(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステムに用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1は、第1実施形態に係る制御回路を備えた系統連系インバータシステムを説明するための図である。
【0024】
系統連系インバータシステムAは、分散形電源であり、直流電源1、インバータ回路2、制御回路3、電流センサ4、電圧センサ5、および直流電圧センサ6を備えている。系統連系インバータシステムAは、三相の電力系統Bに連系している。なお、以下では3つの相をU相、V相およびW相とする。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換し、図示しない負荷に供給する。負荷には、電力系統Bからも電力が供給される。また、系統連系インバータシステムAは、逆潮流ありのシステムであり、交流電力を電力系統Bにも供給する。なお、図示しないが、インバータ回路2の出力側には、交流電圧を昇圧(または降圧)するための変圧器が設けられている。インバータ回路2、制御回路3、電流センサ4、電圧センサ5、および直流電圧センサ6をまとめたものがインバータ装置であり、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。
【0025】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0026】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力するものである。インバータ回路2は、図示しないPWM制御インバータとフィルタとを備えている。PWM制御インバータは、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた三相インバータであり、制御回路3から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。フィルタは、スイッチングによる高周波成分を除去する。インバータ回路2の入力側の正極および負極は、直流電源1の正極および負極にそれぞれ接続されているので、インバータ回路2の入力電圧は直流電源1の出力電圧に一致する。
【0027】
電流センサ4は、インバータ回路2の三相の出力電流の瞬時値をそれぞれ検出するものである。電流センサ4は、検出した瞬時値をディジタル変換して、電流信号i
u,i
v,i
w(3つの電流信号をまとめて「電流信号i」と記載する場合がある。)として制御回路3に出力する。電圧センサ5は、インバータ回路2の三相の出力電圧の瞬時値をそれぞれ検出するものである。電圧センサ5は、検出した瞬時値をディジタル変換して、電圧信号v
u,v
v,v
w(3つの電圧信号をまとめて「電圧信号v」と記載する場合がある。)として制御回路3に出力する。
【0028】
直流電圧センサ6は、インバータ回路2の入力電圧(すなわち、直流電源1の出力電圧)の瞬時値を検出するものである。直流電圧センサ6は、検出した瞬時値をディジタル変換して、直流電圧信号eとして制御回路3に出力する。直流電圧センサ6は、インバータ回路2の入力側の正極と負極との間に設けられた電解コンデンサ(図示しない)の端子間電圧を検出している。後述するように、制御回路3が直流電圧制御を行っているので、直流電圧が一定の電圧に制御され、電解コンデンサに蓄えられる電力も一定になっている。したがって、インバータ回路2に入力される電力は、直流電源1が出力する電力に一致する。
【0029】
制御回路3は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路3は、電流センサ4より入力される電流信号i、電圧センサ5より入力される電圧信号v、および、直流電圧センサ6より入力される直流電圧信号eに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。
【0030】
図2は、制御回路3の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
【0031】
制御回路3は、直流電圧制御部31、電力動揺成分減衰部32、無効電力算出部33、無効電力制御部34、電流制御部35、および、PWM信号生成部36を備えている。なお、図示しないが、制御回路3は、過電圧、過電流、単独運転などを検出して、系統連系インバータシステムAを電力系統Bから解列する保護機構を備えている。
【0032】
直流電圧制御部31は、インバータ回路2の入力電圧の制御を行うためのものである。直流電圧制御部31は、直流電圧センサ6より出力される直流電圧信号eと直流電圧目標値e
*との偏差Δe(=e
*−e)を入力されて、当該偏差をゼロにするための直流電圧補償信号を電力動揺成分減衰部32に出力する。直流電圧制御部31は、例えば、PI制御(比例積分制御)を行っている。
【0033】
系統連系インバータシステムAでは、直流電源1の電力−電圧特性を利用して、最大電力点追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御が行われている。MPPT制御は、出力電力が最大になるように出力電圧を制御するものである。本実施形態では、直流電圧目標値e
*を微小変動させて直流電圧制御を行うことで、直流電源1の出力電圧を変化させ、直流電源1の出力電力がより大きくなるように直流電圧目標値e
*を変更する。これにより、直流電圧目標値e
*が最大出力動作電圧になり、直流電源1から出力される電力が最大になるようにしている。なお、インバータ回路2の前段にDC/DCコンバータ回路を設けて、インバータ回路2がDC/DCコンバータ回路の出力電圧を一定に制御し、DC/DCコンバータ回路が最大電力点追従制御を行うようにしてもよい。
【0034】
電力動揺成分減衰部32は、直流電圧補償信号から電力動揺の周波数と同じ周波数成分(以下では、「電力動揺成分」とする。)を除去するものである。電力動揺成分減衰部32は、
図3のボード線図に示すような振幅特性を有する、いわゆるノッチフィルタであり、所定の周波数成分を減衰させ、その他の周波数成分を減衰させずにそのまま通過させる。
図3は、0.918[Hz]の周波数成分を除去する場合のボード線図を示している。電力動揺成分減衰部32は、直流電圧制御部31より直流電圧補償信号を入力され、直流電圧補償信号から電力動揺成分を除去した信号を、電流制御部35に出力する。
【0035】
電力動揺成分減衰部32の伝達関数F
N(s)は、下記(1)式で表される。f
0は減衰させる周波数帯の中心周波数であり、a,bは減衰特性を決定するパラメータである。パラメータa,bは、制御系の安定性やMPPT制御の効率などに基づいて実機検証をもとに適宜決定する。中心周波数f
0には、電力動揺の周波数f
SWを設定する。本実施形態においては、周波数f
SWを、電力系統Bを管理する電力会社から受信するようにしている。なお、電力動揺の周波数f
SWがあらかじめ分かっている場合は、あらかじめ設定しておくようにしてもよい。この場合、周波数f
SWの変化に対応できるように、電力動揺成分減衰部32を適応型ノッチフィルタとしてもよい。また、電力動揺成分減衰部32は、伝達関数F
N(s)が下記(1)式のものに限定されず、所定の周波数成分を減衰させるものであればよい。
【数1】
【0036】
なお、電力動揺の周波数f
SWが複数ある場合に対応できるように、電力動揺成分減衰部32を複数のノッチフィルタを多段に接続したものとしてもよい。
【0037】
無効電力算出部33は、インバータ回路2が出力する無効電力を算出するものである。無効電力算出部33は、電流センサ4より入力される電流信号iと電圧センサ5より入力される電圧信号vとに基づいて、無効電力値Qを算出して出力する。
【0038】
無効電力制御部34は、インバータ回路2が出力する無効電力の制御を行うためのものである。無効電力制御部34は、無効電力算出部33より出力される無効電力値Qと無効電力目標値Q
*との偏差(Q
*−Q)を入力されて、当該偏差をゼロにするための無効電力補償信号を電流制御部35に出力する。無効電力制御部34は、例えば、PI制御を行っている。本実施形態では、力率が「1」になるように、無効電力目標値Q
*として「0」が設定されている。
【0039】
電流制御部35は、インバータ回路2の出力電流の制御を行うためのものである。電流制御部35は、電流センサ4より入力される電流信号iに基づいて補償信号を生成し、PWM信号生成部36に出力する。
【0040】
図4は、電流制御部35の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
【0041】
電流制御部35は、三相/二相変換部35a、回転座標変換部35b、LPF35c、LPF35d、PI制御部35e、PI制御部35f、静止座標変換部35g、および、二相/三相変換部35hを備えている。
【0042】
三相/二相変換部35aは、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものである。三相/二相変換処理とは、三相の交流信号をそれと等価な二相の交流信号に変換する処理であり、三相の交流信号を静止した直交座標系(以下、「静止座標系」という。)における直交するα軸とβ軸の成分にそれぞれ分解して各軸の成分を足し合わせることで、α軸成分の交流信号とβ軸成分の交流信号に変換するものである。三相/二相変換部35aは、電流センサ4から入力された三相の電流信号i
u,i
v,i
wを、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβに変換して、回転座標変換部35bに出力する。
【0043】
三相/二相変換部35aで行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
【数2】
【0044】
回転座標変換部35bは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものである。回転座標変換処理とは、静止座標系の二相の信号を回転座標系の二相の信号に変換する処理である。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標変換部35bは、三相/二相変換部35aから入力される静止座標系のα軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβを、系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号i
dおよびq軸電流信号i
qに変換して出力する。
【0045】
回転座標変換部35bで行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
【数3】
【0046】
LPF35cおよびLPF35dは、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号i
dおよびq軸電流信号i
qの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号i
dおよびq軸電流信号i
qの直流成分に変換されている。つまり、LPF35cおよびLPF35dは、不平衡成分や高調波成分を除去して、基本波成分のみを通過させるものである。
【0047】
PI制御部35eは、d軸電流信号i
dの直流成分と目標信号との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)を行い、補償信号x
dを出力するものである。電力動揺成分減衰部32より入力される信号(直流電圧補償信号から電力動揺成分を除去した信号)が、d軸電流信号i
dの目標信号として用いられる。
【0048】
PI制御部35fは、q軸電流信号i
qの直流成分と目標信号との偏差に基づいてPI制御を行い、補償信号x
qを出力するものである。無効電力制御部34より入力される無効電力補償信号が、q軸電流信号i
qの目標信号として用いられる。
【0049】
静止座標変換部35gは、PI制御部35eおよびPI制御部35fからそれぞれ入力される補償信号x
d,x
qを、静止座標系の補償信号xα,xβに変換するものであり、回転座標変換部35bとは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部35gは、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の補償信号x
d,x
qを、位相θに基づいて、静止座標系の補償信号xα,xβに変換する。
【0050】
静止座標変換部35gで行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0051】
二相/三相変換部35hは、静止座標変換部35gから入力される補償信号xα,xβを、三相の補償信号x
u,x
v,x
wに変換するものである。二相/三相変換部35hは、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部35aとは逆の変換処理を行うものである。
【0052】
二相/三相変換部35hで行われる変換処理は、下記(5)式に示す行列式で表される。
【数5】
【0053】
図2に戻って、PWM信号生成部36は、PWM信号を生成するものである。PWM信号生成部36は、電流制御部35より入力される三相の補償信号x
u,x
v,x
wに基づいて、インバータ回路2の各相の出力電圧の波形を指令するための指令信号を生成し、指令信号とキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。例えば、指令信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、指令信号がキャリア信号以下の場合にローレベルとなるパルス信号が、PWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。なお、PWM信号生成部36は、三角波比較法によりPWM信号を生成する場合に限定されず、例えば、ヒステリシス方式でPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0054】
本実施形態では、制御回路3をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路3として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0055】
本実施形態において、電流制御部35は、直流電圧制御部31より出力された直流電圧補償信号から電力動揺成分を除去した信号をd軸電流信号i
dの目標信号とし、無効電力制御部34より入力される無効電力補償信号をq軸電流信号i
qの目標信号として、電流制御を行う。そして、PWM信号生成部36は、電流制御部35が生成した補償信号x
u,x
v,x
wに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。インバータ回路2は、PWM信号に基づいて電力変換を行う。
【0056】
制御回路3は、インバータ回路2に入力される直流電圧の制御と、インバータ回路2が出力する無効電力の制御を行っている。また、制御回路3は、直流電圧の制御を行うことで、入力される直流電力の制御も行い、これにより出力電力も制御している。したがって、制御回路3は、直流電圧の制御を行うことで、出力電力の制御も行っている。
【0057】
出力電力を制御するための直流電圧補償信号から電力動揺の周波数成分を減衰させた信号が、d軸電流信号i
dの目標信号として用いられるので、インバータ回路2の出力電力も当該周波数成分を抑制されたものになる。したがって、インバータ回路2は、電力動揺を引き起こしたり増大させることを抑制することができる。
【0058】
以下に、系統連系インバータシステムAが電力動揺を引き起こすことを抑制することができることを確認するためのシミュレーションについて説明する。
【0059】
まず、電力動揺の発生を調べるためのシミュレーションについて説明する。
【0060】
図5(a)は、一機無限大母線モデルを示す図である。一機無限大母線モデルは、一台の発電機Cが送電線を介して大きな電力系統(無限大母線D)へ接続しているモデルである。当該モデルを用いて、シミュレーションを行った。本シミュレーションでは電力動揺の発生を調べるために、発電機Cと無限大母線Dとを2本の線路Z1、Z2で接続しているモデルとし、系統事故を想定して線路Z2を切り離して再閉路を行った。なお、発電機Cの定格容量を60[MVA]、定格出力を50[MW]、系統周波数を60[Hz]、系統電圧を22[kV
rms]としている。
【0061】
図5(b)は、発電機Cの内部位相を示している。また、
図5(c)は、発電機Cの回転速度の変化を示しており、電力系統の基準周波数(例えば、60[Hz])に対応する回転速度を基準として、回転速度と当該基準との差を基準に対するパーセンテージで示している。時刻Timeが1[s]のときに、線路Z2を切り離して再閉路を行うと、その後、内部位相および回転速度が変動した。この変動が電力動揺であり、変動の周波数(電力動揺の周波数)は約0.918[Hz]であった。
【0062】
次に、従来の系統連系インバータシステムが電力動揺を引き起こす可能性があること、および、系統連系インバータシステムAがこの電力動揺の発生を抑制できることを、
図6〜
図10を用いて説明する。
【0063】
図6は、
図5(a)に示す一機無限大母線モデルに、系統連系インバータシステムAを示すモデルを追加したモデルである。その他の条件は、
図5(a)に示すモデルと共通する。
【0064】
まず、系統連系インバータシステムAの制御回路3(
図2参照)において電力動揺成分減衰部32を設けない(すなわち、従来の系統連系インバータシステムであり、以下では「系統連系インバータシステムA100」とする。)ようにして、系統連系インバータシステムA100の出力を変動させた。なお、系統連系インバータシステムA100のモデルは、d軸出力(
図2の直流電圧制御部31の出力に相当する。)とq軸出力(
図2の無効電力制御部34の出力に相当する。)とを与えて、これに対応する三相の電流を出力する電流源としている。出力変動を以下の4つのパターンとして検証した。
【0065】
図7(a)〜(c)は、先のシミュレーションで発生した電力動揺の周波数(f
SW=0.918[Hz])の0.1倍の周波数で出力が変動するようにしたものである。なお、出力変動の振幅を0.5[MW]としている。
図7(a)は、系統連系インバータシステムA100から出力される有効電力の定常時からの変化量(以下では、「有効電力出力変化量」とする。)ΔPおよび無効電力の定常時からの変化量(以下では、「無効電力出力変化量」とする。)ΔQを示している。無効電力は「0」に制御されているので、有効電力出力変化量ΔPが出力変動を示している。また、
図7(b)および(c)は、
図5(b)および(c)と同様、発電機Cの内部位相および回転速度の変動を示している。なお、以下の
図8〜
図10についても、(a)は各パターンで変動させたときの有効電力出力変化量ΔPおよび無効電力出力変化量ΔQを示し、(b)は発電機Cの内部位相を示し、(c)は発電機Cの回転速度の変動を示している。
【0066】
図7(a)に示すように、有効電力出力変化量ΔPは、周波数「0.1・f
SW」(=0.0918[Hz]、周期約10.9[s])で変動している。一方、
図7(b)および(c)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度はほとんど変動していない。つまり、系統連系インバータシステムA100の出力が周波数「0.1・f
SW」で変動しても、電力動揺成分は出力されないので、電力動揺が生じない。
【0067】
図8(a)〜(c)は、周波数f
SWで出力が変動するようにしたものである。
図8(a)に示すように、有効電力出力変化量ΔPは、周波数f
SW(=0.918[Hz]、周期約1.09[s])で変動している。また、
図8(b)および(c)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度も同じ周波数で変動している。つまり、系統連系インバータシステムA100の出力が周波数f
SWで変動した場合、電力動揺成分が出力されて、電力動揺が生じている。
【0068】
図9(a)〜(c)は、周波数f
SWの10倍の周波数で出力が変動するようにしたものである。
図9(a)に示すように、有効電力出力変化量ΔPは、周波数「10・f
SW」(=9.18[Hz]、周期約0.109[s])で変動している。一方、
図9(b)および(c)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度はほとんど変動していない。つまり、系統連系インバータシステムA100の出力が周波数「10・f
SW」で変動しても、電力動揺成分は出力されないので、電力動揺が生じない。
【0069】
図10(a)〜(c)は、出力がステップ状に大きく変化するようにしたものである。
図10(a)に示すように、有効電力出力変化量ΔPは、時刻Timeが1[s]のときに、0[MW]から2[MW]に、ステップ状に大きく変化している。また、
図10(b)および(c)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度は周波数f
SW(=0.918[Hz]、周期約1.09[s])で変動している。つまり、系統連系インバータシステムA100の出力がステップ状に変化した場合、ステップ状の変化には全ての周波数成分が含まれるので、電力動揺成分が出力されて、電力動揺が生じている。
【0070】
以上のように、系統連系インバータシステムA100の出力が電力動揺の周波数f
SWで変動した場合や、ステップ状に大きく変化した場合、電力動揺が引き起こされることが確認された。
【0071】
次に、従来の系統連系インバータシステムA100に代えて系統連系インバータシステムAを用いて、
図7〜
図10の(a)〜(c)と同様に4つのパターンで、出力を変動させるように検証を行った。なお、系統連系インバータシステムAのモデルは、d軸出力をノッチフィルタ(
図2の電力動揺成分減衰部32に相当する。)を通して与えるようにしている。
図7〜
図10の(d)〜(f)は、それぞれ
図7〜
図10の(a)〜(c)と同様の検証を行ったものである。
図7〜
図10の(d)は、それぞれ
図7〜
図10の(a)と同様、各パターンでの有効電力出力変化量ΔPおよび無効電力出力変化量ΔQを示している。また、
図7〜
図10の(e)は、それぞれ
図7〜
図10の(b)と同様、各パターンでの発電機Cの内部位相を示し、
図7〜
図10の(f)は、それぞれ
図7〜
図10の(c)と同様、各パターンでの発電機Cの回転速度の変動を示している。
【0072】
図7(d)は
図7(a)とほぼ同様であり、有効電力出力変化量ΔPが周波数「0.1・f
SW」で変動している。また、
図7(e)および(f)も
図7(b)および(c)とほぼ同様であり、電力動揺は生じていない。つまり、周波数「0.1・f
SW」の出力変動については、系統連系インバータシステムAの場合でも、系統連系インバータシステムA100の場合と同様である。
【0073】
一方、
図8(d)は
図8(a)と異なり、有効電力出力変化量ΔPが変動していない。これは、電力動揺成分減衰部32(
図2参照)によって直流電圧補償信号から周波数f
SWの成分(電力動揺成分)が除去されたからである。この場合、
図8(e)および(f)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度はほとんど変動していない。つまり、系統連系インバータシステムAは、電力動揺成分減衰部32によって電力動揺成分を除去することで、電力動揺を引き起こすことを抑制することができる。
【0074】
図9(d)は
図9(a)とほぼ同様であり、有効電力出力変化量ΔPが周波数「10・f
SW」で変動している。また、
図9(e)および(f)も
図9(b)および(c)とほぼ同様であり、電力動揺は生じていない。つまり、周波数「10・f
SW」の出力変動については、系統連系インバータシステムAの場合でも、系統連系インバータシステムA100の場合と同様である。
【0075】
図10(d)に示す有効電力出力変化量ΔPは、時刻Timeが1〜2[s]のときに変動して、2[MW]に変化している。これは、電力動揺成分減衰部32によって直流電圧補償信号から周波数f
SWの成分(電力動揺成分)が除去されたからである。この場合、
図10(e)および(f)に示すように、発電機Cの内部位相および回転速度はほとんど変動していない。つまり、系統連系インバータシステムAは、電力動揺成分減衰部32によって電力動揺成分を除去することで、電力動揺を引き起こすことを抑制することができる。
【0076】
以上のように、系統連系インバータシステムAを用いることで、電力動揺を引き起こすことを抑制できることが確認できた。
【0077】
なお、上記第1実施形態においては、電流制御部35で電流信号iを三相/二相変換して回転座標変換してから制御を行っているが、これに限られない。例えば、三相/二相変換部35aから出力されるα軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβを制御するようにしてもよい。この場合、電力動揺成分減衰部32より入力される信号(直流電圧補償信号から電力動揺成分を除去した信号)および無効電力制御部34より入力される無効電力補償信号を静止座標変換して、目標信号として用いればよい。また、三相の電流信号iを直接制御するようにしてもよい。この場合、電力動揺成分減衰部32より入力される信号および無効電力補償信号を静止座標変換して二相/三相変換して、目標信号として用いればよい。
【0078】
上記第1実施形態においては、電力動揺の周波数f
SWが外部から与えられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、周波数f
SWを検出して用いるようにしてもよい。周波数f
SWを検出してノッチフィルタの中心周波数を設定する場合を第2の実施形態として、以下に説明する。
【0079】
図11は、第2実施形態に係る制御回路の内部構成を説明するための機能ブロック図である。同図において、第1実施形態に係る制御回路3(
図2参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図11に示すように、制御回路3’は、電力動揺周波数検出部37を備えている点で、第1実施形態に係る制御回路3と異なる。
【0080】
電力動揺周波数検出部37は、電力系統Bの系統周波数から電力動揺の周波数f
SWを検出して、電力動揺成分減衰部32の減衰周波数帯の中心周波数f
0に設定するものである。電力動揺周波数検出部37は、周波数検出部37a、バンドパスフィルタ37b、FFT処理部37c、および、比較部37dを備えている。
【0081】
周波数検出部37aは、電力系統Bの系統周波数を検出するものである。周波数検出部37aは、電圧センサ5より入力される電圧信号vの周波数を検出する。電圧信号vは、インバータ回路2の出力端の電圧、すなわち、系統連系インバータシステムAと電力系統Bの連系点の電圧を検出したものである。したがって、電圧信号vの周波数を検出することで、電力系統Bの系統周波数を検出することができる。周波数検出部37aは、系統周波数を連続的に検出して、周波数信号fとしてバンドパスフィルタ37bに出力する。
【0082】
バンドパスフィルタ37bは、所定の周波数帯域(0.2[Hz]〜1[Hz])の成分を抽出するものである。バンドパスフィルタ37bは、周波数検出部37aから入力される周波数信号fのうち、所定の周波数帯域の成分をそのまま通過させ、その他の周波数成分を減衰させて、FFT処理部37cに出力する。電力動揺の周波数が0.2[Hz]〜1[Hz]であることが知られており、電力需要の変化に伴う電力変動の周波数が0.2[Hz]以下に含まれることが知られている。バンドパスフィルタ37bは、電力需要による変動の周波数成分を除去して、電力動揺の周波数成分だけを抽出している。
【0083】
FFT処理部37cは、高速フーリエ変換(Fast Fourier transformation)処理を行うものである。FFT処理部37cは、バンドパスフィルタ37bから入力される信号(周波数信号fから所定の周波数帯域の周波数成分を抽出したもの)に対して高速フーリエ変換処理を行い、周波数毎の出力レベルを演算して、比較部37dに出力する。
【0084】
比較部37dは、FFT処理部37cより入力される各周波数の出力レベルを閾値と比較するものである。比較部37dは、出力レベルが閾値以上となった周波数を電力動揺の周波数f
SWとして、電力動揺成分減衰部32に出力する。
【0085】
なお、電力動揺周波数検出部37の構成は、これに限られない。例えば、周波数検出部37aから出力される周波数信号fに対して高速フーリエ変換処理を行い、所定の周波数帯域の周波数の出力レベルだけを比較部37dに入力するようにしてもよい。また、比較部37dは、出力レベルが閾値以上となった周波数のうち出力レベルが最大である周波数を周波数f
SWとして検出するようにしてもよい。
【0086】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、直流電圧補償信号から電力動揺成分を除去した信号が、電流制御部35で電流目標として用いられる。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0087】
なお、各系統連系インバータシステムAがそれぞれ電力動揺の周波数f
SWを検出すのではなく、複数の系統連系インバータシステムAを監視する遠隔監視制御装置が周波数f
SWを検出する方が効率がよい。遠隔監視制御装置が周波数f
SWを検出して各系統連系インバータシステムAに送信する場合を第3の実施形態として、以下に説明する。
【0088】
図12は、第3実施形態に係る大容量システムを説明するための図である。
【0089】
大容量システムEは、並列接続された複数の系統連系インバータシステムAと、各系統連系インバータシステムAを遠隔監視する遠隔監視制御装置Fとを備えている。遠隔監視制御装置Fは、各系統連系インバータシステムAの発電状態などを監視するものであり、電力動揺周波数検出部37を備えている。電力動揺周波数検出部37は、第2実施形態に係る電力動揺周波数検出部37(
図11参照)と同様のものであり、電圧センサ5より入力される電圧信号vに基づいて電力動揺の周波数f
SWを検出して、各系統連系インバータシステムAに送信する。各系統連系インバータシステムAは、受信した周波数f
SWを電力動揺成分減衰部32(
図2参照)の中心周波数f
0に設定する。
【0090】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0091】
上記第1〜第3実施形態においては、制御回路3(3’)が直流電圧制御を行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、制御回路が有効電力制御を行う場合を第4の実施形態として、以下に説明する。
【0092】
図13は、第4実施形態に係る制御回路の内部構成を説明するための機能ブロック図である。同図において、第1実施形態に係る制御回路3(
図2参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図13に示すように、制御回路3”は、直流電圧制御に代えて有効電力制御を行う点で、第1実施形態に係る制御回路3と異なる。
【0093】
有効電力算出部33’は、インバータ回路2が出力する有効電力を算出するものである。有効電力算出部33’は、電流センサ4より入力される電流信号iと電圧センサ5より入力される電圧信号vとに基づいて、有効電力値Pを算出して出力する。
【0094】
有効電力制御部34’は、インバータ回路2が出力する有効電力の制御を行うためのものである。有効電力制御部34’は、有効電力算出部33’より出力される有効電力値Pと有効電力目標値P
*との偏差(P
*−P)を入力されて、当該偏差をゼロにするための有効電力補償信号を電力動揺成分減衰部32に出力する。有効電力制御部34’は、例えば、PI制御を行っている。
【0095】
電力動揺成分減衰部32は、有効電力制御部34’より入力される有効電力補償信号から電力動揺成分を除去して、d軸電流信号i
dの目標信号として電流制御部35に出力する。
【0096】
第4実施形態においては、無効電力と有効電力とが制御されることで、出力電力が制御される。そして、有効電力補償信号から電力動揺成分を除去した信号が、電流制御部35で電流目標として用いられる。したがって、第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0097】
本実施形態では、系統連系インバータシステムAが三相のシステムである場合について説明したが、単相のシステムであってもよい。単相のシステムの場合、例えば、電流制御部35(
図2参照)が電流センサ4より入力される単相の電流信号と電力動揺成分減衰部32より入力される信号との偏差に基づいて単相の補償信号を出力し、PWM信号生成部36が当該補償信号に基づいてPWM信号を生成するようにすればよい。また、ヒルベルト変換などで単相の電流信号を直交する2つの電流信号に変換して、回転座標変換部35b(
図4参照)に入力するようにしてもよい。
【0098】
本発明に係る制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。