特許第6043331号(P6043331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043331難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043331
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20161206BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 11/22 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20161206BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C08L23/00
   C08K3/26
   C08K3/22
   C08K5/09
   C08K3/38
   H01B7/34 B
   H01B11/22
   H01B7/02 Z
   H01B7/18 H
   H01B3/44 F
   H01B3/44 G
   H01B3/44 P
   G02B6/44 301A
   G02B6/44 381
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-236117(P2014-236117)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2016-98311(P2016-98311A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(74)【代理人】
【識別番号】100126745
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100188363
【弁理士】
【氏名又は名称】長沢 豊
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠佳
(72)【発明者】
【氏名】中村 詳一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知久
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−169389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08K 3/22
C08K 3/26
C08K 3/38
C08K 5/09
G02B 6/44
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 7/17
H01B 7/295
H01B 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部以上125質量部以下の割合で配合される水酸化アルミニウムと、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物と、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以上7質量部以下の割合で配合される亜鉛含有無機化合物とを有し、
前記炭酸カルシウム粒子と水酸化アルミニウムが合計で前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して55質量部以上130質量部以下の割合で配合され、
前記脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウムで構成され、
前記亜鉛含有無機化合物がヒドロキシ錫酸亜鉛又はホウ酸亜鉛で構成される難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層とを有する絶縁電線を備えており、
前記絶縁層が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物で構成されるケーブル。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
前記絶縁層を覆うシースを有するケーブルであって、
前記絶縁層と前記シースの少なくとも一方が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物で構成されるケーブル。
【請求項5】
光ファイバと、
前記光ファイバを被覆する絶縁層とを有する光ファイバケーブルであって、
前記絶縁層が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物で構成される光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
優れた機械的特性を確保しながら優れた難燃性をも確保できる難燃性樹脂組成物として、ポリオレフィン樹脂に、難燃剤として平均粒径1.2μm以上の炭酸カルシウムを添加するとともに、難燃助剤としてシリコーン油などのシリコーン系化合物やステアリン酸マグネシウムを添加してなる難燃性樹脂組成物が知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−94969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物はJIS C3665−1に準拠した垂直一条試験に合格する程度の難燃性を有している。この垂直一条試験とは、まず上述の難燃性樹脂組成物を絶縁層に用いたケーブルを作成する。ついで前述のケーブルを1本垂直に吊るした状態で着火する。そして着火後の延焼の度合を測定し、延焼度合が一定以下のものを合格とする試験である。ところが、通常ケーブルは複数本まとめて敷設される(以下、多条敷設とする)場合が多い。このような、多条敷設されたケーブルに火が付いた場合、互いの相互作用により非常に高い熱量が発生するため、垂直一条試験に合格するような難燃性樹脂組成物を用いたケーブルであっても延焼する場合があり、十分な難燃性を有しているとは言えないことが分かった。
【0005】
このため、優れた機械的特性を確保しながら、より優れた難燃性を確保できる難燃性樹脂組成物が求められていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性を確保できる燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、種々の検討を行ったところ、上記特許文献1記載の難燃性樹脂組成物に、水酸化アルミニウムと、亜鉛含有無機化合物とを所定の割合で配合した場合、優れた機械的特性を確保しながら、より優れた難燃性を確保することができることを本発明者らは見出した。こうして本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ポリオレフィン樹脂と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部以上125質量部以下の割合で配合される水酸化アルミニウムと、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以上7質量部以下の割合で配合される亜鉛含有無機化合物とを有し、前記炭酸カルシウム粒子と前記水酸化アルミニウムが合計で前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して55質量部以上130質量部以下の割合で配合され、前記脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウムで構成され、前記亜鉛含有無機化合物がヒドロキシ錫酸亜鉛又はホウ酸亜鉛で構成されることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性を確保することができる。
【0010】
なお、本発明者らは、本発明の難燃性樹脂組成物において、より優れた難燃性が得られる理由について以下のように推察している。
【0011】
すなわち、炭酸カルシウム粒子とシリコーン系化合物と脂肪酸含有化合物とを用いることで、燃焼時に樹脂表面にバリア層が形成され、延焼を阻害することができる。また、水酸化アルミニウムは燃焼の初期において脱水吸熱反応を起こすことから、多条敷設の場合でも熱量を抑えることができ、難燃性樹脂への着火や燃焼継続を抑制することができる。さらに、亜鉛含有無機化合物は水酸化アルミニウムの脱水吸熱反応を促進する効果を有すると考えている。この燃焼の初期における脱水吸熱反応と、延焼を防止するバリヤ層の形成との相乗効果により難燃効果が高まったのではないかと考えられる。
【0012】
上記難燃性樹脂組成物においては、前記炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm以
上であることが好ましい。
【0013】
この場合、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm未満である場合に比べて、より
優れた難燃性が得られる。
【0018】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを有する絶縁電線を備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
【0019】
さらに本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、前記絶縁層を覆うシースを有するケーブルであって、前記絶縁層と前記シースの少なくとも一方が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
【0020】
加えて本発明は、光ファイバと、前記光ファイバを被覆する絶縁層とを有する光ファイバケーブルであって、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成される光ファイバケーブルである。
【0021】
なお、本発明において、「平均粒径」とは、複数個の炭酸カルシウム粒子をSEMで観察したときの2次元画像の面積Sをそれぞれ求め、これらの面積Sをそれぞれ円の面積に等しいと考え、これらの面積から下記式:
R=2×(S/π)1/2
に基づいてそれぞれ算出したRの平均値を言うものとする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。
図2図1のII−II線に沿った断面図である。
図3】本発明の光ファイバケーブルの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図1図3を用いて詳細に説明する。
【0025】
[ケーブル]
図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図であり、図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1及び図2に示すように、ケーブル10は、1本の絶縁電線4と、1本の絶縁電線4を被覆するシース3とを備えている。そして、絶縁電線4は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
【0026】
[光ファイバケーブル]
また、図3は、本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態であり、インドア型光ファイバケーブルを示す断面図である。図3に示すように、光ファイバケーブル20は、1本の光ファイバ11と、2本のテンションメンバ12と光ファイバ11とテンションメンバ12とを被覆するシース13とを有している。なお、テンションメンバは鋼線等、引張張力の高い材料で構成されている。
【0027】
ここで、絶縁層2及びシース3、13は難燃性樹脂組成物で構成されており、この難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部以上125質量部以下の割合で配合される水酸化アルミニウムと、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以上7質量部以下の割合で配合される亜鉛含有無機化合物とを有し、前記炭酸カルシウム粒子と前記水酸化アルミニウムの合計が前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して55質量部以上130質量部以下である。
【0028】
上記難燃性樹脂組成物は、優れた機械的特性確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。このため、上記難燃性樹脂組成物で構成される絶縁層2及びシース3、13は、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。このため、ケーブル10及び光ファイバケーブル20は、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。
【0029】
[ケーブルの製造方法]
次に、上述したケーブル10の製造方法について説明する。
【0030】
(導体)
まず内部導体1を準備する。内部導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、内部導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0031】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、ポリオレフィン樹脂と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、50質量部以上125質量部以下の割合で配合される水酸化アルミニウムと、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以上7質量部以下の割合で配合される亜鉛含有無機化合物とを有し、前記炭酸カルシウム粒子と前記水酸化アルミニウムの合計が前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して55質量部以上130質量部以下である。
【0032】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、例えばエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂などが挙げられる。これらは1種類単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。ここで、エチレン系樹脂とは、エチレンを構成単位として含む樹脂を言い、エチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂(PE)、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などが挙げられる。またプロピレン系樹脂としては、プロピレンを構成単位として含む樹脂を言い、例えばポリプロピレン樹脂(PP)などが挙げられる。
【0033】
(炭酸カルシウム粒子)
炭酸カルシウム粒子は、重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムのいずれでもよい。炭酸カルシウム粒子の平均粒径は、上述したように1.2μm以上であることが好ましい。この場合、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。また、炭酸カルシウム粒子の平均粒径は、8.0μm以下であることが好ましい。この場合、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が8.0μm以上である場合に比べて、優れた機械的特性を得ることができる。
【0034】
炭酸カルシウム粒子は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の割合で配合される。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウム粒子の配合割合が5質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。
【0035】
(水酸化アルミニウム)
水酸化アルミニウムは、ポリオレフィン樹脂中に分散が可能であれば特に制限されない。水酸化アルミニウムは、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部以上125質量部以下の割合で配合される。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する水酸化アルミニウムの配合割合が50質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。
【0036】
ここで、炭酸カルシウム粒子と水酸化アルミニウム粒子の配合割合の合計はポリオレフィン樹脂100質量部に対して55質量部以上130質量部以下である。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウム粒子と水酸化アルミニウムの配合割合の合計が55質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウム粒子と水酸化アルミニウムの配合割合の合計が130質量部より大きい場合に比べてより優れた機械特性を得ることができる。
【0037】
また、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウム粒子と水酸化アルミニウムの配合割合の合計は55質量部以上100質量部以下であることが好ましい。この場合、より優れた難燃性と機械特性を両立させることができる。
【0038】
(シリコーン系化合物)
シリコーン系化合物は、難燃助剤として機能するものであり、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。ここで、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし側鎖に有機基を有するものであり、有機基としては、例えばメチル基、ビニル基、エチル基、プロピル基、フェニル基などが挙げられる。具体的にはポリオルガノシロキサンとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、メチルオクチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサンなどが挙げられる。ポリオルガノシロキサンとして、シリコーンパウダー、シリコーンガム及びシリコーンレジンが挙げられる。中でも、シリコーンガムが好ましい。この場合、ブルームが起こりにくくなる。
【0039】
シリコーン系化合物は、上述したようにポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合される。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の割合が1質量部以下である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が10質量部より大きい場合と比べて、ブルームが起こりにくくなる。
【0040】
シリコーン系化合物は、炭酸カルシウムの表面に予め付着させておいてもよい。この場合、難燃性樹脂組成物中に含まれる各炭酸カルシウムの全体がシリコーン系化合物で被覆されていることが好ましい。この場合、炭酸カルシウムをポリオレフィン樹脂中に容易に分散させることができるため、難燃性樹脂組成物における特性の均一性がより向上する。また難燃性樹脂組成物の押出加工時のシリコーン系化合物のブリードアウトを抑制することができる。
【0041】
炭酸カルシウムの表面にシリコーン系化合物を付着させる方法としては、例えば炭酸カルシウムにシリコーン系化合物を添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザなどにより粉砕することによって得ることができる。
【0042】
(脂肪酸含有化合物)
脂肪酸含有化合物は、難燃助剤として機能するものである。脂肪酸含有化合物とは、脂
肪酸又はその金属塩を含有するものを言う。脂肪酸としては、例えば炭素原子数が12〜28である脂肪酸が用いられる。このような脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ベヘン酸及びモンタン酸が挙げられる。中でも、脂肪酸としては、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。この場合、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸以外の脂肪酸を用いる場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
【0043】
脂肪酸の金属塩を構成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などが挙げられる。脂肪酸の金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムが好ましい。この場合、より優れた難燃性が得られる。
【0044】
脂肪酸含有化合物は、上述したようにポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される。
【0045】
この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する脂肪酸含有化合物の割合が3質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が20質量部より大きい場合と比べて、ブルームが起こりにくくなる。
【0046】
(亜鉛含有無機化合物)
亜鉛含有無機化合物は亜鉛を少なくとも含んでおり、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛などが挙げられる。中でもホウ酸亜鉛とヒドロキシスズ酸亜鉛が好ましい。この場合、ホウ酸亜鉛又はヒドロキシスズ酸亜鉛以外の亜鉛含有無機化合物を用いる場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
【0047】
亜鉛含有無機化合物は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以上7質量部以下の割合で配合される。
【0048】
この場合、亜鉛含有無機化合物の配合割合が上記範囲内にあると、亜鉛含有無機化合物の配合割合が1質量部未満である場合に比べて、難燃性が顕著に向上する。一方、亜鉛含有無機化合物の配合割合が7質量部より大きい場合に比べて、難燃性が顕著に向上する。
【0049】
なお、亜鉛含有無機化合物の配合割合はポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。この場合、より優れた難燃性を得ることができる。
【0050】
上記難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、滑剤、カーボンブラックなどの充填剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0051】
上記難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリコーン系化合物、脂肪酸含有化合物、亜鉛含有無機化合物を混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。このとき、シリコーン系化合物の分散性を向上させる観点からは、ポリオレフィン樹脂の一部とシリコーン系化合物とを混練し、得られたマスターバッチ(MB)を、残りのポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、脂肪酸もしくは脂肪酸の金属塩、及び多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物等と混錬しても良い。
【0052】
次に、上記難燃性樹脂組成物で内部導体1を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練し、チューブ状の押出物を形成する。そして、このチューブ状押出物を内部導体1上に連続的に被覆する。こうして絶縁電線4が得られる。
【0053】
(シース)
最後に、上記のようにして得られた絶縁電線4を1本用意し、これら絶縁電線4を、上述した難燃性樹脂組成物を用いて作製したシース3で被覆する。シース3は、絶縁層2を物理的又は化学的な損傷から保護するものである。
【0054】
以上のようにしてケーブル10が得られる。
【0055】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではケーブル10は1本の絶縁電線4を有しているが、本発明のケーブルは1本の絶縁電線4を有するケーブルに限定されるものではなく、シース3の内側に絶縁電線4を2本以上有していてもよい。またシース3と絶縁電線4との間には、ポリプロピレン等からなる樹脂部が設けられていてもよい。
【0056】
また上記実施形態では、絶縁電線4の絶縁層2及びシース3が上記難燃性樹脂組成物で構成されているが、絶縁層2が通常の絶縁樹脂で構成され、シース3のみが、上記難燃性樹脂組成物で構成されてもよい。
【0057】
[光ファイバケーブルの製造方法]
さらに、上述した光ファイバケーブル20の製造方法について説明する。
【0058】
まず光ファイバ11とテンションメンバ12と上述した難燃性樹脂組成物を準備する。
【0059】
次に、上述した難燃性樹脂組成物を光ファイバ11およびテンションメンバ12を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練する。そして、図3に示すように並べた光ファイバ11およびテンションメンバ12上に、押出機から図3に示す断面形状を有する筒状の押出物を押し出すことで、この筒状の押出物を光ファイバ11およびテンションメンバ12上に連続的に被覆する。こうして光ファイバケーブル20が得られる。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記難燃性樹脂組成物が適用可能であるならば、どのような形式のケーブルであっても構わない。
【実施例1】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1〜12及び比較例1〜8)
ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム粒子、水酸化アルミニウム、シリコーン系化合物(シリコーンMB)、脂肪酸含有化合物及び亜鉛含有無機化合物及び無機化合物を、表1〜4に示す配合量で配合し、バンバリーミキサによって160℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。なお、表1〜4において、各配合成分の配合量の単位は質量部である。また表1〜4において、ポリオレフィン樹脂の配合量が100質量部となっていないが、シリコーンMB中にも樹脂が含まれており、ポリオレフィン樹脂とシリコーンMB中の樹脂とを合計すればポリオレフィン樹脂の合計量は100質量部となる。
【0063】
上記ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム粒子、水酸化アルミニウム、シリコーンMB、脂肪酸含有化合物及び無機化合物としては具体的には下記のものを用いた。
(1)ポリオレフィン樹脂
ポリエチレン樹脂(PE)(商品名「エクセレンGMH GH030」、住友化学社製)
(2)炭酸カルシウム粒子
炭酸カルシウム粒子(平均粒径1.7μm)(商品名「NCC−P」、日東粉化社製)
(3)水酸化アルミニウム
水酸化アルミニウム(商品名「BF013S」、日本軽金属製)
(4)シリコーン系化合物
シリコーンMB(商品名「X−22−2125H」、信越化学社製)50質量%シリコーンガムと50質量%PEとを含有
(5)脂肪酸含有化合物
ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸Mg)(商品名「エフコケムMGS」、ADEKA社製)
(6)亜鉛含有無機化合物
(A)ヒドロキシスズ酸亜鉛(商品名「フラムタードH」、日本軽金属製)
(B)ホウ酸亜鉛(商品名「アルカネックス FRC500」、水澤化学社製)
(7)無機化合物
三酸化アンチモン(日本精鉱社製)
【0064】
次いで、この難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、この難燃性樹脂組成物を、単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、その押出機からからチューブ状の押出物を押し出し、導体(素線数1本/断面積2mm)上に、厚さ0.7mmとなるように被覆した。こうして絶縁電線を得た。
【0065】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0066】
上記のようにして得られた実施例1〜12及び比較例1〜8の絶縁電線について、以下のようにして難燃性、機械的特性及び低温脆化特性についての評価を行った。
【0067】
<難燃性>
(垂直一条試験)
実施例1〜12及び比較例1〜8の絶縁電線をそれぞれ10本用意し、これらについて、JIS C3665−1に基づいて垂直一条燃焼試験を行い、難燃性を評価した。このとき、具体的には、絶縁電線を上部で支持する上部支持材の下端から炭化の終了点までの長さが50mm以上540mm以下であれば「合格」とし、50mm未満又は540mm超の場合には「不合格」とした。そして、合格率(%)を求めた。結果を表1〜4に示す。表1〜4においては、燃焼時間についても併記した。また表1〜4において、難燃性の合否基準は下記の通りとした。なお、燃焼試験においては、バーナーの炎を60秒間接触させた。

合格率が70%以上:合格
合格率が70%未満:不合格
【0068】
(垂直三条試験)
実施例1〜12及び比較例1〜8の絶縁電線をそれぞれ15本用意し、これらについて、垂直三条燃焼試験を行い、難燃性を評価した。具体的には、長さ550mmの絶縁電線を3本づつ垂直に、等間隔で吊るした。絶縁電線同士の間隔は、絶縁電線の直径の2倍の距離とし、本実施例では8mmとした。ブンゼンバーナーを用い、バーナー口とケーブルの下端との距離を40mm、長さ150mmの炎を角度45°で接炎した。そして、ケーブルが自己消火もしくは全焼するまで接炎し続けた。自己消火した場合を「合格」とし、全焼した場合を「不合格」とした。これを5回繰り返し合格率(%)を求めた。結果を表1〜4に示す。表1〜4において、難燃性の合否基準は下記の通りとした。

合格率が70%以上:合格
合格率が70%未満:不合格
【0069】
<機械的特性>
機械的特性の評価は、実施例1〜12及び比較例1〜8の絶縁電線について、JIS C3005により引張試験を行い、測定された引張強度に基づいて行った。結果を表1〜4に示す。表1〜4において、引張強度の単位はMPaであり、引張強度の合否基準は下記の通りとした。引張試験において、引張速度は200mm/min、標線間距離は20mmとした。

10MPa以上:合格
10MPa未満:不合格
【0070】
表1〜4に示す結果より、実施例1〜12の絶縁電線は、難燃性、機械的特性及び耐低温性の点で合格基準に達していた。これに対し、比較例1〜8の絶縁電線は、難燃性および機械的特性のうち少なくともいずれかで合格基準に達していなかった。
【0071】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1…内部導体
2…絶縁層
3…シース
4…絶縁電線
10…ケーブル
11…光ファイバ
12…テンションメンバ
13…シース
20…光ファイバケーブル
図1
図2
図3