(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
移動体端末に対するスループット測定(ダウンリンク)を行なう場合、試験システム側からパケットデータを送信し、そのパケットデータを受信した移動体端末から送られてくる受領確認メッセージを含むパケットを受け、パケットの送信タイミングからACKメッセージを受けるまでの時間差と、受信確認されたパケット数により、単位時間当りのデータ量であるスループットを求め、このスループットの変化を例えばグラフで表示している。
【0003】
なお、上記のように移動体端末に対するスループット試験を行い、得られたスループットのグラフを表示する技術は、特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記試験で得られるスループットは、試験システムの内部や移動体端末の内部のデータ処理に起因する遅延の影響で変化するが、試験システムの内部や移動体端末の内部でパケット自体の損失(パケットロス)があると、パケット再送信処理を行なうことになり、スループットが大きく低下する。
【0006】
このスループットの変化は表示されたグラフから認識することができるが、そのグラフからはスループットの変化要因を特定することはできない。
【0007】
ただし、従来の試験システムには、試験システム内におけるレイヤ間のパケットの転送履歴を時刻情報とともに記憶するログ機能を有しているので、ユーザーは表示されたグラフでスループットの変化を認識した場合、ログ機能で記憶されているパケットの転送履歴を調べて、どの処理段階でパケットロスが発生したのかを見つけ出さなければならず、パケットロスの発生位置を特定するための作業に時間が掛かっていた。
【0008】
本発明は、この問題を解決し、パケットロスの発生箇所を容易に特定できる移動体端末試験システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の移動体端末試験システムは、
試験対象の移動体端末との間で基地局を模擬した通信を行う通信処理部(21)と、
表示部(22)と、
操作部(23)と、
スループット試験に用いるパケットデータを、前記通信処理部を介して前記移動体端末に送信するパケット送信手段(31)、該パケット送信手段が送信したパケットデータに対して前記移動体端末から返信される受領確認メッセージを含むパケットを受信するパケット受信手段(32)、前記パケット送信手段がパケットデータを送信してから前記パケット受信手段が受領確認メッセージを含むパケットを受信するまでの時間差を計測する時間差計測手段(33)、前記時間差計測手段によって計測された時間差と受領確認されたパケット数からスループットを算出するスループット算出手段(34)、前記スループット算出手段によって算出されたスループットをグラフ表示するスループット表示手段(35)、試験システム内のレイヤ間のパケット転送状況をパケットのシーケンス番号に基づいて監視し、その履歴情報を時刻情報とともに記憶するパケット転送監視手段(36)、前記パケット転送監視手段によって記憶された履歴情報を前記表示部に表示するパケット転送履歴表示手段(37)を有する試験制御部(30)とを備えた移動体端末試験システムにおいて、
前記試験制御部には、
前記パケット転送監視手段で監視されるパケットのシーケンス番号に飛びが発生したタイミングを、パケットロスの発生タイミングとして検出するパケットロス検出手段(41)と、
前記スループット表示手段が表示するグラフが
、前記パケットロス検出手段によって検出されたパケットロスの発生タイミングの後で最初に減少変化する位置を
、前記パケットロスの発生に起因してスループットが減少した位置とし、該位置を示すマークを、前記操作部に対する操作で指定できる状態で表示するパケットロスマーク表示手段(42)が設けられ、
前記パケット転送履歴表示手段は、ユーザーによる前記操作部の操作で前記マークが指定されたとき、前記パケット転送監視手段に記憶されている履歴情報から、前記マーク
の位置の前のパケットロスの発生タイミングを含む時間帯の履歴情報を抽出して前記表示部に表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように構成したので、本発明の移動体端末試験装置では、スループット試験を行なっているときに試験システム内でパケットロスが発生した場合、そのパケットロスによってスループットが減少変化する位置を示すマークをスループットのグラフに表示し、ユーザーがこのマークを指定操作すると、パケット転送監視手段によって記憶されているパケットの転送履歴の情報から、指定操作されたマークに対応するパケットロスの発生タイミングを含む時間帯の履歴情報が抽出されて表示部に表示される。
【0011】
このため、ユーザーはスループット試験の際にパケットロスが発生したことおよびパケットロスによるスループットのグラフの減少変化を、表示されたマークから容易に認識でき、しかもそのマークを操作部で指定操作すれば、そのパケットロスが発生したタイミングを含む時間帯の転送履歴情報が表示されるから、試験システム内のどのレイヤ間でパケットロスが発生したかを特定することができる。このようにパケットロスが試験システム内で発生したことがわかれば、スループットの試験結果の変動が移動体端末によるものか試験システム自体によるものかの判別もできる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体端末試験システム20の構成を示している。
【0014】
この移動体端末試験システム20は、通信処理部21、表示部22、操作部23、試験制御部30によって構成されている。
【0015】
通信処理部21は、試験対象の移動体端末1との間で基地局を模擬した通信を行う所謂擬似基地局装置で構成されている。実際の擬似基地局装置は、種々の通信方式に対応した複雑な変復調処理、周波数変換処理等を行なうが、簡単に説明すれば、試験対象の移動体端末1との間でリンクを形成してから、試験制御部30からの各種試験に必要なデータを受けて移動体端末1の通信方式に応じた変調処理を行い高周波信号に変換して送信し、移動体端末1から送信された高周波信号を受信復調して、得られたデータを試験制御部30に与える。
【0016】
また、この通信処理部21は、入力されるベースバンドのパケットデータに対して、所定のプロトコルにしたがって順次上位のレイヤへの変換処理を行い、通信方式で定められたフレーム信号に変換し、このフレーム信号に対して変調処理、周波数変換処理を行なって送信し、移動体端末1から送信された信号に対して周波数変換処理、復調処理を行い、さらに順次下位のレイヤへの変換処理を行い、ベースバンドのパケットデータを得ている。
【0017】
表示部22は、移動体端末1の試験に必要な各種情報や測定結果などを表示するためのものであり、操作部23は、ユーザーが試験に必要な各種パラメータ等を設定するためのものである。
【0018】
試験制御部30は、通信処理部21を介して試験対象の移動体端末1との間でデータの授受を行い、移動体端末1の試験に必要な各種処理を行なうものであり、通信処理部21と一体的に構成されたものだけでなく、通信処理部21と別体の制御装置、例えばパーソナルコンピュータによって構成されている場合もある。
【0019】
この試験制御部30は、移動体端末に対して非常に多くの種類の測定を実行するように構成されているが、ここでは、移動体端末1のスループット試験を行なうための構成について説明する。なお、この試験制御部30が行なうスループットの試験結果には、試験システム全体のパケット転送に必要な遅延時間(通信処理部21の遅延時間など)の要素も含まれているものとする。
【0020】
試験制御部30のパケット送信手段31は、スループット試験に用いるパケットデータを、通信処理部21を介して移動体端末1に送信する。このパケットデータとしては、128バイト構成のパケットを複数(例えば、128個や256個等)まとめて送られるが、その複数のパケットにはパケット固有のシーケンス番号(パケット番号)の情報が付与されているものとする。
【0021】
パケット受信手段32は、パケット送信手段31が送信したパケットデータに対して移動体端末1から返信される受領確認メッセージ(以下ACKメッセージと記す)を含むパケットを受信する。
【0022】
時間差計測手段33は、パケット送信手段31がパケットデータを送信してからパケット受信手段32がACKメッセージを含むパケットを受信するまでの時間差RTTを計測する。なお、このACKメッセージには、受信確認したパケットのシーケンス番号が含まれているものとする。
【0023】
スループット算出手段34は、時間差計測手段33によって計測された時間差RTT(i)とACKメッセージで受領確認されたパケット数Pr(i)とに基づいてスループットTP(i)(単位はbps)を順次算出する。
【0024】
この算出は、
TP(i)=Pr(i)×128×8/RTT(i)
となる。ここで、iは測定回数を表す。
【0025】
スループット表示手段35は、スループット算出手段34によって算出されたスループットを表示部22に、例えば
図2のようにグラフ表示する。この表示形態は任意であり、順次算出されるスループットTP(i)の値をメモリに記憶しながら、横軸時間のグラフ上に表示していく方式の他に、所定回数の測定が終了した段階で一括に表示する場合がある。
【0026】
パケット転送監視手段36は、試験制御部30と通信処理部21で構成される試験システム内のレイヤ間のパケット転送状況をパケットのシーケンス番号に基づいて監視し、その履歴情報を時刻情報とともに記憶する。例えば、試験制御部30から出力されるパケットデータは物理層の信号として通信処理部21に入力され、順次上位のレイヤ(MAC層→RLC層→PDCP層)に変換されて移動体端末1へ送信され、移動体端末1からの信号は、通信処理部21内で上位レイヤから順次下位のレイヤの信号に変換されて最終的に物理層のパケットデータが試験制御部30に出力されることになる。
【0027】
パケット転送監視手段36は、このパケットデータのレイヤ間の転送状況を監視し、その履歴情報を記憶する。なお、履歴情報にパケットのシーケンス番号が含まれるようにしてもよい。
【0028】
パケット転送履歴表示手段37は、パケット転送監視手段36によって記憶されたパケットの転送履歴を表示部22に表示するためのものであり、基本的には、操作部23に対する特定操作で、表示部22の画面を切り替えて、測定中に得られたパケットの転送履歴を全て表示(スクロール表示も含む)できるように構成されているが、この実施形態のパケット転送履歴表示手段37は、後述するように、パケットロスの発生タイミングを含む時間帯のパケット転送履歴を抽出して自動的に表示部22に表示する機能を有している。
【0029】
上記構成要件は従来装置にも含まれているが、本実施例の移動体端末試験システム20の試験制御部30には、上記構成要件の他に、パケットロス検出手段41およびパケットロスマーク表示手段42が設けられている。
【0030】
パケットロス検出手段41は、パケット転送監視手段36で監視されるパケットのシーケンス番号の連続性を調べ、シーケンス番号に飛びが発生したときパケットロスが発生したものと判断し、その時刻情報をパケットロスの発生タイミングTlossとして記憶する。ここで、移動体端末1に送信されるパケットについては、パケット送信手段21が付与したシーケンス番号の連続性を調べてロスがあるか否かを判定し、移動体端末1から送信されたパケットについては、受領確認メッセージに含まれるシーケンス番号の連続性を調べてロスがあるか否かを調べている。なお、パケットロスの発生タイミングTlossとして、時刻情報とともにパケットのシーケンス番号も記憶するようにしてもよい。
【0031】
試験システム内あるいは移動体端末1でパケットロスが発生すると、送信したパケットに対する受領確認メッセージが所定時間経過しても受信されないことになる。この情報をパケット受信手段32から受けたパケット送信手段31は、受領確認されなかったパケットの再送信を行なうが、このパケットロスにより受領確認されたパケット数が減るから、スループットの算出値が減少し、
図2に示しているように、スループットのグラフが時刻Taで急峻に減少することになる。なお、実際のパケットロスの発生タイミングTlossに対して、そのパケットロスに起因するスループットのグラフが減少するタイミングTaは遅れることになる。
【0032】
パケットロスマーク表示手段42は、スループット表示手段35が表示するスループットのグラフに、パケットロスが発生したことを表すマークを、操作部23に対する操作で指定できる状態で表示する。このマークの形状等は任意であるが、例えば、
図2に示しているように、スループットのグラフの時間軸上で、パケットロスに起因してスループットが急峻に減少変化している時間位置Taに△マークで示す。前記したように、パケットロスが実際に発生したタイミングTlossに対してスループットのグラフが減少変化するタイミングTaは遅れるが、マークの表示位置は、パケットロスが発生した時刻Tlossより後でグラフが最初に急峻に減少変化したタイミングTaに合わせればよい。
【0033】
このマークが表示されているときに、ユーザーが操作部23を操作して、マークを指定操作(例えばマウスカーソルをマークに合わせてクリックする)すると、パケット転送履歴表示手段37が起動し、それまでに記憶されている履歴情報から、マークに対応したパケットロスの発生タイミングTlossを含む時間帯の履歴情報を抽出して表示部22に表示する。なお、履歴情報およびパケットロスの発生タイミングTlossに、時刻情報とともにシーケンス番号が記憶されている場合、そのシーケンス番号を用いて履歴情報を抽出するようにしてもよい。
【0034】
図3は、その表示例を示すものであり、左から順に処理の順番を示す番号欄、各レイヤ欄、データ種別欄、時刻欄等が設けられ、レイヤ間の転送方向を矢印で示している。この例は、パケットロスの発生タイミングTloss=T(n)を含むT(n-5)〜T(n+4)の10個の転送履歴が表示されており、送信パケットが最下位レイヤの物理層(PHY)から最上位レイヤのPDCP層まで順次転送され、端末(TE)からのパケットが最上位レイヤから最下位レイヤへ転送されている様子が矢印で示されている。そして、パケットロスは、PDCP層からPLC層への転送段階で発生していることを、その欄の白黒反転表示や色分け表示(
図3ではハッチングで示す)によって識別できるようにしている。なお、履歴情報にパケットのシーケンス番号が含まれる場合には、シーケンス番号欄を設け、パケットのシーケンス番号を表示するようにしてもよい。
【0035】
このように、実施形態の移動体端末試験システム20は、スループット試験を行なっているときに試験システム内でパケットロスが発生した場合、その発生タイミングを記憶しておき、スループットのグラフが表示される際にそのパケットロスによってスループットが減少変化する位置を示すマークをグラフ上に表示し、ユーザーがこのマークを指定操作すると、パケット転送監視手段36によって記憶されているパケットの転送履歴の情報から、指定操作されたマークに対応するパケットロスの発生タイミングを含む時間帯の履歴情報が抽出されて表示部22に表示される。
【0036】
このため、ユーザーはスループット試験の際にパケットロスが発生したことおよびパケットロスによるスループットのグラフの減少変化を、表示されたマークから容易に認識でき、しかもそのマークを操作部23で指定操作すれば、そのパケットロスが発生したタイミングを含む時間帯の転送履歴情報が表示されるから、試験システム内のどのレイヤ間でパケットロスが発生したかを特定することができる。また、このようにパケットロスが試験システム内で発生したことがわかれば、スループットの試験結果の変動が移動体端末によるものか試験システム自体によるものかの判別も容易に行なえる。