特許第6043516号(P6043516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043516
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】X線装置及びX線撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   A61B6/00 320M
   A61B6/00 310
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-134715(P2012-134715)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-255741(P2013-255741A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 真也
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−097638(JP,A)
【文献】 特開昭63−206226(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0255904(US,A1)
【文献】 特開2011−245274(JP,A)
【文献】 特開2011−254847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生させるX線発生装置と、
前記X線発生装置と位置計測対象体との位置関係を検出する位置検出部と、
前記検出された位置関係に応じて、前記X線発生装置からのX線曝射の許否を判断し、X線の曝射を禁止又は許可する判断部と、
を備え、
前記位置検出部は、無線送信器及び無線受信器と、前記無線送信器及び無線受信器の間で送受信される無線信号を基に、前記無線受信器と前記無線送信器との間の距離を計測する距離計測部とを含み、
前記判断部は、前記計測された距離が、予め定められた距離閾値を越えるか否かを判断する、
ことを特徴とするX線装置。
【請求項2】
前記X線の曝射の指示を入力する曝射スイッチを更に備え、
前記判断部は、前記計測された距離が前記距離閾値以下の場合、前記曝射スイッチの操作を禁止する、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項3】
予め定められたパラメータに応じた前記距離閾値を設定する閾値管理部を更に備える、
ことを特徴とする請求項又はに記載のX線装置。
【請求項4】
前記閾値管理部は、前記X線発生装置の基準位置からの高さに応じて、前記距離閾値を変更する、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項5】
前記X線が通過する開口部の開度を調整して、前記X線の照射領域を制限するX線絞り装置を更に備え、
前記閾値管理部は、前記X線絞り装置の開度に応じて、前記距離閾値を変更する、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項6】
前記閾値管理部は、前記X線発生装置から照射されるX線量に応じて、前記距離閾値を変更する、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項7】
前記無線送信器及び前記無線受信器は、赤外線送信器及び赤外線受信器であり、
前記位置検出部は、前記赤外線受信器の受信面における赤外線の受信位置を検出する受信位置検出部を含み、
前記判断部は、前記受信位置が、前記受信面上で予め定められた、曝射を禁止する禁止範囲に含まれるか否かを判断する、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項8】
前記X線曝射の指示を赤外線通信により入力する曝射スイッチを更に備え、
前記赤外線送信器は、前記曝射スイッチに備えられ、前記X線曝射の指示信号を赤外線通信により送信し、
前記赤外線受信器が前記禁止範囲内において前記X線曝射の指示信号を受信すると、前記判断部は、前記曝射スイッチから送信されたX線曝射の指示信号を無効にする、
ことを特徴とする請求項に記載のX線装置。
【請求項9】
前記無線送信器は、前記曝射スイッチ、医療従事者の携行品又は防護衣の少なくとも一つに備えられる、
ことを特徴とする請求項乃至の何れか一つに記載のX線装置。
【請求項10】
前記X線曝射を禁止していることを通知する通知部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一つに記載のX線装置。
【請求項11】
前記X線発生装置と、前記位置検出部と、前記判断部と、を含む本体部と、
前記本体部を搭載して床面上を走行する走行部と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至1の何れか一つに記載のX線装置。
【請求項12】
請求項1乃至1の何れか一つに記載のX線装置と、
前記X線発生装置から照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器が検出したX線に基づいて、X線画像を生成する画像処理部と、
を備えたことを特徴とするX線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線装置及びX線撮像装置に係り、特に、操作者の無効被ばくの低減に寄与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転陽極の駆動用ボタン(ロータ駆動ボタン)とX線の曝射ボタン(X−Rayボタン)とが設けられたリモートコントローラを操作することにより、X線の曝射が行える移動型X線装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−224580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のX線装置において、X線発生装置から距離を十分にとらずにリモートコントローラに備えられた曝射ボタンを操作者が押すと、曝射されたX線、特にその散乱線による操作者の無効被ばくが懸念されていた。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、操作者や、被検体を介助するためにX線撮像時に被検体に近接して位置する可能性がある医療従事者(以下「監視対象者」という)の無効被爆の低減を図る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、X線を発生させるX線発生装置と、前記X線発生装置と位置計測対象体との位置関係を検出する位置検出部と、前記検出された位置関係に応じて、前記X線発生装置からのX線曝射の許否を判断し、X線の曝射を禁止又は許可する判断部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、監視対象者の無効被爆の低減を図る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態に係る移動型X線装置1の概略構成図
図2】第一実施形態に係る移動型X線装置1の機能ブロック図
図3】第一実施形態の処理の流れを示すフローチャート
図4】操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図
図5】操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図
図6】距離閾値とX線の散乱線の到達領域に影響を与えるパラメータとの関係を規定するテーブルの一例を示し、(a)は距離閾値dth2とX線絞りの開度との関係を規定するテーブルの一例を示し、(b)は、距離閾値dth3とアームの高さとの関係を規定するテーブルの一例を示し、(c)は、距離閾値dth4とX線量との関係を規定するテーブルの一例を示す。
図7】操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図
図8】第三実施形態に係る移動型X線装置1’の概略構成図
図9】第三実施形態に係る移動型X線装置1’の機能ブロック図
図10】赤外線受信器の受信面を示す説明図であって、(a)は、c2及びc3が禁止範囲である状態を示し、(b)は、c1及びc2が禁止範囲である状態を示す。
図11】第三実施形態の処理の流れを示すフローチャート
図12】第四実施形態に係る天井走行式X線撮像装置100の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付し、その重複した説明は省略する。
【0010】
本実施形態に係るX線装置は、監視対象者、すなわち操作者や被検体を介助する医療従事者や、これら監視対象者の位置を示す指標体と、X線発生装置と、の位置関係に応じて、X線曝射の禁止/許可を行うX線装置である。指標体は、曝射スイッチや、監視対象者と一体的に移動する携行品、例えば名札、医療用携帯電話、線量計(ガラスバッチ)等でもよい。また、X線を遮蔽する防護衣でもよい。監視対象者及び指標体を総称して「位置計測対象体」という。
【0011】
<第一実施形態>
第一実施形態では、X線装置として、床面上を走行する移動型X線装置を例に挙げ、指標体として移動型X線装置に備えられた曝射スイッチを用いる実施形態である。また、監視対象者として、曝者スイッチを操作する操作者を例に説明する。以下、図1乃至図4に基づいて、第一実施形態に係る移動型X線装置について説明する。図1は、第一実施形態に係る移動型X線装置1の概略構成図である。図2は、第一実施形態に係る移動型X線装置1の機能ブロック図である。図3は、第一実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。図4は、操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図である。
【0012】
図1の移動型X線装置1は、走行部2、本体部3、支柱4、アーム5、X線発生装置6、X線絞り装置7及び曝射スイッチ8を備える。
【0013】
走行部2は、図示しないモータにより駆動する駆動輪21と、旋回自在なキャスタ22と、を備え、駆動輪21及びキャスタ22が床面上を走行することで移動する。走行部2には、図示を省略するものの、駆動輪21を停止させるための制動装置も備えてもよい。
【0014】
走行部2上には、本体部3、支柱4、アーム5、X線発生装置6、X線絞り装置7、曝射スイッチ8及びケーブル10が搭載される。
【0015】
支柱4は、その軸方向が走行部2の上面に対して垂直となるように立設される。支柱4には、支柱4の軸方向に対して回転自在なアーム5が取り付けられる。アーム5は、支柱4の軸方向に沿って昇降動し、任意の高さで支柱4により支持される。更にアーム5は、支柱4の周方向に沿って回転する。
【0016】
アーム5の先端側(支柱4とは反対側)には、X線管球を含むX線発生装置6が備えられる。X線管球は、陰極と回転陽極とを備える。
【0017】
X線絞り装置7は、X線発生装置6におけるX線照射口に備えられる。X線絞り装置7は複数のX線遮蔽板を備え、それらX線遮蔽板の開口部の大きさ(「開度」という)を調整して、X線照射範囲を制限する。
【0018】
本体部3の内部には、移動型X線装置1の各部の制御を行う制御装置9が備えられる。制御装置9は、ケーブル10を介して曝射スイッチ8に対して、電気的に接続される。また、制御装置9は、X線発生装置6、X線絞り装置7、及び走行部2の図示しないモータや制動装置にも接続され、これら各部の動作を制御する。
【0019】
本実施形態では、曝射スイッチ8として、操作者が手で操作するハンドスイッチを用いるので、以下ではハンドスイッチ8と記載する。ハンドスイッチ8は、2段階に押し下げ動作が行えるスイッチであり、一段目の押し下げ動作で、X線曝射の準備動作(X線発生装置6に備えられた回転陽極の回転動作)を開始の指示を行い、二段目の押し下げ動作で、陰極から熱電子が放出され回転陽極に衝突し、X線が曝射される。
【0020】
移動型X線装置1は、位置検出センサとして、ハンドスイッチ8と一体に構成された無線送信器31と、X線発生装置6近傍に備えられ、無線送信器31から送られる無線を受信する無線受信器32と、を備える。本実施形態で用いる無線通信は、通信エリアが1m前後といった極短距離の近距離無線通信が望ましい。そして、無線送信器31から出力される電波は、ケーブル10を最も伸展させてハンドスイッチ8が無線受信器32から最も遠い位置にある状態で、無線受信器32が無線を受信できるレベルであることが望ましいが、それより低いレベルであってもよい。その場合、電波が届く距離にハンドスイッチ8があると、ハンドスイッチ8に曝射を禁止するためのロックがかかるように構成してもよい。また、位置検出部として、RFID(Radio Frequency Identification)技術を用いても良い。例えば、無線送信器31としてICタグ、無線受信器32としてRFIDリーダを用い、RFIDリーダの感度や、ICタグからの出力を調整して、通信距離を3m未満、好ましくは1m前後に設定し、ICタグが読み取られている間は、X線曝射を禁止するように構成しても良い。このように、距離dの計測は、距離の実測値を計測する場合と、所定の距離以上であるか否かだけを計測する場合と、の双方を含んでもよい。
【0021】
制御装置9は、図2に示すように、移動型X線装置1の各構成要素の動作制御を行う中央制御部91と、X線発生装置6からのX線曝射の許否を判断し、X線の曝射を禁止又は許可する判断部92と、無線受信器32からの受信信号に基づいて無線送信器31と無線送信器32との距離を計測する距離計測部93と、判断部92がX線曝射の許否の判断に用いる距離閾値を管理する閾値管理部94と、を備える。中央制御部91は、X線発生装置6の制御を行うX線制御部91aを含む。更に中央制御部91は、X線絞り装置7の動作制御を行ったり、図示しないモータ及び制動装置の動作制御を行う。
【0022】
図3の各ステップに沿って、第一実施形態に係る移動型X線装置1の動作の流れについて説明する。
【0023】
(ステップS1)
操作者が移動型X線装置1の主電源を投入(ON)する。無線発信器31及び無線受信器32の間で無線通信が開始する(S1)。
【0024】
(ステップS2)
無線受信器32に対する無線送信器31の位置を検出する(S2)。無線受信器32は、受信した無線の強度を示す信号を距離計測部93に出力し、距離計測部93は、受信した信号を基に、無線受信器32と無線送信器31との距離dを計測する。計測結果は、判断部92へ出力される。また、上記RFIDを用いる場合には、距離dの計測をせずに、ICタグの読み取りの可否だけを検出しても良い。
【0025】
(ステップS3)
判断部92は、ハンドスイッチ8のロックの要否の判断に用いる閾値を読み込む(S3)。閾値管理部94は、無線受信器32と無線送信器31との間の距離dとの比較に用いる距離閾値dth1を設定し、判断部92が読み込む。
【0026】
(ステップS4)
判断部92は、ステップS2の計測により得られた距離dと、ステップS3で読み込んだ距離閾値dth1とを比較し、距離dが距離閾値dth1以下であるか否かを判断する(S4)。距離dが距離閾値dth1以下であればステップS5へ進み、距離dが距離閾値dth1よりも大きければステップS6へ進む。上記RFIDを用いる場合にはICタグの読み取りができれば肯定と判断してステップS5へ進み、読み取りができなければ否定と判断してステップS6へ進む。
【0027】
(ステップS5)
判断部92は、ハンドスイッチ8にロックをかける(S5)。これにより、ハンドスイッチ8の押下げができなくなる。その後、ステップS2へもどり、S2以降の処理を繰り返す。X線曝射を禁止していることを表示したり音声で通知する通知部を備えておき、ロックがされていることを通知してもよい。
【0028】
(ステップS6)
判断部92は、ハンドスイッチ8をアンロック状態にする(S6)。すなわち、直近のステップS5においてハンドスイッチ8にロックがされていれば、ロックを解除する。また、ロックがされていなければ、この状態を維持する。
【0029】
(ステップS7)
ハンドスイッチ8が押されていればS8へ進み、押されていなければS2へ戻り、処理を続行する(S7)。
【0030】
(ステップS8、S9)
X線発生装置6からX線が曝射される(S8)。その後、主電源がOFFにされると処理を終了し、OFFにされなければS2以降の処理を繰り返す(S9)。
【0031】
本実施形態によれば、ハンドスイッチ8に備えられた無線送信器31と無線受信器32との距離dが、距離閾値dth1以下であればハンドスイッチ8が操作できなくなる。例えば、図4に示すように、ハンドスイッチ8を操作する操作者が、X線発生装置6に近接して位置した状態(図4のうち、実線で示した操作者40の位置)では、ハンドスイッチ8の押下げができなくなる。そこで、操作者がX線発生装置6から離れる方向に移動することで、無線送信器31と無線受信器32との距離dが距離閾値dth1を超え、ハンドスイッチ8の操作が可能となる。例えば、操作者40がX線発生装置6に相対的に近く、ロックがかかる位置(図4の実線で示した操作者40の位置)から、X線発生装置6に相対的に遠くロックが解除される位置、例えば本体部3を挟んでX線発生装置6と反対側(図4の一点鎖線で示した操作者40の位置)に移動し、X線曝射を行う。これにより、操作者の無効被ばくを防止しつつ、X線撮影を行うことができる。
【0032】
上記では、無線送信器31はハンドスイッチ8に付けた一つのものを例に説明したが、無線送信器31は、異なる指標体にそれぞれ設置し、複数の監視対象者の位置を検出するように構成しても良い。この場合、各無線送信器31と無線受信器32との距離を計測し、計測結果の全てが距離閾値dth1を超えた場合にX線曝射を許可し、計測結果のうち、一つでも距離閾値dth1以下であればX線曝射を禁止しても良い。これにより、複数の監視対象者が被検体に近接する場合に、それら全員の無効被ばくの低減を図ることができる。なお、第一実施形態では、ハンドスイッチ8に無線送信器31、X線発生装置6の近傍に無線受信器32を備えたが、ハンドスイッチ8に無線受信器32、X線発生装置6の近傍に無線送信器31を備え、無線受信器32の受信信号をケーブル10を介して制御装置9に出力するように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0033】
<第二実施形態>
第二実施形態は、第一実施形態の距離閾値を、予め定めたパラメータに応じて変化させる実施形態である。その他の構成は、第一実施形態と同様であるので、図3を流用して第二実施形態について説明する。以下、図5乃至図7に基づいて第二実施形態について説明する。図5は、操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図である。図6は、距離閾値とX線の散乱線の到達領域に影響を与えるパラメータとの関係を規定するテーブルの一例を示し、(a)は距離閾値dth2とX線絞りの開度との関係を規定するテーブルの一例を示し、(b)は、距離閾値dth3とアームの高さとの関係を規定するテーブルの一例を示し、(c)は、距離閾値dth4とX線量との関係を規定するテーブルの一例を示す。図7は、操作者とX線発生装置6との位置関係の一例を示す説明図である。
【0034】
距離閾値を変化させるパラメータはX線の散乱線の到達領域に影響を与えるパラメータを用いることが好ましい。そこで、本実施形態では、パラメータの一例として、X線絞り装置7の開度と、アーム5の基準位置からの高さと、X線量を規定するX線条件と、を用いた例を説明する。
【0035】
まず、X線絞りの開度と距離閾値との関係について説明する。X線絞り装置7の開度が広いほどX線照射領域は広くなる。その結果、X線の散乱線が到達する領域も広くなる。例えば図5において、相対的にX線絞り装置7の開度が小さいときのX線照射領域60(実線で図示)よりも、相対的にX線絞り装置7の開度が大きいときのX線照射領域61(一点鎖線で図示)の方がX線照射領域が広くなり、散乱線の到達領域も広くなる。
【0036】
そこで、図6の(a)に示すように、開度が大きいほど距離閾値dth2を大きく定めたテーブルを閾値管理部94が参照できるように記憶しておく。そして、中央制御部91は、X線絞り装置7の開閉操作を行うと、その時の開度を示す情報を閾値管理部94に出力する。閾値管理部94は、図3のステップS3において、中央制御部91から受信した開度情報と図6の(a)のテーブルとを照合して、開度に応じた距離閾値dth2を設定し、判断部92に出力する。
【0037】
次に、アーム5(又はX線発生装置6)の高さに応じて距離閾値を変更する態様について説明する。X線発生装置6は、アーム5に連動して昇降動する。従ってアーム5の基準位置からの高さが高いほどX線発生装置6の基準位置からの高さも高くなる。照射されるX線はX線源からの距離が離れるほど拡散するので、X線発生装置6及びアーム5の基準位置からの高さが高いほど、X線照射領域は広くなる。その結果、X線の散乱線が到達する領域も広くなる。例えば、図7において、アーム5が相対的に低い位置にある状態(実線で図示したアーム5の位置)と、相対的に高い位置にある状態(一点鎖線で図示したアーム5の位置)と、を比較する。X線発生装置6の位置が相対的に高いほうが、よりX線照射領域63が広くなる。その結果、散乱線の到達領域も広くなる。
【0038】
そこで、図6の(b)に示すように、アームの高さが高くなるほど、距離閾値dth3を大きく定めたテーブルを閾値管理部94が参照できるように記憶しておく。
【0039】
そして、移動型X線装置1にアーム5の高さを検出する高さセンサを備えておき、高さセンサからアーム5の高さを示す情報を閾値管理部94が受信する。そして、閾値管理部94は、図3のステップS3において、高さセンサから受信した高さ情報と図6の(b)のテーブルとを照合して、アーム5の高さに応じた距離閾値dth3を設定し、判断部92に出力する。
【0040】
上記高さセンサは、例えば、アーム5に超音波距離計を備え、本体部3の上面を基準位置とし、ここからの高さを検知するように構成しても良い。別の態様として、この超音波距離計は、X線発生装置6に備えてもよい。
【0041】
また、X線量が多いほど、散乱線も多くなることが予想されるので、照射されるX線量に応じて距離閾値を変更してもよい。例えば、図6の(c)に示すように、X線発生装置6から照射されるX線量が多いほど、距離閾値dth4が大きくなるようなテーブルを用意しておき、中央制御装置91に入力されたX線照射条件と距離閾値dth4を定めたテーブルとを基に、距離閾値dth4を設定してもよい。X線量を示すパラメータとして、管電圧(kV)、管電流(mA)、又は線量値(mAs)などのX線照射条件の少なくとも一つを用いてもよい。
【0042】
本実施形態に係る距離閾値dth2、距離閾値dth3、距離閾値dth4の何れか一つを用いてもよいし、距離閾値dth2、距離閾値dth3、距離閾値dth4の任意の組み合わせを併用してもよい。更に、第一実施形態に係る距離閾値dth1を任意の組み合わせて用いてもよい。2種類以上の距離閾値を併用した結果複数の異なる距離閾値が得られた場合には、閾値管理部94は、それらのうち、最も大きい距離閾値を判断部92に引き渡すようにしてもよい。これにより、最も安全な距離閾値を用いて、ハンドスイッチ8の操作の許否を判断することができる。
【0043】
本実施形態によれば、毎回異なる撮影条件下において、より好ましい距離閾値を用いて、X線曝射の許否を判断、制御することができる。
【0044】
<第三実施形態>
第三実施形態では、ハンドスイッチ8を、赤外線を用いたリモートコントローラにより構成し、その赤外線の指向性を用いて指標体(ハンドスイッチ8に相当する)の位置を検出し、X線曝射の許否を判断する実施形態である。以下、図8乃至図11に基づいて、第三実施形態について説明する。図8は、第三実施形態に係る移動型X線装置1’の概略構成図である。図9は、第三実施形態に係る移動型X線装置1’の機能ブロック図である。図10は、赤外線受信器の受信面を示す説明図であって、(a)は、c2及びc3が禁止範囲である状態を示し、(b)は、c1及びc2が禁止範囲である状態を示す。図11は、第三実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
図8に示すように、第三実施形態に係る移動型X線装置1’は、第一実施形態のハンドスイッチ8及びケーブル10に代わり、本体部3とは別体に構成され、赤外線を送信するリモートコントローラからなるハンドスイッチ70と、ハンドスイッチ70と一体に構成された赤外線送信器71と、本体部3に取り付けられ、制御装置9に接続された赤外線受信器72と、を備える。
【0046】
また、図9に示すように、制御装置9は、中央制御部91及びX線制御部91aと、判断部92と、禁止範囲管理部95と、を備える。赤外線受信器72は、赤外線送信器71から送信された赤外線を受信する受信面を備え、その受信面のどの位置で赤外線を受信したかを検出する受信位置検出部73を備える。
【0047】
赤外線受信器72の受信面は、全方位、すなわち、360°方向から赤外線を受信することができる。本実施形態では、受信面を予め複数の領域に分割しておき、受信位置検出部73は、その何れの領域で赤外線を受信したかを検出する。例えば、図10の(a)に示すように、受信面72aを放射状に8つの領域C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8に分割しておく。
【0048】
X線発生装置6(及びアーム5)が矢印A方向にある場合には、8つの分割領域のうち比較的X線発生装置6に近い位置にあるC2及びC3を禁止範囲として設定し、C2又はC3で受信した場合には、曝射を禁止する。また、アーム5が支柱4の周方向に回転し、図10の(b)に示すように、X線発生装置6(及びアーム5)が矢印B方向にある場合、C1及びC2を禁止範囲として設定しておき、C1又はC2で受信した場合には、曝射を禁止する。
【0049】
X線発生装置6(及びアーム5)の位置情報は、X線発生装置6又はアーム5に、赤外線受信器72に対する位置を検出するための位置センサを備えておき、その位置センサからの情報を基に検出してもよいし、アーム5の支柱4に対する許容回転角度を基に予め禁止範囲を固定的に設定しておいてもよい。上記禁止範囲の設定は、禁止範囲管理部95が行う。
【0050】
以下、図11の各ステップに沿って、本実施形態の処理の流れについて説明する。
【0051】
(ステップS11)
操作者が主電源をONにする(S11)。その後、移動型X線装置1’のポジショニングを行う。
【0052】
(ステップS12)
操作者が、ハンドスイッチ70に備えられた曝射ボタンを押す(S12)。ハンドスイッチ70の赤外線送信器71から曝射指示の信号が赤外線により送信され、赤外線受信器72が受信する。
【0053】
(ステップS13)
赤外線受信器72の受信位置検出部73は、受信面のどの領域で受信したかを検出し、受信位置を示す受信位置信号を生成する。赤外線受信器72は、中央制御部91に、受信した曝射指示信号及び受信位置信号を出力する(S13)。中央制御部91は、受信位置信号を判断部92に送信する。また、曝射指示信号の受信後、曝射待機状態となる。
【0054】
(ステップS14)
判断部92は、禁止範囲管理部95から禁止範囲を示す禁止範囲情報を読み込む(S14)。
【0055】
(ステップS15)
判断部92は、受信位置情報を基に、受信面72aにおける赤外線の受信領域が禁止範囲に含まれるか否かを判断する(S15)。肯定であればステップS16へ進み、否定であればステップS17へ進む。
【0056】
(ステップS16)
判断部92は、中央制御部91に対して曝射指示を無効にする指示信号を出力する。中央制御部91は、待機状態にしていた曝射指示を無効にする(S16)。その後、ステップS12へ戻り、ステップS12以降の処理を繰り返す。
【0057】
(ステップS17)
判断部92は、中央制御部91に対して曝射指示を有効にする指示信号を出力する。中央制御部91は、待機状態にしていた曝射指示を有効にし、X線制御部91aからX線発生装置6に対し、X線を照射する指示信号を出力する。そしてX線が照射される(S17)。
【0058】
(ステップS18)
主電源がOFFにされると処理を終了し、OFFにされなければステップS12へ戻り、ステップS12以降の処理を繰り返す(S18)。
【0059】
本実施形態によれば、赤外線受信器72を基準とし、X線発生装置6が位置する方向からハンドスイッチ70の赤外線送信がなされた場合、X線曝射を禁止することができる。そのため、操作者がX線発生装置6の近くに位置している可能性が高い状態でのX線曝射を禁止し、操作者の無効被ばくを抑制することができる。
【0060】
<第四実施形態>
第四実施形態は、撮影室に固定的に設置されたX線撮像装置に、本発明を適用した実施形態である。固定的に設置されるX線撮像装置では、通常撮影室と壁を隔てて設けられた操作室内の操作卓に曝射スイッチが備えられることが多い。この曝射スイッチを操作してX線撮影を行う時には、操作者への無効被ばくの懸念は少ない。
【0061】
しかし、曝射スイッチをリモートコントローラで構成し、操作者が撮影室内に居ながらX線曝射が行える場合には、操作者への無効被ばくの懸念が生じ得る。また、X線撮影時に、被検体を介助するために撮影室内に医療従事者が入室することがある。この場合、撮影室内の医療従事者の無効被ばくの懸念が生じ得る。
【0062】
そこで、本実施形態では、第一実施形態の無線受信器をX線発生装置に備え、無線送信器をリモートコントローラからなる曝射ボタンや、医療従事者の携行品に設けたX線撮像装置を例に説明する。
【0063】
以下、図12を基に説明する。図12は、第四実施形態に係る天井走行式X線撮像装置100の概略構成図である。
【0064】
図12に示す天井走行式X線撮像装置100は、臥位にて被検体101を載置する固定板102aと、立位にて被検体101を載置する固定板102bと、被検体101にX線を照射するX線発生部103と、被検体101に対するX線照射領域を設定するX線絞り装置104と、X線撮影条件を設定することが可能な操作パネル107と、X線発生部103を昇降自在に移動可能に支持する支柱108と、支柱108を支持する移動部109と、移動部109を水平方向に移動可能にさせる走行レール110及び天井レール111と、X線発生部103に電力供給を行なう高電圧発生部112と、X線発生部103に対向する位置に配置され、被検体101を透過したX線を検出するX線検出器113a、113bと、X線検出器113a、113bから出力されたX線信号に対して画像処理を行なうX線画像処理部114と、X線画像を表示する表示装置115と、X線画像処理部114から出力されたX線画像を記憶する外部記憶部116と、上記各構成要素を制御する制御部117と、制御部117に対して指令を行なう操作部118と、を備えている。
【0065】
本実施形態では、位置検出部として、既述の無線送信器31及び無線受信器32と距離計測部93とを備える。無線送信器31は、指標体、例えば、医療従事者120の名札121に備えるが、他の携行品、また図示しないリモートコントローラからなるハンドスイッチに備えてもよい。無線受信器32は、X線発生部103近傍に備える。そして制御装置117に、上述の中央制御部91、判断部92、及び距離計測部93を備え、無線受信器32が受信した受信信号を基に、X線発生部103と無線送信器31との距離を計測し、X線曝射の許否を判断、制御する。更に、閾値管理部94を制御装置117に備え、X線発生部103に高さセンサを備えたり、X線絞り装置104の開度情報、また操作パネル107から入力されたX線撮影条件を基に距離閾値を増減させてもよい。
【0066】
また、リモートコントローラからなるハンドスイッチを備え、このハンドスイッチを用いて第三実施形態と同様の処理を行ってもよい。
【0067】
更に、位置検出部の別態様として、カメラと人物検出装置とを組み合わせて構成してもよい。例えば、病室内や撮影室内にカメラ(例えば可視光カメラや赤外線カメラ)を備えておき、X線発生装置周辺の画像を撮影する。この画像に対し人物検出アルゴリズムを適用して人物を抽出し、X線発生装置と抽出した人物との位置関係や距離を測定するように構成しても良い。このとき、被検体と監視対象者とを区別し、監視対象者だけを抽出するように構成すると望ましい。両者を区別する例として、両者の姿勢の違いを基に区別する態様について述べる。被検体が臥位、監視対象者は立位に近い姿勢をとる場合、画像に監視対象者が立った状態で撮影される位置・角度にカメラを設置する。そして、撮影された画像に対し輪郭抽出処理を行い、抽出された輪郭形状が楕円(長円)近似と判定できれば人物と認識するような簡易な人物検出アルゴリズムを用いることで、立位に近い姿勢の監視対象者を臥位の被検体と区別して認識することができる。
【0068】
本実施形態によれば、据え置き型のX線撮像装置においても、操作者や医療従事者の無効被ばくを抑制しつつX線撮像を行うことができる。
【0069】
上記第一実施形態から第四実施形態は、本発明の実施形態の一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更例がありうる。また、第一実施形態から第四実施形態は任意の組み合わせが可能であり、それらは本発明の技術的範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0070】
1:移動型X線装置
2:走行部
3:X線発生装置
4:支柱
5:アーム
6:X線発生装置
7:X線絞り装置
8:ハンドスイッチ
9:制御装置
10:ケーブル
31:無線送信器
32:無線受信器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12