【実施例】
【0067】
[RD001933株由来プロテアーゼの精製]
放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株を培養し、その培養上清について、硫安分画、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いてRD001933株由来プロテアーゼを精製した。以下に詳細を示す。
【0068】
(a)微生物の培養
菌体として、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株(受託番号:NITE P−1467)を使用した。
【0069】
まず、ISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)490mLを調製し、500mL容三角フラスコに70mLずつ分注した。これにスプリングコイルを1個入れ、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。さらに別滅菌した2.5%スキムミルク30mLを添加して終濃度を0.75%とした。
【0070】
そして、グリセロールストックの菌体を50μLとり、ISP2培地5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に植菌し、45℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mLずつ植菌し、45℃で96時間程度振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0071】
(b)アセトン分画(アセトン沈殿)
上記(a)で回収した培養上清に、60%(v/v)以上となるようにアセトンを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を、終濃度1Mの硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)15mLで溶解し、粗酵素液を得た。
【0072】
(c)Toyopearl Phenyl−650Mカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液を、1M硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)であらかじめ平衡化したToyopearl Phenyl−650Mカラム(内径26mm、高さ38mm、東ソー株式会社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0073】
(d)HiTrap Q HPカラムクロマトグラフィー
上記(c)で得られた活性画分を集め、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を用いて透析を行うことによって脱塩した。20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)であらかじめ平衡化したHiTrap Q HP(5mL)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0074】
(e)HiTrap SP HPカラムクロマトグラフィー
上記(d)で得られた活性画分を集め、20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.5)を用いて透析を行うことによって脱塩した。これを20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.5)であらかじめ平衡化したHiTrap SP(1mL)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0075】
以上のようにして、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株より、精製酵素を得た。なお、精製酵素が単一であることは、以下の(f)SDS−PAGEによる分析で確認した。
【0076】
(f)SDS−PAGE
上記(e)で溶出した活性画分を集めてSDS−PAGE(12%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により分子量を解析した。
図1は、この溶出画分のSDS−PAGEによる解析の結果を示す電気泳動写真である。
図1の左側のレーンは、タンパク質分子量マーカー(M)であり、
図1の右側のレーンは、(e)で得られた精製酵素(RD001933株由来プロテアーゼ)のバンドを示す。
図1に示すように、活性画分において、単一のバンドが観察され、精製酵素(ポリペプチド)の分子量は約31,000であった。なお、分子量の単位はDa(ダルトン)である。よって、kDa表記では、この酵素の分子量は約31kDaとなる。
【0077】
表1にRD001933株由来プロテアーゼ精製における収量、収率等を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
なお、RD001933株由来プロテアーゼの酵素活性は、次のようにして測定した。まず表2に示す反応液を65℃、pH7.5で5分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定した。酵素量1U(ユニット)は、1μmol相当のアゾ色素を1分間に生成する量とした。
【0080】
【表2】
【0081】
[RD001933株由来プロテアーゼの性質]
RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)の酵素学的性質について検討した。
【0082】
(1)作用温度
表2に示す反応液を各温度、pH7.5で5分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0083】
図3は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が75℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図3のグラフに示されるように、RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、50〜90℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は60〜80℃の範囲内であり、好ましくは70〜75℃付近であった。なお、
図4は、種々の反応温度での比活性を示すグラフである。
【0084】
(2)作用pH
表3に示す反応液を各pH、75℃で5分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0085】
使用した緩衝液は次のとおりである。
【0086】
MES−水酸化ナトリウム緩衝液:pH5.5、pH6
Bis−Tris緩衝液:pH6、pH6.5、pH7.2
Tris−HCl緩衝液:pH7.2、pH8、pH8.8
Glycine−NaOH緩衝液:pH9、pH9.5
【0087】
【表3】
【0088】
図5は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが7.2である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図5のグラフから分かるように、RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、pH5.5〜9.0という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは7.2付近(例えばpH6.0〜8.8)であった。なお、
図6は、種々の反応pHでの比活性を示すグラフである。
【0089】
(3)添加試薬の影響
まず添加試薬を加えた酵素液を30分間、室温でインキュベートした後、表4に示す反応液(ただし、添加試薬、酵素液を除く)を加えて75℃、pH7.5で5分間静置して反応させた。その後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。そして、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0090】
使用した添加試薬は、EDTA、PMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)(終濃度5mM)、ZnCl
2、MnCl
2、CaCl
2、CuCl
2、CoCl
2、MgCl
2(終濃度1mM)である。
【0091】
【表4】
【0092】
表5は、添加試薬を添加した場合の酵素活性を、添加試薬を添加していない場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したものである。RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、Zn
2+、Mn
2+、Ca
2+、Cu
2+、Co
2+、Mg
2+の存在下では、60%程度の活性を示した。また、EDTA、PMSFの存在下では、活性が大きく低下し、活性阻害が見られた。
【0093】
【表5】
【0094】
[RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)のN末端アミノ酸配列の解析]
上記の精製酵素について、SDS−PAGE後、エレクトロブロッティングを行い、目的とする酵素をPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜に転写した。これをプロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列の解析を行った。解析から、この精製酵素のN末端アミノ酸配列は、配列番号3に示すものであることが確認された。
【0095】
[RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)の内部アミノ酸配列の解析]
上記の精製酵素について、SDS−PAGE後、目的とする酵素を切り出し、トリプシンを用いてゲル内消化を行った。そして、得られたペプチドサンプルについて質量分析計(nanoLC−MS/MS)により内部アミノ酸配列の解析を行った。これにより、内部アミノ酸配列は、配列番号4、5、6、7に示すものであることが確認された。
【0096】
ここで、配列番号4は、配列番号2の277位からに示される配列となっている。また、配列番号5は、配列番号2の331位からに示される配列となっている。また、配列番号6は、配列番号2の348位からに示される配列となっている。また、配列番号7は、配列番号2の364位からに示される配列となっている。なお、nanoLC−MS/MSによるデノボアミノ酸配列解析ではLeuとIleとが判別できないため、これらのアミノ酸が一部一致していない箇所があり得る。
【0097】
[RD001933株の染色体DNAの分離]
RD001933株をISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)50mLを用いて45℃で3日間培養し、集菌した。
【0098】
次いで、この菌体を75mM NaCl、25mM EDTA、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)及び1mg/mLリゾチームからなる溶液2.5mLに懸濁し、37℃で1時間処理した。これに10%(w/v)SDSを900μL、proteinase Kを3.75mg添加し、55℃で2時間処理した。この溶液に5M NaCl2mLとクロロホルム5mLを加えて撹拌し、遠心分離により水相を5mL分取した。
【0099】
この水相に3mLのイソプロパノールを添加混合してDNA画分を回収し、70%エタノール1mLでリンスした後、遠心分離を行った。この沈殿を回収し、減圧乾燥した後、10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液500μLに溶解し55℃で一晩放置した。これにRNaseAを0.1mg/mLとなるように加え、37℃で20分間処理した後、0.8MのNaClを含む13%PEG溶液を500μL加え撹拌し、4℃、1時間静置後、遠心分離により沈殿を回収した。この沈殿を1mMEDTAを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH 7.5)500μLで溶解した。これにフェノール/クロロホルム混合液500μLを加えて撹拌し、遠心分離により、水相を500μL分取した。
【0100】
この水相に3M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)50μL及び100%エタノール1mLを添加混合し、RD001933株の染色体DNAを回収した。
【0101】
このDNAを70%(v/v)エタノールでリンスした後、遠心分離を行って沈殿を回収した。回収した沈殿を減圧乾燥した後、10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液200μLに溶解した。
【0102】
[RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子のコア領域のクローニング]
アクチノマジュラ由来プロテアーゼに高く保存されているN末端及び内部配列をもとにプライマーを設計した。
【0103】
プライマー(primer)の作製にあたっては、上記のN末端配列(配列番号3)及び上記の2つの内部アミノ酸配列(配列番号4及び配列番号5)をピックアップした。プライマー設計にあたっては、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列中の適宜の配列を利用した。
【0104】
N末端アミノ酸配列情報を「Sense primer」とし、内部アミノ酸配列情報を「Antisense primer」とした。縮重コドンに関しては、アクチノマジュラ属におけるコドン使用頻度が高いコドンを選択し、プライマー設計を行った。また、コドン使用頻度が同等のものに関しては、混合塩基プライマーとした。また、質量分析では分別が難しいLeuとIleを除外した。これにより、センスプライマー(Sense primer)として、PCR用の縮重オリゴヌクレオチドプライマーS1(配列番号8)を設計した。また、2種のアンチセンスプライマー(Antisense primer)として、配列番号4から設計した「primer A1−1」(配列番号9)と、配列番号5から設計した「primer A1−2」(配列番号10)とを設計した。ここで、配列中のsはc又はgを表し、wはa又はtを表している。
【0105】
次に上記のプライマーを用いて、PCRを行った。PCRの反応液組成は次のとおりである。
【0106】
上記[RD001933株の染色体DNAの分離]で得た鋳型染色体DNA100ng、2×MightAmp Buffer 25μL、プライマー各300nM、及びMightAmp DNA Polymerase 0.5ユニットに、滅菌水を全量50μLとなるように添加した。
【0107】
PCR反応条件は次のとおりである。
【0108】
ステップ1:98℃、2分;
ステップ2:98℃、10秒;
ステップ3:80℃、15秒;
ステップ4:68℃、1分;
ステップ2からステップ4を30サイクル繰り返す;
ステップ5:68℃、2分。
【0109】
上記のプライマーを用いたPCRによって、約700bpの特異的な増幅産物を得た。
【0110】
このPCR反応液についてアガロースゲル電気泳動を行い、目的の約700bpのバンド部分を切り出し、Mighty TA−cloning Kit(TaKaRa)を用いて、pMD20−T Vectorに結合させ、大腸菌を形質転換した。形質転換株をアンピシリン50μg/mLを含むLB培地(トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、pH7.5)で培養し、Miniprep法(ミニプレップ法)又はHigh Pure Plasmid Isolation Kit(Roche)を用いてDNAシーケンス用のプラスミドを抽出・精製した。
【0111】
続いて、ベクター(pMD20−T Vector)に由来するT7プライマー及びSP6プライマーを用いて自動シークエンサーによって、挿入断片の塩基配列を決定した。この塩基配列(692bp)を、配列番号11に示す。
【0112】
[RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子のコア領域の上流側及び下流側のクローニング]
上記[RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子のコア領域のクローニング]で決定した遺伝子配列の周辺領域の配列を明らかにするために、上記で得た染色体DNAをPstI又はSmaIで完全消化し、Ligation high Ver.2(Toyobo社製)を用いて消化断片を自己閉環させた。これを鋳型にして、RD001933株由来プロテアーゼの部分遺伝子配列に基づいて作製した2つのインバースPCRプライマー(配列番号12及び配列番号13)を用いて、PCRを行うことでRD001933株由来プロテアーゼの上流側又は下流側におけるDNA断片を増幅した。
【0113】
PCRの反応液組成は次のとおりである。
【0114】
鋳型DNA25ng、2×MightAmp Buffer 25μL、プライマー各300nM、及びMightAmp DNA Polymerase 0.5ユニットに、滅菌水を全量50μLとなるように添加した。
【0115】
PCR反応条件は次のとおりである。
【0116】
ステップ1:98℃、2分;
ステップ2:98℃、10秒;
ステップ3:62℃、15秒;
ステップ4:68℃、3分;
ステップ2からステップ4を25サイクル繰り返す;
ステップ5:68℃、3分。
【0117】
上記のプライマーを用いたPCRによって、約3000bpの特異的な増幅産物を得た。
【0118】
このPCR反応液についてアガロースゲル電気泳動を行い、目的の約3000bpのバンド部分を切り出し、Mighty TA−cloning Kit(TaKaRa)を用いて、pMD20−T Vectorに結合させ、大腸菌を形質転換した。形質転換株をアンピシリン50μg/mLを含むLB培地(トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、pH7.5)で培養し、Miniprep法(ミニプレップ法)又はHigh Pure Plasmid Isolation Kit(Roche)を用いてDNAシーケンス用のプラスミドを抽出・精製した。
【0119】
続いて、ベクター(pMD20−T Vector)に由来するSP6プライマー及びM13M4プライマーを用いて自動シークエンサーによって、挿入断片の塩基配列を決定した。このシーケンスによって、N末端側(上流側)の塩基配列として、配列番号14に示す塩基配列(330bp)が得られた。この配列は、N末端側からシグナル配列(78bp)及びプロ配列(252bp)である。また、C末端側(下流側)の塩基配列として、配列番号15に示す塩基配列(139bp)が得られた。
【0120】
[RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子の塩基配列の決定]
上記で決定した塩基配列に基づいて、RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子を含む領域の塩基配列(1161bp)を決定した(配列番号1)。配列番号2は、この配列(配列番号1)のコドンに対応するアミノ酸配列である。
【0121】
配列解析の結果から、RD001933株由来プロテアーゼをコードする遺伝子は1161bpのヌクレオチドからなり、386残基のアミノ酸をコードしていることが明らかとなった。
【0122】
上記にて決定したRD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)のN末端及び内部アミノ酸配列が、上記の推定アミノ酸配列中に存在し、ほぼ完全に一致していた。
【0123】
[RD001933株由来プロテアーゼ(粗酵素)]
放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株を培養し、その培養上清から3種の沈殿方法により、粗酵素液を得た。以下に詳細を示す。
【0124】
(a)微生物の培養
菌体として、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株(受託番号:NITE P−1467)を使用した。
【0125】
まず、ISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)700mLを調製し、500mL容三角フラスコに70mLずつ分注した。これにスプリングコイルを1個入れ、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。さらに別滅菌した2.5%スキムミルク30mLを添加して終濃度を0.75%とした。
【0126】
そして、グリセロールストックの菌体を50μLとり、ISP2培地5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に植菌し、45℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mLずつ植菌し、45℃で96時間程度振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0127】
(b1)アセトン沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるように−20℃アセトンを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表6に酵素の回収率を示す。
【0128】
(b2)エタノール沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるように−20℃エタノールを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表6に酵素の回収率を示す。
【0129】
(b3)硫安沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%飽和量となるように硫酸アンモニウム粉末を添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表6に酵素の回収率を示す。
【0130】
【表6】
【0131】
このように、酵素を濃縮回収する場合には3種の沈殿方法を適宜利用することができる。
【0132】
次に、RD001933株由来プロテアーゼ(粗酵素液)の酵素学的性質について検討した。
【0133】
(1)作用温度
表2に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各温度、pH7.5で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0134】
図7は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が80℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図7のグラフに示されるように、RD001933株由来プロテアーゼ(粗酵素液)は、50〜95℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は70〜85℃の範囲内であり、好ましくは75〜85℃付近であった。
【0135】
(2)作用pH
表3に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各pH、65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0136】
使用した緩衝液は次のとおりである。
【0137】
酢酸−酢酸Na緩衝液:pH5
Bis−Tris緩衝液:pH6
Tris−HCl緩衝液:pH7.2、pH8
Glycine−NaOH緩衝液:pH9
図8は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが8.0である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図8のグラフから分かるように、RD001933株由来プロテアーゼ(粗酵素液)は、pH5.0〜9.0という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは7.5付近(例えばpH7.0〜8.0)であった。
【0138】
(3)添加試薬の影響
表4に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃、pH7.5で10分間静置して反応させた。その後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。そして、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0139】
使用した添加試薬は、CaCl
2、NaCl、KCl、MgCl
2、MnCl
2、FeCl
2、FeCl
3、CuCl
2、ZnCl
2、CoCl
2、EDTAである。
【0140】
表7は、添加試薬を添加した場合の酵素活性を、添加試薬を添加していない場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したものである。
【0141】
【表7】
【0142】
(4)CaCl
2濃度の依存性
表8に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0143】
【表8】
【0144】
図9は、種々のCaCl
2終濃度での酵素活性を、CaCl
2終濃度が0.5mMである場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
【0145】
[RD000920株由来プロテアーゼの精製]
放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株を培養し、その培養上清について、硫安分画、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いてRD000920株由来プロテアーゼを精製した。以下に詳細を示す。
【0146】
(a)微生物の培養
菌体として、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株(受託番号:NITE P−1468)を使用した。
【0147】
まず、ISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)560mLを調製し、500mL容三角フラスコに70mLずつ分注した。これにスプリングコイルを1個入れ、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。さらに別滅菌した2.5%スキムミルク30mLを添加して終濃度を0.75%とした。
【0148】
そして、グリセロールストックの菌体を50μLとり、ISP2培地5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に植菌し、45℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mLずつ植菌し、45℃で96時間程度振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0149】
(b)アセトン分画(アセトン沈殿)
上記(a)で回収した培養上清に、60%(v/v)以上となるように−20℃アセトンを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を、終濃度1Mの硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)15mLで溶解し、粗酵素液を得た。
【0150】
(c)Toyopearl Phenyl−650Mカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液を、1Mの硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)であらかじめ平衡化したToyopearl Phenyl−650Mカラム(内径26mm、高さ38mm、東ソー株式会社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0151】
(d)HiTrap Q HPカラムクロマトグラフィー
上記(c)で得られた活性画分を集め、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を用いて透析を行うことによって脱塩した。これに、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えた。20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)であらかじめ平衡化したHiTrap Q HP(5mL)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0152】
(e)HiTrap SP HPカラムクロマトグラフィー
上記(d)で得られた活性画分を集め、20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.5)を用いて透析を行うことによって脱塩した。これに20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.5)を加えた。これを20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.5)であらかじめ平衡化したHiTrap SP(1mL)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出させた。
【0153】
以上のようにして、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株より、精製酵素を得た。なお、精製酵素が単一であることは、以下の(f)SDS−PAGEによる分析で確認した。
【0154】
(f)SDS−PAGE
上記(e)で溶出した活性画分を集めてSDS−PAGE(15%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により分子量を解析した。
図2は、この溶出画分のSDS−PAGEによる解析の結果を示す電気泳動写真である。
図2の左側のレーンは、タンパク質分子量マーカー(M)であり、
図2の右側のレーンは、(e)で得られた精製酵素(RD000920株由来プロテアーゼ)のバンドを示す。
図2に示すように、活性画分において、単一のバンドが観察され、精製酵素(ポリペプチド)の分子量は約31,000であった。なお、分子量の単位はDa(ダルトン)である。よって、kDa表記では、この酵素の分子量は約31kDaとなる。
【0155】
表9にRD000920株由来プロテアーゼ精製における収量、収率等を示す。
【0156】
【表9】
【0157】
なお、RD000920株由来プロテアーゼの酵素活性は、RD001933株由来プロテアーゼの酵素活性と同様にして測定した。
【0158】
[RD000920株由来プロテアーゼの性質]
RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)の酵素学的性質について検討した。
【0159】
(1)作用温度
表2に示す反応液を各温度、pH7.5で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0160】
図3は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が75℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図3のグラフに示されるように、RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、50〜90℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は60〜80℃の範囲内であり、好ましくは70〜75℃付近であった。なお、
図4は、種々の反応温度での比活性を示すグラフである。
【0161】
(2)作用pH
表3に示す反応液を各pH、65℃で10分間撹拌して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0162】
使用した緩衝液は次のとおりである。
【0163】
MES−水酸化ナトリウム緩衝液:pH5.5、pH6
Bis−Tris緩衝液:pH6、pH6.5、pH7.2
Tris−HCl緩衝液:pH7.2、pH8、pH8.8
Glycine−NaOH緩衝液:pH9、pH9.5
図5は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが7.2である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図5のグラフから分かるように、RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、pH5.5〜9.0という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは7.2付近(例えばpH6.0〜8.8)であった。なお、
図6は、種々の反応pHでの比活性を示すグラフである。
【0164】
(3)添加試薬の影響
まず添加試薬を加えた酵素液を30分間、室温でインキュベートした後、表4に示す反応液(ただし、添加試薬、酵素液を除く)を加えて75℃、pH7.5で5分間静置して反応させた。その後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。そして、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0165】
使用した添加試薬は、EDTA、PMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)(終濃度5mM)、ZnCl
2、MnCl
2、CaCl
2、CuCl
2、CoCl
2、MgCl
2(終濃度1mM)である。
【0166】
表10は、添加試薬を添加した場合の酵素活性を、添加試薬を添加していない場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したものである。RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)は、Zn
2+、Mn
2+、Ca
2+、Cu
2+、Co
2+、Mg
2+の存在下では、60%程度の活性を示した。また、EDTA、PMSFの存在下では、活性が大きく低下し、活性阻害が見られた。
【0167】
【表10】
【0168】
[RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)のアミノ酸配列の解析]
RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)のアミノ酸配列の解析をRD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)の場合と同様に行った。その結果、RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)のアミノ酸配列は、RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)のアミノ酸配列とほぼ100%一致したので、両方の酵素は同一のアミノ酸配列からなるものと考えられる。また、RD000920株由来プロテアーゼ遺伝子の塩基配列も、RD001933株由来プロテアーゼ遺伝子の塩基配列とほぼ100%一致したので、両方の遺伝子は同一の塩基配列からなるものと考えられる。
【0169】
しかし、
図3〜
図6に示すように、両方の酵素は、作用温度及び作用pH等の酵素学的性質にわずかな違いが見られた。
【0170】
[RD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)]
放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株を培養し、その培養上清から3種の沈殿方法により、粗酵素液を得た。以下に詳細を示す。
【0171】
(a)微生物の培養
菌体として、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株(受託番号:NITE P−1468)を使用した。
【0172】
まず、ISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)700mLを調製し、500mL容三角フラスコに70mLずつ分注した。これにスプリングコイルを1個入れ、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。さらに別滅菌した2.5%スキムミルク30mLを添加して終濃度を0.75%とした。
【0173】
そして、グリセロールストックの菌体を50μLとり、ISP2培地5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に植菌し、45℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mLずつ植菌し、45℃で96時間程度振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0174】
(b1)アセトン沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるように−20℃アセトンを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表11に酵素の回収率を示す。
【0175】
(b2)エタノール沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるように−20℃エタノールを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表11に酵素の回収率を示す。
【0176】
(b3)硫安沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%飽和量となるように硫酸アンモニウム粉末を添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)30mLで溶解し、粗酵素液を得た。表11に酵素の回収率を示す。
【0177】
【表11】
【0178】
このように、酵素を濃縮回収する場合には3種の沈殿方法を適宜利用することができる。
【0179】
次に、RD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素液)の酵素学的性質について検討した。
【0180】
(1)作用温度
表2に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各温度、pH7.5で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0181】
図10は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が70℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図10のグラフに示されるように、RD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素液)は、50〜85℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は65〜80℃の範囲内であり、好ましくは70〜80℃付近であった。
【0182】
(2)作用pH
表3に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各pH、65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0183】
使用した緩衝液は次のとおりである。
【0184】
酢酸−酢酸Na緩衝液:pH5
Bis−Tris緩衝液:pH6
Tris−HCl緩衝液:pH7.2、pH8
Glycine−NaOH緩衝液:pH9
図11は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが8.0である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図11のグラフから分かるように、RD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素液)は、pH5.0〜9.0という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは7.5付近(例えばpH7.0〜8.0)であった。
【0185】
(3)添加試薬の影響
表4に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃、pH7.5で10分間静置して反応させた。その後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。そして、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0186】
使用した添加試薬は、CaCl
2、NaCl、KCl、MgCl
2、MnCl
2、FeCl
2、FeCl
3、CuCl
2、ZnCl
2、CoCl
2、EDTAである。
【0187】
表12は、添加試薬を添加した場合の酵素活性を、添加試薬を添加していない場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したものである。
【0188】
【表12】
【0189】
(4)CaCl
2濃度の依存性
表8に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0190】
図12は、種々のCaCl
2終濃度での酵素活性を、CaCl
2終濃度が0.5mMである場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
【0191】
[RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)]
放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株及び放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株を混合培養し、その培養上清から3種の沈殿方法により、粗酵素液を得た。以下に詳細を示す。
【0192】
(a)微生物の培養
菌体として、放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura sp.)属に属するRD001933株(受託番号:NITE P−1467)及び放線菌のアクチノマジュラ(Actinomadura miaoliensis)属に属するRD000920株(受託番号:NITE P−1468)を使用した。
【0193】
まず、ISP2培地(酵母エキス0.6%、麦芽エキス1.4%、グルコース0.6%)4.2Lを調製し、10L容卓上型培養装置(丸菱バイオエンジ製)に入れ、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。さらに別滅菌した2.5%スキムミルク1.8Lを添加して終濃度を0.75%とした。
【0194】
そして、グリセロールストックの菌体2種類を500μLとり、ISP2培地50mLを入れた500mL容三角フラスコにそれぞれ植菌し、45℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。先の滅菌した培地6Lにこの2種類の培養液を30mLずつ植菌し、45℃、500rpm、1vvmで1〜7日間、好ましくは1〜3日間培養した。培養開始時において2種類の培養液の比率は1:1であることが好ましいが、別段の定めはない。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0195】
(b1)アセトン沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるように−20℃アセトンを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)50mLで溶解し、粗酵素液を得た。表13に酵素の回収率を示す。
【0196】
(b2)エタノール沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%(v/v)となるようにエタノールを添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)50mLで溶解し、粗酵素液を得た。表13に酵素の回収率を示す。
【0197】
(b3)硫安沈殿
上記(a)で回収した培養上清に、40%、50%、60%、70%、80%飽和量となるように硫酸アンモニウム粉末を添加し、各濃度で生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)50mLで溶解し、粗酵素液を得た。表13に酵素の回収率を示す。
【0198】
【表13】
【0199】
このように、酵素を濃縮回収する場合には3種の沈殿方法を適宜利用することができる。
【0200】
次に、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)の酵素学的性質について検討した。
【0201】
(1)作用温度
表2に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各温度、pH7.5で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0202】
図13は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が70℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図13のグラフに示されるように、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)は、55〜85℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は65〜80℃の範囲内であり、好ましくは70℃付近であった。
【0203】
(2)作用pH
表3に示す反応液(酵素液は80%飽和硫安沈殿により得たもの)を各pH、65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0204】
使用した緩衝液は次のとおりである。
【0205】
酢酸−酢酸Na緩衝液:pH5
Bis−Tris緩衝液:pH6
Tris−HCl緩衝液:pH7.2、pH8
Glycine−NaOH緩衝液:pH9
図14は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが8.0である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図14のグラフから分かるように、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)は、pH5.0〜9.0という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは7.5付近(例えばpH7.0〜8.0)であった。
【0206】
(3)添加試薬の影響
表4に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃、pH7.5で10分間静置して反応させた。その後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。そして、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0207】
使用した添加試薬は、CaCl
2、NaCl、KCl、MgCl
2、MnCl
2、FeCl
2、FeCl
3、CuCl
2、ZnCl
2、CoCl
2、EDTAである。
【0208】
表14は、添加試薬を添加した場合の酵素活性を、添加試薬を添加していない場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したものである。
【0209】
【表14】
【0210】
(4)CaCl
2濃度の依存性
表8に示す反応液(酵素液は80%エタノール沈殿により得たもの)を65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定することによって酵素活性を求めた。
【0211】
図15は、種々のCaCl
2終濃度での酵素活性を、CaCl
2終濃度が0.5mMである場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
【0212】
(5)保存安定性
上記(a)で回収した培養上清に60%飽和量となるように硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、10分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で90倍又は18倍に濃縮されるよう溶解し、粗酵素液を得た。90倍に濃縮した粗酵素液は4℃、室温(平均26.0℃)、40℃で静置し、18倍に濃縮した粗酵素液は真空凍結乾燥して凍結乾燥品とし、4℃、40℃で静置した。所定日数経過した後、各粗酵素の酵素活性を次のようにして測定した。まず表2に示す反応液(粗酵素液は水道水により200倍に希釈したものであり、凍結乾燥品は水道水に溶かして1mg/mLとしたもの)を65℃で10分間静置して反応させた後、20%トリクロロ酢酸を50μL加えて反応を停止させた。その後、反応液を遠心分離して上清の340nmの吸光度を測定した。初日の活性を基準(100%)とした。
【0213】
図16は、各粗酵素についての残存活性の経日変化を示すグラフである。
図16から凍結乾燥品を40℃で保存しても活性が低下しにくいことが分かる。
【0214】
[洗浄効果確認試験]
(1)滴下試験
プロテアーゼ含有洗浄剤として、RD001933株由来プロテアーゼ(精製酵素)、RD000920株由来プロテアーゼ(精製酵素)、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)をそれぞれ、疑似血液で汚染された試験片(NITI−ON、洗浄評価インジケーター「TOSI−Gold」)上に滴下し、所定時間ごとに疑似血液を拭き取って洗浄を行った。この洗浄は、65℃で各酵素量を5μL(濃度:約5U/mL)に調製して行った。試験片の洗浄結果は、次の基準で目視により判定した。その結果を表15に示す。
【0215】
「◎」:完全に洗浄された状態
「○」:ほとんど洗浄されている状態
「△」:ごくわずかな残留物(疑似血液汚れ)がある状態
「×」:残留物(疑似血液汚れ)が残っている状態
【0216】
【表15】
【0217】
(2)フラスコ試験
洗浄剤として、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)、市販酵素ナットウキナーゼ(和光純薬工業(株)「147−08801」)、市販ストレプトキナーゼ(和光純薬工業(株)「593−20581」)、市販酵素ウロキナーゼ(田辺三菱製薬(株)「873954」)、市販衣類洗剤(花王(株)「アタックNeo」)、市販酵素サーモリシン(シグマ−アルドリッチ「P1512−1G」)を用いた。
【0218】
上記の洗浄剤をそれぞれ200mL容フラスコに30mLずつ入れ、さらに試験片(NITI−ON、洗浄評価インジケーター「TOSI−Gold」)を入れて浸漬させた。そして、表17に示す温度及び時間の条件で攪拌子により上記のフラスコ内を攪拌した。その後、上記の試験片を取り出して軽く水洗した後、上記と同じ基準で洗浄結果を判定した。その結果を表16に示す。
【0219】
【表16】
【0220】
表16から明らかなように、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)は最も洗浄効果が高いと考えられ、次いで市販酵素サーモリシンの洗浄効果が高いことが確認された。
【0221】
(3)洗浄器試験その1
市販されている洗浄剤の中では最も洗浄効果が高いと考えられるサーモリシン(シグマ−アルドリッチ「P1512−1G」)と、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)との洗浄効果を次のようにして確認した。
【0222】
smeg社(イタリア)製器具除染用洗浄器「WD3060」に、試験片(NITI−ON、洗浄評価インジケーター「TOSI−Gold」)をセットした。さらにプロテアーゼ含有洗浄剤として、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)又はサーモリシン(シグマ−アルドリッチ「P1512−1G」)をセットし、次の工程1〜5で表17に示す温度X(℃)及び時間Y(min)の条件で試験片の洗浄を行った。試験片の洗浄結果は、上記と同じ基準で目視により判定した。その結果を表17に示す。
【0223】
工程1:水道水による予備洗浄、3分;
工程2:洗浄、温度X(℃)、時間Y(min);
工程3:すすぎ1回目、40℃、1分;
工程4:すすぎ2回目、水道水、1分;
工程5:殺菌、90℃、5分。
【0224】
【表17】
【0225】
表17から、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)の方が、市販酵素サーモリシンに比べて少ない酵素量で同等の洗浄効果を示すことから、より洗浄効果が高いと考えられる。
【0226】
(4)洗浄器試験その2
ヨーロッパ等の硬水を想定したCa
2+濃度と洗浄力との関係について次のように調べた。
【0227】
smeg社(イタリア)製器具除染用洗浄器「WD3060」に、試験片(NITI−ON、洗浄評価インジケーター「TOSI−Gold」)をセットした。さらにプロテアーゼ含有洗浄剤として、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)をセットして、上記と同じ工程1〜5で試験片の洗浄を行った。その結果を表18に示す。試験片の洗浄結果は、上記と同じ基準で目視により判定した。
【0228】
【表18】
【0229】
表18から明らかなように、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)は、Ca
2+濃度の低い軟水(例えば日本国内の水道水)下に比べてCa
2+濃度の高い硬水(ヨーロッパ等の水)下の方がさらに洗浄力が向上することが確認された。
【0230】
(5)洗浄器試験その3
現在広く使用されているアルカリ洗浄剤の洗浄効果を次のようにして確認した。
【0231】
smeg社(イタリア)製器具除染用洗浄器「WD3060」に、試験片(NITI−ON、洗浄評価インジケーター「TOSI−Gold」)をセットした。さらに既存洗剤A(アルカリ洗浄剤、Borer Chemie社製「deconex(R)28ALKAONE−X」)、既存洗剤B(多酵素洗浄剤、Borer Chemie社製「deconex(R)POWER ZYME」)をセットして、上記と同じ工程1〜5で試験片の洗浄を行った。その結果を表19に示す。試験片の洗浄結果は、上記と同じ基準で目視により判定した。
【0232】
【表19】
【0233】
表17及び表18に示すRD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)の洗浄結果と、表19に示す既存のアルカリ洗浄剤の洗浄結果とを対比すると、RD001933株及びRD000920株由来プロテアーゼ(粗酵素)の方が、既存のアルカリ洗浄剤に比べて洗浄効果が高いことが確認された。