(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有害重金属含有焼却灰(たとえば、ごみ焼却場等の焼却プラントから発生した焼却主灰や、排煙中から電気集塵機やバグフィルタ等で捕集された飛灰、あるいは、溶融炉から発生する飛灰)のほか、有害重金属に汚染された汚泥、土壌等には、身体に有害な水銀、鉛、六価クロム、カドミウム等の重金属が多量に含まれている。特に焼却飛灰は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」において「特別管理一般廃棄物」に指定されており、収集、運搬、処分等にあたっては、厚生労働大臣が指定する中間処理方法により処理し、取り扱わなければならない。ここで厚生労働大臣が指定する処理方法とは、セメント固化法、酸抽出法、溶融固化法、薬剤処理法の四法である。
【0003】
これらのうち、セメント固化法は硬化時間を要し、使用するセメントの量が多く処理物の体積や重量が増加するため、処理コストが高くなる。また、重金属を化学的に変化させていないため有害性が低減されず、固定化も不完全であるため、雨水によって重金属の溶出濃度が上昇するという問題があった。酸抽出法は抽出作業が煩雑である上、抽出できる重金属量が少量であるにもかかわらず大量の排水を処理しなければならず、非常に大規模な設備を必要とするという問題がある。溶融固化法は、溶融炉中で電気やガスを用いて1200℃〜1400℃の高温条件下で飛灰を溶融するため、燃料等のコストが非常に高く、飛灰中重金属がさらに濃縮された溶融飛灰として回収されるため、最終的には薬剤等による化学的な処理が必要であるという問題があった。
【0004】
一方、薬剤処理法は、化学的に安定な非水溶性化合物に変化させる「重金属安定化剤」と呼ばれる薬剤を水とともに飛灰に添加し、機械的に混練して処理する方法である。混練後そのまま最終処分場に搬出できる上、再溶出防止効果が高く、上記の3つの方法に比べてコストパフォーマンスに優れているため、広く採用されている。重金属安定化剤として用いる化合物やその使用の状態は法的に指定されておらず、重金属を非水溶性の安定した化合物に変換できるものであればどのような物質を主成分にしてもよく、たとえば、ジチオカルバミン酸塩、キサントゲン酸塩、ジチオ酢酸塩、ジチオリン酸塩などの有機化合物や、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム、リン酸、ケイ酸などの無機化合物が挙げられ、これらの薬剤の形態や状態として、液体ないし固体を問わない。しかし、反応性や安定性、経済性、安全性等を鑑みて、ジチオカルバミン酸塩の濃厚水溶液が重金属安定化剤として最も多く利用されている。
【0005】
ジチオカルバミン酸塩としては、主に第2級アミン由来のジチオカルバミン酸アルカリ金属塩が用いられ、これが重金属類と反応して非水溶性キレートを形成する。この性質を利用して、焼却灰に含まれる重金属を安定化する重金属安定化剤として使用されている。このような重金属処理工程においては、焼却灰と重金属安定化剤とを混練して、重金属安定化剤を焼却灰に対して均一に分散し、接触させる必要がある。
【0006】
重金属安定化剤を効率的に作用させ、その使用量を低減させる技術として、コンクリート減水剤等の界面活性作用を有する混合助剤を重金属固定(安定化)剤および水とともに使用し、重金属固定(安定化)剤の分散性や浸透性を向上させる技術(特許文献1)や、ジチオカルバミン酸金属塩および界面活性剤からなる固体状重金属固定(安定化)剤を水とともに焼却灰と混練処理する技術(特許文献2)が開示されている。
【0007】
上記の界面活性作用を有する混合助剤としては、グルコン酸塩ポリオキシアルキレン付加物、リグニンスルホン酸またはその塩、オキシカルボン酸またはその塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、フェノールスルホン酸塩ホルマリン縮合物、フェノールスルファニル酸塩ホルマリン縮合物、フェノールメラミンメチロール化スルホン酸塩共縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンコポリマー等の高分子等が例示されている。
【0008】
また、上記固体状重金属固定剤において、ジチオカルバミン酸金属塩とともに用いられる界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸エステル塩、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪族モノカルボン酸塩、長鎖アルコールポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレン付加アルキル硫酸塩、リン酸エステル塩等が挙げられている。
【0009】
しかしながら、上記技術においても、焼却灰を効率よく処理するために水を添加し、加湿することによって、焼却灰を埋め立てなどにより廃棄する際の廃棄物量、ならびに廃棄コストが増大するといった問題が生じている。一方、水の添加量を低減する場合には、焼却灰と重金属安定化剤とを均一に混練することができず、重金属が十分に固定化されずに溶出するといった問題が生じている。また、混練工程の時間を延長することにより均一に混練し、重金属を十分に固定できたとしても、処理装置の電力使用量や作業員の人件費が増大するといった別の問題が生じている。さらにまた、混練工程における重金属安定化剤の分散性を高めるために添加した混合助剤や界面活性剤によって、本来の重金属安定化剤の効果が得られなくなる場合があるといった問題も生じている。
【0010】
また、焼却灰中には有害重金属類の他、カルシウムやアルミニウム、銅、亜鉛、鉄など規制対象外の金属類も多く含まれている。特にカルシウムは、酸性ガス除去のために使用される消石灰に由来して含まれ、飛灰におけるカルシウム含有量は極めて多い。また、焼却炉の種類及び飛灰の種類によっては、金属アルミニウムなど未酸化の金属が含まれている。これらの金属が焼却灰処理の際に加えられる水と反応して発熱し、場合によっては非常に高温に達することがあるため、危険を伴うことから作業性が低下したり、重金属安定化剤が熱分解するといった問題が生じている。
【0011】
以上より、水の添加が低減され、加湿量の少ない状況下においても効率よく重金属を固定化して環境への溶出を抑制し、さらに焼却灰処理時の発熱を抑制することのできる焼却灰処理剤が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の焼却灰処理用添加剤は、(A)下記に述べる非イオン性界面活性剤混合物、および(B)グリセリンを含有してなる。
【0022】
本発明の焼却灰処理用添加剤に含有される(A)成分は、下記一般式(1)で表される化合物である非イオン性界面活性剤(a1)、および下記一般式(2)で表される化合物の混合物である非イオン性界面活性剤(a2)からなる。
【0024】
[式中R
1は炭素数9〜16の分岐アルキル基を示し、mは2〜30の数である。]
【0026】
[式中R
2は炭素数10〜14の直鎖アルキル基または分岐アルキル基を示し、nは3〜6の数、pは4〜37の数であり、n+p=10〜40、10≦100×n/(n+p)≦50である。]
【0027】
[非イオン性界面活性剤(a1)]
非イオン性界面活性剤(a1)は、分岐アルキル基を有するポリエチレンオキサイド付加型非イオン性界面活性剤である。
上記一般式(1)において、R
1で示される炭素数9〜16の分岐アルキル基としては、3,5,5−トリメチルヘキシル、イソデシル、3−エチルデシル、2,2−ジメチルオクチル、イソトリデシル、2−ヘキシルデシル等が挙げられる。なお、本発明の目的には、炭素数10〜12の分岐アルキル基が好ましい。R
1で示される分岐アルキル基の炭素数が9以上であると、高温で白濁や分層を起こさず貯蔵安定性が良好であり、また焼却灰処理用添加剤としての上記効果が十分なものとなる。また、R
1で示される分岐アルキル基の炭素数が16以下であると、低温で白濁や凝固を起こさず、やはり貯蔵安定性が良好である。
【0028】
上記一般式(1)において、mで示されるエチレンオキサイド平均付加モル数は2〜30であるが、3〜18であることが好ましく、4〜12であることが特に好ましい。エチレンオキサイドの平均付加モル数が2以上であると、水溶性が十分であるため分層を起こすことなく貯蔵安定性に優れ、また、30以下であると、焼却灰へ水が浸透しやすいため、重金属が効率よく固定化される。
【0029】
非イオン性界面活性剤(a1)は、通常、炭素数9〜16の分岐アルキル基を有する脂肪族アルコールに、所定量のエチレンオキサイドを付加させて得られるものであり、自体公知の方法により製造されたものを用いることができる。
非イオン性界面活性剤(a1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
[非イオン性界面活性剤(a2)]
非イオン性界面活性剤(a2)は、ポリプロピレンオキサイド基とポリエチレンオキサイド基を特定の割合で含有するアルキルエーテル系非イオン性界面活性剤であり、上記一般式(2)において、式中のR
2が直鎖アルキル基である化合物(a2−1)と、式中のR
2が分岐アルキル基である化合物(a2−2)との混合物である。そして、該混合物において、化合物(a2−1)が有する直鎖アルキル基および化合物(a2−2)が有する分岐アルキル基の総量に対して、化合物(a2−2)が有する分岐アルキル基の占める比率(以下、本明細書において「分岐鎖含有率」ともいう)が30%〜80%であることを特徴とする。
【0031】
一般式(2)において、R
2は炭素数10〜14の直鎖アルキル基または分岐アルキル基を示す。直鎖アルキル基としては、たとえば、デシル、ドデシル、テトラデシルが挙げられる。また、分岐アルキル基としては、たとえば、イソデシル、3−エチルデシル、2,2−ジメチルオクチル、イソトリデシル、イソミリスチルが挙げられる。R
2で示される直鎖アルキル基および分岐アルキル基の炭素数が10以上であると、高温で分層を起こしにくく、十分な貯蔵安定性が得られる。また、R
2で示される直鎖アルキル基および分岐アルキル基の炭素数が14以下であると、低温で白濁や凝固を起こさないので貯蔵安定性が良好であり、焼却灰処理用添加剤としての効果も優れている。なお本発明の目的には、R
2で示される炭素数10〜14の直鎖アルキル基または分岐アルキル基は、少なくともいずれか一方の基が炭素数12〜14の基であることが好ましく、双方の基が炭素数12〜14の基であることがより好ましい。
【0032】
非イオン性界面活性剤(a2)は、通常、直鎖脂肪族アルコールと分岐脂肪族アルコールとの混合物に、プロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドを付加して得られるものであり、上記分岐鎖含有率は、直鎖脂肪族アルコールと分岐脂肪族アルコールとの混合物における分岐脂肪族アルコールの含有率により定まる。
【0033】
非イオン性界面活性剤(a2)において、分岐鎖含有率が30%以上であると高温で分層せず、貯蔵安定性が十分良好となり、かつ焼却灰への高い浸透性が得られる。また、分岐鎖含有率が80%以下であると、低温で白濁や凝固を起こさないので十分な貯蔵安定性が得られ、また焼却灰へ水が浸透しやすいため、重金属が効率よく固定化される。分岐鎖含有率は35%〜70%であることが好ましく、より好ましくは40%〜60%である。
【0034】
本発明において、上記分岐鎖含有率は、非イオン性界面活性剤(a2)の製造に際し、原料として用いられる直鎖脂肪族アルコールと分岐脂肪族アルコールの混合物をトリメチルシリル化した後、ガスクロマトグラフィーにて分析し、直鎖脂肪族アルコール、分岐脂肪族アルコールの各ピーク面積から、下記式により算出される。なお、直鎖脂肪族アルコールのピーク面積は、市販されている直鎖アルキルアルコール試薬のガスクロマトグラフィーで得られたピーク検出時間より同定して求めた。分岐アルキル基を有する脂肪族アルコールのピーク面積は、試験した脂肪族アルコール混合物について得られたピーク面積の総和から、直鎖脂肪族アルコールのピーク面積を差し引いて求めた。
【0036】
上記一般式(2)において、プロピレンオキサイドの平均付加モル数を示すnは3〜6であるが、本発明の目的のためには4〜5であることが好ましい。nが3以上であると、低温で白濁や凝固を起こさないので貯蔵安定性が十分良好となり、また、6以下であると、焼却灰へ水が浸透しやすいため、重金属が効率よく固定化される。
【0037】
上記一般式(2)において、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示すpは4〜37であるが、本発明の目的のためには5〜30であることが好ましく、特に10〜20であることが好ましい。pが4以上であると、高温でも分層を起こさず、貯蔵安定性が十分良好となり、また、37以下であると、焼却灰へ水が浸透しやすいため、重金属が効率よく固定化される。
【0038】
また、nとpの合計(n+p)は10〜40であり、好ましくは12〜25である。nとpの合計が上記範囲内であると、高温で分層することなく、低温でも流動性が優れており、貯蔵安定性が十分良好となる。
さらにまた、nとpは以下の関係式を満たす。
【0040】
本発明において、nおよびpは以下の式
【0042】
を満たすことが好ましく、特に以下の式
【0044】
を満たすことが好ましい。100×n/(n+p)が10以上であると、高温でも分層を起こさず、貯蔵安定性が十分良好となり、50以下であると、ゲル化物の発生もなく、やはり貯蔵安定性が良好となる。
【0045】
非イオン性界面活性剤(a2)は、たとえば、炭素数10〜14の直鎖アルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数10〜14の分岐アルキル基を有する脂肪族アルコールの混合物に、所定量のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させて得られる。本化合物は、ブロック重合体であり、プロピレンオキサイドを先に付加させた後、エチレンオキサイドを付加させて得ることができる。
【0046】
本発明においては、非イオン性界面活性剤(a2)は、自体公知の方法により製造されたものを用いることができる。
また、非イオン性界面活性剤(a2)として、上記化合物(a2−1)と化合物(a2−2)の混合物を2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の焼却灰処理用添加剤に含有される(A)成分は、上記非イオン性界面活性剤(a1)と非イオン性界面活性剤(a2)とを、重量比[(a1)/(a2)]が80/20〜40/60となるように混合してなる非イオン性界面活性剤混合物であり、本発明の目的のためには、前記重量比は70/30〜50/50であることが好ましい。非イオン性界面活性剤(a1)と非イオン性界面活性剤(a2)との重量比[(a1)/(a2)]が上記範囲内であると、高温でも分層が生じることなく、また、低温でも白濁や凝固を起こさず、貯蔵安定性が良好であり、かつ焼却灰への浸透性も十分であるので、焼却灰処理用添加剤としての上記効果も良好となる。
【0048】
本発明の焼却灰処理用添加剤において、(B)成分として含有されるグリセリンは、焼却灰処理用添加剤の流動性を維持し、また処理後の焼却灰の水分を保持する作用を有する。
本発明の焼却灰処理用添加剤において、グリセリンとしては、いかなるグレードのものであっても特に制限なく使用することができる。
【0049】
本発明の焼却灰処理用添加剤は、上記(A)成分と(B)成分とを、[(A)/(B)](重量比)にして70/30〜30/70で含有する。本発明の目的のためには、前記重量比は60/40〜40/60であることが好ましい。(A)成分と(B)成分との重量比が上記範囲内であると、十分な発熱抑制効果が得られ、低温で白濁や凝固を起こさず貯蔵安定性が良好であり、また、焼却灰処理の際に焼却灰へ水が浸透しやすくなって、重金属が効率よく固定化される。さらに高温での貯蔵安定性が良好となる。
【0050】
本発明の焼却灰処理用添加剤は、その保存性等の観点から、上記(A)成分及び(B)成分に、さらに水、エタノール等の溶剤を加えて全量を100重量%としたもの(溶剤含有物)として調製されることが好ましい。特に低温〜高温にわたる広い温度域における貯蔵安定性を考慮すると、溶剤として水を用いることが好ましい。
【0051】
また、本発明の焼却灰処理用添加剤には、必要に応じ、本発明の特徴を損なわない範囲で陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、(A)成分以外の非イオン性界面活性剤といった各種界面活性剤や、シリコーン系等の消泡剤、水溶性染料等の着色剤、アルキルパラベン等の抗菌剤などをさらに含有させることができる。
【0052】
本発明の焼却灰処理用添加剤において、(A)成分と(B)成分の合計量は、焼却灰処理用添加剤全量に対し45重量%〜85重量%であることが好ましく、より好ましくは50重量%〜80重量%であり、特に好ましくは60重量%〜75重量%である。(A)成分と(B)成分の合計量が45重量%以上であると、水等の溶剤の量が少ないために、大容量の添加原料用タンクが不要となり、輸送回数も少なくてすむことから、経済的に有利である。また、水等の溶剤の濃度が低いため、低温安定性が良好となる。(A)成分と(B)成分の合計量が85重量%以下であると、水等の溶剤の量が十分であるため高温での分層が生じにくく、高温安定性が良好となる。
【0053】
本発明の焼却灰処理用添加剤は、重金属安定化剤とともに焼却灰処理に供される。
【0054】
重金属安定化剤としては、焼却灰中に存在する重金属を重金属硫化物または重金属キレートとして安定化し得る薬剤であれば、特に制限なく用いることができ、たとえば、重金属キレート剤、無機硫化物、重金属キレート剤と無機硫化物との混合製剤等が挙げられる。
【0055】
重金属キレート剤としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミンに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ存在下に二硫化炭素を反応させて得られる脂肪族ポリアミンのジチオカルバミン酸誘導体またはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩、ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸等のジアルキルジチオカルバミン酸またはそれらの塩などが挙げられる。
【0056】
また、無機硫化物としては、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、四硫化二ナトリウム、四硫化二カリウム、多硫化ナトリウム及び多硫化カリウム等が挙げられる。
【0057】
焼却灰に含まれる重金属の固定化効果を考慮すると、重金属安定化剤としては重金属キレート化剤を用いることが好ましく、下記一般式(3)で示されるジチオカルバミン酸塩を用いることがより好ましい。
【0059】
[式中R
3およびR
4は同一または異なって、水素、置換されていてもよい炭化水素基または複素環基、アミノ基、アルコキシ基、アシル基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基を示す。また、R
3およびR
4は一緒になって環を形成していてもよい。M
+は金属イオンを示す。]
【0060】
一般式(3)において、R
3またはR
4で示される置換されていてもよい炭化水素基または複素環基の「炭化水素基」としては、メチル、エチル、ブチル、2−メチルプロピル等の好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、エテニル、プロペニル、ブテニル、2−メチルペンテニル、ペンテニル、ヘキセニル等の好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基、エチニル、プロパ−2−イン−1−イル等の好ましくは炭素数2〜4のアルキニル基、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の好ましくは炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、ベンジル、フェニルエチル等の好ましくは炭素数7〜10のアラルキル基、フェニル、トリル、ナフチル等の好ましくは炭素数6〜10のアリール基などが挙げられ、「複素環基」としては、ピロリジニル、ピロリル、フラニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキサニル、チエニル、ピリジニル等が挙げられる。前記置換されていてもよい炭化水素基または複素環基における「置換基」としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基、リン酸基、アラルキル基、アリール基、複素環基等が挙げられる。
【0061】
一般式(3)において、R
3またはR
4で示されるアミノ基としては、アミノ、メチルアミノ、エチルアミノ等の好ましくは炭素数1〜4のアルキル基によりモノ置換されたアルキルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等の好ましくは炭素数1〜4のアルキル基によりジ置換されたジアルキルアミノなどが挙げられる。
【0062】
一般式(3)において、R
3またはR
4で示されるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ等の好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。
【0063】
一般式(3)において、R
3またはR
4で示されるアシル基としては、メタノイル、エタノイル、プロパノイル、ブタノイル等の好ましくは炭素数1〜4のアルカノイル、プロペノイル等の好ましくは炭素数1〜4のアルケノイル、ベンゾイル等が挙げられる。
【0064】
また、一般式(3)において、R
3とR
4は一緒になって環を形成していてもよい。かかる環としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサヒドロアゼピン、アザシクロオクタン等の1個の窒素原子を有する飽和環状アミン、ジアジリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピペラジン、ヘキサヒドロピリミジン、ヘキサヒドロピリダジン、ホモピペラジン等の2個の窒素原子を有する飽和環状アミン、ヘキサヒドロトリアジン等の3個の窒素原子を有する飽和環状アミンなどが挙げられ、形成される環の炭素原子や窒素原子の数は制限されず、さらに他のヘテロ原子を含む環状アミンでもよく、たとえば酸素原子を有するモルホリン、イオウ原子を有するチオモルホリンなどであってもよい。また、インドールやテトラヒドロキノリン等の芳香族環状アミンであってもよい。さらに、かかる環状アミンは、上記した「置換されていてもよい炭化水素基または複素環基」における「置換基」と同様の基により置換されていてもよく、たとえば、2−ピペコリンや2−メチルピペラジンなどであってもよい。
【0065】
一般式(3)において、M
+で示される金属イオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、その他典型元素の金属のイオンが挙げられ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンが好ましく、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンが特に好ましい。
【0066】
上記ジチオカルバミン酸塩の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸塩等、一般式(3)においてR
3およびR
4が同一の基であるジチオカルバミン酸塩や、メチルエチルジチオカルバミン酸塩、メチルブチルジチオカルバミン酸塩、エチルブチルジチオカルバミン酸塩等、一般式(3)においてR
3およびR
4が異なる基であるジチオカルバミン酸塩が挙げられる。
【0067】
上記のジチオカルバミン酸塩は、アミンと二硫化炭素とを自体公知の方法により反応させることによって製造することができるが、「NHキレートZ−3」(株式会社ウォーターエージェンシー製、54重量%水溶液)、「NHキレートZ−4」(株式会社ウォーターエージェンシー製、40重量%水溶液)等、重金属安定化剤として市販されている製品を用いることもできる。
【0068】
本発明の焼却灰処理用添加剤とともに焼却灰処理に供する際には、上記ジチオカルバミン酸塩より選択した1種を単独で用いてもよいし、2種以上のジチオカルバミン酸塩を混合して用いてもよい。
【0069】
本発明において、上記本発明の焼却灰処理用添加剤と重金属安定化剤は、これらの重量比(焼却灰処理用添加剤/重金属安定化剤)にして、好ましくは0.1/99.9〜90/10、より好ましくは10/90〜75/25、さらに好ましくは25/75〜55/45で焼却灰処理に供される。
【0070】
なお、本発明の焼却灰処理用添加剤と重金属安定化剤とは、焼却灰処理に供するに際し、それぞれ別々に添加してもよく、また、あらかじめ混合して添加してもよい。
焼却灰処理に供される本発明の焼却灰処理用添加剤の添加量は、処理する焼却灰の重量に対し0.01重量%〜4重量%であることが好ましく、0.05重量%〜2重量%であることがより好ましい。重金属安定化剤の添加量は、鉛などの重金属の含有量や溶出量によって変動することがあるが、一般的に処理する焼却灰の重量に対し0.1重量%以上であり、好ましくは0.3重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。また、一般的には15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。
【0071】
本発明において、重金属安定化剤として用いられる上記ジチオカルバミン酸塩は、その濃厚水溶液の状態で供されることが好ましい。ジチオカルバミン酸塩の濃度としては、少なくとも25重量%以上であることが好ましく、特に40重量%以上であることが好ましい。さらには、ジチオカルバミン酸塩の種類や焼却灰処理用添加剤に含まれる成分等によっても異なるが、0℃を下回る温度でも析出せず、かつ飽和に近い濃度であることが最も好ましい。
【0072】
また、本発明の焼却灰処理用添加剤とともに焼却灰処理に供する際、ジチオカルバミン酸塩の化学構造を変化させたり、焼却灰処理用添加剤および重金属安定化剤の液状の混合物において析出、固化等を引き起こすなど、前記混合物の安定性や有効性に何らかの悪影響を与えるものでない限り、ジチオカルバミン酸塩以外の無機化合物や有機化合物など、たとえば硫化水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、エタノール、尿素等をさらに添加してもよい。
【0073】
本発明の焼却灰処理用添加剤および重金属安定化剤は、さらに水とともに焼却灰処理に供してもよい。本発明において、焼却灰処理に供する水としては、工業用水、上水、蒸留水等を問わず、最適に浄化された水であればいずれも用いることができる。
【0074】
本発明の上記焼却灰処理用添加剤、重金属安定化剤および水は、それぞれ別々に焼却灰に加えてもよく、あらかじめ混合、溶解して添加してもよい。かかる場合、水の添加量は、処理すべき焼却灰の重量に対して5重量%〜60重量%とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、10重量%〜30重量%とすることがさらに好ましい。なお、本発明の焼却灰処理用添加剤を水とともに焼却灰処理に供する場合の添加量は、前記水の重量に対し0.1重量%〜10重量%であることが好ましく、0.5重量%〜3重量%であることがより好ましく、1.5重量%〜2.5重量%であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の焼却灰処理用添加剤は、焼却灰中に含まれる重金属の無害化処理において、焼却灰、重金属安定化剤および水を混練する工程時に使用することにより、焼却灰の加湿が少ない状態でも効率よく重金属を固定化し、また発熱抑制効果を得ることができる。
従って、本発明はさらに、重金属を含む焼却灰の処理方法を提供する。すなわち、本発明の焼却灰の処理方法は、上記本発明の焼却灰処理用添加剤を重金属安定化剤および水とともに焼却灰に加えて混練することを特徴とする。
【0076】
具体的には、焼却灰の重量に対して、5重量%〜60重量%の水に、前記水の重量に対して0.1重量%〜10重量%の上記本発明の焼却灰処理用添加剤を加えてよく混合溶解させた後、この溶液に、焼却灰の重量に対して0.1重量%〜15重量%の重金属安定化剤を溶解し、この溶液と焼却灰とを混練機や撹拌機などを用いて混練する。
水の重量に対する焼却灰処理用添加剤の添加量が、0.1重量%以下であると発熱抑制効果が得られ難く、10重量%以上であると、添加量に見合った発熱抑制効果が得られないことがある。
【0077】
本発明の上記焼却灰の処理方法において、水は焼却灰に対して10重量%〜40重量%を用いることが好ましく、焼却灰処理用添加剤は、水の重量に対して0.5重量%〜3重量%を用いることが好ましく、重金属安定化剤は、焼却灰重量に対して1重量%〜10重量%を用いることが好ましい。
【0078】
さらにまた、水の添加量は、焼却灰に対して10重量%〜30重量%とすることが、廃棄物量の低減においてもより好ましく、焼却灰処理用添加剤は、水の重量に対して1.5重量%〜2.5重量%添加することが、発熱抑制効果においてより好ましい。
【0079】
本発明の焼却灰の処理方法を適用し得る焼却灰は、通常廃棄物や石炭等の燃料由来の固形焼却灰であり、主灰またはボトムアッシュ、クリンカアッシュ、飛灰またはフライアッシュなどが挙げられるが、特に粒子が小さく、消石灰由来のカルシウム含量の高い飛灰に対して適用することが、重金属固定化効率の向上、発熱抑制などの本発明の効果の点から有利である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的かつ詳細に説明する。
【0081】
[実施例1〜3、比較例1〜11]焼却灰処理用添加剤
一般式(1)においてR
1で示される基およびmが表1に示されるものである非イオン性界面活性剤(a1)、一般式(2)においてR
2で示される基ならびにnおよびpが表2に示されるものである非イオン性界面活性剤(a2)、グリセリンおよび水を、表3に示す組成に従って混合、均一化し、実施例1〜3および比較例1〜11の焼却灰処理用添加剤を調製した。各添加剤について、水100重量%の対照とともに、下記の安定性試験、鉛溶出確認試験および発熱抑制試験を行った。
鉛溶出確認試験および発熱抑制試験で用いた焼却灰中の重金属含有量を表4に示した。鉛溶出確認試験には焼却灰Aを用い、発熱抑制試験には焼却灰Bを用いた。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
[安定性試験]
(1)高温安定性
表3に示す実施例および比較例の各添加剤100gを、内容積140mLの蓋付きガラス瓶に入れ、60℃に調整した恒温槽内に24時間静置した後、試料の分離と濁りの有無を観察した。
(2)低温安定性
表3に示す実施例および比較例の各添加剤100gを内容積140mLの蓋付きガラス瓶に入れ、−10℃に調整した恒温槽内に24時間静置した後、試料の濁りと凝固の有無を観察した。
【0087】
[鉛溶出確認試験]
対照として、焼却灰A100gにピペラジンビスジチオカルバミン酸ジカリウム塩40重量%水溶液1.0gと、蒸留水20gを添加して混合し、3日間静置した。その後、『昭和48年2月17日環境庁告示13号 産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法』に従って溶出を行い、この溶出液中の鉛を日本工業規格(JIS)K0102 54.1「フレーム原子吸光法」に従って定量分析した。
次いで、蒸留水の代わりに、表3に示す実施例および比較例の各添加剤の2.0重量%水溶液を使用し、同様に試験を行った。
【0088】
[発熱抑制試験]
対照として、焼却灰B100gに蒸留水30gを入れて混合した。混合した焼却灰へ温度計(熱電対)を挿入し、温度を計測した。蒸留水添加前の温度と計測開始直後の温度をT
0、最高温度をT
mとして、発熱温度ΔTをT
m−T
0により求めた。
次いで、蒸留水の代わりに、表3に示す実施例および比較例の各添加剤の2.0重量%水溶液を使用し、同様に試験を行った。
【0089】
以上の試験結果を表5に示した。
【0090】
【表5】
【0091】
表5から、本発明の実施例1〜3の焼却灰処理用添加剤を使用して焼却灰を処理することにより、加湿量の少ない状態(焼却灰100重量部に対し水を20重量部添加)においても、効率よく重金属を固定化することができ、さらに発熱が抑制されることが示された。また、本発明の実施例1〜3の焼却灰処理用添加剤は、高温および低温の双方において貯蔵安定性に優れることが認められた。
【0092】
一方、(A)成分として、非イオン性界面活性剤(a1)、非イオン性界面活性剤(a2)のいずれかまたは双方を含有しない比較例1〜3、(B)成分を含有しない比較例4、非イオン性界面活性剤(a1)または非イオン性界面活性剤(a2)として、本発明で規定するものに該当しないものを用いた比較例5〜9、非イオン性界面活性剤(a1)と非イオン性界面活性剤(a2)の重量比(a1/a2)が本発明で規定する範囲内ではない比較例10、および(A)成分と(B)成分の重量比(A/B)が本発明で規定する範囲内ではない比較例11の焼却灰処理用添加剤については、一部十分な貯蔵安定性の認められないものが存在した。さらに、前記比較例の焼却灰処理用添加剤を用いて焼却灰を処理した場合には、鉛の溶出が認められ、実施例の焼却灰処理用添加剤を用いた場合に比べて、発熱の程度が大きいことが認められた。