(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
路面と接地する接地面に少なくともタイヤ周方向に対して傾斜する方向に延びる溝部を有するタイヤが前記路面に接地する際に発生するポンピングノイズの予測に用いられるデータを算出するポンピングノイズのシミュレーション方法であって、
前記タイヤをモデル化したタイヤモデルを生成するステップAと、
前記路面をモデル化した路面モデルを生成するステップBと、
前記路面モデルを前記タイヤモデルに所定の力で押し当てて、前記溝部の溝内における溝体積を算出するとともに、前記路面モデルの前記タイヤモデルにおける押し当て位置をタイヤ周方向に移動させて、前記溝体積の溝体積変化率を算出するステップCと、
前記溝体積変化率に基づいて前記タイヤモデルにおけるポンピングノイズの音圧レベルを決定するステップDとを含むことを特徴とするポンピングノイズのシミュレーション方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施形態に係るタイヤモデル200の一例を示す図である。
図2(b)は、本発明の実施形態に係るタイヤモデル200の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るタイヤモデル200のトレッド面視を示す平面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施形態に係る路面モデルの一例を示す図である。
図4(b)は、本発明の実施形態に係る路面モデルの他の例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態において、路面モデルRのタイヤモデル200における押し当て位置を移動させる際のイメージを示すイメージ図である。
【
図6】
図6は、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、実施例1に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図7(b)は、実施例2に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図7(c)は、実施例3に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図7(d)は、実施例4に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図7(e)は、実施例5に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に係るタイヤモデル200の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係るポンピングノイズのシミュレーション方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0013】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【0014】
[シミュレーション装置]
まず、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法を実行するためのシミュレーション装置について説明する。
【0015】
シミュレーション装置は、路面と接地する接地面に少なくともタイヤ周方向に対して傾斜する方向に延びる溝部を有するタイヤ(例えば、空気入りタイヤ)が、路面に接地する際に発生するポンピングノイズの予測に用いられるデータを算出する。具体的に、シミュレーション装置は、タイヤをモデル化したタイヤモデル200(
図2(a)及び(b)参照)が路面モデル(
図4(a)及び(b)参照)と接地する際に発生するポンピングノイズの予測に用いられるデータを算出する。なお、ポンピングノイズは、1kHz〜3kHzの周波数帯域の騒音(ノイズ)である。
【0016】
シミュレーション装置は、以下に示す実施形態に係るシミュレーション方法を実行するためのシミュレーションプログラムを実行する。例えば、シミュレーション装置は、シミュレーションプログラムを記録した外部記憶媒体からシミュレーションプログラムを読み出して実行してもよい。あるいは、シミュレーション装置の記憶部に格納(インストール)されたシミュレーションプログラムを読み出して実行してもよい。例また、シミュレーション装置は、ネットワークを介してシミュレーションプログラムを取得して実行してもよい。
【0017】
[第1実施形態]
図1乃至5を参照して、本発明の第1実施形態に係るシミュレーション方法について説明する。本実施形態に係るシミュレーション方法は、有限要素法を用いて、自動車等に使用されるタイヤ(例えば、空気入りタイヤ)の挙動及び性能を解析するものである。具体的に、本実施形態に係るシミュレーション方法は、路面と接地する接地面に少なくともタイヤ周方向に対して傾斜する方向に延びる溝部を有するタイヤが路面に接地する際に発生するポンピングノイズの予測に用いられるデータを算出するポンピングノイズのシミュレーション方法である。
図1には、本発明の第1実施形態に係るシミュレーション方法のフローチャートが示されている。
【0018】
図1に示すように、ステップS110において、シミュレーション装置は、タイヤをモデル化したタイヤモデル200を生成する。具体的に、シミュレーション装置は、初めにシミュレーションの対象とするタイヤの設計案を設定し、タイヤモデル200を生成する。なお、設計案には、タイヤモデル200の形状、構造、材料及びトレッドパターンなどが含まれる。
【0019】
ここで、
図2(a)及び(b)は、タイヤモデル200の一例を示す。
図3は、タイヤモデル200のトレッド面視を示す平面図を示す。なお、
図2(a)及び(b)と
図3とにおいて、X軸は、トレッド幅方向を示し、Y軸は、タイヤ周方向を示し、Z軸は、タイヤ径方向を示す。なお、各軸の方向は、以下においても同様である。タイヤモデル200は、パターンモデル200Pを含む。また、タイヤモデル200は、陸部211と、タイヤ周方向に延びる周方向溝部212と、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に延びるラグ溝部213と、周方向溝部212及びラグ溝部213の溝底よりもタイヤ径方向内側に位置するベルト層230を有する。さらに、タイヤモデル200は、ベルト層230よりもタイヤ径方向内側に位置するカーカス層240を有する。
【0020】
パターンモデル200Pは、陸部211と、周方向溝部212と、ラグ溝部213が形成されたトレッド部210の形状を規定する。なお、本実施形態において、周方向溝部212及びラグ溝部213の溝幅は、特に限定されない。例えば、周方向溝部212及びラグ溝部213は、タイヤ接地時に閉じる程度の溝幅を有するサイプであってもよい。
【0021】
また、本実施形態において、ラグ溝部213の延在方向は、タイヤ周方向に対して、20°以上の傾斜角度を有することとする。また、周方向溝部212の延在方向は、タイヤ周方向に対して20°未満の傾斜角度を有することとする。
【0022】
タイヤモデル200は、シミュレーションの対象となるタイヤの形状・構造・材料のモデル化に用いられる。パターンモデル200Pは、シミュレーションの対象となるタイヤのトレッドパターンの詳細なモデル化に用いられる。なお、パターンモデル200Pのタイヤ周方向における長さは、
図3に示すように、少なくても解析に用いられるタイヤ接地面500のタイヤ周方向におけるタイヤ接地長L以上の長さを有していることが望ましい。シミュレーション装置は、タイヤモデル200のトレッド部210の一部分または全体をパターンモデル200Pに置き換えることで、特定のトレッドパターンを再現した一つのタイヤモデル200を作成する。
【0023】
なお、タイヤモデル200は、シミュレーションの対象となるタイヤのトレッド部210におけるトレッドパターンのみをモデル化したパターンモデル200Pであることとする。具体的に、
図2(b)に示すように、タイヤモデル200は、シミュレーションの対象となるタイヤのタイヤサイド部やビード部を含めずに、トレッド部210におけるトレッドパターンのみをモデル化したパターンモデル200Pである。なお、タイヤモデル200は、タイヤのタイヤサイド部やビード部を含めてモデル化したものであってもよいが、作業工数の簡略化及び演算量の抑制の観点からは、上述したパターンモデル200Pであることが好ましい。
【0024】
ステップS120において、シミュレーション装置は、路面をモデル化した路面モデルRを生成する。
図4(a)及び(b)は、路面モデルの一例を示す。
図4(a)及び(b)に示すように、シミュレーション装置は、タイヤモデル200が転動して進んでいく際の領域に対応する路面をモデル化して、路面モデルRを生成する。なお、シミュレーション装置が生成する路面モデルは、
図4(a)に示すように、平面状の路面モデルRであってもよいし、
図4(b)に示すように、曲面状の路面モデルRAであってもよい。また、路面摩擦係数は任意の値に設定できる。
【0025】
ここで、本実施形態では、路面モデルRのタイヤ周方向における長さL1が、タイヤ接地長Lよりも小さい。路面モデルRのタイヤ幅方向における幅W1は、タイヤモデル200の接地面のタイヤ幅方向における幅Wよりも大きい。
【0026】
ステップS130において、シミュレーション装置は、タイヤモデル200及び路面モデルRを用いた解析条件及び境界条件(例えば、内圧・荷重)を設定する。
【0027】
ステップS140において、シミュレーション装置は、路面モデルRをタイヤモデル200に所定の力で押し当てて、ラグ溝部213の溝内における溝体積を算出するとともに、路面モデルRのタイヤモデル200における押し当て位置をタイヤ周方向に移動させて、溝体積の溝体積変化率を算出する。
【0028】
図5は、路面モデルRのタイヤモデル200における押し当て位置を移動させる際のイメージを示すイメージ図である。
図5に示すように、シミュレーション装置は、まず路面モデルR0(R)の位置にタイヤモデル200との押し当て位置を定めて、路面モデルRを所定の力でタイヤモデル200に押しあてる。なお、所定の力は、シミュレーションの対象となるタイヤが路面を転動する際に、路面に与えられる力である。また、路面モデルRは、タイヤモデル200の接地面において、タイヤ径方向に対して垂直方向に押し当てられる。
【0029】
また、シミュレーション装置は、路面モデルR0の位置において、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積を算出する。なお、本実施形態では、タイヤ幅方向に沿った5つのラグ溝部213のそれぞれの溝体積を算出しているが、ラグ溝部213の数はこれに限定されるものではなく、5つ未満であってもよいし、6つ以上であってもよい。
【0030】
また、シミュレーション装置は、路面モデルR0の位置から路面モデルR1の位置に路面モデルRを移動させるとともに、所定の力で押し当てて、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積を算出する。続いて、シミュレーション装置は、路面モデルR1の位置から路面モデルR2の位置に路面モデルRを移動させるとともに、所定の力で押し当てて、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積を算出する。このようにして、シミュレーション装置は、路面モデルRのタイヤモデル200における押し当て位置をタイヤ周方向に移動させながら、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積を繰り返し算出する。
【0031】
また、シミュレーション装置は、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積を繰り返し算出することで、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積の最大値VAmax乃至VEmaxと、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積の最小値VAmin乃至VEminとを特定する。
【0032】
また、シミュレーション装置は、下記の数式(1)に基づいて、複数のラグ溝部213A乃至213Eのそれぞれの溝体積変化率ΔVA乃至ΔVEを算出する。なお、数式(1)において、nは、VA乃至VEのそれぞれを識別する記号を示す。
【0033】
溝体積変化率ΔVn=(Vnmax−Vnmin)/Vnmax ・・・・ (1)
また、シミュレーション装置は、算出した溝体積変化率ΔVA乃至ΔVEの平均値を、タイヤモデル200における溝体積の溝体積変化率ΔVとして算出する。
【0034】
ステップS150において、シミュレーション装置は、算出した溝体積変化率ΔVに基づいてタイヤモデル200におけるポンピングノイズの音圧レベルを決定する。
【0035】
具体的に、シミュレーション装置は、複数のタイヤをモデル化した複数のタイヤモデル200ごとの溝体積変化率ΔVと、複数のタイヤを用いて測定された複数のポンピングノイズの音圧レベルとの関係によって得られる関係式を用いることによって、溝体積変化率ΔVに基づいてタイヤモデル200におけるポンピングノイズの音圧レベルを決定する。なお、複数のタイヤは、既存の複数のタイヤであり、今回対象としたタイヤとは異なるものである。
【0036】
図6は、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベル(単位:dBA)との関係を示すグラフである。なお、
図6には、溝体積変化率ΔV1乃至ΔV6のそれぞれにおいて、ポンピングノイズの音圧レベル(単位:dBA)を実測した実測値D1乃至D6の分布が示されている。
図6に示すように、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルとは、明確な相関関係が存在する。シミュレーション装置は、既存の複数のタイヤをモデル化した複数のタイヤモデル200ごとの溝体積変化率ΔVと、複数のタイヤを用いて測定された複数のポンピングノイズの音圧レベルとを分布化する。そして、シミュレーション装置は、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルとを分布化した結果から、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルと対応付けられた関係式f(近似式)を予め記憶している。つまり、かかる関係式fによって、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルとは予め対応付けられている。
【0037】
シミュレーション装置は、当該対応関係を表す関係式fを用いて、今回対象としたタイヤモデル200の溝体積変化率ΔVから、ポンピングノイズの音圧レベルを決定する。
【0038】
なお、既存の複数のタイヤと今回対象としたタイヤとは、陸部211、周方向溝部212及びラグ溝部213の形状が異なるものである。また、周方向溝部212及びラグ溝部213のタイヤ径方向における深さが異なるものであってもよい。但し、既存の複数のタイヤと今回対象としたタイヤとは、ベルト層230及びカーカス層240の形状が同一であるものを用いることが好ましい。これは、ベルト層230及びカーカス層240の形状が異なると、溝体積変化率ΔVとポンピングノイズの音圧レベルとの相関関係が低くなるためである。
【0039】
ステップS160において、シミュレーション装置は、決定された音圧レベルを表示部130に表示する。また、設計者によって表示された音圧レベルが、良好か否かを判定させる。表示された音圧レベルが合格基準に達していた場合は、終了する。一方、音圧レベルが合格基準に達していない場合は、設計者によって、タイヤモデル200の設定変更がなされて、ステップS110からの動作が繰り返される。
【0040】
(3)作用及び効果
次に、本実施形態に係るシミュレーション方法による作用及び効果について説明する。
【0041】
本実施形態に係るシミュレーション方法によれば、路面モデルRの押し当て位置を移動させて、ラグ溝部213における溝体積変化率ΔVを算出するだけであるため、従来技術のように振動速度に基づいた解析を行う手法に比べて、演算量を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態に係るシミュレーション方法によれば、タイヤモデル200として、トレッド部210におけるトレッドパターンをモデル化したパターンモデル200Pをタイヤモデル200として用いている。したがって、トレッド部210よりもタイヤ径方向内側に形成されるタイヤサイド部やビード部などをモデル化する必要がないため、作業工数の簡略化が図れるだけでなく、近年の複雑化されたトレッドパターンを有するタイヤにも柔軟に対応できる。
【0043】
すなわち、本実施形態に係るシミュレーション方法は、タイヤの設計案の騒音性能予測に有効であり、かかるシミュレーション方法を活用することによって、タイヤの試作を伴わない改良を促進でき、タイヤ開発の効率化及びタイヤ性能(静粛性)の向上に寄与する。
【0044】
ここで、表1は、本実施形態に係るシミュレーション方法によって、ポンピングノイズの音圧レベルを予測した予測値と、ポンピングノイズの実測値とを比較した比較結果である。なお、タイヤモデルとして、トレッドパターンが異なる複数のタイヤと、当該タイヤをモデル化した複数のタイヤモデルを用意した。具体的に、実施例1乃至5の5種類のタイヤを準備した。
【表1】
【0045】
なお、表1において、「溝体積変化率」は、所定の基準値(基準体積変化率)に対する相対値である。
【0046】
ここで、
図7(a)乃至(e)は、実施例1乃至5に係るタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。なお、
図7(a)乃至(e)に示されるトレッドパターンのそれぞれは、実施例1乃至5のそれぞれのタイヤのトレッドパターンを示す。
【0047】
なお、表1に示すデータは、以下の条件で計測したものである。
【0048】
・ タイヤサイズ: 195/45R15
・ 設定内圧: 180kPa
・ 設定荷重: 4.3kN
・ 試験方法: タイヤを装着した車両を速度80km/hによって走行させながら、ギアをニュートラルとし、エンジンを切った状態にした。この状態において、車両中心から車両側方に7.5m及び路面から高さ1.2mの位置に配置したマイクロフォンを用いて音圧を測定した。
【0049】
表1に示すように、本発明のシミュレーション方法によれば、ポンピングノイズを高精度で予測できることが解る。
【0050】
すなわち、本実施形態に係るシミュレーション方法によれば、ラグ溝部における溝体積変化率を用いることによって、ポンピングノイズを高精度に予測することが可能となる。
【0051】
(3)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、
図2(b)に示すように、タイヤモデル200が、タイヤ周方向に沿って曲がるリング状に形成されているものを用いたが、
図8に示すように、タイヤ周方向に沿って平坦な直方体状に形成されていてもよい。
【0053】
また、ポンピングノイズの音圧レベルは、車外騒音レベルであってもよいし室内音圧レベルであってもよい。
【0054】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められる。