【文献】
KARNAUKHOVA ELENA,DEVELOPMENT AND EVALUATION OF AN ELISA FOR QUANTIFICATION OF HUMAN ALPHA-1-PROTEINASE INHIBITOR IN COMPLEX BIOLOGICAL MIXTURES,BIOLOGICALS,英国,ACADEMIC PRESS LTD,2007年10月 1日,V35 N4,P285-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
一態様において、本発明は、
(a) エラスターゼを固相に結合する工程;
(b) 固相をサンプルと共にインキュベートする工程;
(c) 固相をA1PIと結合する検出試薬と共にインキュベートする工程;
(d) 固相に結合した検出試薬の量を測定する工程;および
(e) サンプル中の活性A1PIの量を決定する工程
を含む、サンプル中の活性アルファ
1-プロテイナーゼ阻害剤(A1PI)の測定方法に関する。
【0009】
この文脈において、本明細書において使用される「サンプル中の活性A1PIの測定」は、サンプル中に含まれる活性A1PIの量および/または濃度の測定を指す。さらに、本明細書において使用される「活性A1PI」は、その天然の機能を発揮すること、すなわち、エラスターゼおよび他のセリンプロテアーゼに結合してそれらを不活性化することが可能なA1PIを指す。
【0010】
本発明の方法において使用されるエラスターゼは特に限定されず、例えば、ヒトまたはブタエラスターゼであり得る。エラスターゼを固相に結合する手段は当業者に公知であり、特に限定されない。前記手段には、例えば、固相支持体を、好適な緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)中で、適切な時間、例えば一晩に渡って、適切な温度、例えば+4℃で、エラスターゼと共にインキュベートすることが含まれる。さらなる好適な緩衝液およびインキュベーションパラメーターは当業者に公知である。
【0011】
本発明の方法を実施する固相は特に限定されない。さらに、好適な固相は当業者に公知である。好ましい実施形態において、固相はマイクロプレート、例えば、NUNC(商標)Maxisorpプレートなどの吸収性表面を有するマイクロプレートである。
【0012】
本発明の文脈において、エラスターゼは吸着により固相に結合することができ、そこでエラスターゼは疎水性力により保持される。あるいは、固相の表面を化学的方法により活性化して、エラスターゼと支持体との共有結合を生じさせることができる。
【0013】
固相がケイ素またはガラスである場合、一般的に、エラスターゼを結合させる前に表面を活性化しなければならない。トリエトキシアミノプロピルシラン、トリエトキシビニルシラン、および(3-メルカプト-プロピル)-トリメトキシシランなどの活性化されたシラン化合物を、それぞれアミノ、ビニル、およびチオール基などの反応性の基を導入するために使用することができる。このような活性化された表面を使用して、エラスターゼを直接連結することが可能であり(アミノまたはチオールの場合)、または、エラスターゼを表面から離すために、活性化された表面をさらにグルタルアルデヒド、ビス(スクシンイミジル)スベレート、SPPD(スクシンイミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート)、SMCC(スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)、SLAB(スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート)、およびSMPB(スクシンイミジル4-[1-マレイミドフェニル]ブチレート)などのリンカーと反応させることが可能である。ビニル基を酸化して共有結合の手段を提供することができる。ビニル基は、エラスターゼに複数の結合ポイントを提供することができるポリアクリル酸などの種々のポリマーの重合のためのアンカーとして使用することもできる。アミノ基をさまざまな分子量の酸化されたデキストランと反応させて、さまざまな大きさおよび容量の親水性リンカーを提供することができる。酸化し得るデキストランの例としては、Dextran T-40(分子量40,000ダルトン)、Dextran T-110(分子量110,000ダルトン)、Dextran T-500(分子量500,000ダルトン)、Dextran T-2M(分子量2,000,000ダルトン)、またはFicoll(分子量70,000ダルトン)が挙げられる。さらに、エラスターゼを固相に固定化するために高分子電解質の相互作用を用いることができる。
【0014】
固相は、エラスターゼを結合するのに十分な表面親和性を有する任意の好適な材料であってよい。有用な固相支持体としては、天然高分子炭水化物およびそれらの合成的に修飾された、架橋されたまたは置換された誘導体、例えば、寒天、アガロース、架橋アルギン酸、置換および架橋グアーガム、セルロースエステル、特に硝酸およびカルボン酸のエステル、混合セルロースエステル、およびセルロースエーテル;窒素を含む天然ポリマー、例えば、タンパク質および誘導体(架橋されたまたは修飾されたゼラチンを含む);天然炭化水素ポリマー、例えばラテックスおよびゴム;合成ポリマー、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルおよびその部分的に加水分解された誘導体を含むビニルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、上記のポリ縮合物(例えば、ポリエステル、ポリアミド、および他のポリマー、例えばポリウレタンまたはポリエポキシド)のコポリマーおよびターポリマー;無機材料、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムを含むアルカリ土類金属およびマグネシウムの硫酸塩または炭酸塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルミニウムおよびマグネシウムのケイ酸塩;およびアルミニウムまたはケイ素の酸化物または水和物、例えば、粘土、アルミナ、タルク、カオリン、ゼオライト、シリカゲル、またはガラス(これらの材料は上記の高分子材料と共にフィルターとして使用することができる);および上記のクラスの混合物またはコポリマー、例えば、既存の天然ポリマー上に合成ポリマーの重合を開始することにより得られるグラフトコポリマーが挙げられる。これらの材料のすべては、フィルム、シート、管、微粒子、またはプレートなどの好適な形状で使用することができ、または、それらは、紙、ガラス、プラスチックフィルム、布等などの適切な不活性担体に、被覆、結合、またはラミネートすることができる。
【0015】
あるいは、固相は微小粒子とすることができる。適切な微小粒子は、当業者が任意の好適なタイプの微粒子材料から選択することができ、ポリスチレン、ポリメチルアクリレート、ポリプロピレン、ラテックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、または同様の材料からなるものが含まれる。さらに、微小粒子は、磁場の中で微小粒子の操作を容易にするために、磁性または常磁性微小粒子とすることができる。
【0016】
微小粒子は、試薬およびサンプルの混合物中に懸濁することができ、または支持材料により保持および固定化されることが可能である。後者の場合、支持材料上または支持材料中の微小粒子は支持材料の内部での他の位置への実質的な移動は不可能である。あるいは、微小粒子は、沈降または遠心分離により、試薬とサンプルの混合物中の懸濁液から分離することができる。微小粒子が磁性または常磁性である場合には、微小粒子は磁場により試薬とサンプルの混合物中の懸濁液から分離することができる。
【0017】
本発明のサンプルと固相とのインキュベーションは、好適な温度で好適な時間に渡って、例えば室温で60分間おこなうことができる。さらなる好適な時間/温度の組合せは当業者に公知である。
【0018】
好ましい実施形態において、A1PIまたは他のサンプル成分の固相への非特異的吸着を減少させるために、工程(b)においてサンプルと共に固相をインキュベートする前に固相をブロッキングする。好適なブロッキング剤は当業者に公知であり、特に限定されない。ブロッキング剤としては、例えば、好適な緩衝液中の、ウシ血清アルブミン(BSA)、メチル化BSA、ヒト血清アルブミン、カゼイン、加水分解カゼイン、脱脂粉乳、ゼラチンまたは粉ミルクが挙げられる。好適なブロッキング緩衝液は、例えば、0.05%のポリソルベート20および10 mg/mLのBSAを含有するPBSである。ブロッキングは、好適な温度で好適な時間に渡って、例えば、室温で60分間おこなうことができる。さらなる好適な時間/温度の組合せは当業者に公知である。
【0019】
別の好適な実施形態においては、工程(b)においてサンプルを固相と共にインキュベートする前に、サンプルを希釈する。好適な希釈比はサンプル中の予想されるA1PI濃度に依存し、当業者に公知である。さらに、好適な希釈緩衝液は当業者に公知であり、特に限定されない。希釈緩衝液としては、例えばPBSが挙げられる。
【0020】
本発明の方法において使用することができる好適な検出試薬は当業者に公知であり、特に限定されない。検出試薬としては、例えば、A1PIのエピトープに特異的にまたは実質的に特異的に(すなわち、限定された交差反応性で)結合可能な化合物、組成物または分子が挙げられる。これらの薬剤(またはリガンド)は、典型的には、モノクローナル抗体などの抗体、またはその誘導体または類似物であるが、Fv断片;単鎖Fv(scFv)断片;Fab'断片;F(ab')
2断片;ヒト化抗体および抗体断片;ラクダ化(camelized)抗体および抗体断片;キメラ抗体;および前記のものの多価型も含まれる(これらに限定されない)。適切な場合には、ジスルフィド安定化Fv断片などの単一特異性または二重特異性抗体を含む(これらに限定されない)多価捕捉剤も使用することができる。これらの薬剤としては、アプタマー、合成ペプチド、結合分子、核酸等も挙げられ(これらに限定されない)、それらは当業者に公知である。本発明の方法において使用される検出試薬に好適な標識は特に限定されず、当業者に公知である。標識としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ビオチン、および蛍光性分子が挙げられる。好ましい実施形態において、検出試薬は、ペルオキシダーゼにコンジュゲートした抗ヒトA1PI抗体である。
【0021】
検出試薬と固相とのインキュベーションは、好適な温度で好適な時間に渡って、例えば室温で60分間おこなうことができる。さらなる好適な時間/温度の組合せは当業者に公知である。さらに、インキュベーションの前に検出試薬を希釈するための好適な希釈比および緩衝液は当業者に公知であり、容易に決定することができる。
【0022】
好ましい実施形態において、工程(c)において検出試薬と共に固相をインキュベートする前および後に固相を洗浄する。好適な洗浄緩衝液は当業者に公知であり、特に限定されない。洗浄緩衝液としては、例えば、0.05%のポリソルベート20を含有するPBSが挙げられる。
【0023】
固相に結合した検出試薬の量を測定する手段は当業者に公知であり、特に限定されない。ペルオキシダーゼ標識された抗体コンジュゲートの場合には、前記手段には、例えば、固相を好適な発色性ペルオキシダーゼ基質、例えばすぐに使えるトリメチルベンジジンペルオキシダーゼ試薬であるSureBlue(KPL)と共に、好適な温度、例えば室温で、色素を形成させるのに十分な時間に渡ってインキュベートすることが含まれる。その後、例えば1.5 M硫酸を加えることにより色素の形成を止め、形成された色素の量を、例えばELISAリーダーにより450 nmで測定することができる。さらなる好適な発色性基質、インキュベーション時間および温度、ならびに形成された色素の量を測定する手段は当業者に公知である。ビオチン-アビジン系を含む、当技術分野において広く使用される増幅系も本発明の文脈において使用することができる。
【0024】
最後に、サンプル中の活性A1PIの量を決定する手段は当業者に公知であり、特に限定されない。それらには、例えば、サンプルのデータの、例えば既知のA1PI濃度を用いて確立された好適な較正曲線との相関が含まれる。
【実施例】
【0027】
実施例1:6点アッセイ較正曲線の作成および特性
作業標準調製物の6段階1+1希釈からなるアッセイ較正曲線は、110 ng/mL〜3.5 ng/mLのA1PI活性濃度の範囲をカバーした。曲線は、以下の通りに得た。
【0028】
ブタエラスターゼ(Roche, 11027905001; 50 mg/mL)をリン酸緩衝食塩水(PBS; 8 g/L NaCl; 0.2 g/L KCl; 0.2 g/L KH
2PO
4; 1.26 g/L Na
2HPO
4×2 H
2O; 天然のpH)により50μg/mLに希釈して、NUNC Maxisorp F96プレートのウェルとともに4℃で一晩インキュベートした(100μL/ウェル)。次に、プレートを0.05%ポリソルベート20を含むPBS(洗浄緩衝液;WB)により洗浄し、200μL/ウェルの、10 mg/mLウシ血清アルブミンを含む洗浄緩衝液(希釈緩衝液;DB)と共に37℃で60分間インキュベートすることにより不活性化した。ウェルに100μL/ウェルの希釈緩衝液を加えて、あらかじめ希釈された標準、対照またはサンプルを加えてプレート上で直接段階希釈した。ウェルB11およびB12は希釈緩衝液のみを含み、ブランクとして用いた。次に、プレートを室温(RT; 20〜25℃)で60分間インキュベートした後、洗浄した。次に、DBにより1/1,000に希釈したヒツジ抗ヒトA1PIペルオキシダーゼ(結合部位(The Binding Site))を、100μl/ウェルでウェルに適用し、室温で60分間インキュベートし、洗浄工程により除去した。次に、洗浄されたプレートをすぐに使えるトリメチルベンジジンペルオキシダーゼ試薬であるSureBlue(KPL; 100μL/ウェル)と共にインキュベートし、室温で適切な顕色が得られるまでインキュベートした。次に、100μL/ウェルの1.5 M硫酸により反応を止めた。60分以内に、プレートをELISAリーダーにより450 nmで、620 nmの基準測定とともに測定した。
【0029】
アッセイの較正に使用した標準試料は、検証された発色によるエラスターゼ阻害アッセイにより実際のA1PIに関するWHO標準に対して較正された、精製A1PI調製物であった。この作業標準に指定された濃度はmLあたり22.1 mgの活性A1PIであった。2組調製された最終的な希釈系列は、1/200,000〜1/6,400,000の6点の希釈からなり、その結果、110 ng/mL〜3.5 ng/mLの範囲のA1PI活性であった。最終的に、測定されたブランク補正された光学濃度(OD)およびアッセイ標準物質のA1PI活性濃度のlog-logフィッティングを用いることにより較正曲線を得た。
【0030】
図1は、1日に調製された3つの曲線の平均として得られた代表的な6点較正曲線を示す。較正曲線の特性である勾配、y切片および相関係数は平均された3つの曲線すべてで非常に類似していた。これは、曲線の正確度および精度についても当てはまった。較正曲線は、正確度、精度および直線性に関する承認された要求を満たし、したがって、サンプルを外挿するのに適切であると判断された。シグナルとA1PI活性濃度の間の直線的関係の範囲は3.5 ng/mLにまで及んだ。したがって、アッセイは残ったエラスターゼ活性の測定に基づく標準の発色によるエラスターゼ阻害アッセイよりも1000倍感度が高かった。
【0031】
実施例2:ヒト血漿のA1PI活性の測定
血漿は、A1PIの他に、理論的にエラスターゼと相互作用可能な数種の他のプロテイナーゼ阻害剤を含有する。しかしながら、A1PI-エラスターゼ複合体の会合定数は、他のプロテイナーゼ阻害剤について測定されたものよりも約25倍高いことが報告されている。したがって、A1PIはエラスターゼに対して選択的阻害効果を及ぼす。
【0032】
それでもなお、アッセイの標準として使用された精製A1PI調製物と、ヒト標準血漿試料に関する用量-反応曲線を比較した。後者の調製物は、6段階1+1希釈1/20,000〜1/640,000を含む希釈系列で測定された。
図2は、異なる純度を有する2つの調製物の用量-反応曲線を示す。2つの用量-反応曲線は、それらの勾配の差異が0.5%未満であることにより示される通りに、非常に類似していた。この知見は、固相支持体へのエラスターゼの固定化がそのA1PIへの結合に対する選択性を変化させなかったことを証明している。
【0033】
実施例3:凝集したA1PIを含有するサンプルの測定
20 mg/mLの濃度を有する精製A1PIの溶液を60℃に15分間加熱することにより、凝集したA1PI調製物を得た。次に、この溶液を異なる比で未変性A1PIと混合した。未変性A1PI中に10〜90%の熱凝集A1PIを含む数種の混合物を調製して、未変性A1PIおよび熱凝集A1PIと共に、未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE;
図3参照)および高速サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC;
図4参照)により分析した。
【0034】
図3に示される異なるサンプルを示すゲルの上の数は、混合物中の熱凝集A1PIの相対レベルをパーセンテージで示しており、星印はA1PIモノマーに相当するバンドを示すものである。サンプルは、同じタンパク質濃度でロードされ、クーマシー(Coomassie)により染色されたが、A1PIモノマーバンドの強度が明らかに異なっており、A1PIモノマーバンドの強度はサンプル中の熱凝集A1PIの相対レベルと反比例する。一方、高分子量のサンプル化合物は混合物中の熱凝集A1PIの相対レベルと共に増加する。このように、未変性PAGEによりA1PIの熱により引き起こされる凝集が明瞭に確認される。この知見はHP-SEC分析のデータによっても確認され、そこでは、混合物における熱凝集A1PIの相対レベルの増大と相関して、凝集ピークの相対ピーク面積が増大し、かつA1PIモノマーの相対ピーク面積が低下した。
【0035】
図5は、HP-SECにより測定されたA1PIモノマーレベルと、異なる濃度のA1PI凝集物を含有するサンプルについて測定された2つの活性アッセイの結果との間の相関を示す。これらのサンプルのA1PI活性を、発色によるエラスターゼ阻害アッセイおよび本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイを用いて測定した。発色によるエラスターゼ阻害アッセイにより測定されたA1PI活性は、回帰曲線について見いだされた相関係数の2乗R
2=0.9932により示される通り、A1PIモノマーの相対レベルと明瞭に相関した。これは、A1PI凝集物の形成が主としてその阻害活性に絶対的に必須であるA1PIの活性部位を巻き込むためであると予想し得る。本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイをサンプルのA1PI活性を測定するために使用すると、同じ高い相関が見いだされた。さらに、両方の回帰曲線は、差異がわずか1%の類似した勾配を示した。
【0036】
これらのデータにより、本発明の固相結合エラスターゼA1PIアッセイがA1PIのエラスターゼ阻害活性を測定したことが確認された。これらのデータにより、さらに、高濃度の不活性な凝集A1PIでさえも本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイを妨害しないことが証明された。これらのデータは、プレート結合エラスターゼA1PI活性アッセイが活性なA1PI、すなわち、エラスターゼを阻害することが可能なA1PIのみを測定することを明らかに示している。
【0037】
実施例4:発色によるエラスターゼ阻害アッセイと固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイとの間の相関
熱凝集A1PIを規定の増大するレベルで含有するA1PIサンプルを、発色によるエラスターゼ阻害アッセイ(A1PIサンプルを過剰なブタエラスターゼと共にインキュベートして、残ったエラスターゼ活性を発色性基質Suc-{Ala}
3-pNAにより測定することに基づく)により測定した。エラスターゼは発色性基質を開裂させてpNAを放出し、これを光度測定により測定する。光学濃度はエラスターゼ濃度に直接比例し、エラスターゼ濃度は一定の範囲内のA1PI活性と反比例する。さらに、これらのサンプルを本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイにより測定した。
図6に2つの活性アッセイの結果をプロットすることにより得られた回帰曲線を示す。
【0038】
2つのアッセイにより測定されたA1PI活性濃度は、研究された活性範囲、すなわち、2〜20 mgの活性A1PI/mL全体で、相関係数の2乗R
2=0.98により証明される通り、高い相関を示した。研究されたサンプルについて測定されたA1PI濃度の差異は体系的なものではなく、分析的なランダムに起こった分散を反映するものであったので、これらのデータにより、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性が発色によるエラスターゼ阻害アッセイと等価であることが証明された。両方のアッセイが活性A1PIを特異的に測定することが示された。特に、10倍高い濃度の不活性A1PIが両方のアッセイを妨害しないことが示された。
【0039】
実施例5:酸化されたA1PIの測定
A1PIプロテイナーゼ阻害活性には、活性部位Met358-Ser359が絶対的に必要である。この部位は分子の露出したループを占め、好中球エラスターゼの活性領域と強固に結合する。Met358は酸化に対して感受性であり、その結果、A1PIが不活性化され、そのエラスターゼ阻害活性が失われる。
【0040】
本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイの特異性を、以下の方法により得られた酸化されたA1PIを測定することにより示した。簡単に述べると、1.5 mLの純粋な完全な活性を有するA1PI調製物(20 mg/mLのA1PI濃度を有する)を、13.5 mLの50 mM KH
2PO
4緩衝液(pH 5.0、100 mM KClおよび1 mM MgCl
2を含有する)により希釈した。5.1 mLのH
2O
2を加えて酸化を起こした。この反応混合物を室温で2時間インキュベートした後、4℃で一晩、リン酸緩衝食塩水に対して透析した。アリコートを調製して-20℃で凍結保存した。表1におこなった分析の結果を示す。特に、ELISAによりA1PIタンパク質を測定した。さらに、発色によるエラスターゼ阻害アッセイおよび本発明のプレート結合エラスターゼA1PI活性アッセイによりA1PI活性を測定した。
【0041】
表1:酸化されたA1PI調製物の分析
【表1】
【0042】
ELISAによるA1PIタンパク質測定の結果、A1PIタンパク質濃度は1.55 mg/mLであり、これは前記方法によりもたらされた希釈を考慮した場合に予想される結果とよく一致した。それに対して、発色によるエラスターゼ阻害アッセイは活性A1PIを検出せず、酸化されたA1PIについて0.009 mg/mL未満の濃度が測定された。これは、最初の活性の0.6%未満に相当した。これらのデータは、本発明の固相結合エラスターゼアッセイの結果、この調製物について最初の活性の0.2%のみが見いだされたことと一致している。全体として、これらのデータにより、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイの特異性が、発色によるエラスターゼ阻害アッセイのそれと同様であったことがさらに証明された。酸化されたA1PIは、ELISAのデータにより示された通り完全な免疫反応性を維持したが、発色によるエラスターゼアッセイまたは固相結合エラスターゼアッセイのどちらで測定されたかに関わらず、考慮に値する活性を示さなかった。
図7は、精製A1PI濃縮物、ヒト標準血漿試料および酸化されたA1PI調製物についての、固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイにより得られた濃度-反応曲線を示す。濃度-反応曲線により、酸化されたA1PIが非常に低いシグナルしか与えないこと(これは低レベルの依然として未変性のA1PIが存在することを示し得る)から、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイが活性A1PIのみを測定することが明瞭に証明される。
【0043】
実施例6:エラスターゼ-A1PI複合体の測定
A1PIがエラスターゼを阻害した結果、安定なA1PI-エラスターゼ複合体が形成され、A1PIはエラスターゼと結合した後にその阻害活性を失う。結果として、A1PI-エラスターゼ複合体は検出されてはならず、またはA1PI活性アッセイを妨害してはならない。そこで、精製A1PI調製物を異なる量の精製されたヒトエラスターゼ調製物と共にインキュベートして、異なるレベルのA1PI-エラスターゼ複合体を含有するサンプルを得た。
【0044】
簡単に述べると、精製A1PI調製物を、10 mg/mLのヒト血清アルブミンを含有するpH 8.2の20 mM Tris-HCIにより400μg/mLの濃度に希釈して、異なるモル比のヒト好中球エラスターゼ調製物(ICN, 191337; 500μg/mL)と共に室温で45分間インキュベートした。特に、A1PIとエラスターゼのモル比が1 : 0.26、1 : 0.52、1 : 1.02および1 : 2.55であるサンプルを調製し、さらに分析した。表2は、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイによるA1PI活性の測定の結果を示す。
【0045】
表2:A1PI-エラスターゼ複合体を含有するサンプルの固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイ
【表2】
【0046】
精製A1PI調製物と共にインキュベートする好中球エラスターゼの濃度が増加すると、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイにより測定されるA1PI活性が減少した。等モルのA1PIおよびエラスターゼを含有する混合物は測定可能な活性を示さなかった。対照的に、A1PIとエラスターゼのモル比が1 : 0.51および1 : 0.26であるサンプルは、依然として、複合体形成前のサンプルについて測定されたもののそれぞれ53.2%および76.6%に相当する濃度のA1PI活性を有した。これは、加えたエラスターゼのレベルにより引き起こされると予想された活性の損失と厳密に一致した。これらの知見もまた、本発明の固相結合エラスターゼA1PI活性アッセイの、A1PIのエラスターゼ阻害活性を測定する能力を証明した。
【0047】
実施例7:プレート結合エラスターゼのアミド分解活性
本発明の方法は、プレート結合エラスターゼとA1PIの間の複合体形成に基づく。したがって、活性な酵素のみがA1PIの反応性の中心ループを攻撃して複合体の形成に至るので、プレート結合エラスターゼがその活性を保持することが必須である。コーティング工程の後に発色性基質であるSuc-(Ala)
3-pNAを用いてエラスターゼ溶液を測定し、マイクロプレートの被覆されたウェル上の活性エラスターゼの存在をチェックした。その結果、コーティング工程の後に回収された溶液について、18.8μg/mLのエラスターゼ活性が測定された。コーティング前の濃度(20μg/mL)との差は、ウェルあたり120 ngのエラスターゼが結合したことを意味し、これはmm
2あたり1.3 ngのエラスターゼ密度に相当する。IgGの表面吸着の妥当な推定はmm
2あたり0.4 ngである。発色性基質を被覆および洗浄したウェルに加えると、すべてのウェルがエラスターゼ活性を示して発色性基質の加水分解をもたらしたことが見いだされた。これらのデータにより、A1PIと共にインキュベートした後に見られた複合体形成が、実際にエラスターゼのタンパク質分解性攻撃に基づくものであったことが確認された。ブランク補正されたODを遊離エラスターゼの測定により得られた較正曲線に外挿すると、ウェルあたり82.3 ngのエラスターゼ活性が見いだされた。これは、コーティング工程の後に50%を超えるエラスターゼが活性を維持したことを意味していた。
【0048】
実施例8:他の阻害剤による複合体形成
ヒト血漿はエラスターゼと複合体を形成することが可能な複数種のタンパク質を含有する。A1PIとエラスターゼとの間の複合体形成の速度定数は、他のセリンプロテアーゼについて測定されたものよりも25倍高いが、それにもかかわらず、これらの他の阻害剤の存在がA1PIの測定に影響を与えるか否かを研究した。しかしながら、血漿および精製A1PI調製物について得られた用量反応曲線には、それらの勾配が同じであったことから、これらの阻害剤によるいかなる効果も示されなかった。特に、α
1-アンチキモトリプシン(ACh)、α
2-アンチプラスミン(AP)、アンチトロンビン(AT)、α
2-マクログロブリン(AM)、C1-インヒビター(C1-inh)およびインター-α-トリプシンインヒビター(ITI)について、プレート結合エラスターゼと実質的な量の複合体を形成することによりA1PIの測定に影響を与えるそれらの能力をチェックした。追加の負の対照として、ウェルに対する非特異的結合レベルを、非特異的マーカータンパク質としてIgGを用いてプレート結合エラスターゼにより測定し、一方で、A1PIの結合を正の対照として使用した。表3に、ヒト標準血漿試料1R31003の希釈系列について測定されたブランク補正された平均ODを示す。1/100〜1/204,800の範囲の12の希釈を含むこれらの希釈系列をプレート結合エラスターゼと共にインキュベートした。次に、形成された可能性のある複合体を、それぞれの阻害剤に特異的な抗体ペルオキシダーゼコンジュゲートを用いることにより検出した。これらのデータは
図8にも示される。
図8において、希釈対OD曲線を直接比較する。
【0049】
表3:血漿タンパク質阻害剤とエラスターゼとの複合体形成
【表3】
【0050】
データにより、A1PIが、研究されたいかなる他の阻害剤よりも容易にエラスターゼとの複合体を形成することが明瞭に証明された。しかしながら、試験された6種の阻害剤のうちの2種の阻害剤について、中程度の複合体形成が検出された。阻害剤α
2-マクログロブリンおよびα
1-アンチキモトリプシンのみが、A1PIとの複合体形成について測定された値の6.0%および3.9%となる平均シグナルを有する測定可能なエラスターゼ複合体の形成を示した。特に、異なる阻害剤について得られたシグナルをより良く評価するために、1/12,800〜1/102,400の希釈についての平均を計算した。これらのデータは、以下に記載されるアプローチを用いて直接の比較が可能であることを前提として、プレート結合エラスターゼの90%以上がA1PIとの複合体として見いだされたことを示唆した。少量の他の血漿プロテイナーゼ阻害剤のみが、プレート結合エラスターゼへの結合に関してA1PIと競合することが可能であった。これらのデータは、血漿サンプルおよび精製A1PI調製物について測定された希釈-反応曲線と一致する。これらの曲線は平行であり、その勾配において明らかな差異はなかった。それに対して、A1PI以外の阻害剤によりプレート結合エラスターゼに関する有効な競合が引き起こされた場合には、A1PIとの反応に利用可能なエラスターゼ濃度が減少するであろう。その結果、これは、研究された調製物の純度に依存して濃度-反応曲線に異なる勾配をもたらすはずである。第2のアプローチにおいて、AMの影響をより詳細に研究した。すなわち、精製A1PIおよびAMの混合物を、192 ng/mLの一定のA1PI濃度および0〜2000 ng/mLの範囲で増加するAM濃度を含有するように調製した。次に、本発明の方法をこれらのサンプルを用いて実施して、得られた濃度-反応曲線を比較した。表4に、log-log回帰曲線を計算するために使用された希釈系列のブランク補正されたODを記載する。これらの曲線をさらに、それらの勾配、y-切片および相関係数により説明する。勾配は、AMを含まないサンプルについて測定された勾配のパーセントとしても記載する。
【0051】
表4:精製A1PIおよびAMの混合物の分析
【表4】
【0052】
濃度-反応曲線は、その勾配とAMを含まないサンプルについて見いだされた勾配との差異が7%未満であったことから、混合物のAM濃度の増加によりわずかに影響を受けるのみであった。AMとエラスターゼとの間の複合体形成は起こるが、形成される複合体の量はA1PIの測定を妨害しない程度であると思われた。質量でA1PIよりも10倍過剰なAMの結果は、およそ等モルの濃度となったが、モル比を正しく評価するためには、AMが4つの阻害活性部位を有すること、およびおそらく1つ以上の部位がプレートに固定化されたエラスターゼとの結合に関与できると思われることを考慮しなければならない。このような相互作用は発色アッセイの間にも起こる可能性があり、そこではAMに結合したエラスターゼは発色性基質により測定される時に依然として活性であり、そのため与えられたサンプルについて測定されるA1PI活性の過小評価をもたらすことになる。その場合、メチルアミンによるAMの不活性化が状況を改善する可能性がある。しかしながら、本発明の方法について得られたデータにより、AMが等モルで存在した場合でさえも、機能的に活性なA1PIの測定がサンプルの純度により偏らなかったことが証明された。
【0053】
実施例9:本発明の方法の精度および正確度
本発明の方法の正確度および精度を、2つのサンプルマトリクスにおいて測定した。第1に、50μg/mL以下の低い総タンパク質濃度を有する気管支胚胞洗浄(BAL)溶液を模倣するサンプルを、0.0002〜0.01 mg/mLの範囲の機能的に活性なA1PIの濃度で調製した。0.01〜0.8 mg/mLの範囲のA1PI濃度を有する血漿様サンプルを、ヒト血清アルブミンを有するヒト血漿標準血漿試料を希釈することにより得たが、3 mg/mLの濃度を有するサンプルは精製A1PIを加えることにより得た。最後に、A1PIについての現在の第1のWHO標準(05/162とコードされる)も含めた。正確度は、パーセントで表した名目A1PI濃度の回収率として表され、精度は、1日に(アッセイ内)または6日間に(アッセイ間)おこなわれた6回の測定の平均の相対標準偏差として表される。結果を下記の表5に示す。
【0054】
表5:0.0002〜12.4 mg/mLの範囲の機能的に活性なA1PIに関する本発明の方法の精度および正確度
【表5】
n.d.:おこなわなかった;BAL:気管支胚胞洗浄