特許第6043704号(P6043704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043704
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】モータ冷却器及びモータ冷却器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 7/10 20060101AFI20161206BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20161206BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20161206BHJP
   B23K 15/00 20060101ALI20161206BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20161206BHJP
   F28D 7/02 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 10/02 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   F28D7/10 A
   H02K5/20
   B23K26/21 J
   B23K26/046
   B23K26/21 N
   B23K15/00 501A
   B23K15/00 505
   H02K9/19 A
   F28D7/02
   F28D7/10 Z
   !B23K10/02 501A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-194272(P2013-194272)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-59715(P2015-59715A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501368850
【氏名又は名称】株式会社パパス
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 信
(72)【発明者】
【氏名】松本 仁志
(72)【発明者】
【氏名】松本 正美
(72)【発明者】
【氏名】天倉 康輔
【審査官】 ▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−320590(JP,A)
【文献】 特開2005−171299(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0133527(US,A1)
【文献】 特開2008−221801(JP,A)
【文献】 特開2011−147952(JP,A)
【文献】 特開2007−278502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 7/10
B23K 15/00
B23K 26/046
B23K 26/21
F28D 7/02
H02K 5/20
H02K 9/19
B23K 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重構造とされた金属製の内筒及び外筒の間に金属粉体を充填する粉体充填工程と、
前記内筒及び前記外筒に前記金属粉体を接触させた状態で、前記内筒の内側又は前記外筒の外側から前記内筒、前記外筒及び前記金属粉体に向けて高エネルギービームを照射することにより、前記内筒の一部、前記外筒の一部及び前記金属粉体の一部を溶融させて溶融物を生成すると共に、前記溶融物を固化させることにより前記内筒と前記外筒との間に流路壁を形成してモータ冷却器を得る溶接工程と、
を備えたモータ冷却器の製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程において、前記内筒、前記外筒及び前記金属粉体に対して前記高エネルギービームを相対移動させて、前記高エネルギービームの相対移動方向に沿って前記流路壁を形成する請求項1に記載のモータ冷却器の製造方法。
【請求項3】
前記溶接工程において、前記高エネルギービームを照射することにより、前記内筒の一部、前記外筒の一部及び前記金属粉体の一部に前記溶融物としての溶融池を形成すると共に、前記溶融池にキーホールを形成しながら、前記高エネルギービームを相対移動させる請求項2に記載のモータ冷却器の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程において、前記高エネルギービームの焦点を、前記内筒の内周面から前記金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定した状態で、前記内筒の内側から前記高エネルギービームを照射する、又は、前記外筒の外周面から前記金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定した状態で、前記外筒の外側から前記高エネルギービームを照射する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のモータ冷却器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ冷却器及びモータ冷却器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの冷却には、モータの周囲を冷却器(例えば水冷ジャッケット等)で覆う構成が広く採用されている。モータ冷却器には、モータを冷却する冷却効率の向上と、冷却器自体の製造コストの低減が求められている。特に大型のモータでは、これらの要求が高い。
大型のモータにも適用可能で、冷却効率の向上を図り、かつ製造コストを低減させる技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、モータフレーム(内筒)の外周に、冷却水を流通させる水路(流路)を形成し、形成された水路の外周面をカバー部材(外筒)で覆い水冷ジャケットとする構成である。ここに、水路は、モータフレームの外周面に、リング溝を周方向に複数本形成し、軸方向へ並べられたリング溝を区画する隔壁(流路壁)には、隣のリング溝と連通する切欠き部が形成されている。また、切欠き部が形成されたリング溝の端部には、リング溝を軸方向に塞ぐ反転板が形成され、周方向の水路と軸方向の切欠き部で、連続する1本の水路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−143247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術は、内筒の外周面に、複数のリング部材で水路を形成した後、外筒で内筒の外周面を覆う構成のため、リング部材の外周面と外筒の内周面との間に隙間が存在する。この隙間からの水漏れ(ショートパス)により冷却効率が低下する。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、内筒の外周面と流路壁との間、及び外筒の内周面と流路壁との間に隙間のないモータ冷却器及びモータ冷却器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のモータ冷却器の製造方法は、二重構造とされた金属製の内筒及び外筒の間に金属粉体を充填する粉体充填工程と、前記内筒及び前記外筒に前記金属粉体を接触させた状態で、前記内筒の内側又は前記外筒の外側から前記内筒、前記外筒及び前記金属粉体に向けて高エネルギービームを照射することにより、前記内筒の一部、前記外筒の一部及び前記金属粉体の一部を溶融させて溶融物を生成すると共に、前記溶融物を固化させることにより前記内筒と前記外筒との間に流路壁を形成してモータ冷却器を得る溶接工程と、を備えている。
【0008】
このモータ冷却器の製造方法によれば、二重構造とされた金属製の内筒及び外筒の間に、流路壁が形成される。しかも、この流路壁は、金属粉体の溶融物により形成されるため金属製とされる。また、この流路壁は、内筒の内側又は外筒の外側から内筒、外筒及び金属粉体に向けて高エネルギービームを照射することにより形成されるものであるため、内筒の外周面と流路壁との間、及び外筒の内周面と流路壁との間に隙間のないモータ冷却器の製造方法を提供することができる。
【0009】
請求項2に記載のモータ冷却器の製造方法は、請求項1に記載のモータ冷却器の製造方法の前記溶接工程において、前記内筒、前記外筒及び前記金属粉体に対して前記高エネルギービームを相対移動させて、前記高エネルギービームの相対移動方向に沿って前記流路壁を形成する方法である。
【0010】
このモータ冷却器の製造方法によれば、内筒、外筒及び金属粉体に対して高エネルギービームを相対移動させて、この高エネルギービームの相対移動方向に沿って流路壁を形成するので、高エネルギービームの相対移動方向に、連続した流路壁を形成することができる。
【0011】
請求項3に記載のモータ冷却器の製造方法は、請求項2に記載のモータ冷却器の製造方法の前記溶接工程において、前記高エネルギービームを照射することにより、前記内筒の一部、前記外筒の一部及び前記金属粉体の一部に前記溶融物としての溶融池を形成すると共に、前記溶融池にキーホールを形成しながら、前記高エネルギービームを相対移動させる方法である。
【0012】
このモータ冷却器の製造方法によれば、内筒の一部、外筒の一部及び金属粉体の一部に形成された溶融池にキーホールを形成しながら、高エネルギービームを相対移動させる。従って、キーホールを通じて高エネルギービームを深い位置まで届かせることができるので、内筒及び外筒の間に流路壁を形成することができる。
【0013】
請求項4に記載のモータ冷却器の製造方法は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のモータ冷却器の製造方法の前記溶接工程において、前記高エネルギービームの焦点を、前記内筒の内周面から前記金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定した状態で、前記内筒の内側から前記高エネルギービームを照射する、又は、前記外筒の外周面から前記金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定した状態で、前記外筒の外側から前記高エネルギービームを照射する方法である。
【0014】
このモータ冷却器の製造方法によれば、高エネルギービームの焦点を、内筒の内周面から金属粉体の内部までのいずれかの位置、又は、外筒の外周面から金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定するので、内筒及び外筒の一部、及び金属粉体の一部を効果的に溶融させて、溶融物を生成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内筒の外周面と流路壁との間、及び外筒の内周面と流路壁との間に隙間のないモータ冷却器及びモータ冷却器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るモータ冷却器の基本構成を示す斜視図である。
図2】(A)は本発明の第1実施形態に係るモータ冷却器の鉛直方向断面図であり、(B)はその部分拡大図である。
図3】(A)〜(D)はいずれも、本発明の第1実施形態に係るモータ冷却器の製造手順を示し、(A)はその斜視図、(B)〜(D)はその断面図である。
図4】(A)〜(E)はいずれも、本発明の第1実施形態に係るモータ冷却器の製造手順を示す高エネルギービーム照射の一部を示す断面図である。
図5】(A)は本発明の第2実施形態に係るモータ冷却器の基本構成を示す斜視図であり、(B)は冷却媒体の流れを示す模式図である。
図6】本発明の第3実施形態に係るモータ冷却器の基本構成を示す斜視図であり、(B)と(C)はいずれも冷却媒体の流れを示す模式図である。
図7】本発明の第4実施形態に係るモータ冷却器の基本構成を示す斜視図であり、(B)と(C)はいずれも冷却媒体の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るモータ冷却器10と、モータ冷却器10の製造方法について図1図4を用いて説明する。
図1の斜視図、図2の断面図に示すように、モータ冷却器10は、内筒12と、内筒12を囲む外筒14を有し、内筒12の外周面と外筒14の内周面の間には、所定の空間Cが設けられている。
内筒12は、例えばステンレス鋼で筒状に形成され、内部には、図示しないモータが収納され、モータで発生した熱が内筒12に伝えられる。外筒14も、同様にステンレス鋼で筒状に形成され、一方の端部には、矢印で示す冷却水(冷却媒体)36を導入する冷却水入口20が形成され、他方の端部には、冷却水36を排出する冷却水出口21が形成されている。冷却水入口20と冷却水出口21は、図示しない冷却水供給装置と連結されている。
【0020】
内筒12と外筒14は、距離Hだけ隔てて配置され、内筒12の外周面と外筒14の内周面の間には、空間Cが全周囲に設けられている。空間Cには、内筒12の軸線42の周りに、らせん状に連続して形成された流路壁16が設けられている。流路壁16は、内筒12の外周面と外筒14の内周面をつなぎ、冷却水入口20から冷却水出口21へ向かう流路18を区画している。また、内筒12と外筒14が形成する空間Cの、軸線42方向の両端部には、空間Cを閉じる環状の蓋40が設けられている。
これにより、冷却水入口20から注入された冷却水36を、冷却水出口21へ向けて、らせん状の流路18に沿ってスムーズに流し、内筒12の内部に収納されたモータを冷却することができる。
【0021】
次に、モータ冷却器10の製造方法について説明する。
モータ冷却器10は、流路壁16の製造方法に特徴がある。流路壁16の製造方法を中心に、図3図4を用いて説明する。
流路壁16の製造に先立ち、図3(A)に示すように、内筒12を外筒14で囲む工程が実行される。このとき、内筒12の外周面と外筒14の内周面の間には、距離Hの空間Cを設けておく。外筒14の一方の端部には開口部が設けられ、冷却水36を導入する冷却水入口20が取付けられる。また、外筒14の他方の端部には開口部が設けられ、冷却水36を排出する冷却水出口21が取付けられる。また、この空間Cの軸線42方向の両端部は、円環上の蓋40で塞がれる。
【0022】
次に、図3(B)、図3(C)に示す手順で、内筒12の外周面と外筒14の内周面を、流路壁16でらせん状に連続してつなぐ工程が実行される。らせん状の流路壁16を、内筒12と外筒14が形成する空間Cに形成することで、冷却水入口20から、冷却水出口21へ向かう流路18が形成される。
【0023】
先ず、図3(B)に示すように、内筒12と外筒14の間の空間Cに、例えばステンレスの金属粉体32が充填される(以上、粉体充填工程)。金属粉体32の粒度は、一例として、70〜250メッシュ(約50〜200μm)の粉体を使用する。金属粉体32の充填は、例えば冷却水入口20や冷却水出口21から必要量を注入すれば良い。金属粉体32の充填量は、少なくとも、後述する高エネルギービーム22が照射される部位においては、内筒12と外筒14の間の空間Cが、金属粉体32で隙間なく満たされている必要がある。
【0024】
続いて、流路壁16を製造する。図3(C)に示すように、流路壁16を製造する製造装置48は、高エネルギービーム22を出射する出射部24と、この出射部24から出射された高エネルギービーム22を対象物に向けて照射する照射部26と、内筒12と外筒14を軸線42の回りに回転させながら、軸線42の方向に移動させる駆動部28と、これらを制御する制御部30とを備えている。製造装置48は市販品で良い。
なお、駆動部28は、照射部26を所定の方向へ移動させる構成でも良い。更に駆動部28は、内筒12と外筒14、及び照射部26の両者を移動させる構成でも良い。
【0025】
出射部24から出射される高エネルギービーム22は、一例として、レーザービームとしており、この場合、出射部24は、レーザー発振器である。この出射部24では、出射される高エネルギービームのエネルギーが調節可能となっている。照射部26は、レンズ等を含む光学系により構成されている。この照射部26では、レンズ等が移動されることにより、照射される高エネルギービーム22の焦点距離が調節可能となっている。
【0026】
照射部26から、高エネルギービーム22を、流路壁16を形成しようとしている位置に照射することで、金属粉体32が溶融固化されて流路壁16が形成される。このとき、内筒12、外筒14及び流路壁16は、それぞれの接合部が溶融して一体化される。
【0027】
ここで、高エネルギービーム22により、金属粉体32が溶融固化される状態を、図4(A)〜図4(E)を用いてより具体的に説明する。
図4(A)に示すように、制御部30によって照射部26が制御され、照射部26内のレンズ等が移動されることにより、高エネルギービーム22の焦点距離が調節される。そして、高エネルギービーム22の焦点22Aが、外筒14の内周面14Sよりも金属粉体32側に設定される。この状態で、外筒14の外側から、金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射される。
【0028】
高エネルギービーム22が照射されると、内筒12と外筒14の一部、及び金属粉体32の一部に溶融物としての溶融池44が形成される。高エネルギービーム22のパワー密度が高い場合、溶融池44の表面では金属の蒸発が生じ、金属の蒸気45が発生する。また、この蒸気45によって溶融池44の表面に反発力が発生し、溶融池44の中央部にくぼみが生じる。そして、このくぼみが深くなると、この溶融池44にキーホール46が形成される。このように溶融池44にキーホール46が形成されると、このキーホール46を通じて高エネルギービーム22が金属粉体32の深い位置まで届くようになる。
【0029】
そして、図4(B)に示すように、溶融池44にキーホール46を形成しながら、内筒12、外筒14及び金属粉体32に対して高エネルギービーム22が相対移動される。この高エネルギービーム22の相対移動方向は、軸線42の周りに、外筒14の表面に沿って、らせん状とされる。この内筒12、外筒14及び金属粉体32に対する高エネルギービーム22の相対移動は、制御部30によって駆動部28が作動され、この駆動部28によって内筒12及び外筒14が、軸線42の周りに回転しながら、軸線42と平行な方向に移動することで実現される。
【0030】
そして、高エネルギービーム22が相対移動されると、図4(B)に示すように、この高エネルギービーム22の相対移動方向に沿って溶融池44が生成される。このとき、相対移動する高エネルギービーム22の照射位置Pでは、溶融池44が形成されるが、溶融池44が広がる前に、高エネルギービーム22が相対移動されるので、高エネルギービーム22の相対移動方向における照射位置Pよりも後側Rでは、溶融池44が冷却されて固化される。
【0031】
このように、本実施形態では、相対移動する高エネルギービーム22の照射位置Pでは溶融池44が形成されるが、高エネルギービーム22の相対移動方向における照射位置Pよりも後側Rでは、溶融池44が冷却されて固化されるように、高エネルギービーム22の相対移動速度が設定される。
【0032】
そして、図4(C)に示すように、溶融池44が冷却されて固化されることにより、内筒12と外筒14の間に流路壁16が形成される(以上、溶接工程)。この流路壁16は、内筒12と外筒14の一部、及び金属粉体32の一部が溶融されて生成された溶融池44が固化されることで形成されたものであるので、内筒12と外筒14に一体化される。また、上述のように高エネルギービーム22は、外筒14の表面に平行に相対移動されるので、流路壁16は、内筒12と外筒14の間に順次、連続して距離Hを塞いで形成される。
【0033】
なお、本実施形態では、図4(C)に示されるように、内筒12と外筒14の間に充填された金属粉体32のうちの一部のみが溶融され、溶融されなかった部分は残存する。この残存した金属粉体32は、溶融池44が冷却されて固化される際には、溶融池44に対して型の役割(溶融池44の形状保持及び放熱)を果たすようになる。このため、本実施形態では、溶融池44の形状(高エネルギービーム22の光軸方向を深さ方向とする形状)が維持された状態で、溶融池44が固化されて流路壁16が形成される。
【0034】
その後、図3(D)に示すように、内筒12と外筒14の間から、この内筒12と外筒14の間の空間Cに残存する、金属粉体32が外部に排出される。金属粉体32は、流動性を有しており、傾斜させることで、冷却水入口20や冷却水出口21から容易に排出させることができる。必要ならば、圧縮空気を吹き付けても良いし、内筒12、外筒14、又は蓋40に、新たな開口部を設けて排出させても良い。
これにより、内筒12と外筒14を流路壁16でつないで、冷却水36の流路18を形成する、モータ冷却器10が製造される。
【0035】
図2(B)の断面図は、高エネルギービーム22が、外筒14側から内筒12へ向けて照射された場合の断面を拡大して示している。内筒12と流路壁16、外筒14と流路壁16が、互いに溶融され、一体化されていることが確認される。
【0036】
図4(D)には、以上の手順で製造された流路壁16及びその周辺部の側面断面図が示されており、図4(E)には、流路壁16及びその周辺部の正面断面図が示されている。なお、高エネルギービーム22の相対移動速度を変化させることで、流路壁16の厚さや深さが調節される。
【0037】
具体的には、高エネルギービーム22は、内筒12と外筒14の間の空間Cをつなぐ流路壁16を製造するには、照射部位である外筒14、それに対峙する内筒12の少なくとも外周面、及びそれらの間に充填された金属粉体32を溶融させる強度とし、高エネルギービーム22の先端(焦点22A)位置は、内筒12、外筒14及び金属粉体32のいずれをも溶融させる位置に調整される。
【0038】
次に、作用及び効果について説明する。
本実施形態によれば、流路壁16は、内筒12と外筒14が形成する空間Cに封入された金属粉体32に、製造装置48から、高エネルギービーム22を照射して形成される。
これにより、金属粉体32は溶融固化して金属製の流路壁16とされ、流路壁16の両端部は、内筒12の外周面及び外筒14の内周面と一体化される。即ち、内筒12の外周面と外筒14の内周面との間に、隙間なく流路壁16が形成される。この結果、内筒の外周面と流路壁との間、及び外筒の内周面と流路壁との間に隙間のないモータ冷却器10を提供することができる。
また、流路壁16は、外筒14が内筒12を囲んだ状態で形成可能であり、流路壁16の加工が容易となる。また、流路壁16の生成後に外筒14で覆う必要がないため、製造コストを低減することができる。
【0039】
更に、流路壁16は、金属粉体32を溶融固化させて形成されているため、表面には金属粉体32の粒子が、溶融池44に接触した部分のみ不完全に溶融し、一体として固化した状態で仕上げ加工されることなくそのまま残り、いわゆる粗面状となっている。このため、表面付近を流れる冷却水36の流れを乱し、冷却効率を高めることができる。また、高エネルギービーム22の軌跡に沿って流路壁16を容易に形成することができるため、高い自由度で、モータの発熱位置に対応させた適切な流路18を形成することができる。
【0040】
また、本実施形態のモータ冷却器10の製造方法は、溶接工程において、内筒12、外筒14及び金属粉体32に対して高エネルギービーム22を相対移動させて、高エネルギービーム22の相対移動方向に沿って流路壁16を形成する。このモータ冷却器10の製造方法によれば、内筒12、外筒14及び金属粉体32に対して高エネルギービーム22を相対移動させて、この高エネルギービーム22の相対移動方向に沿って流路壁16を形成するので、高エネルギービーム22の相対移動方向に、連続した流路壁16を形成することができる。
【0041】
また、本実施形態のモータ冷却器10の製造方法は、溶接工程において、高エネルギービーム22を照射することにより、内筒12の一部、外筒14の一部及び金属粉体32の一部に溶融物としての溶融池44を形成すると共に、溶融池44にキーホール46を形成しながら、高エネルギービーム22を相対移動させる。このモータ冷却器10の製造方法によれば、内筒12の一部、外筒14の一部及び金属粉体32の一部に形成された溶融池44にキーホール46を形成しながら、高エネルギービーム22を相対移動させる。従って、キーホール46を通じて高エネルギービーム22を深い位置まで届かせることができるので、内筒12及び外筒14の間に流路壁16を形成することができる。
【0042】
次に、展開例について説明する。
図示は省略するが、高エネルギービーム22の照射位置は、例えば、外筒14側から内筒12へ向けて照射しても良いし、内筒12側から外筒14側へ向けて照射しても良い。また、高エネルギービーム22の照射方向は、内筒12又は外筒14の壁面と直交する方向のみでなく、壁面に対して傾斜させて照射しても良い。これにより、内筒12又は外筒14の壁面と傾斜した流路壁を形成することができる。
【0043】
また、流路壁16の連続形成においては、内筒12及び外筒14の位置を固定して、製造装置48の照射部26を移動させても良いし、照射部26を固定して、内筒12及び外筒14の照射面を移動させても良いし、照射部26と、内筒12及び外筒14の両者を同時に移動させても良い。
【0044】
また、他の展開例として、出射部24は、レーザ発振器により構成され、高エネルギービーム22は、一例として、レーザービームとされていた。しかしながら、出射部24は、例えば、電子ビームやプラズマビームなどレーザ以外の高エネルギービームを出射する構成とされていても良い。そして、このレーザ以外の高エネルギービームを用いて流路壁16が形成されても良い。
【0045】
また、上記実施形態では、外筒14の外側から照射する場合において、高エネルギービーム22の焦点22Aは、外筒14の内周面14Sよりも金属粉体32側に設定されていた。一方、内筒12の内側から照射する場合においては、高エネルギービーム22の焦点22Aを、内筒12の外周面よりも金属粉体32側に設定すれば良い。
【0046】
また、例えば、内筒12又は外筒14の一部、及び金属粉体32の一部を溶融させることができるのであれば、高エネルギービーム22の焦点22Aは、外筒14の外側から照射する場合においては、外筒14の外周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定しても良い。一方、内筒12の内側から照射する場合においては、内筒12の内周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定しても良い。
このモータ冷却器10の製造方法によれば、高エネルギービーム22の焦点22Aを、内筒12の内周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置、又は、外筒14の外周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定するので、内筒12及び外筒14の一部、及び金属粉体32の一部を効果的に溶融させて、溶融物を生成することができる。
【0047】
また、このように高エネルギービーム22の焦点22Aが、外筒14の外周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置、又は、内筒12の内周面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定された場合に、内筒12又は外筒14の一部、及び金属粉体32の一部に溶融池44が形成されると共に、この溶融池44にキーホール46が形成されても良い。
【0048】
また、本実施形態では、内筒12、外筒14及び金属粉体32の材質は、いずれもステンレス鋼を例にとり説明した。しかし、これに限定されることはなく、例えば、チタン、チタン合金等の他の金属でも良い。更に、冷却媒体は、冷却水36を例にとり説明した。しかし、これに限定されることはなく、例えば不凍液等、他の冷却媒体であっても良い。
【0049】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るモータ冷却器60と、モータ冷却器60の製造方法について、図5を用いて説明する。
モータ冷却器60は、流路壁62が、内筒12の軸線46周りに同心円状に形成されている点において、第1実施形態におけるモータ冷却器10と相違する。相違点を中心に説明する。
【0050】
図5(A)のモータ冷却器60の斜視図に示すように、流路壁62は、内筒12の軸線42の周りに同心円状に形成されている。なお、流路壁62は、第1実施形態と同じ方法で製造されており、製造方法の詳細な説明は省略する。流路壁62は、軸線42に沿って等間隔で複数形成され、流路壁62の一部には、所定の幅で開口部64が形成されている。冷却水36は、開口部64を通り、隣の流路61へ移動することができる。
【0051】
流路壁62の、開口部64が設けられた一方の端部には、軸線42の方向に仕切壁66が形成されている。仕切壁66は、流路61を周方向に塞ぎ、冷却水36の同心円状の流れを止めて、流れの方向を変更させる。仕切壁66は、流路壁62と同様に、金属粉体32を溶融固化して形成されている。
【0052】
図5(B)の模式図に示すように、開口部64a〜64fは、仕切壁66を挟んで、交互に反対側に設けられている。
この構成とすることにより、冷却水入口20から導入された冷却水36は、開口部64aを通り流路61aへ入る。流路61aを一周した冷却水36は、仕切壁66で仕切られているため、開口部64bを通り流路61bへ入る。流路61bを一周した冷却水36は、仕切壁66で仕切られているため、開口部64cを通り流路61cへ入る。流路61cを一周した冷却水36は、仕切壁66で仕切られているため、開口部64dを通り流路61dへ入る。流路61dを一周した冷却水は、仕切壁66で仕切られているため、開口部64eを通り流路61eへ入る。流路61eを一周した冷却水は、仕切壁66で仕切られているため、開口部64fを通り冷却水出口21から排出される。
【0053】
これにより、冷却水36で、図示しないモータを冷却することができる。このとき、流路61a〜61fが1パスで連なっており、少量の冷却水36で冷却することができる。また、直線の組み合わせで流路壁62、仕切壁66が形成できるため、流路壁62、仕切壁66の加工が容易となり、安価に流路を形成できる。
他の構成は第1実施形態と同じであり、説明は省略する。
【0054】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係るモータ冷却器70と、モータ冷却器70の製造方法について、図6を用いて説明する。
モータ冷却器70は、流路壁72が、内筒12の軸線42に沿って直線状に形成されている点において、第1実施形態におけるモータ冷却器10と相違する。相違点を中心に説明する。
【0055】
図6(A)の斜視図に示すように、流路壁72は、内筒12の軸線42に沿って直線状に形成されている。内筒12と外筒14の間であり、かつ流路壁72と流路壁72の間が流路71とされている。流路壁72は、第1実施形態と同じ方法で製造されており、製造方法の詳細な説明は省略する。これにより、流路長を短くできる。また、流路壁72の両端部には、仕切壁74が設けられ、仕切壁74と蓋40の間に分岐空間77が設けられている。一方の分岐空間77には、冷却水入口20が設けられ、冷却水入口20から注入された冷却水36を、複数の流路71のそれぞれに分岐させる。他方の分岐空間77には、冷却水出口21が設けられ、複数の流路71からの冷却水36を集め、冷却水出口21から排出する。
【0056】
図6(B)に示すように、仕切壁74は、隣接する流路壁72の両端部をつなぎ、流路71の数を制限している。これにより、冷却水36の流れの方向の偏りを減らし、流速を高めることができる。
また、図6(C)に示すように、流路71の数は制限せずに、流路壁72の両端部を周方向塞ぐ仕切壁75を設け、仕切壁75に開口させた開口部76で、流路71へ流入させる冷却水36の流量を調整しても良い。これにより、容易に流路間のバランスをとることができる。他の構成は第1実施形態と同じであり、説明は省略する。
【0057】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係るモータ冷却器50と、モータ冷却器50の製造方法について、図7を用いて説明する。
モータ冷却器50は、流路壁52が、内筒12の軸線42に沿って直線状に形成されている点において、第1実施形態におけるモータ冷却器10と相違する。相違点を中心に説明する。
【0058】
図7(A)の斜視図に示すように、流路壁52は、内筒12の軸線42に沿って直線状に形成されている。内筒12と外筒14の間であり、かつ、流路壁52と流路壁52の間の空間が流路51とされている。流路壁52は、第1実施形態と同じ方法で製造されており、製造方法の詳細な説明は省略する。軸線42に沿って直線状に形成することにより、流路長を短くできる。また、流路壁52は、一端が冷却水入口20側の蓋40と一体化された流路壁52と、一端が冷却水出口21側の蓋40と一体化された流路壁52が、交互に配置されている。
【0059】
図7(B)の模式図に示すように、流路壁52は、冷却水入口20側の蓋40と一体化され、冷却水入口20と反対側に位置する蓋40とは開口部56を開けた流路壁52と、冷却水入口20側の蓋40とは開口部56を開け、冷却水入口20と反対側に位置する蓋40と一体化された流路壁52が、それぞれ交互に配置されている。これにより、冷却水36を、1つの流路51から開口部56を利用して隣の流路51へ移動させることができ、冷却水入口20から冷却水出口21までを1パスで流すことができる。
【0060】
また、図7(C)の模式図に他の展開例を示す。モータ冷却器50は、隣接する流路壁52の両端部を、仕切壁54で1つおきに順次つなぎ、仕切壁54でつながれた流路壁52と流路壁52の外側を流路51としている。即ち、仕切壁54で流路51の数を制限している。これにより、モータ冷却器50の全体としての冷却水36の流れのバランスを良くすることができる。
他の構成は第1実施形態と同じであり、説明は省略する。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10…モータ冷却器、12…内筒、14…外筒、16…流路壁、18…流路、20…冷却水入口(導入口)、21…冷却水出口(排出口)、22…高エネルギービーム、32…金属粉体、36…冷却水(冷却媒体)、40…蓋(蓋部材)、42…軸線、50…モータ冷却器、52…流路壁、60…モータ冷却器、62…流路壁、64…開口部、66…仕切壁、70…モータ冷却器、74…仕切壁、76…流路壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7