(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043574
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ケーソン工法
(51)【国際特許分類】
E02D 23/08 20060101AFI20161206BHJP
E02D 23/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
E02D23/08 F
E02D23/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-225310(P2012-225310)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-77282(P2014-77282A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】313015513
【氏名又は名称】小寺 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180127
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】小寺 敏一
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭14−002251(JP,B1)
【文献】
特開2008−025249(JP,A)
【文献】
特開平11−323960(JP,A)
【文献】
特開2005−009144(JP,A)
【文献】
特開2006−112182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/00〜 25/00
E02D 1/00〜 3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソンの傾斜を修正可能なケーソン工法であって、ケーソンを沈下させる際において前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削して穴を形成し、前記穴から前記ケーソンの外側を掘削して前記ケーソンの外周壁と土壁との間に隙間を形成し、前記穴から前記隙間に発泡スチロールを挿入することを特徴とするケーソン工法。
【請求項2】
ケーソンの傾斜を修正するためのケーソン工法であって、ケーソンを沈下させる際にケーソンが傾いた場合において、低い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削して穴を形成し、前記穴から前記ケーソンの外側を掘削して前記ケーソンの外周壁と土壁との間に隙間を形成し、前記穴から前記隙間に発泡スチロールを挿入することを特徴とするケーソン工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物を建設するケーソン工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地階を有する超高層ビル、地下駐車場等の地下構造物を建設する方法として、土留工法とケーソン工法が知られている。ケーソン工法は、土留工法と比較して仮設工事費が安く、必要体積以外の掘削が少なくてすむというメリットがある。さらに、騒音や振動がなく、敷地境界線近くまで工事できるケーソン工法は敷地に余裕のない市街地においては最適である。しかしながら、ケーソン工法において、ケーソンの刃口部周辺の土の性質や掘削が一様でないために、ケーソンが沈下中に傾いてしまうことが多い。そこで、ケーソンの傾斜を修正する方法として、油圧ジャッキを用いて修正する方法(特開平6−108473号公報)、膨縮マットを用いて修正する方法(特開2004−44242号公報)、刃口部の向きを変えて修正する方法(特開2004−92275号公報)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−108473号公報
【特許文献2】特開2004−44242号公報
【特許文献3】特開2004−92275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーソンが沈下中に傾いてしまった場合、沈下が早い側すなわち低い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土の掘削を止め、沈下が遅い側すなわち高い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削して前記ケーソンの傾斜を修正しようとすると、土の可塑性により沈下が早い側の土が圧密されて、前記ケーソンの高い側がさらに浮き上がってしまい、前記ケーソンの傾斜はますます増加してしまう。また、先行技術文献に記載されている方法では、強制的にケーソンの傾斜を修正するためケーソン躯体に負荷がかかる、特殊な装置を用いるためコストがかかるという問題点がある。そこで本発明では、ケーソンの傾斜を容易に低コストで修正できる方法を実現したケーソン工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係るケーソン工法は、
ケーソンの傾斜を修正可能なケーソン工法であって、ケーソンを沈下させる際において前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削して穴を形成し、前記穴から前記ケーソンの外側を掘削して前記ケーソンの外周壁と土壁との間に隙間を形成し、前記穴から前記隙間に
発泡スチロールを挿入することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係るケーソン工法は、
ケーソンの傾斜を修正するためのケーソン工法であって、ケーソンを沈下させる際
にケーソンが傾いた場合において
、低い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削して穴を形成し、前記穴から前記ケーソンの外側を掘削して前記ケーソンの外周壁と土壁との間に隙間を形成し、前記穴から前記隙間に発泡スチロールを挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケーソンが沈下中に傾いてしまっても、前記ケーソンの外周壁と土壁との間に挿入された発泡スチロール等の緩衝材が圧縮・反発することにより、沈下が早い側すなわち低い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土の掘削を止め、沈下が遅い側すなわち高い側の前記ケーソンの刃口部周辺の土を掘削すれば、前記ケーソンの傾斜を容易に修正することができる。また、発泡スチロール等の緩衝材は非常に安価なため低コストでケーソンの傾斜の修正を実現できる。また、地下構造物を建設した後も前記構造物と土壁との間に前記緩衝材が介在することにより、水平方向の免震効果がある。前記緩衝材は地中にあるため紫外線による品質劣化がなく、長期間にわたって免震効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ケーソンの外周壁と土壁との間の隙間に緩衝材を挿入している様子を示した断面図である。
【
図2】沈下中に傾いたケーソンの傾斜を修正するときの様子を示した断面図である。
【
図3】箱型構造物を建設したときの様子を示した断面図である。
【
図4】箱型構造物の内側を防水膜で覆い、前記箱型構造物の内部に地下構造物を建設したときの様子を示した断面図である。
【
図5】沈下中に傾いたケーソンの外周壁と土壁との間の隙間に緩衝材を挿入している様子を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について、図を参照しながら以下説明する。まず、本発明の第1の実施形態を説明する。
図1は、ケーソンの外周壁と土壁との間の隙間に緩衝材を挿入している様子を示した断面図である。ケーソン1の刃口部11周辺の土を掘削して穴3を形成し、穴3からケーソン1の外周壁12の外側の土を掘削して外周壁12と土壁5との間に隙間4を形成する。穴3から隙間4へ緩衝材2を挿入する。ケーソン1の沈下開始からケーソン1が所定の深さに到達するまで、上記作業を繰り返す。緩衝材2はスラブ型でもブロック型でも良い。隙間4の幅は20 cm程度が望ましい。なお、ケーソン1の形状は円筒状でも四角筒状でも、どんな形状であってもよい。
【0010】
図2は、沈下中に傾いたケーソンの傾斜を修正するときの様子を示した断面図である。ケーソン1の低い側13の土の掘削を止めて、ケーソン1の高い側14の刃口部11周辺の土を掘削して穴3を形成すれば、緩衝材21が圧縮されて緩衝材22が反発してケーソン1の高い側14が沈下することにより、ケーソン1の傾斜が容易に修正できる。
【0011】
図3は、ケーソンが所定の深さまで到達し、底を構築して箱型構造物を建設したときの様子を示した断面図である。箱型構造物6の外周壁12と土壁5との間に緩衝材2が介在しているため、水平方向の免震効果がある。また、緩衝材2が地中にあるため、紫外線による品質劣化を防ぐことができ、長期間にわたって免震効果がある。
【0012】
図4は、箱型構造物の内側を防水膜で覆い、前記箱型構造物の内部に地下構造物を建設したときの様子を示した断面図である。箱型構造物6の内側にアスファルト防水材等の防水膜7を施し、箱型構造物6の内部に地下構造物8を建設する。地下構造物8は防水膜7により外側から防水され、完全な外防水を施工することができる。
【0013】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
図5は、沈下中に傾いたケーソンの外周壁と土壁との間の隙間に緩衝材を挿入している様子を示した断面図である。ケーソン1が水平に沈下している間はケーソン1の刃口部11周辺の土を掘削して穴3を形成し、隙間4を形成せずにそのままケーソン1を沈下させる。ケーソン1が沈下中に傾いた際に初めてケーソン1の低い側13の下方に形成した穴3からケーソン1の外周壁12の外側を掘削して外周壁12と土壁5との間に隙間4を形成し、隙間4へ緩衝材2を挿入する。ケーソン1の低い側13の土の掘削を止めて、ケーソン1の高い側14の刃口部11周辺の土を掘削して穴3を形成すれば、緩衝材2が圧縮されてケーソン1の傾斜を修正しながらケーソン1の高い側14が沈下する。なお、ケーソン1の高い側14の外側にも隙間4を形成して緩衝材2を挿入してもよい。ケーソン1の傾きが修正されるまで隙間4を形成して緩衝材2を挿入しながらケーソン1を沈下させ、ケーソン1が水平になった所で隙間4の形成及び緩衝材2の挿入を止める。ケーソン1が再び傾いた際は、上記作業を繰り返す。緩衝材2はスラブ型でもブロック型でも良い。隙間4の幅は20 cm程度が望ましい。なお、ケーソン1の形状は円筒状でも四角筒状でも、どんな形状であってもよい。
【実施例】
【0014】
以下、本発明をオープンケーソン工法により実施した例を示す。鉄筋コンクリート製の底なしケーソン1を地上で構築した。家庭用電化製品の発泡スチロール梱包材をリサイクルして緩衝材2として使用した。防水膜7としてアスファルト防水材を用いた。ケーソン1の刃口部11周辺の土を30 cm程度ずつ掘削して穴3を形成した。ケーソン1が沈下中に傾いた際、穴3からケーソン1の外側をスコップで掘ることでケーソン1の外周壁12と土壁5との間に20 cm程度の幅の隙間4を形成して、穴3から隙間4に手を使って前記発泡スチロールを挿入した。ケーソン1の低い側13の土の掘削を止めて、ケーソン1の高い側14の刃口部11周辺の土を掘削して穴3を形成したら、前記発泡スチロールが圧縮されてケーソン1の傾斜を修正しながらケーソン1の高い側14が沈下した。ケーソン1が水平になるまで、上記作業を繰り返した。ケーソン1が所定の深さに達したとき、底を整地して配筋してコンクリートを打設して箱型構造物6を構築した。箱型構造物6の内側に前記アスファルト防水材を施してから、箱型構造物6の内部に地下構造物8を建設した。緩衝材2として発泡スチロールをリサイクルして使用したため低コストであり、沈下中のケーソン1の傾きを修正するのも容易であった。また、地下構造物8の上部に建設された建物の中では地震の振動をほとんど感じない。さらに、箱型構造体6の内側にアスファルト防水材を施したことにより、地下構造物8は完全な外防水が施されている。
【符号の説明】
【0015】
1 ケーソン
11
ケーソン1の刃口部
12 ケーソン1の外周壁
13 ケーソン1の低い側
14 ケーソン1の高い側
2、21、22 緩衝材
3 穴
4 隙間
5 土壁
6 箱型構造物
7 防水膜
8 地下構造物