特許第6043564号(P6043564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043564
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火プラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20161206BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01T13/20 E
   H01T13/20 B
   F02P13/00 301J
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-215663(P2012-215663)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-71976(P2014-71976A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青地 高伸
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 基正
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信男
(72)【発明者】
【氏名】村山 勇樹
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−068421(JP,A)
【文献】 特開平11−003765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略柱状の中心電極(1)と、該中心電極(1)を内側に保持する貫通孔(22)を有する略筒状の絶縁碍子(2)と、該絶縁碍子(2)を内側に保持する略筒状のハウジング(3)と、上記中心電極(1)の先端に貴金属チップ(10)を配設すると共に、上記ハウジング(3)に延設して、上記貴金属チップ(10)と所定の放電ギャップを設けて対向する接地電極(32)とからなる内燃機関用の点火プラグの製造方法であって、
少なくとも、上記中心電極(1)の先端に略円柱状に突出する台座部(11)を設けて、該台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との境界部にレーザ光(LSR)を照射して溶接部(110)を形成して上記貴金属チップ(10)を上記中心電極(1)の先端に固定する貴金属チップ溶接工程を具備し、
該貴金属チップ溶接工程において、
上記貴金属チップ(10)と上記溶接部(110)との境界面を先端側境界面(P)とし、上記溶接部(110)と上記台座部(11)、又は、上記中心電極(1)の先端側で上記絶縁性碍子(2)の先端から露出し、先端側に向かって縮径する中心電極露出部傾斜面(12)との境界面を基端側境界面(P)とし、
上記台座部(11)の外周側面の全部又は一部が先端に向かって縮径するように上記先端側境界面(P)と上記基端側境界面(P)とを結ぶ直線に沿って、又は、上記直線の外側にはみ出さないように、台座部傾斜面(T)を設け、該台座部傾斜面(T)にレーザ光を照射して上記溶接部(110)を形成することを特徴とする内燃機関用点火プラグの製造方法。
【請求項2】
上記台座部傾斜面(T)と上記中心電極(1)の中心軸に垂直な平面との仰角(θ)が、55°以上70°以下である請求項1に記載の内燃機関用点火プラグの製造方法。
【請求項3】
上記溶接部(110)を形成する位置におけるレーザ光のビーム径が50μm以上1000μm以下である請求項1又は2に記載の内燃機関用点火プラグの製造方法。
【請求項4】
上記先端側境界面(P)が、上記台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との当接境界面から先端側に向かって軸方向に0.3mm以下の範囲にあり、
上記基端側境界面(P)が、上記台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との当接境界面から基端側に向かって軸方向に0.15mm以上0.45mm以下の範囲にある請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関用点火プラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火プラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の点火には中心電極と接地電極との間に高電圧を印加してアーク放電を発生させる点火プラグが広く用いられている。
近年、中心電極、又は、接地電極の少なくともいずれか一方に、耐熱性の高い貴金属チップを溶融固着することによって、耐久性の向上と、飛び火性、着火性の向上とを図っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電極の先端部に貴金属チップを備えた内燃機関用点火プラグにおいて、貴金属チップのCrの含有添加量を7重量%以上30重量%以下とし、残部の主成分をIrとすることにより、溶接部の耐酸化消耗性能の向上を図った内燃機関用点火プラグが開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、このような中心電極の先端に貴金属チップをレーザ溶接によって溶融固着する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1にあるような、貴金属チップの溶接部は、耐酸化性能に優れている反面、耐火花消耗性が劣るとされている。
このため、低負荷運転等、燃焼室内に発生する気流によって放電アークが引っ張られ、貴金属チップの溶接部を起点として放電する、いわゆる飛び火が起こり易い運転条件では、貴金属チップ溶接部において火花消耗する虞がある。
【0006】
また、特許文献2にあるように、貴金属チップを中心電極の先端に設けた略円筒状の台座部にレーザ溶接によって溶接した場合に、台座部の外周稜線上では、レーザ光の散乱が起こり、照射したエネルギ吸収され難く、不十分な溶融状態となり、溶接部に外径側に向かって膨らんだ凸部が残ったり、これとは逆に、溶接部に角部が残らないようにするため、過剰なエネルギが照射された場合には、溶接部が中心に向かって大きく窪んだエグレを生じたりする虞がある。
台座部の溶融が不十分で、溶接部に外径方向に膨らんだ凸部が存在すると、そこに電界集中が起こり、その部分を起点とした放電が起こり易くなり、貴金属チップに比べてさらに耐火花消耗性の低い溶接部での火花消耗を招く虞がある。
また、過剰なエネルギ照射により溶接部にエグレを生じた場合には、溶接部端縁において溶接ビートの局所的な盛り上がりを生じ、その部分に電界集中が起こり、溶接部での飛び火を誘発し、火花消耗を招く虞がある。さらに、エグレ部分が細くなるため、強度面での信頼性も低下する。
【0007】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、先端に貴金属チップを設けた内燃機関用点火プラグの製造において、溶接部に凸部やエグレが発生し難い製造方法を提供すると共に、溶接部での放電が起こり難く、耐久性、信頼性の高い内燃機関用点火プラグを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明では略柱状の中心電極(1)と、該中心電極(1)を内側に保持する貫通孔(22)を有する略筒状の絶縁碍子(2)と、該前縁碍子(2)を内側に保持する略筒状のハウジング(3)と、上記中心電極(1)の先端に貴金属チップ(10)を配設すると共に、上記ハウジング(3)に延設して、上記貴金属チップ(10)と所定の放電ギャップを設けて対向する接地電極(32)とからなる内燃機関用の点火プラグの製造方法であって、少なくとも、上記中心電極(1)の先端に略円柱状に突出する台座部(11)を設けて、該台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との境界部にレーザ光(LSR)を照射して溶接部(110)を形成して上記貴金属チップ(10)を上記中心電極(1)の先端に固定する貴金属チップ溶接工程を具備し、該貴金属チップ溶接工程において、上記貴金属チップ(10)と上記溶接部(110)との境界面を先端側境界面(P)とし、上記溶接部(110)と上記台座部(11)、又は、上記中心電極(1)の先端側で上記絶縁性碍子(2)の先端から露出し、先端側に向かって縮径する中心電極露出部傾斜面(12)との境界面を基端側境界面(P)とし、上記台座部(11)の外周側面の全部又は一部が先端に向かって縮径するように上記先端側境界面(P1)と上記基端側境界面(P)とを結ぶ直線に沿って、又は、上記直線の外側にはみ出さないように、台座部傾斜面(T)を設け、該台座部傾斜面(T)にレーザ光を照射して上記溶接部(110)を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明では、上記台座部傾斜面(T)と上記中心電極(1)の中心軸に垂直な平面との仰角(θ)が、55°以上70°以下である。
【0010】
請求項3の発明では、上記溶接部(110)を形成する位置におけるレーザ光のビーム径が50μm以上1000μm以下である。
【0011】
請求項4の発明では、上記先端側境界面(P)が、上記台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との当接境界面から先端側に向かって軸方向に0.3mm以下の範囲にあり、上記基端側境界面(P)が、上記台座部(11)と上記貴金属チップ(10)との当接境界面から基端側に向かって軸方向に0.15mm以上0.45mm以下の範囲にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の内燃機関用点火プラグの製造方法によれば、貴金属チップ溶接部が内側に向かって滑らかに窪んだ凹面状の曲面を形成し、溶接部を起点とする放電が発生することなく、確実に貴金属チップの先端と接地電極との間で放電を発生させることができる、電極の火花消耗が抑制され、耐久性、信頼性の高い内燃機関用点火プラグを実現できる。
また、本発明の製造方法によって、貴金属チップ溶接部が内側に向かって滑らかに窪んだ凹面状の曲面に形成された内燃機関用点火プラグにおいて、絶縁碍子から露出する中心電極肩部と貴金属チップの先端までの距離を一定の範囲に規定することで、中心電極肩部における電界強度を抑制し、先端チップ溶接部を起点とする火花放電の発生を抑制できることが判明した。
さらに、中心電極肩部の傾斜角度を一定の範囲に規定することで、電界集中抑制の効果をより一層確実なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の要部を示す側面図。
図1B図1Aの上面図。
図1C図1Aの製法によって得られる溶接部の概要を示す側面図。
図1D】本発明の第1の実施形態における製造方法によって得られた点火プラグ先端の要部を示す図面代用写真。
図2A】比較例1として示す従来の燃機関用点火プラグの製造方法とその問題点を示す側面図。
図2B】比較例1の製造方法によって得られた点火プラグ先端の要部を示す図面代用写真。
図3A】比較例2として示す他の従来の燃機関用点火プラグの製造方法とその問題点を示す側面図。
図3B】比較例2の製造方法によって得られた点火プラグ先端の要部を示す図面代用写真。
図4A】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法によって得られた内燃機関点火用プラグの放電に対する効果を示す模式図。
図4B】比較例1として示す従来の製造方法によって得られた内燃機関点火用プラグの放電に対する効果を示す模式図。
図5A】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の変形例を示す側面図。
図5B】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の他の変形例を示す側面図。
図5C】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の他の変形例を示す側面図。
図6A】本発明の第2の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法を示す側面図。
図6B】本発明の第2の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の変形例を示す側面図。
図7A】比較例3として示す本発明の効果を発揮し得ない内燃機関用点火プラグの製造方法を示す側面図。
図7B】比較例3の燃機関用点火プラグの製造方法の変形例を示す側面図。
図8A】中心電極が上記絶縁碍子から露出し、先端に向かって径小となる中心電極露出部傾斜面の円錐頂角を変化させたときの効果を確認するために行った試験の条件を示し、当該角度を100°とした場合の側面図。
図8B】同じく、当該角度を120°とした場合の側面図。
図8C】同じく、当該角度を135°とした場合の側面図。
図8D図8Bの好ましい変形例を示す側面図。
図9A】横飛び発生確率に対する図10A〜10Cの試験結果を示す特性図。
図9B】中心電極肩部の電界強度に対する図10A〜10Cの試験結果を示す特性図。
図10A】絶縁碍子の先端から中心電極が縮径する中心電極肩部までの距離を変化させたときの効果を確認するために行った試験の条件を示し、当該距離を0.5mmとした場合の側面図。
図10B】同じく、当該距離を0.35mmとした場合の側面図。
図10C】同じく、当該距離を0.05mmとした場合の側面図。
図11】横飛び発生確率に対する図8A〜8Cの試験結果を示す特性図。
図12】本発明の内燃機関用点火プラグの全体概要を示す一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る内燃機関用点火プラグ6は、図12に示すように、略柱状の中心電極1と、中心電極1を内側に保持する貫通孔22を有する略筒状の絶縁碍子2と、前縁碍子2を内側に保持する略筒状のハウジング3と、ハウジング3に延設して設けられ、先端に貴金属チップ10を配設した中心電極1と所定の放電ギャップを設けて対向する接地電極32とからなる。
【0019】
中心電極1は、Ir、Cr等の貴金属を含み高耐熱性を有する貴金属チップ10と、銅、Ni、鉄等の電気伝導性の良い金属材料を用いて長軸状に形成された中心電極先端部13と、中心電極先端部13と外部との導通を図る中心電極端子部14とからなる。
中心電極先端部13が絶縁碍子2の先端部20から露出する部分には、先端に向かって所定の角度(θ)で縮径する中心電極露出部傾斜面12が形成されている。
【0020】
貴金属チップ10は、本発明の要部である後述する製造方法にしたがったレーザ溶接によって溶接固定されており、溶接部110の表面は、先端に向かって縮径する略円錐台形状傾斜平面、又は、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成している。
【0021】
絶縁碍子2は、アルミナ等の公知の高耐熱性セラミック材料が用いられ略筒状に形成され、中心に設けた貫通孔21内に中心電極1が挿通保持されている。
絶縁碍子先端部20は、図略の燃焼室に対向するように、ハウジング3の先端から露出している。
【0022】
ハウジング3は、Ni、Fe、炭素鋼、ステンレス等の耐熱性金属材料によって略筒状に形成され、内側に絶縁碍子2を収容保持し、図略の内燃機関にネジ部35によって固定される。
ハウジング3の先端側には略L字形に伸びる接地電極32が設けられ、接地電極32の中心電極1に対向する表面には接地電極側貴金属チップ30が溶接部31を介して固定されている。
【0023】
図1A図1B図1C図1Dを参照して、本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法の要部である貴金属チップ溶接工程について説明する。
図1Aに示すように、中心電極1の先端には、碍子先端部20から露出する中心電極先端部13には、先端側に向かって径小となるように縮径され、略円錐台形状をなす中心電極露出部傾斜面12が形成されている。
【0024】
中心電極露出部傾斜面12と中心電極1の中心軸に垂直な平面とのなす仰角θは30°以上となるように形成されている。
また、絶縁碍子先端部20の表面から中心電極先端部13と中心電極露出部傾斜面12との境界に位置する中心電極肩部Cまでの距離(L)は、0.2mm以下に設定されている。
【0025】
中心電極傾斜面12の先端側には、先端側に向かって略柱状(φD11×L2)に突出する台座部11が形成されている。
台座部11の先端側には、略円柱状(φD10×L1)に形成された貴金属チップ10が配設され、必要に応じて、抵抗溶接等の仮止め手段によって固定される。
さらに、中心電極肩部C1から貴金属チップ10の先端までの距離(L−L4)は、1.35mm以上に設定されている。
【0026】
台座部11の外周側面の全部、又は、一部には、先端に向かって縮径するように台座部傾斜面Tが設けられている。
台座部傾斜面Tの中心電極1の中心軸に垂直な平面に対する仰角θは、貴金属チップ10と溶接部110との境界面を先端側境界面Pとし、溶接部110と台座部11、又は、中心電極露出部傾斜面12との境界面を基端側境界面Pとし、台座部11の外周側面の全部又は一部が先端に向かって縮径するように先端側境界面Pと基端側境界面Pとを結ぶ直線に沿って、又は、この直線の外側にはみ出さない角度となるように形成されている。
【0027】
なお、台座部傾斜面Tは、予め台座部11を形成する際にテーパ加工することによって設けても良いし、貴金属チップ10を抵抗溶接によって仮止めした後、必要な溶接範囲ARWLDに合わせてトリミング加工によって形成しても良い。
溶接範囲ARWLDは、溶接部110を形成する位置におけるレーザ光LSRのビーム径によって決定され、50μm以上1000μm以下の範囲で適宜調整可能である。
さらに、例えば、溶接範囲ARWLDが0.6mmとなるようにレーザ光LSRを照射する場合、先端側境界面Pは、座部11と貴金属チップ10との当接境界面から先端側に向かって軸方向に0.3mm以下の範囲で適宜変更可能であり、基端側境界面Pは、台座部11と貴金属チップ10との当接境面から基端側に向かって軸方向に0.15mm以上0.45mm以下の範囲で適宜変更可能である。
【0028】
図1A図1Bに示すように、台座部傾斜面Tにレーザ光を照射することによって、台座部11と貴金属チップ10とのレーザエネルギを吸収した部分が溶融し合金相を形成しながら溶接部110を形成する。
より具体的には、レーザ光LSRは、図1Aに示すように、軸方向断面に対しては、先端側境界面P1と基端側境界面Pとを結ぶ直線で区画される台座部傾斜面Tに直交する法線方向のベクトル成分を含み、図1Bに示すように、径方向平面に対しては、レーザ光LSRの集光点FPと、中心電極10の中心軸を結ぶ直線に対して、周方向に所定の角度θωだけ傾けた方向のベクトル成分を含む方向から溶接領域ARWLDに向かって照射される。
溶接部110の形成は、中心電極1、又は、図略のレーザ溶接機を周方向に回転移動させながら、複数回に渡ってレーザ光LSRの照射をおこなって、貴金属チップ10の外周を取り囲むように溶接部110を形成する。
略平面状の台座部傾斜面Tにレーザ光が照射されるのでエネルギを吸収し易く、図1Cに示すように、溶接部110の表面は、先端に向かって縮径する略円錐台形状傾斜平面、又は、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成し、端側境界面Pと基端側境界面Pとを結ぶ直線の外側にはみ出すようなことがない。
図1Dは、本発明の実施例における溶接部の状態を示す図面代用写真である。
溶接部110の表面が滑らかに湾曲しているので、溶接部110での電界集中が起こり難くなり、その結果、溶接部110が放電の起点となることが抑制され、火花消耗の抑制を図ることができる。
【0029】
ここで、図2A図2Bを参照して、比較例1として示す従来の内燃機関用点火プラグの製造方法における問題点について説明する。
なお、比較例1において、本発明の構成と対応する構成に対して同じ符号を用い、枝番としてzの符号を付したので、詳細な説明を省略し、本発明との相違点を中心に説明する。また、図2Aの中心線から左側には。レーザ光照射前の側面図を示し、右側には、レーザ光照射後の側面図を示してある(以下の説明においても適宜、同様の方法で図示してある)。
さらに、図中括弧内に表示した数値は実際に試料として用いたサンプルの大きさをミリ単位で示したものである。
台座部11zの側面に傾斜面Tが形成されていない点が本発明と大きく異なる。
このため、台座部11zに5mJのレーザ光を照射した場合、台座部11zの先端側外周端縁の稜線に当たることになる。
その結果、図2Aの右側に示すように、溶接部分110zの表面が部分的に膨らんだ突出部111zが形成される。これは、レーザ光LSRが台座部11zの先端側外周端縁の稜線において、回折、散乱を招き、台座部11zの溶融に十分なエネルギが吸収され難くなっているためと推察される。
図2Bは、実際の比較例1の溶接部の状態を示す図面代用写真である。
比較例1では、溶接部110zの表面に凸部111zが形成されるため、ここに電界集中し易くなり、溶接部110zを起点とした放電が起こり、火花消耗を招くことになる。
【0030】
さらに、図3A図3Bを参照して、比較例2について説明する。比較例2においては、枝番としてyの符号を付してある。
比較例2では、レーザ光LSRを照射したときに、台座部11yが十分に溶融して溶接部110zに凸部を形成しないように、台座部の高さL2yが、比較例1の半分(0.15mm)に形成され、さらに、照射するエネルギを10mJとした。
比較例2では、図3Aの右側に示すように、溶接部110yの表面は、内側に向かって窪んだ凹面状の湾曲面111yを形成するが、台座部110yの過剰な溶融を招き、中心に向かって大きく窪んだエグレを生じ、溶接部端縁112yにおいて溶接ビートの局所的な盛り上がりを生じる。
このため、盛り上がり部分に電界集中が起こり、溶接部110yでの飛び火を誘発し、火花消耗を招く虞がある。さらに、エグレ部分が細くなるため、強度面での信頼性も低下する。
【0031】
図4A図4Bを参照して、本発明の効果について説明する。
上記第1の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法によって形成した点火プラグ4を図略の内燃機関5のシリンダヘッド50に装着し、低負荷運転を行った場合、図4Aに示すように、燃焼室500内を流れる筒内気流TMBによって放電アークARKが長く引き伸ばされるが、中心電極1の先端にもうけた貴金属チップ10の先端と、接地電極32の中心電極1に対向する表面に設けた接地電極側貴金属チップ30の先端との間で放電が起こり、溶接部110の表面に飛び火することがない。
一方、比較例1の製造方法によって形成した点火プラグ4zを図略の内燃機関5zのシリンダヘッド50zに装着し、低負荷運転を行った場合、図4Aに示すように、中心電極1zの先端にもうけた貴金属チップ10zの溶接部110zの表面に残留する凸部111zと、接地電極32zの中心電極1zに対向する表面に設けた接地電極側貴金属チップ30zの先端との間で放電が起こるため、溶接部110zの火花消耗を招くことになる。
【0032】
次いで、図5A、5B、5Cを参照して、本発明の第1の実施形態におけるいくつかの変形例と、最適な条件について検討した結果について説明する。
本実施例においては、貴金属チップ10の大きさ (φD10=0.6mm、L=0.6mm)とし、中心電極露出部傾斜面Tの仰角(θ=40°)、絶縁体20の表面から貴金属チップ10の先端迄の距離(L=1.55mm)とし、台座部11の側面に設ける台座部傾斜面Tの仰角(θ)を変化させて溶接部を形成した。
台座部傾斜面Tの仰角(θ)は、55°から70°の範囲において、図5A、5B、5Cの右側に示すように、何れの場合においても、上記実施形態と同様、溶接部110の表面は滑らかに湾曲し、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成し、端側境界面Pと基端側境界面Pとを結ぶ直線の外側にはみ出すようなことがない。
【0033】
台座部傾斜面Tの仰角(θ)が70°を超える大きな角度で設けられると、最もエネルギ密度の高いレーザ光LSRの中心が金属チップ10の表面に照射されるため、局所的なエグレを生じたり、台座部11の先端側外周縁でのエネルギの拡散を生じて凸部が残留したりする虞がある。
台座部傾斜面Tの仰角(θ)が55°を下回る小さな角度で設けられると、最もエネルギ密度の高いレーザ光LSRの中心が台座部11の基端側の表面に照射されるため、局所的なエグレを生じたり、貴金属10の表面に伝達されるエネルギが小さくなり台座部11との合金層の形成が不十分と成ったりする虞がある。
【0034】
図6A図6Bを参照して、本発明の第2の実施形態における内燃機関用点火プラグの製造方法について説明する。なお、本図においては、上記実施形態との経常的な違いを分かり易くするため、溶接後の状態は省略してある。
上記実施形態においては、台座部11の外周表面の一部に台座部傾斜面Tを形成した例について説明したが、本実施形態においては、台座部11aと中心電極露出部傾斜面12との境界を基端側境界面Pとして、台座部11aの外周面の全てが先端側に向かって縮径するように傾斜する台座部傾斜面Tを設けた点が相違する。
【0035】
本実施形態においても、上記実施形態と同様、台座部傾斜面Tの仰角(θ)は、55°から70°の範囲において溶接部110aの表面は滑らかに湾曲し、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成し、端側境界面Pと基端側境界面Pとを結ぶ直線の外側にはみ出すようなことがない。
さらに、本実施形態においても、先端側境界面Pは、座部11a貴金属チップ10aとの当接境界面から先端側に向かって軸方向に0.3mm以下の範囲で適宜変更可能で、基端側境界面Pが、台座部11aと貴金属チップ10aとの当接境面から基端側に向かって軸方向に0.15mm以上0.45mm以下の範囲で適宜変更可能である。
【0036】
図7A図7Bを参照して、本発明の効果を発揮し得ない比較例3における内燃機関用点火プラグの製造方法とその変形例について説明する。
比較例3として図7A、図7Bに示すように、台座部11bの高さLbの調整により、先端側境界面P1と基端側境界面P2とを結ぶ直線から台座部11bが突出しない範囲で形成することにより傾斜面を設けなくても、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成し、端側境界面Pと基端側境界面Pとを結ぶ直線の外側にはみ出すようなことがないように溶接部を形成することは可能と考えられる。
しかし、図7Aに示すように、台座部11bのエッジ部分で、レーザ光LSRの散乱により、台座部11bが十分に溶融せず、比較例1と同様の角部が残留したり、図7Bに示すように、レーザ光LSRの中心が台座部11bの先端側エッジ部分よりも基端側の側面に照射されるので、比較例2と同様の局所的なエグレを生じたりする虞がある。
【0037】
図8A、8B、8C、及び、図9A、9Bを参照して、本発明の製造方法を用いて製造され、中心電極1の先端に設けた台座部11に貴金属チップ10をレーザ溶接によって溶接固定した内燃機関用点火プラグ4であって、中心電極台座部11と貴金属チップ10との間に形成された溶接部110が、先端に向かって縮径する略円錐台形状傾斜平面、又は、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を具備する内燃機関用点火プラグにおけるいくつかの変形例とその効果について説明する。
上記実施形態においては、中心電極露出部傾斜面12の仰角θを40°とした場合の例を示したが、図8A、8B、8Cに示すように、中心電極露出部傾斜面12の仰角θを40°から22.5°まで変化させたときに、溶接部110への横飛ぶ発生確率P(%)と、中心電極電界強度E(V/mm)を調査し、その結果をそれぞれ図9A、9Bに示す。
【0038】
図9Aに示すように、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角が120°以下、即ち、中心電極露出部傾斜面12の仰角θが、30°以上では、横飛びが発生しなかったが、30°よりも小さい角度とすると、横飛びの発生が見られた。
さらに、図9Bに示すように、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角が120°を超え、即ち、中心電極露出部傾斜面12の仰角θが、30°よりも小さい角度とすると、中心電極先端部13と中心電極露出部傾斜面12との境界に位置する中心電極肩部Cの電界強度が高くなることが判明した。
中心電極露出部傾斜面12の仰角θが、小さくなるほど、中心電極肩部Cの電界強度が高くなり、これに放電が引っ張られて、溶接部110の表面を起点とする放電が発生するためと推察される。
従って、中心電極1が絶縁碍子20から露出し、先端に向かって径小となる傾斜面12と、中心電極1の中心軸に垂直な平面とのなす中心電極露出部傾斜面仰角θが30°以上、即ち、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角が120°以下に設定するのが望ましいことが判る。
【0039】
なお、図8B図8Cに示すように、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角を120°以上とした場合、溶接部110に第2の肩部Cが形成され、ここに電界集中が起こり、溶接部110を起点とする飛び火が発生する虞を生じる。
そこで、図8Dに示すように、中心電極露出部傾斜面12の仰角θを30°とする場合には、台座部傾斜面T2を、実施例3と同様に、台座部11と中心電極露出部傾斜面12との境界から形成するのが望ましい。
台座部傾斜面T2をこのように形成することにより、図8Dの右側に示すように、溶接部110の表面は、第2の肩部C2を形成することなく、略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成しつつ、中心電極露出部傾斜面12と滑らかに連なった表面をするので、溶接部110の表面を起点とする飛び火を生じ難くなる。
【0040】
さらに、図10A、10B、10C、図11を参照して、本発明の製造方法によって形成した内燃機関用点火プラグにおいて、絶縁碍子20の表面から中心電極1が縮径する中心電極肩部Cまでの距離Lを変化させたときの効果について説明する。
上記実施形態においては、絶縁碍子20の表面から中心電極1が縮径する中心電極肩部Cまでの距離Lを0.05mmとした例について説明したが、図10A、10B、10Cに示すように、この距離を0.5から0.05まで変化させたときの、溶接部110の表面を起点とする飛び火発生確率P(%)を計測し、その結果を図11に示す。
なお、上述の試験において放電部110の表面を起点とする飛び火の発生が起こり易いことが判明した、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角が135°に設定して、本試験を行った。
なお、いずれの試料においても、溶接部110の表面は、先端に向かって縮径しつつ、内側に向かって凸となるように窪んだ略円錐台形状傾斜湾曲面111を形成している。
【0041】
その結果、図11に示すように、絶縁碍子20の表面から、中心電極肩部Cまでの距離が、0.2mmを超えると、放電部110表面での飛び火が発生し易くなることが判明した。
このことから、中心電極1が絶縁碍子20から露出し、先端に向かって径小となる傾斜面12と、中心電極1の中心軸に垂直な平面とのなす中心電極露出部傾斜面仰角θが30°以上、即ち、中心電極露出部傾斜面12の円錐頂角が120°以下であるのが望ましいことが判明した。
【符号の説明】
【0042】
1 中心電極
10 貴金属チップ
11 台座部
110 溶接部
111 略円錐台形状傾斜湾曲面
12 中心電極露出部傾斜面
13 中心電極先端部
2 絶縁碍子
20 絶縁碍子先端部
21 貫通孔
3 ハウジング
30 接地電極側貴金属チップ
31 接地側溶接部
32 接地電極
4 内燃機関用点火プラグ
5 内燃機関
50 シリンダヘッド
500 燃焼室
LSR レーザ光
先端側境界面
基端側境界面
台座部傾斜面
θ 中心電極露出部傾斜面仰角
θ台座部傾斜面仰角
中心電極肩部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特開2011−18612号公報
【特許文献2】特開平11−3765号公報
図1A
図1B
図1C
図2A
図3A
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図1D
図2B
図3B