(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コロイダルシリカ(a)に、グリシジル基、ビニル基及びアミノ基からなる群より選択される一又は複数の基を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)のうちの少なくとも1種類以上を修飾させた無機化合物(A)と、
水溶性樹脂(B)と、
M2O・SiO2(ここで、Mはアルカリ金属であり、M2O/SiO2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)と
を添加してなることを特徴とする水系親水性塗料組成物。
前記無機化合物(A)及び前記水溶性樹脂(B)の合計と前記アモルファスシリカ(C)との質量比(C/[A+B])が0.05〜0.2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水系親水性塗料組成物。
【背景技術】
【0002】
通常、我々が使用している家電製品や建築材料には、品質や意匠性を維持するために塗装や表面処理を施した金属材料やプラスチック製品が使われている。これらの金属材料やプラスチック製品に付着した汚れは、そのほとんどが家庭用もしくは業務用洗剤を用いて除去することができるが、汚れの種類によっては除去するまでの時間が掛かることがあり、場合によっては家電製品や建築材料の品質や意匠性を低下させる恐れがある。
【0003】
付着汚れを容易に除去するための方法としては、フッ素樹脂塗料のように汚れ自体が塗膜表面に付着しにくい状態にする方法、光触媒塗料のように塗膜表面に付着した汚れが酸化チタンの光触媒能力により分解されるようにする方法、等が挙げられる。しかしながら、フッ素樹脂塗料のように撥水性による効果を用いる塗料は、油状性の汚染物質ではその効果が弱く、自己洗浄の持続性も低い。また、光触媒系塗料は、光の励起によって、有機物を分解し汚れを除去する能力を備えるが、皮膜自体の強度不足や、そもそも光照射を受けないことにはその能力を発現できない。更に、これらの塗料は通常使用される塗料と比較して高価であるために使用用途が限定される事が多い。
【0004】
これらの方法以外で付着汚れを容易に除去するための方法としては、表面を親水化することで付着した汚れが水と共に除去されやすくする方法が挙げられるが、一般的に親水性を長期に亘り維持することが難しいという問題がある。
【0005】
この様な問題を解決するために、様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1では、揮発性溶媒中に分散された無機系酸化物微粒子と界面活性剤とを含む防汚コーティング液が提案されている。この防汚コーティング剤を使用して得られる皮膜は、皮膜形成直後の親水性は良好であるが、経時により界面活性剤が水と共に洗い流されるため、親水持続性に問題があった。また、処理液は揮発性溶媒で構成されている溶剤系であり、VOC規制や作業環境、環境問題の面からも好ましくない。
【0006】
特許文献2では、平均粒子径が20〜400nmのアルミナ粒子及びアルカリ金属の95%以上が除去されたケイ酸オリゴマー、又はそれを熟成させて得られるコロイダルシリカ、界面活性剤、有機基材を膨潤又は溶解することができる有機溶剤と水を含有する無機系塗料組成物が提案されている。この無機系塗料組成物を使用して得られる皮膜は、アルミナ粒子を含有しているため親水性は良好であるが、浸透性のある油汚れ等に関してはアルミナ粒子に油が浸透するため汚れの除去自体が難しく、コロイダルシリカを修飾処理なしに配合しているため、無機皮膜特有の臭気を発生するという問題があった。
【0007】
特許文献3では、コロイダルシリカゾルと活性水素を有するアクリルポリマーと反応性カップリング剤と樹脂に対する硬化剤とを含有する親水性被覆剤が提案されており、更には特許文献4では、コロイダルシリカゾルと活性水素を有するアクリルポリマーとシランカップリング剤とポリラクトンポリオール、活性水素を有する界面活性剤と硬化剤とを含有する親水性被覆剤が提案されている。これらの親水性被覆剤を使用して得られる皮膜は高い硬度を有し、耐擦傷性に優れているが親水持続性に問題があり、溶剤系でありかつ液安定性も不足している。
【0008】
特許文献5では、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の珪酸塩、PVA、アクリル樹脂を含有する親水化処理剤が提案されており、更に特許文献6では、コロイダルシリカ、PVA、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と塩を形成して中和して成るアクリル樹脂を含有する親水化処理剤が提案されている。これら親水化処理剤は親水性、耐食性に優れているが、長期にわたる付着した汚れに対する自浄洗浄能力は発現しない。
【0009】
特許文献7では、親水性と疎水性が可逆的に変わる相転移温度を有する感熱応答性高分子がシリカ粒子に担持されていることを特徴とする水性塗料親水化剤が提案されている。この水系塗料親水化剤を使用して得られる皮膜では、長期の親水性は得られるものの、樹脂に粒径の大きなシリカを担持して皮膜を形成しているため、浸透性のある油汚れ等に対しては皮膜に浸透しやすく、本発明者が目指す自己洗浄能力は得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決するためのものであり、皮膜の親水持続性が良好であり、かつ、浸透性のある油汚れ等の汚れに対しても容易に除去することができる自己浄化能力に優れた水系親水性塗料組成物を提供することである。
【0012】
また、この水系親水性塗料組成物を用いることにより、皮膜の親水持続性が良好であり、かつ、浸透性のある油汚れ等の汚れに対しても容易に除去することができる自己浄化能力に優れた皮膜を形成した表面処理材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来技術の抱える前記問題点を解決するための手段について鋭意検討した。その結果、コロイダルシリカに有機官能基を有するオルガノアルコキシシランを修飾させた無機化合物と水溶性樹脂とM
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカとを特定の比率で添加してなる水系親水性塗料組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、コロイダルシリカ(a)に有機官能基(グリシジル基、ビニル基、アミノ基)を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)のうちの少なくとも1種類以上を修飾させた無機化合物(A)と、水溶性樹脂(B)と、M
2O・SiO
2(ここで、
Mはアルカリ金属であり、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)と、を添加してなることを特徴とする付着汚れに対する自浄能力に優れた皮膜を形成する水系親水性塗料組成物である。
【0015】
そして、前記無機化合物(A)である成分(a)と成分(b)との質量比(a/b)が0.25〜4であってもよい。
【0016】
また、前記無機化合物(A)と前記水溶性樹脂(B)との質量比(A/B)が1.0〜9.0であってもよい。
【0017】
更に、前記無機化合物(A)及び前記水溶性樹脂(B)の合計と前記アモルファスシリカ(C)との質量比(C/[A+B])が0.05〜0.2であってもよい。
【0018】
そして、基材表面に上記の水系親水性塗料組成物を塗布及び乾燥させる工程を含むことを特徴とする、付着汚れに対する自浄能力に優れた皮膜を形成した及び表面処理材の製造方法、及びこの方法により製造されたことを特徴とする親水性皮膜を形成した表面処理材である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水系親水性塗料組成物は、鉄、アルミニウム、マグネシウム等の金属材料、プラスチック、外壁、木材、等の表面に塗布及び乾燥させることにより、親水持続性の良い皮膜を形成させることができ、これにより家電製品や建築材料の表面に付着した汚染物質を容易に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、下記の項目を以下の順序で説明する。
1 水系親水性塗料組成物
2 水系親水性塗料組成物の使用方法
3 水系親水性塗料組成物にて処理された表面処理材
4 作用
【0021】
≪水系親水性塗料組成物≫
本発明に係る水系親水性塗料組成物は、コロイダルシリカ(a)に有機官能基(グリシジル基、ビニル基、アミノ基)を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)のうちの少なくとも1種類以上を修飾させた無機化合物(A)と、水溶性樹脂(B)と、M
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)と、を添加してなることを特徴とする。以下、各原料を詳述する。
【0022】
<無機化合物(A)>
本発明に係る無機化合物(A)は、コロイダルシリカ(a)と、有機官能基(グリシジル基、ビニル基、アミノ基)を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)のうちの少なくとも1種類以上とを混合し、コロイダルシリカに前記オルガノアルコキシシランを修飾させた成分である。本発明に係る無機化合物(A)において、有機官能基を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)は、コロイダルシリカの表面に、ファンデルワールス力により物理吸着もしくは共有結合により化学吸着されている。コロイダルシリカの表面に吸着されていない有機物は、塗料組成物を塗布及び乾燥させた表面処理材において固定化することが出来ず、容易に水に溶解するため、本発明者が目指す自己洗浄能力を得る事が出来ない。以下、無機化合物(A)を構成する各成分(a)及び(b)を詳述する。
【0023】
(成分(a))
コロイダルシリカは、特に限定されないが、好適なコロイダルシリカは、無水の二酸化珪素を微粒子化し、コロイド状にしたものをナトリウムあるいはアンモニア等のアルカリイオンにより電気二重層を形成し、粒子間の反発によりコロイドを安定化させたものであり、更に好適なコロイダルシリカは、この安定化に使用するナトリウムあるいはアンモニア等のアルカリ成分をできる限り低減させたものである。また、形状としては球形であることが好ましいが、異形、鎖状や鱗片状を形成しているものでもよい。また、このコロイダルシリカの粒子径としては、細かい方が本発明の求める自己洗浄能力の持続性が良好である。具体的には、平均粒子径は、1nm〜50nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜20nmの範囲であり、特に好ましくは5〜15nmの範囲である。ここで、コロイダルシリカの平均粒径とは、個数平均粒径であり、窒素吸着法により測定したものである。
【0024】
該コロイダルシリカに使用できるものとしては、例えば、スノーテックス−XS、スノーテックス−S、スノーテックス−30、スノーテックス−50、スノーテックス−20L、スノーテックス−XL、スノーテックス−OXS、スノーテックス−OS、スノーテックスO、スノーテックス−O−40、スノーテックスOL、スノーテックス−NXS、スノーテックス−NS、スノーテックス−N、スノーテックス−N−40、スノーテックス−CXS、スノーテックス−C、スノーテックス−CM、スノーテックス−UP、スノーテックス−OUP、LSS35(いずれも日産化学工業(株)製、商品名)、アデライトAT−20A、アデライトAT−30(いずれも(株)ADEKA製)等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上混合して使用してもよい。
【0025】
(成分(b))
前記コロイダルシリカに修飾させるオルガノアルコキシシラン化合物としては、特に限定するものではないが、好適には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、等のエポシキシラン類;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、等のアミノシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニルシラン類;等のシランカップリング剤等が挙げられる。これらのうち、(b)の種類として特に好適なのは、グリシジル基を有しているものである。グリシジル基は開環することにより、樹脂等のカルボキシル基や水酸基、アミノ基、酸無水物等と架橋反応し、より緻密なネットワーク構造を形成しすいため親水皮膜を強靭化することができる結果、効果的に自己洗浄能力を発揮するからである。
【0026】
(修飾手法)
前記コロイダルシリカ(a)に前記オルガノアルコキシシラン化合物(b)を修飾させる方法としては、特に限定するものではないが、プラズマ処理、コロナ処理、レーザー照射、UV照射、等によって無機化合物の表面の一部をイオン化もしくは酸化したのちに有機物と物理結合もしくは化学結合させる方法、金属アルコキシド化合物をゾルゲル法により脱水縮合させる過程もしくは脱水縮合後に有機物と物理結合もしくは化学結合させる方法、キレート化合物によるキレート作用による方法、等が考えられる。より具体的には、前記コロイダルシリカ(a)とオルガノアルコキシシラン(b)を容器にとって加温、攪拌する等の手法で行ってもよい。加温は加水分解を効率よく進めるため30〜80℃が好ましい。例えば、特開2005−162533号公報記載のような方法が挙げられる。これにより、コロイダルシリカの表面を効率よく修飾することが可能となる。
【0027】
<水溶性樹脂(B)>
水溶性樹脂(B)としては、特に限定するものではないが、適用する用途に合わせて任意に選択することができる。例えば、屋外等の直射日光等に曝されるような場合には、太陽光によって変色・変質することを避けるために塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、等が使用される。また、室内用途の場合にはポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ナイロン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアクリル酸共重合体等が使用される。
【0028】
<アモルファスシリカ(C)>
M
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)としては、特に限定するものではなく、例えば、珪酸アルカリ金属塩水溶液から得られた珪酸水溶液にテトラエタノールアンモニウム水酸化物又はモノメチルトリエタノールアンモニウム水溶液等の第4級アンモニウム水酸化物を添加してアルカリ金属塩をイオン交換等により除去し生成されたシリカゾルであって、イオン交換樹脂等を用いてアルカリ成分を可能な限り除去し合成された非晶質のシリカを挙げることができる。また、アルカリ金属成分Mとしてはナトリウム、カリウム、リチウムからなる金属成分であればよく、特にナトリウム成分の珪酸塩が生産コストや製造工程から通常用いられる。また、これらのアモルファスシリカの粒子径としては細かい方が本発明の求める自己洗浄能力の持続性が良好である。具体的には、平均粒子径は、1nm〜50nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜20nmの範囲であり、特に好ましくは7〜15nmである。尚、このアモルファスシリカ粉末の平均径は、レーザー回折散乱法により測定した値である。
【0029】
<他の任意成分>
本発明の水系親水性塗料組成物は、基材に対する濡れ性を向上させるためのレベリング剤、造膜性を向上させるための造膜助剤、皮膜をより強固な皮膜とするための有機架橋剤、無機架橋剤、乾燥性を向上させるための揮発性の高い水溶性溶剤、発泡を抑制するための消泡剤、粘性をコントロールするための増粘剤、基材に潤滑性を付与するための界面活性剤、WAX、更には必要に応じて防錆剤、抗菌防ばい剤、充填剤、着色剤等を本発明の趣旨、及び皮膜性能を損なわない範囲で、任意の割合で配合することができる。
【0030】
<液体媒体>
液体媒体は水を主成分とする(例えば、全溶媒の容量を基準として、90容量%以上)。
【0031】
<配合比>
(成分(A)における成分(a)と成分(b)との比)
コロイダルシリカ(a)にオルガノアルコキシシラン(b)を修飾させた無機化合物(A)である成分(a)と成分(b)との質量比(a/b)は、0.25〜4であることが好ましく、より好ましくは0.3〜2であり、更に好ましくは0.4〜1である。コロイダルシリカにオルガノアルコキシシランを修飾させた無機化合物(A)である成分(a)と成分(b)との質量比(a/b)が0.25未満の場合にはコロイダルシリカ成分が少ないため親水性が低下し、自己洗浄能力も低下傾向となる。一方、無機化合物(A)である成分(a)と成分(b)との質量比(a/b)が4を超える場合には、コロイダルシリカ成分が多いため皮膜が脆くなり、自己洗浄性能力の持続性が低下する場合がある。
【0032】
(成分(A)と成分(B)との比)
無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)との質量比(A/B)が1.0〜9.0であることが好ましく、より好ましくは4〜8であり、更に好ましくは6〜7である。無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)との質量比(A/B)が1.0未満の場合には、汚染物質に対する自己洗浄能力が低下傾向となる。一方、無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)との質量比(A/B)が9.0を超える場合には、皮膜が硬くなって潤滑性が低下し、加工性が得られない。また、皮膜にクラックが入りやすくなるため、自己洗浄能力も低下傾向となる。
【0033】
(成分(A)及び成分(B)の合計と成分(C)との比)
無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)の合計とアモルファスシリカ(C)との質量比(C/[A+B])は0.05〜0.2であることが好ましく、より好ましくは0.08〜0.12である。無機化合物(A)及び水溶性樹脂(B)の合計とアモルファスシリカ(C)との質量比(C/[A+B])が0.05未満の場合には、親水性が低下し自己洗浄能力の持続性が低下傾向となる。一方、無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)の合計とアモルファスシリカ(C)との質量比(C/[A+B])が0.2を超える場合には、耐水性が低下して皮膜が脆くなり、耐食性が低下したり、更には長期間の自己洗浄能力が低下傾向となる。
【0034】
<液性>
本発明の水系親水性塗料組成物のpHは7〜11の範囲であることが好ましく、より好ましくは8〜10であることが好ましい。pHが7未満の場合には、薬剤の安定性の維持が困難な場合があり、pHが11超の範囲では皮膜の造膜不良が発生する場合があるため、付着汚れに対する自己浄化能力が低下傾向となる。ここで、当該pHは、pH測定機器:東亜DKK株式会社 pHメーター MM−60Rで測定された値を指す。
【0035】
≪水系親水性塗料組成物の使用方法≫
(対象基材)
本発明の水系親水性塗料組成物を塗布する対象素材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム、等の金属材料及び金属合金材料、意匠性を付与するために塗装を施した塗装金属材料、プラスチック製品、ガラス、フィルム、建物の外壁、ガードレール、防音壁、自動車、電車、飛行機、家電製品等が挙げられる。特にアルミニウム及びアルミニウム合金では、優れた親水性と付着汚れに対する自己浄化能力を付与することができる。
【0036】
(プロセス)
本発明の水系親水性塗料組成物は、対象となる基材表面に塗布及び乾燥することにより、優れた付着汚れに対する自己浄化能力を付与させることができる。本発明の水系親水性塗料組成物の塗布方法としては、特に限定するものではないが、スプレー塗装、エアレススプレー塗装、ローラー塗装、ハケ塗り、ロールコーター、シャワー絞り、浸漬処理等が挙げられる。
【0037】
本発明の水系親水性塗料組成物の乾燥方法としては、特に限定するものではないが、化石燃料や電気ヒーターを熱源とした温風もしくは熱風による加熱乾燥、電子線もしくは紫外線の照射による乾燥、自然乾燥、等が挙げられる。
【0038】
本発明の水系親水性塗料組成物の乾燥温度としては、特に限定されるものではないが、60〜250℃で乾燥される。この温度範囲は、その範囲内で樹脂成分の種類や、膜厚、塗布される基材によって任意に変化させることができるが、80℃〜230℃の範囲が好ましい。
【0039】
≪表面処理材≫
本発明に係る、付着汚れに対する自浄洗浄能力に優れた皮膜を形成した表面処理材は、前述した基材上に、本発明の水系親水性塗料組成物を用いて得られる皮膜を有している。
【0040】
(膜厚)
本発明の水系親水性塗料組成物を用いて得られる皮膜の膜厚については、0.05〜50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜20μmの範囲である。本発明の親水性塗料組成物を用いて得られる皮膜の膜厚が0.05μm未満の場合には、付着汚れに対する自己浄化能力が乏しく、50μmを超える場合には、皮膜を乾燥するのに要する時間が掛かることと、処理費用が高くなるため経済的でない。また、皮膜にクラックが入りやすくなるため汚染物質が浸透しやすくなり、自己洗浄能力が低下傾向となる場合がある。
【0041】
(下地膜)
本発明の水系親水性塗料組成物は、基材の表面に塗布し皮膜形成することで良好な性能が得られる。しかし、さらなる耐食性向上のために水系親水性塗料組成物の下地として、耐食性下地層を被覆してもよい。この耐食性下地層は、基材の表面に、化成処理、例えば、クロム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む化成処理剤から形成してもよい。又は、耐食性を保持できる樹脂をコーティングしてもよい。化成処理層であれば、2〜500mg/m
2の皮膜量又は0.002〜0.5μmの厚さに形成されることが好ましい。樹脂のコーティング層であれば、0.1〜5g/m
2又は0.1〜5μmの厚さに形成されていることが好ましい。これらは、化成処理と樹脂コーティングを2層処理し、水系親水性塗料組成物を塗布してもよい。
【0042】
≪作用≫
本発明の水系親水性塗料組成物を用いて形成された皮膜は、親水持続性が良好であり、かつ、浸透性のある油汚れ等による汚染物質に対しても容易に除去することができる自己浄化能力に優れる。本発明の親水性塗料組成物で付着汚れに対する自己洗浄能力が優れる理由については、特に明確にはなっていないが以下のように推察される。コロイダルシリカ(a)に有機官能基(グリシジル基、ビニル基、アミノ基)を有するオルガノアルコキシシラン化合物(b)のうちの少なくとも1種類以上を修飾させた無機化合物(A)が水溶性樹脂(B)と架橋反応し、シラノール結合と有機官能基による複合化された強固な三次元ネットワーク構造を有する皮膜を形成すると考える。これにより、皮膜の造膜性が格段に向上し、平滑な連続皮膜と曲げや延びに対しても耐えうる皮膜自体の強靭性が保持できるため、皮膜の耐水性、及び耐溶剤性が従来の皮膜よりも格段に向上し、いかなる基材においても優れた皮膜を形成する。更にM
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)を含有することで長期にわたる親水性保持力が発現する。これは、アモルファスシリカ表面の親水基成分である水酸基が表面上に多く存在し、更に含有しているアルカリ金属成分が皮膜性能に影響を与えない程度に表面を親水状態に保持する効果がある。また、強靭な皮膜を構成している無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)ともシラノール結合による架橋が促進することによる複合化作用により、汚染物質が付着しても皮膜特有の親水性作用により、表面が水分で濡れた場合には、皮膜の表面上に薄い水膜を形成し、付着汚れの最下層に水が浸透しやすい状態になる。付着汚れの下には、耐水性、耐溶剤性を併せ持つ連続皮膜があるため、皮膜の表面に付着した汚れは、皮膜への浸透が妨げられ、皮膜が濡れ、付着汚れの下層部に水分が浸透することにより、容易に付着汚れが剥離していくものと考える。また、これら付着汚れから発生する臭気成分を同様に洗浄できるため、臭い成分も同様に除去される。自己洗浄能力については以上に述べた通りであるが、この効果測定は後述する耐汚染回復性により可能である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を、実施例及び比較例を用いて、具体的に説明する。これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0044】
[試験板の作製]
(1)供試材
アルミニウム合金板(JIS A1050、板厚0.26mm)をファインクリーナー4377(商品名:日本パーカライジング株式会社製アルカリ脱脂剤)の2%水溶液で60℃・10秒間スプレー脱脂した後、水洗して表面を清浄した。続いて、アルミニウム合金板の表面の水分を蒸発させるために、80℃で1分間、加熱乾燥した。脱脂洗浄したアルミニウム合金板の表面に、表1に示した実施例1〜27及び比較例1〜8の水系親水性塗料組成物の5質量%水溶液をバーコート(#5バー)によって塗布し、熱風循環式乾燥炉内で200℃、1分間乾燥し、アルミニウム合金板の表面に水系親水性塗料組成物の皮膜を形成した。
【0045】
使用する水系親水性塗料組成物は、下記に示す各成分を表1に示すような組成で混合して得た。尚、表1の原料の配合量は、水系親水性塗料組成物中に配合される原料の固形分量(質量)の総量を100とし、各原料の固形分量の配合比を百分率で表す。水系親水性塗料組成物の調製方法としては、まず、所定のコロイダルシリカとオルガノアルコキシシランとを加温及び混合して無機化合物(A)を調製し、その後溶媒として水と、その他各種成分を添加した。
【0046】
[無機化合物A]
<コロイダルシリカ>
a1:スノーテックスOXS 平均粒径4〜6nm 日産化学工業(株)製
a2:スノーテックスOS 平均粒径8〜11nm 日産化学工業(株)製
a3:スノーテックスO 平均粒径10〜15nm 日産化学工業(株)製
a4:スノーテックスOL 平均粒径40〜50nm 日産化学工業(株)製
a5:スノーテックスOUP 平均粒径40〜100nm 日産化学工業(株)製
*尚、粒子径の範囲は製品ロット毎の変動幅を表す
<オルガノアルコキシシラン>
b1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
b2:ビニルトリエトキシシラン
b3:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン
[水溶性樹脂]
B1:ポリアクリル酸共重合体 重量平均分子量10000
B2:ポリアクリルアミド 重量平均分子量30000
B3:ポリビニルアルコール 重量平均分子量45000
B4:ポリビニルピロリドン 重量平均分子量100000
[アモルファスシリカ]
C1:PC−500 日産化学工業(株)製(M
2O/SiO
2=0.2)
C2:珪酸ソーダ3号 日本化学工業製(111g)と、スノーテックスO 日産化学工業製(853g)を混合し、アモルファスシリカを調整(M
2O/SiO
2=0.05)
C3:FJ294 グランデックス(株)製(M
2O/SiO
2=0.292)
*平均粒径は何れも10〜12nm
*M
2O/SiO
2は質量比
【0047】
塗布した試験板については以下のように評価を行った。
【0048】
〔評価方法〕
(1)初期親水性(初期接触角)
供試試験板にイオン交換水1μLを滴下し、対水接触角を接触角計により測定した。測定機器:自動接触角計DM−501(協和界面科学(株)製)
[評価基準]
◎ :接触角20゜未満
○ :20゜以上30゜未満
△ :30゜以上40゜未満
△×:40゜以上50゜未満
× :50゜以上
【0049】
(2)親水保持性(流水経時後接触角)
(1)で使用した供試試験板を室温(25℃)でイオン交換水流水中に24時間浸漬後の対水接触角を同様に接触角計で測定した。測定機器:自動接触角計DM−501(協和界面科学(株)製)
[評価基準]
◎ :接触角20゜未満
○ :20゜以上30゜未満
△ :30゜以上40゜未満
△×:40゜以上50゜未満
× :50゜以上
【0050】
(3)耐湿潤性
供試試験片を、50℃、98%RHの回転式恒温恒湿槽に120時間放置し、放置後の外観を目視により観察した。
[評価基準]
◎:腐食面積10%未満
○:腐食面積10%以上30%未満
△:腐食面積30%以上50%未満
×:腐食面積50%以上
【0051】
(4)密着性
供試試験片を湿潤(温度50℃、湿度98%RH)雰囲気中に24hr放置した後、室温で乾燥後、塗膜に、1mm角、100個の碁盤目をNTカッターで切り入れ、粘着テープによる剥離テスト(JIS K5600−5−6に準拠)を行い、塗膜剥離個数にて評価した。評価基準を以下に示す。
[評価基準]
◎:剥離無し
○:剥離個数10個未満
△:剥離個数10個以上50個未満
×:剥離個数50個以上
【0052】
(5)耐汚染回復性
試験開始前の対水接触角を測定し、その後、汚染物質を模したパルミチン酸を放置したビーカー内に供試試験板を放置し、密封した50℃雰囲気の恒温槽に24時間放置した。その後、試験板を取り出し、流水に1時間放置後の対水接触角を測定した。その時の試験前後の接触角の差(試験後の接触角−試験前の接触角)を回復度として評価した。
[評価基準]
◎ :試験前後の接触角の差が10゜未満
○ :試験前後の接触角の差が10゜以上20゜未満
△ :試験前後の接触角の差が20゜以上50゜未満
× :試験前後の接触角の差が50゜以上
【0053】
(6)潤滑加工性
供試試験に揮発性プレス油(商品名;AF−2A 出光興産(株)製)を塗布し、バウデン式摩擦摩耗試験機で荷重0.2kg、3mmφ鋼球を使用し、初期摩擦係数(1往復目)を測定した。
[評価基準]
◎ :摩擦係数0.2未満
○ :摩擦係数0.2以上、0.3未満
△ :摩擦係数0.3以上、0.4未満
× :摩擦係数0.4以上
【0054】
(7)液安定性
実施例1〜27、比較例1〜8の表面処理剤をそれぞれ、200cc〜300ccのポリ容器にそれぞれ封入し、25℃の雰囲気中で2週間静置した後の薬剤の状態を評価した。
[評価基準]
○ :固化、分離及び沈殿なし
△ :固化と分離がないが沈殿有り
× :固化と分離あり
【0055】
以上の試験手順で評価を行った結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、実施例1〜27の親水性塗料組成物は、基材上の皮膜の親水持続性が良好であり、かつ、浸透性のある油汚れ等の汚れに対しても容易に除去することができる自己浄化能力に優れた水系親水性塗料組成物の皮膜を形成することができた。
【0059】
但し、無機化合物(A)のコロイダルシリカ(a)とオルガノアルコキシシラン(b)との好適な配合比率a/bの範囲を外れた実施例22及び23、又は無機化合物(A)と水溶性樹脂(B)の好適な配合比率A/Bの範囲を外れた実施例24及び25、更には、M
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)と無機化合物(A)及び水溶性樹脂(B)の合計との配合比率C/(A+B)の好適範囲を外れた実施例26及び27の水系親水性塗料組成物は、実施例1〜21と対比すると、やや親水持続性が低下する結果となった。
【0060】
他方、コロイダルシリカ(a)を含まない比較例1、オルガノアルコキシシラン(b)を含まない比較例2、コロイダルシリカ(a)及びオルガノアルコキシシラン(b)を含まない比較例3では、無機化合物の強靭な皮膜が形成できないため、親水保持性、湿潤性、耐汚染回復性が著しく低下した。
【0061】
更に、水溶性樹脂(B)を含まない比較例4、M
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)を含まない比較例5、及び無機化合物(A)、水溶性樹脂(B)、M
2O・SiO
2(ここで、M
2O/SiO
2の質量比が0.05〜0.3である)で示されるアモルファスシリカ(C)のみを塗布した比較例6〜8においても親水保持性、湿潤性、耐汚染回復性が著しく低下した。