(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043463
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】内燃機関用のバルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
F01L1/356 E
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-193964(P2013-193964)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-62547(P2014-62547A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2014年3月13日
(31)【優先権主張番号】13/624,196
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506031085
【氏名又は名称】ハイライト・ジャーマニー・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス アンソニー モアヘッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴェス ゲルシェフスキー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ジョー エス コール
(72)【発明者】
【氏名】ジャック ドイル ハッチェソン
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴ ナンス
【審査官】
田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−155612(JP,A)
【文献】
特開2002−195015(JP,A)
【文献】
特開2010−185366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34−1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベーンを備え、カムシャフトに連結したローターと、
複数のウェブを備え、当該ローターと係合したステーターと、
当該ローターの位置を当該ステーターの中心にロックするための、当該ローターの軸面に、当該ステーターの軸面に、または当該ローターと当該ステーターとの軸面に形成された溝状のセンタリング溝と、
当該ローターの当該ベーンの一つに設けられた圧力媒体調整バルブと、
を備えた内燃機関用のバルブタイミング調整装置であって、
当該ウェブと当該ベーンとの間にはそれぞれ進角室および遅角室が設けられ、
当該圧力媒体調整バルブは、当該ステーターに対する当該ローターの位置のロック及びロックの解除を選択的に行うように構成され、当該バルブタイミング調整装置は、ローターの位置により、当該進角室および当該遅角室の両方からの排出が当該センタリング溝を通じて、続いて当該圧力媒体調整バルブを通じて、可能になるよう構成され、
当該バルブタイミング調整装置はさらに、当該進角室および当該遅角室へ圧力媒体を選択的に送り、そして当該圧力媒体調整バルブから圧力媒体を選択的に受け取る油圧バルブおよびロックピンを備え、当該圧力媒体調整バルブの当該ロックピンが当該ステーターに係合して当該ローターの当該ステーターに対する位置をロックし、圧力媒体が当該圧力媒体調整バルブから当該油圧バルブに排出できるように当該圧力媒体調整バルブが構成され、当該ロックピンが当該ローターを当該ステーターに対しロックできるよう当該ローターを当該ステーターに対し移動させるために、当該進角室または当該遅角室のどちらかがより多くの圧力媒体を必要とするかにより、当該圧力媒体が当該進角室または当該遅角室に送られ、当該進角室及び当該遅角室から前記センタリング溝に繋がらなくなるような場所に当該ローターが位置するように構成される、
内燃機関用のバルブタイミング調整装置。
【請求項2】
前記センタリング溝が前記ローターと前記ステーターの両方に設けられている、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項3】
前記ローターが、前記ステーターの前記センタリング溝を部分的にのみ覆う別の場所に位置することができるように構成される、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項4】
前記圧力媒体調整バルブが前記ロックピンをステーターに対して付勢する付勢部材を備える、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項5】
前記ロックピンが、前記内燃機関の運転状態に応じて自らを通じた圧力媒体流体路を提
供するよう構成された、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項6】
前記ロックピンの円筒型の部分がステーターと係合される、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項7】
前記ローターは、前記内燃機関の運転状態に応じて前記油圧バルブから前記ロックピンへの圧力媒体流体路を備え、前記ロックピンは前記圧力媒体流体路を開閉するための移動が可能な、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項8】
前記ロックピンは段差がなく、頭部を備える、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項9】
前記圧力媒体調整バルブは前記ローターの前記少なくとも一つのベーン内の圧力媒体調整バルブ室に配置される、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項10】
前記ステーターはロックピン孔を備え、前記ロックピンは前記ロックピン孔を係合するとともに、前記ローターを前記ステーターに対してロックし、前記センタリング溝は前記ロックピン孔に連通する、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項11】
前記内燃機関の運転状態に応じて前記圧力媒体調整バルブからの前記圧力媒体が前記ローターから前記油圧バルブに排出できる、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項12】
前記バルブタイミング調整装置では、前記油圧バルブからの圧力媒体が前記圧力媒体調整バルブの前記ロックピンを前記ステーターから係脱させ、前記圧力媒体調整バルブから前記油圧バルブに圧力媒体が排出しないよう前記圧力媒体調整バルブが構成される、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項13】
前記バルブタイミング調整装置は、前記内燃機関の運転状態に応じて前記圧力媒体調整バルブの当該ロックピンが前記ステーターから係脱されて前記ローターが前記ステーターに対して移動が可能となり、前記進角室または前記遅角室のいずれかから前記センタリング溝に繋がるような場所に前記ローターが位置し、圧力媒体が前記進角室または前記遅角室のいずれかから前記センタリング溝に沿って、前記圧力媒体調整バルブ経由で前記ローターから排出が可能になるように前記圧力媒体調整バルブが構成される、請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項14】
前記バルブタイミング調整装置はさらなる複数の状態になるように構成され、
第1の状態では、前記圧力媒体調整バルブの前記ロックピンが前記ステーターと係合して前記ローターの前記ステーターに対する位置をロックし、前記圧力媒体調整バルブからの圧力媒体が前記ローターから前記油圧バルブに排出でき、圧力媒体が前記進角室または前記遅角室に送られ、前記進角室及び前記遅角室から前記センタリング溝に繋がらなくなるような場所にローターが位置し、
第2の段階では、前記油圧バルブからの圧力媒体が前記圧力媒体調整バルブの前記ロックピンを前記ステーターから係脱させ、前記圧力媒体調整バルブから前記油圧バルブに圧力媒体が排出しないよう構成され、
第3の状態では、前記圧力媒体調整バルブの前記ロックピンが前記ステーターから係脱されて前記ローターが前記ステーターに対して移動が可能で、前記進角室または前記遅角室のいずれかから前記センタリング溝に繋がるような場所に前記ローターが位置し、圧力媒体が前記進角室または前記遅角室のいずれかから前記センタリング溝に沿って、前記圧力媒体調整バルブ経由で前記ローターから排出が可能になるように構成される、
請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項15】
前記ローターが第1の位置にある場合に当該センタリング溝が前記進角室の一つに配置され、前記ローターが第2の位置にある場合に前記センタリング溝が当該遅角室の一つに配置される、
請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項16】
前記ロックピンが前記ローターを前記ステーターに対してロックしている場合、前記センタリング溝が前記進角室及び前記遅角室の何れにも配置されない、
請求項15に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項17】
前記ロックピンが前記ローターを前記ステーターに対してロックし、前記進角室と前記遅角室の少なくとも1つからの圧力媒体が前記センタリング溝を通じて、続いて前記ロックピンの貫通孔を通じて排出されている間に前記ローター内の通路からの圧力媒体が前記ロックピンを離座させる
請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のカムフェーザー(可変バルブタイミング機構)に関し、より詳しくは、内燃機関の運転状態の特定の時点で、ローターの位置をステーターの中心にロック(固定)するセンタリング溝が設けられた内燃機関のカムフェーザーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な内燃機関では、クランクシャフトがチェーン又は駆動ベルトを用いてカムシャフトの駆動輪を駆動する。カムフェーザーのステーターは、ねじれ剛性が強い状態で駆動輪と結合される。このような駆動要素と駆動輪により、ステーターはクランクシャフトにより駆動される。
【0003】
対応するローターはステーターと係合され、ねじれ剛性が強い状態でカムシャフトと結合される。カムシャフト上にカムロブが備えられ、ガス交換バルブを押圧し開放する。カムシャフトを回転させると、ガス交換バルブの開放及び閉鎖のタイミングを移動させることができ、速度に合わせて内燃機関の性能を最大限に発揮することができる。
【0004】
内燃機関が作動中の性能を最大限に発揮するには、ステーターに対するローターの相対位置によって、駆動輪に対するカムシャフトの角度位置を継続的に変化させる必要がある。特に、エンジンのRPM、トルク量、及び馬力がタイミング調整の基礎となる。こうした調整はエンジンが作動中に行われる。バルブの吸気タイミング及び排気タイミングの調整がRPM全域において継続的に行われるため、バルブタイミングの可変調整が可能になる。性能上の利点としては、エンジン効率の向上とスムーズなアイドリング状態への移行が挙げられる。このようなエンジンからは、既存のバルブタイミング機能を有する同様な排気量エンジンよりも大きな馬力とトルクが得られるため、燃費の改善と炭化水素物質の排出量の削減に資する。
【0005】
ステーターはウェブを備えており、ウェブはステーターの中心軸に向かって径方向に突出している。隣接するウェブ間には中間スペースが設けられ、油圧バルブ経由でこれらのスペースに圧力媒体が導入される。ローターはベーンを備えており、ベーンはローターの中心軸から径方向に、ステーターの隣接するウェブ間に向かって突出している。ローターのベーンは、ステーターのウェブの中間スペースを二つの圧力室(以下、「A」及び「B」とする)に分割する。カムシャフトと駆動輪との間の角度位置を変えるには、ローターをステーターに対して回転させる。このため、所望の回転方向によって、その都度、交互に並ぶ圧力室のどちらか一つ(「A」または「B」)に圧力が加わり、その間にもう一つの圧力室(「B」または「A」)がタンクに向かうようにされ、圧力から解放される。
【0006】
内燃機関の状態によっては、ステーターに対するローターの位置をロック(固定)する必要がある。このため、バルブタイミング調整装置としてロックピンをローターに設け、ステーターに設けられた対応する孔にロックさせることができる。
【0007】
多くのカムフェーザーの位相同期システムのロックピンは、一つの室の圧力によりロック解除位置に保持される。段差状のロックピンを使用すると、段差状ロックピンの「段差」が隣接する室を分離してしまうため、両方の室から圧力が加わることもあり得る。
【0008】
カムフェーザーの位相同期システムに発生する典型的な問題には、以下のようなものがある。
・圧力媒体が低温時にはロックができない、またはロックが不十分。
・エンジン点火スイッチが切れてもなおクランクシャフトが回転する場合に特に発生する、進角室または遅角室、もしくは両方に存在する残留圧力(カムシャフトのトルクの逆転による(ガス交換バルブのスプリング力によって生じる可能性がある))によるピンのロックの解除。
・エンジン停止時にロックができない、またはロックが不十分。
・圧力媒体の温度上昇により漏れが発生することがあり、そのような場合にはポンプの圧力低下がカムフェーザー及びロックピンの動作に影響し、圧力媒体の圧力低下によりロックができなくなる、またはロックが不十分になるような状況が発生。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、改良型バルブタイミング調整装置、具体的には、エンジンの状態により必要に応じてローターの位置をステーターの中心に置きロックするセンタリング溝、を備えたカムフェーザーを提供する。
【0010】
本発明の一態様では、ステーターに対するローターの位置に関連するセンタリング機構が提供される。具体的には、センタリング溝がローターまたはステーター、もしくはその両方に設けられ、この溝が、進角室及び遅角室から圧力媒体調整バルブを経由した圧力媒体の漏れ経路となる。これにより、ローターの位置がステーターの中心に置かれ、その位置にロックされる。
【0011】
このようにして、本発明は、制御信号の中断(アクチュエータへの信号またはデューティーサイクルがゼロ)に対応する、安全なロック機構を提供する。
【0012】
本発明は、他の多くのミッドロック(mid-lock)カムフェーザーシステムよりも部品が少なく、簡素な構造を提供する。
【0013】
本発明は、広範なロック位置の進角範囲及び遅角範囲を提供する。
【0014】
本発明は、圧力媒体の温度または圧力が低い際にも、エンジン停止時の効率的なロックを実現する。
【0015】
さらに本発明によると、遅角室または進角室、もしくは両方に残留圧力が存在する場合にも、ロックピンが解除されない。
【0016】
本発明のその他の効果は、特許請求の範囲、発明の詳細な説明及び図面から理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に基づくバルブタイミング調整装置のローター部の斜視図である。
【
図2】本発明の実施例に基づくバルブタイミング調整装置のステーター部の正面図である。
【
図3】ローターとステーターがお互いに係合した状態を示す図である。
【
図4】
図3の直線4−4での断面図であり、バルブタイミング調整装置の圧力媒体調整バルブ部、並びにカムシャフト及び油圧バルブを示す図である。
【
図5】エンジンの特定の状態における、圧力媒体調整バルブの状態を示す図である。
【
図6】エンジンの特定の状態における、圧力媒体調整バルブの状態を示す図である。
【
図7】エンジンの特定の状態における、圧力媒体調整バルブの状態を示す図である。
【
図8】エンジンの特定の状態における、圧力媒体調整バルブの状態を示す図である。
【
図9】センタリング溝が塞がれた時点でのローターのステーターに対する向きを示す図である。
【
図10】センタリング溝に繋がった時点でのローターのステーターに対する向きを示す図である。
【
図11】センタリング溝に繋がった時点でのローターのステーターに対する向きを示す図である。
【
図12】より大きな溝(流体路)を備えた代替のローターを示す図である。
【
図13】より大きな溝(流体路)を備えた代替のステーターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、様々な形態での実施が可能であるが、本開示が発明の原理を例示するという考えに鑑み、本発明の具体的な実施例を、図面とともに以下に詳細に説明する。すなわち、以下の記載のみに本発明を限定することを意図したものではない。
【0019】
本発明の実施例は、内燃機関と共に使用するバルブタイミング調整装置、いわゆるカムフェーザーを提供する。
【0020】
図1が示す通り、バルブタイミング調整装置の構成要素の一つがローター10である。このローター10はハブ12及び、ハブ12から径方向に突出したベーン14を備えている。ローター10は、環状流路16をさらに備え、環状流路16は追加流路18、20と連通しており(
図3を参照)、当該流路がローター10の外面22へと繋がっている。以下で述べるとおり、流路16、18、20は圧力媒体用の流体路となる。
【0021】
さらに、ローター10のベーン14の1つであるベーン24には、圧力媒体調整バルブ室26が備えられている。
図4〜
図8が示す通り、圧力媒体調整バルブ28がバルブ室26に設けられ、ローター10は内部流体経路30を少なくとも一つ備えている。流体経路30はバルブ室26に繋がり、ローター10のハブ12に備えられた環状流路16の少なくとも一つと連通している。このように圧力媒体は、圧力媒体調整バルブ28と油圧バルブ32(
図4を参照)の間を往来することができる。
【0022】
図1が示す通り、センタリング溝34が、ローター10のベーン24の外面36上に形成されている。センタリング溝34は、圧力媒体調整バルブ室26の近くに設けられ、両者は相互に流体の往来が可能なように連通している。以下でより詳細に述べるが、エンジンの特定の状態でローター10がステーター40に対して特定の位置にある場合、圧力媒体がこのセンタリング溝34に沿って移動し、圧力媒体調整バルブ28に届くようにセンタリング溝34が作用する。
【0023】
ローター10の外側部にはシールがないことが好ましく、その代わりにベーンの長さ(シール長)によりシーリングの効果を得ることが好ましい。ベーンの径方向外側にシールのための溝を設けると、圧力媒体調整バルブ室26のためのスペースが減るため、シールはない方が好ましい。とは言え、本発明の範囲内では、シールを使用することが十分に可能である。
【0024】
図2が示す通り、バルブタイミング調整装置の構成要素のもう一つがステーター40である。ステーター40は駆動要素(図示せず)によりクランクシャフト(図示せず)に駆動、連結されている。これについては、
図3の矢印42が示すとおりである。ステーター40は、円筒型のステーターベース44及びベース44から径方向内部に突出したウェブ46を備えている。ウェブ46はお互いに離れており、二つのウェブ46に挟まれたスペース48の一つに圧力媒体調整バルブ28のロックピン52(
図4〜
図8を参照)を受け入れるロックピン孔50が設けられており、それによりステーター40に対するローター10の位置がロックされている(
図4、
図5、
図8を参照)。
【0025】
図2が示す通り、センタリング溝54もステーター40の外面56でロックピン孔50の近くに設けられるのが好ましい。以下でより詳細に述べるが、エンジンの特定の状態でローター10がステーター40に対して特定の位置にある場合、ステーター40のセンタリング溝
54に沿って圧力媒体を、ローター10のセンタリング溝
34に、また圧力媒体調整バルブ室26に送ることができるようにセンタリング溝54が作用する。
【0026】
ローター10とステーター40のどちらか一方又は両方を焼結により製作してもよい。焼結中に溝34、54が形成される。
図1及び
図2は、センタリング溝34、54がローター10及びステーター40にそれぞれ備えられていることを示している。ステーター40を含めた上記部品のどちらか一方にセンタリング溝を形成する形態、又は本明細書が述べるセンタリング溝34、54とは外観が異なる流体経路を形成する形態、若しくはこれらの形態を組み合わせた形態も十分に本発明の技術的範囲に含まれる。但し、ベーン14とウェブ46の間に存在する圧力室60、62から圧力媒体調整バルブ室26まで何らかの流体路が形成されているものとする。
【0027】
さらに、「センタリング」という用語が本明細書で使われているが、ステーター40の二つの隣接するウェブ46の正確な中間点に配置する必要はない(また、そのように配置されることはほとんどない)が、ロックピン孔50は、ローター10の最遅角位置と最進角位置の間の中間の位置に配置するのが好ましい。
【0028】
図3は、ステーター40がローター10と係合した状態を示す。具体的には、センタリング溝34、54がお互いに向き合う(ローター10の外面36がステーター40の外面56に面する)ように、ローター10とステーター40がお互いに係合していることを示している。
図3が示す通り、ローター10とステーター40はお互いに同軸に配置され、ローター10のベーン14は、ステーター40の二つの隣接するウェブ46の間にそれぞれ設けられている。このようにして、圧力室60、62がベーン14とウェブ46の間にそれぞれ配置されている。ローター10は、各圧力室60、62と油圧シリンダ32との間で圧力媒体が往来することが出来るように(
図4を参照)、圧力室60、62に少なくともそれぞれ一つの流路を提供する。より詳細には、ローター10のベーン14とステーター40のウェブ46の間に二組の圧力室60、62が形成され、圧力室60が遅角圧力室として、また圧力室62が進角圧力室として交互に並ぶように、ローター10の内部流路16、18、20が構成されている。動作中に遅角室60よりも進角室62に多くの圧力媒体を供給すると、ローター10はステーター40に対して時計回りに動く。この場合、圧縮された遅角室60からの圧力媒体は、タンクTへと排出される(
図4の矢印70を参照)。進角室62よりも遅角室60に多くの圧力媒体を供給すると、ローター10はステーター40に対して反時計回りに動く。この場合、圧縮された進角室62からの圧力媒体は、タンクTへと排出される(
図4の矢印70を参照)。
【0029】
図4は、
図3の直線4−4での断面図である。図が示す通り、ローター10はねじれ剛性が高くなるような形態でカムシャフト64に接合されている。カムシャフト64は、ガス交換バルブ(図示せず)を押し開けるように構成された一つ又は複数のカムロブ66(その一つが
図4に示されている)を備えている。油圧バルブ32は、カムシャフト64内でローター10に近い位置に配置されている。油圧バルブ32は既存のものであるため、単体として概略的に
図4に示した。カムシャフト64を制御するために、油圧バルブ32を電子的に制御することで圧力媒体の流れを効果的に調節している。より詳しくは、ポンプ(図示せず)作動して圧力媒体を油圧バルブに供給し(
図4の矢印68を参照)、油圧バルブが圧力媒体をタンクTに排出する。
【0030】
以下、圧力媒体調整バルブ28について、
図4を参照しながらより詳細に説明する。図が示す通り、圧力媒体調整バルブ28はロックピン52を備えている。ロックピン52は通常筒型、無段階型で、頭部72を有するものが好ましい。ロックピン52はさらに、内部ショルダ76を有する貫通孔74を備えている。以下でより詳細に説明するが
、ロックピン52を通じて圧力媒体が流れるように貫通孔が作用する。
【0031】
圧力媒体調整バルブ28は、ステーター40に固定されたカバー80に当接するキャップ78に加え、圧縮バネ82といった付勢部材をさらに備えている。圧縮バネ82はロックピン52を係合し、ロックピン52を押圧してステーター40のロックピン孔50に係合させるよう構成されており(
図4、
図5、
図8を参照)、ローター10の位置がステーター40に対して効果的に固定される。ロックピン孔50に係合するロックピン52の部品84は、先細り型でなく円筒型の外面を有することが好ましいものの、先細り型のロックピンも十分に本発明の範囲内として使用が可能である。ロックピン52の内部ショルダ76は圧縮バネ82の一つの端部86に係合され、キャップ78は圧縮バネ82のもう一つの端部88に係合される。圧縮バネ82の端部86がロックピン52の内部ショルダ76で係合されていることが示されているが、圧縮バネ82のもう一方の端部88がキャップ78に形成された凹部に係合された状態で、圧縮バネ82の端部86はロックピン52の裏面で係合することができる。圧縮バネ82は、本発明の技術的範囲内の様々な態様で十分に実現可能である。実際に、
図4〜
図8では付勢部材が圧縮バネ82として示されているが、ステーター40に設置したロックピン孔50に対してロックピン52が付勢されている限りにおいて、様々な形態の付勢部材が使用できる。
【0032】
図4〜
図8が示す通り、ローター10は、圧力媒体調整バルブ室26に繋がる流体経路30を少なくとも一つ備えている。このようにして、圧力媒体は、少なくとも一つの環状流路16に沿って、油圧バルブ32(
図4を参照)と圧力媒体調整バルブ室26の間をローター10経由で往来する。また、ローター10は、圧力媒体を圧力媒体調整バルブ室26からクランクケースへと排出するよう構成された付加経路92を少なくとも一つ備えている。さらに、油圧バルブ32からの流れはタンクTであるクランクケースに導かれる。以下で詳しく述べるとおり、圧縮バネ82の力を打ち消すために圧力媒体がロックピン52の頭部72を押圧し、ロックピン52がロックピン孔50から抜けて離座すると、ローター10がステーター40から解放される。それによりローター10がステーター40に対して旋回することができる。
【0033】
エンジンの特定の状態における圧力媒体調整バルブ28の動作及び圧力媒体の流れについて、
図5〜
図11を参照しながら説明する。
【0034】
図5は、エンジン始動時の圧力媒体調整バルブ28の状態を示す。図が示す通り、圧力媒体調整バルブ28は停止状態を示す位置にあり、その位置にある間は圧縮バネ82がロックピン52を押圧し、ステーター40のロックピン孔50と係合させる。この時、圧力媒体は、圧力媒体調整バルブ室26から(
図5及び
図9の矢印94を参照)から油圧バルブ32(
図4を参照)に排出される。さらに、
図9が示す通り、ローター10のベーン24がステーター40のセンタリング溝54を覆う場所にローター10が位置することによりステーター40のセンタリング溝54が進角及び遅角圧力室60、62に対して遮断されている際には、進角及び遅角圧力室60、62の両方に圧力媒体が送られる(各ベーン14の両側)(
図9の矢印95を参照)。
【0035】
図6は、エンジンが回転中の圧力媒体調整バルブ28の状態を示す。図が示す通り、圧縮バネ82の力を打ち消すように、圧力媒体が油圧バルブ32(
図4を参照)から圧力媒体調整バルブ室26(矢印96を参照)に供給され、ロックピン52がステーター40のロックピン孔50との係合状態から解放される。ロックピン52がキャップ78に着座状態で接触すると、圧力媒体をローター10経由で(経路92からクランクケースへ)排出することができなくなる。この時、
図10が示す通り、ローター10はステーター40とのロック状態から首尾よく解除され、ステーター40に対して自由に旋回できるようになる。
【0036】
図7は、エンジン停止時の圧力媒体調整バルブ28の状態を示す。図が示す通り、エンジン停止時には、圧力媒体調整バルブ28が停止状態の位置に移動する。圧力媒体は、ローター10の経路30(矢印98を参照)経由で、圧力媒体調整バルブ室26から油圧バルブ32に排出され(
図4を参照)、圧縮バネ82はロックピン52を押圧してキャップ78から離座させて漏れ経路を開放する。
図11が示す通り、ローター10がステーター40に対して旋回すると、圧力媒体が圧力室60、62に排出されるだけでなく(
図11の矢印100を参照)、ステーター40のセンタリング溝54にも圧力室60、62の圧力媒体が届くようになる。これにより生じる低圧域により、ロックピン52とロックピン孔50が整列状態になる位置へとローター10が移動するようにローター10が駆動される。ロックピン52とロックピン孔50が最終的に整列状態になるようにローター10が動作すると、圧力室60、62の圧力媒体が、ステーター40に設けられたセンタリング溝54(
図11の矢印101を参照)、そしてローター10に設けられたセンタリング溝34に沿って、ロックピン52の貫通孔74経由で圧力媒体調整バルブ室26(
図7の矢印102を参照)に排出され、続いてキャップ78(矢印104を参照)を通過し、ローター10に設けられた経路92を通じてクランクケースへと向かう。
【0037】
図8が示す通り、エンジンが停止した後のある時点で、ロックピン52がロックピン孔50と整列状態になり着座する。この間、圧力媒体調整バルブ室26に残っている圧力媒体は、ローター10の経路30、92を通じて(共に油圧バルブ32(
図8の矢印106と
図9の矢印94が示す前記流体の流れ)とクランクケース(
図8の矢印108が示す前記流体の流れ)の両方へ向けて)排出され得る。
図9が示す通り、この時には、ローター10とステーター40の位置関係により、ステーター40のセンタリング溝54をローター10が覆うようになっている。このようにして、圧力室60、62はセンタリング溝34、54を通じて排出できなくなり、圧力室60、62へ送られる圧力媒体は絞られる(
図9の矢印を参照)。
【0038】
ロックピン52によりローター10の位置がステーター40に対してロック状態(又はロックピン52が少なくともロックピン孔50と概ね整列状態)になった時は、センタリング溝34、54は圧力室60、62に繋がらない一方、
図10が示す通り、ローター10が完全な進角位置又は完全な遅角位置にある時には、ステーター40及びローター10のセンタリング溝34、54はお互いに流体による連通が可能なように構成することが好ましい。
【0039】
図1及び
図2では、ローター10及びステーター40の溝34、54は、比較的幅が狭く、概ね直線的な凹部としてローター10及びステーター40の外面上に描かれているが、これらの流体路はその他様々な形態を取り得る。例えば、
図12ではローター10上ずっと大きな溝34が、
図13ではステーター40上にずっと大きな溝54がそれぞれ描かれている。
図14が示す例ではステーター40に配置された大きな溝
54が、ローター10に配置された小さな溝
34が描かれている。このように、圧力室60、62からの流体路は様々な形態を取り得る。
【0040】
エンジンの特定の状態において、ステーター40のロックピン孔50がロックピン52と整列状態になる位置へとローター10を移動させる本発明の仕組みには、様々な利点がある。さらなる利点としては、ロックピン52が、エンジンの特定の状態において圧力室60、62からの圧力媒体排出の際に経由される圧力媒体調整バルブ28の一部であることによるものである。これらの利点の多くについては上述したとおりである。
【0041】
上述の実施例は、一例である。別々の実施例で記述された構成を組み合わせることも可能である。その他の構成、特に本書で言及していない構成であって、本発明の技術的範囲内のデバイスの構成要素は、図面の構成要素の形状から導き出すことができる。
【0042】
本発明の特定の実施例について図示、記述してきたが、当業者であれば本発明の精神と範囲から逸脱することなく変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0043】
10 ローター
12 ハブ
14 ベーン
16 環状流路
24 ベーン
26 圧力媒体調整バルブ室
28 圧力媒体調整バルブ
30 内部流体経路
32 油圧バルブ
34 センタリング溝
40 ステーター
46 ウェブ
48 スペース
50 ロックピン孔
52 ロックピン
54 センタリング溝
60 遅角圧力室
62 進角圧力室
64 カムシャフト
66 カムロブ
72 頭部
74 貫通孔
76 内部ショルダ
78 キャップ
82 圧縮バネ