(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043354
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体及びこれを用いたサイコースの連続的生産
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20161206BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20161206BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20161206BHJP
C12P 19/24 20060101ALI20161206BHJP
C12M 1/40 20060101ALI20161206BHJP
C12N 11/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
C12N15/00 A
C12N1/21
C12N9/90
C12P19/24
C12M1/40 A
C12N11/00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-527066(P2014-527066)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公表番号】特表2014-525244(P2014-525244A)
(43)【公表日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】KR2012006637
(87)【国際公開番号】WO2013027999
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2014年2月24日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0084712
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM11204P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507406611
【氏名又は名称】シージェイ チェルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヤンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンハ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨンミ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ヨンホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンヘ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソンボ
(72)【発明者】
【氏名】パク,スンウォン
(72)【発明者】
【氏名】オ,スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ドククン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジングン
【審査官】
西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/040708(WO,A1)
【文献】
特表2008−541753(JP,A)
【文献】
KSBB, Abstracts of Current Biotechnology and Bioengineering(XXVIII),2011年 4月,p.176
【文献】
Biotechnol. Lett.,2010年,Vol.32, No.2,pp.261-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12M 1/40
C12N 1/21
C12N 9/90
C12N 11/00
C12P 19/24
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
PubMed
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ATCC33970由来の、アミノ酸序列を有する野生型サイコースエピマー化酵素の変異体であって、前記アミノ酸序列番号(以下、‘序列番号’)33番がイソロイシン(Ile)から、システイン(Cys)及びバリン(Val)からなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換されたアミノ酸序列を有する、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体。
【請求項2】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ATCC33970由来の、アミノ酸序列を有する野生型サイコースエピマー化酵素の変異体であって、前記序列番号33番がイソロイシンから、システイン及びバリンからなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換され、前記序列目録1の序列番号213番がセリンからシステインに置換されたアミノ酸序列を有する、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のサイコースエピマー化酵素変異体を暗号化する遺伝子を含む組換え発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組換え発現ベクターで形質転換されたことを特徴とする、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)pFIS―1―ATPE―2(受託番号KCCM11204P)。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のサイコースエピマー化酵素変異体を用いて果糖からサイコースを生産する方法。
【請求項6】
請求項4に記載の組換えられたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)pFIS―1―ATPE―2(受託番号KCCM11204P)を用いて果糖からサイコースを生産する方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の前記サイコースエピマー化酵素変異体を固定化させた担体で充填したカラムを含むことを特徴とする、サイコース生産用固定化反応器。
【請求項8】
請求項7に記載の前記固定化反応器に果糖溶液を供給してサイコースを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性を向上させた、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のサイコースエピマー化酵素変異体及びこれを用いたサイコースの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D―サイコース(D―psicose)は、天然物質内にほとんど存在しないか、又は少量のみ存在するため稀少糖(rare sugar)として知られている単糖類であって、超低熱量でありながらも砂糖と類似する程の甘味を有しており、機能性甘味料として広く用いられている。
【0003】
サイコースは、果糖(fructose)のエピマーであって、甘味の強度と種類は果糖と非常に類似するが、果糖とは異なり、体内でほとんど代謝されないので熱量がゼロに近く、脂質合成に関与する酵素の活性を抑制して腹部肥満を減少させる効能を有するので、ダイエット食品の有効成分として有用に使用することができる。また、砂糖代替甘味料として広く用いられているキシリトールなどの糖アルコール類の場合、一定量以上摂取すると下痢を誘発するなどの副作用を起こす一方、サイコースは副作用がほとんどないと知られている(Matsue,T.,Y.Baba,M.Hashiguchi,K.Takeshita,K.Izumori、及びH.Suzuki.2001.Dietary D―psicose、a C―3 epimer of D―fructose,suppresses the activity of hepatic lipogenic enzymes in rats.Asia Pac.J.Clin.Nutr.10:233―237.;Matsuo,T.,及びK.Izumori.2004.D―psicose,a rare sugar that provides no energy and additionally beneficial effects for clinical nutrition.Asia Pac.J.Clin.Nutr.13:S127)。
【0004】
このような理由により、サイコースはダイエット甘味料として脚光を浴びており、食品産業分野においてサイコースを効率的に生産できる方法に対する開発の必要性が高まっている。このようにサイコース開発の必要性が台頭するにつれて、従来の生物学的な方法を用いて果糖からサイコースを生産する多様な研究が進められてきた。果糖をサイコースに転換させ得る酵素としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素(D―psicose 3―epimerase)及びシュードモナス・チコリ(Pseudomonas cichorii)又はロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のタガトースエピマー化酵素が知られており、サイコースエピマー化酵素がタガトースエピマー化酵素に比べて高い活性を示すことで知られている。
【0005】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌株は、L―リシン、L―トレオニン及び各種核酸を含む飼料、医薬品及び食品などの分野で多様な用途を有する化学物質を生産する産業用微生物である。このようなコリネバクテリウム属菌株は、GRAS(Generally Recognized As Safe)菌株であって、遺伝子操作及び大量培養に容易な菌株特性を有している。さらに、多様な工程条件で高い安定性を有する菌株であって、他の細菌に比べて相対的に堅い細胞膜構造を有しているので、結果的に、高い糖濃度などによる高い浸透圧下でも菌体が安定的な状態で存在するという生物学的特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国登録特許公報B1第10―0744479号(2007.08.01.公告)
【特許文献2】大韓民国公開特許公報A第10―2011―0035805号(2011.04.06.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、活性は高いが、熱安定性が非常に低いため活用度が低下する、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素の問題を発見した上で、今日の重要な食品素材として関心度の高いサイコースを産業的に大量生産できるように、熱安定性を向上させたサイコースエピマー化酵素変異体を発明し、これを用いたサイコースの連続的生産方法を発明するに至った。
【0008】
具体的に、本発明は、特定の序列番号のアミノ酸を置換させることによって、熱安定性を向上させたサイコースエピマー化酵素変異体を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の一様態は、前記のサイコースエピマー化酵素変異体の遺伝子を含む組換え発現ベクター、及び前記組換え発現ベクターで形質転換された組換え菌株を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記酵素変異体又は組換え菌株を用いて製造された固定化反応器、及び前記固定化反応器を用いてサイコースを連続的に生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特定の序列番号のアミノ酸を置換させることによって、熱安定性を向上させたサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。また、本発明は、前記のサイコースエピマー化酵素変異体の遺伝子を含む組換え発現ベクター、及び前記組換え発現ベクターに形質転換された組換え菌株を提供する。また、本発明は、前記酵素変異体又は組換え菌株を用いて製造された固定化反応器、及び前記固定化反応器を用いてサイコースを連続的に生産する方法を提供する。
【0012】
より具体的に、本願発明の一様態は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来の野生型サイコースエピマー化酵素の変異体であって、アミノ酸序列番号(以下、‘序列番号')33番がイソロイシン(Ile)から、ロイシン(Leu)、システイン(Cys)及びバリン(Val)からなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換されたアミノ酸序列、又は序列番号213番がセリン(Ser)からシステインに置換されたアミノ酸序列を有する、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。
【0013】
本発明の更に他の一様態によると、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来の野生型サイコースエピマー化酵素の変異体であって、序列番号33番がイソロイシンから、ロイシン、システイン及びバリンからなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換され、序列番号213番がセリンからシステインに置換されたアミノ酸序列を有する、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。
【0014】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素変異体を暗号化する遺伝子を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0015】
本発明の更に他の一様態によると、前記組換え発現ベクターで形質転換されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)pFIS―1―ATPE―2を提供する。
【0016】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素変異体を用いて果糖からサイコースを生産する方法を提供する。
【0017】
本発明の更に他の一様態によると、前記の組換えられたコリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2を用いて果糖からサイコースを生産する方法を提供する。
【0018】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素変異体を固定化させた担体で充填したカラムを含む、サイコース生産用固定化反応器を提供する。
【0019】
本発明の更に他の一様態によると、前記固定化反応器に果糖溶液を供給してサイコースを生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、特定の序列番号のアミノ酸を置換させたサイコースエピマー化酵素変異体に関し、前記サイコースエピマー化酵素変異体は、酵素活性が低下しないとともに熱安定性が著しく向上した特性を有しており、今日の重要な食品素材として脚光を浴びているサイコースをより効率的に大量に生産できるようにするという利点を有する。
【0021】
具体的に、本発明の前記酵素変異体は、野生型サイコースエピマー化酵素に比べて、一般的な酵素反応温度で遥かに延長された半減期を有するので、サイコースを生産するにおいて一度作られたサイコースエピマー化酵素をより長期間使用できるようにし、生産時間及び費用の節減によって生産効率を高めることができるという利点を有する。
【0022】
また、本発明は、前記サイコースエピマー化酵素変異体を発現できるように組換えられた組換えベクター、及び前記組換えベクターで形質転換された組換え菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2を提供し、前記酵素変異体又は前記組換え菌株を用いて固定化反応器を形成し、サイコースを連続的に大量生産できる方法を提供するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素変異体の遺伝子を含む組換え発現ベクターを示した図である。
【
図2】DSC(differential scanning calorimeter)を用いたアグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素の野生型及び変異体(S213C、I33L、及びI33L―S213C)の見かけの融解プロファイルを示したグラフである。このグラフのピーク部分は酵素の見かけの融解温度を示す。
【
図3】アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素の野生型及び変異体(S213C、I33L、及びI33L―S213C)の分子モデリング結果を示す図である。(a)及び(b)は、それぞれ野生型及びI33L―S213C変異体の二次構造を示したもので、(c)及び(d)は、それぞれ野生型及びS213C変異体のアミノ酸序列213番目のアミノ酸(野生型の場合はセリン(Ser)、S213C変異体の場合はシステイン(Cys))周辺の推定上の水素結合を示したものであって、(e)及び(f)は、それぞれ野生型及びI33L変異体の芳香族グループ間の相互作用を示したものである。
【
図4】本発明の一様態に係る方法において、変異体を用いた固定化反応器の反応温度50℃での運転安定性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、特定の序列番号のアミノ酸を置換させることによって、熱安定性を向上させたサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。また、本発明は、前記のサイコースエピマー化酵素変異体の遺伝子を含む組換え発現ベクター、及び前記組換え発現ベクターで形質転換された組換え菌株を提供する。また、本発明は、前記酵素変異体又は組換え菌株を用いて製造された固定化反応器、及び前記固定化反応器を用いてサイコースを連続的に生産する方法を提供する。
【0025】
以下、本願発明についてより詳細に説明する。本願明細書に記載されていない内容は、本願発明の技術分野又は類似する分野で熟練した者であれば十分に認識して類推可能なものであるので、それについての説明は省略する。
【0026】
本発明の一様態によると、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来の野生型サイコースエピマー化酵素の変異体であって、アミノ酸序列番号(以下、‘序列番号')33番がイソロイシン(Ile)から、ロイシン(Leu)、システイン(Cys)及びバリン(Val)からなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換されたアミノ酸序列、又は序列番号213番がセリン(Ser)からシステインに置換されたアミノ酸序列を有することを特徴とする、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。
【0027】
前記アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)は、公知の菌株であって、アグロバクテリウム・ツメファシエンスATCC 33970であり得る。
【0028】
前記アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来の野生型サイコースエピマー化酵素は、大韓民国公開特許公報(A)第10―2011―0035805号の序列目録1のアミノ酸序列を有したり、又はその機能性断片であり得る。前記"機能性断片"とは、序列目録番号1のアミノ酸序列に一部のアミノ酸の置換、挿入又は欠失などによる変異を含み、果糖をサイコースに転換させる活性を有する断片を意味する。
【0029】
前記サイコースエピマー化酵素変異体は、前記のアグロバクテリウム・ツメファシエンス由来の野生型サイコースエピマー化酵素のアミノ酸序列のうち、特定の序列番号のアミノ酸が置換されたアミノ酸序列を有する酵素を意味する。
【0030】
前記サイコースエピマー化酵素変異体は、より望ましくは、序列番号33番がイソロイシンからロイシンに置換されたものであり得る。
【0031】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素の変異体は、序列番号33番がイソロイシンから、ロイシン、システイン及びバリンからなる群より選ばれた一つのアミノ酸に置換され、序列番号213番がセリンからシステインに置換されたアミノ酸序列を有することを特徴とする、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体を提供する。
【0032】
前記サイコースエピマー化酵素変異体は、より望ましくは、序列番号33番がイソロイシンからロイシンに置換され、序列番号213番がセリンからシステインに置換されたものであり得る。
【0033】
本発明の更に他の一様態によると、サイコースエピマー化酵素変異体の遺伝子を含む組換え発現ベクターを提供する(
図1)。
【0034】
本発明の更に他の一様態によると、前記組換え発現ベクターで形質転換されたことを特徴とする、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)pFIS―1―ATPE―2を提供する。
【0035】
前記組換えられた菌株コリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2は、ブダペスト条約に従ってソウル西大門区弘済1洞所在の韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms、KCCM)に2011年8月18日付けで受託番号KCCM11204Pとして寄託した。
【0036】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素変異体又は前記組換えられたコリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2を用いて果糖からサイコースを生産する方法を提供する。
【0037】
本発明の更に他の一様態によると、前記サイコースエピマー化酵素変異体又は前記組換えられたコリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2を固定化させた担体で充填したカラムを含むことを特徴とする、サイコース生産用固定化反応器を提供する。
【0038】
前記"固定化反応器"とは、サイコースを生産するための反応が、担体に固定化された菌株又は酵素によって、又は担体に固定化された菌株又は酵素が充填されたカラムを通して起きる反応器を意味する。すなわち、固定化は、生物学的活性を提供する物質、この場合、サイコースエピマー化酵素又はこれを含む菌株が担体に固定化されたことを意味する。
【0039】
前記酵素変異体又は組換え菌株を固定化させる担体としては、本発明の技術分野又は類似する分野で酵素又は菌株の固定化用途で使用可能な担体であればいずれのものも使用することができ、望ましくは、アルギン酸ナトリウム(sodium alginate)を使用することができる。
【0040】
アルギン酸ナトリウムは、海藻の細胞壁に豊富に存在する天然コロイド性多糖類であって、マンヌロン酸(β―D―mannuronic acid)及びグルロン酸(α―L―gluronic acid)で構成されており、含量の面では無作為でベータ―1,4結合をなして形成され、菌体や酵素が安定的に固定化され得るので有利である。
【0041】
本発明の更に他の一様態によると、前記固定化反応器に果糖溶液を供給してサイコースを生産する方法を提供する。
【0042】
本明細書で使用される用語“半減期”は、酵素又は酵素変異体の酵素反応初期の相対的活性を100としたとき、前記相対的活性が50になるまでにかかる期間を意味する。
【0043】
本明細書で使用される用語“運転安定性”は、目的産物(本願ではサイコース)を連続的に生産するために、反応器を初期活性に対比して適切な水準の生産性を維持しながら運転できることを意味し、通常、運転期間(時間単位など)で表示される。
【0044】
以下、実施例及び比較試験例を記述することによって本願発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例及び比較試験例は、本願発明の一例示に過ぎなく、本願発明の内容がこれに限定されると解釈してはならない。
【0045】
サイコースエピマー化酵素及びブドウ糖異性化酵素の活性測定方法
【0046】
サイコースエピマー化酵素の活性は、果糖を基質として用いて測定した。20mMの基質が含有された50mMのPIPES(piperazine―N,N'―bis(2―ethanesulfonic acid))緩衝溶液pH8.0中に前記酵素又は前記酵素を含む試料を添加して50℃で10分間反応させた後、前記反応液に最終濃度が200mMになるように塩酸を添加して反応を中断させた。果糖とサイコースの濃度は、RI(Refractive Index)検出器が装着されたHPLCで測定した。HPLC分析は、80℃に設定されたカラム(BP―100 Ca
2+carbohydrate column)に試料を注入した後、移動相溶媒として蒸留水を0.5ml/minの速度で通過させる条件で行った。酵素単位(unit)は、pH8.0及び50℃の条件で1分当たり1マイクロモル(μmole)のサイコースを生産する量として定義した。
【0048】
無作為的な変異を起こす方法(random mutagenesis)による、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体の製造
【0049】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ATCC 33970由来のサイコースエピマー化酵素(大韓民国公開特許公報(A)第10―2011―0035805号の序列目録1のアミノ酸序列と同一)を鋳型とし、エラー―プローン重合酵素連鎖反応法(error―prone PCR)を通してサイコースエピマー化酵素の変異体ライブラリーを構成した。
【0050】
具体的に、1000個の塩基対当たり2個ないし3個の変異を起こさせる、一般的なPCR突然変異誘発キット(PCR mutagenesis kit)を用いた。NcoI及びPstI制限酵素認識部位の序列が導入されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、重合酵素連鎖反応を行うことによって、サイコースエピマー化酵素の変異体をコードする遺伝子ライブラリーを構成した後、これをE.coli BL21に挿入した。
【0051】
前記サイコースエピマー化酵素の変異体遺伝子を含んでいるpTrc99Aプラスミドを有しているE.coli BL21を、50μg/mlのアンピシリンを含有しているLB培地に接種し、37℃で6時間培養した後、これを一部採取し、50μg/mlのアンピシリン及び0.1mMのIPTGを含んでいる培地に移して37℃で6時間培養し、酵素の発現を誘導した。培養液を60℃で5分間熱処理し、最終濃度が15mMになるように果糖を入れて50℃で30分間反応させた後、一般的な果糖分析キット(fructose assay kit)を用いて残っている果糖の量を測定し、合計5000個の変異株のうち、野生型酵素と比較したときに約1.2倍の活性を示す変異株150個を選別した。
【0052】
前記の選別された150個の変異株に対して、再び前記のような方法で酵素の発現を誘導した。培養された細胞は超音波処理して破砕し、前記細胞破砕液を遠心分離してサイコースエピマー化酵素を含む上澄液を収得した後、上述した"サイコースエピマー化酵素の活性測定方法"を用いてその酵素活性を測定した。測定の結果、55℃の反応温度で高い半減期を示す23種の変異体を再選別した。
【0053】
再選別された23種の変異体の遺伝子をpTrc99AからpET―24a(+)に移し、これを用いてE.coli BL21を形質転換させた。前記組換え菌株E.coli BL21を50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地を用いて37℃で培養し、OD
600が0.6になったとき、最終濃度が0.1mMになるようにIPTG(Isopropyl―beta―thiogalactopyranoside)を注入して16℃で16時間培養した。培養液を遠心分離して菌体を収去した後、300mMのKCl及び10mMのイミダゾールを含んでいる50mMのリン酸塩緩衝溶液に再懸濁し、前記懸濁液に超音波処理を行って細胞を破砕させた。細胞破砕液を遠心分離してサイコースエピマー化酵素を含む上澄液を収得し、金属イオン親和性クロマトグラフィー(metal ion affinity chromatography)を用いて精製した。前記の精製された酵素内のイミダゾールは、脱塩カートリッジ(desalting cartridge)を用いて除去された。
【0054】
再選別された23種の変異体の55℃での半減期を測定し、そのうち半減期が最も高い5種の変異体を選別した。前記の選別された5種の変異体及び野生型の相対活性及び55℃での半減期は、下記の表1に示す通りである。
【0056】
半減期の測定結果、G67C>I33L>S213C>V96A>S8Tの順に高い半減期を示し、このうち、酵素の活性まで考慮して、I33L及びS213Cの2種の変異体を最も望ましい変異体として選定した。
【0057】
ここで、I33Lを例に挙げて本願明細書で使用された酵素変異体の名称を説明すると、数字33は、サイコースエピマー化酵素野生型を基準にしてアミノ酸序列の33番目のアミノ酸が置換されたことを意味し、数字の両側のアルファベットI、Lは、それぞれアミノ酸の頭文字を意味するものであって、これをまとめると、I33Lは、33番目のアミノ酸がイソロイシン(Ile)からロイシン(Leu)に置換されたことを意味する。
【0059】
経験的設計方法(rational design)による、熱安定性が向上したサイコースエピマー化酵素変異体の製造
【0060】
前記実施例1によって、熱安定性が増加すると同時に、活性が大きく低下しない変異体としてS213CとI33Lを選定した。これに基づいて、アミノ酸序列33番と213番に部位特異的変異(site―directed mutagenesis)を行った。
【0061】
具体的に、極性でありながら電荷を有さない213番のセリン(Ser)を、極性でありながら電荷を有さないアミノ酸であるトレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met);非極性アミノ酸であるプロリン(Pro);陰電荷を帯びる残基であるグルタミン酸(Glu);及び陽電荷を帯びる残基であるリシン(Lys)にそれぞれ置換した。
【0062】
非極性残基である33番のイソロイシンは、極性でありながら電荷を有さない残基であるシステイン;非極性残基であるバリン(Val)、ロイシン、プロリン;陰電荷を帯びる残基であるグルタミン酸;陽電荷を帯びる残基であるリシンにそれぞれ置換した。
【0063】
前記の置換されたそれぞれの変異体及び野生型の相対的活性及び55℃での半減期を測定した。
【0064】
その結果、酵素の活性に大きく影響を与えないとともに、熱安定性が増加した変異体としてI33L、I33C、I33V及びS213Cを得た。また、S213C及び、酵素の活性及び熱安定性を総合して見ると、序列番号33番の置換のうち最も望ましいI33Lを組み合わせた変異体を製作し、活性が優れるとともに、熱安定性が著しく増加したサイコースエピマー化酵素変異体(I33L―S213C)を得た。
【0065】
下記の表2は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素の野生型、33番又は213番のアミノ酸が置換された変異体及び33番と213番のアミノ酸が全て置換された変異体I33L―S213Cの相対活性及び55℃での半減期を示したものである。
【0068】
サイコースエピマー化酵素野生型及び実施例2に係るサイコースエピマー化酵素変異体の見かけの融解温度の比較
【0069】
サイコースエピマー化酵素野生型と実施例2に係るサイコースエピマー化酵素変異体であるI33L、S213C及びI33L―S213Cの熱安定性を判断するために、それぞれの酵素(又は変異体)の見かけの融解温度(apparent melting temperature(T
m))を測定した。
【0070】
測定の結果、野生型<S213C<I33L<I33L―S213Cの順に見かけの融解温度が増加することを確認できた(
図2)。具体的に、野生型と比較すると、S213Cの場合は約3.1℃、I33Lの場合は約4.3℃、I33L―S213Cの場合は約7.6℃増加した見かけの融解温度を示した。
【0072】
サイコースエピマー化酵素野生型及び実施例2に係るサイコースエピマー化酵素変異体の酵素反応速度の比較
【0073】
サイコースエピマー化酵素野生型及び実施例2に係るサイコースエピマー化酵素変異体であるI33L、S213C及びI33L―S213Cの酵素反応速度を測定するために、それぞれの酵素(又は変異体)に対して、反応温度50℃での酵素の動的媒介変数(kinetic parameters)値を計算した。
【0076】
各酵素の動的媒介変数値を測定した結果、野生型及び変異体I33L、S213Cは類似する値を示した一方、I33L―S213Cは、これより約1.4倍増加した酵素触媒効率(k
cat/K
m)を示した。その理由は、I33L―S213Cが他の変異体や野生型に比べて追加的な水素結合を形成し、野生型では発見できなかった芳香族グループ間の新しいスタッキング相互作用を形成するので、これによってより堅くかつ稠密な構造が形成された結果、基質との親和度が増加するためであると判断される(
図3)。
【0077】
より具体的に説明すると、分子モデリング結果に照らし合わせると、酵素の活性部位でない表面に位置しているアミノ酸残基である213番のセリン及び33番のイソロイシンを有する野生型とは異なり、I33L―S213Cでは、213番のシステイン(Cys)と33番のロイシン(Leu)がコイルド―コイル(coiled―coil)相互作用を形成していることが分かった(
図3の(a)、(b))。このようなコイルド―コイル相互作用は、タンパク質の構造を安定にするものとして知られている。
【0078】
また、野生型において、213番のセリンは二つの推定上の水素結合(putative hydrogen bond)を形成するが、これをシステインに置換させたS213Cの場合、推定上の水素結合が6個に増加することが分かった(
図3の(c)、(d))。これも、タンパク質の構造をより稠密にし、熱安定性を増加させ得るように助ける役割をするものと判断される。
【0079】
また、分子モデリングにおいて、野生型は芳香族グループ間の相互作用を有していないように見える一方、変異体I33Lでは芳香族グループ間のスタッキング相互作用が示されることを確認できた(
図3の(e)、(f))。このような芳香族グループ間のスタッキング相互作用も、熱安定性を増加させた要因であると判断される。
【0081】
実施例2に係るI33L―S213C変異体の遺伝子を含む組換えベクターで形質転換された組換え菌株の製造及び培養
【0083】
前記実施例2に係るI33L―S213C変異体のDNAを鋳型とし、それぞれPstIとXbaI制限酵素認識部位の序列が導入されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、重合連鎖反応を通してサイコースエピマー化酵素をコードする遺伝子を増幅させた。前記の増幅された遺伝子がコードしているサイコースエピマー化酵素を大量に発現するために、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属バクテリアから由来されたシャトルベクターpCJ―1(2004年11月6日付けで国際寄託機関である韓国微生物保存センターに寄託、受託番号KCCM―10611)に制限酵素PstIとXbaIで切断された前記の増幅されたPCR産物を挿入し、組換え発現ベクターpFIS―1―ATPE―2(
図1)を製作した。
【0084】
前記組換え発現ベクターを電気穿孔を用いてコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032に形質転換によって導入し、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のサイコースエピマー化酵素をコードする遺伝子を発現できる組換え菌株を製造した。
【0085】
前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムpFIS―1―ATPE―2と命じ、韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms、KCCM)に2011年8月18日付けで受託番号KCCM 11204Pとして寄託した。
【0087】
前記(1)で得られた組換え菌株をそれぞれ10μg/ml濃度のカナマイシンを含むMB培地(Bacto―trypton 10g/L、Bacto―yeast extract 5g/L、NaCl 5g/L、Soytone 5g/L)に初期濃度OD
600=0.1で接種し、30℃で24時間培養してサイコースエピマー化酵素変異体の発現を誘導した。前記で収得された培養液を10μg/ml濃度のカナマイシンを含有した変異培地(ブドウ糖8g/L、ソイトン(soytone)20g/L、(NH
4)
2SO
4 10g/L、KH
2PO
4 1.2g/L、MgSO
4 1.4g/L)を入れた発酵器にOD
600=0.6で接種し、30℃で20時間培養した。
【0089】
実施例3に係る組換え菌株の固定化及び固定化反応器を通したサイコースの連続的製造
【0090】
前記実施例3によって組換え菌株を培養した後、前記培養液の遠心分離によって菌体を回収し、回収された細胞が20%になるように50mMのEPPS緩衝溶液(pH8.0)に懸濁させた。前記の懸濁された組換え菌株の菌体を2%(v/v)のアルギン酸ナトリウム(sodium alginate)水溶液に添加し、前記混合液を注射器ポンプと真空ポンプを用いて100mMのCaCl
2溶液に落とし、菌体がアルギン酸ナトリウムのビードに捕集された菌体―アルギネート結合体を生成させた。アルギン酸ナトリウムに固定化された前記組換え菌株を充填床カラム(packed―bed column)に充填することによって形成された固定化反応器を通してサイコースを連続的に製造した。
【0092】
サイコースエピマー化酵素野生型を使用した固定化反応器及び実施例4に係る固定化反応器の運転安定性の比較
【0093】
サイコースエピマー化酵素野生型を使用した固定化反応器及び実施例4に係る固定化反応器の運転安定性を測定するために、反応温度を50℃に固定し、それぞれの反応器を通して2ヶ月間連続的にサイコース生産を実施し、その活性を測定した。このとき、果糖の濃度は480g/Lで、流速は850ml/hであった。
【0094】
測定の結果、野生型を使用した固定化反応器に比べて、熱安定性及び酵素活性が向上した変異体を使用した固定化反応器の場合、2ヶ月以上高い運転安定性を維持することが確認された。具体的に、野生型を使用した固定化反応器の場合は約30日の半減期を有するが、I33L―S213C変異体を使用した固定化反応器の場合は約77日の半減期を有することが示された(
図4)。
【0095】
これによって、本発明による場合、酵素をより長期間使用できるようになり、サイコースの生産費用を節減させる効果をもたらすと期待される。