特許第6043373号(P6043373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043373
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】練習球の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/00 20060101AFI20161206BHJP
   A63B 45/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A63B69/00 505B
   A63B45/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-4232(P2015-4232)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-129562(P2016-129562A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514294588
【氏名又は名称】水口 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】水口 栄二
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−056363(JP,U)
【文献】 実開昭61−042963(JP,U)
【文献】 実開昭51−021961(JP,U)
【文献】 実開平05−029567(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0190081(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00 − 47/04
A63B 69/00 − 69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用途に応じて選択される熱可塑性樹脂の発泡体によって得られた中実の球体に対し、貫通状の孔又は窪み状の穴を形成し、この孔又は穴に対して球体の材質より比重の重い芯部材を挿入し、前記孔又は穴の球体表層部を蓋部材による面一状に塞ぐ手順を有することを特徴とする練習球の製造方法。
【請求項2】
球体を公式球と同一の外観となるように製造し、表面に回転が把握できるよう着色・文字・図柄のいずれか又は複数を付す手順を有することを特徴とする請求項1記載の練習球の製造方法。
【請求項3】
孔又は穴と芯部材とを、該芯部材が該孔又は穴に対して挿脱可能に形成する手順を有することを特徴とする請求項1又は2記載の練習球の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内練習場の狭い広いといった規模や、使用者のオーダーにきめ細かくかつ柔軟に対応できると共に公式球と同様の感触で練習することができ、さらに、製造段階においても、多種類の完成品を在庫とする必要のない練習球に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、野球などの球技は、その球技の施設以外の場所、例えば屋内で練習する際に、実際の公式球を用いると、狭い場所なので球が人に当たって危険である、屋内の壁や天井や練習設備に当たって破損してしまう、といった問題があり、屋内練習用のいわゆる練習球が用いられることがある。
【0003】
従来の練習球は、後述する特許文献1,2のように構成されたものが知られている。特許文献1の遊具ボールは、発泡スチロール球体の中心部分に重りを装備して、球体質量を増し、球体表面にボールの縫い合わせ目状に小さな凸線を設ける構成としている。
【0004】
また、特許文献2の遊戯用ボールは、反発弾性率が15%以下のポリウレタン発泡体からなる遊戯用ボール、及びこのポリウレタン発泡体のかさ密度以上の衝撃吸収体からなる芯体を備える構成としている。
【0005】
特許文献1,2は、材質はポリスチレン発泡体、ポリウレタン発泡体と、双方で異なるものの、いずれも所定の重さの芯体を予め内部に有しているものである。
【0006】
このように、予め決められた重さの芯体を内部に有した構成であると、上記のように、屋内練習用のスペースの広い狭いによって、例えば打球の飛距離を調節できず、例えば狭い屋内練習場であれば思い切り打った打球が上記のように人や物に当たった際に怪我や破損することがあり、芯の重さを軽くしたり球体材質を柔らかくしたりするなどの工夫を要することとなる。
【0007】
すなわち、従来では、予め一定の重さの芯体を内部に有する構成であったので、屋内練習用のスペースの広い狭いによって、芯体(又は全体)の重さや材質の異なる各種類の練習球を用意する必要があり、そのように多種類の練習球を用意することは無駄が生じることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−185804号公報
【特許文献2】特開2007−215639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の練習球は一定の重さの芯体を予め内部に有する構成であったため、使用者が屋内練習用スペースの広さや用途に応じた重さに調節することができず、少なくとも重さの異なる多種類の練習球を用意する必要があり、無駄が多くなる点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の練習球の製造方法は、用途に応じて選択される熱可塑性樹脂の発泡体によって得られた中実の球体に対し、貫通状の孔又は窪み状の穴を形成し、この孔又は穴に対して球体の材質より比重の重い芯部材を挿入し、前記孔又は穴の球体表層部を蓋部材による面一状に塞ぐ手順を有することを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の本発明は、予め重さが一定とされた芯体を有する構成ではなく、必要とされる屋内練習場のスペースや用途に応じた重さとなるように芯部材を孔又は穴に挿入することとしているため、球技種、屋内練習場の規模、使用者の要求に幅広く柔軟にしかも細かく対応させることができる。
【0012】
また、本発明方法により製造された練習球は、従来のように一律的に完成した練習球ではなく、球技種、屋内練習場の規模、使用者の要求に幅広く柔軟にしかも細かく対応したものであるため、屋内練習場の規模や使用者のレベルにおけるその球技種の公式球と同様の感触で思い切り練習することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明によって製造された練習球を示す図である。
図2】本発明における球体を作成する工程を示す図である。
図3】(a)〜(c)は本発明における孔又は穴を形成する工程を示す図である。
図4】(a)(b)は本発明における芯部材を挿入する工程を示す図である。
図5】本発明における蓋部材を設ける工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の練習球の製造方法は、完成品の種類を多数製造することに代えて、半製品の状態、すなわち、貫通状の孔又は窪み状の穴を形成しておき、オーダーに応じて必要な重さの芯部材を挿入して完成品を得るというものである。これにより、球体、芯部材、蓋部材といった共用材料だけをストックしておくことができ、無駄がなくなるなどの効果を得ることができる。以下、図1図5を参照して、本発明の製造方法とこれにより得られる練習球の一例を説明する。
【実施例】
【0015】
図1に示す本発明の製造方法による練習球1は、図2に示す球体1Aを作成する工程、図3に示す孔2A又は穴2Bを形成する工程、図4に示す芯部材3を挿入する工程、図5に示す蓋部材4を設ける工程、を有する。図示では各工程の代表的な手法を示しているが、各工程における作業手法はこれに限らない。
【0016】
図2において、球体1Aとして採用する熱可塑性樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、等が選択でき、これらを用途に応じて調整して発泡成形して得るが、特に野球の練習用として好適な材料は、ポリエチレンである。
【0017】
野球の練習用としてポリエチレンが好適な理由は、バットで打った瞬間には変形するが、即座に復元してなおかついわゆる打感(バットで打ったときの感触)が公式球に近いため、また、繰り返し何度もバットで打っても、変形が確実に復元するという特性もあるからである。さらに、ポリエチレンは、人や物に当たっても跳ね返り過ぎず、適度に衝撃を吸収して怪我や損傷を抑制できるからである。
【0018】
野球の練習用としてポリスチレン(いわゆる発泡スチロール)はやや適していない。この理由は、バットで打った瞬間の変形が復元しにくく、繰り返し何度もバットで打つと変形したままになってしまうからである。さらに、ポリスチレンは、人や物に当たったときに跳ね返りが大きく、また、衝撃を吸収性を欠くため、怪我や損傷する可能性がある。しかし、野球の練習球としない場合は採用して問題はない。
【0019】
また、球体の材料を限定してもしなくても、例えば硬式野球の練習用とする場合は公式球の反発係数0.4034〜0.434となるように、一方、軟式野球の練習用とする場合は公式球(A,B,C,D,H)の反発係数50〜105、となるように球体1Aの発泡率や材料配合を調節する。
【0020】
また、本発明の方法における中実の球体1Aとは、例えば硬式野球の公式球とほぼ同じく円周を22.9〜23.5cm(直径7.29〜7.48cm)となる金型を用い、軟式野球の公式球(A,B,C,D,H)に対応させる場合は、直径6.4〜7.25cmとなる金型を用いる。
【0021】
この金型には、例えば硬式野球の練習用とするならば、108個の縫い目を高さ1〜2mm程度の高さとなるように金型内面に窪みを形成しておく。また、球体には、例えば、文字や図柄、表面の一部に色などを付すようにすれば、回転が把握でき、練習に有用となる。
【0022】
さらに、本発明の方法において、練習球1全体の重さは、例えば硬式野球の練習用とする場合は、後述の芯部材3を含めた状態で5〜60gとなる重さとなるように、芯部材3と球体1Aを構成する熱可塑性樹脂の重量とを調整する。
【0023】
練習球1全体の重さが、5gより軽いと、例えば野球の練習用とする場合は、軽すぎて投げたときに空気抵抗を受けて真っ直ぐな軌道とならず、60gより重いと、同じく野球の練習用とする場合は、重すぎてバットで打ったときに飛距離が長くなり狭い屋外練習場に向いていないと共に、人や物に当たると怪我や損傷を与える可能性がある。
【0024】
さらに、本発明の方法では、図3に示す、球体1Aに貫通状の孔2A又は窪み状の穴2Bを形成する前、又はその後に、球体1Aにニスなどの仕上げ剤を塗布すれば、例えば土などが用いられている屋内練習場で使用しても球体が削れたり傷ついたりすることがなく、長期に亘って使用することができる。
【0025】
球体1Aに塗布する仕上げ剤としては、ニス等を使用してもよいが、例えば過度に硬くなるとか、べたつく等のように、球体1Aを構成する熱可塑性樹脂の性状や特性が大きく変化しないものを採用すればよく、エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
図3において、本発明は、以上の条件を満たす球体1Aに対し、貫通状の孔2A又は窪み状の穴2Bを形成する。まず、図3(a)のように、球体を貫通する孔2Aを形成する場合、球体1Aの内部中心を通り、例えば上下、左右、前後、の位置で表面上は、合計6箇所形成するとよい。
【0027】
一方、図3(b)のように、球体1Aの表面を窪ませた穴2Bを形成する場合も、例えば上下、左右、前後の直径対向位置に所定深さで合計6箇所形成するとよい。このように、球体の中心を通る(物理的にも仮想的にも)X,Y,Z軸線に孔2A又は穴2Bを形成することで、後述する芯部材3を挿入した際に、偏芯が抑制される。
【0028】
また、孔2A又は穴2Bの折衷形状としては、図3(c)のように、球体1A表面のどこか一箇所から中心まで極細い孔を形成し、中心部に穴2Cを形成して挿入時に流動性の芯部材3を挿入するようにしてもよい。本発明の方法では、かならずしも球体1Aの内部中心に芯部材3が存在する必要はなく、偏芯しないように重量を加えることができればよい。
【0029】
また、孔2A又は穴2Bの詳細としては、後述の芯部材3の挿脱が自在となる構成(図4参照)とすることで、一旦は芯部材3を挿入して任意の重さとした後に、屋内練習場の広さなどに応じて、重さの異なる芯部材3を差し替えることができる。
【0030】
この場合、孔2A又は穴2Bから、球体の使用時の回転などにより芯部材3が抜けないようにすることが必須となり、例えば芯部材3の外周面と孔2A又は穴2Bの内周壁に互いに螺合するネジを形成しておくことが考えられる。
【0031】
また、後述する蓋部材4でもって強固に芯部材3を封入する構成でもよく、あるいは、芯部材3を治具を用いなければ取り出し又は挿入ができない程度の圧力で挿入する径に設計しておくことが考えられる。
【0032】
図4において、本発明の方法では、芯部材3は、球体1Aの材料比重より重い材料により構成され、屋内練習場の広さに応じて重さを変更する練習球とする場合は、図4(a)に示すように別体で予め作成しておき、一方、任意の重さで固定的な練習球とする場合は図4(b)に示すように孔2A又は穴2Bに挿入時には流動性を有し、時間経過後に固化する材料を挿入する。
【0033】
図4(a)のように、屋内練習場の広さに応じて重さを変更できる芯部材3は、予め固形化されたもので構わないが、この場合は孔2Aや穴2Bに対して挿脱可能であることが条件とされる。すなわち、例えば孔2Aや穴2Bの内周面に(雌)螺子が形成されているとすれば、芯部材3は、例えば5g単位の重さの適当な大きさの固形体として、その外周に(雄)螺子を形成しておけばよい。
【0034】
一方、図4(b)のように、挿入時に適度な流動性を有し、時間経過後に固化する芯部材3としては、例えば、酢酸エマルジョン重合分子を主材料とするいわゆる木工ボンド単体、又はこれに砂や砂鉄などを混ぜて作成した混合剤、(紙、油性)粘土、あるいは、水を含んで膨張した後に固化する材料を用いればよい。
【0035】
また、芯部材3は、孔2A又は穴2Bが螺子状ではないが挿脱可能とする場合は、例えば孔2A又は穴2Bの内径よりも僅かに大きい径としておき、球体1Aの孔2A又は穴2Bの内周を拡径するように弾性変性させつつ挿入するもの(取り替え時には治具を用いる)としてもよい。
【0036】
なお、芯部材3が孔2A又は穴2Bに対して挿脱可能な構成については、球体1Aの回転や、球体1Aに与えられた衝撃により芯部材3が不用意に飛び出してしまわないこと、重心が偏らないこと、及び球体1A表面から突出しないこと、の条件を満たすならば、限定しない。
【0037】
図5において、本発明の製造方法による練習球1は、芯部材3を挿入する孔2Aや穴2Bに対して、球体1Aの表層部を蓋部材4によって面一状に塞ぐ工程を有する点も大きな特徴であり、この蓋部材4は、球体1Aと同材料で球体1Aとは別の部材により該球体1A表層部の孔2A又は穴2Bを面一状に塞ぐようにしてもよいし、図4(a)のように芯部材3によって球体1A表層部をの孔2A又は穴2Bを面一状に塞ぐようにしてもよい。
【0038】
蓋部材4を球体1A及び芯部材3と別体とする場合は、球体1Aと同材料とすることで、表面上の指ざわりの違和感を感じることがなく、例えば野球の練習用とした場合には、投球時に投手の指に違和感が生じにくく、また、回転の偏芯の要因となることを回避できる。
【0039】
球体1Aと同材料とした場合の蓋部材4は、例えば孔2A又は穴2Bを形成した後の部位を採用することで無駄がなく、確実に球体1Aの表層部を面一化することでできる。
【0040】
一方、芯部材3が蓋部材4を兼ねて孔2Aや穴2Bを塞ぐようにする場合は、孔2Aや穴2Bの径や深さと、挿入する芯部材3の重さを計算して、(目的とする重さとなる)芯部材3を挿入したときに該芯部材3が球体1A表層部まで到達してかつ球体1Aの表層部と面一状となるように均すようにすればよい。
【0041】
以上のように、本発明の方法により製造された練習球1は、製造段階で、パーツとしてストックした、球体1A、芯部材3(及び蓋部材4)を、練習球全体の大きさ、重さ、硬さ、のオーダーに応じて組み立てればよく、従来のように、完成品の多数の種類を予め製造して在庫とする必要がないので、無駄がない。
【0042】
また、本発明の方法により製造された練習球1は、屋内練習場の狭い広いといった規模や、使用者のオーダーにきめ細かくかつ柔軟に対応できるので、多種のスポーツ競技の練習球としても幅広く採用できる。
【0043】
さらに、本発明の方法により製造された練習球1は、練習用としながらも、球体1Aの材質や、芯部材3の重さ、を正しく選択することで、屋内練習場においても、公式球と同様の感触で練習することができ、より実践的な練習を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 練習球
1A 球体
2A 孔
2B 穴
3 芯部材
4 蓋部材
図1
図2
図3
図4
図5