(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る磁気飽和抑制装置1が適用された電力供給システムの構成を示す構成図である。なお、図面における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。
【0011】
電力供給システムは、2つの磁気飽和抑制装置1と、4つの二次電池2と、2つの自励式電力変換装置3と、連系変圧器4と、3つの電流検出器5a,5b,5cと、電圧検出器6と、昇圧変圧器7と、電力系統9とを備える。
【0012】
なお、ここでは、1つの磁気飽和抑制装置1の構成について主に説明し、もう1つの磁気飽和抑制装置1は、同様に構成されているものとして説明を適宜省略する。
【0013】
2つの磁気飽和抑制装置1は、それぞれ対応する自励式電力変換装置3から出力される交流電力を制御する。
【0014】
二次電池2は、自励式電力変換装置3の直流側に接続されている。1つの自励式電力変換装置3には、直列に接続された2つの二次電池2が接続されている。直列に接続された二次電池2の接続点は、中性点として抵抗接地されている。二次電池2には、電気エネルギーが蓄えられている。蓄えられる電気エネルギーは、例えば夜間に発電される電力である。二次電池2は、自励式電力変換装置3に直流電力を供給する。
【0015】
自励式電力変換装置3は、二次電池2から供給される直流電力を三相交流電力に変換して、連系変圧器4に出力するインバータである。自励式電力変換装置3は、それぞれ対応する磁気飽和抑制装置1による制御により出力電力が制御される。自励式電力変換装置3は、例えば、PCS(power conditioning system)である。
【0016】
自励式電力変換装置3は、電力変換回路301と、平滑コンデンサ302と、電流検出器303とを備えている。電力変換回路301は、直流電力を三相交流電力に変換する回路である。平滑コンデンサ302は、電力変換回路301に印加される直流電圧を平滑化する。電流検出器303は、電力変換回路301の出力電流ioutを相毎に検出する。電流検出器303は、直流成分を含む交流電流を検出する。例えば、電流検出器303は、相毎に設けられた3つのホールCT(current transformer)を備える。電流検出器303は、検出した相毎の出力電流ioutを対応する磁気飽和抑制装置1に出力する。
【0017】
連系変圧器4は、2つの自励式電力変換装置3からそれぞれ供給される三相交流電力を1つの三相交流電力に合成する。連系変圧器4は、合成した三相交流電力を昇圧変圧器7に供給する。
【0018】
昇圧変圧器7は、連系変圧器4から供給される三相交流電力を電力系統9に供給するための電圧に昇圧する。昇圧変圧器7は、昇圧した三相交流電力を電力系統9に供給する。
【0019】
電力系統9は、自励式電力変換装置3の交流負荷である。電力系統9は、例えば商用系統である。
【0020】
電流検出器5aは、連系変圧器4の二次側(電力系統9側)の三相交流電流を相毎に検出する。電流検出器5bは、連系変圧器4から出力された三相交流電流を相毎に検出する。電流検出器5cは、昇圧変圧器7の二次側(電力系統9側)の三相交流電流を相毎に検出する。電流検出器5a,5b,5cは、検出した三相交流電流を2つの自励式電力変換装置3に出力する。例えば、電流検出器5a,5b,5cは、相毎に設けられた3つのCTを備える。
【0021】
電圧検出器6は、連系変圧器4から出力された三相交流電圧を相毎に検出する。即ち、電圧検出器6は、電流検出器5bにより電流を検出する箇所に印加される電圧を検出する。電圧検出器6は、検出した電圧を2つの磁気飽和抑制装置1に出力する。
【0022】
磁気飽和抑制装置1は、電力計測回路21と、有効電力制御回路22dと、無効電力制御回路22qと、切替スイッチ23と、切替指令回路24と、一次遅れ回路25と、電流制御回路26と、電流dq変換回路27と、電圧dq変換回路28と、2つの加算器29d,29qと、逆dq変換回路30と、2つの減算器31,32と、偏磁抑制制御回路33と、PWM(pulse width modulation)制御回路34とを備える。
【0023】
ここで、dq座標系は、回転座標系である。d軸は、有効電力成分である。q軸は、無効電力成分である。
【0024】
電力計測回路21は、電流検出器5bにより検出された三相交流電流及び電圧検出器6により検出された三相交流電圧に基づいて、連系変圧器4から出力される各相の有効電力測定値Pout及び無効電力測定値Qoutを演算する。電力計測回路21は、演算した有効電力測定値Poutを有効電力制御回路22dに出力する。電力計測回路21は、演算した無効電力測定値Qoutを無効電力制御回路22qに出力する。
【0025】
有効電力制御回路22dには、有効電力指令値Pref及び電力計測回路21により演算された有効電力測定値Poutが入力される。有効電力指令値Prefは、例えば、上位制御系から送信される。有効電力制御回路22dは、有効電力指令値Prefと有効電力測定値Poutとの差がゼロになるようなd軸電流指令値idref1を生成する。有効電力制御回路22dは、生成したd軸電流指令値idref1を切替スイッチ23の「1」側の端子に出力する。
【0026】
無効電力制御回路22qには、無効電力指令値Qref及び電力計測回路21により演算された無効電力測定値Qoutが入力される。無効電力指令値Qrefは、例えば、上位制御系から送信される。無効電力制御回路22qは、無効電力指令値Qrefと無効電力測定値Qoutとの差がゼロになるようなq軸電流指令値iqref1を生成する。無効電力制御回路22qは、生成したq軸電流指令値iqref1を切替スイッチ23の「1」側の端子に出力する。
【0027】
切替スイッチ23の「1」側の端子には、有効電力制御回路22d及び無効電力制御回路22qにより生成されたdq軸電流指令値idref1,iqref1が入力される。切替スイッチ23の「0」側の端子には、予め設定されているdq軸電流指令値idref0,iqref0が入力される。q軸電流指令値iqref0には、連系変圧器4が減磁する方向に自励式電力変換装置3の出力電流ioutを流すように進み方向に1[p.u.](定格電流)が設定されている。d軸電流指令値idref0には、ゼロが設定されている。ここでは、q軸電流指令値iqref0に1[p.u.]が設定されているため、d軸電流指令値idref0をゼロに設定したが、d軸電流指令値idref0は、ゼロでなくてもよい。
【0028】
切替スイッチ23は、切替指令回路24から入力される切替信号Stに応じて、2つの電力制御回路22d,22qにより生成されたdq軸電流指令値idref1,iqref1と予め設定されているdq軸電流指令値idref0,iqref0のいずれかを選択する。切替スイッチ23は、選択したdq軸電流指令値idref0,iqref0,idref1,iqref1を一次遅れ回路25に出力する。通常時は、切替スイッチ23は、「1」側の端子を選択して、2つの電力制御回路22d,22qにより生成されたdq軸電流指令値idref1,iqref1を選択する。系統事故を検出したときは、切替スイッチ23は、「0」側の端子を選択して、予め設定されているdq軸電流指令値idref0,iqref0を選択する。
【0029】
一次遅れ回路25は、切替スイッチ23により選択されたdq軸電流指令値idref0,iqref0,idref1,iqref1を一次遅れの演算処理をして、dq軸電流指令値id*,iq*を生成する。一次遅れ回路25は、生成したdq軸電流指令値id*,iq*を電流制御回路26に出力する。
【0030】
電流dq変換回路27は、電流検出器303により検出された三相の出力電流ioutが入力される。電流dq変換回路27は、入力された三相の出力電流ioutをd軸電流idとq軸電流iqに変換する。電流dq変換回路27は、変換したdq軸電流id,iqを電流制御回路26に出力する。
【0031】
電圧dq変換回路28は、電圧検出器6により検出された三相交流電圧が入力される。電圧dq変換回路28は、入力された三相交流電圧をd軸電圧vdとq軸電圧vqに変換する。電圧dq変換回路28は、変換したdq軸電圧vd,vqをそれぞれ対応する加算器29d,29qに出力する。
【0032】
電流制御回路26は、電流dq変換回路27から入力されたdq軸電流id,iqが一次遅れ回路25から入力されたdq軸電流指令値id*,iq*に追従するように制御処理をする。電流制御回路26は、制御処理されたdq軸の制御値をそれぞれ加算器29d,29qに出力する。
【0033】
加算器29dは、電圧dq変換回路28から入力されたd軸電圧vdに、電流制御回路26により演算されたd軸の制御値を加算して、d軸電圧指令値vd*を生成する。加算器29qは、電圧dq変換回路28から入力されたq軸電圧vqに、電流制御回路26により演算されたq軸の制御値を加算して、q軸電圧指令値vq*を生成する。2つの加算器29d,29qにより生成されたdq軸電圧指令値vd*,vq*を逆dq変換回路30に出力する。
【0034】
逆dq変換回路30は、2つの加算器29d,29qから入力されたdq軸電圧指令値vd*,vq*を三相交流電圧指令値V3*に変換する。三相交流電圧指令値V3*には、自励式電力変換装置3から出力される三相交流電圧の各相に対する指令値が含まれている。逆dq変換回路30は、演算した三相交流電圧指令値V3*を減算器31に出力する。
【0035】
減算器32には、電流検出器303により検出された三相出力電流iout及び電流検出器5aにより検出された連系変圧器4の二次側の三相交流電流が入力される。減算器32は、三相出力電流ioutから二次側の三相交流電流を相毎に減算する。減算器32により演算された電流差が変圧器励磁電流となる。減算器32は、演算した三相の変圧器励磁電流を偏磁抑制制御回路33に出力する。このように、偏磁抑制制御回路33は、各相の変圧器励磁電流を検出する。
【0036】
偏磁抑制制御回路33は、平均値演算回路331と、比例積分(PI:proportional-plus-integral)回路332とを備えている。平均値演算回路331は、減算器32から入力された三相の変圧器励磁電流の平均値iaを相毎に演算する。平均値演算回路331は、演算した各相の変圧器励磁電流の平均値iaを比例積分回路332に出力する。比例積分回路332は、入力された各相の変圧器励磁電流の平均値iaを比例積分演算する。比例積分回路332は、演算した各相の値を連系変圧器4の偏磁を抑制するための出力電圧補正信号Vcとして、減算器31に出力する。また、平均値演算回路331は、演算した各相の変圧器励磁電流の平均値iaを、切替スイッチ23を切り替えるための条件となる信号として切替指令回路24に出力する。
【0037】
減算器31は、相毎に、三相交流電圧指令値V3*から三相の出力電圧補正信号Vcを減算して、三相交流電圧指令値V3c*を補正する。減算器31は、補正した三相交流電圧指令値V3c*をPWM制御回路34に出力する。
【0038】
PWM制御回路34は、減算器31から入力された三相交流電圧指令値V3c*に基づいて、自励式電力変換装置3の電力変換回路301を構成するスイッチング素子を駆動するためのパルス波形を生成する。PWM制御回路34は、生成したパルス波形を電力変換回路301に出力する。これにより、自励式電力変換装置3の出力が三相交流電圧指令値V3c*に従うように制御される。
【0039】
切替指令回路24には、電流検出器5cにより検出された昇圧変圧器7の二次側の三相交流電流及び偏磁抑制制御回路33の平均値演算回路331により演算された各相の変圧器励磁電流の平均値iaが入力される。切替指令回路24は、昇圧変圧器7の二次側電流及び変圧器励磁電流の平均値iaに基づいて、切替スイッチ23を切り替えるための切替信号Stを出力する。
【0040】
切替指令回路24は、昇圧変圧器7の二次側電流に基づいて、地絡又は短絡などの系統事故の発生を検出する。切替指令回路24は、例えば、昇圧変圧器7の二次側電流が過電流(例えば、1.5[p.u.]以上の電流)の場合、系統事故が発生していると判断する。切替指令回路24は、系統事故の発生を検出すると、予め設定されているdq軸電流指令値idref0,iqref0を選択する切替信号Stを出力する。これにより、自励式電力変換装置3は、連系変圧器4の磁束を減磁するような電流を出力する。
【0041】
切替指令回路24は、系統事故の発生を検出しておらず、かつ三相の全て変圧器励磁電流の平均値iaが予め設定された電流値(例えば、0.05[p.u.])以下の場合、通常時のdq軸電流指令値idref1,iqref1(「1」側の端子)を選択する切替信号Stを出力する。通常時のdq軸電流指令値idref1,iqref1を選択するための予め設定される電流値は、連系変圧器4の偏磁が抑制されたと判断できる上限の電流値である。これにより、自励式電力変換装置3は、連系変圧器4の磁束を減磁するような電流の出力を停止させ、偏磁を抑制しながら負荷に電力供給する通常(系統事故検出前と同じ運転)の電流出力をする。
【0042】
本実施形態によれば、系統事故が発生した場合であっても、系統事故の検出により自励式電力変換装置3から減磁方向に電流を流すことにより、連系変圧器4の磁束のピークが飽和領域に到達することを防ぐことができる。また、系統事故などが生じていない時に生じる偏磁は、偏磁抑制制御回路33により抑制することができる。
【0043】
図2から
図7を参照して、磁気飽和抑制装置1による作用効果ついて説明する。
【0044】
まず、比較のため、
図5から
図7を参照して、従来の偏磁抑制方法による作用効果について説明する。従来の偏磁抑制方法とは、系統事故発生時に電力変換装置から減磁方向に出力電流ioutを出力することをしない方法である。
【0045】
図5は、電力変換装置の出力電流iout0の波形を示す波形図である。
図6は、変圧器励磁電流の平均値iaの推移を示すグラフ図である。
図7は、電力変換装置の出力電流iout0に対するd軸電流指令値id0*の推移を示すグラフ図である。時刻t21は、地絡事故発生時である。時刻t22は、事故点除去時である。
【0046】
時刻t21に地絡事故が発生しても、電力変換装置のd軸電流指令値d0*は、1[p.u.]のままである。従って、電力変換装置の出力電流iout0に変化はない。地絡事故発生後に、連系変圧器4の偏磁により変圧器励磁電流が流れる。時刻t22の事故点除去直後に、連系変圧器4が磁気飽和することにより、変圧器励磁電流の平均値iaが増大する。これにより、電力変換装置は、過電流を検出してゲートブロックにより停止する。
【0047】
次に、
図2から
図4を参照して、磁気飽和抑制装置1による作用効果について説明する。
【0048】
図2は、自励式電力変換装置3の出力電流ioutの波形を示す波形図である。
図3は、変圧器励磁電流の平均値iaの推移を示すグラフ図である。
図4は、自励式電力変換装置3の出力電流ioutに対するdq軸電流指令値id*,iq*の推移を示すグラフ図である。時刻t11は、地絡事故発生時である。時刻t12は、事故点除去時である。時刻t13は、磁気飽和抑制装置1の制御を通常に戻した時(切替スイッチ23の端子を「1」側にした時)である。
【0049】
時刻t11に地絡事故が発生すると、磁気飽和抑制装置1は、切替スイッチ23の端子を「0」側にして、d軸電流指令値id*を0[p.u.]にし、q軸電流指令値iq*を減磁方向に1[p.u.]にする。dq軸電流指令値id*,iq*の変更に従って、自励式電力変換装置3の出力電流ioutが変化する。これにより、連系変圧器4の磁気飽和は、抑制されるため、変圧器励磁電流ioutの平均値iaの増加も軽減される。従って、地絡事故が発生しても、自励式電力変換装置3が過電流によりゲートブロックする事態を避けることができる。
【0050】
その後、偏磁抑制制御回路33により変圧器励磁電流ioutの平均値iaが減少し、予め設定された電流値(0.05[p.u.])以下になると(時刻t13)、磁気飽和抑制装置1は、切替スイッチ23の端子を「1」側にして、通常のdq軸電流指令値id*,iq*に戻す。これにより、自励式電力変換装置3は、電力系統に電力供給する通常の運転に戻る。
【0051】
なお、実施形態では、2つの自励式電力変換装置3による構成について説明したが、自励式電力変換装置3はいくつ設けてもよい。例えば、自励式電力変換装置3を6つ設けた場合、連系変圧器4を6つの自励式電力変換装置3に対応する変圧器に代え、6つの自励式電力変換装置3をそれぞれ制御するための6つの磁気飽和抑制装置1を設けることで、実施形態と同様に構成することができる。
【0052】
また、実施形態では、電力系統に流れる電流に基づいて系統事故を検出したが、系統事故は、どのように検出してもよい。例えば、系統事故は、系統電圧に基づいて検出してもよいし、地絡継電器などの他の装置により検出された系統事故を受信してもよい。即ち、必ずしも磁気飽和抑制装置1で、事故の発生を判断する必要はなく、事故を検出できればよい。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。