(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
0.01原子%〜0.03原子%のNiと、0.03原子%〜0.05原子%のLaとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウムスパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム薄膜は、電気抵抗が低く、エッチングによる加工が容易であることから、液晶ディスプレイなどの表示デバイスの走査電極および信号電極として、使用されている。アルミニウム薄膜の形成は、一般的にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法で行われる。スパッタリング法では、真空容器内にアルゴンなどの不活性ガスを低いガス圧で導入し、基材と、得ようとする薄膜と実質的に同一の組成の材料から構成されるスパッタリングターゲットとの間に高電圧を印加して、プラズマ放電を発生させる。そして、プラズマ放電によってイオン化された気体(アルゴンなどの希ガス)をスパッタリングターゲットに加速・衝突させ、非弾性衝突によってスパッタリングターゲットの構成原子をたたき出し、基板上にその構成元素を付着・堆積させて薄膜を形成させる。
【0003】
スパッタリング法以外の金属薄膜の主な成膜手法として真空蒸着法が知られている。真空蒸着法等の方法と比較して、スパッタリング法はスパッタリングターゲットと同一組成の薄膜を連続して形成できる点がメリットである。また工業的には、大面積に連続して安定成膜できる点でも優位な成膜手法である。
【0004】
スパッタリング法に用いるアルミニウムスパッタリングターゲットとして、例えば特許文献1および2に記載のものが知られている。特許文献1は、液晶ディスプレイの電極として用いられるAl系ターゲット材およびその製造方法を開示している。特許文献1に係るターゲット材は、その硬さがビッカース硬さ(Hv)で25以下であり、これによりスプラッシュと呼ばれる、ターゲット材の一部が欠陥に起因する冷却不足のため過熱して液相となり基板に付着する現象を低減できることを開示している。
【0005】
特許文献2では、Al系スパッタリングターゲット材において、スパッタ面側の硬度をHv20以上に調整した後、スパッタ面側に仕上げ機械加工を施すことで、スパッタ開始直後に異常放電が多発してターゲット材表面にノジュールと呼ばれる突起物が生成し、異常放電の起点となることを低減できることを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶ディスプレイに用いる基板の大型化等に対応して、アルミニウムスパッタリングターゲットの大型化が進んでおり、大きいものでは、幅および長さが2.5m以上のものが使用されている。特許文献1および2に記載のものも含め、従来のアルミニウムスパッタリングターゲットは、Al以外の元素をほとんど含有していないこと、および結晶構造が面心立方構造であること等のため材料の強度が低く、表面が傷つきやすいという問題があった。
例えば、加工中の搬送の際の接触により、表面に傷を生ずることがあり、極端な場合には、包装時に包装材がターゲット表面にわずかに擦れただけで微小な傷を生ずることもある。そして、このような傷の発生は、アルミニウムスパッタリングターゲットが大型になるほど増加する傾向にある。
【0008】
このような傷を有するアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて基板に成膜を行うと、傷の部分を起点とするスプラッシュの形成という不具合が発生する。このため、スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着し、成膜を行う際には、通常、プリスパッタリングと呼ばれるダミー基板への成膜を行った後、目的とする基板への成膜を行う。プリスパッタリングは、ダミー基板にスパッタリングを行うことによりスパッタリングターゲット表面の傷を減少させ、これにより目的とする基板へのスパッタリングの際に、スプラッシュが発生するのを低減する方法であり、通常、数10枚程度のダミー基板への成膜が必要となる。
【0009】
上述のようにアルミニウムスパッタリングターゲットの表面は傷を生じ易いため、ダミー基板の枚数を低減できないという課題があった。
【0010】
本発明はこのよう課題を解決するものであり、従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の導電性を有し、かつ傷の発生を低減できるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決できる本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットは、0.005原子%〜0.04原子%のNiと、0.005原子%〜0.06原子%のLaとを含み、残部がAlおよび不可避不純物である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、ビッカース硬度が25以上である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、0.01原子%〜0.03原子%のNiと、0.03原子%〜0.05原子%のLaとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の導電性を有し、かつ傷の発生を低減したアルミニウムスパッタリングターゲットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのアルミニウムスパッタリングターゲットを例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下に詳細を示すように、固溶または僅かにAl−Ni系金属間化合物が析出する程度の少量のNiと固溶または僅かにAl−La系金属間化合物が析出する程度の少量La、より詳細には0.005原子%〜0.04原子%のNiと0.005原子%〜0.06原子%のLaとを添加し、残部をAlおよび不可避不純物とすることで、従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の導電性を有し、かつ表面での傷の発生を抑制できることを見いだし本発明に至ったものである。
【0017】
Alを主成分として、NiおよびLaを添加した、スパッタリングターゲットとして、例えば特開2008−127624号公報に示されるAl−Ni−La合金スパッタリングターゲット(アルミニウム合金スパッタリングターゲット)が知られている。特開2008−127624号公報に記載のAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットでは、基板上に設けたスパッタリング層の上に形成するMo、Cr、TiまたはW等のような高融点金属からなるバイメタル層を省略することを目的にAlにNiおよびLaを添加している。そして、特開2008−127624号公報に記載のAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットでは、スプラッシュの発生を抑制するために、Al−Ni系金属間化合物およびAl−La系金属間化合物、それぞれについて、所定の範囲内の粒径を有するものが占める面積率の範囲を規定している。そして、具体的に開示されているNiの含有量は0.05原子%〜5原子%であり、Laの含有量は0.10原子%〜1原子%である。
【0018】
すなわち、特開2008−127624号公報に示されるものを含む、従来のAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットは、比較的多量のNiとLaを添加し、積極的にAl−Ni系金属間化合物およびAl−La系金属間化合物を形成させるものである。そして、特開2008−127624号公報に記載のAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットでは上述のように所定の範囲の粒径を有する金属間化合物の面積率を規定することで、小さい金属間化合物の脱落に起因するスプラッシュおよび大きな粒径の金属間化合物の面積率が高いことに起因して生ずるスプラッシュを抑制している。
【0019】
このようなAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットは、アルミニウムスパッタリングターゲットと比べて電気抵抗が大きく、用途が限定されるという問題がある。また、比較的多量のNiとLaを含有していることから、スパッタリングターゲット全体の組成を均一にするために、真空溶解等の簡便な方法を用いることが困難であり、通常、スプレーフォーミング等の特殊な方法を用いる必要がある。このため、真空溶解で製造可能なアルミニウムスパッタリングターゲットと比べ、生産性が低いという問題もある。
【0020】
これに対して、本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットは0.005原子%〜0.04原子%のNiと、0.005原子%〜0.06原子%のLaとを含んでいる。そして、残部はAlと不可避不純物からなる。このNiとLaの組成範囲は、従来のAl−Ni−La合金スパッタリングターゲットでは、十分な量のAl−Ni系金属間化合物およびAlーLa系金属間化合物が得られないとして顧みられることのなかったものである。
【0021】
なお、本明細書おいて「アルミニウムスパッタリングターゲット」とは、アルミニウムと不可避不純物から成るスパッタリングターゲットだけでなく、例えば、合計で0.1質量%程度以下といった比較的少量の添加元素を更に含むスパッタリングターゲットを包含する概念である。また、本明細書において「アルミニウム薄膜」とは、アルミニウムと不可避不純物から成る薄膜だけでなく、例えば、合計で0.1質量%程度以下といった比較的少量の添加元素を更に含むスパッ薄膜を包含する概念である。
【0022】
以下に本発明に係るアルミニウムスパッタリングターゲットの詳細を説明する。
本発明に係るアルミニウムスパッタリングターゲットは0.005原子%〜0.04原子%のNiと0.005原子%〜0.06原子%のLaとを含有し、残部がAlおよび不可避不純物である。最初にこの組成の詳細を説明する。
【0023】
1.組成
(1)Ni
Ni含有量は、0.005原子%〜0.04原子%である。Alに対するNiの固溶限は、文献により値が異なるが、0.01原子%〜0.04原子%程度である。すなわち、含有する全てのNiがAl中に固溶するか、または全Ni量のうち少量がアルミニウム結晶組織の粒界にAl−Ni系金属間化合物として偏析し、残りのNiはAl中に固溶する。これにより従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の高い導電性を維持し、かつ材料強度を向上させることができる。Niの金属間化合物が析出する場合、粒界に偏析するのはNiの原子半径がAlの原子半径よりかなり小さいことに起因する。
【0024】
このような材料強度の向上は、硬度の向上を伴う。これにより切削等の機械加工を行った状態のアルミニウムスパッタリングターゲットの表面は傷が付きにくくなる。この結果、スパッタリングの初期に発生するスプラッシュの低減が可能となる。
【0025】
Ni含有量は、好ましくは0.01原子%〜0.03原子%である。上述の効果をより確実に得ることができるからである。Ni含有量が0.005原子%より少ないと材料強度の増加が十分でない。一方、Ni含有量が0.04原子%を超えると導電性が低下する。
【0026】
なお、「従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の導電性」とは、例えば、対象となるアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により基板上に形成したアルミニウム薄膜の薄膜抵抗率が、純アルミニウムスパッタリングターゲットを用いて同様のスパッタリング法により基板上に形成したアルミニウム薄膜の薄膜抵抗率の1.05倍以下である場合のことをいう。
【0027】
後述する実施例に示すように、本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて作製したアルミウム薄膜の薄膜抵抗率が、純アルミニウムスパッタリングターゲットを用いて同様のスパッタリング法により基板上に形成したアルミニウム薄膜の薄膜抵抗率の1倍未満となる場合もある。すなわち本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて作製したアルミウム薄膜の導電性の方が、純アルミニウムターゲットを用いて形成したアルミニウム薄膜の導電性より優れる場合がある。この理由について、以下のように推定しているが、これは本発明の技術的範囲を限定するものではない。後述の実施例に示すように、薄膜抵抗率の測定の際には、アルミニウム薄膜に上下層としてMo薄膜を積層し、例えば450℃で加熱を行った後に抵抗率の測定を行う。本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて作製したアルミウム薄膜はNiが添加されていることから、純アルミニウム薄膜と比べ、結晶粒径が大きくなる傾向がある。上述の加熱時にはMoがアルミニウム薄膜の結晶粒界に優先的に拡散する。このとき結晶粒径が小さく、従って結晶粒界の多い純アルミニウム薄膜の方がより多くのMoが拡散し電気抵抗が高くなる場合があると考えられる。
【0028】
(2)La
La含有量は、0.005原子%〜0.06原子%である。Alに対するLaの固溶限は、文献により値が異なるが、0.01原子%程度である。すなわち、含有する全てのLaがAl中に固溶するか、または全La量のうち一部がアルミニウム結晶組織の粒内にAl−La系金属間化合物として析出し、残りのLaの多くはAl中に置換原子として固溶する。Laが置換原子と存在することにより、後述する圧延の際に、転位が堆積し、材料強度が増加する。さらに、Laの一部は、表面のAlの自然酸化膜中の粒界に偏析し、酸化膜強度の向上に寄与する。
【0029】
これにより従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の高い導電性を確保し、かつ材料強度を向上させることができる。Laが金属間化合物として析出する場合、粒内に析出するのは、Laの原子半径がAlの原子半径よりかなり大きいことに起因する。
【0030】
このような材料強度の向上は、硬度の向上を伴う。これにより切削等の機械加工を行った状態のアルミニウムスパッタリングターゲットの表面は傷が付きにくくなる。この結果、スパッタリングの初期に発生するスプラッシュの低減が可能となる。
【0031】
La含有量は、好ましくは、0.03原子%〜0.05原子%である。La含有量を0.03原子%以上にすることで、より確実に十分な材料強度を得ることができる。一方、La含有量が0.05原子%を超えると、硬いAl−La系金属間化合物の析出量が増加し、切削時にこの金属間化合物を起点とした微小なスクラッチの発生頻度が増加する傾向がある。また、La含有量が0.005原子%より少ないと材料強度の増加が十分でない。一方、La含有量が0.06原子%を超えると導電性が低下する。
【0032】
上述のように、Niは、粒界に析出し強度増加に寄与する。一方、Laは粒内において置換型固溶体を形成し強度増加に寄与するとともに、表面のAlの酸化膜中において粒界に偏析し強度向上に寄与する。このように、NiとLaは、異なるメカニズムで強度の向上に寄与するため、それぞれの効果の積算による材料強度向上効果を得ることができる、最適の組み合わせであることを見出したものである。
【0033】
すなわち、上述の組成範囲内でNiとLaの両方を含むことにより、従来のアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の高い導電性を確保した上で、高い材料強度を確実に得ることができ、高い硬度も得ることができる。これにより機械加工を行った状態のアルミニウムスパッタリングターゲットの表面に発生する傷を十分に低減できる。このため、スパッタリングの初期に発生するスプラッシュの低減が可能となる。この結果、プリスパッタリングに使用するダミー基板の枚数を確実に減少させることができる。
【0034】
(3)残部
残部は、Alと不可避不純物である。好ましい形態では不可避不純物量は合計で、0.01質量%以下である。なお、不可避不純物量は通常、質量比で管理されることが多いため質量%で示した。不可避不純物として、Fe、SiおよびCuを例示できる。
【0035】
2.硬度
アルミニウムスパッタリングターゲットは、好ましくは表面部の硬度が、ビッカース硬度で25以上である。高い硬度値を有することにより、傷の発生をより確実に低減できるからである。なお、ビッカース硬度で25以上の硬度は、例えば、圧延後の熱処理の温度を300℃以下とする、または圧延を冷間圧延とし、圧下率を80%以上とすることにより実現できる。
【0036】
3.アルミニウムスパッタリングターゲットの形態
本発明に係るアルミニウムスパッタリングターゲットは、既知のアルミニウムスパッタリングターゲットが有する任意の形状を有してよい。このような形状として、上面視した形状が、正方形、長方形、円および楕円、ならびにこれら形状の一部を為す形状を挙げることができる。このような形状を有するアルミニウムスパッタリングターゲットは任意の大きさを有してよい。本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットの大きさとして、長さ100mm〜4000mm、幅100mm〜3000mm、板厚5mm〜35mmを例示できる。
【0037】
本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットは、既知のアルミニウムスパッタリングターゲットが有する任意の表面性状を有してよい。例えば、例えば、イオンが衝突する面は、切削等の機械加工仕上げ面であってもよい。好ましくは、イオンが衝突する面は、研磨面である。例えば、サンドペーパーまたはやすり等により研磨された研磨面であってよい。研磨面は、より確実にスプラッシュの発生を低減できる。
【0038】
本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットを、例えば次のように用いて、スパッタリングにより基板上にアルミニウム薄膜を形成してよい。本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットを、例えば銅または銅合金のバッキングプレートにろう材を用いて接合する。このように、バッキングプレートに接合した状態で、真空装置であるスパッタリング装置に取り付ける。アルミニウムスパッタリングターゲットとそれに対向する基板との間に電界を印加することにより、アルミニウムスパッタリングターゲットと基板との間にプラズマを形成し、プラズマ中の陽イオンをスパッタリングターゲットに衝突させることにより、アルミニウムスパッタリングターゲットを構成する原子をたたき出して、対向する基板に薄膜を堆積させる。
【0039】
4.製造方法
本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットは、任意の既知のアルミニウムスパッタリングターゲットの製造方法を用いて製造してよい。以下に本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットの製造方法を例示する。
【0040】
(1)溶解鋳造
まず、溶解するために所定の組成を有する配合原料を準備する。配合原料を構成する原料として、Al、NiおよびLa、それぞれの金属単体を用いてもよく、また、NiおよびLaの少なくとも一方を含むアルミニウム合金を原料として用いてもよい。金属単体の原料を用いる場合、Al原料およびNi原料は、純度が99.9質量%以上であることが好ましく、99.95質量%以上であることがより好ましい。La原料は純度が99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましい。真空溶解により配合原料を溶解した後、鋳造し所定の組成を有するインゴットを得る。
【0041】
本発明のアルミニウムスパッタリングターゲットは、従来のAl−Ni−Laスパッタリングターゲットと比べ、Ni含有量およびLa含有量が少ないため、スプレーフォーミングを用いなくても、すなわち真空溶解を行っても組成を均一にできるという利点を有する。しかし、このことは、スプレーフォーミングによる溶解鋳造を排除するものではなく、スプレーフォーミングを行ってインゴトットを得てもよい。
さらに、真空溶解に代えて、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気中で溶解を行ってもよい。
【0042】
なお、NiおよびLaは、蒸気圧が高く、溶解中の蒸発が限定的であるため、配合原料組成と溶解鋳造により得られたインゴットの組成および最終的に得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成は実質的に同じであることを本発明者らは確認している。このため、溶解時の配合組成を得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成として用いてよい。ただし、実際に得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成を確認することが好ましい。
【0043】
(2)圧延、熱処理、機械加工
得られたインゴットを得ようとするアルミニウムスパッタリングターゲットと同程度の厚さになるように圧延を行い、圧延材(板材)を得る。圧延は例えば冷間圧延でよい。得られた圧延材に熱処理(焼鈍)を行う。熱処理温度は、例えば、240℃〜260℃であり、保持時間は2時間〜3時間であり、雰囲気は大気中でであってよい。
【0044】
熱処理後の圧延材に機械加工を施しアルミニウムスパッタリングターゲットを得る。機械加工として、旋盤等の切削加工および丸抜き加工を例示できる。また、機械加工後にさらにサンドペーパーまたはやすり等を用いて研磨を行い、表面、とりわけイオンが衝突する面を平滑にしてもよい。
【実施例】
【0045】
実施例1:
Al原料、Ni原料およびLa原料を用いて、Ni添加量が0.02原子%、La添加量が0.02原子%、残部がAl(不可避不純物を含む)となるように原料を配合し、配合原料(溶解原料)を得た。Al原料とNi原料は、どちらも純度が99.98質量%のものを用い、La原料は純度が99.5質量%のものを用いた。この配合原料を真空溶解および鋳造し、配合原料と同じ組成を有するアルミニウム合金インゴットを作製した。
【0046】
得られたインゴットを冷間圧延し圧延材を得た。冷間圧延は、圧延前の厚さ100mm、圧延後の厚さ8mm、すなわち圧下率92%で行った。そして圧延材を250℃で2時間、大気中で熱処理した。そして、切断後、機械加工として切削を施し、φ304.8mm×5mmtの形状に加工して、アルミニウムスパッタリングターゲットを得た。得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成が配合原料の組成と同じであることを確認した。上述のろう材を用いて、得られたアルミニウムスパッタリングターゲットを純Cu製のバッキングプレートに接合した。
【0047】
実施例2:
配合原料の組成をNiが0.02原子%、Laが0.04原子%、残部がAl(不可避不純物を含む)とした以外は実施例1と同じ方法で、アルミニウムスパッタリングターゲットを作製した。得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成が配合原料の組成と同じであることを確認した。
【0048】
実施例3:
配合原料の組成をNiが0.02原子%、Laが0.06原子%、残部がAl(不可避不純物を含む)とした以外は実施例1と同じ方法で、アルミニウムスパッタリングターゲットを作製した。得られたアルミニウムスパッタリングターゲットの組成が配合原料の組成と同じであることを確認した。
【0049】
比較例1:
配合原料をAl原料のみとした以外は実施例1と同じ方法で、アルミニウムスパッタリングターゲットを作製した。
【0050】
実施例4:
実施例1のアルミニウムスパッタリングターゲットを更に#600サンドペーパーで研磨し、実施例4のアルミニウムスパッタリングターゲットとした。ろう材を用いて、得られたアルミニウムスパッタリングターゲットを純Cu製のバッキングプレートに接合した。
【0051】
実施例5:
実施例2のアルミニウムスパッタリングターゲットを更に#600サンドペーパーで研磨し、実施例5のアルミニウムスパッタリングターゲットとした。ろう材を用いて、得られたアルミニウムスパッタリングターゲットを純Cu製のバッキングプレートに接合した。
【0052】
実施例6:
実施例3のアルミニウムスパッタリングターゲットを更に#600サンドペーパーで研磨し、実施例6のアルミニウムスパッタリングターゲットとした。ろう材を用いて、得られたアルミニウムスパッタリングターゲットを純Cu製のバッキングプレートに接合した
【0053】
比較例2:
比較例1のアルミニウムスパッタリングターゲットを更に#600サンドペーパーで研磨し、比較例2のアルミニウムスパッタリングターゲットとした。ろう材を用いて、得られたアルミニウムスパッタリングターゲットを純Cu製のバッキングプレートに接合した
【0054】
実施例1〜6および比較例1〜2、それぞれについて、アルミニウムスパッタリングターゲットが接合されたバッキングプレートをマグネトロンDCスパッタリング装置に装着し、DC4.5kW、圧力0.3Paの条件でスパッタリングを行った。スパッタリングは、4インチサイズのシリコン基板に1回当たり50秒間の成膜をおこない、厚さ200nmのアルミニウム薄膜を形成した。1回の成膜毎にシリコン基板を交換し、連続して行った。
【0055】
成膜したシリコン基板を光学式パーティクルカウンタにより検査し、パーティクル発生個所を顕微鏡により観察した。パーティクルを観察し、形状よりスプラッシュの発生数を調べた。表1には、それぞれのターゲットのスプラッシュ発生が基板当たり1個以下となるまでの成膜した基板の枚数を示した。これは、プリスパッタリングの際に必要なダミー基板の枚数に相当する。表1から分かるように、各、サンプルについて4回評価を行った。
【0056】
また、実施例1〜6および比較例1〜2、それぞれのアルミニウムスパッタリングターゲットの表面について、ビッカース硬さ試験を行い、ビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さ試験は、明石製作所製の試験機(AVK型/H−90OS23)により、四角錐形のダイヤモンド圧子を1kgfの荷重で押し込み、試料表面に生じた四角形の圧痕の対角線長さから硬さを算出する方法を用いた。各ターゲット表面でn=3のデータを採取し、平均値を求めた。得られたビッカース硬度を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
また、実施例1〜6および比較例1〜2、それぞれのアルミニウムスパッタリングターゲットを用いて厚さ900nmのアルミニウム薄膜を形成し、その上下層としてMo薄膜をそれぞれ70nm積層し、450℃で1時間の加熱を行った後のアルミニウム薄膜の抵抗率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
スプラッシュが1個以下になるまでの成膜枚数について、表面仕上げが切削の実施例1〜3と比較例1とを比べ得ると、実施例1〜3は平均値が11.0〜15.8と比較例1の平均値22.8と比べ、明らかに枚数が少なくなっている。同様に、スプラッシュが1個以下になるまでの成膜枚数について、表面仕上げが研磨の実施例4〜6と比較例2とを比べ得ると、実施例4〜6は平均値が7.3〜8.8と比較例2の平均値14.0と比べ、明らかに枚数が少なくなっている。これらの結果から、表面仕上げが切削の場合および研磨の場合のどちらも実施例サンプルでの表面傷の発生は、比較例サンプルと比べ低減されていることが分かる。
【0060】
また、ビッカース硬度については、実施例サンプルはいずれもビッカース硬度が25以上であるのに対して、比較例サンプルは25未満であった。薄膜抵抗率は、全てのサンプルが3.00〜3.12μΩcmと狭い範囲内に入っており、同等の値となっていることが分かる。
【解決手段】0.005原子%〜0.04原子%のNiと、0.005原子%〜0.06原子%のLaとを含み、残部がAlおよび不可避不純物であるアルミニウムスパッタリングターゲットである。