子を、水性媒体中で凝集させて凝集粒子を形成させる工程である。合一化工程は、前記凝集粒子に含まれる成分を、水性媒体中で合一化させてトナーコアを形成させる工程である。トナーコアの調製方法として凝集法を用いる場合、形状が均一であり、粒子径の揃ったトナーコアを得やすい。
【0092】
トナーコアの摩擦帯電量は負極性であることが好ましく、−10μC/g以下であることがより好ましい。摩擦帯電量の測定方法について以下に述べる。日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア「N−01」)と、トナーコアとを、ターブラーミキサーを用いて30分間混合する。この時、トナーコアの使用量は、標準キャリアの質量に対して7質量%である。混合後、トナーコアの摩擦帯電量を、Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定する。このようにして測定されるトナーコアの摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかの指標と、トナーコアの帯電されやすさの指標となる。
【0093】
トナーコアは、pH4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が、負極性であることが好ましく、−10mV以下であることがより好ましい。pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法について以下に述べる。トナーコア0.2gと、イオン交換水80mLと、ノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、日本触媒株式会社製「K−85」、濃度1質量%)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得る。その後、希塩酸を加えて分散液のpHを4に調整する。この分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「Delsa Nano HC」)を用いて測定する。
【0094】
通常、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成する場合、分散剤を含む水性媒体中でトナーコアを十分に分散させておく必要がある。しかし、トナーコアについて、上記の特定の条件で測定される標準キャリアとの摩擦帯電量が所定の範囲内である場合、水性媒体中で、トナーコアと、含窒素化合物であって水性媒体中で正に帯電する熱硬化性成分とのうちの一方が他方に電気的に引き寄せられる。そして、トナーコアの表面では、トナーコアに吸着された熱硬化性成分と熱可塑性成分との反応が良好に進行する。このため、分散剤を用いずとも、均一にシェル層を形成できる。トナー粒子を製造する際に、排水負荷の非常に高い分散剤を用いないことによって、排水を希釈することなく排出される排水の全有機炭素濃度を15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
【0095】
トナーコアのpH4の水性媒体中でのゼータ電位が所定の範囲内である場合にも、水性媒体中でトナーコアの表面にシェル層を形成する際に同様の効果が得られる。
【0096】
シェル層形成工程においては、トナーコアを被覆するようにシェル層が形成される。シェル層は、メラミン、尿素、若しくはグリオキザールと尿素との反応生成物、又はこれらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)と、熱可塑性成分とを用いて形成されることが好ましい。また、シェル層の形成に用いる溶媒に対する結着樹脂の溶解を防いだり、又はトナーコアに含まれる離型剤のような成分の溶出を防いだりする必要があるため、水のような溶媒中でシェル層の形成が行われることが好ましい。
【0097】
シェル層の形成は、トナーコアを含む水性分散液に、シェル層の材料を添加して行われることが好ましい。水性媒体中にトナーコアを良好に分散させるためには、例えば、分散液を強力に攪拌できる装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスミックス」)を用いてトナーコアを水性媒体中に機械的に分散させる方法、分散剤を含有する水性媒体中でトナーコアを分散させる方法が挙げられる。
【0098】
上記水性分散液のpHは、シェル層を形成するための材料を添加する前に、酸性物質を用いて4程度に調整されることが好ましい。分散液のpHを酸性側に調整することで、後述するシェル層を形成するための材料の重縮合反応が促進される。
【0099】
必要に応じて上記水性分散液のpHを調整した後、水性媒体中で、シェル層を形成するための材料とトナーコアとを混合する。その後、水性分散液中で、トナーコアの表面でのシェル層を形成するための材料間の反応を進行させて、トナーコアの表面を被覆するようにシェル層を形成する。
【0100】
トナーコアの表面でシェル層を形成する際の温度は、シェル層の形成が良好に進行するために、40℃以上95℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0101】
上記のようにしてシェル層を形成した後、シェル層で被覆されたトナーコアを含む水性分散液を常温まで冷却して、トナー粒子(トナー母粒子)の分散液を得る。その後、必要に応じて、トナー粒子を洗浄する工程(洗浄工程)、トナー粒子を乾燥する工程(乾燥工程)、及びトナー母粒子の表面に外添剤を付着させる工程(外添工程)から選択される1以上の工程を経て、トナー粒子の分散液からトナーが回収される。
【0102】
洗浄工程では、トナー粒子(トナー母粒子)を水を用いて洗浄する。好適な洗浄方法としては、トナー粒子を含む水性分散液から、固液分離によりトナー粒子をウエットケーキとして回収し、得られるウエットケーキを、水を用いて洗浄する方法;トナー粒子を含む分散液中のトナー粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー粒子を水に再分散させる方法が挙げられる。
【0103】
乾燥工程では、トナー粒子(トナー母粒子)を乾燥させる。トナー粒子を乾燥させる好適な方法としては、乾燥機(例えば、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥機又は減圧乾燥機)を用いる方法が挙げられる。これらの方法の中では、乾燥中のトナー粒子の凝集を抑制するため、スプレードライヤーを用いる方法が好ましい。スプレードライヤーを用いる場合、トナー粒子の分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液を噴霧することによって、トナー粒子の表面に外添剤を付着することができる。
【0104】
外添工程では、トナー粒子(トナー母粒子)の表面に外添剤を付着させる。外添剤を付着させる好適な方法としては、外添剤がトナー粒子表面に埋没しないような条件で、混合機(例えば、FMミキサー又はナウターミキサー(登録商標))を用いて、トナー粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
【0105】
以上説明した本発明の静電潜像現像用トナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できる。このため、本発明の静電潜像現像用トナーは、種々の画像形成装置で好適に使用できる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0107】
[結晶性ポリエステル樹脂A〜F]
表1に示すような物性を有する結晶性ポリエステル樹脂A〜Fを準備した。
【0108】
【表1】
【0109】
[非晶性ポリエステル樹脂A〜C]
表2に示すような物性を有する非晶性ポリエステル樹脂A〜Cを準備した。
【0110】
【表2】
【0111】
なお、結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)の測定には高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した。測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)を高化式フローテスターにセットし、ダイス細孔経1mm、プランジャー荷重20kg/cm
2、及び昇温速度6℃/分の条件で、1cm
3の試料を溶融流出させてS字カーブ(温度(℃)/ストローク(mm)に関するS字カーブ)を得た。このS字カーブの最初のショルダー部における温度を軟化点(Tm)とした。
【0112】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)は、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC6220」)を用いて、測定した。アルミ皿に10mgの結晶性ポリエステル樹脂を入れ、測定部にセットした。リファレンスには空のアルミ皿を用いた。10℃をスタートに150℃まで10℃/分で昇温させた。この融解熱曲線において、観測される融解熱の最大ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp
c)とした。
【0113】
上記方法により測定された、結晶性ポリエステル樹脂A〜F及び非晶性ポリエステル樹脂A〜Cの軟化点(Tm)及び融点(Mp
c)を用いて、これら樹脂それぞれの結晶性指数(Tm/Mp
c)を算出した。
【0114】
[離型剤A〜C]
以下の離型剤A〜Cを準備した。
離型剤A:エステルワックス(日油株式会社製「WEP−3」、融点(Mp
r):75℃)
離型剤B:エステルワックス(日油株式会社製「WEP−2」、融点(Mp
r):60℃)
離型剤C:エステルワックス(日油株式会社製「WEP−8」、融点(Mp
r):80℃)
【0115】
以下の熱可塑性成分A〜Dを準備した。
熱可塑性成分A:水溶性ポリアクリルアミド(DIC株式会社製「BECKAMINE(登録商標) A−1」、固形分濃度11質量%の水溶液)
熱可塑性成分B:アクリルアミド系共重合体(単量体組成:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル/アクリルアミド/メタクリル酸−メトキシポリエチレングリコール=30/50/20(モル比率)、固形分濃度5質量%の水溶液、ガラス転移点(Tg
nc):110℃、質量平均分子量:55,000)
熱可塑性成分C:シリコーン−アクリルグラフト共重合体(東亞合成株式会社製「サイマック US−480」、固形分濃度25質量%の水溶液)
熱可塑性成分D:水溶性ウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス170」、固形分濃度30質量%の水溶液)
【0116】
実施例1
[トナーコアの調製]
結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂Aを22.5質量部、非晶性ポリエステル樹脂Aを67.5質量部、着色剤(C.I.ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン)を5質量部、及び離型剤Aを5質量部とを、混合機(FMミキサー)を用いて混合し、混合物を得た。
【0117】
次いで、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて溶融混練して、混練物を得た。混練物を機械式粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル」)を用いて粉砕し、粉砕物を得た。粉砕物を分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェット」)を用いて分級し、体積中位径(D
50)が6.0μmのトナーコアを得た。トナーコアの体積中位径は、コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した。このトナーコアの一部を取り出し、標準キャリアとの摩擦帯電量の測定とpH4の分散液中のゼータ電位の測定とに用いた。
【0118】
実施例1のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は−20μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は−30mVであった。標準キャリアとの摩擦帯電量とpH4の分散液中でのゼータ電位との測定は下記に示すように行った。
【0119】
<標準キャリアとの摩擦帯電量の測定方法>
日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)と、標準キャリアの質量に対して7質量%のトナーコアとを、ターブラーミキサーを用いて30分間混合した。得られた混合物を測定試料として、標準キャリアと摩擦させた場合のトナーコアの摩擦帯電量を、Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定した。このようにして測定される摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかと、トナーコアの帯電されやすさの指標となる。
【0120】
<pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法>
トナーコア0.2gを、1%濃度のノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、K−85、日本触媒株式会社製)20gを溶解させたイオン交換水80g(mL)に加え、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得た。その後、分散液に希塩酸を加えて、分散液のpHを4に調整し、pH4のトナーコアの分散液を得た。pH4のトナーコアの分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(Delsa Nano HC、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した。
【0121】
[シェル層形成工程]
温度計、及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた後、ウォーターバスを用いてフラスコ内部の温度を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。pH調整後、フラスコ内に、シェル層の原料として、ヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液(昭和電工株式会社製「ミルベン(登録商標)レジンSM−607」、固形分濃度80質量%)2mLと、熱可塑性成分Aの水溶液(固形分濃度11質量%の水溶性ポリアクリルアミドの水溶液)2mLとを添加した。次いで、フラスコの内容物を攪拌し、シェル層の原料を水性媒体に溶解させ、シェル層の原料の水溶液(A)を得た。
【0122】
水溶液(A)が入った3つ口フラスコに、トナーコア300gを添加し、フラスコの内容物を、200rpmの速度で1時間攪拌した。次いで、イオン交換水300mLを追加し、100rpmで攪拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内部の温度を70℃まで上げた。昇温後、70℃かつ100rpmで、フラスコの内容物を2時間攪拌し続けた。その後、水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を常温まで冷却して、トナー母粒子を含む分散液を得た。
【0123】
[洗浄工程]
ブフナーロートを用いて、トナー母粒子を含む分散液からトナー母粒子のウエットケーキをろ取した。このウエットケーキをイオン交換水に分散させてトナー母粒子を洗浄した。同様の洗浄を5回繰り返した。
【0124】
ここでトナー母粒子を含む分散液のろ液と洗浄工程に供した洗浄水とを、排水として回収した。回収された排水の量は、乾燥工程後に得られたトナー100質量部に対して97質量部であった。回収された排水に含まれる全有機炭素(TOC)の濃度は8mg/Lであった。排水中の全有機炭素濃度を、TOC計(株式会社島津製作所製「TOC−4200」)を用いて測定した。
【0125】
[乾燥工程]
トナー母粒子のウエットケーキを、エタノール水溶液(濃度50質量%)に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)に供給することにより、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた(乾燥条件は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m
3/分)。
【0126】
[外添工程]
乾燥後のトナー母粒子100質量部と、外添剤としてのシリカ(日本アエロジル(登録商標)株式会社製「REA90」)1.0質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合し、トナー母粒子表面にシリカを付着させた。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別し、実施例1のトナーを得た。
【0127】
[実施例2〜3]
ヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液の添加量と、熱可塑性成分A(ポリアクリルアミドの水溶液)の添加量とを、表3に記載したように変更した以外は、実施例1と概ね同様の手法で、実施例2〜3のトナーを得た。
【0128】
[実施例4]
3.2mLのヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液を、4.0mLのグリオキサール系モノマーの水溶液(DIC株式会社製「BECKAMINE(登録商標) NS−11」、固形分濃度40質量%)に変更し、グリオキサール系モノマーの水溶液と共に、2mLの複合金属触媒水溶液(DIC株式会社製「CATALIST GT−3」)を添加し、更に、熱可塑性成分Aの添加量を2.0mLにした以外は、実施例1と概ね同様の手法で、実施例4のトナーを得た。
【0129】
[実施例5]
3.2mLのヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液を、4mLのメチロール化尿素の水溶液(DIC株式会社製、「BECKAMINE(登録商標) J−300S」、固形分濃度70質量%)に変更し、メチロール化尿素の水溶液と共に、2mLの有機アミン触媒水溶液(DIC株式会社製、「CATALIST 376」)を添加し、更に、熱可塑性成分Aの添加量を2.0mLにした以外は、実施例1と概ね同様の手法で、実施例5のトナーを得た。
【0130】
[実施例6〜8]
熱可塑性成分Aを、それぞれ、熱可塑性成分B、C、又はDに変更した以外は、実施例2とおおむね同様の手法で、実施例6〜8のトナーを得た。
【0131】
[実施例9〜10]
ヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液の添加量と、熱可塑性成分A(ポリアクリルアミドの水溶液)の添加量とを、それぞれ、表3に記載したように変更した以外は、実施例1と概ね同様の手法で、実施例9〜10のトナーを得た。
【0132】
[実施例11〜12]
結晶性ポリエステル樹脂の種類を、それぞれ表4に記載したように変更した以外は、実施例2と概ね同様の手法で、実施例11〜12のトナーを得た。実施例11〜12のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は、それぞれ−16μC/g及び−11μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は、それぞれ−21mV及び−15mVであった。
【0133】
[実施例13〜14]
結晶性ポリエステル樹脂と、非晶性ポリエステル樹脂との使用量を、それぞれ、表4に記載したように変更した以外は、実施例2と概ね同様の手法で、実施例13〜14のトナーを得た。
【0134】
[実施例15〜16]
非晶性ポリエステル樹脂の種類を、表4に記載したように変更した以外は、実施例2と概ね同様の手法で、実施例15〜16のトナーを得た。実施例15〜16のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は、それぞれ−15μC/g及び−19μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は、それぞれ−26mV及び−28mVであった。
【0135】
[実施例17〜18]
離型剤の種類を、表4に記載したように変更した以外は、実施例2と概ね同様の手法で、実施例17〜18のトナーを得た。実施例17〜18のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は、それぞれ−15μC/g及び−19μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は、それぞれ−26mV及び−28mVであった。
【0136】
[比較例1]
ヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液の添加量を4.0mLに変更し、熱可塑性成分の水溶液を用いなかった以外は、実施例1と概ね同様の手法で、比較例1のトナーを得た。
【0137】
[比較例2]
ヘキサメチロールメラミン初期重合体の水溶液を用いず、更に熱可塑性成分Aの水溶液の添加量を4.0mLに変更した以外は、実施例1と概ね同様の手法で、比較例2のトナーを得た。
【0138】
[比較例3〜5]
結晶性ポリエステル樹脂の種類を、表5に記載したように変更した以外は、実施例2と概ね同様の手法で、比較例3〜5のトナーを得た。比較例3〜5のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は、それぞれ−37μC/g、−14μC/g及び−18μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は、それぞれ−41mV、−25mV及び−28mVであった。
【0139】
[比較例6]
シェル層の形成工程を行わず、トナーコアをトナー母粒子として用いた。トナー母粒子を実施例1と概ね同様の手法で外添処理し、比較例6のトナーを得た。
【0140】
[比較例7]
結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を用いなかった以外は、実施例2と概ね同様の手法を用いて、比較例7のトナーを得た。比較例7のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は、−50μC/gであり、pH4の分散液中でのゼータ電位は、−65mVであった。
【0141】
実施例1〜18及び比較例1〜7で得られたトナーの測定方法・評価方法は、以下の通りである。
【0142】
(1)セカンドランにおけるトナーのガラス転移点(Tg)の有無
アルミ皿に10mgのトナーを入れ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC6220」)の測定部にセットした。ファーストランとして10℃を測定開始温度とし、10℃/分の速度で150℃まで昇温を行った。その後10℃/分で10℃まで冷却した。続いて、セカンドランとして再度10℃/分で150℃まで昇温を行った。ここで、セカンドランの吸熱曲線において、ファーストランの吸熱曲線で観測できたトナーのガラス転移点の有無を確認した。
【0143】
(2)シェル層の厚さ
実施例1〜18、並びに比較例1〜5及び7のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を、以下の方法に従って撮影した。なお、比較例6のトナーは、シェル層の形成工程を行っていないため、シェル層の厚さを測定することができなかった。トナー粒子の断面のTEM写真から、以下の方法に従って、シェル層の厚さを測定した。
【0144】
<トナー粒子の断面のTEM写真の撮影方法>
まず、トナーを常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散させ、40℃の雰囲気に2日間静置し、硬化物を得た。得られた硬化物を、四酸化オスミウムを用いて染色した。その後、得られた硬化物から、ミクロトーム(ライカ株式会社製「EM UC6」)を用いて、厚さ200nmのトナー粒子の断面観察用の薄片試料を切り出した。得られた薄片試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて倍率3000倍及び10000倍で観察し、トナー粒子の断面のTEM写真を撮影した。
【0145】
(3)耐熱保存性
実施例1〜18、及び比較例1〜7のトナーについて、以下の方法に従って、耐熱保存性を評価した。
【0146】
トナー2gを容量20mLのポリ容器に秤量し、60℃に設定された恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、耐熱保存性評価用のトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下記式に従って凝集度(%)を算出した。算出された凝集度から、下記基準に従って耐熱保存性を評価した。「○(良い)」の評価を合格とした。
凝集度(%)=(篩上に残留したトナーの質量/篩別前のトナーの質量)×100
○(良い):凝集度が30%以下である。
×(良くない):凝集度が30%を超える。
【0147】
[2成分現像剤の調製]
実施例1〜18、及び比較例1〜7のトナーについて、以下の方法に従って、低温定着性、及び耐高温オフセット性を評価した。低温定着性、及び耐高温オフセット性の評価には、以下の方法に従って調製した2成分現像剤と実施例1〜18、及び比較例1〜7のトナーを用いた。
【0148】
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製のTASKalfa5550用キャリア)と、キャリアの質量に対して10質量%のトナー(実施例1〜18、及び比較例1〜7のトナーのうち何れか)とを、ボウルミルを用いて30分間混合し、評価用の2成分現像剤を調製した。
【0149】
(4)低温定着性
評価機として、定着温度を調節できるように改造したプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)を用いた。上述のようにして調製した何れかの2成分現像剤を評価機の現像部に投入し、上記の2成分現像剤に対応するトナーを評価機のトナーコンテナに投入した。評価機において、線速を200mm/秒、及びトナー載り量を1.0mg/cm
2に設定して、被記録媒体に未定着のベタ画像が形成された。定着温度を100℃以上200℃以下の範囲で、評価機の定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のベタ画像を定着させた。ベタ画像を定着させた被記録媒体を、画像を形成した面が内側となるように半分に折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。次いで、被記録媒体を広げ、折り曲げ部のトナーの剥がれが1mm以下の場合を「○(合格)」と判定し、1mmを超える場合を「×(不合格)」と判定した。トナーの剥がれが「○(合格)」と判定される最低の定着温度を、最低定着温度とした。低温定着性を、下記基準に従って評価した。
○(合格):最低定着温度が135℃以下である。
×(不合格):最低定着温度が135℃を超える。
【0150】
(5)耐高温オフセット性
低温定着性の評価と同様の評価機、及び被記録媒体を用い、同様の条件で、被記録媒体に未定着のベタ画像を形成した。評価機の定着装置の定着温度を170℃から10℃ずつ上昇させて、10℃毎にオフセットが発生する最低温度(第一オフセット発生温度)を確認した。次いで、評価機の定着装置の定着温度を、第一オフセット発生温度より10℃低い温度から1℃ずつ上昇させて、1℃毎にオフセットが発生する最低温度を確認した。評価機の定着装置の定着温度を1℃ずつ上昇させた際に、オフセットが発生した最低温度をオフセット発生温度とした。耐高温オフセット性を、下記基準に従って評価した。
○(良い):オフセット発生温度が210℃以上である。
×(良くない):オフセット発生温度が210℃未満である。
【0151】
実施例1〜18、及び比較例1〜7にて得られたトナーの評価結果を、表3〜表5に示す。なお、表3〜5において「P/Q」は、非晶性ポリエステル樹脂の使用量Qに対する結晶性ポリエステル樹脂の使用量Pの比率(質量比)を示す。また、表5中、「−」は添加しなかったことを示す。
【0152】
【表3】
【0153】
【表4】
【0154】
【表5】
【0155】
実施例1〜18から明らかなように本実施形態のトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できることが理解できる。
【0156】
比較例1によれば、シェル層が熱可塑性成分を含まない樹脂からなるトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが理解できる。その理由は以下の通りであると推測される。熱硬化性成分と熱可塑性成分とを含む樹脂は、熱可塑性成分に起因して柔軟性を有する。一方で、熱硬化性成分のみからなるシェル層は、高度に架橋されているため固すぎる。このため、比較例1のトナーは定着時にトナー粒子に温度及び圧力が付与されても、シェル層が容易に破壊されず、定着されにくい。
【0157】
比較例2によれば、シェル層が熱硬化性成分を含まない樹脂から形成されたトナー粒子を含むトナーである場合は、耐熱保存性に劣ることが理解できる。その理由は以下の通りであると推測される。シェル層に含まれる樹脂が熱可塑性成分のみを含有する場合は、熱可塑性成分の分子間の架橋反応を起こさないため、比較例2のトナーに含まれるトナー粒子は、所望する状態のシェル層を備えていない。このため、比較例2では、トナーコアに含まれる離型剤のような成分のトナー粒子表面への染み出しが容易に生じ、耐熱保存性に劣る。
【0158】
比較例3から、結着樹脂として融点(Mp
c)が低すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣り、高温でのオフセットを抑制しにくいことが理解できる。その理由は、比較例3のトナーに含まれるトナー粒子は、高温環境下で変形しやすいためであると考えられる。
【0159】
比較例4から、結着樹脂として融点(Mp
c)が高すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが理解できる。
【0160】
比較例5から、セカンドランの吸熱曲線にトナーのガラス転移点を確認できるものは結晶性が高いと判断されるため、結晶化していない場合と比べ、低温定着性で劣っていると推察される。
【0161】
比較例6から、シェル層が形成されていないトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣り、高温でのオフセットを抑制しにくいことが理解できる。その理由は、比較例6のトナーに含まれるトナー粒子では、シェル層がないため、離型剤のような成分がトナー粒子表面へ容易に染み出すためであると推測される。
【0162】
比較例7から、結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含まないトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが理解できる。