特許第6043487号(P6043487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043487超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法と酸化物超電導線材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043487
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法と酸化物超電導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20161206BHJP
   C23C 14/28 20060101ALI20161206BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20161206BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20161206BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C23C14/24 E
   C23C14/28
   C23C14/08 K
   C04B35/00 J
   H01B13/00 565D
   H01B13/00ZAA
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-19002(P2012-19002)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-155425(P2013-155425A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 渉
【審査官】 山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−215629(JP,A)
【文献】 特開2005−126766(JP,A)
【文献】 特開2009−197334(JP,A)
【文献】 特開2011−060668(JP,A)
【文献】 特開2002−265221(JP,A)
【文献】 特表平08−502626(JP,A)
【文献】 特開平03−279212(JP,A)
【文献】 永田邦裕,超伝導YBa2Cu3Oxセラミクスの諸特性と空孔構造,粉体および粉末冶金,日本,1988年 7月,Vol. 35, No. 5,pp. 362-367
【文献】 木村一弘,Y系酸化物超伝導体の前処理と焼結挙動,日本金属学会誌,1988年,Vol. 52, No. 5,pp. 441-447
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きして仮焼体を得る仮焼き工程と、前記仮焼体を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程と、篩を用いて前記粉砕粉を分粒する分粒工程と、前記粉砕粉を成型して成型体を得る成型工程と、前記成型体を焼成して焼結体を得る焼成工程と、によってREBaCu(REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)で表される希土類酸化物焼結体を含むターゲットを製造する超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法であって、
前記仮焼き工程後の粉砕工程によって希土類酸化物の偏平の粉砕粉を得、目開き20μmの篩の上に残った粉末を取り出すことにより、粒径20μm未満の粉砕粉を除去して、粒径20μm〜500μmの粉砕粉を採取し、この粉砕粉を成型工程において一軸加圧して、偏平な複数の粉砕粉を表面に平行な方向に揃えた圧密体を得、この圧密体を焼結することにより密度63%以上、78%以下で、前記表面から見て結晶粒が格子を組んだ構造となった焼結体としてターゲットとすることを特徴とする超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記焼結体の密度が75〜78%であることを特徴とする請求項1に記載の超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法。
【請求項3】
RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きして仮焼体を得る仮焼き工程と、前記仮焼体を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程と、篩を用いて前記粉砕粉を分粒する分粒工程と、前記粉砕粉を成型して成型体を得る成型工程と、前記成型体を焼成して焼結体を得る焼成工程と、によってREBaCu(REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)で表される希土類酸化物焼結体を含むターゲットを製造する超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法であって、
前記仮焼き工程後の粉砕工程によって希土類酸化物の偏平の粉砕粉を得、目開き100μmの篩の上に残った粉末を取り出すことにより、粒径100μm未満の粉砕粉を除去して、粒径100μm〜500μmの粉砕粉を採取し、この粉砕粉を成型工程において一軸加圧して、偏平な複数の粉砕粉を表面に平行な方向に揃えた圧密体を得、この圧密体を焼結することにより密度63%以上、78%以下の焼結体としてターゲットとすることを特徴とする超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記焼結体の密度が63〜68%であることを特徴とする請求項3に記載の超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法によりターゲットを製造し、中間層を設けた基材と前記ターゲットを用い、該ターゲットの表面にレーザー光を照射し、ターゲット構成粒子を前記中間層上に堆積させて酸化物超電導層を形成することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導薄膜作製用ターゲットおよびその製造方法と酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu:REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、これを超電導線材に加工して電力供給用の超電導導体あるいは超電導コイルを製造することがなされている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属テープの基材上に中間層を介し酸化物超電導薄膜を形成し、この酸化物超電導薄膜の上に安定化層を形成する方法が実施されている。
酸化物超電導線材に形成する酸化物超電導薄膜は、結晶配向性に優れ、不純物の無い薄膜でなければ優れた超電導特性を得ることができないので、酸化物超電導薄膜は不純物混入のおそれの少ない減圧雰囲気において成膜法により形成されている。
【0003】
酸化物超電導薄膜を形成する技術の1つとして知られているパルスレーザー蒸着法(PLD:Pulse Laser Deposition)は、ターゲットにパルスレーザーを照射し、レーザー照射によりターゲットからアブレーション(蒸発侵食)されて放出された原子、分子あるいは微粒子の噴流(プルーム)を基板に接触させることで、基板上にターゲットの構成粒子を堆積させる薄膜作製技術であり、半導体や酸化物超電導薄膜の作製に適用されている。また、ターゲットから薄膜を作製した場合、ターゲットと薄膜との間で組成ずれが少ないことから、PLD法は他の薄膜作製プロセスに比べ、複雑な化学組成を転写する場合に優れている特徴がある。
【0004】
ところで、PLD法を用いて超電導薄膜を作製する場合、RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を混合、仮焼きした仮焼体の粉砕粉を成型し、この成型体を焼成した焼結体のターゲットが用いられている。
この種の焼結体ターゲットとして一般に、粉砕粉を用い、焼結体を高密度化することにより緻密な酸化物超電導層を成膜できると考えられているので、粒径50μm以下となるように1次粉砕した後、粒径15μm以下となるように2次粉砕し、この2次粉砕粉を圧密焼成して焼結体ターゲットを得る技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物超電導体の構成元素粒子からなる焼結体は、機械的な衝撃や熱膨張による応力により、割れが生じ易い性質を有している。特に、レーザー蒸着法において、高出力のパルスレーザー光をターゲットに照射した場合、熱膨張による応力によりターゲットにクラックが入り易く、場合によってはターゲットが破断することによって、プルームの方向が乱れ、均一な薄膜の成長が困難になる問題がある。また、この結果として、連続的な成膜が困難となり、長尺の酸化物超電導線を製造する場合の支障となるおそれがある。
このターゲットの割れを防止するために、従来、有機系のバインダーを使用したり、ターゲットを取り付けるためのバッキングプレートをボンディングすることにより、ターゲットの機械的な強度を向上させる方法が行われているが、製造コストの上昇を招くおそれが高く、工程数が増加する問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、PLD法による成膜過程で割れを生じ難く、超電導特性に優れた超電導薄膜を作製することができる超電導薄膜作製用ターゲット、および、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の超電導薄膜作製用ターゲットは、REBaCu(REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)で表される希土類酸化物超電導焼結体を含み、RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末の仮焼体の圧密体を焼成した焼結体からなり、表面にレーザー光が照射される超電導薄膜作製用ターゲットであって、前記焼結体が、偏平な複数の粒子の集合体からなり、前記偏平な複数の粒子がそれらの偏平な面を前記表面に沿う向きに揃えて重ねられ、焼結されてなることを特徴とする。
【0009】
RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きすると、希土類酸化物超電導体の結晶が成長するにつれて偏平の粒子が成長し、この仮焼体を圧密体として焼成すると偏平の粒子が偏平な面を表面に平行に沿う向きに揃えて結合一体化し、粒子間に適度な隙間を有する焼結体が得られる。
粒子間に隙間を有する焼結体としてのターゲットは、その表面にレーザー光を照射すると表面が液状化してアブレーションによりターゲットを構成する材料の原子、分子あるいは微粒子の噴流(プルーム)が発生する。ここで、偏平な粒子間に存在する隙間の存在により、粒子の破壊が全体に伝わり難くなり、一部に破断を生じてもターゲット全体にクラックを生じることを防止できる。また、焼結により隣接する粒子同士が強く結合しているので、この結合部分の存在により割れが広がることを抑制するので、レーザー光を照射しても割れ難いターゲットを提供できる。このため、安定したプルームを長時間発生できるので、長尺の酸化物超電導線を製造する場合に安定した膜厚で長時間酸化物超電導薄膜を生成できる。
【0010】
本発明において、前記焼結体の密度を63%以上、78%以下に設定できる。
焼結体の密度が63〜78%の範囲であるならば、ターゲットを構成する粒子間に適度な隙間を有するので、レーザー光を照射してプルームを発生させた場合、粒子間の粒界に破断を生じにくく、また、一部破断を生じたとしても全体に伝わるおそれが少なく、結果的にターゲットにクラックを生じ難くなる。
本発明において、前記焼結体を構成する複数の粒子の粒径を20μm以上にすることができる。
焼結体を構成する粒子は粒径20μm以上であることが好ましく、粒径20μm以上の粒子の焼結体であれば、適度な隙間を有し、目的の密度とすることができる。
【0011】
本発明の超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法は、RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きして仮焼体を得る仮焼き工程と、前記仮焼体を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程と、前記粉砕粉を成型して成型体を得る成型工程と、前記成型体を焼成して焼結体を得る焼成工程と、によってREBaCu(REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)で表される希土類酸化物焼結体を含むターゲットを製造する超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法であって、前記仮焼き工程後の粉砕工程によって希土類酸化物の偏平の粉砕粉を得、この粉砕粉を成型工程において一軸加圧して、偏平な複数の粉砕粉を表面に平行な方向に揃えた圧密体を得、この圧密体を焼結してターゲットとすることを特徴とする。
【0012】
RE化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きすると、希土類酸化物超電導体の結晶が成長するにつれて偏平の粒子が成長し、更にこの粒子を圧密して焼結することで、偏平の粒子が偏平な面を表面に平行に沿う向きに揃えて結合一体化し、粒子間に適度な隙間を有する焼結体が得られる。
粒子間に隙間を有する焼結体としてのターゲットは、その表面にレーザー光を照射すると表面が液状化してアブレーションによりターゲットを構成する材料の原子、分子あるいは微粒子の噴流(プルーム)が発生する。ここで、偏平な粒子間に存在する隙間の存在により、粒子の破壊が全体に伝わり難くなり、一部に破断を生じてもターゲット全体にクラックを生じることを防止できるターゲットを得ることができる。また、得られるターゲットは、焼結により隣接する粒子同士が強く結合しているので、この結合部分の存在により割れが広がることを抑制するので、レーザー光を照射しても割れ難いターゲットを提供できる。このため、安定したプルームを長時間発生できるので、長尺の酸化物超電導線を製造する場合に安定した膜厚で長時間酸化物超電導薄膜を生成できるターゲットを提供できる。
【0013】
本発明は前記圧密体を焼成することにより密度63%以上、78%以下の焼結体とすることを特徴とする。
焼結体の密度が63〜78%の範囲であるならば、ターゲットを構成する粒子間に適度な隙間を有するので、レーザー光を照射してプルームを発生させた場合、粒子間の粒界に破断を生じにくく、また、一部破断を生じたとしても全体に伝わるおそれが少なく、結果的にターゲットにクラックを生じ難くなる。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、中間層を設けた基材と先のいずれか一項に記載のターゲットを用い、該ターゲットの表面にレーザー光を照射し、ターゲット構成粒子を前記中間層上に堆積させて酸化物超電導層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導薄膜作製用ターゲットは、焼結体としての密度が従来の緻密な高密度のターゲットよりも低いので、PLD法の実施時にレーザー光を照射したとき、微細な割れが拡がり難いので割れが生じ難く、プルームを安定的に発生させることができるターゲットとすることができる特徴を有する。このため、長時間成膜が可能となり、長尺の酸化物超電導線を製造する場合に安定した膜厚の酸化物超電導薄膜を製造可能なターゲットを提供できる。
また、このターゲットを用いて超電導特性の優れた長尺の酸化物超電導導体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る超電導薄膜作製用ターゲットの一例を示す斜視図。
図2】同ターゲットの部分拡大図。
図3】本発明に係るターゲットを備えた成膜装置の一概略構成を示す正面図。
図4図3に示す成膜装置の概略構成を示す側面図。
図5図3に示す成膜装置の要部概略構成を示す斜視図。
図6図3に示す成膜装置で成膜する場合に対象とする酸化物超電導線材の一例構造を示す斜視図。
図7】実施例において製造されたターゲット製造用粉砕粉末のX線回折パターンを示す図。
図8】実施例において製造されたターゲット製造用粉砕粉末の組織拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る超電導薄膜作製用ターゲットおよびその製造方法について図面に基づいて説明する。
本発明に係る超電導薄膜作製用ターゲットは、パルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いて酸化物超電導薄膜を成膜する際、ターゲットとして用いられるものである。このターゲットは、希土類酸化物超電導焼結体を含み、希土類化合物、Ba化合物、Cu化合物を含む原料粉末を仮焼きして仮焼体を得る1回または複数回の仮焼き工程と、仮焼体を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程と、粉砕粉を成型して成型体を得る成型工程と、この成型体を焼成して焼結体を得る焼成工程とによって製造されたものである。例えば図1に示すようにターゲット11は円盤状の焼結体からなる。
【0017】
このターゲット11に含まれる希土類酸化物超電導焼結体は、REBaCu(REは希土類元素の内から選択される1種以上の元素)で表されるRE−123系酸化物超電導体であり、構成元素REとしてはY、La、Nd、Sm、Eu、Er、Gd等が挙げられる。RE−123系酸化物超電導体として好ましくは、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。
【0018】
なお、ターゲット11は、REBaCuなる組成式で表される焼結体の他、このターゲットを製造する場合に用いた原料としての希土類元素の化合物、Baの化合物、Cuの化合物由来の異相が含有されていても良い。ここで異相とは、母相である目的のREBaCuなる組成式で示される焼結体とは異なる組成比の相、REBaCuの組成比ではないが、REとBaとCuが複合酸化物になっているもの、もしくは、RE、Ba、Cuの個別の酸化物粒子、または、これら元素のうち、2種以上の複合酸化物粒子を意味する。
【0019】
また、酸化物超電導薄膜に対し、人工ピンを導入する場合、ターゲットには、人工ピン材料が添加されていても良い。酸化物超電導薄膜に導入される人工ピン材料は、ペロブスカイト構造のABOなる一般式で示される物質が適用され、BaZrO(BZO)、BiFeO(BFO)を例示できるが、これらの他に、Y、SnO、BaSnOなどを適用することもできる。人工ピン材料は、酸化物超電導薄膜に対し10体積%以下程度含有させることができるので、ターゲットに予めこれらの元素の粒子を含ませておいても良い。
【0020】
本発明では、ターゲット11の密度について、63%以上、78%以下の範囲であることが必要とされる。また、一例として、ターゲット11を構成する粒子Rは拡大すると図2に示すように偏平形状の粒子であり、これらの粒子Rがそれらの偏平な面R1を上下方向に向け、換言すると、面R1をターゲット11の表面に概ね平行に揃え、各粒子Rの長さ方向を図2の矢印Aで示す方向に面するようにして積み重なるように集合されて圧密体とされ、焼結された構造とされている。なお、図2では粒子Rの積み重なり状態を理解しやすいようにほぼ同一の大きさの粒子Rの集合体として簡略化して示している。しかし、実際に得られる焼結体の組織は、後述する実施例の説明において例示される図8の組織写真のように、大きさの異なる偏平な粒子を互いに圧密して粒子同士の接する部分が半溶融状態となって一体化された形状の焼結体組織とされている。
図2において矢印Aは成型時の加圧方向を示しており、図1に例示する円板状のターゲット11の場合は、その厚さ方向に下向き方向を意味する。このため、ターゲット11においてターゲット11を構成する複数の粒子Rはターゲット11の表面に平行な面に対し、各粒子Rの偏平な面R1を揃えた状態で一体化されている。なお、ターゲット11において全ての粒子Rが同じ方向を向いている必要はなく、半数以上の粒子Rが概ね表面に平行な向きとされていれば良い。
この例のターゲット11は、それぞれの粒子Rが粒径20μm以上の粒子Rの集合体であることが好ましく、この範囲の大きさの粒子Rの集合体であれば、密度63%以上、78%以下の組織が得られる。
【0021】
この例の構造のターゲット11であるならば、PLD法の成膜過程で表面にレーザー光が照射されたとき、ターゲットの表面で生成された熱が例えば90%以上の密度などの高密度ターゲットに比べて内部に伝わり難い。このため、熱膨張による内部応力が生じ難く、クラックの発生が抑えられる。また、レーザー光の照射時にターゲットの表面近傍は溶融温度以上になって液状化するが、その内部の深い部分にまで液状化が起こり難い。このため、内部の液状部分の突沸などによってターゲット11の表面形状が大きく変化することが回避される。
これにより、このターゲット11は、PLD法による成膜過程で、表面が平滑な状態を維持することができ、プルームを安定に発生させることができるとともに、表面から微細粉末や液相が前述の突沸現象により飛散することが少なくなり、堆積した超電導薄膜の表面にパーティクルやドロップレットの付着を防止できる。
なお、堆積した超電導薄膜の表面にドロップレットが生じるのは、レーザー光の照射によって生成されたターゲット表面の熱がターゲットの内部側にまで拡散し、ターゲット内部で突沸(膨張)することによって、表面付近の粗大粒子が吹き飛ばされてドロップレットとして薄膜に取り込まれることが一つの原因であると推定できる。
これに対し、本発明のターゲット11は、高密度のターゲットに比べて前述のように63〜78%の密度であり、表面の熱が内部に拡散し難いため、内部で突沸が生じる可能性は少なく、この観点からもドロップレットの発生を効果的に抑えることができる。
これらの効果により、前記ターゲット11によれば、表面性および超電導特性に優れ、膜厚ムラが軽減された酸化物超電導薄膜を長時間成膜することが可能となる。
【0022】
前記ターゲットにおいて、密度78%を超える場合は、ターゲットの密度が大きくなり過ぎ、レーザー光の照射による表面の熱が内部に伝わり易くなる結果、PLD法による成膜過程で、ターゲットの割れや、パーティクルおよびドロップレットの付着を生じる可能性が高くなる。
また、粒径20μm以上の粒子の粒径は、粒径20μm以上、粒径500μm以下であることが好ましく、粒径20μm以上、粒径100μm以下であることがより好ましい。粒径が前記範囲から外れると、目的の密度が得られ難くなり、PLD法による成膜過程で、ターゲットの割れや、パーティクルおよびドロップレットの付着が増加する可能性がある。
【0023】
次に、本発明に係るターゲットの製造方法の一例について説明する。この例の製造方法では、混合工程、仮焼き工程、粉砕工程、成型工程、焼成工程によってターゲットを製造する。以下、各工程について順次説明する。
[1]混合工程
ターゲットを製造するには、製造目的とする酸化物超電導薄膜の組成に応じた原料を用意する。本実施形態で製造目的とする酸化物超電導薄膜は、REBaCuなる組成比の酸化物超電導薄膜であるので、REの化合物、Baの化合物、Cuの化合物を原料として用い、これらの原料を用いてターゲットを製造する。
REの化合物、Baの化合物、Cuの化合物として用いるのは、原料の入手しやすさ、コスト等を考慮すると、希土類元素の酸化物、Baの炭酸塩、Cuの酸化物が望ましい。
中でも、YBaCuなる組成比の酸化物超電導薄膜とする場合に用いることが望ましいのはY、BaCO、CuOである。また、GdBaCuなる組成比の酸化物超電導薄膜とする場合に用いることが望ましいのはGd、BaCO、CuOである。また、BaCOの代わりにBaOを使用することもできる。
以下にY粉末と、BaCO粉末とCuO粉末を使用してターゲットを製造する場合を一例として説明する。
原料としてのY粉末と、BaCO粉末とCuO粉末をY:Ba:Cuが1:2:3の割合となるように秤量して混合し、湿式ボールミル装置などの混合装置で溶媒を添加しつつ粉砕混合する。この粉砕混合は数時間〜数10時間程度行なうことができる。
なお、前記の原料を秤量混合する場合、Y粉末と、BaCO粉末とCuO粉末をY:Ba:Cuが1:2±0.1:3±0.2の範囲の割合となるように秤量して混合しても良い。
【0024】
[2]仮焼き工程
次に、粉砕混合した粉末を酸素含有雰囲気において950〜1000℃で数時間〜数10時間程度仮焼きする第1の仮焼き工程を行う。次に、得られた仮焼体を、湿式ボールミル装置などの混合装置で溶媒を添加しつつ粉砕混合する。この粉砕混合は数時間〜数10時間程度、例えば、6〜24時間程度行うことができる。その後、粉砕混合した粉末を酸素含有雰囲気において950〜1000℃で数時間〜数10時間程度仮焼きする第2の仮焼き工程を必要に応じて行う。なお、本工程で酸素含有雰囲気とは10〜30%程度の酸素を含む雰囲気あるいは大気中で良い。
[3]粉砕工程
この後、仮焼物を再度湿式ボールミル装置などの混合装置で溶媒を添加しつつ粉砕混合することで粉砕粉を得る。この粉砕混合は数時間〜数10時間程度行なうことができる。
【0025】
[4]成型工程
次に、粉砕粉を乾燥した後、篩いを用いて分粒し、成型体に供する粉砕粉を採取する。ここで、この採取した粉砕粉の粒径が、最終的に得られる焼結体の結晶粒径に略対応する。したがって、この工程では、粒径20μm以上の粉砕粉を採取する。この粉砕粉を得るには、粉砕粉を篩い分けして粒径毎の粉砕粉を用意し、粒径20μm以上の粉砕粉を用いればよい。粒径20μm以上の粉砕粉として具体的には粒径20μm〜500μmの粒径の粉砕粉を用いることができる。あるいは、粒径20〜100μmの粉砕粉を用いることができる。
そして、採取した粉砕粉を、目的のターゲット形状、例えば円盤状にプレス成型する。
【0026】
ここで、成型条件(温度・時間、プレス圧力など)は特に限定されない。また、粉砕粉をバインダーと混合して成型しても良い。
前記粉砕粉を金型に収容して一軸方向に加圧する成型処理を行うと、図2に略して示すように偏平形状の粒子Rがそれらの偏平な面を加圧方向に対し垂直な方向に揃えるように配列した状態で加圧される傾向が強い。このため、図2に示すようにターゲット11とされた状態ではターゲット11の表面に平行な面に前記偏平な面R1を揃えるように多くの粒子Rが配向する。
なお、前記仮焼き工程において、Y粉末と、BaCO粉末とCuO粉末の集合体を仮焼きした場合、生成する希土類酸化物粒子は酸化物超電導体の結晶構造に起因してab面が広くなるように優先的に成長した偏平な粒子Rが生成する。
このような粒子にするために仮焼き温度は一般的に知られているこの種のターゲットを製造する場合の仮焼き温度より少し高めに設定することが好ましい。通常の酸化物超電導薄膜形成用ターゲットを製造するための仮焼き条件は、Y系では860〜960℃程度であるが、これよりも高い温度範囲、例えば、950〜1000℃程度で仮焼きすることが好ましい。Y系以外の他の希土類系酸化物を用いる場合においても、概ね、950〜1000℃の範囲で仮焼きすることが好ましい。なお、生成する希土類酸化物粒子を偏平とするには、後述する焼成工程において、950〜1000℃程度の高温焼成を行ってもよい。
以上説明のような偏平形状の粒子Rを金型に挿入して一軸方向に加圧すると、偏平形状の粒子Rが優先的に方向を揃えて重なり合い、図2に示すように折り重ねられた状態のまま加圧される傾向となる。
[5]焼成工程
焼成工程は、950〜1000℃で数時間〜数10時間程度、酸素含有雰囲気中で行なうことができ、この焼成工程により目的のターゲットを得ることができる。ここで、図2に示すように折り重ねられた状態で圧密されている成型体は粒子Rの重なり部分において若干相互溶融して結合一体化され、各粒子Rの偏平な面R1が円板状のターゲット1の表面に平行な方向に揃った状態で焼結される。この結果、後述する図8の組織写真に示す組織を呈する希土類酸化物超電導薄膜形成用のターゲットが得られる。
【0027】
次に、本発明に係るターゲットを備えたレーザー蒸着装置、および、レーザー蒸着装置を用いて製造される酸化物超電導薄膜とそれを備えた酸化物超電導線材の一例について説明する。
図3は本発明に係るターゲットを備えたレーザー蒸着装置の概略構成を示す正面図、図4は同蒸着装置の概略構成を示す側面図、図5は同蒸着装置の要部を示す斜視図である。
図1図3に示す構成のレーザー蒸着装置Aを用いて製造しようとする酸化物超電導線材1の一構造例を図6に示す。なお、図6に示す酸化物超電導線材は、本発明に係るターゲットを用いて酸化物超電導層を成膜する対象としての一例であり、以下に説明する積層構造に限定されないのは勿論である。
この例の酸化物超電導線材1は、テープ状の基材2の上方に、配向層4とキャップ層5を含む中間層3と酸化物超電導薄膜6と第1の安定化層7と第2の安定化層8をこの順に積層してなる。この酸化物超電導線材1はその周面を図示略の絶縁被覆層などで覆って酸化物超電導導体として利用される。
【0028】
前記基材2は、可撓性を有する酸化物超電導線材1とするためにテープ状の耐熱金属製、例えば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)などのニッケル合金からなる。
中間層3は、以下に説明する下地層と配向層4とキャップ層5からなる構造を一例として適用できる。
下地層を設ける場合は、以下に説明する拡散防止層とベッド層の複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層からなる構造とすることができる。
下地層は、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成される単層あるいは複層構造が望ましい。
ベッド層は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、より具体的には、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等を例示することができ、これらの単層あるいは複層構造を採用できる。
【0029】
配向層4として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示できる。配向層4は、単層でも良いし、複層構造でも良い。
配向層4は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);有機金属塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。これらの方法の中でも特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。
【0030】
前記キャップ層5は、前記配向層4の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層5は、前記配向層4よりも高い面内配向度を得られる可能性がある。キャップ層5として具体的には、CeO、LMO(LaMnO)、Y、Al、Gd、Zr等を例示できる。
酸化物超電導薄膜6はREBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素の1種以上を表す)なる材料、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示できる。
酸化物超電導薄膜6は、本実施形態では後に説明する構成の成膜装置Aを用い、後述するPLD法により形成できる。酸化物超電導薄膜6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0031】
酸化物超電導薄膜6の上面を覆うように形成されている第1の安定化層7は、AgあるいはAg合金からなり、第2の安定化層8は、良導電性の金属材料からなる。第2の安定化層8を構成する金属材料としては、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金が好ましい。なお、酸化物超電導線材1を超電導限流器に使用する場合は、第2の安定化層8は高抵抗金属材料より構成され、例えば、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
【0032】
本実施形態において、前記酸化物超電導線材1の酸化物超電導薄膜6を以下に説明するレーザー蒸着装置Aを用いて製造することができる。
本実施形態のレーザー蒸着装置Aは、レーザー光によってターゲット11から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム)を基材上に向け、構成粒子の堆積による酸化物超電導薄膜6を基材の上方に形成するレーザー蒸着法(PLD法)を実施する装置である。本実施形態のレーザー蒸着装置Aは、基材2上に中間層3を上述の各種の方法により成膜した積層体の状態からその上に酸化物超電導薄膜6を成膜する場合に用いることができる。
【0033】
レーザー蒸着装置Aは、図3図5に示すようにテープ状の基材2をその長手方向に走行するための走行装置10と、この走行装置10の下側に設置されたターゲット11と、このターゲット11にレーザー光を照射するために図1に示すように処理容器(真空チャンバ)18の外部に設けられたレーザー光源12を備えている。ここで、ターゲット11は、本発明に係るターゲットによって構成されている。
前記走行装置10は、一例として、成膜領域15に沿って走行するテープ状の基材2を案内するための転向リールの集合体である転向部材群16、17を備え、これら転向部材群16、17に基材2を巻き掛けて成膜領域15に基材2の複数のレーンを構成するように基材2を案内できる装置として構成される。
【0034】
前記走行装置10とターゲット11は処理容器18の内部に収容されており、処理容器18は、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有する構成とされる。この処理容器18には、処理容器内のガスを排気する排気手段19が接続され、他に、処理容器内にキャリアガスおよび反応ガスを導入するガス供給手段が形成されているが、図面ではガス供給手段を略し、各装置の概要のみを示している。
基材2は処理容器18の内部に設けられている供給リール20に巻き付けられ、必要長さ繰り出すことができるように構成されている。供給リール20から繰り出された基材2は、複数の転向リール16aを同軸的に隣接配置した転向部材群16と、複数の転向リール17aを同軸的に隣接配置した転向部材群17に交互に巻き掛けられている。これらの転向部材群16、17は処理容器18の内部において離間して配置され、それらの間に複数の平行なレーン2Aを構成するように基材2が配置され、基材2は転向部材群17から引き出されて巻取リール21に巻き取られるように構成されている。
【0035】
また、処理容器18の内部に、転向部材群16、17とその周囲を囲む矩形箱状のヒーターボックス23が設けられ、供給リール20から繰り出された基材2はヒーターボックス23の一側の入口部23aを通過して転向部材群16に至るように構成され、転向部材群17から引き出された基材2はヒーターボックス23の他側の出口部23bを介し巻取リール21側に巻き取られるようになっている。なお、図に示す装置においてヒーターボックス23は成膜領域15の温度制御を行うために設けられているが、ヒーターボックス23は略しても差し支えない。
転向部材群16、17の間の中間位置の下方に本発明に係る円板状のターゲット11が設けられている。このターゲット11は、円盤状のターゲットホルダ25に装着されて支持され、ターゲットホルダ25は、その下面中央部に取り付けられた支持ロッド26により回転自在(自転自在)に支持され、更に図示略の往復移動機構により図2に示すY、Y方向(転向部材群16、17の間に形成される基材2のレーン2Aに沿う前後方向)に水平に往復移動自在に支持されている。これらの機構によるターゲットホルダ25の回転移動と往復前後移動により、ターゲット11の表面に照射されるレーザー光の位置を適宜変更できるように構成されている。
【0036】
ターゲット11の上方のヒーターボックス23の下面には、転向部材群16、17間において基材2が走行する複数のレーン2Aの全幅に該当するように開口部23cが形成されている。また、ヒーターボックス23において開口部23cの内側には熱板などの加熱装置27が配置され、転向部材群16、17の間を複数のレーン状に走行移動される基材2をそれらの裏面側から所望の温度に加熱できるように構成されている。加熱装置27は基材2をその裏面側から目的の加熱できる装置であればその構成は問わないが、通電式の電熱ヒータを内蔵した金属盤からなる一般的な加熱ヒータを用いることができる。
【0037】
図1に示すように処理容器18において、ターゲット11を中心としてターゲット11の一側に位置する側壁18Aにターゲット11に対向するように照射窓30が形成されている。照射窓30の外方には集光レンズ32と反射ミラー33を介しアブレーション用のレーザー光源12が配置されている。
前記アブレーション用のレーザー光源12はエキシマレーザーあるいはYAGレーザー等のようにパルスレーザーとして良好なエネルギー出力を示すレーザー光源を用いることができる。レーザー光源12の出力として、例えば、エネルギー密度1〜5J/cm程度、パルス周波数200〜600Hzのレーザー光源を用いることができる。
なお、図1に示す成膜装置Aでは、処理容器18の内部であって、ターゲット11の斜め上方側にターゲット表面のレーザー光照射領域の温度を計測するための赤外放射温度計36が設置されている。
【0038】
以下に、図3図5に示すレーザー蒸着装置Aを用いて酸化物超電導薄膜6を製造する方法について説明する。
酸化物超電導薄膜6を成膜するには、基材2上に中間層3を先に説明した種々の成膜法で形成したテープ状の基材を用いる。
このテープ状の基材を供給リール20から転向部材群16、17を介して巻取リール21に図4または図5に示すように巻き掛け、ターゲットホルダ25に上述のターゲット11を装着した後、処理容器18の内部を減圧する。
目的の圧力に減圧後、レーザー光源12からパルス状のレーザー光をターゲット11の表面に集光照射する。
【0039】
ターゲット11の表面にレーザー光源12からのパルス状のレーザー光を集光照射すると、ターゲット11の表面部分の構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させて前記ターゲット11から構成粒子の噴流(プルーム)29を発生させることができ、レーン2Aを構成し走行しているテープ状の基材2のキャップ層5の上に目的の粒子堆積を行って、酸化物超電導薄膜6を成膜できる。
ここで、この例のレーザー蒸着装置Aでは、ターゲット11が本発明のターゲットによって構成されていることにより、レーザー光が照射されたときにターゲット11が割れ難く、全成膜過程に亘って、ターゲット11表面を平滑な状態に維持できる。このため、プルーム29を基材2に向けて安定に発生させることができるとともに、ターゲット表面からの微細粒子や液相の飛散が抑えられ、パーティクルやドロップレットの付着、膜厚ムラが軽減された特性に優れた酸化物超電導薄膜を成膜することが可能である。
【0040】
以上、本発明の超電導薄膜作製用ターゲットおよびその製造方法について説明したが、上記実施形態において、超電導薄膜作製用ターゲットを構成する各部、超電導薄膜作製用ターゲットの製造方法を構成する各工程は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、上記実施形態では、本発明に係るターゲットを、基材が複数レーンを走行する複数レーン方式のレーザー蒸着装置に適用しているが、基材がシングルレーンを走行するシングルレーン方式のレーザー蒸着装置に適用しても構わない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「試験例1」
本発明に係るターゲットを製造するには、まず、Y粉末と、BaCO粉末とCuO粉末をY:Ba:Cu=1:2:3の割合になるように秤量し、φ100mmのアルミナポットにφ10mmのアルミナボールと溶媒としてヘキサンを用いて48時間粉砕混合した。用いた各粉末は篩により300μmの目を通過した粉末を用いた。
この混合物を乾燥した後、950℃で酸素存在雰囲気中において24時間仮焼きした。得られた仮焼粉末に対し、CuKα線を使用した粉末X線回折計により回折パターンを評価した。その結果を図7に示す。図7に示すX線回折パターンでは、2θの値で7゜付近、23゜付近、39゜付近、47゜付近にそれぞれ高いピークが見られたので、00l回折ピーク(lはエルを示す)の強度が高くなっていることを確認できた。この00l回折ピークの存在は仮焼粉末を構成する酸化物超電導体の結晶がab面内に粒成長していることを示す。
【0042】
次にこの仮焼体を粗く粉砕し、粉砕粉を得た。この粉砕工程では、粒径500μm以下であれば粒径の分布が広くても構わない。ボールミルを使用する場合に粉砕時間を短くして必要以上に粒子を微細にしないようにする。
次いで、この粉砕粉を篩いを用いて分粒し、後記する表1に示す平均粒子径を有する粉砕粉A、B、C、D、E、Fを採取した。採取した粉砕粉を、φ100mmの金型を用いて一軸プレスにより表1に示すプレス圧により厚み4〜6mmの円盤状に成型し、950℃で48時間、酸素存在下において焼成して焼結体からなるターゲットを得た。この焼成時に結晶粒が成長する場合、一軸方向に圧力を印加することで結晶粒が配向する。
その状態を確認するために焼結体を一部切り出して電子顕微鏡により組織観察を行った。その結果を図8に示す。図8の組織観察から、ターゲットを構成する焼結体の表面を一軸方向に押圧した場合、表面に平行な面内に結晶粒を配向させることができたことが分かる。例えば、酸化物超電導体のab面内で粒成長が起こっている場合、表面(レーザー光を照射する面)に垂直な方向にab面が上下に積み重なるように結晶粒が並び、圧縮方向(表面方向)から見ると、格子を組んだような構造となる。
【0043】
<評価>
用いた粉砕粉A〜Fの種別に応じてプレス時に加えたプレス圧、焼結後の相対密度の平均値(%)を後記する表1に示す。粉砕粉A、Bは目開き20μmの篩を通った粉末である。粉砕粉A、Bは、粒径20μm未満の粒径となっている。粉砕粉C、Dは目開き20μmの篩の上に残った粉末を取り出したものであり、20μm未満の粉砕粉を除去している。粉砕粉C、Dの粒径は、20〜500μmとなっている。粉砕粉E、Fは目開き100μmの篩の上に残った粉末を取り出したものであり、100μm未満の粒径の粉砕粉を取り除いてある。粉砕粉E、Fの粒径は100〜500μmとなっている。
また、焼結前の成型体と焼結後の焼結体の観察結果から、焼結体は成型体に比べて粒子同士が強く結合しているものの、その結晶粒子径と粉砕粉の粒子径は略一致しており、焼結後も成型時の粒度分布を保っていることが確認された。
以上説明のように得られた焼結体をターゲットとして以下に説明するレーザー蒸着法を実施して酸化物超電導薄膜を得た。
【0044】
「酸化物超電導薄膜の成膜」
ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10mのテープ状の基材上に、アモルファスAlの拡散防止層(a−Alの厚さ80nm)と、アモルファスYのベッド層(a−Yの厚さ30nm)と、イオンビームアシスト蒸着法によるMgOの中間層(IBAD−MgOの厚さ10nm)と、PLD法によるCeOのキャップ層(厚さ300nm)を積層したテープ状の基材を用意した。この基材を用いて図3図5に示す構造のレーザー蒸着装置を用い、試験例1で作成したターゲットを用いてレーザー蒸着法により酸化物超電導薄膜(YBaCu)を作製した。
酸化物超電導薄膜を成膜する条件は、レーザー光源として、エキシマレーザー(KrF:248nm)を用い、エネルギー密度3.0J/cm、テープ基材の移動時の線速30m/h、パルスレーザーの繰り返し周波数300Hz、熱板によるテープ状基材の加熱温度800℃、転向部材間に配置する基材のレーン数を5レーンとして、キャップ層上に膜厚1500nmになるように酸化物超電導薄膜の堆積を行った。
この成膜後のターゲット割れの状況を調査した。ターゲット割れとは、目視観察により、ターゲットを横断する目視可能なクラックを生じている場合を意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す結果から、粒径20μm未満とした試料A、Bの粉砕粉を用いた試料では相対密度が88%、92%と高いために、ターゲットの焼結時、あるいは、蒸着装置内での加熱時に割れが生じ易いことが分かった。また、レーザー蒸着装置内にターゲットを設置し、成膜実験を行ったところ、レーザー照射によって全てのターゲットに割れが生じた。
これらに対し、粒径20〜500μm、粒径100〜500μmの粉砕粉を用いた試料C〜Fでは相対密度が63%〜78%と適度に低いので、成膜による割れが生じないターゲットを提供できることが分かる。なお、試料C、Dでは密度75〜78%の望ましい密度のターゲットを得ることができた。
また、試料E、Fは、粉砕粉中に粗大粒子の割合が高いために、圧力を加えても固まり難く、成型体を作製することが困難であった。ただし、多少角の欠けた成型体を作製することはできた。なお、試料E、Fは、相対密度の平均値が低くなり、成膜時に蒸着レートが試料C、Dの場合と比べて低く、同じ蒸着時間では膜厚が半分以下となった。このため、成膜速度を上げる、という面では、製造時間が倍になるので、試料E、Fを用いる場合は試料C、Dを用いる場合よりも製造効率の面では不利であると考えられる。
【符号の説明】
【0047】
A…レーザー蒸着装置、1…酸化物超電導線材、2…基材、2A…レーン、4…中間層、5…キャップ層、6…酸化物超電導薄膜、7…第1の安定化層、8…第2の安定化層、11…ターゲット、12…レーザー光源、15…成膜領域、16、17…転向部材群、16a、17a…転向リール、18…処理容器、19…排気手段、20…供給リール、21…巻取リール、23…ヒーターボックス、25…ターゲットホルダ、26…支持ロッド、27…加熱装置、29…噴流(プルーム)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8