特許第6043556号(P6043556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043556
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/04 20060101AFI20161206BHJP
   B41J 2/155 20060101ALI20161206BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B41J2/04
   B41J2/155
   B41J2/01 401
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-200385(P2012-200385)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2013-224006(P2013-224006A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-67157(P2012-67157)
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】前坂 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 衛
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】寺門 亮
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144787(JP,A)
【文献】 特開2004−142452(JP,A)
【文献】 特開2007−210245(JP,A)
【文献】 特開2004−314361(JP,A)
【文献】 特開2003−094656(JP,A)
【文献】 特開2001−096733(JP,A)
【文献】 特開2010−264663(JP,A)
【文献】 特開2011−046061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対し印刷が実行される方向である印刷方向に複数のノズル列を備え、前記記録媒体と前記複数のノズル列とを相対的に移動させながら、画素ごとのインクのドロップ値を示す画像データに基づき、前記複数のノズル列から液滴を吐出させて印刷を実行するインクジェット印刷装置において、
前記印刷方向において前記複数のノズル列のうちの上流側のノズル列に対する画像データに基づいて、該上流側のノズル列の下流に存在する下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させるように、液滴の吐出を制御する制御手段を備え
前記制御手段は、
前記下流側のノズル列に対する画像データにおいて、ドロップ値が所定値未満の複数の画素のドロップ値を当該複数の画素よりも少数の画素における前記所定値以上のドロップ値に置き換えることで、1ノズルから吐出する1画素あたりの液滴数を増加させることにより、吐出される液滴の推進力を増大させる
ことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記所定値以上のドロップ値に置き換えた画素に対する液滴吐出タイミングを、置き換え後のドロップ数に応じて調整する
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記下流側のノズル列から前記記録媒体までの距離に応じて、前記液滴吐出タイミングを制御する
ことを特徴とする請求項に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データに基づいてノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドと媒体とが相対移動されることによって印刷されるインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、画像データに基づいてノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドと媒体とが相対移動されることによって印刷されるインクジェット印刷装置が良く知られている。
【0003】
このようなインクジェット印刷装置の中には、搬送路面上を搬送される印刷用紙の搬送方向と直交する方向に、インクを吐出する複数のインクジェットヘッドを備えたライン型のインクジェット印刷装置もある。
【0004】
ライン型のインクジェット印刷装置では、用紙搬送により気流が発生する。また、インクジェットヘッドのノズルからインクの液適を吐出することにより、インクジェットヘッドから用紙へ向かう気流が発生する。この気流を自己気流と呼ぶ。
【0005】
ここで、主走査方向に近接する複数のノズルにおいて発生する自己気流が、用紙搬送による気流を遮る壁として作用することがある。この擬似的な壁をインク壁と呼ぶ。インク壁が形成されると、用紙搬送による搬送方向の気流が、インク壁に沿ってその裏側へ回り込む気流となる。
【0006】
ところで、ライン型のインクジェット印刷装置として、主走査方向に配列された複数のノズルからなるノズル列が2列形成されたインクジェットヘッドを用いたものがある。2列のノズル列は、用紙の搬送方向に平行な副走査方向に並列して配置される。
【0007】
このようなライン型のインクジェット印刷装置において、用紙の搬送方向における上流側のノズル列からのインクの吐出によりインク壁が形成されると、インク壁の裏側へ回り込んだ気流により、下流側のノズル列から吐出されたインクの着弾ずれが発生することがある。インクの着弾ずれは、印刷画質の低下を招く。
【0008】
気流の影響による着弾ずれを抑える技術としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1の技術では、滴量が異なる複数種類の液滴を吐出する場合に、滴量が少なく気流の影響を受けやすい液滴ほど吐出速度を大きくすることで、着弾ずれを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−173178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術では、上述したインク壁の裏側へ回り込んだ気流によるインクの着弾ずれは考慮されておらず、これによる印刷画質の低下には対処できない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、印刷画質の低下を抑制できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、記録媒体に対し印刷が実行される方向である印刷方向に複数のノズル列を備え、前記記録媒体と前記複数のノズル列とを相対的に移動させながら、画像データに基づき、前記複数のノズル列から液滴を吐出させて印刷を実行するインクジェット印刷装置において、前記印刷方向において前記複数のノズル列のうちの上流側のノズル列に対する画像データに基づいて、該上流側のノズル列の下流に存在する下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させるように、液滴の吐出を制御する制御手段を備えたことにある。
【0013】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記制御手段は、前記下流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧の駆動波形を前記上流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧の駆動波形より前記吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形とする制御、前記下流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧を前記上流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧より前記吐出される液滴の推進力を増大させる駆動電圧とする制御、前記下流側のノズル列から吐出させる液滴を加温する制御、のうちの少なくとも1つにより、前記下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させることにある。
【0014】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴は、前記画像データは、前記複数のノズル列から多段階に液滴が吐出されるように液滴数が定められた多値データであり、前記下流側のノズル列に係る前記多値データのうち、前記液滴数が所定以下の画素に対し、該液滴数が所定以上の画素となるように前記多値データを変換する画像処理手段をさらに備え、前記制御手段は、前記画像処理手段により変換された画像データに基づいて、前記複数のノズル列からの液滴の吐出を制御することにある。
【0015】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の特徴は、前記制御手段は、前記下流側のノズル列から吐出される液滴の吐出速度に応じて、前記記録媒体に対する液滴吐出タイミングを制御することにある。
【0016】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第5の特徴は、前記制御手段は、前記下流側のノズル列から前記記録媒体までの距離に応じて、前記液滴吐出タイミングを制御することにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、印刷方向において複数のノズル列のうちの上流側のノズル列に対する画像データに基づいて、上流側のノズル列の下流に存在する下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させるように、液滴の吐出を制御するので、複数のノズル列とそれらの直下を相対的に移動される記録媒体とから生じる印刷方向上流から下流への気流が、あるノズル列からの液滴(インク滴)が吐出されることにより形成されるインク壁を回り込むように変化する場合であっても、これらの気流による液滴の着弾ずれ量を低減できる。特に下流側のノズル列に係る記録媒体への液滴の着弾ずれ量を低減できる。この結果、印刷画質の低下を抑制できる。
【0018】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴によれば、下流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧の駆動波形を上流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧の駆動波形より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形とする制御、下流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧を上流側のノズル列から液滴を吐出させるための駆動電圧より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動電圧とする制御、下流側のノズル列から吐出させる液滴を加温する制御、のうちの少なくとも1つにより、下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させるので、比較的容易に液滴の推進力を増大させることができる。
【0019】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴によれば、下流側のノズル列に係る多値データのうち、液滴数が所定以下の画素に対し、液滴数が所定以上の画素となるように多値データを変換し、この変換された多値データに基づいて、複数のノズル列からの液滴の吐出を制御するので、吐出される液滴を密集させることにより吐出方向への推進力を向上させることができる。
【0020】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の特徴によれば、下流側のノズル列から吐出される液滴の吐出速度に応じて、記録媒体に対する液滴吐出タイミングを制御することで、着弾ずれ量を低減できる。
【0021】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第5の特徴によれば、下流側のノズル列から記録媒体までの距離に応じて、液滴吐出タイミングを制御するので、下流側のノズル列から記録媒体までの距離が変動する場合においても、着弾ずれ量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置が備えるインクジェットヘッドの平面図である。
図2】(a)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置が備えるインクジェットヘッドのノズルの配置を示した図、(b)は、理想的な着弾位置の着弾ドットを示した図、(c)は、着弾ずれの様子を示した図である。
図3】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置が備えるインクジェットヘッド及びインク循環部の概略構成図である。
図4】自己気流の説明図である。
図5】インク壁付近の気流の説明図である。
図6】(a)は、インク壁の影響による着弾ずれ量を測定した実験におけるインクを吐出したノズルを示す図、(b)は、当該実験における主走査方向の着弾ずれ量を示す図、(c)は、当該実験における副走査方向の着弾ずれ量を示す図である。
図7】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置の機能構成を示す機能構成図である。
図8】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置による処理手順を示したフローチャートである。
図9】(a)は、低速用の駆動波形を示す図、(b)は、中速用の駆動波形を示す図、(c)は、高速用の駆動波形を示す図である。
図10】インクの粘度と吐出速度との関係を示す実験結果のグラフである。
図11】本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置が備えるインクジェットヘッド及びインク循環部の概略構成図である。
図12】(a)は、変換前の画像データの一例を示す図、(b),(c)は、変換後の画像データの例を示す図である。
図13】(a)は、ヘッドブロックの変形例を示す図、(b)は、インクジェットヘッドの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施例1では、印刷用紙の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に千鳥格子状に複数配置され、搬送方向上流側と下流側に、インクを吐出するノズル(ノズル列)が設けられたインクジェットヘッドを有し、画像データに基づいて、インクジェットヘッドの上流側ノズル及び下流側ノズルからインクを用紙に向けて吐出して画像を印刷するインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明する。
【0025】
<インクジェット印刷装置1の構成>
図1は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1が備えるインクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yの平面図である。
【0026】
インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yは、ライン型のインクジェットヘッドであり、用紙Pの搬送方向(副走査方向)に並列して配置されている。インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yは、それぞれ、シアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色のインクを吐出する。
【0027】
そして、用紙Pは、インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yの直下を副走査方向に搬送されながら、インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yからインクが吐出されることにより印刷される。ここでは、副走査方向が本願の印刷方向に対応する。
【0028】
インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yは同様の構成である。なお、色の区別が必要ない場合等に、符号における色を示すアルファベットの添え字(C,K,M,Y)を省略することがある。
【0029】
インクジェットヘッド11は、6個のヘッドブロック12を有する。6個のヘッドブロック12は、千鳥格子状に配置されている。具体的には、6個のヘッドブロック12は、主走査方向に配列され、かつ、1つおきに副走査方向における位置をずらして配置されている。
【0030】
ヘッドブロック12は、図2(a)に示すように、上流ヘッド13Aと、上流ヘッド13Aに対して用紙Pの搬送方向下流側に配置された下流ヘッド13Bとを備える。
【0031】
上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとは、同一構成のヘッドであり、それぞれ主走査方向に1列に配置された複数のノズル14からなるノズル列を有する。
【0032】
上流ヘッド13Aのノズル列(上流側のノズル列)及び下流ヘッド13Bのノズル列(下流側のノズル列)において、ノズル14は、主走査方向に所定のピッチで等間隔に配置されている。そして、上流ヘッド13Aのノズル列のノズル14と下流ヘッド13Bのノズル列のノズル14とが、主走査方向に半ピッチ分だけずれるように配置されている。これにより、主走査方向の解像度を高めている。
【0033】
上流ヘッド13A及び下流ヘッド13Bには、各ノズル14に対応するインク室(図示せず)が設けられている。インク室内にはピエゾ素子が配置されている。このピエゾ素子に駆動電圧が印加されることにより、インク室に連通するノズル14からインクが吐出される。
【0034】
上流ヘッド13A及び下流ヘッド13Bのインク室には、図3に示すインク循環部20によりインクが供給される。インク循環部20は、インクを循環させつつ、インクジェットヘッド11にインクを供給するものである。
【0035】
インク循環部20は、上流タンク21と、下流タンク22と、インクボトル23と、ポンプ24と、分配器25と、集合器26と、ヒータ27と、冷却器28と、配管29a〜29dとを備える。
【0036】
上流タンク21は、下流タンク22から送られるインクを貯留し、インクジェットヘッド11へとインクを供給する。
【0037】
下流タンク22は、インクジェットヘッド11による吐出動作で消費されなかったインクを貯留する。また、下流タンク22は、インクボトル23から供給されるインクを貯留する。
【0038】
インクボトル23は、インクジェット印刷装置1で印刷に用いるインクを保持している。インクボトル23は、下流タンク22へインクを供給する。
【0039】
ポンプ24は、下流タンク22から上流タンク21へとインクを送る。ポンプ24は、下流タンク22と上流タンク21との間の配管29cの途中に設けられている。
【0040】
分配器25は、配管29aを介して上流タンク21から供給されるインクを、各ヘッドブロック12の上流ヘッド13A及び下流ヘッド13Bに分配する。
【0041】
集合器26は、各ヘッドブロック12で吐出動作により消費されなかったインクを集める。集合器26に集められたインクは、配管29bを介して下流タンク22へと流れる。
【0042】
ヒータ27は、循環されるインクを加温する。ヒータ27は、上流タンク21と分配器25との間の配管29aの途中に設けられている。
【0043】
冷却器28は、循環されるインクを冷却する。冷却器28は、下流タンク22と上流タンク21との間の配管29cの途中に設けられている。
【0044】
配管29aは、上流タンク21と分配器25とを接続する。配管29bは、集合器26と下流タンク22とを接続する。配管29cは、上流タンク21と下流タンク22とを接続する。配管29dは、インクボトル23と下流タンク22とを接続する。
【0045】
図3に示すように、インクジェットヘッド11の各上流ヘッド13Aには、上流ヘッド13Aにおけるインク温度を検出する温度計30が設置されている。また、各下流ヘッド13Bには、下流ヘッド13Bにおけるインク温度を検出する温度計31が設置されている。温度計30,31により検出されたインク温度に基づき、インク循環部20のヒータ27および冷却器28による温度調整が行われる。
【0046】
ここで、インクジェットヘッド11からのインクの吐出による気流について説明する。
【0047】
図4に示すように、インクジェットヘッド11のヘッドブロック12からインクの液滴41が吐出されることで、自己気流W1が発生する。自己気流W1は、ヘッドブロック12から用紙Pへ向かう気流である。また、用紙Pの搬送により、搬送方向の気流W2が発生する。
【0048】
ここで、ノズル列における近接する複数のノズル14から連続してインクの液滴41が吐出されることで、複数のノズル14に対応する自己気流W1が、気流W2を遮るインク壁を形成することがある。
【0049】
図5に示すように、インク壁42が形成されると、気流W2は、インク壁42に沿ってその裏側(下流側)へ回り込む。これにより、気流W2は、インク壁42の裏側において、主走査方向における両端から中央側へと向かう。上流ヘッド13Aのノズル列からのインク吐出によりインク壁42が形成されると、図5に示したようなインク壁42の裏側における気流W2により、下流ヘッド13Bのノズル列から吐出されるインク液滴の飛翔軌道が中央側へと曲げられる。
【0050】
上記のような気流W2により、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出されたインクの液滴の飛翔軌道が、図2(a)のX1方向及びX2方向に曲げられると、図2(b)に示した理想的な着弾位置に対し、図2(c)のような着弾ずれが生じる。図2(b),(c)において、黒の塗りつぶしのドットは、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出されたインクの液滴による着弾ドットを示す。斜線のハッチングのドットは、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出されたインクの液滴による着弾ドットを示す。
【0051】
上述したインク壁の影響による理想的な着弾位置からの着弾ずれ量を測定した実験結果を図6に示す。図6(a)において、上流ヘッド13Aにおける図中の両端のノズル14a,14cの間の各ノズル14、及び、下流ヘッド13Bにおける図中の両端のノズル14d,14fの間の各ノズル14が、この実験でインクを吐出したノズルである。この実験では、上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとでインクの吐出速度は同等である。
【0052】
上流ヘッド13Aの図6(a)中の両端のノズル14a,14c及び中央のノズル14bにおける主走査方向の着弾ずれ量、及び、下流ヘッド13Bの図6(a)中の両端のノズル14d,14f及び中央のノズル14eにおける主走査方向の着弾ずれ量を、図6(b)に示す。また、上流ヘッド13Aの図6(a)中の全ノズル14における副走査方向の着弾ずれ量の平均値、及び、下流ヘッド13Bの図6(a)中の全ノズル14における副走査方向の着弾ずれ量の平均値を、図6(c)に示す。図6(b),(c)は、ノズル列(吐出面)と用紙との間の距離を変更しつつ測定した着弾ずれ量を示す。図6(b),(c)における着弾ずれ量は、上流ヘッド13Aのノズル列からのインク吐出によりインク壁が形成された定常状態における着弾ずれ量である。
【0053】
図6(b)に示すように、主走査方向において、下流ヘッド13Bの図6(a)中の両端のノズル14d,14fから吐出された液滴の着弾位置が大きくずれている。
【0054】
一方、図6(c)に示すように、副走査方向においては、上流ヘッド13A及び下流ヘッド13Bでほぼ同等の着弾ずれが生じている。
【0055】
そのため、上述したように、インク壁の裏側に回りこむ気流の影響により、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出された液滴は、X1方向及びX2方向において理想的な着弾位置からずれた位置に着弾していると推測できる。
【0056】
そこで、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1では、インクジェットヘッド11の上流側のノズル(列)に対応する画像データに基づき、下流側のノズル(列)から吐出される液滴の推進力を上流側のノズル(列)よりも増大させるように、これらのノズル(列)からのインク滴(液滴)の吐出を制御する。より詳細には、インクジェットヘッド11のうち上流側のノズル(列)、および下流側のノズル(列)からのインク滴の吐出をそれぞれ独立制御し、上流側のノズル(列)から吐出されるインク滴によりインク壁が生じる場合には、そのインク壁により着弾位置に影響を受ける下流側のノズル(列)から吐出されるインク滴の推進力を増大させることにより、気流の影響により発生する下流側のノズルから吐出される液滴の着弾ずれ量を低減する。
【0057】
<インクジェット印刷装置1の機能構成>
図7は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の機能構成を示す機能構成図である。
【0058】
図7に示すようにインクジェット印刷装置1は、画像読取部2と、給紙部3と、印刷部4と、排紙部5と、操作パネル部6と、制御部7と、RAM71と、ROM72とを備える。
【0059】
画像読取部2は、インクジェット印刷装置1の上部に設けられ、スキャナ等の装置によって被複写物である原稿を光電的に読み取り、画像データを生成する。
【0060】
給紙部3は、図示しない給紙台に積層載置された用紙(記録媒体)Pを1枚ずつピックアップして搬送し、斜行補正するとともに所定のタイミングで印刷部4に供給する。
【0061】
印刷部4は、上述したインクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yと、インクジェットヘッド11C,11K,11M,11Yに対応するインク循環部20C,20K,20M,20Yとを備える。また、印刷部4は、給紙部3から供給された用紙Pをインクジェットヘッド11へ搬送する搬送部51を備える。印刷部4は、搬送部51により用紙Pを搬送しつつ、インクジェットヘッド11により用紙Pへインクを吐出することにより画像を印刷する。
【0062】
排紙部5は、印刷部4により印刷された用紙Pを排紙する。
【0063】
操作パネル部6は、インクジェット印刷装置1の上部に設けられ、表示/入力パネル61と、印刷等を開始させるためのスタートキー、印刷等を停止させるためのストップキー、印刷枚数等を入力するためのテンキー(いずれも図示せず)等の各種操作キーとを備え、利用者操作に基づく操作信号を制御部7に供給する。
【0064】
操作パネル部6の表示/入力パネル61は、前面に配置された感圧式あるいは静電式の透明なタッチパネルと、このタッチパネルの裏面に配置された液晶表示パネル(いずれも図示せず)とを有している。利用者は、液晶表示パネルの表示画面を見ながら、タッチパネルの表面を指などで直接触れることで各種の設定入力操作等を行うことができる。
【0065】
RAM71は、揮発性半導体等で構成され、制御部7が各種処理を実行する上で必要なデータ等を記憶する。
【0066】
ROM72は、不揮発性半導体等で構成され、制御部7が実行する各種制御プログラム等を記憶している。
【0067】
制御部7は、その機能上、画像処理部75と、判定部76と、機器制御部77とを備えている。
【0068】
画像処理部75は、画像読取部2で生成された画像データをハーフトーン処理して、インクジェットヘッド11での印刷に対応する形式の画像データである、多値のドロップデータ(例えば、ドロップ値[0〜5])を生成する。なお、インクジェット印刷装置1に外部の端末から入力される画像データによる印刷を行う場合、画像処理部75は、その画像データに基づきドロップデータを生成する。
【0069】
判定部76は、インクジェットヘッド11の上流側のノズル列からのインクの吐出が、下流側のノズル列から吐出されるインク滴の着弾位置に影響を及ぼすか否かを判定する。より具体的には、判定部76は、インクジェットヘッド11の上流側のノズル列からのインクの吐出によりインク壁が形成されるか否かを、ドロップデータから判定する。
【0070】
機器制御部77は、画像読取部2、給紙部3、印刷部4、排紙部5、操作パネル部6を制御する。
【0071】
機器制御部77は、判定部76において、上流側のノズル列からのインクの吐出によりインク壁が形成されると判定された場合に、インクジェットヘッド11の上流側のノズルより下流側のノズルから吐出される液滴の推進力を増大させるように、インクジェットヘッド11の上流側のノズルと下流側のノズルとをそれぞれ独立制御する。具体的には、機器制御部77は、上流ヘッド13Aのノズル1つ1つについて個別に制御すると共に、下流ヘッド13Bのノズル1つ1つについて個別に制御する。
【0072】
<インクジェット印刷装置1の作用>
次に、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の作用について説明する。
【0073】
図8は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1による処理手順を示したフローチャートである。
【0074】
図8に示すように、制御部7は、印刷が要求されたか否かを判定する(ステップS101)。具体的には、制御部7は、利用者の操作により操作パネル部6から、印刷処理を要求する操作信号が供給されたか否かを判定する。
【0075】
ここで、印刷が要求された場合、機器制御部77は、画像読取部2に原稿の画像を読み取らせる。そして、画像処理部75が、画像読取部2で生成された画像データに基づきドロップデータを生成する。
【0076】
ステップS101において、印刷が要求されたと判定された場合(YESの場合)、制御部7の判定部76は、ドロップデータに基づき、上流ヘッド(上流側ヘッド)13Aの隣り合う所定数のノズル(例えば、60ノズル)が同時吐出するか否かを判定する(ステップS103)。
【0077】
ステップS103において、上流ヘッド13Aの隣り合う所定数のノズルが同時吐出しないと判定された場合(NOの場合)、制御部7の機器制御部77は、通常の印刷条件を設定する(ステップS105)。具体的には、機器制御部77は、インクジェットヘッド11の上流側のノズル及び下流側のノズルから吐出される液滴の推進力を同じにするように(意図的に変化させることなく)、インクジェットヘッド11の上流側のノズルと下流側のノズルからのインク滴の吐出をそれぞれ制御する。
【0078】
一方、ステップS103において、上流ヘッド13Aの隣り合う所定数のノズルが同時吐出すると判定された場合(YESの場合)、制御部7の判定部76は、ドロップデータに基づき、印字率が閾値(例えば、80%)以上であるか否かを判定する(ステップS107)。
【0079】
ステップS107において、印字率が閾値以上であると判定された場合、制御部7の判定部76は、ドロップデータに基づき、副走査方向(印刷方向)に所定長(例えば、10mm)に相当する画素分以上吐出するか否かを判定する(ステップS109)。
【0080】
具体的には、ステップS103、S107、S109の処理の条件を満たすと、上流ヘッド13Aから吐出されたインクでインク壁が形成される。
【0081】
上述したように、用紙Pが搬送されることに伴い、搬送方向(印刷方向)に気流W2が発生し、この気流W2は、図5に示したように、インク壁42にその進路が遮られる。よって、気流W2は、インク壁42の裏側に主走査方向両側から回り込む気流へと変化する。
【0082】
そのため、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出された液滴は、X1方向及びX2方向に押されるような気流を受けることになる。
【0083】
そこで、本発明の実施例1では、ステップS103、S107、S109の処理の条件を満たさない場合、インク壁は発生せず、下流ヘッド13Bからのインク滴の着弾位置への影響は比較的小さいと判定して、ステップS105の処理を実行する。ステップS103,S107,S109およびステップS105の処理は、色ごとに行われる。後述のステップS111についても同様である。
【0084】
一方、ステップS109において、副走査方向に所定長に相当する画素分以上吐出すると判定された場合(YESの場合)、制御部7の機器制御部77は、推進力向上制御の印刷条件を設定する(ステップS111)。具体的には、機器制御部77は、下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形を、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形となるように制御する。
【0085】
図9は、上流ヘッド13A、下流ヘッド13Bへ印加する駆動電圧の駆動波形の一例を示した図である。図9(a)は、低速用の駆動波形を示しており、図9(b)は、中速用の駆動波形を示しており、図9(c)は、高速用の駆動波形を示している。
【0086】
図9(a)に示すように、上流ヘッド13A、下流ヘッド13Bから低速の吐出速度で吐出させる場合、制御部7の機器制御部77は、インク室を収縮させる正電圧パルスV1をt2時点からt5時点までの間、印加する。
【0087】
また、図9(b)に示すように、上流ヘッド13A、下流ヘッド13Bから中速の吐出速度で吐出させる場合、制御部7の機器制御部77は、1ドロップについて、吐出を勢い付けるためにインク室を膨張させる負電圧パルスV2をt1時点からt2時点までの間印加した後、インク室を収縮させる正電圧パルスV1をt4時点からt5時点までの間印加する。
【0088】
さらに、図9(c)に示すように、上流ヘッド13A、下流ヘッド13Bから高速の吐出速度で吐出させる場合、制御部7の機器制御部77は、1ドロップについて、吐出を勢い付けるためにインク室を膨張させる負電圧パルスV2をt1時点からt2時点までの間印加した後、インク室を収縮させる正電圧パルスV1をt4時点より早いタイミングであるt3時点からt5時点までの間印加する。
【0089】
このように、制御部7の機器制御部77は、駆動波形を変更することにより、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の速度が、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出される液滴の速度より速くなるように制御することができる。
【0090】
例えば、制御部7の機器制御部77は、下流ヘッド13Bに印加する駆動電圧の駆動波形を図9(b)に示した中速の駆動波形として印刷条件を設定し、上流ヘッド13Aに印加する駆動電圧の駆動波形を図9(a)に示した低速の駆動波形として印刷条件を設定する。
【0091】
なお、機器制御部77は、上流ヘッド13Aによるインクの吐出により生じるインク壁によって着弾位置に影響が生じる下流ヘッド13Bのノズル14の一部に対し図9(b)に示した中速の駆動波形として印刷条件を設定し、上流ヘッド13Aも含めた残りのノズルに対し図7(a)に示した低速の駆動波形として印刷条件を設定するようにしてもよい。すなわち、各ノズル毎にインク壁による影響を受けるか否かを判定し、各ノズル毎に独立してインク滴の吐出を制御してもよい。
【0092】
このようにして、制御部7の機器制御部77は、下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形を、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形となるように設定し、インク滴の吐出を制御する。
【0093】
図8に戻り、制御部7の機器制御部77は、ステップS105又はステップS111において設定された印刷条件に基づいて、印刷処理を実行する(ステップS113)。
【0094】
印刷処理を開始すると、機器制御部77は、インク循環部20のポンプ24を駆動させてインクを循環させる。ここで、温度計30,31により検出されたインク温度から、インクの温度が適正温度範囲内ではないと判断した場合、機器制御部77は、インクを循環させつつ、ヒータ27および冷却器28によりインク温度の調整を行わせる。
【0095】
また、機器制御部77は、給紙部3を制御して印刷部4へ給紙させる。そして、機器制御部77は、印刷部4において用紙Pを搬送させつつ、ドロップデータに基づきインクジェットヘッド11からインクを吐出させる。
【0096】
ステップS111において推進力向上制御の印刷条件を設定した場合、その設定に従い、機器制御部77は、上流ヘッド13Aおよび下流ヘッド13Bへ印加する駆動波形を制御する。
【0097】
この際、機器制御部77は、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出されるインクの吐出速度に応じて、インク吐出タイミングを制御する。具体的には、機器制御部77は、インク滴が適切な位置に着弾するように、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の速度を速くした分だけ、インク滴を吐出するタイミングを遅くするように制御する。
【0098】
これにより、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の速度と、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出される液滴の速度が異なっていても、適切な位置に液滴を着弾させることができる。
【0099】
以上のように、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1によれば、上流ヘッド13Aからのインク吐出によりインク壁が形成されると判定した場合、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の速度(推進力)を、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出される液滴の速度より大きくするので、インク壁の裏側に回り込む気流の影響を低減できる。これにより、下流ヘッド13Bからのインクの着弾ずれ量を低減できる。この結果、印刷画質の低下を抑制できる。
【0100】
なお、本発明の実施例1では、下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形を、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形となるように制御するインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明したがこれに限らない。
【0101】
下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧を、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動電圧となるように制御するようにしてもよい。
【0102】
例えば、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧をV1(V)とすると、下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧を、1.2V1(V)として、印刷条件を設定する。
【0103】
これにより、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の推進力が増大される、即ち、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の速度が、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出される液滴の速度より速くなる。
【0104】
また、吐出速度を制御する単位はノズル列に限らない。ノズル列内の1つ1つのノズルについて独立して制御するようにしてもよい。
【0105】
また、インクジェット印刷装置1が、ヘッドギャップの調整が可能な構成である場合、機器制御部77は、ヘッドギャップに応じて、吐出タイミングを決定する。ヘッドギャップは、インクジェットヘッド11の吐出面から用紙P(の表面)までの距離である。ヘッドギャップが長い程、着弾までの時間を要するので、機器制御部77は、その分吐出するタイミングを早くするように制御する。
【実施例2】
【0106】
本発明の実施例1では、下流ヘッド13Bのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形を、上流ヘッド13Aのノズル14からインクを吐出させるために印加する駆動電圧の駆動波形より吐出される液滴の推進力を増大させる駆動波形となるように制御するインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明したがこれに限らない。
【0107】
本発明の実施例2では、下流ヘッド13Bのノズル列から吐出させるインクの加温により、吐出されるインクの液滴の推進力を増大させる。
【0108】
インクの温度が高くなると、インクの粘度が小さくなる。図10は、インクの粘度とインクの吐出速度との関係を示す実験結果のグラフである。図10に示すように、インクの粘度が小さくなると、吐出速度が大きくなる。そこで、実施例2では、インクの加温により、吐出速度を大きくして、インクの液滴の推進力を大きくする。
【0109】
実施例2では、図11に示すように、各下流ヘッド13Bにインクを加温する加温器55が設置されている。なお、図11において、図3と同様の構成には同一の符号を付している。
【0110】
上流ヘッド13Aからのインクの吐出によりインク壁が形成されると判定された場合、機器制御部77は、加温器55により下流ヘッド13B内のインクが上流ヘッド13A内のインクより高温になるように加温させる。
【0111】
これにより、下流ヘッド13Bのノズル14から吐出される液滴の吐出速度が、上流ヘッド13Aのノズル14から吐出される液滴の吐出速度より速くなる。ここで、機器制御部77は、実施例1と同様に、下流ヘッド13Bから吐出される液滴の速度を速くした分だけ、インク滴を吐出するタイミングを遅くする。
【0112】
このようにしても、上流ヘッド13Aからのインク吐出によりインク壁が形成されても、インク壁の裏側へ回り込む気流の影響による、下流ヘッド13Bからのインクの液滴の着弾ずれ量を低減できる。この結果、印刷画質の低下を抑制できる。
【0113】
なお、実施例2においても、ヘッドギャップが調整可能である場合、機器制御部77は、ヘッドギャップに応じて、吐出タイミングを決定する。
【0114】
また、プリカーサにより下流ヘッド13B内のインクを加温してもよい。プリカーサは、インク吐出が行われない程度にピエゾ素子を駆動させる動作である。プリカーサにより、インク室内のインク温度が上昇する。この場合、機器制御部77は、吐出動作の開始前に、プリカーサにより下流ヘッド13B内のインクを加温する。
【0115】
また、実施例1における駆動波形の制御、および駆動電圧の制御と、実施例2のインクの加温とを組み合わせてもよい。これらのうちの少なくともいずれか1つを用いればよい。
【実施例3】
【0116】
本発明の実施例3では、判定部76の判定結果に基づき、下流ヘッド13Bから吐出する液滴の液滴数が少ない画素について液滴数を増加させるように画像データ(ドロップデータ)を変換し、この変換された画像データに基づいて、上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとをそれぞれ独立制御するインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明する。
【0117】
図12は、本発明の実施例3であるインクジェット印刷装置1における画像データの変換を説明した図である。図12(a)は、変換前の画像データの一例を示しており、図12(b),(c)は、変換された画像データの一例を示している。なお、図1図3に示したインクジェットヘッド及びインク循環部の構成、図7に示した機能構成については、同一であるので説明を省略する。
【0118】
例えば、図12(a)に示すように、3画素×3画素の単位面積部分において、1ドロップデータが5箇所に発生し、全体として5ドロップ分の濃度を有しているとする。
【0119】
ここで、ドロップ値が1又は2の場合、吐出されたインク滴は疎であるから気流の影響を受けやすく、当然に上流ヘッド13Aからインクが連続吐出されることにより形成されるインク壁の裏側に回り込む気流の影響をも受けやすい。
【0120】
そこで、本発明の実施例3であるインクジェット印刷装置1では、上流ヘッド13Aからの吐出によりインク壁が発生する場合であって、下流ヘッド13Bから吐出させる画像データのドロップ値が1又は2の場合、単位面積部分における濃度を確保しつつ、ドロップ値を、例えば3以上に増加させるように画像データを変換する。
【0121】
例えば、図12(b)に示すように、制御部7の画像処理部75は、中央部分の単位面積部分に5ドロップデータを位置させ、その他の単位面積部分については、ドロップデータが0として、全体として5ドロップ分の濃度を確保した画素パターンに置換する。
【0122】
また、画像処理部75は、例えば、誤差拡散法のように、左上の画素から順に右方向で、上から下へと各画素と閾値とを比較しつつ、前の画素で発生した誤差を次の誤差に足していき、図12(c)に示すように、5ドロップが蓄積された画素に5ドロップデータを位置させるようにしてもよい。
【0123】
そして、制御部7の機器制御部77は、画像処理部75により変換された画像データに基づいて、上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとをそれぞれ独立制御する。
【0124】
このように、本発明の実施例3であるインクジェット印刷装置1によれば、下流ヘッド13Bから吐出する液滴の液滴数が少ない画素について液滴数を増加させるように画像データを変換し、この変換された画像データに基づいて、上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとをそれぞれ独立制御するので、下流ヘッド13Bから吐出される液滴は大きいドロップ値の液滴に変換され、液滴が密集されるため、上流ヘッド13Aからのインク吐出によりインク壁が形成されても、インク壁の裏側へ回り込む気流の影響による、下流ヘッド13Bからのインクの液滴の着弾ずれ量を低減できる。この結果、印刷画質の低下を抑制できる。
【0125】
また、本発明の実施例3であるインクジェット印刷装置1によれば、駆動電圧や駆動波形を変更することなく、上流ヘッド13Aと下流ヘッド13Bとをそれぞれ独立制御するので、消費エネルギーを低減することができる。
【0126】
なお、ドロップ値は大きいほど吐出されるインク滴が密集し、減速しにくくなるため、吐出される液滴の速度はドロップ数が小さいものに比べて相対的に速くなる。そのため、機器制御部77は、下流ヘッド13Bから吐出される液滴のドロップ数に基づく吐出速度に応じて、インク吐出タイミングを制御する。具体的には、機器制御部77は、適切な位置に着弾するように、ノズル14から吐出される液滴の速度を速くした分だけ(ドロップ数を増加した分だけ)、吐出するタイミングを遅くするように制御する。
【0127】
これにより、ドロップ数の違いにより、下流ヘッド13Bから吐出される液滴の速度と、上流ヘッド13Aから吐出される液滴の速度が相対的に異なっていても、適切な位置に液滴を着弾させることができる。
【0128】
また、実施例3においても、ヘッドギャップが調整可能である場合、機器制御部77は、ヘッドギャップに応じて、吐出タイミングを決定する。
【0129】
なお、本発明の実施例1〜3では、ステップS103、S107、S109の処理の条件を満たす場合、上流ヘッド13Aからのインク吐出により形成されるインク壁に遮られることにより、このインク壁の裏側に回り込む気流による着弾位置への影響が大きいと判定して、推進力向上制御の印刷条件を設定したが、これに限らない。ステップS103、S107、S109の処理の条件を満たさない場合においても、推進力向上制御の印刷条件を設定するようにしてもよい。
【0130】
また、本発明の実施例1〜3では、用紙Pの搬送方向上流側のノズルが設けられ、ノズルが主走査方向に1列に配置された上流ヘッドと、用紙Pの搬送方向下流側のノズルが設けられ、ノズルが主走査方向に1列に配置された下流ヘッドとの組み合わせが、副走査方向に千鳥格子状になるように2列に配置されたインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明したが、これに限らない。
【0131】
例えば、図13(a)に示すように、1つのヘッドブロック12に、印刷方向に2列のノズル列が配置されていてもよい。さらに、3列以上のノズル列が配置されていてもよい。
【0132】
また、インクジェットヘッド11が複数のヘッドブロック12の組み合わせではなく、図13(b)に示すように、主走査方向の一方の端部から他方の端部まで、副走査方向において1色あたり1列で配置されるようにしてもよい。
【0133】
このような場合においても、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1によれば、インクジェットヘッド11の上流側のノズル列より下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させるように、インクジェットヘッド11の上流側のノズル列と下流側のノズル列とをそれぞれ独立制御する。これにより、下流ヘッド13Bから吐出される液滴の推進力が、上流ヘッド13Aから吐出される液滴の推進力より増大されるので、形成されたインク壁を回り込む気流にかかわらず、上流側及び下流側いずれのノズルから吐出された液滴も適切な位置に着弾させることができ、印刷ムラやかすれのない良好な印刷物を生成することができる。
【0134】
なお、本発明の実施例1〜3では、制御部7は、利用者の操作により操作パネル部6から、印刷処理を要求する操作信号が供給された場合、印刷が要求されたと判定したが、これに限らず、例えば、ネットワークを介して接続された端末から印刷ジョブを受信した場合に、印刷が要求されたと判定するようにしてもよい。
【0135】
また、本発明の実施例1〜3において、制御を簡便にするため、イエロー(Y)のインクジェットヘッド11Yに対しては、下流側のノズル列から吐出される液滴の推進力を増大させる制御の対象外としてもよい。イエロー(Y)は視認しにくく、着弾位置がずれたとしても目立たず、印刷品質に問題を起こさない場合が多いからである。
【0136】
また、本発明の実施例1〜3では、搬送路面上を搬送される用紙Pの搬送方向と直交する方向に、インクを吐出する複数のインクジェットヘッド11を備えたライン型のインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明したが、これに限らず、インクジェットヘッド11が主走査方向に移動しながら副走査方向に間欠的に搬送される用紙Pに印刷するシリアル型のインクジェット印刷装置にも、もちろん適用できる。シリアル型のインクジェット印刷装置の場合であっても、インクジェットヘッド11が移動されることで発生する気流が、印刷方向において上流側のノズル列から吐出されるインク壁を回り込む気流へと変化し、下流側のノズル列から吐出されたインク滴の着弾位置に影響を及ぼすからである。なお、シリアル型のインクジェット印刷装置の場合、インクジェットヘッド11が移動する方向、すなわち主走査方向が本願の印刷方向に対応する。
【0137】
以上より、印刷方向にインクを吐出する複数のノズル列を備え、複数のノズル列と記録媒体とを相対移動しながら、画像データに基づいて媒体に印刷するインクジェット印刷装置であれば、どのようなインクジェット印刷装置でも、本発明に係る技術を適用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1…インクジェット印刷装置
2…画像読取部
3…給紙部
4…印刷部
5…排紙部
6…操作パネル部
7…制御部
11C,11K,11M,11Y…インクジェットヘッド
12…ヘッドブロック
13A…上流ヘッド
13B…下流ヘッド
14…ノズル
20C,20K,20M,20Y…インク循環部
55…加温器
61…表示/入力パネル
71…RAM
72…ROM
75…画像処理部
76…判定部
77…機器制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13