特許第6043656号(P6043656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043656
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】地盤振動低減装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/08 20060101AFI20161206BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   E02D31/08
   F16F15/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-51229(P2013-51229)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-177779(P2014-177779A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】仲宗根 淳
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−200718(JP,A)
【文献】 特開2010−001668(JP,A)
【文献】 特開2005−240985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/08
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤振動を低減するための装置であって、
地盤中に埋設され地上に露出する端部を有する2つの縦部材及び1つの縦部材であって互いに間隔を置いて配置された2つの縦部材及び1つの縦部材と、
前記2つの縦部材の露出端部にピン結合された1つの横部材と、
前記1つの縦部材の露出端部と前記1つの横部材との間に配置されかつ前記1つの縦部材の露出端部と前記1つの横部材とにピン結合されたダンパとを含む、振動低減装置。
【請求項2】
前記1つの縦部材は前記2つの縦部材から等距離を置いて配置されている、請求項1に記載の振動低減装置。
【請求項3】
前記2つの縦部材及び前記1つの縦部材は一直線上に位置する、請求項2に記載の振動低減装置。
【請求項4】
前記2つの縦部材は二等辺三角形の二等辺とその底辺との2つの交点上に位置し、前記1つの縦部材は前記二等辺三角形の二等辺の交点上に位置する、請求項2に記載の振動低減装置。
【請求項5】
前記2つの縦部材の相互間隔は前記地盤振動の波長の1/2に設定されている、請求項2に記載の振動低減装置。
【請求項6】
各縦部材は摩擦杭からなる、請求項1に記載の振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の振動を低減するための装置、特に加振源周辺の表層地盤における縦振動の低減に適する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加振源から発して表層地盤を伝播する振動を低減するため、その周辺の地盤中に制振装置を埋設することが提案されている(後記特許文献1参照)。この制振装置は、上下の鋼板と、両鋼板間に配置された圧電素子と、前記上鋼板上に載置された加圧重錘とからなり、これによれば地盤振動に伴う前記圧電素子に対する圧力が電気エネルギに変換され、前記地盤振動の低減が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−133209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の制振装置にあっては、これが地中にあることから、そのメンテナンス、部品交換等を行う上で難点がある。本発明の目的は、このような従来の難点を除去し得る地盤振動低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は表層地盤を伝播する振動を低減する装置を提供する。前記振動低減装置は、地盤中に埋設され地上に露出する端部を有する2つの縦部材及び1つの縦部材であって互いに間隔を置いて配置された2つの縦部材及び1つの縦部材と、前記2つの縦部材の露出端部にピン結合された1つの横部材と、前記1つの縦部材の露出端部と前記1つの横部材との間に配置されかつ前記1つの縦部材の露出端部と前記1つの横部材とにピン結合されたダンパとを備える。
【0006】
本発明によれば、前記2つの縦部材及び前記1つの縦部材が設置された地盤中を振動が伝播するとき、これらの縦部材が前記地盤と共に個々に上下動する。これに伴い、前記2つの縦部材の露出端部にピン結合されている前記横部材の傾きが変化し、前記横部材と前記1つの縦部材との間の間隔の大きさが変化する。前記横部材と前記1つの縦部材との間の間隔の大きさの変化はこれらの部材間の前記ダンパに対して引張外力あるいは圧縮外力の作用を及ぼし、前記ダンパはこれらの外力の作用を受けて伸長し又は収縮する。前記ダンパの伸縮動作により振動エネルギの一部が吸収され、地盤振動が低減される。本発明にあっては、前記振動エネルギの吸収作用を担う前記ダンパが地上に位置する。このことから、前記ダンパについてのメンテナンス、交換等を容易に行うことができる。
【0007】
前記2つの縦部材及び前記1つの縦部材の配置位置は任意に定めることができる。例えば、前記1つの縦部材は、前記2つの縦部材から等距離を置いてあるいは不等距離を置いて、配置することができる。また、前記1つの縦部材と前記2つの縦部材とは、これらが一直線上あるいは任意の三角形の頂点上に位置するように、配置することができる。特に、前記2つの縦部材及び前記1つの縦部材をこれらが三角形の頂点上に位置するように配置するときは、一直線上に配置する場合と異なり、前記2つの縦部材間に障害物があってもこれを回避した位置に前記1つの部材を設置することができる
【0008】
前記1つの縦部材を前記2つの縦部材から等距離を置いて配置する場合にあっては、好ましくは、前記2つの縦部材の相互間隔の大きさを振動波長の1/2に相当する距離に設定する。さらに好ましくは、前記1つの縦部材が前記2つの縦部材間に位置するように配置し、あるいは、前記2つの縦部材が二等辺三角形の二等辺とその底辺との2つの交点上に位置しかつ前記1つの縦部材が前記二等辺三角形の二等辺の交点上に位置するように配置する。これによれば、特定の加振源が発する特定の周波数を有する振動の軽減を図ることができる。また、両縦部材にピン結合される前記横部材の長さ寸法をより小さいものとすることができ、これにより振動低減装置の施工を容易にし、また振動低減装置全体の小型化を図ることができる。
【0009】
各縦部材は、好ましくは、摩擦杭からなる。前記摩擦杭からなる縦部材は、地盤との一体性が比較的高いことから、前記縦部材への地盤の振動が比較的良好に伝達され、当該振動の低減をより効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】振動低減装置の一例の概略的な立面図である。
図2】振動低減装置の配置例を示す概略的な平面図である。
図3】振動低減装置の他の配置例を示す概略的な平面図である。
図4】振動低減装置の他の例の概略的な平面図である。
図5】a〜dは、地盤振動時における前記振動低減装置の一例の各縦部材、横部材及びダンパの挙動を順次に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、本発明に係る振動低減装置の一例が全体に符号10で示されている。振動低減装置10は、地盤12中に互いに間隔を置いて埋設された2つの縦部材14及びこれらの2つの縦部材14から等距離を置いて配置された1つの縦部材16と、横部材18と、ダンパ20とを備える。
【0012】
2つの縦部材14及び1つの縦部材16は、それぞれ、地盤12中を鉛直に伸び、その端部(上端部)22,24において地上に露出している。2つの縦部材14と1つの縦部材16とは、図示の例のように、2つの縦部材14の下端部26と1つの縦部材16の下端部28とが同一の深さ位置にあるように埋設することができる。
【0013】
前記縦部材の長さ寸法については、図示の例のように、2つの縦部材14が同一の長さ寸法を有し、また、1つの縦部材16が縦部材14より短い長さ寸法を有するものとすることができる。各縦部材14,16は、場所打ち杭、既製杭等からなり、好ましくは摩擦杭からなる。前記摩擦杭は他の杭と比べて地盤12との一体性が高く、地盤12に生じた振動を各縦部材14により良く伝える特性を有する。各縦部材14,16の上端部22,24の露出長、図示の例に代えて、任意に定めることができる。
【0014】
これらの3つの縦部材14,16は、図1図3に示すように、これらが一直線上に位置するように配置し(第1の例)、あるいは、図4に示すように、二等辺三角形Tの3つの頂点上に位置するように、より詳細には2つの縦部材14が前記二等辺三角形の底aとその二等辺bとの2つの交点(頂点)O上に位置しかつ1つの縦部材16が前記二等辺三角形の二等辺bの交点(頂点)O上に位置するように配置する(第2の例)ことができる。
【0015】
前記第2の例は、特に、前記第1の例において1つの縦部材16を配置すべき場所にその配置を阻害する障害物Cがある場合等に有利である。1つの縦部材16を、障害物Cを回避した位置に置くことができるからである。なお、前記第2の例における1つの縦部材16は、これを任意の平面形状を有する板材又は棒材で構成することができる。しかし、障害物Cの高さが比較的高いときは、障害物Cの回避のため、1つの縦部材16を、二等辺三角形Tの二等辺bに沿って伸びる等辺山形の外形を有する板材又は棒材からなるものとすることができる。前記等辺山形の板材又は棒材は、その両端部及びこれらの中間部において、2つの縦部材14の露出端部22及びダンパ20にそれぞれピン結合されている。
【0016】
このように配置された縦部材14,16は、地盤12を振動が伝播するとき、地盤12と共に個々に上下動する。他方、横部材18は2つの縦部材14の上端部22上に水平に配置され、その両端部において2つの縦部材14の上端部22にピン結合されている。このことから、横部材18は、2つの縦部材14が、振動する地盤12と共に鉛直方向へ移動するとき、両縦部材14に対して傾斜することができる。横部材18は、これを水平に配置する図示の例に代えて、両縦部材14に対して、初めから傾斜しているように配置することが可能である。横部材18は、例えば鋼材料や鉄筋コンクリート材料からなるものとすることができる。
【0017】
また、ダンパ20は1つの縦部材16と横部材18との間に鉛直に配置され、鉛直に伸びるその軸線の方向における両端部において、それぞれ、1つの縦部材16の上端部24と横部材18とにピン結合されている。このため、ダンパ20はその軸線方向へ伸縮動作をすることができる。ダンパ20は、1つの縦部材16に対する横部材18の相対変位、相対速度又は相対加速度に比例して抵抗を示すものからなる。ダンパ20の伸縮動作により、前記地盤振動が減衰、低減される。
【0018】
振動低減装置10は、図2及び図3に示すような特定の周波数を有する特定の地盤振動を低減するための使用に供し、あるいはこれ以外の一般的な地盤振動の低減のための使用に供することができる。
【0019】
図2を参照すると、振動低減装置10は、特定の振動を発する人工的な加振源Aと、該加振源から地盤12に伝達され、地盤12を伝播する振動(地盤振動)を受けて悪影響を被る精密機器、病院、家屋等の嫌振設備Bとの間に設置され、加振源Aが発する特定の地盤振動の低減に寄与する。振動低減装置10は、その1台又は複数台を、好ましくは、その縦部材14,16が加振源Aと嫌振設備Bとを結ぶ直線上又はその平行線上に位置するように配置される。
【0020】
また、図3に示すように、加振源Aの周囲に位置する複数の嫌振設備(図示せず)に対する地盤振動の軽減を目的として、複数の振動低減装置10が、加振源Aの周囲に、これらの縦部材14,16が放射方向に位置するように配置される。あるいは、また、嫌振設備(B)の周囲に位置する複数の加振源(図示せず)からの地盤振動の軽減を目的として、複数の振動低減装置10が、嫌振設備(B)の周囲に、これらの縦部材14,16が放射方向に位置するように配置される。
【0021】
3つの縦部材14,16の相互間隔の大きさは任意に定めることができるが、前記特定の地盤振動の低減を目的とするときは、図1に示すように、好ましくは、2つの縦部材14の相互間隔lを前記地盤振動の波長の半分(1/2)の長さに設定する。これによれば、例えば、相互間隔lを1波長の大きさとする場合に比べて、横部材16の長さを半分とすることができ、これにより振動低減装置10の設置における施工性を向上させることができ、また、設置に要する面積を少なくすることができる。
【0022】
例えば、低減対象である地盤振動の周波数fが10Hzであり、このときの剪断波速度Vsが200m/sであるとすると、前記地盤振動の波長λは、λ=Vs/fより、λ=20mであり、2つの杭14の相互間隔は、λ/2=10mである。
【0023】
図5には、加振源Aからの例えば図1に示すような正弦波Sを描いて地盤を伝播する振動に対する振動低減装置10の挙動の一部が示されている。前記振動が振動低減装置10の設置地盤12を伝播すると、地盤12の表面(地表面)30が正弦波Sの振幅と同じ大きさで上下動、地盤12と共に振動低減装置10の各縦部材14,16がそれぞれ上下動する。
【0024】
図5(a)は前記地盤振動が到達する直前における振動低減装置10の状態を示す。この状態では、図1に示す状態と同様、各縦部材14,16が突出する地表面30は平らである(このときの地表面30のレベルを符号Lで示す。)。
【0025】
図5(b)を参照すると、前記振動の地盤12への伝播のために地表面30が正弦波Sを呈するように波打ち、これに伴って2つの縦部材14のうちの一方及び他方がそれぞれ上昇及び下降し、また、1つの縦部材16が上昇する。これに伴い、横部材18が図上において水平(図5(a))から右下がりに傾き、このために1つの縦部材16と横部材18との相互間隔が狭まり、ダンパ20は圧縮外力を受けて収縮動作をする。
【0026】
前記振動の伝播の進行につれて、振動低減装置10は、図5(c)及び図5(d)に示す状態へと変化する。
【0027】
図5(c)を参照すると、2つの縦部材14のうちの一方及び他方がそれぞれさらに上昇及び下降し、また、1つの縦部材16が下降に転じている。これに伴い、横部材18が図上においてより一層右下がりに傾き、その結果、1つの縦部材16と横部材18との相互間隔が広がり、ダンパ20は引張外力を受けて伸長動作をする。
【0028】
図5(d)を参照すると、2つの縦部材14の双方が元の高さ位置に戻り、1つの縦部材16が上昇している。その結果、横部材18が図上において水平状態となり、1つの縦部材16と横部材18との相互間隔が狭まり、ダンパ20は圧縮外力を受けて収縮動作をする。
【0029】
なお、地盤振動においては、一般に、地表面における振動が卓越し、その振動の波長の1.5倍以上の深さ位置における振動に比べて非常に大きい。このことから、地盤12中に設置される各縦部材14,16はこれを支持層に達するものとすることを要しない。
【0030】
前記したところでは、1つの縦部材16が2つの縦部材14から等距離にあるように配置されている。しかし、これに限らず、1つの縦部材16が2つの縦部材14から不等距離にあるように、すなわち1つの縦部材16と両縦部材14の一方との間の距離と、1つの縦部材16と両縦部材14の他方との間の距離とが互いに異なるように、配置することができる。このとき、3つの縦部材14,16はこれらが一直線上に位置し、あるいは正三角形を除く任意の三角形の頂点上に位置するように配置することができる。なお、前記一直線上に配置する場合にあっては、1つの縦部材16を、2つの縦部材14相互間に配置し、あるいは両縦部材14の相互間以外に配置することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 振動低減装置
12 地盤
14 2つの縦部材
16 1つの縦部材
18 横部材
20 ダンパ
22 2つの縦部材の露出端部
24 1つの縦部材の露出端部
30 地表面
図1
図2
図3
図4
図5