特許第6043684号(P6043684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043684
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】追抜き加工方法及び追抜き加工用金型
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/00 20060101AFI20161206BHJP
   B21D 28/34 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B21D28/00 C
   B21D28/34 C
   B21D28/34 D
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-113722(P2013-113722)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-100739(P2014-100739A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-234353(P2012-234353)
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 茂
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−070818(JP,U)
【文献】 特開平01−122625(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/158582(WO,A1)
【文献】 特開平06−297053(JP,A)
【文献】 実開平04−054525(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00
B21D 28/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長い形状のダイ孔を備えたダイ金型と、上記ダイ孔に対して係合離脱自在なパンチ刃部を備えたパンチ金型とによって板状のワークの追抜き加工を行う追抜き加工方法であって、
(a)前記ダイ孔に対して前記パンチ刃部を係合したときに、前記ダイ孔の幅方向の両側と追抜き加工の進行方向の三方向がワークに接続状態にある半抜き加工部分を形成する工程、
(b)前記半抜き加工部分とのみ一体である先端側部分を、前記パンチ刃部の下面に備えた突っ切り刃部のみによって突き破り剪断する工程、
(c)前記(a)、(b)工程を適数回繰り返す工程、
(d)最終工程において半抜き加工部分をワークから剪断分離する工程、
の各工程を備えていることを特徴とする追抜き加工方法。
【請求項2】
パンチ金型とダイ金型とを備えた追抜き加工用金型であって、前記ダイ金型は、長い形状のダイ孔を上面に備えると共に当該ダイ孔の下側に中空部を備えたダイ本体を備え、前記パンチ金型は、前記ダイ孔に対して係合離脱自在なパンチ刃部を備え、前記ダイ孔に対する前記パンチ刃部の係合時に、前記ダイ孔の幅方向の両側と追抜き加工の進行方向の三方向がワークに接続状態にある半抜き加工部分を形成するための傾斜した傾斜剪断刃を前記パンチ刃部の下面に備えると共に、前記半抜き加工部分とのみ一体である先端側部分を突き破り剪断するための突っ切り刃部を前記パンチ刃部の下面に備えていることを特徴とする追抜き加工用金型。
【請求項3】
請求項2に記載の追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃は、前記パンチ刃部の中央部側が低く傾斜しており、前記突っ切り刃部は、前記傾斜剪断刃よりも下方向へ突出形成してあり、前記傾斜剪断刃と前記突っ切り刃部の境界である段差部をほぼ円弧状の曲面に形成してあることを特徴とする追抜き加工用金型。
【請求項4】
請求項3に記載の追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃における傾斜上端と傾斜下端との高低差は、前記段差部の段差寸法よりも小さいことを特徴とする追抜き加工用金型。
【請求項5】
請求項2,3又は4に記載の追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃と前記突っ切り刃部との境界に備えた段差部のエッジの角度は90°又は鋭角に形成してあることを特徴とする追抜き加工用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状のワークに追抜き加工を行う追抜き加工方法及び追抜き加工用金型に係り、さらに詳細には、ワークの追抜き加工時にワークから切断分離された部分(スクラップ)を短く剪断することができ、かつ前記スクラップ部分をパンチ金型のみによって突き破り剪断する追抜き加工方法及び追い抜き加工用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状のワークの追抜き加工を行うとき、ワークの打抜き加工を行う毎に、ワークの表面に微細な塑性変形が生じるので、外観向上において問題があった。そこで、パンチ刃部が傾斜したパンチを用いて、前記パンチ刃部の途中までの打抜き加工を繰り返すことにより、前記塑性変形の発生を抑制する追抜き加工方法が提案されている。
【0003】
上記追抜き加工方法においては、ワークから切断分離されてスクラップとなる部分が長く生じるという新たな問題がある。このような問題を解決するために、ワークの追抜き加工を行う度に生じたスクラップを短く切断する追抜き加工用金型が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−297053号公報
【特許文献2】特開2003−230920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の追抜き加工用金型は、図5に示すごとき構成である。すなわち、追抜き加工用金型は、パンチ101とダイ103とを備えている。前記パンチ101は断面形状が長方形状の刃部本体105を備えており、この刃部本体105の先端部(下端部)には、共に傾斜した打抜刃部105Aと切込刃部105Bとを備えている。そして、前記打抜刃部105Aと切込刃部105Bの幅寸法A,Bはほぼ等しい寸法であり、前記打抜刃部105Aと切込刃部105Bとの間には段差部107が形成してある。
【0006】
前記ダイ103は、前記パンチ101の打抜刃部105Aに対応した打抜用貫通孔103Aに隣合ってスリット状の切込用凹部103Bを備えている。上記切込用凹部103Bは、前記パンチ101の切込刃部105Bに対応する部分であるが、切込刃部105Bの幅寸法Bよりも十分に長く構成してある。そして、前記切込用凹部103Bの底壁109には、前記段差部107に対応する切断エッジ109Aを備えた構成である。
【0007】
前記構成において、図5(A)に示すように、ダイ103上にワークWを位置決めした後、図5(B)に示すように、パンチ101を下降してワークWの打抜き加工を行うと、パンチ101における打抜刃部105AによってスクラップS1が打抜かれ、切断エッジ109Aと段差部107との協働によって切断分離される。また、前記スクラップS1に連続した連続部分S2は、前記パンチ101の切込刃部105Bによって打抜かれるものの、ワークWから切断分離されることなく、ダイ103の切込用凹部103B内において傾斜した状態にある(図5(B),(C)参照)。
【0008】
その後、前記ワークWの連続部分S2がダイ103の打抜用貫通孔103Aに位置するようにワークWを移動した後(図5(D)参照)、パンチ101を下降してワークWの打抜き加工を行うことにより、新たなスクラップS1及び連続部分S2が加工されることになる(図5(E)参照)。すなわち、ワークWからスクラップS1、連続部分S2を次々に打抜くことを繰り返すことによって、ワークWの追抜き加工を行うものである。
【0009】
したがって、上記構成のパンチ101,ダイ103においては、図5(F)に示すように、最終工程に連続部分S2が残るという問題があると共に、ダイ103における切断用凹部103Bの底に、切断エッジ109Aを備えた底壁109を必要とするものであり、ダイ103の構成が複雑になる、という問題がある。
【0010】
また、例えばワークWの板厚が3mm以上の厚板である場合には、前記ダイ103における打抜用貫通孔103Aと前記切断エッジ109Aとの間が狭く十分な間隔がない上に、スクラップS1の総面積(質量)が大きいことから、打抜用貫通孔103Aの内周面と切断エッジ109Aとの間にスクラップS1が詰まることがあり、スクラップSの排出を円滑に行うことができないことがある、という問題がある。
【0011】
前記特許文献2に記載の構成は、図6に記載のとおりである。すなわち、パンチ201は、パンチ刃部203の下面に、傾斜した傾斜剪断刃205を備えると共に、水平剪断刃207を備えている。さらに、前記パンチ刃部203の下面には下方向に突出した突出剪断刃209を備えており、この突出剪断刃209と前記水平剪断刃207との間には段差部211が形成してある。
【0012】
前記パンチ201と協働して板状のワークWに追抜き加工を行うダイ213には、前記パンチ刃部203に対応した長方形状のダイ孔215が形成してある。そして、前記ダイ孔215の下側のスクラップ排出穴217内には、前記突出剪断刃209と協働してスクラップS(図6(D)参照)の剪断を行うためのスクラップ剪断刃219が備えられている。
【0013】
上記構成においては、ワークWに追抜き加工を行うには、追抜き加工を行うワークWの始端部には予め始端孔WH(図6(A)参照)の打抜き加工を行い、かつワークWの追抜き加工終端位置には予め終端孔(図示省略)を打抜き加工するものである。そして、ワークWの追抜き加工を行うときには、先ず、図6(A)に示すように、ワークWの前記始端孔WHがパンチ201の突出剪断刃209に対応した位置に位置決めする。
【0014】
その後、図6(B)に示すように、前記始端孔WHに隣接した部分を、前記傾斜剪断刃205及び水平剪断刃207によって半抜き加工する。そして、次に、図6(C)に示すように、前記半抜き加工部分の先端側を前記突出剪断刃209に対応した位置に位置決めし、剪断加工を行うと、図6(D)に示すように、前記突出剪断刃209とスクラップ剪断刃219との協働によってスクラップSの剪断が行われると共に、次に続く部分の半抜き加工が行われる。上述のごとき剪断加工を、予め加工した終端孔の位置まで繰り返すことにより、追抜き加工が行われるものである。
【0015】
上述の場合には、半抜き加工部分が残るようなことはなく、前記特許文献1における前記問題は解消されるものの、追抜き加工を行うワークの始端部及び終端部に、始端孔、終端孔を予め加工する必要がある、という新たな問題を有するものである。
【0016】
また、例えばワークWの板厚が3mm以上の厚板である場合には、前記ダイ213におけるダイ孔215の下側のスクラップ排出穴217と前記スクラップ剪断刃219との間が狭く十分な間隔がない上に、スクラップSの総面積(質量)が大きいことから、スクラップ排出穴217の内周面とスクラップ切断刃219間にスクラップSが詰まることがあり、スクラップSの排出を円滑に行うことができないことがある、という問題がある。
【0017】
ところで、前記特許文献1,2の構成においては、一対の剪断刃(特許文献1においては、打抜刃部105Aと切断エッジ109A、特許文献2においては、突出剪断刃209とスクラップ剪断刃219)によってスクラップSの剪断を行う構成である。したがって、ダイの内部に前記切断エッジ109Aやスクラップ剪断刃219を備える必要があり、ダイの構成が複雑である、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、長い形状のダイ孔を備えたダイ金型と、上記ダイ孔に対して係合離脱自在なパンチ刃部を備えたパンチ金型とによって板状のワークの追抜き加工を行う追抜き加工方法であって、前記ダイ孔に対して前記パンチ刃部を係合したときに、前記ダイ孔の幅方向の両側と追抜き加工の進行方向の三方向がワークに接続状態にある半抜き加工部分を形成する(a)工程と、前記半抜き加工部分とのみ一体である先端側部分を、前記パンチ刃部の下面に備えた突っ切り刃部のみによって突き破り剪断する(b)工程と、前記(a)、(b)工程を適数回繰り返す(c)工程と、最終工程において半抜き加工部分をワークから剪断分離する(d)工程、の各工程を備えていることを特徴とするものである。
【0019】
また、パンチ金型とダイ金型とを備えた追抜き加工用金型であって、前記ダイ金型は、長い形状のダイ孔を上面に備えると共に当該ダイ孔の下側に中空部を備えたダイ本体を備え、前記パンチ金型は、前記ダイ孔に対して係合離脱自在なパンチ刃部を備え、前記ダイ孔に対する前記パンチ刃部の係合時に、前記ダイ孔の幅方向の両側と追抜き加工の進行方向の三方向がワークに接続状態にある半抜き加工部分を形成するための傾斜した傾斜剪断刃を前記パンチ刃部の下面に備えると共に、前記半抜き加工部分とのみ一体である先端側部分を突き破り剪断するための突っ切り刃部を前記パンチ刃部の下面に備えていることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃は、前記パンチ刃部の中央部側が低く傾斜しており、前記突っ切り刃部は、前記傾斜剪断刃よりも下方向へ突出形成してあり、前記傾斜剪断刃と前記突っ切り刃部の境界である段差部をほぼ円弧状の曲面に形成してあることを特徴とするものである。
【0021】
また、前記追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃における傾斜上端と傾斜下端との高低差は、前記段差部の段差寸法よりも小さいことを特徴とするものである。
【0022】
また、前記追抜き加工用金型において、前記傾斜剪断刃と前記突っ切り刃部との境界に備えた段差部のエッジの角度は90°又は鋭角に形成してあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、パンチ金型とダイ金型との協働によって板状のワークに追抜き加工を行うとき、ワークから半抜き加工された部分の先端側を切断分離することができ、スクラップを短く剪断することができると共に、最終工程においては、半抜き加工された部分を残すことなく加工することができる。また、ダイにおいて、ダイ孔の下側を中空部に形成でき、ダイの構成の簡素化を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】パンチ金型の構成を示す説明図である。
図2】ダイ金型の構成を示す説明図である。
図3】パンチ金型とダイ金型との協働による追抜き加工の作用説明図である。
図4】打抜き加工時に生じる微細な塑性変形発生位置の説明図である。
図5】従来のパンチ,ダイの構成及び作用の説明図である。
図6】従来のパンチ,ダイの構成及び作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照するに、本発明の実施形態に係るパンチ金型1は断面形状が円形状のパンチ本体(パンチボディ)3を備えている。このパンチ本体3は、例えばタレットパンチプレスなどのパンチプレスにおける上型ホルダ(例えば上部タレット)に装着される上金型における筒状のパンチガイド内に上下動自在に嵌合されるものである。なお、上記上金型の構成はよく知られた構成であるから、理解を容易にするために、上金型の全体的な構成の説明は省略し、主要な構成のみについて説明することとする。
【0026】
前記パンチ本体3の下部中央部には、断面形状が長方形状でパンチ本体3の径方向に長いパンチ刃部5が下方向へ突出して備えられている。そして、このパンチ刃部5の先端面(下面)には、前記パンチ本体3の径方向の中央部側が低く傾斜した傾斜剪断刃7が備えられていると共に、前記傾斜剪断刃7よりも下方向へ突出した突っ切り刃部9が備えられている。上記パンチ刃部5は、後述するダイ金型におけるダイ孔に対して係合離脱自在である。
【0027】
前記傾斜剪断刃7と前記突っ切り刃部9との境界はエッジ9Eを備えた段差部11に形成してあり、この段差部11は、図1(B)に示すように、ほぼ円弧状の曲面に形成してある。前記段差部11は、前記パンチ刃部5の中央、すなわち前記パンチ本体3の軸心から偏倚した位置に備えられている。換言すれば、図1に示すように、前記傾斜剪断刃7の径方向の長さよりも、前記突っ切り刃部9の径方向の長さが短く形成してある。そして、前記突っ切り刃部9の下端面は水平に、又は中央部側が僅かに低くなるように傾斜してある。すなわち、図1(A)に示すように、前記段差部11を側面視したとき、前記突っ切り刃部9の下端面と段差部11とが交差するエッジ9Eの角度を90°又は鋭角に形成してある。
【0028】
したがって、ワークの剪断加工を行うとき、前記エッジ9Eの作用部分にせん断力が集中することにより、ワークの剪断分離するべき部分をせん断(切断)できず巻き込んでしまうようなことが無くせん断(切断)できる。
【0029】
前記傾斜剪断刃7における傾斜上端7Uと傾斜下端7Lとの間の高低差H1は、前記段差部11の段差寸法(高低差)H2よりも小さく形成してある。前記傾斜剪断刃7における前記高低差H1は、傾斜剪断刃7における前記傾斜上端7UがワークWの上面高さに一致したときに、ワークWの傾斜剪断刃7によって打抜かれるべき部分が、半抜き加工(ハーフブランキング)状態になる高低差に設定してある。
【0030】
前記パンチ金型1と協働してワークWの追抜き加工を行うダイ金型13は、図2に示すように、円盤形状のダイ本体15を備えており、このダイ本体15の上面には、前記パンチ刃部5の断面形状に対応した長方形状のダイ孔17が備えられている。そして、このダイ孔17の下側は、内部が空である中空部19に形成してある。
【0031】
以上のごとき構成において、ダイ本体15上に板状のワークWを載置位置決めした後、パンチ本体3を下降してダイ本体15のダイ孔17内に突っ切り刃部9を挿入し、傾斜剪断刃7の傾斜上端7UがワークWの上面にほぼ一致した位置で下降を停止する(すなわちダイ孔17にパンチ刃部5を浅く係合する)と、前記突っ切り刃部9によってワークWから切断分離すべき部分(スクラップS)が切断分離される。そして、前記傾斜剪断刃7に対応した部分のワークは半抜き加工(ハーフブランキング)された部分HBとなる(図3(A)参照)。
【0032】
なお、ワークWとして、例えば炭素鋼板であって板厚が約3mm、スクラップSの幅寸法が約6mmの場合、前述した従来の切断エッジ109Aやスクラップ剪断刃219に相当する構成がない場合であっても、前記スクラップSの部分を剪断分離することができた。すなわち、ワークWの剛性が大きく、前記半抜き加工部分HBがワークWと一体であり、スクラップSとなる部分は、前記半抜き加工部分HBとのみ一体である。したがって、スクラップSの部分を打抜くときには、半抜き加工部分HBとスクラップSとの接続部付近を、突っ切り刃部9のエッジ9Eで打圧する形態となり、スクラップSが半抜き加工部分HBから剪断分離されるものである。
【0033】
より詳細には、前記半抜き加工部分HBは、前記ダイ孔17の幅方向の両側(図3(A)において紙面に垂直な方向の両側)と追抜き加工方向の進行方向(図3(A)においての右方向)の三方向がワークWに接続した状態にある。すなわち、半抜き加工部分HBは三方向がワークWと一体であって剛性が大きいものである。そして、前記半抜き加工部分HBの先端側部分T(スクラップSとなる部分、図3(B)参照)は、前記半抜き加工部分HBとのみ一体である。換言すれば、前記スクラップSとなる先端側部分Tは、剛性の大きな前記半抜き加工部分HBを介してワークWに接続してある形態である。
【0034】
上記構成において、ダイ本体15に対してパンチ本体3を下降し、前記半抜き加工部分HBと前記先端側部分Tとの間の適宜位置、すなわち、半抜き加工部分HBとスクラップSとなる先端側部分Tとの接続部付近に、図3(B)に示すように、突っ切り刃部9のエッジ9Eを衝撃的に当接する(打撃する)と、前記エッジ9Eが剛性の大きな半抜き加工部分HBと先端側部分Tとの接続部分に食い込む作用を生じて突き破るように剪断(破断)することになり、スクラップSを生じさせることになる。この場合、前記エッジ9Eと対をなす剪断刃は不要なものである。
【0035】
前述のように、前記半抜き加工部分HBと先端側部分Tとの接続部付近に、突っ切り刃部9のエッジ9Eを衝撃的に打撃すると、前記エッジ9Eは90°又は鋭角に形成してあるので、前記打撃部分に剪断応力が集中する。したがって、前記半抜き加工部分HBから前記先端側部分TをスクラップSとして容易に破断することができるものである。
【0036】
上述のように、前記先端側部分Tを突き破り剪断(破断)するときは、前記ダイ本体15の中空部19内に、前記突っ切り刃部9のエッジ9Eと協働する剪断刃を備えることなく、前記パンチ本体3に備えた突っ切り刃部9のエッジ9EのみによってスクラップSを剪断(破断)するものである。したがって、ダイ本体15の中空部19内に剪断刃を備える必要がなく、ダイ本体15における構成の簡素化を図ることができるものである。また、中空部19の内部が空であることにより、生じたスクラップSの排出を円滑に行うことができるものである。
【0037】
なお、追抜き加工の加工開始時には、図3(A)に示すように、スクラップSを切断分離することと、半抜き加工部分HBを形成することは同時的に行われるものである。そして、次の追抜き加工工程においては、図3(B)及び図3(C)に示す工程を経て追抜き加工が行われるものである。この際も、スクラップSを切断分離することと、半抜き加工部分HBを形成することはほぼ同時に行われるものである。ところで、図3(B)に示す状態から図3(C)に示す状態に移行する場合、半抜き加工部分HBの長さを短い状態に保持してスクラップSを剪断分離した後に、半抜き加工部分HBをより長く形成することが望ましいものである。すなわち、半抜き部分を長くして、スクラップSをより長くすることができ、打ち抜きを回数削減できる。
【0038】
ところで、前述のごとく、初回にスクラップSを打抜くとき、前記突っ切り刃部9の角部9CでワークWの打抜きを行うことになる。上記角部9Cで打抜き加工された部分に近接したワークの表面には、微小な塑性変形部分21(図4参照)が生じることになる。しかし、前記突っ切り刃部9における前記段差部11は、ほぼ円弧状の曲面に形成してあって角部が存在しないので、前記段差部11によって打抜き加工される部分には、前述した塑性変形部分21を生じることはないものである。
【0039】
前述のごとく、初回のスクラップSを打抜き加工した後、前記半抜き加工部分HBを、パンチ刃部5の突っ切り刃部9に対応する位置に位置決めした後、パンチ刃部5を下降すると、前記半抜き加工部分HBがスクラップSとして剪断分離されると共に、新たな半抜き加工部分HBが形成されることになる(図3(B),(C)参照)。すなわち、新たなスクラップSを剪断分離すると共に新たな半抜き加工部分HBを形成することを繰り返すことにより、ワークWに追抜き加工が行われるものである。
【0040】
ところで、ワークWの追抜き加工の最終工程においては、図3(D)に示すように、パンチ刃部5における傾斜剪断刃7の傾斜上端7Uがダイ本体15のダイ孔17内に入り込むように、前記ダイ孔17に対してパンチ刃部5を深く係合するものである。この際、スクラップSと半抜き加工部分HBとなる部分がワークWから同時的に切断分離されることになる。したがって、前記傾斜剪断刃7における傾斜上端7Uの角部でワークWを打抜くことになり、前記傾斜上端7Uの角部に対応した部分には微小の塑性変形部分21を生じることになるものである。
【0041】
以上のごとき説明より理解されるように、ワークWが炭素鋼板の例えば板厚3mm程度である場合(いわゆる板金加工においての厚板(t=3.2以上)の鋼板)には、パンチ金型1とダイ金型13との協働によってワークWの追抜き加工を行うとき、ワークWから切断分離されたスクラップSと半抜き加工部分HBとを同時に形成でき、上記スクラップSと半抜き加工部分HBとの形成を繰り返すことによって追抜き加工を行うものである。したがって、スクラップSを短くしての追抜き加工を行い得るものである。
【0042】
また、半抜き加工部分HBをスクラップSに切断分離する突っ切り刃部9の段差部11はほぼ円弧状の曲面に形成してあるので、前記段差部11でもってワークWの剪断を行う部分に、微小の塑性変形部分21が発生するようなことがないものである。
【0043】
また、炭素鋼版の追抜き加工を行うとき、半抜き加工部分HBとスクラップSとなる部分を、突っ切り刃部9のエッジ9Eで打圧すると、前記半抜き加工部分HBからスクラップSが剪断分離されることの知見に基づくものであるから、ダイ金型13は、パンチ金型1におけるパンチ刃部5の断面形状に対応したダイ孔17を備えていればよいものである。そして、中空部19は内部が空でよいものであり、ダイ金型13の構成の簡素化を図ることができるものである。
【符号の説明】
【0044】
1 パンチ金型
3 パンチ本体
5 パンチ刃部
7 傾斜剪断刃
9 突っ切り刃部
11 段差部
13 ダイ金型
15 ダイ本体
17 ダイ孔
21 塑性変形部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6