特許第6043550号(P6043550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043550ガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043550
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   C03B5/225
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-193964(P2012-193964)
(22)【出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2014-47125(P2014-47125A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼谷 貴央
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−060134(JP,A)
【文献】 特表2010−535694(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014906(WO,A1)
【文献】 特開平11−240727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融工程と、
前記熔融ガラスを清澄する清澄工程と、
清澄された前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程と、
を備え、
前記清澄工程において、前記熔融ガラスは、白金製または白金合金製の清澄管の内部を、前記熔融ガラスの液面より上方の空間である気相空間が形成されるように流れ、
前記清澄管は、前記清澄管の外壁面から外方に突出している通気管を有し、
前記通気管は、前記気相空間と前記清澄管の外部空間とを連通させ、かつ、前記清澄管の長手方向における前記清澄管の温度プロファイルの最高温度領域に設けられ
前記温度プロファイルは、前記清澄管の長手方向の両端部の温度よりも、前記清澄管の長手方向の中間部の温度が高い傾向を示す、
ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記熔融ガラスは、清澄剤としてSnO2を含む、
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記熔融ガラスは、粘度が102.5poiseである場合に、1500℃以上の温度を有する、
請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融槽と、
前記熔融槽で生成された前記熔融ガラスを清澄する清澄管と、
前記清澄管で清澄された前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形装置と、
を備え、
前記清澄管は、前記熔融ガラスの液面より上方の空間である気相空間が形成されるように前記熔融ガラスが内部を流れる、白金製または白金合金製の管であり、
前記清澄管は、前記清澄管の外壁面から外方に突出している通気管を有し、
前記通気管は、前記気相空間と前記清澄管の外部空間とを連通させ、かつ、前記清澄管の長手方向における前記清澄管の温度プロファイルの最高温度領域に設けられ
前記温度プロファイルは、前記清澄管の長手方向の両端部の温度よりも、前記清澄管の長手方向の中間部の温度が高い傾向を示す、
ガラス基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラス基板の製造方法は、特許文献1(特表2006−522001号公報)に記載されているように、ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融工程と、熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程とを有する。ガラス基板の製造方法は、さらに、熔融工程と成形工程との間に、熔融ガラスに含まれる微小な泡を除去する清澄工程を含む。清澄工程では、As23等の清澄剤が配合された熔融ガラスを高温の清澄管に通過させることで、清澄剤の酸化還元反応によって熔融ガラス中の泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスの温度を上げて清澄剤を機能させることで、熔融ガラスに含まれる泡を、清澄管内の熔融ガラスの液面に浮上させて除去する。次に、熔融ガラスの温度を下げて、熔融ガラスに残留している微小な泡を、熔融ガラスに吸収させて除去する。熔融ガラスが通過する清澄管は、上側の内壁面と熔融ガラスの液面との間に、気相空間を有する。気相空間は、清澄管に接続された通気管を介して、清澄管の外部空間である外気と連通している。
【0003】
高温の熔融ガラスから高品質のガラス基板を量産するためには、ガラス基板の欠陥の要因となる異物が熔融ガラスに混入しないことが望ましい。そのため、熔融ガラスに接触する部材の内壁は、その部材に接触する熔融ガラスの温度、および、要求されるガラス基板の品質等に応じて、適切な材料で構成される必要がある。熔融ガラスに接触する部材の内壁には、通常、白金族金属が用いられる。以下、「白金族金属」は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。白金族金属は、高価であるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。
【0004】
清澄管の内部を通過する熔融ガラスの温度は、成形されるガラス基板の組成によって異なり、フラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板の場合、1000℃〜1700℃である。近年、環境負荷低減の観点から、As23の代わりにSnO2が清澄剤として用いられている。SnO2は、As23と比べて清澄効果が小さく、As23と同等の清澄効果を得るためには熔融ガラスの温度を上げる必要がある。具体的には、SnO2を清澄剤として用いる場合、清澄管の内部を通過する熔融ガラスの温度は、1500℃〜1700℃に設定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SnO2を清澄剤として用いるガラス基板の製造方法では、清澄管の内壁は、高温の熔融ガラスと接触している。そのため、長期間に亘る清澄管の使用によって、清澄管の内壁から白金族金属が徐々に揮発する。この揮発物は、熔融ガラス中の泡と共に、清澄管の気相空間および通気管を介して外気に排出される。しかし、白金族金属の揮発物は、外気に排出される過程で温度が低下して、過飽和状態になる。そのため、清澄管および通気管の内壁には、凝固した揮発物が析出しやすい。以下、清澄管および通気管の内壁に析出した物質を「白金異物」と呼ぶ。通気管の内部は、外気と連通しているため温度が低下しやすく、白金異物は、通気管の内壁に特に析出しやすい。白金異物は、時間の経過に伴って成長すると、清澄管および通気管の内壁から自重により剥がれて、清澄管内の熔融ガラスに落下する可能性がある。また、通気管の内壁に析出した白金異物を除去する際に、白金異物が清澄管内の熔融ガラスに落下してしまう可能性がある。そして、熔融ガラスに白金異物が混入すると、高品質のガラス基板を量産することが困難になる。
【0006】
本発明の目的は、熔融ガラスの清澄工程において、熔融ガラスに異物が混入することを抑制することができるガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス基板の製造方法は、ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融工程と、熔融ガラスを清澄する清澄工程と、清澄された熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程と、を備える。清澄工程において、熔融ガラスは、白金製または白金合金製の清澄管の内部を、気相空間が形成されるように流れる。気相空間は、清澄管の内部において、熔融ガラスの液面より上方の空間である。清澄管は、清澄管の外壁面から外方に突出している通気管を有する。通気管は、気相空間と清澄管の外部空間とを連通させる。通気管は、清澄管の長手方向における清澄管の温度プロファイルの最高温度領域に設けられる。最高温度領域は、清澄管の最高温度をTmax℃と表す場合、好ましくは、(Tmax−20)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域であり、さらに好ましくは、(Tmax−10)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域であり、特に好ましくは、(Tmax−5)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域である。
【0008】
本発明に係るガラス基板の製造方法では、ガラス原料を加熱して生成された熔融ガラスは、高温の清澄管の内部を通過することで加熱される。清澄管の内部では、熔融ガラスに含まれる泡が、熔融ガラスに配合された清澄剤の還元反応によって発生した酸素を吸収して成長する。成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、清澄管内の気相空間に放出され、通気管を経由して清澄管から排出される。
【0009】
本発明に係るガラス基板の製造方法では、清澄管は、白金製または白金合金製である。白金または白金合金は、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れているので、高温の熔融ガラスと接触する清澄管の材質として好適である。しかし、長期間に亘る清澄管の使用によって、清澄管の内壁から白金成分が徐々に揮発する。白金を含む揮発物は、熔融ガラス中の泡と共に、通気管を経由して清澄管から排出される。白金を含む揮発物は、清澄管の気相空間および通気管を通過する過程で温度が低下すると、過飽和状態になりやすい。そのため、清澄管および通気管の内壁には、凝固した揮発物が白金異物として付着する場合がある。
【0010】
本発明に係るガラス基板の製造方法では、通気管は、清澄管の外壁面に連結されている。清澄管の両端部には、清澄管を電熱加熱するために用いられる電極が取り付けられている。通常、電極は、放熱効果が大きいフランジ形状を有するので、清澄管の両端部は、清澄管の両端部の間の中間部に比べて放熱されやすい。そのため、清澄管の長手方向の温度プロファイルは、清澄管の両端部の温度よりも清澄管の中間部の温度が高い傾向を示す、上に凸の形状を有している。通気管は、清澄管の長手方向において温度が最も高くなる部分、すなわち、清澄管の温度プロファイルの最高温度領域に設けられている。これにより、清澄管内で生じた白金を含む揮発物は、気相空間内で最も高い温度を有する空間を経由して、通気管の内部に流入する。そのため、白金を含む揮発物は、気相空間において、低温部から高温部に向かって流れて通気管から排出されるので、気相空間における白金を含む揮発物の過飽和状態を抑制することができる。これにより、清澄管の気相空間における内壁、および、通気管の内壁に、白金異物が付着することが抑制される。従って、清澄管の内壁および通気管の内壁から白金異物が落下して、熔融ガラスに混入することが抑制される。
【0011】
また、熔融ガラスは、清澄剤としてSnO2を含むことが好ましい。SnO2を清澄剤として用いるガラス基板の製造方法では、As23を清澄剤として用いる場合と比較して、清澄管の内部を通過する熔融ガラスの温度を高くする必要がある。そのため、SnO2を清澄剤として用いる場合、清澄管の内壁から白金成分が揮発しやすく、清澄管の内壁および通気管の内壁に白金異物が付着しやすい。そのため、本発明に係るガラス基板の製造方法は、SnO2を清澄剤として用いるガラス基板の製造方法に好適である。
【0012】
また、本発明に係るガラス基板の製造方法は、粘度が102.5poiseである場合に1500℃以上の温度を有する熔融ガラス等、高温粘性が高い熔融ガラスを清澄する場合に、好適である。高温粘性が高い熔融ガラスは、通常のアルカリガラスの熔融ガラスと比較して、清澄工程における温度を高くする必要がある。そのため、清澄管の内壁から白金成分が揮発する問題が顕著になり、清澄管の内壁および通気管の内壁に白金異物が付着しやすい。
【0013】
本発明に係るガラス基板の製造方法は、高い高温粘性を有する熔融ガラス、すなわち、清澄工程において通常の熔融ガラスよりも高温にする必要がある熔融ガラスを用いるガラス基板の製造方法に好適である。
【0014】
本発明に係るガラス基板の製造装置は、ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融槽と、熔融槽で生成された熔融ガラスを清澄する清澄管と、清澄管で清澄された熔融ガラスからガラス基板を成形する成形装置と、を備える。清澄管は、気相空間が形成されるように熔融ガラスが内部を流れる、白金製または白金合金製の管である。気相空間は、清澄管の内部において、熔融ガラスの液面より上方の空間である。清澄管は、清澄管の外壁面から外方に突出している通気管を有する。通気管は、気相空間と清澄管の外部空間とを連通させる。通気管は、清澄管の長手方向における清澄管の温度プロファイルの最高温度領域に設けられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置は、熔融ガラスの清澄工程において、熔融ガラスに異物が混入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るガラス基板製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係るガラス基板製造装置の構成を示す模式図である。
図3】実施形態に係る清澄管の外観図である。
図4】実施形態に係る清澄管の長手方向における断面図である。
図5】実施形態に係る清澄管の側面図と、清澄管の温度プロファイルとの対応関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)ガラス基板製造装置の全体構成
本発明に係るガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るガラス基板製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0018】
ガラス基板製造方法は、図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程S2と、攪拌工程S3と、成形工程S4と、徐冷工程S5と、切断工程S6とを備える。
【0019】
熔解工程S1では、ガラス原料が加熱されて熔融ガラスが得られる。熔融ガラスは、熔解槽に貯留され、所望の温度を有するように通電加熱される。ガラス原料には、清澄剤が添加される。環境負荷低減の観点から、清澄剤として、SnO2が用いられる。
【0020】
清澄工程S2では、清澄管の内部を熔融ガラスが流れる。最初に、熔融ガラスの温度を上昇させる。清澄剤は、昇温により還元反応を起こして酸素を放出する。熔融ガラス中に含まれるCO2、N2、SO2等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、清澄管内の気相空間に放出され、最終的に外気に排出される。次に、清澄工程S2では、熔融ガラスの温度を低下させる。これにより、還元された清澄剤は、酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガス成分を吸収する。
【0021】
攪拌工程S3では、清澄された熔融ガラスが攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、ガラス基板の脈理等の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。均質化された熔融ガラスは、成形工程S4に送られる。
【0022】
成形工程S4では、オーバーフローダウンドロー法またはフロート法によって、熔融ガラスからガラスリボンが連続的に成形される。
【0023】
徐冷工程S5では、成形工程S4で連続的に成形されたガラスリボンが所望の厚みを有し、かつ、歪みおよび反りが生じないように、徐々に冷却される。
【0024】
切断工程S6では、徐冷工程S5で徐冷されたガラスリボンが所定の長さに切断されて、ガラスシートが得られる。ガラスシートは、さらに、所定のサイズに切断されて、ガラス基板が得られる。その後、ガラス基板の端面の研削および研磨、並びに、ガラス基板の洗浄が行われる。さらに、ガラス基板のキズ等の欠陥の有無が検査され、検査に合格したガラス基板が梱包されて製品として出荷される。
【0025】
図2は、本実施形態に係るガラス基板製造装置200の構成の一例を示す模式図である。ガラス基板製造装置200は、熔解槽40と、清澄管41と、攪拌装置100と、成形装置42と、移送管43a,43b,43cとを備える。移送管43aは、熔解槽40と清澄管41とを接続する。移送管43bは、清澄管41と攪拌装置100とを接続する。移送管43cは、攪拌装置100と成形装置42とを接続する。
【0026】
熔解槽40で生成された熔融ガラスGは、移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41で清澄された熔融ガラスGは、移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。攪拌装置100で攪拌された熔融ガラスGは、移送管43cを通過して成形装置42に流入する。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスGからガラスリボンGRが成形される。ガラスリボンGRは、後の工程で所定の大きさに切断されて、ガラス基板が製造される。ガラス基板の幅方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。ガラス基板の長さ方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。
【0027】
本発明に係るガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置によって製造されるガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板として、特に適している。FPD用のガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。FPD用のガラス基板は、高温時における粘性が高い。例えば、102.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。
【0028】
熔解槽40は、バーナー等の加熱手段(図示せず)を備えている。熔解槽40では、加熱手段によりガラス原料が熔解され、熔融ガラスGが生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ガラスの組成の一例として、FPD用のガラス基板として好適な無アルカリガラスは、SiO2:50質量%〜70質量%、Al23:0質量%〜25質量%、B23:1質量%〜15質量%、MgO:0質量%〜10質量%、CaO:0質量%〜20質量%、SrO:0質量%〜20質量%、BaO:0質量%〜10質量%を含有する。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0029】
また、FPD用のガラス基板として、アルカリ金属を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。なお、R’2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。
【0030】
本発明によって製造されるガラスは、上記成分に加えて、SnO2:0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe23:0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、本発明によって製造されるガラスは、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しない。
【0031】
上記のように調製されたガラス原料は、原料投入機(図示せず)を用いて熔解槽40に投入される。原料投入機は、スクリューフィーダを用いてガラス原料の投入を行ってもよく、バケットを用いてガラス原料の投入を行ってもよい。熔解槽40では、ガラス原料は、その組成等に応じた温度に加熱されて熔解される。これにより、熔解槽40では、例えば、1500℃〜1600℃の高温の熔融ガラスGが得られる。なお、熔解槽40では、モリブデン、白金または酸化錫等で成形された少なくとも1対の電極間に電流を流すことで、電極間の熔融ガラスGが通電加熱されてもよく、また、通電加熱に加えてバーナーによる火焔を補助的に与えることで、ガラス原料が加熱されてもよい。
【0032】
熔解槽40で得られた熔融ガラスGは、熔解槽40から移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41および移送管43a,43b,43cは、白金製あるいは白金合金製の管である。清澄管41には、熔解槽40と同様に加熱手段が設けられている。清澄管41では、熔融ガラスGがさらに昇温させられることで清澄される。例えば、清澄管41において、熔融ガラスGの温度は、1500℃〜1700℃に上昇させられる。
【0033】
清澄管41において清澄された熔融ガラスGは、清澄管41から移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。熔融ガラスGは、移送管43bを通過する際に冷却される。攪拌装置100では、清澄管41を通過する熔融ガラスGの温度よりも低い温度で、熔融ガラスGが攪拌される。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの温度は、1250℃〜1450℃である。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの粘度は、500ポアズ〜1300ポアズである。熔融ガラスGは、攪拌装置100において攪拌されて均質化される。
【0034】
攪拌装置100で均質化された熔融ガラスGは、攪拌装置100から移送管43cを通過して成形装置42に流入する。熔融ガラスGは、移送管43cを通過する際に、熔融ガラスGの成形に適した粘度となるように冷却される。例えば、熔融ガラスGは、1200℃付近まで冷却される。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法により熔融ガラスGが成形される。具体的には、成形装置42に流入した熔融ガラスGは、成形炉(図示せず)の内部に設置されている成形体52に供給される。成形体52は、耐火レンガによって成形され、楔状の断面形状を有する。成形体52の上面には、成形体52の長手方向に沿って溝が形成されている。熔融ガラスGは、成形体52の上面の溝に供給される。溝から溢れた熔融ガラスGは、成形体52の一対の側面を伝って下方へ流下する。成形体52の側面を流下した一対の熔融ガラスGは、成形体52の下端で合流して、ガラスリボンGRが連続的に成形される。ガラスリボンGRは下方へ流れるに従って徐々に冷却され、その後、所望の長さのガラスシートに切断される。
【0035】
(2)清澄管の構成
次に、清澄管41の詳細な構成について説明する。図3は、清澄管41の外観図である。図4は、清澄管41の長手方向に沿って、清澄管41を垂直に切断した断面図である。清澄管41は、例えば、0.5mm〜1.5mmの厚みを有し、300mm〜500mmの内径を有する。清澄管41には、通気管41a、および、一対の加熱電極41bが取り付けられている。清澄管41の内部では、気相空間41cが上方に形成されている状態で熔融ガラスGが流れる。すなわち、清澄管41の内部には、図4に示されるように、熔融ガラスGの液面LSが存在する。通気管41aの内部空間は、気相空間41cと連通している。また、一対の加熱電極41bの間に電流を流すことで、清澄管41が通電加熱される。これにより、清澄管41の内部を通過する熔融ガラスGが加熱されて清澄される。熔融ガラスGの清澄過程において、熔融ガラスG中に含まれるCO2、N2、SO2等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスGの液面LSに浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、清澄管41内の気相空間41cに放出され、通気管41aを経由して外気に排出される。
【0036】
通気管41aは、清澄管41の外壁面に取り付けられ、清澄管41の外方に突出している。本実施形態では、図4に示されるように、通気管41aは、清澄管41の外壁面の上端部に取り付けられ、清澄管41の上方に向かって煙突状に突出している。通気管41aは、清澄管41の内部空間の一部である気相空間41cと、清澄管41の外部空間である外気とを連通している。通気管41aは、清澄管41と同様に、白金または白金合金で成形される。通気管41aは、例えば、0.5mm〜1.5mmの厚みを有し、10mm〜100mmの内径を有する。
【0037】
加熱電極41bは、清澄管41の両端部のそれぞれに取り付けられる、フランジ形状の電極板である。加熱電極41bは、電源(図示せず)と接続されている。加熱電極41bに電力が供給されることにより、一対の加熱電極41bの間の清澄管41に電流が流れ、清澄管41が通電加熱される。これにより、清澄管41は、例えば、1700℃に加熱され、清澄管41の内部を流れる熔融ガラスGは、熔融ガラスGに含まれる清澄剤であるSnO2の還元反応が起こる温度、例えば、1600℃〜1650℃に加熱される。清澄管41を流れる電流を制御することで、清澄管41の内部を流れる熔融ガラスの温度を制御することができる。
【0038】
図5は、清澄管41の側面図と、清澄管41の温度プロファイルとの対応関係を表す図である。図5の上段の図は、清澄管41の側面図である。図5の下段の図は、清澄管41の温度プロファイルを表すグラフである。清澄管41の温度プロファイルを表すグラフにおいて、横軸は、清澄管41の長手方向の位置を表し、縦軸は、清澄管41の温度を表す。
【0039】
フランジ形状を有する加熱電極41bは、高い放熱効果を有するので、清澄管41の両端部は、清澄管41の両端部の間の中間部に比べて放熱されやすい。そのため、図5に示されるように、清澄管41の両端部、すなわち、一対の加熱電極41bの近傍は、清澄管41の長手方向において最も温度が低い領域である。一方、清澄管41の中間部には、清澄管41の長手方向において最も温度が高い領域が存在する。すなわち、清澄管41の温度プロファイルは、清澄管41の両端部の温度よりも清澄管41の中間部の温度が高い傾向を示す、上に凸の形状を有している。通気管41aは、清澄管41の長手方向における、清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域Rに設けられる。図5に示されるように、最高温度領域Rは、清澄管41の温度プロファイルが最高温度を示すポイントである最高温度ポイントPの近傍の領域である。最高温度領域Rは、清澄管41の最高温度、すなわち、最高温度ポイントPにおける清澄管41の温度をTmax℃と表す場合、好ましくは、(Tmax−20)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域であり、さらに好ましくは、(Tmax−10)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域であり、特に好ましくは、(Tmax−5)℃〜Tmax℃の範囲内の温度領域である。
【0040】
なお、清澄管41の長手方向における、清澄管41の内部を通過する熔融ガラスGの温度プロファイルは、清澄管41の温度プロファイルと同じ傾向を示し、上に凸の形状を有している。熔融ガラスGの温度プロファイルのピークは、清澄管41の温度プロファイルのピークと比べて、熔融ガラスGの下流側に位置している。これは、熔融ガラスGは、清澄管41の長手方向に沿って清澄管41の内部を流れ、清澄管41と熱交換しながら流れていることに起因する。
【0041】
また、図3および図4には示されていないが、清澄管41の外壁面には、アルミナセメント等からなる耐火物保護層が設けられている。耐火物保護層の外壁面には、さらに、耐火物レンガが設けられている。耐火物レンガは、基台(図示せず)に載置されている。すなわち、清澄管41は、耐火物保護層および耐火物レンガによって下方から支持されている。
【0042】
(3)特徴
(3−1)
本実施形態に係るガラス基板製造方法では、ガラス原料を加熱して生成された熔融ガラスGは、清澄管41の内部を通過する際に加熱される。清澄管41の内部では、熔融ガラスGに添加されている清澄剤であるSnO2の酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれるCO2またはSO2を含む泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスGの温度を上げて、清澄剤を還元させることにより、酸素の泡を熔融ガラスG中に発生させる。熔融ガラスG中に含まれるCO2、N2、SO2等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスGの液面LSに浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、気相空間41cに放出され、通気管41aを経由して外気に排出される。次に、熔融ガラスGの温度を下げて、還元された清澄剤を酸化させる。これにより、熔融ガラスG中に残留している酸素の泡が、熔融ガラスGに吸収される。このように、清澄剤の酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれる泡が除去される。
【0043】
清澄管41は、白金製または白金合金製である。白金または白金合金は、融点が高く、熔融ガラスGに対する耐食性に優れているので、高温の熔融ガラスGと接触する清澄管41の材質として好適である。しかし、長期間に亘る清澄管41の使用によって、清澄管41の内壁から白金成分が徐々に揮発する。白金を含む揮発物は、熔融ガラスGに含まれる泡と共に、気相空間41cに放出されて、通気管41aを経由して外気に排出される。
【0044】
しかし、白金を含む揮発物は、通気管41aを通過する過程で温度が低下して、過飽和状態になりやすい。そのため、通気管41aの内壁には、凝固した揮発物が白金異物として付着する。そして、通気管41aの内壁に付着した白金異物は、時間の経過に伴って成長する。成長した白金異物は、自重によって通気管41aの内壁面から剥離して落下する可能性がある。また、清澄管41の保守作業時において、通気管41aの内壁面から白金異物を除去する際に、白金異物が落下する可能性がある。
【0045】
また、白金を含む揮発物は、清澄管41の気相空間41cを通気管41aに向かって通過する過程で、高温部から低温部に向かって流れて温度が低下する場合がある。この場合、気相空間41cにおいても、白金を含む揮発物が過飽和状態となりやすく、凝固した揮発物が白金異物として清澄管41の内壁に付着することがある。そして、清澄管41の内壁に付着した白金異物は、時間の経過に伴って成長して、自重によって清澄管41の内壁面から剥離して落下する可能性がある。
【0046】
本実施形態では、通気管41aは、清澄管41の長手方向において温度が最も高くなる部分、すなわち、清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられている。これにより、清澄管41内で生じた白金を含む揮発物は、気相空間41c内で最も高い温度を有する空間を経由して、通気管41aの内部に流入する。そのため、白金を含む揮発物は、気相空間41cにおいて、低温部から高温部に向かって流れて通気管41aから排出されるので、気相空間41cにおける白金を含む揮発物の過飽和状態が抑制される。これにより、清澄管41の気相空間41cにおける内壁に、白金異物が付着することが抑制される。また、通気管41aを流れるガスの温度が、できるだけ高く保持されるため、通気管41aの内壁に白金異物が付着することが抑制される。従って、清澄管41の内壁および通気管41aの内壁から白金異物が落下して、熔融ガラスGに混入することが抑制される。
【0047】
通気管41aが清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられていない場合、白金を含む揮発物は、通気管41aの内部に流入する前に、温度が低下する可能性がある。この場合、白金を含む揮発物が通気管41aの内壁において凝固して、通気管41aの内壁に白金異物が付着するおそれがある。
【0048】
また、通気管41aが清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられていない場合、清澄管41の気相空間41cにおいて、白金を含む揮発物が高温部から低温部に向かって流れる。これにより、気相空間41cにおいて、温度が低下した白金を含む揮発物が過飽和状態となり、清澄管41の内壁および通気管41aの内壁において凝固して、これらの内壁に白金異物が付着するおそれがある。
【0049】
そして、清澄管41の内壁面および通気管41aの内壁面から剥離して落下した白金異物が、熔融ガラスGに混入してしまうおそれがある。熔融ガラスGに白金異物が混入すると、製造されるガラス基板の品質欠陥となるおそれがある。本実施形態では、通気管41aが清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられることで、熔融ガラスGに白金異物が混入することが抑制され、高品質のガラス基板を高い歩留まりで量産することができる。
【0050】
(3−2)
本実施形態に係るガラス基板製造装置200は、白金製または白金合金製の清澄管41において、SnO2を清澄剤として使用する場合に、特に効果的である。近年、環境負荷の観点から、As23の替わりにSnO2が清澄剤として用いられる。SnO2を使用する場合、As23を使用する場合よりも、清澄管41において熔融ガラスGをより高温にする必要があるため、白金または白金合金の揮発の問題が顕著になる。そして、白金または白金合金の揮発が促進されると、清澄管41の内壁および通気管41aの内壁に白金異物が付着しやすくなる。
【0051】
本実施形態では、白金または白金合金の揮発が促進されて清澄管41の内壁および通気管41aの内壁に白金異物が付着しやすい状況においても、通気管41aが清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられることで、白金または白金合金の凝固が抑制されるので、熔融ガラスGに白金異物が混入することが抑制される。従って、本実施形態に係るガラス基板製造方法は、SnO2を清澄剤として使用するガラス基板の製造工程に、特に効果的である。
【0052】
(3−3)
本実施形態に係るガラス基板製造装置200は、白金製または白金合金製の清澄管41において、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のFPD用ガラス基板の製造に好適なガラス原料から生成される熔融ガラスを清澄する場合に、特に効果的である。
【0053】
清澄管41では、熔融ガラスGの粘度を、熔融ガラスGに含まれる泡が液面に浮上しやすい値に調節することにより、熔融ガラスGが清澄される。しかし、FPD用ガラス基板に好適な無アルカリガラスおよびアルカリ微量含有ガラスは、高温時において高い粘度を有する。例えば、無アルカリガラスおよびアルカリ微量含有ガラスを成形するために用いられる熔融ガラスは、粘度が102.5poiseである場合に、1500℃以上の温度を有する。そのため、清澄工程において、熔融ガラスの温度を、通常のアルカリガラスの熔融ガラスの温度に比べて高くする必要があるため、上述した白金または白金合金の揮発の問題が顕著になる。そして、白金または白金合金の揮発が促進されると、清澄管41の内壁および通気管41aの内壁に白金異物が付着しやすくなる。
【0054】
本実施形態では、白金または白金合金の揮発が促進されて清澄管41の内壁および通気管41aの内壁に白金異物が付着しやすい状況においても、通気管41aが清澄管41の温度プロファイルの最高温度領域に設けられることで、白金または白金合金の凝固が抑制されるので、熔融ガラスGに白金異物が混入することが抑制される。従って、本実施形態に係るガラス基板製造方法は、FPD用ガラス基板の製造工程に、特に効果的である。
【0055】
(4)変形例
本実施形態に係るガラス基板製造装置200では、清澄管41および通気管41aは、白金または白金合金で成形されるが、他の白金族金属で成形されてもよい。「白金族金属」は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。白金族金属は、高価であるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。
【符号の説明】
【0056】
41 清澄管
41a 通気管
41b 加熱電極
41c 気相空間
41d 受け部
200 ガラス基板製造装置
G 熔融ガラス
LS 熔融ガラスの液面
R 最高温度領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特表2006−522001号公報
図1
図2
図3
図4
図5